ホラー

【洒落怖】虚言症の祟り

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833: 本当にあった怖い名無し 2010/06/08(火) 19:03:23 ID:m+mNMB9G0
とても長くなります。

受験勉強もやって、かろうじて名門大学に滑り込みました。
人並みに頑張ったと思ってます。そして人並みに成果が出たかな。
会社勤めがはじまってからも、やっぱり頑張りました。
でも、ちょっと頑張りすぎちゃったのかもしれない。

営業入社だったんですよ。
どこの会社でもそうですよね。
伸び悩んだが最後。他の課への転属が待ってる。
人当たりが良くて、礼儀正しい。
それだけで配置されたなんてド新人にはきつい職場でした。
同期に後二人入ったんですね。
彼らは半年もしないうちに最初の成績あげたんです。
数年に一度しか営業課には残れないっていわれるくらいだから。
もう、その時点で、自分は脱落だと覚悟してました。
でも、はじめてだったんです。
納得ができないほど、挫折感を味わったのは、あれが最初でした。
なんとかしなきゃって走り回って。
やっとのことで、親族の経営する会社に売り込みました。
数字でいえば他二人より桁が一つ上です。嬉しかったなあ。
「はやいとこお前の机は他所にいってもらおうな」
顔を合わせるたびにいわれていたこのお小言がなくなりました。
見放されかけていた先輩に、ばんっばん肩を叩かれながら
「よしっ、くどきにいくぞっ!」
って発破かけられる毎日がはじまりました。
一人いなくなり、二人いなくなり。
数年ぶりに自分が営業課に正式採用がきまりました。

834: 本当にあった怖い名無し 2010/06/08(火) 19:04:44 ID:m+mNMB9G0
二年くらい働いて、先輩の営業が一人転属になり。
わたしは無理を続けながら、段々、頭がハゲてきました。
ある日、ふと鏡の中の自分が、変に見えたんです。
こびへつらうような薄ら笑いを浮かべてることに気付きました。
口の周りにも作り笑いをうかべていたせいか、皺がよってます。
成績と引き換えに悪くなった人相を見て悲しくなりました。
それからだんだんと食事が喉を通らなくなってきました。
自分のやっていることは正しいことなんだろうか。
クレームがつくたびに、怖くなっていって。
成績が落ちてきて、上司にも随分迷惑をかけました。
入社した手の頃は厳しかったですが
期待に応え続けてきた信頼からか。
「調子崩してるときはぱーっと遊べ。
 おまえのこれまでの売り上げなら
 二ヶ月でも三ヶ月でもいい。
 でもそのあとはしっかり仕事しろ」
ありがたいお言葉をいただけました。

でも出かける気にもならなかったので、ずっと家にいました。
その女性に出会ったのは、心配した先輩が、家に訪ねてきたときでした。
直前まで飲んでいた先輩が、友達のホステスを連れてきてくれたんです。
「酌でもしてもらったら気がまぎれるんじゃないか」
大学時代の同級生を前にわたしは呆然としました。
あちらも気付いたようで、気まずそうにしてました。
「こいつが俺の言ってた我が社のホープだよ
 いまのうちにご機嫌うかがっといたらきっと将来大金おとすぞ」
そんな囃し言葉にのせられながら、久しぶりに酒を飲みました。
先輩が先に潰れてしまった後は、杯を空けては注いでもらいました。
二人とも無言でした。
でも帰り際に言われたんです。
「つかれてる」
かわしたのはこの一言でした。

836: 本当にあった怖い名無し 2010/06/08(火) 19:10:49 ID:m+mNMB9G0
休みが終わり、また働けるようになっていました。
スランプ中に二社失いましたが、三社開拓してほぼ同額の契約とりつけました。
カムバックパーティを開いてもらえて。
新人にも尊敬してるっていわれて、すごく嬉しかった。
でも、そのときふと、会場のカーテンの裏に黒いものが見えたんです。
見間違えかなと思っているとふっと消えて。突然目の前に大きな目玉が二つあらわれたんです。
「ぎゃっ」
って叫んでわたしはその場に倒れました。
そしてみんなに助けをもとめようとしたんです。
でもね、みんな怪訝そうにしてるんですよ。
私をみて、首をかしげる人もいたかもしれない。
見えたのは自分だけなんだ、そう強く確信したことだけは確かです。
「こ、腰が突然いたくなって。
 前にも筋膜炎やったことがあるから」
こんなふうにその場はごまかしたかとおもいます。

でも、この幻覚は段々とひどくなっていきました。
他社製品とのディファレンスのアピール中。
信頼できる人間を演ずるべく、堂々と構えてなくてはいけない時。
そう言うときにかぎって視界のすみに黒いものがうつり。
目の前に血管のういた眼球が突然あらわれるんです。
事前に、黒いものが見えたときに奥歯をかみ締めて必死にこらえるんですけど。
挙動不審にみられることもありました。
それがもとで契約できなかったっていうことはありませんでしたが。
集中力自体を欠くようになると、段々と、成績が落ちてきました。

837: 本当にあった怖い名無し 2010/06/08(火) 19:21:45 ID:m+mNMB9G0
ある日思い出したんです。「つかれてる」って言葉。
ひょっとしたらこれはメンタル的なものではないのではないか。
そう思うようになってきました。
彼女の勤め先にはわたしはいったことがなかったので
先輩に頼んできいてみました。

そのクラブは新宿にありました。
たまにみんなで謳いにいく、パセラってカラオケ店の近くでした。
下り坂を下っていった途中で曲がってってかんじの道順です。
住宅街だか歓楽街だか、よくわからないような変な町並みになっていき
やがて目当てのクラブがあったんです。

営業時間外だっただけでなく。突然名指しでの訪問です。
店のちょっと怖そうな人がでてきて、追い返されてしまいました。
仕事の合間を縫って連日いくあいだに、救いはその人の向こうにあるのが、とても悔しかった。
最後にはそのこわもてになぐられた瞬間に、ありのままをぶちまけてしまいましたよ。
そうしたら、こわもての方がね。
「あんたひょっとしてソッチに用事があったのか」
っていうんですよ。
そっちってどっちってかんじですが。とにかくまあ、引き起こしてもらいました。
「悪いな。雰囲気がなんか異様でさあ」
なんていわれながら店の中へと案内されました。
テーブルの縁に椅子がかけられている、まだ開店してもいない店内でした。
こわもてさんがジュリちゃーんと大声を張り上げて。
それから少し待たされました。
やがて、彼女がきました。

「つかれてるって、言ったよね。
 その意味を教えてほしいんだ」

839: 本当にあった怖い名無し 2010/06/08(火) 19:29:03 ID:m+mNMB9G0
「後ろに、立ってる」
こわもてが一番ビビってました。
わたしは、もう覚悟できてましたから。驚きませんでした。
「わたしは何も悪いことしてない」
主張するところは主張しましたよ。
「相手はそう思ってないの。
 かなり恨んでるように見える」

なんでの連呼ですよ。
そのうち口に出てきました。
なんで、なんで、なんでっ!
「なんでだっ!」
叫んで後ろを振り返っても誰もいません。
すごく大変な職場なんです。足を引っ張られていてはやってけないんですよ。
真面目にやってきたのに。
なんで逆恨みかなんかしらないもので、邪魔されなくちゃいけないんです?

「人間、生きていれば人を蹴落とすのよ。
 わたしも、ここでナンバースリーの娘を蹴落としてる」

壁の天井際に並んだ写真の中で、三人だけポスターサイズになってました。
そのうちの一つが彼女でした。
そのときふっと気付いたんです。
わたしが課に入ったあと、やめていった先輩のことを。

「名前とか、聞きだせる?」

「無理、口の利けるような状態じゃない」

「状態じゃないって、どういう意味」

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840: 本当にあった怖い名無し 2010/06/08(火) 19:33:46 ID:m+mNMB9G0
「死ぬ直前に一番思っていたことが
 死後の主な感情になるの
 発狂と憎悪
 今もわめき散らしてる」

膝が震えました。
じょじょって、股間が緩みました。
強面が慌ててタオルをもってきて。
惨めなことに、小さい頃に卒業したおもらしまで。

「どうすればいい」

「相手の未練の対象からいなくなったら
 よくなるかもしれない」

アドバイスにしたがって、会社を去りました。

841: 本当にあった怖い名無し 2010/06/08(火) 19:40:54 ID:m+mNMB9G0
会社を去る前に調べました。
他の課に転属させられた先輩をDさんと言います。
この方は、本社の総務部におくられたらしいんですが。
張り合いが無い仕事に嫌気がさしたといって辞表を提出したそうです。
上司にかけあって、彼のご家族にどうしても挨拶したいと言って。
売り上げの割りには安い退職金の上積みだという名目で教えてもらいました。

都内の高層マンションが彼の住所でした。
そこにたずねていくと、表札に名前がありません。
しばらく探していると、あやしくおもったのか、警備員がでてきました。
そこで、Dさんのお宅をたずねてきた、元の会社の同僚だと告げました。
名前まで告げたところで、相手の顔つきががらりと変わりました。
まるで憎んでいるような顔つきになったんです。

「個人情報を教えるわけにはいかない。
 おまえみたいな屑なら尚更だ!
 帰れ!」

いきなりの剣幕に吃驚してその場は立ち去りました。

842: 本当にあった怖い名無し 2010/06/08(火) 19:47:26 ID:m+mNMB9G0
次の職場は向こうからやってきてたので、時間だけはありました。
頻繁に他社とやりあっていて、仕事を奪ったりしていたからですかね。
元々、ヘッドハントの候補になってたそうです。
一年はブランクをおかないと、元の会社ともめるからと言われ。
翌年の四月から勤務する内定をもらい。
バイトをしながら調査に明け暮れました。

自宅ですら、アノ目玉や、たまには透き通った人影が見えるようになりました。
マンションの近くにいき、せめて住んでる方から話を聞こうと思っていると。
ある日、小さな男の子がボールを追っかけて車道にでようとしたので。
それをおさえつけたんですね。
ボールが割れて泣き出したその子に、高い高いをしてやったら、すぐに泣き止みました。
そのお母様がかけつけていらして。感謝の言葉を連呼されたんです。
そのまま別れようとしたところで、その親子が、マンションにはいっていこうとするのをみて。
声をかけました。
調査開始から二ヶ月後のことです。

843: 本当にあった怖い名無し 2010/06/08(火) 19:55:45 ID:m+mNMB9G0
マンションのロビーで話させていただくことができました。
警備員がすっとんできたんですが。
子供を助けてくれた方ですとお母様がおっしゃってくれたので
つまみ出されずにすみました。
お子さんは高い高いが気に入ったようで、おねだりするんですよ。
だからわたしは高い高いをしながら自己紹介をしました。
すると、少し驚いたような顔をして。
「聞いていた方と随分印象がちがう」
こういわれたのです。警備員も私とお子さんのやりとりをみて、少し当惑してるようでした。
「どういうふうに聞いていたんですか?」

きかされたのはおぞましい話でした。
どうもDさんは会社をやめて後
仕事がみつからなくて困っていたようです。
ことあるごとに自分はハメられたんだとか。
あいつが俺の仕事うばわなければとか。
こういうことを言っていたらしいんです。
警備員さんからも教えてもらえました。
たとえばサインをするだけの状態の見積書を奪って
相手からサインをとってきただけで、手柄にするような人だったときいていたそうです。

もちろんそんなことしてませんよ。
大体、サインするまでに交渉をまとめてきたひとを
会社がないがしろにするわけないでしょう?

「ほんとっぽく聞こえたのよね」
「わたしもそうおもいました」

二人とも信用してしまっていたようです。

844: 本当にあった怖い名無し 2010/06/08(火) 20:02:39 ID:m+mNMB9G0
この誤解が解けてから、一月ほどで、ご家族の住所がわかりました。
このお母様が、Dさんの奥様と仲がよく。
しばらく尋ねているうちに、教えてくださったんです。

Dさんはおなくなりになっていました。
奥様は、Dさんの虚言癖に気付いていたらしく。
私を恨んではおらず。
アパートの中にいれてくれました。
墓前に手をあわせてから退くと、Dさんの残した手帳をみせてくれました。

そこには、やったおぼえのない、悪行が書き連ねられていました。
Dさんが転属させられたたのは2001年の春なのですが
かきはじめられていたのは、2001年の夏からなんです。
一緒にいるはずもないのに、なぜかわたしに仕事が奪われていくんですよ。
発狂っていう意味がわかりました。
そこで奥さんに今わたしがおかれている状況を話しました。
幻覚じゃなさそうな、祟りにあっていると。
そうしたら、奥さん、泣き出してしまわれてね。

「プライドの高いところがかっこいいとおもったのに。
 みじめなところみせないでよ」

わたしももういちどDさんの墓前に向かい合って

「先輩の仕事のやりかたを勉強させてもらったから
 仕事ができる人間になれたんじゃないですか」

以降、祟りはおこっていません。
クラブに一度顔をだしたら、彼女は笑ってくれました。
たぶん、もう、つかれてはいないんでしょう。

845: 本当にあった怖い名無し 2010/06/08(火) 20:04:28 ID:m+mNMB9G0
新しい会社にうつってからは、努力を適度にするようにしました。
自分なりに反省したんです。しゃにむにになってやっていたことが
悪く思われるようなこともあるんだとね。
無理矢理蹴落とされたと感じさせることもあるんだと。
そうしたら、営業からは外されましたが
偶然ですかね、総務課にまわされました。

肩肘をはらずに仕事をしていますが。毎日が充実しています。

おわりです。

861: 本当にあった怖い名無し 2010/06/08(火) 23:10:40 ID:lXhuw8ln0
>>833
読み応えあった。乙

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