名作・神スレ

【名作スレ】<長編> 従姉に恋をした。

705 名前:1 ◆6uSZBGBxi 投稿日:2006/04/29(土) 16:12:08
気持ちの良い午後を過ごしたはずなのだが、
仕事から帰ってきた母に起こされた時は気分がすぐれなかった。
すぐにでも恵子ちゃんに電話したい気持ちを抑え、夕飯をとる。

食事の最中、携帯が鳴った。
もしやと思い、画面を見ると案の定、恵子ちゃんからだった。

「あ、職場からだ」

棒読み。
今更、母に嘘をつかなくてもいいのだが、
この時はわけのわからない恥ずかしさがあった。
足早に2階の部屋へと移る。

「昼間、電話くれたんだねー。ごめんね」
「こっちこそごめん。休憩中だと思って」
「そうだったんだけど気がつかなかった(笑)」
「そか(笑)」
「元気?そっちは死ぬほど暑いでしょ?」
「実は今、一足早く帰省中なんだ。土曜日に同僚の結婚式があって」
「そうなんだー」
「うん。それで、日曜日までいるつもりなんだけど、
 それまでの間、よかったらメシでも一緒にどうかなって」
「あ、なら明後日の金曜日はどう?
 土曜はウチの会社休みだから、私も気兼ねなくゆっくりできるし」
「気兼ねなくゆっくり飲めるし、の間違いだろ(笑)」
「そうそう…ってオイっ!(笑)私最近、お酒飲む量少なくなったんだよお」
「年のせい?(笑)」
「ちーがーいーまーすー(笑)耳の薬のせいだもん」
「え?耳って…ずいぶん前に三半規管の病気になったってやつ?
 あれって治ったんじゃなかったの?」
「ううん。今もバリバリ継続中(笑)」
「そっか。
 以前、快方に向かってるって聞いたから、てっきり完治したのかと思ってた」
「お医者さんには完全には治らないって言われたの。
 まあ、たまにめまいとか頭痛がする程度で、日常生活に支障はないんだけどね。
 薬を飲みつつ、一生付き合っていくって感じ」
「その薬が酒と相性悪いの?」
「飲んでもいいけど量は抑えなさいって言われた」
「なるほど」
「だから、私の目の前であんまり飲まないでね。誘惑に負けちゃうから(笑)」
「わかった。すっごく美味しそうに飲むことにする」
「わかってないじゃん!(笑)」

兎にも角にも、約束をとりつけた。

(決戦は金曜日、なんて歌があったな)

俺の大好きな言葉“悶々”がもうすぐ消滅する。
どちらに転ぶにせよ、だ。

706 名前:1 ◆6uSZBGBxi 投稿日:2006/04/29(土) 16:12:59
インターバルのように空いた木曜日。
あの日、俺は何をしていたのだろうか。
最後の“悶々”を楽しんでいたのだろうか。
思い出せない。
だが確実に24時間は過ぎ行き、俺にとって生涯忘れえぬ金曜日が訪れた。

707 名前:1 ◆6uSZBGBxi 投稿日:2006/04/29(土) 16:13:44
恵子ちゃんの仕事が終わってからということで、
待ち合わせは夜8時に設定していた。
家にいても余計なことを考えるばかりなので、日中から街に出た。
しかし、何をしていればいいのか思いつかない。

映画館に行ってみた。
ストーリーがまったく頭に入らず、1800円をドブに捨てた。

本屋に入った。
知らず知らずのうちに恋愛ハウツー本を手にとっていた。
しかもよく見ると女性向けだった。

喫茶店で休んだ。
ぼーっと、恵子ちゃんのことを考えた。
…なんだよ。
これじゃ家にいるのと同じじゃないか。

708 名前:1 ◆6uSZBGBxi 投稿日:2006/04/29(土) 16:14:40
7:00PM
散々、街を彷徨ったのに約束の時間までまだ一時間もある。

…酒の力を借りよう。
決戦に備えて景気づけにもなる。
友枝とあの時行ったバーへと向かった。

開店まもない店内には客の姿はなかった。
いつものバーテンが「お久しぶりです」と俺を迎えた。

「待ち合わせ前なんで、一杯だけもらえますか?」
「はい。何になさいます?」

しばし考える。

思いつくのはひとつしかなかった。

「この間いただいた“両想い”、アレ…いいですか?」

カップルにしか出さないというカクテル。
しかしバーテンは
「憶えていてくださって、ありがとうございます」
快く応じてくれた。

淡いピンク色の水中を、ビーズのような気泡が踊っている。

今日は自分のために飲む。
軽く願掛けした。

その様を、バーテンが微笑みながら見守っていた。
なんだか気恥ずかしい。

ちびりちびり、じっくりと時間をかけて飲み干した。

「次回は2つ、お出ししたいです」

店を出る時にかけてくれたバーテンの声が、とても心強かった。

709 名前:1 ◆6uSZBGBxi 投稿日:2006/04/29(土) 16:15:27
8:00PM
時間ぴったりに、恵子ちゃんは待ち合わせ場所へと現れた。

久々に見る恵子ちゃんのスーツ姿。
…タイトスカートって、いいなぁ。

「行きたいお店があるの」

恵子ちゃんの先導で向かった店は、初めてふたりで食事をしたあの店だった。
ひとり、気分が高揚する。
なんだか恵子ちゃんにお膳立てをしてもらっているようだ。

その日のオススメのワインをオーダーし、乾杯した。
俺はその杯に、またふたりでここに来れたことへの祝杯を重ねた。

「電話ではああ言ったけど、気を遣わないで飲んでね」

彼女の気遣いが愛おしかった。

だが今夜は俺も酒は控えるよ。
飲んだくれてる場合じゃないんだもん。

今日ここで、すべてが決まる。終わる。終わらせる。

しかしそんな意気込みも束の間、一時間も経つ頃には俺の心は苛立ち始めた。

710 名前:1 ◆6uSZBGBxi 投稿日:2006/04/29(土) 16:16:11
ふたりで話しているとどうしても馬鹿話で盛り上がってしまう。
望む方向に会話を持っていけない。
なんとも色気のない話ばかりが続いた。
楽しいんだけど…いや、楽しいからこそタチが悪い!

「デザートでも頼もっか」

彼女に品書きを渡し、無理矢理、会話を中断した。
流れに変化をつけようと必死だった。

“デザート作戦”は功を奏し、恵子ちゃんはデザート選びに夢中になった。
ようやくシンキングタイムを手に入れた。

…しかし、どうしたものか。

切り口がわからない。
大体、こんな公衆の面前で女性に告白したことなんて今まで一度もない。
気の利いた言葉がひとつも浮かんでこない。
どうしよう。
どうしよう。

「はい。私は決まり。健吾君はどれにする?」

時間切れ。

「じゃ、じゃあ、俺は~」

“イチゴとバナナの井戸端会議”なるものを注文した。

711 名前:1 ◆6uSZBGBxi 投稿日:2006/04/29(土) 16:16:57
あれほど時間の観念がなくなった日はないだろう。
気づくと11時をまわっていた。

「そろそろ出よっか。終電も近いし」

おとなしく従った。

だがあきらめたわけではない。
駅までの道のりは徒歩10分。
当初の予定とは大幅に異なってしまったが、この際、四の五の言ってられない。
歩きながら、だ。

「あのね」

うわっ。

…恵子ちゃんに言葉を盗られた。

「実は、ね」

ここまでは俺の言いたいことと一緒だった。

「今、交際申し込まれてるの」

噴き出した脂汗が夜風に撫でられた。
(ああ、気持ちいいなぁ)
などと考えていた。

712 名前:1 ◆6uSZBGBxi 投稿日:2006/04/29(土) 16:17:59
「…あ、相手は?」

現実に向き直った。

「同い年の、会社の人。職場でよく遊びに行くメンバーのひとり」
「じゃ、お互いによく知ってる仲なんだ…」
「うん」
「…恵子ちゃんは、その人のことどう思ってるの?」
「うん…すごく、いい人。ただ…」
「…ただ?」
「結婚を前提にって、言われたの」

熱帯夜、俺だけが凍りついた。
どうにか、口だけ解凍する。

「そ、そりゃ余程、恵子ちゃんのことが好きなんだねぇ」
「………」
「それで…ど、どうなの?」
「なにが?」
「い、いや、なにがって…悪い気はしないんでしょ?その人のこと」
「…わかんない。
 今まで仲の良い友達だと思ってたから…そんな風に見たことなくて」
「そうか…」
「ねぇ、健吾君。
 男の人って、付き合う前からいきなり結婚を意識するものなの?」
「そんなの…男も女も関係ないと思うよ。
 恵子ちゃんとその彼の間には、今まで身近に接してきた時間があったわけで、
 その中で彼が、恵子ちゃんを『この人だ!』って、感じたということでしょ?
 付き合う前の時間だけで、彼には充分だったんじゃないかな?」

なにを真剣にアドバイスしてるんだろ、俺。

「男女の仲になる前に…ってのは少し性急かもしれないけど、
 恵子ちゃんの良さに気づいたんだから、その彼、見る目ある人だと思うよ」
「やだなぁ、いつもの健吾君らしくないよ(笑)オチがないじゃん(笑)」
「いや、冗談じゃなくて(笑)」

本心なんだ。

713 名前:1 ◆6uSZBGBxi 投稿日:2006/04/29(土) 16:19:00
「ありがとね、健吾君」
「いや…大したコト言えてないけど…」
「ううん…そうじゃなくて。…ありがとう」

どういう意味か聞きたかったが、すでに改札の前まで来ていた。

「送ってくれてありがと!ここでいいよ」
「うん…」

最終電車が来るまでまだ5分くらいあった。

引き止めたい。
何か話題は………何か話題を…。
「じゃ、健吾君。さよなら」

俺の言葉は、待ってはもらえなかった。

…これで終わりか?

改札の向こう、恵子ちゃんが笑顔で手を振っている。
………。

あわててSuicaを取り出し、改札に叩きつけた。

714 名前:1 ◆6uSZBGBxi 投稿日:2006/04/29(土) 16:19:53
振っていた手を止め、恵子ちゃんがキョトンと俺を見ている。

「送る。ホームまで」
「え? いいよぉ(笑)」
「いいから…いいから…」

恵子ちゃんが眉をひそめて俺を見つめた。

ホームには最終電車がもう止まっていた。
時間調節しているようだ。

恵子ちゃんは電車の中。
俺は白線の上。

「じゃあ、これでほんとにさようなら(笑)」

さようなら、って、こんなにさみしい言葉だったんだ。

発車のアナウンスが、俺の背中を押した。
俺は電車に飛んだ。

すぐにドアは閉まった。
口をポッカリ開けて、恵子ちゃんが唖然としている。

「乗っちゃった(笑)」
「な、健吾君、なにしてるのぉ!?」

恵子ちゃんの口を見た。

「ごめん、恵子ちゃん。次の駅で、降りてくれ」

恵子ちゃんの口が「うん」と言ってくれた気がした。

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715 名前:1 ◆6uSZBGBxi 投稿日:2006/04/29(土) 16:20:54
次の停車駅までのほんの数分間、恵子ちゃんは俺の顔をずっと見ていた。
俺も恵子ちゃんを見つめ、決して負けなかった。

扉が開き、トン、と足をホームに下ろした。
すかさず振り返る。
ちゃんと恵子ちゃんも後に続いていた。

電車が出発するのを待つ。
電車が去った。
他の乗客がホームからいなくなるのを待つ。
いなくなった。

恵子ちゃんはずっと黙っていた。

「恵子ちゃん」
「…はい」
「さっきの彼氏の話、断ってください!」
「………」
「俺、恵子ちゃんのことが、好き、です」

恵子ちゃんが俺を見上げている、気がした。
震える四肢。

「もし、恵子ちゃんが俺のことを、ま、まだ、想ってくれてるなら、
 お、俺と…つきあ…てく…さい」

最後のほうの言葉は恵子ちゃんの言葉でかき消された。

「…自惚れてるなぁ(笑)」

絶句。
多分、金魚のような顔をしていたに違いない。

うわーうわーうわー。
やっちまった。やっちまったよ、おい。
とんだ勘違い野郎だったんだ、オレ…。

「でも」

視線を泳がせていた俺の鼻に、恵子ちゃんの匂いが流れ込んできた。

「ずっと…自惚れててください」

恵子ちゃんが俺の腰に両腕を回していた。

716 名前:1 ◆6uSZBGBxi 投稿日:2006/04/29(土) 16:21:40
サラサラとした恵子ちゃんの黒髪が、俺の右手の中にある。
砂糖菓子のように容易く砕けそうな肩が、俺の左手の中にある。
俺は恵子ちゃんを抱きしめていた。

恵子ちゃんの匂いが俺をくすぐる。
出会った時から変わらない、いつもと同じ香り。
両腕に、もっともっと力をこめたくなる。

「ごめんねぇ。そろそろ、ホーム閉めたいんだけど(笑)」

ふたりとも、ビクッとなった。
すぐそこで、駅員のおじさんが笑っていた。

お互いにお互いの顔の赤さを認めつつ、

「す、すみませんでした!」

ふたりで改札まで駆けた。笑いながら。

717 名前:1 ◆6uSZBGBxi 投稿日:2006/04/29(土) 16:22:48
改札を出るとすぐ、堰を切ったように俺は再び恵子ちゃんを抱き寄せた。
今度はもっとちゃんと、もっとやさしく。

10分。
灯りも消えた駅の入口に、ふたり、佇んだ。

このままいつまでも恵子ちゃんの髪を撫でていたかったが、
思い切って、身体を離した。

恵子ちゃんが俺を見上げた。

たまらず、また抱き寄せてしまった。

三度、恵子ちゃんの匂いを思いっきり吸い込んだ。
くすくすと、恵子ちゃんが笑った。

「すっごくクンクンしてるね(笑)」
「うん(笑)恵子ちゃんの匂い、好きだ」

後から聞いたのだが、アリュールという香水だそうだ。

飽きることなどなかったが、さすがに今度はちゃんと身体を離した。
代わりに恵子ちゃんが指を絡めてきた。

つないだ手を子供のように振りながら、ふたり歩き始めた。

「…ごめんな。変なところで降ろしてしまって…」

ようやく頭が冷静に考えることを思い出した。

「ううん…うれしかったから…いい」
「俺もすごくうれしい」
「…照れるね(笑)」
「照れる(笑)」

照れてばかりもいられない。

「どうしよ?また街に戻ってどこかで飲む?」
「うーん…」

恵子ちゃんが俺の顔を覗き込んだ。

「あのね。敏夫叔父さん(お父さん)のとこ、行きたい」

そう言うや否やすぐに顔を伏せた恵子ちゃんの耳は、
暗がりでもはっきりとわかるくらい、真っ赤だった。

「…わかった。行こ!」

すぐさまタクシーを拾った。

718 名前:1 ◆6uSZBGBxi 投稿日:2006/04/29(土) 16:23:47
太田家にはまだ灯りがともっていた。
明日はお父さんも母も休みだから夜更かししているのだろう。
玄関の鍵は開いていた。

「ただいま!」

ことさら元気に扉を開けた。
出迎えた母が俺たちふたりを見て目を丸くした。

「ふたりで飲んでたんだ。調子にのって、終電間に合わなくしてしまって」

とってつけた言い訳。
だが母は気にするでもなく、うれしそうに恵子ちゃんを中へと誘った。

居間に行くと、お父さんがテレビ画面に張り付いていた。
どうやらこの夫婦はテレビゲームに熱中していたらしい。
…このふたりも来年、還暦を迎えるのだが。

お父さんも母同様、俺たちを見て驚いた。
俺は同じ言い訳をした。

「今夜は泊まってもらいますから」

母が恵子ちゃんの実家に電話を入れてくれた。

4人で茶を飲む。
無言。

だがお父さんも母もニコニコと俺を見ている。
恵子ちゃんから湯気が出そうだった。

(…バレバレじゃないか(笑))

もとからそのつもりだ。
用意していた台詞を口に出した。

「俺たち、付き合うことにしました」

お父さんと母の顔がパーッと輝いた。

「おお!そうかぁ、そうかぁ」

お父さんがはしゃいでいる。

「よかったねぇ、よかったねぇ」

母がティッシュを鷲掴みにして顔を拭っていた。

恵子ちゃんは恥ずかしそうに湯呑みを弄んでいた。

719 名前:1 ◆6uSZBGBxi 投稿日:2006/04/29(土) 16:24:37
翌朝早くに恵子ちゃんは家へと帰っていった。
お父さんの車を借りて送るつもりだったのだが、

「午後からお友達の結婚式でしょ?
 それまで休んでて。昨日は遅くまで起きてたし」

という恵子ちゃんの言葉に甘えさせてもらうことにした。

彼女が帰った後、恵子ちゃんの実家に電話を入れた。
恵子ちゃんの母・浩美さんが出た。

「すみません。昨晩は恵子ちゃんを連れまわしてしまって」
「いいええ。健吾君なら安心。また誘ってあげてね」

安心…か。

(早いうちに恵子ちゃんの両親にも挨拶しなきゃな)

少しも気は重くはならず、むしろその日を焦がれた。

720 名前:1 ◆6uSZBGBxi 投稿日:2006/04/29(土) 16:25:23
昼前。
式から参列することになっていたので、早めに式場へと向かった。
郊外の大きなレストランが式場だった。
レストランウェディングというやつだ。
東京などでは珍しくないが、まだまだこの街では目新しい。

控え室で待っていると、友枝が顔を見せた。
俺の姿を認めるや、小走りに駆け寄ってくる。

「おおおつかさぁぁぁん」

予想を裏切らず、友枝はガチガチに緊張していた。
真夏とはいえ、空調のきいた室内なのに、燕尾服の襟元が汗でびっしょりだ。

「だいじょうぶかぁ?」
「気持ち悪いです。吐くかも」
「緊張してるだけだよ。しっかりせい(笑)」
「ダメです。吐いてきます」

そそくさと友枝が手洗いへと消えた。

どうやら式に参列するのは新郎新婦の友人がメインのようで、
会社関係は俺と上司だけだった。
上司と話しているのも飽きた俺は、式場内を当て所もなくうろついた。

721 名前:1 ◆6uSZBGBxi 投稿日:2006/04/29(土) 16:26:27
一際賑わっている部屋があった。
覗いてみると、女友達に囲まれている芽衣子さんの姿があった。

純白のウェディングドレスが、窓から差し込む陽光にやわらかく包まれていた。

美しい。

この姿を見て、ため息の出ないヤツなどいないだろう。

見惚れていたら、芽衣子さんも俺の姿に気づいた。
何か言いたげに、首を伸ばしている。
近くに行きたかったが、
デジカメや携帯を手に群がる女性たちに気圧され、
(また後で)
と手を振り、部屋を出た。

廊下で友枝と再会した。
文字通りスッキリとした顔だった。

「大塚さん!芽衣子さん、もう見ました?」
「うん」
「綺麗でした?綺麗でした?俺、まだ見てないんです」

軽~く、友枝の頭をひっぱたいた。

「ああっ、セットが!セットが!なにするんスか!?」
「さっさと行け(笑)」
芽衣子さんの部屋の方向に、友枝をドンと押してやった。

やっぱりというか、式の間中、ずっと友枝は泣いていた。
芽衣子さんはこれ以上ないくらいやさしい顔で、友枝の顔にハンカチを
宛がっていた。
ふたりの姿に、参列者から微笑みがもれた。

(でも…俺も泣いちゃうかもしれないな)

ブーケを投げる芽衣子さんの姿に、未来をダブらせた。

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722 名前:1 ◆6uSZBGBxi 投稿日:2006/04/29(土) 16:27:28
2次会は街中のレストランバーで行われた。
披露宴から合流した同僚たちと、友枝を囲み、冷やかす。
いまだ興奮冷め遣らぬ体の友枝だったが、
酒と時間がいつもの彼を呼び覚ましていった。

「大塚さぁん、今日は何の日か知ってますう?」

しな垂れかかっていた友枝が顔を近づけてきた。

「お前が裏切り者になった日(笑)」
「なんスか裏切り者って!大塚さんもさっさと独身にオサラバしなきゃダメっスよ」
「わかってるよぉ。早くお前のお仲間になりた~い(笑)」
「んふっふっふ」
「なんだぁ?気色わりーな」
「だいじょーぶ。大塚さんも結婚できます」
「他人事だと思って(笑)」
「今日はね、大安じゃないんスよ」
「そーなの?…でも、だから?」
「友引っス」

友枝が俺の肩をバンバン叩いた。

「友引に結婚式すると、来てくれた人も結婚できるんですって。
 感謝してくださいよう!
 大塚さんのために、わざわざ大安避けて今日にしたんスからぁ」
「そっか。ありがとな」
「てことで、今日はがんばってください!芽衣子さんの友達いっぱいきてるんスから」

友枝。
もう、がんばらなくてもいいんだぜ、俺。

723 名前:1 ◆6uSZBGBxi 投稿日:2006/04/29(土) 16:28:36
やがて友枝が友人たちと余興を披露し始めた頃、
友人や同僚から解放された芽衣子さんが俺のもとへとやってきた。

「だいじょうぶ?疲れたんじゃない?」
「うん、だいじょうぶ。健吾君、今日は本当にありがとう」
「いやいや。…あ。こっちこそ、ありがと(笑)」
「え?」
「わざわざ“友引”を選んでくれたんだってね。聞いたよ(笑)」
「ああ(笑)すっごく彼こだわってたの、友引に。
 『縁起でもかつがないと大塚さんは結婚できない!』って(笑)」
「失礼な(笑)」
「ねぇ(笑)」

友枝を見、ついで芽衣子さんを見た。

「…いいヤツだよな」
「でしょ?」

芽衣子さんのノロケがうれしかった。

「健吾君、これ…」

芽衣子さんが小さな紙包みを差し出した。
中には黄色い花が一輪入っていた。

「ブーケに使った花。メランポジウムっていうの」

芽衣子さんが花をやさしくつまみ、胸のポケットチーフにそっと挿してくれた。

「健吾君にあげたかったんだ」

“友引”と“メランポジウム”

ふたつの想いに応えたいと思った。

「芽衣子さん。
 俺もねぇ…芽衣子さんに招待状を送れると思う。
 まだまだ先の話になると思うけど…」

口をついて出た自分の言葉に照れ、俯いてしまった。
芽衣子さんの声が1オクターブ高くなった。

「ホントに!?…じゃあ…なのね?」
「うん」
「…よかったぁ…」

ウンウンと、芽衣子さんは何度も頷いていた。
お互いに、おめでとうと言い合った。

724 名前:1 ◆6uSZBGBxi 投稿日:2006/04/29(土) 16:29:33
3次会は辞退した。

腕に絡まる友枝を芽衣子さんに押し付け、熱帯夜の街に出る。
時刻は8時を回っていた。
今一番聞きたい声を求めて、携帯を手にとった。

「お疲れ様」

ああ、恵子ちゃんの声だ。
もう俺はメロメロだった。
更なる欲求に引火する。

「会いたい…なぁ」
「会えるよ」

事も無げに恵子ちゃんが言った。

「今ね、健吾君の近くにいるの。友達と会ってたんだ。今、別れたから…」
「すぐ来て!今来て!早く来て!」

電話の向こうで恵子ちゃんが爆笑していた。

「会いたい」と言えることに感動した。

(“言える”関係になったんだ)

改めて昨夜の喜びを反芻した。

725 名前:1 ◆6uSZBGBxi 投稿日:2006/04/29(土) 16:30:27
指定した喫茶店には恵子ちゃんが先に到着していた。
奥の席に座る恵子ちゃんに近づいていくと、自然に目が合った。
お互いの顔がほころぶ。

俺はどうしちまったのか。
十代の時のような、ふわふわとした感覚。
口にするのも恥ずかしい言葉が頭に浮かぶ。

ときめき。

落ち着いて、冷静に、衝動を抑えながら、恵子ちゃんの向かいに座った。

「お疲れ様!」

満面の笑みで俺を迎えてくれた恵子ちゃんの目線が、俺の顔から胸へと移動した。

「そのお花、最初から差して行ったの?」
「ん?ああ、違う違う(笑)もらったんだ、結婚式で」
「ああ、そっか。なるほど(笑)」
「ガラじゃないなって、思ったんだろ?(笑)」
「うん(笑)」
「(笑)メランポジウムって言ってたかな。ブーケに使った花だって」
「へぇ」
「…恵子ちゃん、これね」
「ん?」
「花嫁さんにもらったんだ」

なぜか、きちんと話しておかなくてはと思った。

「その花嫁さん、昔、俺が付き合ってた人なんだ」
「転勤の時に見送りに来てた人?」
「…憶えてた?」
「うん」

一瞬、場が凍りついたような気がして、慌てておどけた。

「や、妬ける?」

俺の馬鹿な質問に、恵子ちゃんは平然としていた。

「ううん。全然」

そして恵子ちゃんがニコリとして言った。

「だって、これからは私が健吾君のとなりにいるんだもん」

テーブルを飛び越え、恵子ちゃんに抱きつきたかった。
だが代わりに憎まれ口を言って我慢した。

「なぁんだ。つまんねーの(笑)」
「御生憎様(笑)」

726 名前:1 ◆6uSZBGBxi 投稿日:2006/04/29(土) 16:31:56
その後一時間ほど、恵子ちゃんとのおしゃべりを楽しんだ。
チラチラと時計を見出した俺に恵子ちゃんが言った。

「まだ時間だいじょぶだよ。今日、車で来たし」
「いや、二日連続で俺のせいで帰り遅くするのは…。守さんたちも心配するだろうし」

伝票を持ってレジへと向かう。
のそのそと恵子ちゃんが後に続く。
視線を感じる。
じーっと俺を見てる。
なんとかかわして外に出た。

「さて…帰ろっか」
「やだ」

間髪いれずに恵子ちゃんが遮った。
ダダをこねるなんて珍しい。いや、初めてのことだ。

「やだって…そんな(笑)」

「だって…」
「だって今日、初めてのデートなんだよ?
 恋人同士になって初めての!」

そっか。そうだった。言われてみればそうだった。

恵子ちゃんが俺を見上げていた。
その瞳の中、ネオンがくるくる廻る。

2、3メートル先、隣の雑居ビルの非常階段まで恵子ちゃんの手を引いた。
向き直り、ぎゅーっと抱きしめた。

こんちくしょーめ、可愛いなぁ!

727 名前:1 ◆6uSZBGBxi 投稿日:2006/04/29(土) 16:32:37
俺の中で、ある考えが首をもたげた。

「恵子ちゃん」
「…ん」
「やっぱり今日は帰ろう」
「………」
「その代わり」
「?」
「俺も恵子ちゃんの家に連れてって」

腕の中で俯いていた恵子ちゃんが、がばっと顔を上げた。

「んえっ!?」

その滑稽な声と表情に、腹を抱えて笑ってしまった。

「なに笑ってんのっ!?…ていうか、なに言ってんの!?」

目頭と痛む腹を押さえ、動揺する恵子ちゃんをもう一度抱きしめた。

「ちゃんとね…守さんたちに挨拶しときたいんだ。
 お付き合いさせてもらってます、って」
「えっ!?いいよぉ、そんなの(笑)」
「まだ早い?」
「ううん、早いとかじゃなくて…。
 ウチの親、そんなに形式張ってないから、だいじょうぶだよ?」
「俺がね、ちゃんとしときたいんだ」

我ながら相変わらずアタマのカタイ奴だと思ったけれど、
ほんの一拍の後、恵子ちゃんが頷いてくれた。

728 名前:1 ◆6uSZBGBxi 投稿日:2006/04/29(土) 16:33:30
恵子ちゃんの家までは高速で40分程度の道のり。

ふと車窓を流れる街灯を見送りながら、
俺は自分に起こっている変化に気づいた。

なんだか恵子ちゃんとの会話に熱が入らない。
会話がブツリブツリと途切れる。
そのうち、押し黙ってしまった。

この緊張はなんだ?

まるで、結婚の挨拶に行く時のような…。

馬鹿な。
そんな大仰なものじゃないだろうに。

何度も自分に言い聞かせたが、
一度意識した心が、頭の命令に従うはずもなかった。

729 名前:1 ◆6uSZBGBxi 投稿日:2006/04/29(土) 16:34:29
「はい。着きました、と」

エンジンを止めた恵子ちゃんが、俺をまじまじと見つめている。
右顔面にその視線を感じてはいたが、俺は彼女に向き直ることも出来ず、
フロントウインドウに熱い視線を投げ続けた。

「だいじょうぶ?」

看破されていることにたじろぎ、うろたえ、虚勢をはった。

「な、なにが!?…さ、さあ、行こう!」

恵子ちゃんに一瞥もくれず、玄関へとまっすぐ進んだ。

しかし…扉を開けられない。チャイムに手が伸びない。

恵子ちゃんが一歩後ろで俺の様子を見ていた。
振り向き、懇願した。

「…ごめん、開けてぇ」
恵子ちゃんが、手で口を押さえながら笑いをかみ殺している。
彼女の気が済むまで俺は待った。

ようやく笑いを終わらせてくれた恵子ちゃんが、
ゴホンとひとつ咳払いをして扉を開けた。
緊張復活。

「ただいま~」

出迎えたのは浩美さんだった。

「あら、健吾君!?恵子を送ってくれたの?」

「い、いえっ、運転してたのは恵子ちゃんで、あの、その」
「とにかくあがって」
もう堪えられないとばかりに恵子ちゃんが吹いた。
ちょっと恵子ちゃんが小憎らしくなった。

居間に通され、茶を出された。
石像のように固まっている俺を見て、相変わらず恵子ちゃんは肩を震わせている。
浩美さんが台所に行った隙に、軽く恵子ちゃんの首を絞めてやった。
またも恵子ちゃんが吹き出した。

730 名前:1 ◆6uSZBGBxi 投稿日:2006/04/29(土) 16:35:36
そこへ、風呂上りの守さんが姿を現した。

「おお、健吾君!よく来たよく来た!」
「す、すみません、またこんな遅くまで恵子ちゃんを引っ張りまわしてしまい…」
「うんうん。これからも誘ってやってね」
「は、はい。もちろんです…」

沈黙には到底耐えられそうにない。
俺は矢継ぎ早に言葉を続けた。

「それで…あ、あの俺、
 恵子ちゃんとお付き合いさせていただきたくて…今日…来ました」

伏せていた目を恐る恐る上げ、守さんと浩美さんを見た。
ふたりともキョトンとしていた。

「え…いや、ずっと前から付き合ってたんじゃないの?」

守さんの言葉に驚いた。口から何かが出ちゃうんじゃないかと思った。

「いやぁ、てっきりそうなんじゃないかと思ってたんだけど。
 でもふたりの口からちゃんと聞くまでは、余計な口は挟まないようにしようって、
 私ら話してたんだよ」
「え…いえ、正式には昨日からで…」
「ああ、そう!そうかぁ、そうなのかぁ」

守さんと浩美さんが微笑みを交わしていた。

「これからもよろしくね、健吾君」

すぐには頭の整理がつかず、恵子ちゃんを見た。
あんぐりと恵子ちゃんは口を開け、呆けていた。
俺の視線に気づき、恵子ちゃんも俺を見る。
ふたりの口に笑みが浮かび、やがて大笑いした。

(やった!やった!やった!)

ひとりだったら、踊り狂っていたと思う。

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731 名前:1 ◆6uSZBGBxi 投稿日:2006/04/29(土) 16:36:37
守さんも浩美さんもしきりに泊まることを勧めてくれたが、丁重にお断りした。
かろうじて電車もあったし、なにより『厚かましいヤツ』と思われたくなかった。
守さんたちがそんな人たちではないことはよくわかっていたが、
少しでも良い印象を与えたかったのだ。
相変わらず些細なことを気にするヤツだった。

再び恵子ちゃんの車に乗り、駅に向かう。
車が走り出すと同時に、ふたりとも口を揃えて言った。

「…びっくりしたねぇ」

また笑い合った。

落ち着き、余裕を取り戻した頭が考えた。

(あのまま…“結婚を前提に”って言っても、よかったんじゃないだろうか?)

…いやいや、いくらなんでもそれはまだ早いな。
恵子ちゃんの気持ちもあるし。

心の中でかぶりを振っていたら、恵子ちゃんがまた俺の心を見透かした。

「なんだか…結婚の挨拶みたいだったねぇ(笑)」

驚き、恵子ちゃんを見る。

俺の視線に照れたのか、
自分の言ったことに照れたのか、
恵子ちゃんはあわてて顔を右ななめ前方へと向けた。

そのさまに俺までも照れてしまい、俺も左ななめ前に顔を向けた。

732 名前:1 ◆6uSZBGBxi 投稿日:2006/04/29(土) 16:37:43
倦怠期のカップルのように、互いに別の方向を眺めるふたり。

しばし間をおき、振り絞る。

「でも……いつか、…いや………いずれは…」

そうなったらいいなぁ…と、言葉を続けようとしたが、

「ま、まぁ、先のことはわからないし…
 …恵子ちゃんも…恵子ちゃんが…よければ…」

歯切れの悪い言葉が続く。
だが恵子ちゃんの一言が、終止符を打った。

「早く結婚してくれ(笑)」
首がねじ切れるほどの勢いで恵子ちゃんを見た。
彼女は相変わらず明後日の方向を向いている。

「ほ、ほら、私も若くないし…もうすぐ35歳だし…
 あ、ほら35って、四捨五入すると40なんだよぉ…だから…だから…」

慌てて取り繕った言葉に、恵子ちゃんの照れが見えた。

こみあげる、今日、何度目かわからない高揚感。

「恵子ちゃん、車止めて」

なぜ?とも聞かず、言われるまま恵子ちゃんは車を路肩へと止めた。

733 名前:1 ◆6uSZBGBxi 投稿日:2006/04/29(土) 16:38:29
止まるや否や、
いまだにそっぽを向いている恵子ちゃんの顎に、そっと手を添えた。

くるりと彼女が俺に向いた。

刹那。

彼女のくちびるは俺のものに。
俺のくちびるは彼女のものになった。

734 名前:1 ◆6uSZBGBxi 投稿日:2006/04/29(土) 16:39:20
ゆっくりと、長く。

呼吸など無ければいい。

そうは思ったが、限界もある。
磁石を引き剥がすかのように離れた。

彼女の口から吐息がもれた。

たまらず、またくちびるを寄せた。

…結局、3回それを繰り返し、4回目にはふたりで笑い出した。

「俺って、しつこいなぁ(笑)」
「私も…しつこいよ」

5回目は恵子ちゃんのほうからだった。

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