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987: 本当にあった怖い名無し@\(^o^)/ 2016/11/09(水) 22:37:18.42 ID:T+C3eN09O
乙&埋め
モーリス・ルヴェル「幻想」
一日中辻馬車の戸の開け締めを手伝って、チップの銅貨が50に近い。
これだけあれば今日と明日は困るまい、と塒に帰ろうとすると、犬を連れた盲乞食がへたりこんでいる。
あんまり哀れなので銅貨を数枚投げてやると、神様扱い。
(よせやい、兄弟。おいらもおめえとおんなじ、哀れな乞食さね)
と言い出せず、聞き慣れた台詞を出す。
「いや、少なすぎてかえって恐縮だがね。取っておきたまえ」
行きつけの安酒場に連れて行き、いつもの定食よりましな料理にビールをつけて奢ってやり給仕女にチップをやるとすっからかん。
なので何も注文せず、ポケットに残った最後のパンを犬にくれてやる。
川岸に塒があると言うので橋の上まで送ってやると、旦那様の幸せをお祈りさせていただきたいからお名前を、と言う。
「名乗るほどの者ではない、達者でな」
(あいつは最後まで、おいらを金持ちの旦那と信じていた。おいらは心底、旦那になりきっていた。おいらはこれほど金持ちらしく、これほど幸せだったことはない。これからもないだろう)
だから橋の手すりを乗り越えて、身投げした。
「やっ、大変だ」
「早く助けろ」
何があったのかと盲乞食が聞くと、
「乞食が一人、川に身投げしたのさ」
と親切な人が教えてくれた。
「うらやましい。そいつはわしと違って死ぬ勇気があったんだな」
とつぶやき、盲乞食は犬を連れて塒に戻った。
988: 本当にあった怖い名無し@\(^o^)/ 2016/11/09(水) 23:25:55.66 ID:TWsVa+d80
後味悪いというより切ないな