ホラー

【洒落怖】訓練と警備服が未だに恐怖

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746: 本当にあった怖い名無し@\(^o^)/ 2016/07/11(月) 00:05:18.32 ID:Rl0SwcMv0
A男と俺は2階に向かった。
先ほどA男が人影を見たと言っただけに、
俺達は一言も喋らず、言いようのない緊張感が走っていた。
3階と2階の踊り場に、簡易的な便所があった。踊り場には鏡がはめこまれていて、俺はなんだか学校みたいだなと感じた。

2階の通路も、3階とほとんど同じ作りだ。
人影も、人がいた気配もない。
俺たちは、また一部屋づつ扉を開けて回った。
手前から4部屋目に差し掛かった時、
妙な違和感を感じた。
ノブの形が違う。
他の部屋はよくある、円柱形の、がっつり掴むタイプのものだが、
この部屋は昔のノブにある様な、
なんというか、小さめの楕円の、飾り彫りがあるようなレトロなノブだった。
右にかちりと回してそっと開いた。
キイ…と渇いた音がして空いた中には、
人間のいた痕跡があった。
ベッドの上にはマットレスもあり、薄汚れたシーツがかかっていて、タオルケットらしきものが丸まっている。
開け放たれた洋服ダンスには、
針金ハンガーがぱらっとかかっており、
汚いTシャツや、くたびれたカーディガンが2.3着かかっていた。
俺たちは顔を見合わせ、ごくりと喉を鳴らした。
A男「誰か住んでんのかな?」
A男が俺にささやいた。
俺「ホームレスじゃね?」
俺も声を潜める。
ホームレスというセンは大いにあり得る。
この田舎町でホームレスは見かけた事はないけど、見かけた事がないというのはこういう所に住んでいるのかもしれない。

ベッドの奥に、何かの本が積まれているのをA男が見つけ、
入り口の扉を少し開けたままにして奥に進んだ。
俺はなんとなく、エロ本だろうなと思っていたが違った。

747: 本当にあった怖い名無し@\(^o^)/ 2016/07/11(月) 00:15:25.04 ID:Rl0SwcMv0
それは、なんというか昔の本だった。
文字の感じとか、絵とか、
小説みたいなものとか雑誌もあったけど、
全てから時代を感じた。
ただしそれはノスタルジーどうのではなく、ただただ気味が悪かった。大日本帝国みたいな、あの感じの、言いようのない不気味さ。
A男も、気持ちわりいと言って見るのを辞めた。

その時だった、
内階段の方角から足音が聞こえる。
俺たちの背筋が凍った。
ホームレスが帰ってきた!!と咄嗟に思った。
今にも心臓が口から飛び出そうだった。
遠くからガチャリ、という音がして足音が止まる。
そしてガチャリ、という音がしてまた足音。
一部屋づつ見て回ってる?
俺たちは瞬時にそれを察した。
俺はジェスチャーで、A男を洋服ダンスに入れと促した。
足音の主が2部屋目をガチャリとしたタイミングで出来る限り慎重に部屋のドアを閉め、
俺も洋服ダンスに飛び込んだ。
洋服ダンスのつまみを内側からゆっくり引っ張り、扉を閉める。
カビくさかった。A男はがたがた震えていた。懐中電灯を点けたかったが、
明かりが漏れるのはマズイと思い付けなかった。
隣の部屋のガチャリが終わり、
足音の主がこの部屋の前まで来た。

748: 本当にあった怖い名無し@\(^o^)/ 2016/07/11(月) 00:20:06.12 ID:Rl0SwcMv0
ガチャリ。

こつ、こつと足音が部屋に入ってくる。
部屋の真ん中あたりで足音が止んだ。
ボソ、ボソ、と足音の主が何か呟いた。
耳を洋服ダンスの扉に近づける。

「…だよ……だよ……れん、だよ……訓練…だよ…」

男の声だった。
ボソボソと、訓練…だよ…という言葉を繰り返している。
足音はやがて部屋から出て、2階の最後の部屋へ向かうと、また通路を歩いて行き足音が消えた。
この時間は10分くらいだったと思う。
ただ俺たちには1時間にも2時間にも感じられた。
俺たちは充分に時間を置いてからゆっくり洋服ダンスを開けた。
蒸されて暑いはずだったのに、
俺たちは足の先まで冷たく、がたがたに震えていた。

A男「…もう帰ろうぜ」
俺は無言で頷いた。

749: 本当にあった怖い名無し@\(^o^)/ 2016/07/11(月) 00:28:52.81 ID:Rl0SwcMv0
俺たちは恐る恐る1階に降りた。
3階に登り、3階の通路を通って外階段を下りるより、
1階の非常口の内鍵を開けて外に出た方が地上に近いと判断したからだ。

1階は2階、3階と作りが違っていて、
階段を下りるとすぐ横が玄関ホールと、
管理カウンター、
奥に、食堂と厨房らしきもの、
便所と風呂があった。

便所と風呂の奥の突き当たりが、
建物の構造上1階の非常口のはずだ。
俺たちはそろりと歩みを進めた。

カッカッカッカッカッ

と響く足音が階段から聞こえ、俺たちはまた口から心臓が飛び出しそうになる程驚いた?
慌てて食堂に入り、しゃがんで壁に沿って隠れた。

足音は1階まで降りてきた。
キャスター付きの椅子を引く音と、
それに腰掛ける音がした。
管理カウンターの方角だ。

俺とA男はそっとそちらを見るために覗き込んだ。

750: 本当にあった怖い名無し@\(^o^)/ 2016/07/11(月) 00:34:49.02 ID:Rl0SwcMv0
警備服姿の男が、カウンターの机に、
こちらに背を向けて座っている。
何か書き物をしているように書類を机上に広げ両手を机に出していたが、ぴくりとも動かない。

俺たちは完全に固まっていた。
あそこにいる男は現実に存在しているのだろうか。

「訓練だよ」

男が俺たちに背を向けたまま、
はっきりそう言った。
俺とA男はビクっと身体を震わせた。
その瞬間、
けたたましい火災の非常ベルの音が建物に響いた。

男は微動だにせず机に座って居た。

俺たちは半泣きになりながら、
男が振り向かない事を祈りながら転がる様に食堂を飛び出し、非常口に向かって走った。

A男が震える手で非常口の内鍵を開けようとして、懐中電灯を取り落とした。
手が震えてものすら上手くつかめない。
俺は声を殺して早くしろよ!とA男を急き立てた。
A男は俺の声など耳に入らない様だった。
顔面蒼白のまま、内鍵と懐中電灯と格闘していた。
ジリリリリとけたたましい非常ベルが鳴る中で、視線を感じて後ろを振り返ると、
背を向けて座っていた男が、
こちらを肩越しに振り返り俺たちを見ていた。

751: 本当にあった怖い名無し@\(^o^)/ 2016/07/11(月) 00:41:16.22 ID:Rl0SwcMv0
その男の顔は土気色に膨れ、
目ん玉がなかった。
目ん玉は黒い窪みで空洞だった。
口から何かが垂れてるのか泡をふいているのか、だらりと垂れ下がった口角からは液体がしたたっていた。
黒い空洞が俺たちを見ていた。
口角がゆっくりパクパクと動いた。
非常ベルの音で何を言っているのか、聞こえなかった。

A男がやっと非常口を開け、俺たちは外に転がり出た。
うわあああああああ!とAが叫び駆け出した。その勢いで
非常口にあった有刺鉄線に引っかかり転んだが、A男は狂ったように叫びながらもがいて立ち上がり、また走り出した。
非常ベルはまだ鳴っていた。
俺も死にそうになりながらA男の後を追った。

非常ベルがいつしか遠くなり、
俺たちは全速力で走り、
俺の家の近くのコンビニの駐車場まで辿り着いた。
A男はコンビニの明るい光を見て、
コンビニの駐車場に倒れる様に座り込んだ。
俺もそれに続いた。
しばらく2人息を整えていると、A男がいてえ!と言い足を押さえた。
足には縦にぎざっと切り傷が入っており、
血がかなり流れている。
俺「おいおい、大丈夫かよ!」
A男「…いてえ~…」
俺「転んだ時じゃね?俺絆創膏買ってくる」
A男「わりい…」
俺「ちょっと待ってろ」
家に帰ってからでもよかったが、
血が半端なく出ていたためにすぐ手当てをしたほうがいいと思った。

752: 本当にあった怖い名無し@\(^o^)/ 2016/07/11(月) 00:45:17.49 ID:Rl0SwcMv0
俺はコンビニに入り、
絆創膏と消毒液と包帯を取り、喉がカラカラなのにも気づき、俺とA男文のジュースを買った。
レジで会計をしている時A男が気になり駐車場に目をやると、
座っているA男の隣に女の人が立っていた。
A男の顔を覗き込む様にして立っている。
髪が長くて顔が見えない。
(A男の奴め、お姉さんに心配されて話かけられてるんだな)
俺は急いで会計を済ませ、店の外に出た。

俺「あれ?」
そこにはA男しかいなかった。
俺「お姉さんは?」
A男「…は?」
俺「さっき、お姉さんに話しかけられてただろ、白い服着た」
A男「は?やめろよお前、何言っちゃってんの?」
A男は挙動不審になり、またガクガク震え始めた。
俺の背中にも冷たいものが走った。

お姉さんなんて居なかった。

753: 本当にあった怖い名無し@\(^o^)/ 2016/07/11(月) 00:48:15.69 ID:Rl0SwcMv0
俺は何も言わず、A男にジュースを渡した。
A男はそれを受け取り、一気に半分ぐらいまで飲んだ。
俺はA男の足に消毒液をかけて、
レジでついでに貰ったおしぼりで傷周りの血を拭いてやった。
A男「…さっき」
ずっと真っ白な顔で押し黙っていたA男が呟いた。
俺「え?」
A男「さっき、お前が見た女って、髪長いやつか」
俺「…うん」
A男「あのさ、俺たちが非常口から逃げ出して貯水槽の横走ってる時」
俺見たんだ、とA男がかすれた声で言った。

白い服着た女が、俺たちの方を貯水槽の中に立っていてずっと見てた。
女はドス黒い肌の色で、肌がシワシワで、黒くて長いスカスカの髪だった。
眼球がある場所には黒い穴があいていて、
その穴が俺たちの事をずっと見ていたんだ。

A男はぶるぶる震えて、腕に顔をうずめた。

A男のとなりに居たのはきっとその女だった。俺は嫌な汗が背中に伝うのを感じた。
俺たちは連れて来てしまったんだろうか。

754: 本当にあった怖い名無し@\(^o^)/ 2016/07/11(月) 00:50:40.11 ID:Rl0SwcMv0
俺は何も言えなかった。
A男は女を見たし、俺は男を見たのだ。
そして女も、男も、俺たちを見ていたのだ。

俺はA男の傷の手当てを済ませて、
A男を立ち上がらせた。
家に帰って、何もかも忘れて寝たかった。
A男に、俺の家で塩をまこうと言った。
A男は頷きながらぐしゃぐしゃに泣いていた。

それから、俺の家に着いて、
俺たちはめちゃくちゃに塩をかけた。
ルールとか、そういうのはよく分からなかったので、とにかく大量の塩をかけた。
小皿に塩を持って、俺の部屋の入り口と窓にも置いた。
明かりをつけたまま、俺たちは布団に入った。
あの夜、俺たちは何も喋らなかった。
A男が時々鼻をすする音だけが部屋に響いていた。

755: 本当にあった怖い名無し@\(^o^)/ 2016/07/11(月) 00:53:01.44 ID:Rl0SwcMv0
あれから月日が経ち、
俺は何事もなく生きている。
A男とはあれ以来、何となく疎遠になってしまった。
というより、A男がおれを避けていた。
あんな経験をさせてしまったと言う事に対して、申し訳ないと思っていたのか、
また女が見えたとか言われるのが嫌なのか、
俺を見ると思い出すのが嫌なのか、
分からない。
今はA男が何処にいるのか、生きているのかも分からない。

あの影響と言うか、
弊害と言うか、俺は訓練という言葉と警備服には未だに恐怖を感じる。
その単語が耳に入ったり警備服の男を見ると、
あの男の顔と声が頭に浮かんでくる。
あの後は数年悪夢にあの男が出てきたけど、
最近はようやく見なくなった。

756: 本当にあった怖い名無し@\(^o^)/ 2016/07/11(月) 00:54:17.73 ID:Rl0SwcMv0
高校卒業後大学で地元を離れ、
就職し、今は夏休みで本当に久しぶりに地元に里帰りしている。

あの廃墟は区画整理で更地になっていた。
あの日、A男と探検し、
信じられない物を見た場所はもう無い。
更地になった場所を見て、
何かに残して置きたいと思ってここに書いてみた。

俺はA男に会いたいと思っている。
A男が地元にいるかどうかも分からないけど、もしA男に会えたら13年ぶりに話がしたい。
海の日まで地元には居るつもり。
また進捗があったら書いてもいいだろうか。
長くなってしまってすまん。

質問があれば答えます。

772: 本当にあった怖い名無し@\(^o^)/ 2016/07/11(月) 08:22:43.00 ID:c0Q1xdTB0
>>756
bravo!めちゃ面白かった!
文章力の高さと話のまとまりが良すぎて創作かな?って疑ってしまうけど(褒めてる)それを加味してもコワオモ!
乙でした!

773: 本当にあった怖い名無し@\(^o^)/ 2016/07/11(月) 08:59:02.67 ID:TiHapl320
>>756
乙でした
A男の現状が気になるね

846: 本当にあった怖い名無し@\(^o^)/ 2016/07/11(月) 22:08:50.59 ID:tLyCS6Zq0
>>756
怖かった
もしこれが創作なら次回作期待しています
無粋な感想なので俺へのレスは不要です

847: 本当にあった怖い名無し@\(^o^)/ 2016/07/11(月) 22:11:32.04 ID:ZgltSI050
>>756
乙です
久しぶりに怖かったです

757: 本当にあった怖い名無し@\(^o^)/ 2016/07/11(月) 00:56:46.79 ID:7VQJwGyj0
乙面白かった

760: 本当にあった怖い名無し@\(^o^)/ 2016/07/11(月) 01:35:02.75 ID:Rl0SwcMv0
>>757
ありがとう。
地元に帰ってきて更地をみた時から、
書き残さなきゃと言う気持ちになりひたすら書いてた。

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