これは俺が10歳くらいの時の話かな。
自分で言うのもなんだけど、俺は小さい頃は性質の悪いガキでさ。そして田舎でやる事が無いけど自然は豊かだった訳で。
となると遊びとしてカエルを木に叩きつけて殺したり、ヤカンのお湯をアリの巣に流し込んで全滅させたり、そんなことばっかして遊んでるようなガキだった。
生き物なんかその辺に幾らでもいたし、何か知らんけどその頃はそういう生きてる物を殺すのが楽しかった。
でも今はもう、虫なんか触るどころか見るのもダメになってしまった。
そうなったきっかけが「蠱毒」だった。
蠱毒って漫画とかでもよくあるから、知っている人も多いとは思う。
虫とか蛇とか、そういうのを沢山一箇所に集めて閉じ込めてお互いに殺し合わせて、最後に生き残った1番強い奴を使って憎い相手を呪い殺す、とかそういう奴。
それをやったんだよ、俺。
テレビかなんかで紹介されたのを見て、別に呪いたい相手がいた訳でもなんでもないんだけど。
動物がお互い戦い合うと最後に1番強い奴が残るんだスゲー!みたいな。
ホント軽いノリだったんだけど、実際に蠱毒作ってみたのさ。
夏休みで暇だったから、とにかく目に付いたヤツを片っ端からプラケースの虫かごに放り込んだ。
覚えてるのだけでも、バッタ、カマキリ、アリ、クモ、カナブン、クワガタ、コオロギ、カエル、トカゲ…。何故か草とかセミの抜け殻とかも入れた。
本当は毒のある生き物を集めてやるらしいんだけど、まぁ子供のやる事だからそんなもんだった。
そうやって半日くらい頑張って集めまくった結果、流石に虫かごの中はやばいことになってて。
もう色々と積み重なって、大渋滞起こしながら生き物が蠢いてた。
ウワッ!と思って直視出来ないできないくらいキモかったが、後は庭に軽く穴掘って、ケースごと土に埋めて出来上がり。
で、虫かごを埋めた時点で何か満足しちゃって、そのまましばらく忘れてたんだよね。思い出した頃には夏休みも終盤になってた。
昼間、庭に埋めた虫かごを掘り返してみた。掘り返すときは流石にちょっとビビってたよ。
きっと、虫の死体がかごいっぱいに詰まってるんだろうと思ってた。
ところが掘り返してみると予想と違って、虫かごの中は適当に入れた草とかが入ってる以外は、真っ黒い泥水?みたいのが溜まってるだけだった。
放置してる間に雨も降ってたし、蓋が甘かったのか。そんなことを思いながら俺が虫かごの蓋を開けみると…。
いたんだよ、生き残りが。
何かって言われるとよくわかんなくて、とにかくメッチャ動きが早かった。
飛び跳ねたけど何かよく分からなくて、それが俺の腕にくっついたと思ったら激痛が走った。多分噛まれた?のだと思う。
そいつはすぐ俺の腕から離れたてどっか行ったけど、噛まれた所がめっちゃ痛くて、針で突き刺したみたいな強烈な痛みが引かない。
痛いのと驚いたので俺は虫かごをその場に落とした。
ドチャーッって地面にぶちまけた泥水の中からは、虫の羽とかカエルっぽい骨とか、何かよくわからないキモい残骸が出てきたけど、こっちはそれどころではない。
噛まれた所は赤くなったと思ってたら、直ぐに腫れてきた。それも尋常じゃないくらい。
見ている内にゴルフボールくらいにぶくっと腕が腫れた。
蜂に刺された事は前にもあったけど、とてもそんなもんじゃなかったね。泣きながら家に飛んで入り、爺ちゃんに「虫に刺された!」って泣きついた。
そしたらもう大騒ぎだよ。
車で病院へ連れて行かれて、その後でもっと大きな病院に送られて。
何に刺されたんだって医者に聞かれたから、俺が「蠱毒」って答えたら物凄く変な顔された。
その後は高熱も出て意識不明になって、最初の2~3日はマジで死ぬところだったそうだ。
結局1ヶ月近く入院した。
退院した後で親や爺ちゃんから死ぬほど怒られたし、もう2度とこんなことするなって約束させられた。
でもそんな約束はもういらなかったよね。1番ビビってたのが俺だったから。
入院中は虫とかに殺される夢をいっぱい見た。もうトラウマどころか完全に虫恐怖症となり、あまりにも俺が虫を怖がるんで、中学からは都会に引越しした。
一応言っとくけど、真似だけは絶対に止めるべき。
本気でやったら多分、死ぬ。