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672: 1/3:2008/07/19(土) 01:23:50 ID:6Okowm+90
S・キング作 「浮き台」
大学生の4人組が観光シーズンも終わった10月に、湖に泳ぎにやってくる。
4人は寮で酒を飲んでいたのだが、酔いが回って「寒中水泳やろうぜ!」ということになって
車を飛ばしてわざわざ誰も居ない別荘地の湖までやって来たのだ。
メンバーは、アメフトのスポーツ特待生でイケメンのディーク、
ディークの親友でガリベン優等生のランディ、
ディークの彼女のレイチェル、
そしてランディの彼女だけどディークに気があるラヴァーンの、男2女2の組み合わせ。
湖には岸から約50メートルのところに浮き台(プラスチック製のイカダみたいなもの)があり、
そこを目指してみんなで泳いだ。
水温は7℃から8℃、まさに「寒中水泳」だ。
全員が浮き台に泳ぎ着いたところで、誰かが水中に黒い影があるのを発見する。
それは、直径1.5メートルほどの大きさで、ほぼ真円に近い形をして、黒い油膜のようにも見えた。
しかし、まるで意思を持っているかのように浮き台に近づいてくる。
レイチェルがしゃがんで黒い物体に手を伸ばしたところで、突然黒い物体が七色の光を出し始めた。
「きれいな色・・・」
レイチェルがそう言って夢を見ているような空ろな表情になりながら物体に手を触れた瞬間、
突然すごい力で水中に引き込まれた。
673: 2/3:2008/07/19(土) 01:24:21 ID:6Okowm+90
まるで影の中に沈んで行くかのように、レイチェルは黒い物体に食べられてしまった。
レイチェルの悲鳴と、黒い物体が体を咀嚼するゴリゴリという音が聞こえてくる。
黒い中でチラリと見えた白いものは、彼女の骨だろう。
影の中から時折血しぶきが舞って、浮き台に降りかかる。
ラヴァーンは半狂乱になり、ディークに引っ叩かれて落ち着きを取り戻す。
レイチェルを食べ尽くした黒い影は、今や2.4メートルほどの大きさになって浮き台から
少し離れたところで待機していた。
少し冷静になった3人は改めて現状を確認してみる。
まず、今すぐここには誰も来ない。場合によっては数週間も来ないかも。
あの黒い物はレイチェルを食べて腹いっぱいになったのか? それは分からないがすぐ近くにいる。
いずれどこかに行ってしまわないか? 可能性は薄い。
埒が明かないのでしびれを切らしたディークが、泳いで岸まで行こうと立ち上がろうとした瞬間、
彼の足が何か黒いものに絡みつかれた。
それは、紛れもなくあの黒い物体の触手だった。
いつの間にか浮き台の下に潜り込んだソレは、板の数センチの隙間から体の一部を伸ばし、ディークの
足を捕まえたのだった。
左足の足首から徐々に食べられつつ引きずり込まれていくディーク。
ランディは必死でディークの腕を引っ張るが、ものすごい力で食いつかれていて足が全く抜けない。
「足が! 俺の脚が!」と絶叫していたディークだったが、太ももまで食われたあたりで何も反応を
しなくなり、そのまま腰、胸、頭、そして腕の順に引きずり込まれていった。
また一回り大きくなった黒い影は、またしても浮き台から数メートル離れた地点へと移動する。
後々、この隙に逃げなかったことを後悔する事になる。
もっとも、ラヴァーンを置いては行けなかっただろうが。
674: 3/3:2008/07/19(土) 01:24:57 ID:6Okowm+90
こうして黒い影との我慢比べが始まった。
どうやって感知しているのか、こちらが立っていると離れたところにいるくせに、座り込むといつの間にか
浮き台の下に潜り込んでくる。
しかも10月の夜は容赦なく冷える。天気予報では山間部で雪が降るとのことだった。
寒さに震えながらラヴァーンと交代で見張っていたが、あまりの寒さに二人で体を温めあっているうちに、
そのままラヴァーンと行為に及んでしまう。
ヤケクソな快感を味わっているうちに、ふと黒い物体を見て見ると、また七色に発光し始めた。
その光をじっと見ていると、とても幸せな気持ちになる。
まるで「マッチ売りの少女」のように幸せな幻に包まれるのだ。
灼熱の太陽の下、冷えたビールを飲みながら水着美女とヤンキースの試合を見物する幻を見ていたが…
ふと我に返るとしっかり腕に抱いていたはずのラヴァーンを水に突き落としていた。
ラヴァーンは頭から食われ、悲鳴を上げることも出来ずにもがきながら死んでいった。
ランディは何もできず、ただ呆然とそれを見ていた。
黒い影は浮き台を完全に覆いつくすほどの大きさになっていたが、
それでも少し離れたいつもの定位置に陣取った。
やがて、夜が明けたが状況は全く好転しなかった。
岸では脱いだ衣服がそのまま散らかっている。その横を、かわいいリスが歩いている。
こんなにものどかな光景なのに、座ったら死ぬのだ。しかも世にも惨酷な方法で。
いつの間にか。ランディは泣いていた。
何度か疲れ果てて座り込み、ハッと気付いては立ち上がる、
そんな我慢比べを続行しているうちに、また日が暮れて夜がやってきた。
『もう気力も体力も限界だ。
それに、あいつの見せてくれる幻だが、あれを見ながら死ぬのなら案外痛くないかもしれない。
あいつは俺が好きなのかも。痛くないようにうまく殺してくれるかも。』
ランディは黒い影をじっと見つめた。影は七色に発光し始めたが、もう目を逸らさなかった。
683: 本当にあった怖い名無し:2008/07/19(土) 02:00:59 ID:yad5QIbg0
>>677
ラスト3行で思い出した話。
散歩していた男が湖の近くで車を発見する。
運転手らしき男は見あたらず、キーをつけっぱなしのまま放置されていた。
不審に思いつつも良からぬ気持ちで男が車に近づいた瞬間、
湖から現れた化け物が男を飲み込んだ。
数分後、湖から化け物の触手が伸び、車の形になった。
という車のCM。
通行人も思わず心惹かれちゃう車☆
ってコンセプトらしいがブラックすぎる。