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【育児】「聴覚過敏」の子供にイヤーマフが役に立った話

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@Utekido

子どもを産んでから2年ほど、忙殺されていた。子どもは雑音に敏感なタイプで、一切の生活音を嫌った。蛇口から流れる水音も、炊飯器のメロディも、子どもにとってはノイズだったようで、音がする度悲壮に泣く子にわたしは困惑して生きた。テレビを無音でつけ、雨戸を閉めて密室の長い時間を過ごした

乳児検診で幾度も相談した。周りの子どもたちの声にパニックを起こして泣く子を見た保健師には、「大丈夫よ、お母さんが気にしすぎなのよ」と諭された。音楽も聴けない日々が続いた。家電のサイトを見ては「音の出ない炊飯器」を探した。一日の大半は音に起因するギャン泣きをあやすことで消えていった

わたしは毎朝観ている歌のお兄さんお姉さんの声も聞いたことがなかった。子どもの泣き声が頭の中にも外にも満ちていた。安寧がなかった。抱っこ紐で買い物に出れば、家を出た途端に真っ赤になって泣き出す我が子が、如何に絶命しないうちに早く用事を済ませて帰宅するかという緊張に常にさらされていた

転機が訪れたのは2歳の誕生日だ。子どもになにをあげようかと抱っこで寝かせた子の背後でスマホを見つめていた夜に、防音イヤーマフを見つけたのだ。もう装着できる頭囲に達していたし、一条の光明を見た思いで購
入した

届いたそれは思いの外ゴツかったが、子どもはひと目で気に入ったようで、「カッコイイ」と述べ素直に着けさせてくれた。初めて、雨戸を開けることができた。初めて、苦しげに泣いていない子どもと外を歩くことができた。謝り続けることなく電車に乗れた。轟音の地下鉄にさえ乗れた。世界が一変した

身を捩り泣いていない子はこんなにかわいいんだ、と思った。泣く子がかわいくないわけではないけれど、しょっちゅう辟易してはいたし、そんな自分を憎み恨み一念発起してはまた辟易するという一連の心情推移に翻弄されない生活は健全だった。空が青いことも木々が緑なこともわたしは思い出し始めていた

テレビの音も出せるようになり、ある日『おかあさんといっしょ』を観た子どもは「カチコチカッチン、お時計さん」と初めて歌を口ずさんだ。イヤーマフ越しに触れる世界の音を、子どもが受け入れた瞬間を見た気がした。わたしはその夜嬉しくて、産後約2年半ぶりに「なにか音楽を聴こう」と思い立った

寝ついた子どもの足元で、ドキドキしながらイヤホンを装着した。なんだか悪いことをしているような気がしたけれど、幸福に満ちていた。今日は子どものおうた記念日で、わたしにとってもおうた記念日なんだ。好きな曲を聴こう、夜泣きまでまだ何時間かあるから――その時、ハタと気づいた

わたしは何が好きなんだっけ? 出産育児の日々を経て、わたしはもとの自分をどこかに落としてしまったらしかった。久々に開いたiTunesのプレイリストは、記憶には懐かしいのにひどくよそよそしかった。それでもわたしは嬉しかった。新しい日常が始まったのだから

音楽の思い出を、これからひとつひとつ積み上げていこうと思った。知らない曲に出会おう。知らない人の音楽に出会おう。選り好みせずなんでも聴いてみよう。子どもがこれから触れる世界を広げるためには、わたし自身が広く音を知らないといけない。なによりわたしは産前の記憶さえ定かでなくなっている

あれからまた2年半ほど過ぎた。いまでは子どもはイヤーマフの存在も忘れ、うるさく歌って踊り狂う幼児に成長した。「炊飯器の電子音とかがイヤなの。でもなんの音かもうわかるから平気」と言語化してくれるまでになった。そんな子どもが気に入っているのはPerfumeと『びじゅチューン』。趣向、掴めない

わたしは産前Perfumeもびじゅチューンも知らなかったし、多分知っていても通過していただろうと思う。子どもに世界を広げてあげようなどという上から目線の考えであらゆる音楽を履修した結果、子どもの取捨選択によりすごい音楽やすごいアートに触れる機会を与えられてしまった

(余談だがわたしは小野大輔を履修してしまい知らなかった頃に戻れなくなっている)

すぐ斜に構えてしまいがちな性格で、なんでも疑ってかかる質で、新しいものに否定的な(こう書くとひどい)わたしは子どもの自由な選択に立ち会わなければ世界中の素晴らしい音楽を知ることもなかったんだろうと思うと、ちょっと可笑しくなる。世界は狭かったけれど、それはわたしがそうしていただけだ

炊飯器の音で泣いていた子に音のすごさを教えられるとはね。人生ってわからないし、人生って広い。今日はどんな曲を聴こうかな。

以上、深夜のひとりごとでした

皆のコメント

@pleiades1959
お母さんって、やっぱり偉大!
@hero_consultant
なんだかすごく壮絶なドラマを観たような気分になりました。
そして改めてお母さんがどれだけ苦しみ、悩み、辛かったか…。
今では笑い話かもしれませんが、本当に長い間ご苦労様でした。
これからはママの時間も楽しんでいってください!
@hina19720620
私の娘と一緒ですね
その頃はどうして良いか
娘と泣いてました。
イヤマフ付けてから大分
落ち着いたので良かったです。
あの頃が懐かしいですね。
@2RhPimPL9mFrRiF
素敵なお話をありがとうございます。
懐かしい音楽に再開したり、新しい推しに出会ったり…そんな日々が雨滴堂さんに訪れますように。
@neko_neko_5_
FF外より失礼します。
もうすぐ子供を出産する身として、色んな体験談を読むようにしたり目に触れる機会を多くしているのですが雨滴堂さんの「深夜のひとりごと」は、小説を読んでいるかのようにすらすらと頭の中に入ってくる文章でとても理解しやすく、そういうお子さんがいると知れて良かったです。

参照元ツイート:https://twitter.com/Utekido/status/1256995266034425859

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