後味の悪い話

【後味の悪い話】森岡浩之「スパイス」

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735: スパイス1/3:2010/01/28(木) 23:49:53 ID:Lz3iA0910
ちょっと前に人肉食ネタの話があったのみて唐突に思い出した。
森岡浩之の短編小説「スパイス」。
ラフィールと呼ぶがいい!との落差がすごいし超絶怖かった思い出が。

主人公は正義感の強い女記者。
世間で話題になっている男が主人公だけならと取材を受け入れたので
レポーター兼インタビュアーとして男の家を訪れたのであった。

その男というのは「食べるため」に人間の少女の形をした
人工生命体を作り上げたということで技術と倫理の両面から
ものすごい反響を巻き起こした人物であった。

批判や抗議も激しく、男はマスコミなどをシャットアウトするためと
家を厳重に要塞ばりにかためており、そんな中に女性である主人公が
一人で足を踏み入れるのは勇気のいることであった。

だが、主人公は使命感から男の取材を敢行する。
まず問うたのは、選ばれたのはなぜ自分だったのか、という事だった。
それは人工生命体自身が選んだからと話す男に主人公は驚く。
くだんの人工生命体には知性があるのだ。
それどころか、主人公が出会った人工生命体はこれ以上ないほど
「人間らしい」少女であった。

少女は培養中に男によって偽の記憶(家族がいて友達がいて、多少の
悩みはあっても毎日楽しくて……という幸せな記憶)をインプットされて
いたため、ごく普通の精神を持っており、平凡だが幸せな生活から
一転して恐ろしい運命を前に、憔悴しきっていた。
愛らしい顔をくもらせて主人公を最後の希望とばかりに、すがるように
見つめる少女を見て、主人公はなんとしてでも彼女を助けたいと強く思った。

736: スパイス2/3:2010/01/28(木) 23:51:04 ID:Lz3iA0910
取材で男は自身の嗜虐趣味を楽しげに語った。昔から理想の女性をいたぶった末に
殺し、その肉を食べてみたいという欲求があったのだと。

だが、それを実行したら犯罪だしお縄になるのはご免。
第一理想の女性というのはなかなかいなくてね……などと勝手な事を言っている。
おまけに自分は想像力が乏しくて、偽物や代替行為では満足できなかったとも。

理想の容姿・理想の擬似感情反応を備えた人工生命体を造ったのは
少しでも夢に近づけるためだったが、やはり本物とは違うという気持ちもある。
残念ではあるがせっかく造った人工生命体だし、食べるのは楽しみだと言う男に
主人公は嫌悪感もあらわに「少女は人間だ、そんな事は許されない」と言い放つ。

だが男は少女を指し「これ」はあくまで人工生命体であって人間ではないと鼻で笑う。
だから自分のしている事は犯罪でもなんでもないし責められるいわれもないと。
少女には男が語る「理想の女性」の名前がつけられていた。
それを指摘しても男は揺るがない。
「これ」は人間でもなければ自分の理想の女性でもない、と。

主人公は男にいつ少女を食べる気なのかと聞いた。
男は近いうちにと言いながらも気になることをつぶやく。

「私はスパイスを待っているんです。望みを完璧にするための」

取材が終わった主人公は少女に約束した。必ず助けると。
男が合法にこだわるならば、そこに突破口があるはずと主人公は考えたのだ。

737: スパイス3/3:2010/01/28(木) 23:53:22 ID:Lz3iA0910
主人公は取材映像を使い、世論に訴え始める。男は少女を「人間ではない」というが
見ての通り外見も、そして中身も人間の少女そのものだ。
そんないたいけな少女が悲惨な運命を迎えていいものなのか!?と。

反響はすさまじく、誰もが少女を人間と認めた。そして彼女を救い出すため
少女に戸籍が与えられ、日本国民として認められる運びとなったのだった。
そうなれば男は不当に少女を監禁している犯罪者だ。

主人公は警察が踏み込んだ後、男の家に少女を迎えに行く予定であった。
取材クルーも感動の再会を大々的に演出しようと張り切っていた。
そんな時に主人公に電話がかかってくる。

それは男からであった。「感謝します」と電話口で嬉しそうな男。
ようやくスパイスが手に入ったと笑っている。
訳が分からず主人公はもう男の望みは潰えたこと、大人しく少女を
解放することを突きつける。だが、男は不気味に笑っていた。
取材ヘリの映像には警官隊が要塞ばりにかためた男の家に
入れないでいる所が映っていた。

「これでようやく夢が叶います」

739: スパイス 最後:2010/01/28(木) 23:54:53 ID:Lz3iA0910
男の言葉に主人公は恐怖を感じ始めていた。叫ぶようにして問う。
「あの子はどうしたの!?」
「あれなら、テレビを見てますよ。今頃自分はようやく救われるのだと思って
安心している所でしょう。……ああ、もうあれだなんて呼んではいけませんね。
彼女はもう戸籍もある、誰もが認める正真正銘の人間なのだから」
取材で男は自ら語っていた。“想像力が乏しくて、偽物では満足できない”と。
恐怖する主人公に男は話しかける。

「あなたには感謝しているんです。だからこのショーをあなたには
見せたいと思っています」

そういうとテレビ電話として回線をつなぐ男。そこには男の家の
「台所」が映し出されていた。この後少女がどんな目に合わされるのか
うかがい知れるおぞましいものだった。
そして警官隊はまだ男の家に入れないでいる。

主人公は悲鳴をあげて電話を切ろうとする。だが、上司がそれを止め
彼女からは切ることのできない局の回線へと繋がれてしまう。
モニターに大写しになる男の家。局の中は「大スクープだ! 放送コード?
そんなものは捨てちまえ!」と大わらわだ。

放心状態の主人公の耳には「理想の女性」の名前を呼ぶ男の声、
耳障りな刃物の金属音、そして少女の悲鳴が響いていた。
(終わり)

最後が本文長いエラーで分割したんでナンバリング変でごめん

750: 本当にあった怖い名無し:2010/01/29(金) 12:35:46 ID:KPQJ0/V70
結局人肉食って味を追求するよりイマジネーションの世界なんだね。
「あんなに生きたがっていたいたいけな少女を食ってやったぜ」みたいな。

泉正人が「コアラのマーチを食べるときはあのコアラの可愛い
姿を頭の中に浮かべながら噛み砕く」と言ってたけど
どうかしてると思った。

754: 本当にあった怖い名無し:2010/01/29(金) 14:22:43 ID:ktcJ1ifr0
>>750
コアラって実物よくみると
人殺してそうな眼してるのになw

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