原著作者「怖い話投稿:ホラーテラー」「匿名さん」 2009/02/19 04:10
以前に住んでいたマンションでの話です。
11階建ての割と新しいマンションで、私は9階の部屋に住んでいました。
当時は勤めていた会社が遠かった事もあり、帰宅するのは11~12時頃がほとんどでした。
時間が時間なので、いつも駅からマンションまでの夜道が怖かったんですが、
その時はまだ住み始めたばかりだったので、我慢して生活していました。
しばらくはそうして何事もなく過ごしていましたが、一年程経った時の事です。
その日もいつものように遅くなり、マンションに着いた時には12時を過ぎていました。
疲れと眠気でぼーっとしながらエレベーターの前に行くと、エレベーターは3階で止まっています。
ボタンを押し降りてくるのを待つと、3階からなのですぐにきました。
ドアが開き、乗り込もうとした瞬間、思わず叫びそうになりました。
中に能面が置いてあったのです。
種類などは詳しく知らないんですが、よく見る女性の面です。
それがエレベーターの床にぽつんと置いてありました。
その不気味さにすぐドアを閉め、夜中にも関わらず夢中で階段を駆け上がり、大急ぎで部屋に戻りました。
「なにあれ…いたずら?」
嫌なものを見ちゃったなぁと気分が悪くなりましたが、疲れもあり眠かったので、その日はあまり考えず寝ることにしました。
翌日、出勤時に嫌々ながらもエレベーターを確認しましたが、何もありませんでした。
「やっぱり誰かのいたずらだったのかなぁ」
気にはなったものの、とりあえず会社に向かいました。
仕事を終え、その日も帰りは12時を過ぎていました。
マンションへ着く前から昨夜の事が思い浮かんでしまい、少し怖くなっていましたが、帰らないわけにもいきません。
マンションに着き、エレベーターを確認すると、昨夜と同じでした。3階で止まっているのです。
「また…?なんで…?」
嫌な感じはしましたが、部屋は9階なのでやはり階段よりもエレベーターが楽です。
単なる偶然かもしれないし…と思い、ボタンを押しました。
昨夜同様、エレベーターはすぐに降りてきてドアが開きます。
恐る恐る中に目をやると、一瞬で全身に鳥肌が立ちました。昨夜と全く同じだったのです。
女性の能面がぽつんと置いてある。
恐怖を感じた私はすぐにマンションを飛び出し、ある友人の家に向かいました。
その友人は関西出身で、若い頃いわゆるレディースだったためか、何があろうとも全く動じない肝の据わった子でした。
ただ、お母様が強い霊感体質だそうで、彼女もその血を受け継いでいるのか、
関西にいた頃は心霊体験をよくしていたそうです。
私にとっては彼女が一番の付き合いであり、何かあった時などはいつも彼女に相談をしていました。
その時は夜中ということもありびっくりしていましたが、私はとにかく事情を説明しました。
「能面……?」
能面がわからなかったようだったのでうまく伝わりませんでしたが、話自体は信じてくれました。
「邪魔!って蹴りいれたったらええんちゃう?」
「怖くて触れないよあんなの!」
私は怖くて仕方なかったので、翌日仕事が終わったら一緒に帰ってほしいと頼み込みました。
友人は「ええよ~」と軽い返事でOKしてくれ、
その日は泊めてもらう事にし、翌日の仕事帰りに一緒に来てもらうことになりました。
そして翌日、仕事を終え駅で待ち合わせた友人とマンションに向かいました。
「ほんまにおったらどうする?邪魔!ってしばいてええんかな?そしたらもう一生会うことはないな!」
「あったら困るけど、そんな事しても困るよ!ほんとに怖いんだから!」
なぜかはわかりませんが、能面を人だと思っている友人が羨ましく見えました。
マンションが近づくにつれ不安を感じながらも、友人との会話で少し恐怖感は薄れていました。
程なくしてマンションに着き、エレベーターに近づきます。
私はどうしても見たくなかったので、マンションの入り口で待っていました。
友人が一人でずかずかと入っていき、エレベーターの前で止まります。
少し眺めてから、友人が振り返り聞いてきました。
「あれー?あんたの話じゃ、3階で止まってるんちゃうかった?」
「うん…昨日も一昨日も3階だった…」
「今1階にきてるで?」
「えっ?」
駆け寄って見てみると、確かにエレベーターはすでに1階にきていました。
もちろん能面もありません。
「能面おらんなぁ…」
開ボタンを押しながら、友人が中を見回します。
「嘘じゃないよ!ほんとに昨日と一昨日はあったんだもん!」
意味がわからず、私は少し苛立ちまじりに怒鳴ってしまいました。
「今日は用事でもあったんかの~まぁおらんみたいやからええやん。無視してあんたの部屋いこや」
そう言って彼女は私の手を取りエレベーターに乗り込むと、3階のボタンを押しました。
「ちょ、ちょっと!!」
私はすぐに出ようとしましたがドアは閉まってしまい、上へ上がっていきます。
「あ、間違えた」
「3階じゃないよ!9階だよ!!」
「ごめんごめん、わざとやで!」
友人に突っ掛かりましたが、悪怯れる様子は少しもありません。
エレベーターはすぐに3階へ着き、ドアが開きました。
友人が身を乗り出し辺りを見回りますが、私はなるべく友人だけを見るようにしていました。
「部屋行ってまうでぇ!」
それはかなり大きな声で3階中に響いたと思います。夜中の12時過ぎでした。
「何言ってるの?何言ってるの!?」
「ふふっ」
この時の彼女の満面の笑みは今でも忘れません。
私の部屋へ行った後は少し話をしていましたが、2時をまわったところで寝ることにしました。
何もなかったとはいえ、やはり気味悪く感じていたからです。
「ほなおやすみ」
「おやすみ」
友人がいるおかげかすぐに眠れたと思います。
どれくらい時間が経ったか、ふとある音に気付き私は目を覚ましました。
ピンポーン、ピンポーン
チャイムが鳴っていました。
時計を見ると3時半…人が尋ねてくる時間ではありません。
「ねぇ、誰かいるよ…ねぇ起きて!」
必死で友人を起こそうとしますが一向に起きる気配がなく、その間もチャイムは鳴り続けています。
どうしよう…と恐怖でいっぱいになりながら、私は玄関に近づいてみました。
とても外を覗く勇気はなかったので、ドア越しに「どちら様ですか?」と小さな声で聞きました。
チャイムが止み、女性の声で応えてきました。
「3階の○○と申しますが…」
全く心当たりのない名前で、そもそもマンション内に知り合いはいません。
「あ、あの…お部屋を間違えてませんか?」
そう言うのが精一杯でした。
すると、
「3階の○○と申しますが…」
「私の顔、知りませんか?」
「私の顔、知りませんか?」
「エレベーターで見かけませんでしたか?」
「私の顔、落ちてませんでしたか?」
機械のような無機質な声で、一定のリズムで聞こえてくるようでした。
もう恐怖で頭が真っ白になり、ドアノブを必死で握りながら震えるしかありませんでした。
「3階の○○ですが、私の顔、知りませんか?」
「私の顔、知りませんか?」
「エレベーターで見かけませんでしたか?」
「私の顔、落ちてませんでしたか?」
延々と繰り返している言葉に、本当に気が狂いそうになりました。
「何も知りません!帰ってください!!」
半泣きで何とかそう叫び、震えながらずっとうずくまっていました。
「私の顔、知りませんか?」
何度繰り返しても声の調子や言葉の間隔などが全く同じで、一定のリズムで聞こえてくるのです。
「何も知らないです!!」
私は半ば錯乱気味だったと思います。
泣きながら震えながらうつむきながら必死で叫びました。
その時、ようやく友人が目を覚ましたようで、私の方に気付きました。
と同時に、突然声が止んだのです。
元の静けさに包まれ、そのまま動けませんでした。
「なんやねん…誰やねんボケ…」
友人が眠たそうに目をこすりながら、こちらへ歩いてきました。
私はとっさに台所から包丁を持ち出し、それを握ったまま玄関の前で固まっていました。
万が一中に入ってきたら…と考えての無意識の行動だったと思います。
本当に恐ろしくて仕方ありませんでした。
ところが、「コラァ!!」と突然友人が怒鳴り、私を掴んできたのです。
そして包丁を奪い取り、思いっきり頬をひっぱたかれました。
「なんでや?なんで死ぬんや?」
訳が分からずぐいぐいと体を揺らされましたが、何とか声を絞りだし「玄関…玄関の外…」とだけ言う事ができました。
「玄関の外?外がどうしたん?」
そう言うと友人は立ち上がり、玄関の外を覗きました。
「何もないで?」
私はもう何が何だかわからず、ただ泣きじゃくるしかありませんでした。
その夜は友人に付き添われながら朝まで起きていましたが、結局その後は何もありませんでした。
茫然と朝を迎えた私たちは会社を休み、ひとまず友人の家に移動しました。
だんだんと落ち着き、友人に何があったかを話したのです。
すると、
「大体分かるわ~あの時ほんまは玄関の外におったからな」
「えっ!?」
「あれがやばいゆうよりも、あんたの様子の方があかんと思て言わんかった。
自殺するとこかと思たぐらい、あんたやばかったしなぁ」
友人は玄関の外にいたものを見たらしいのですが、私の様子が尋常ではなかったので黙っていたのでした。
「…何が見えたの…?」
「あんたあれだけパニックやってんから、聞かんほうがええと思うけど、まぁ一個だけ教えたるな!
あんたがひたすら言われてたゆう言葉な、今聞いてわかったけど、それ…そのままの意味やな。」
その一言で私はゾッとしました。友人が見たものが想像できたからです。
それ以上は聞く気になれず、友人も何も言わずにいてくれました。
その後はしばらく彼女のとこでお世話になり、少ししてあの部屋は出ました。
今でもエレベーターには乗れず、必ず階段を使います。
能面もまともに見れなくなりました。
ちなみに、あの声が言っていた名前の方は3階にはいませんでした。
あんな恐怖は二度と味わいたくありません。
そう思っていたのですが、これ以来この友人とは色々な体験をするはめになってしまいました。
また、彼女のお母様との体験もあります。
機会があればまたお話出来るかも知れません。
彼女もお母様もどこか変わった人なので、文章にするとどうしてもネタみたいな話になってしまうものばかりですが…