127 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/27(金) 01:36:33.47 ID:evTGdIoto
* * *
勇者「なかなか吸血鬼来ないな」
狩人「早く来てほしい」
神父「大体1,2週間に1回のペースで襲撃してくるので、もうそろそろだと思うんですよ」
勇者「吸血鬼って一体どんな連中なんですか?鬼族の中でも知性が高い魔族だと聞いてますが」
神父「知性はあまりないですね。言葉も話しませんし、ただ人を見たら襲いかかってくるだけです」
勇者「……?おかしいな。本当に吸血鬼なのかな」
勇者「外見はどういう……」
ガランガランガラン
騎士「奴らが現れたぞー!森から一斉に下りてくる!!迎え討てー!」
がやがやがや がやがやがや
狩人「……! きた……」サッ
神父「おっときましたね。では私も戦わなくては」チャ
勇者「神父さんも戦うんですか?」
神父「勿論ですよ。これでも結構鍛えてるんです!!ほらっ見てください!この上腕二等筋!! さあ行きますよ勇者様!狩人様!」
勇者「あれ?この修道院ってもしかして肉体派ばっかり?」
狩人「もたもたしてると置いてくです、勇者」
勇者「あ、うん、今行く……」
128 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/27(金) 01:37:59.73 ID:evTGdIoto
ズバッ バキッ ゴスッ
騎士「はぁッ せいッ! 来たな魔族め!返り討ちにしてくれる!」
モブ僧侶A「うおおおお!援護しますぞ騎士殿ー!」バキッ
騎士「え、えええっ!? なに前線でてきてんですか!? できれば後方で回復魔法でサポートしてほしいのですけども」
神父「フンッ!! さあ騎士様、背中は私めがお守りしますぞっ!!」ブンッ
騎士「いややる気満々ですか……なんだここの修道院……」
吸血鬼「グァアー アァー……」
僧侶「また来たのか。こりねえ奴らだな」ゴシャ
僧侶「てめーーーら自分がなにしでかしたのか分かってんだrrrろぉな!!アァン!?冥府でその罪償えチクショウ!!」
狩人「……たくさん……」バシュバシュバシュ
勇者「あれが吸血鬼か。すごい数だな。でも吸血鬼っていうよりは……」
勇者「…………まあ……気のせいだろう。僕も加勢しなくちゃ」
129 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/27(金) 01:40:08.23 ID:evTGdIoto
騎士B「数が多い、とにかく囲まれぬよう気をつけろ!」
神父「今晩は一段とまあ大勢でいらっしゃいましたねえ!全く嫌になりますよ!」
騎士C「副団長はまだか!?」
騎士A「どんどん山から湧いてくるな……一体どこに潜んでいたんだ?しかしここを突破されたら向こうには町があるんだ、なんとか全部殺せ!」
騎士B「…………長期戦になりそうだな、――おうわっ?」
バチバチバチバチッ ドォォーーーーン!
騎士C「なんだっ!?」
神父「おお……!これが……」
騎士B「勇者殿か。すっげぇな、一気に10体も消し炭だ。俺たちも負けてらんねぇな」ズバッ
騎士A「これなら思ったより早く終わりそうだな!ふう、どうなることかと思ったぜ」
神父「まだ一息つくには早いですぞ!」バキッ
勇者「あれっ……吸血鬼って不死身じゃないのか? 起き上がってこない」
狩人「……」コク
勇者「意外と早く終わりそうだけど……」
勇者(なんでだろう、嫌な予感がするな)
ザワ……ザワザワザワ
狩人「…………!!」
勇者「狩人?」
狩人「後ろ!」
勇者「え?」
130 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/27(金) 01:48:10.47 ID:evTGdIoto
<吸血鬼ABCDEが襲いかかってきた!>
<吸血鬼FGHIGが襲いかかってきた!>
<吸血鬼・・・
勇者「なに!? こっちからも……!」
僧侶「なんだなんだ、挟み撃ちか?今日は珍しく知恵が効いてんじゃねーか!!」
狩人「……」
僧侶「あっちはジジ……神父と騎士の奴らがどうにかするだろ。俺はこっちに加勢するぜ」バキボキ
後輩僧侶「僕もやりますよ先輩」
僧侶「ん?狩人ちゃんどうしたんだ?俺が守るから大丈夫だ!怖がらなくて平気だって!!」
<僧侶の攻撃!吸血鬼Aにダメージを与えた!>
狩人「あっちは、……」
勇者「まさか……うそだ」
狩人「……町の方角……」
131 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/27(金) 01:49:13.35 ID:evTGdIoto
僧侶「……は」
僧侶「…………いやいや、じゃあなんだ、こいつら全員町の住人だってのか?あり得ないだろ!」
後輩僧侶「吸血鬼って、噛まれると、どうなるんでした、っけ……」
僧侶「ど……どうにもなんねーよ!馬鹿言ってる暇あるならさっさとこの化け物倒すぞ!」
勇者「…………どっちにしろ倒さないと、僕たちは全滅だ。逃げ場はない」
狩人「元はどうあれ今は怪物。やらなきゃ死ぬ」ヒュッ
僧侶「……く」
僧侶「こんなところで死んでたまるか!全員化け物だ、怪物だ、敵だ!死んじまえっ……!!」
<僧侶の攻撃!吸血鬼Cに
僧侶「…………!!」
吸血鬼C「ガァアアアッ」
僧侶「…………お……おい」
狩人「危ないっ! 退いて!」ヒュ
僧侶「てめえ、化け物、お前その十字架、どこで拾ったんだ」
僧侶「それは……あのババアの……」
僧侶「……」
僧侶「嘘だろ……!?」
132 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/27(金) 01:52:52.85 ID:evTGdIoto
勇者(じゃあやっぱりこの吸血鬼たちは本物の魔族じゃなくて、元は人間……おかしいとは思ってたけど、まさか)
勇者(…………町にはまだ……剣士がいるはずなのに……)
勇者(い、いや、副団長がそばにいてくれてるはずだ。いまは集中しないと)
僧侶「おい勇者!おいっ」
僧侶「なあお前、さっきから妙な術使ってるだろっ、こいつら全員人間に戻す魔法くらい使えるだろ!?」
勇者「……そ」
勇者「そんな方法は……」
僧侶「お前勇者なんだろ!?王様からも認められてすごいんだろ!?なあ!」
勇者「……そんな魔法はない。もうこうなったら、……殺すしか方法がないんだ」
僧侶「…………ッ」
勇者「殴って落ち着くなら殴ってくれ」
後輩僧侶「先輩!」
狩人「こんなときに喧嘩はやめて、二人とも……」
僧侶「……くそっ!」
僧侶「おい、勇者。その腰の短剣貸せ!」
<後輩僧侶の攻撃!吸血鬼Gにダメージを与えた!>
後輩僧侶「くそ、痛みを感じてないから中途半端に攻撃してもすぐ起き上がってくる」
吸血鬼「ガアアアア!」ガブ
モブ僧侶「う、うわああ!」
モブ僧侶「あ……アッ……ガ……」
後輩僧侶「へ?」
モブ僧侶「ガアアアアアア」
後輩僧侶「ぎゃああああああああ!!」
ドスッ!
後輩僧侶「あ……あ」
狩人「だから心臓を射とめないと、だめ」
後輩僧侶「は……はりひゃとう……」ガクガク
133 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/27(金) 01:54:28.03 ID:evTGdIoto
僧侶「ババア……くそ、なに吸血鬼に噛まれてんだよ。あと半世紀は生きてやるって言ってただろ」
吸血鬼C「アァァァァァァァ」
僧侶「ふざけんな、クソババア。いっつも勝手なことばっかしやがって……ふざけんなよ!
俺は生きるぞ、あんたを殺して俺は生きる……!!こんなところで死なねーぞ俺ぁ!!」
僧侶「心臓一突き……だったな。安心しろ、一瞬であの世に送ってやる」
僧侶「面合わせりゃババアとしか言えなかったけどよ……! これでも、感謝はしてたんだぜ」
僧侶「…………今までありがとよ、ばあさん」
僧侶「……」
<僧侶の攻撃!>
<吸血鬼Cを殺した。>
134 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/27(金) 02:04:23.06 ID:evTGdIoto
<勇者は雷魔法を唱えた!>
<吸血鬼JKを殺した。>
勇者(騎士団の制服を着た吸血鬼もいる。町はいまどんな状況なんだ)
勇者「……っ!?」バッ
勇者(い……いま、吸血鬼の群れに、ショートカットの、茶色の髪の、……)
勇者「み、見間違えだ。きっと。そんなはず、ない」
勇者「……」
ドクン……ドクン……ドクン……ドクン
後輩僧侶「勇者様!! 前っ!!」
勇者「……はっ……」
吸血鬼「ァア……グ」
勇者「!」
―――ズバッ!!
「呼んだ? 勇者」
勇者「……!? なっ……」
剣士「助けに来たよ」
勇者「け……んし?」
剣士「うん。私」
135 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/27(金) 02:12:54.24 ID:evTGdIoto
勇者「無事だったのか……! よ、よかった……!!」
剣士「勇者も狩人ちゃんも、無事でよかった」
女騎士「はぁはぁ……全くこの子は、勝手に一人で修道院に走っていくから肝が冷えたよ」
狩人「剣士……その剣」
剣士「もう大丈夫、私はあの時みたいに怖気づいたりしないよ。ちゃんと覚悟できたから」
女騎士「町は副団長がなんとかしてくれてる。近くの町からも応援部隊が来るみたい。
こっちは、えーと山からと町からの敵合わせて100くらい。対して人間の戦力が15……」
モブ僧侶「うわっ!か、噛まれ……あああ!!ア……アァ……ガアアアア」
女騎士「……14ね」
女騎士「結構厳しいな。せめてあっちが半分なら……」
勇者「半分……50人か……」
剣士「勇者!」ガシ
勇者「!?」
剣士「何か方法、思いついたんじゃないの?」
勇者「えっ!? いや、いま考えてたところ……だけど」
剣士「ううん、勇者は迷ってるだけだよ。勇者、50『人』って言ったけど、人じゃないよ。
自我もなにもないの、もう人だったころの記憶も痛みもないんだよ」
剣士「……楽にしてあげよう。殺すわけじゃなくて、楽にしてあげるの。だから勇者が気負う必要ないんだよ」
勇者「……」
剣士「それでも君が罪悪感を感じるなら。自分のこと人殺しだなんて思ってしまうのなら、
……私が一緒に背負ってあげるから大丈夫。全部大丈夫だよ」
勇者「……。少し見ない間に、随分男前になったね」
剣士「だって君を守るために強くなったんだもん。
勇者は世界を守ってね。私は勇者を守るから」
勇者「頼もしいな。ありがとう」
136 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/27(金) 02:15:31.62 ID:evTGdIoto
勇者「女騎士さん、僕が半分引き受ける。修道院の中に入るだけおびき寄せてくれないか。
……いや、その必要はないか」
勇者「なんだか大体僕のことを狙ってるみたいだ。一人で引きつけるから、頃合いを見て扉を閉めてくれる?」
僧侶「半分を一人でってできるわけあるか!なに言ってんだ!」
勇者「中が少し滅茶苦茶になるけど許してくれ。 じゃあ」タッ
僧侶「あいつ何する気だ……!」
剣士「勇者なら大丈夫だよ。こっちはこっちでやることやんなくっちゃ!」チャキ
* * *
ギイィィィィィ……バタン
僧侶「本当に扉閉めちまったぞ、オイ。いいのか!?いいんだよな!?」
狩人「まかせろと言ってた。だからまかせます」
僧侶「だ、大丈夫なのかよ」
137 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/27(金) 02:18:10.12 ID:evTGdIoto
女エルフ「うわあ~~、本当に一人でやる気なんだぁ、一体どうするつもりなのかな~」
女エルフ「まあこれくらいで死んだら勇者も名折れだよね。窓からこっそり覗いちゃお」
女エルフ「……水魔法?なんで水魔法?あれ、もしかして勇者って馬鹿?」
女エルフ「…………ひゃっ!?」
カッ バチバチバチバチッ!!
女エルフ「び、びっくりなんてしてないんだから。な、なななるほどね。水浸しになった床に雷魔法放って一気に全部感電させたんだ。ふ~~ん」
女エルフ「あーあ。こりゃ吸血鬼もどきは全滅ね。外にいる方ももうそろそろ全部死にそうだし」
女エルフ「遊び半分でグリフォンの実験に付き合ってたけど、もう終わりか。魔界にかえろーっと」
女エルフ「……?」
女エルフ「変なの。あの勇者。なんであんな顔してるんだろ。…………あはっ もしかして同族殺しとかで悩んでるのかな?」
女エルフ「おもしろーい! もし私が勇者を倒したらおもちゃにできるかな?魔王様許してくれるかな!」
女エルフ「知らない町の人間が死んでそんな顔するなら、仲間が全員死んじゃったときはどんな顔するのかな。楽しみ。また今度会おうねユーシャくん!!」
ヒラヒラ……
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140 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/29(日) 01:50:42.97 ID:+GGDY1HLo
* * *
橋
狩人「もうすぐつく。塔に」
勇者「いよいよか。なんだか緊張してきたな」
剣士「あれ?でも、もうすぐつくって割には塔が全然見えないよ?」
僧侶「太陽の塔は、太陽が空に昇っているときでないと観測できないのさ。
いまは夕暮れ時だから塔も消えちまってるってわけ」
剣士「へえ!不思議だね。それも神様の力ってやつなのかなあ」
僧侶「そんなのいるかどうかわっかんねーけどな。剣士ちゃんは信心深い方なんだ?」
剣士「私は神様っていると思うよ!ていうかそれ、僧侶くん、職業的にそれはアウトなんじゃあ……」
僧侶「いいのいいの」
勇者「……えーっと」
<僧侶が仲間になっていた!>
勇者「なっていたって言われてもな……」
勇者「本当によかったのかい。修道院の復興より、旅を選んで」
僧侶「いーんだよ。最初に会った時に言ったろ?仲間にしろってさ。
大体俺が行かなかったら勇者、お前っ!!ハーレムパーティじゃねえか!!そんなの絶対阻止するぞ俺は!!」
狩人「この人時々何言ってるか分からない……」
僧侶「それに……ま、仇討ちってことでな!
俺の釘ロッドで立ちはだかる敵全部血みどろにしてやっから大船に乗ったつもりでいいぜ!惚れてもいいぜ!」
剣士「こんなアグレッシブな聖職者初めて見たー!すごいね僧侶くん。いっしょにがんばろっ!」
勇者「……君は」
剣士「ん? え、今更もうついてくるなとか言わないよね?副団長さんも女騎士さんもああ言ってたじゃん!」
剣士「はい回想」
141 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/29(日) 01:51:50.34 ID:+GGDY1HLo
~~~
副団長「俺が町にいながら……被害を最小に抑えられなかったことを悔やんでも悔やみきれない……!!!!!!
勇者たちにも迷惑をかけてすまなかったな…………」
副団長「あの夜、町の外を見張っていた騎士も吸血鬼に襲われていて、町の中に奴らの侵入を許してしまった。
そのことにもっと早く俺が気づいていれば!!」
勇者「……仕方ないよ。副団長のせいじゃない。
町の様子は?」
副団長「今も急ピッチで復興が進められているところだ。俺ももう少しこっちにいることになりそうだな」
勇者「そっか」
副団長「だから剣士くんを王都に連れて行くのはもう少し後になりそうなのだが」
剣士「あ!それなら心配ないよ、私王都に行かないから。女騎士さん、お世話になりました」
女騎士「彼女強くなったから大丈夫よ、二人とも。もともと筋が良かったのね。
軽い剣もたせて、一通り剣の振り方と足さばき教えたらみるみるうちに成長したね」
剣士「そうかな? えへへ」
女騎士「大変かもしれないけど、あなたなら大丈夫。また会ったときは稽古つけてあげるね」
剣士「はい!今度こそ世紀末を目指します!」
勇者「?」
~~~
142 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/29(日) 01:53:04.15 ID:+GGDY1HLo
剣士「ほら女騎士さんからのお墨付きもあるし! 連れてって損はないよ! ね、狩人ちゃんもそう思うよね?」
狩人「年末なので30%オフでお買い得……」
剣士「いま別に年末でもなんでもないけどね! お買い得だって勇者!買わなきゃ損だよ、どうするの!?」
勇者「じゃ、じゃあ……買おうかな」
剣士「わーい!在庫処分完了しましたー!ついに勇者からも認められたよ!」
僧侶「あっははは、お前らおもしろいな。俺の割と沈んでた気持ちが結構浮上してきたぜ」
「「「……」」」
僧侶「お、おい、浮上したって言ってんだろ。そんな暗い顔するな」
勇者「そうだよね……あのおばあさん、僧侶の大切な人だったんだよね」
僧侶「うおおお!こういう空気やめて!大切な人とかそういう言い方もやめて!悪いさっきの何でもないから聞き流してくれ」
剣士「あ。それなら、あの煙草僧侶くんにあげようよ。辛いことも悲しいことも忘れられるって言ってたじゃない。
僧侶くんと狩人ちゃんって私たちより年上だよね、煙草も吸える?」
狩人「私はいらない。です」
僧侶「煙草?吸うぜ。修道院じゃこっそりとしか吸えなかったからな。ババアとか神父に見つかってエライ目にあった。
余ってるならくれよ」
勇者「えっ……でも……大丈夫かな」
僧侶「ん?なんか危ない麻薬っぽいとか思ってるのか?煙草なんて大体そんなもんだろ」シュボ
143 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/29(日) 01:55:23.66 ID:+GGDY1HLo
狩人(風上に行こうっと)スス
勇者「中毒性とか大丈夫かな」
僧侶「んだぁ?お前も吸ってみたいのか?仕方ねーなー!!これも経験だ!! ほい」
勇者「はっ!? げほげほげほっ!!」
剣士「えーっ それなら私もちょっとだけ吸ってみたい」
僧侶「剣士ちゃんはだめだ。これは大人の味だからな」
剣士「勇者と私は同い年だよ?」
僧侶「勇者は王都での2年間で薄汚れてしまったから仕方ねえんだ」
剣士「どどどどういうこと!? しゅ……酒池肉林なの!? 肉山脯林の乱痴気騒ぎなの!? バニーさんなの!?
ゆ、勇者が私の手の届かないところに行っちゃってたなんて……わああああん!!」
狩人「きたない……」
勇者「ちがっゲホゲホ!おえっ」
勇者「……」
勇者「……」
剣士「……勇者?どうしたの……?大丈夫?」
勇者「………………え、何が? ハハ……ハハハ。アハハハハハ」
剣士「勇者!? なんか目がぐるぐるしてるよ!?」
勇者「よーーーしさっさと魔王倒しに行こう!大丈夫、全部うまくいく!!いくに決まってるさ!!! ははははっはははは!」
剣士「魔王の前に塔に行かなくちゃでしょ!? ゆ、勇者なんかおかしいよ、って待ってそっち崖なんだけど!!」
勇者「平気だ。はははっ!今なら飛べる気がするんだ!!あははははは!!」
剣士「だめーっ!飛べるわけないでしょー!危ないよおおお」ズルズル
剣士「た、煙草のせいなの? あっ、狩人ちゃん!!僧侶くんは!?」
狩人「さっき飛べると言って……崖から落ちました」
剣士「いや止めたげてよーっ!」ズルズル
144 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/29(日) 01:58:03.31 ID:+GGDY1HLo
太陽の塔
銀髪男「フッ……今日も塔を守りきれたな」
金髪男「我ら三勇士の力もってすれば容易いことよ」
黒髪女「雪の国も星の国もだらしがないわ。魔族なんかに塔を制圧されてしまうなんて……」
銀髪男「ん?おやあれは? ははは!とうとう来たか。おい、勇者御一行だ。待ちかねたぜ全く」
金髪男「あんまりつっかかってやるなよ」
銀髪男「はん。しかし、なんで俺じゃなくてあいつが勇者に選ばれたのかと考えると胃がムカムカしてしまってな。
塔の警備なんかより、俺だって魔王を倒しに行きたいさ。むしろ俺のほかに誰がいる?」
黒髪女「だから、勇者様でしょ」
銀髪男「『勇者だから』っていうその一言で片づけられちまうのが悔しいのさ。
俺の方が絶対うまくやれる……」
銀髪男「……チッ」
剣士「はあー……なんとか辿りついた。……ん?」
銀髪男「おや勇者殿。随分遅いご到着でしたな。旅は如何でしたか?お怪我などされませんでしたか?」
剣士「ええと?」
銀髪男「俺たちは三勇士と呼ばれる者です。以後お見知りおきを」
銀髪男「ん?勇者殿はどうなさったのですかな?さっきから俯いて。はは、もしかして魔族と戦うのに恐れをなしましたか?
まあ無理もないが……なんとお情けないお姿か!勇者が聞いて呆れるな。大人しく俺にその名を譲っていればよかったものを!」
勇者「……あぁ?」
銀髪男「……ん?」
勇者「いまなんつった?」
銀髪男「んえ?」
145 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/29(日) 02:00:52.08 ID:+GGDY1HLo
勇者「はははははっ!あははははは!何か言った!?あーははは!!君おもしろいこと言うなぁ!! おえっ」
僧侶「んだテメーら邪魔なんだよ酒持ってこいよ銀髪チャラチャラさせやがって腹立つなーーーゲヒャハハハハ殴るぞこんちくしょー!!」
剣士「確かに今の勇者はちょっと、大分、かなり変だけど、いつもの勇者を馬鹿にしたら私は怒るよ」チャキ
狩人「敵なら射るけど……」スッ
黒髪女「な、なんて好戦的なパーティなの。血の気多すぎよ。さすがに私も戦慄したわ」
金髪男「かつてないパトスを感じるな……」
銀髪男「なんか勇者、性格変わってないか?」
金髪男「ラリってますね、完全に」
銀髪男「こいつら一体今までなにをしてきたんだ!!」
146 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/29(日) 02:01:47.70 ID:+GGDY1HLo
* * *
魔王城
妹「…………」ゴロ
妹「……寝れない」
妹「…………」
妹「やっぱり……」
~~~
妹「ね、青年さん。ひとつ聞きたいことが、あ、あるの」
青年「ん?」
妹「ま……魔族って、どう思う?」
青年「? なんだい、いきなり。魔族か……僕は会ったことないけれど、王国の兵士や騎士たちが何人も残虐に殺されたって聞いたよ。
それでもこの国はまだマシな方で、他国はもっとひどい有様らしいね」
青年「でもこの国には勇者がいる。最近王都を旅立ったらしいんだ。それに三勇士っていう凄腕の兵士もいるしね。
だから大丈夫だよ、そんなに怖がらなくても」
妹「あなたは魔族が怖い?嫌い?」
青年「そりゃあ……怖いし、好きじゃあないよ。好きになれるわけがない。そういう次元じゃないだろ?
敵だし、魔族だし……人間じゃないんだ。僕たちとは違う生き物なんだよ」
妹「そうよね」
青年「どうしたの?何故そんなことを聞くんだい」
妹「いいえ何でもないわ。ちょっと思いついただけ」
妹「……何でもないの。気にしないで」
147 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/29(日) 02:03:25.25 ID:+GGDY1HLo
妹(私は一体どんな答えを期待してたのかしら)
妹(聞かなくても分かってたはずなのに)
妹(……。兄さんの言う通り……もうあの村に行くのは……やめよう。
人への恋なんて、不毛だわ。このまま続けて、いつか私が魔王の娘だと彼に知られたら)
妹(…………ここでやめておくのが正解なんだ。どうせ叶いっこないんだもの……
私には魔族と人の戦争を止められるような強い力はない。諦めることしかできないのよ)
妹(もう村へは行かない。…………寝ましょう。目を強くつぶって何も考えなければ、すぐ眠れるはず)
―――――――――――
――――――――
―――――
ヒソヒソ ヒソヒソ
「あれがマオウ?」
「目が赤いっ!ほんものだっ」
「しっ、声がでかいって。見つかるぞ」
「ね、ねえー……やめようよぉ……怒られるよぉ……」
「ばか!おとなたちはマオウの邪悪な魔法にあやつられてるだけかもしれないだろ!
この村を守れるのは俺たちだけかもしれないんだ」
「でもぉ」
「…………」クル
「!! こ、こっち見た……!!」
「どっどうする?見つかった?」
「……ガオーっ」
「ぎゃああああああああああああああっ!!!」
「食われるーーーーーーーー!!!!逃げろおおおおおおおお!!!!」
「ひいいいいいいいいいいい」
?
なんだろう。 ……あ。夢ね。私、やっと眠りにつけたんだ。
魔王はお父様のはずだけれど、あの赤い目の女の子だれだろう。
私にすごく似ているけど別人だわ。
……?
148 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/29(日) 02:06:01.25 ID:+GGDY1HLo
「わあああああああんっ 待ってええええっ あ!!」
「うわっ なにコケてんだ!早く走れ!食われるぞ!!」
「うえぇぇぇぇん たすけてぇぇぇぇ」
「……ん。しまった、悪ふざけしすぎたな。大丈夫か」
「ひぃ!!」
「怪我はしてないな。そんなに怯えなくていい。泣くな。えーと。ん。そうだ、手を出して」
「ひぐっ うっ う、うっ…………えっ? お……お菓子がいっぱい降ってくる……。
すごいっ!本物?」
「本物だぞ」
「こ、これ、魔法!?」
「うん、魔法」
「お、おいっ!だまされるなっ!マオウだぞ!毒入りかもしれないぞ!」
「おいしい……!!」
「こら!聞けよ!」
「そこの君たちも、食べないのだったら私が食べてしまうぞ。もぐもぐもぐ」
「うわあすごい勢いでお菓子食ってるぞ マオウの奴!」
「も、もっとほかの魔法できる……?」
「ああ、じゃあ虹をつくってあげようか。これは簡単だからすぐできるぞ。ほら」
「うわあーーーーーっ」
「……な、なんだよ。お前だけずるいぞ!俺たちにも見せろよーーっ!」
「すげーっ それどうやんの!? 僕にもできる!?」
149 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/29(日) 02:07:00.97 ID:+GGDY1HLo
「なんだ?」
「……ずいぶん楽しそうなことやってるな、魔王」
「あ、」
「勇者くん」
150 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/29(日) 02:09:40.84 ID:+GGDY1HLo
「ユーシャだ! ユーシャ、また剣教えてよ!」
「今度な、今度」
「ユーシャもさ、魔法って使えるんだろ?ユーシャも虹つくれんの?」
「無理無理。俺はドカーンとかズバーンとかそういう魔法しかできない」
「さいのう、ないんだな」
「うるせえよ!」
「マオウに……お、お菓子……いっぱいもらった……」
「よかったな。ちゃんとあとでお礼言うんだぞ」
「……」
「? なんだ、なんで笑ってるんだよ?魔王」
「笑ってたか? いや。それ、懐かしいなと思って。ふふ」
「それ?」
「勇者くんは子どもと話す時に、必ず膝を折って目線を合わせるだろう。
私が小さくて君が大きかったときに、それがすごく嬉しかったから。いま思い出したのだ」
「ええっ? そんなに頻繁にやってないぞ」
「癖は自分では分からないものだ」
「……」
「あーーユーシャなんでか知らないけど照れてるーーーー」
「照れてねーよ!お前らは静かにしてろ!」
151 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/29(日) 02:13:12.52 ID:+GGDY1HLo
「……あ、あの。マオウ……さん」クイ
「ん?」
「お菓子ありがとう……虹も……」
「どういたしまして。こちらこそ脅かして悪かった」
「あの、あの!」
「?」
「僕が大きくなったら…… おおお、お嫁さんになってくれますか!?」
「えっ……?」
「なっ!?」
「うおお、いっつも泣き虫のこいつがプロポーズしたっ」
「やるなぁ!」
「や…………」
「やめとけ少年!!
こいつにはめちゃくちゃ怖いお兄さんがいて、ちょっと魔王と二人っきりで話そうものなら包丁研ぎながら睨んでくるぞ!
あと厄介なお姉さんもいて、会う度ヘタレだなんだとからかってくるし、愛の妙薬とか怪しげな薬ポケットに忍ばせようとするし!」
「と、とにかくやめとけっ!もっといい出会いがこの先待ってるはずだから!」
「ひえええっ!?」
「勇者くんは一体どうしたというのだ」
「ユーシャって大人げねーのな……」
「なー」
152 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/29(日) 02:15:13.24 ID:+GGDY1HLo
勇者と魔王。
……これは…………
これは未来の……………………
妹「…………」パチ
妹(そう。そうなのね)
妹(……そう……)
妹(そっか……………………)
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154 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/31(火) 07:30:16.22 ID:wqbpIV35o
* * *
地下 研究室
グチャッ
チョキチョキ バチン グチュ
グリフォン「…………っふー」
部下「博士。女エルフさんから伝言です。話があるので今すぐ上にあがってきてほしいとのこと」
グリフォン「え?今忙しいんだけど。話があるなら彼女にここに下りてきてほしいって伝えてくれる?」
部下「いや……来たくないそうです。ちなみに、上に来る前にその全身の血は洗い流してこいと」
グリフォン「……ふーむ」
* * *
グリフォン「やあ。何か用かい」
女エルフ「…………くさい!それ以上近寄らないで。死臭がプンプンする。血は洗い流してきてって言ったじゃないですかー!」
グリフォン「言われた通り洗い流してきたよ。失礼だな」
女エルフ「うそぉ、こんなに離れててもすごく匂うのに。ああ森の清らかな空気が愛しいっ
まーったく、よくあんなじめっとした地下室にこもって、人間の体いじくりまわせますね。今日はなにしてたんですか?博士」
グリフォン「人間の子どもと大人の五感比較実験と、あとはいつも通り解剖三昧さ。
解剖はいつでも楽しいけれど、ああいう実験はあんまり好きじゃないな……やかましくってね」
女エルフ「うえぇ。聞いてるだけで気分悪い。しかも子どもって。さすがの私もドン引きよ」
グリフォン「残酷って思う? でも、こんなのあっち側だってやってることさ! 国ぐるみで生態研究ってね」
グリフォン「星の国には魔物博物館なんてものもあったんだよ。館内に飾られる魔族のミイラやホルマリン漬けの数々……腹立つね。
なら僕たちだってつくってやろうじゃないか、人間博物館。
そのために僕は身を粉にして日夜働いているんだ、少しは労ってくれたまえ」
女エルフ「あはははっ、そんなの建前でしょ?本当はただ楽しいからやってるくせに」
グリフォン「全くひどい言われようだな……」
155 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/31(火) 07:33:27.37 ID:wqbpIV35o
グリフォン「誤解されたら困るから言うけど、ただ人間の体を切り刻むから楽しいわけじゃないよ。これはね、愛なのさ。僕は彼らの全てを知りたいんだ」
グリフォン「体を暴いて暴いて暴いて暴いて暴いて、皮膚を切り取って、脂肪を取り除いて、骨を砕いて、血管を抜いて、内臓を裏返して、
そうして初めて本当の彼らを知ることができると思うんだ。
心には快楽なんて一滴も湧いてこないよ、あるのは安堵と感謝と無邪気な喜びだけだ。また一歩彼らに近寄ることができたってね!」
グリフォン「だから僕をマッドサイエンティストとか異常者だとか思わないでくれ。僕はそうだ博愛主義者だ!
種族を越え、相手がどんな生物なのか理解するために方法を模索する……これを愛と呼ばずして何と呼ぶんだ?」
女エルフ「はぁ……。安心しなよ、博士は十分マッドだし異常者だよ」
グリフォン「ちゃんと話聞いてくれよ」
グリフォン「まあいいや。君が話を聞かないのは今にはじまったことじゃない……で、君はなんのために来たの?」
女エルフ「ああ、あのね。吸血鬼の眷属たち……吸血鬼もどきね、全部死んじゃったよ」
グリフォン「あれ。意外だな。学習能力の片鱗も僅かに見られたのに、そんなあっさりいっちゃった?数もどんどん増えてたんだよね。
まあ恐ろしく馬鹿だったからなあ。魔力を持っていない人間を眷属にしても、あんなものか。繁殖スピードだけはなかなかよかったけど」
女エルフ「町に辿りついたところまではよかったんだけどね。王都の騎士団副団長と……ふっふっふ、だれだと思う?」
グリフォン「?」
女エルフ「『勇者』だよ。勇者がいたの。あの伝説上の勇者」
グリフォン「本当に?」
女エルフ「ほんとほんと! 私目の前で見ちゃった! さっき魔王様にも伝えてきたところ」
グリフォン「へえ、いたんだ」
女エルフ「……あれ?なんか意外と反応薄いですね。もっと卒倒するくらい喜ぶかと思ったのに。あの伝説の勇者を解剖できるチャンス!って」
グリフォン「僕は戦闘向きじゃないし、部下に頼むのも人間とは言え勇者じゃ荷が重いだろうし……
四天王や王子が生け捕りにするか、死体を持ち帰ってきてくれれば一番なんだけど……
まあみんな好戦的だから、そんなこと考えもしないだろうな」
女エルフ「もう弱気だなあ!もっとガツガツ行きましょうよ!私は勇者を倒すつもりですよ。
それで一気に昇進、ゆくゆくは四天王に!!……なれたらいいなーって。 いひひひ」
女エルフ「個人的に勇者に興味もあるし、エルフ族のホープの私が久しぶりに頑張っちゃいますよ。いひひひ」
グリフォン「え……でも君、結界通り抜けて王国に入れるくらい弱…………」
女エルフ「そんなことはね、全然問題じゃないのよ、博士。つまりどうでもいいの。大事なのはやる気よ、やる気」
グリフォン「…………ふーむ」
156 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/31(火) 07:36:59.81 ID:wqbpIV35o
* * *
朝
剣士「うっわー……」
狩人「……」
剣士「塔って……大きいんだねー……」
狩人「……」
勇者「……」
僧侶「……」
剣士「……なんでみんな狩人ちゃんの真似してるの?」
勇者「いや真似してるわけじゃなくて。僕たちはいつの間に塔に辿りついたんだ?ぜんっぜん記憶にないんだけど」
僧侶「俺もあの煙草を吸ってから何にも覚えてねえ……、長い夢を見ていた気分だ。崖から落ちる夢見たぜ」
狩人「それは現実です」
僧侶「まじか。よく生きてたな俺。 か、狩人ちゃんが助けてくれたのか?ありがとうな!君は優しいな!」
剣士「狩人ちゃんはむしろ見殺しに…… あ、ううん。なんでもないよ!」
勇者「僕はなんかとんでもない醜態を晒した気がするけど……それも現実かな。うわあ。うわあー」
剣士「もう全部夢にしよう!僧侶くんが崖から落ちたことも勇者がラリったことも全部夢だねワーイ!さあ塔に上ろう!」
157 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/31(火) 07:38:45.29 ID:wqbpIV35o
塔 最下層
勇者「この最上階にいる女神様に会うために、塔を上っていかなければいけないわけだけど、一体この塔は何階まであるんだろう」
僧侶「本当にいるのか?女神様なんて。外から見ただけでも相当高い塔だぞ……それを一から上るのか、だるいな」
僧侶「でも女神様がいるとしたら、神なんて言うくらいだからさぞかしきれいなんだろうな。そう考えるとやる気がでてくるな。
よっしゃああ!!頑張ろうぜ!!剣士ちゃんも狩人ちゃんも疲れたら俺がおぶってあげるからな! あ、勇者は歩けよ」
狩人「……」
剣士「狩人ちゃん、どうかしたの?」
狩人「……なんでもない。です。さっさと行きましょう」スタスタ
勇者「そうだね。下手したら塔の中で夜を明かすことになってしまうかもしれない。急ごう。
……ん?あれ?この塔って昼しか存在しないんだよね。夜になっても僕たちが中にいたらどうなるんだろう」
剣士「……」
勇者「……」
剣士「い、い、急ごっか、勇者!!」ダッ
勇者「そ、そうだね!」ダッ
158 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/31(火) 07:39:58.37 ID:wqbpIV35o
19階
ビュッ
剣士「わっ、と! またトラップ」
勇者「あちこちに落ちてる白い骨は以前この塔に上ろうとした人たちなんだろうね……
僕たちもその仲間入りしないようにしないと」
僧侶「そうやすやすと神様に会いにこられちゃ困るんだろうな」
剣士「ええっ……やっぱりアレ、骨なの……? うう、気づかないフリしてたのに……」
狩人「……」ブシュ
剣士「え?ブシュッてなんの音?――かかかかかかっ狩人ちゃーーーーーん!?!? 腕が血まみれだよーーーーー!?」
勇者「なんで!? まさかさっきのトラップの矢が? そんな無言で矢を抜かないでくれ!大丈夫?」
僧侶「ウオオオオオオオッ俺の全魔力を使って傷をいやしてみせるっ!!!」
勇者「いや全部使わなくてもちゃんと治せるだろう、保存しておいてくれ僧侶」
159 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/31(火) 12:33:11.95 ID:wqbpIV35o
狩人「……ありがとう」
勇者「いつもなら真っ先に避けてるはずの君が…… どうしたの?大丈夫?」
剣士「もしかして具合悪いのっ!? 大変、下山しなくちゃっ」
僧侶「下山?」
狩人「いえ……具合は悪くないです。ただ……ちょっと……うぅ……少し恥ずかしい……のですけど、言うの」
僧侶「えっ? ま、まさか……?」トゥンク
勇者「僧侶が考えているようなことじゃないってことだけは分かる」
狩人「…………わ、笑わないですか」
剣士「笑わないよ、もちろん」
狩人「……落ち着きません。……上も下も右の左も壁に囲まれてるところは……うう、すいません」
勇者「ああ、そうだったのか。確かにこの塔は窓もないしね」
僧侶「分かるぜ狩人ちゃん。ここすっげえ息つまるよなぁ」
剣士「大丈夫だよ。怖いなら、ほら、手握ってあげる」ギュ
狩人「えっ……!? でも」
僧侶「じゃあ俺も」
勇者「僧侶、前。落とし穴だよ」
ウワアーッ
勇者「どうしよう?本当に無理なら塔を下りようか?」
狩人「だ、大丈夫……大丈夫です、私は。迷惑はかけない。上りましょう、このまま」
勇者「迷惑だなんて誰も思ってないよ。無理しなくていいからね」
剣士「そうだよ、狩人ちゃん」
160 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/31(火) 12:33:41.21 ID:wqbpIV35o
カチャ。
カチャ。
カチャッ。
カチャ。
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161 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/31(火) 12:34:30.17 ID:wqbpIV35o
狩人「は……はい」
狩人「……ありがとう……」
勇者「よし、早く女神様に会って塔を下りてしまおう」
剣士「うん!」
30階
僧侶「はあーっ 最上階はまだかーっ」
勇者「遠い道のりだなぁ。 ん? この階は……上の階に続く階段がないな。あるのは物々しい扉だけ」
狩人「なにか、書いてある」
剣士「変な字」
勇者「『我は力を司るもの。上に進みたくば汝の力を示せ。』だって」
僧侶「なんだ、扉ブッ壊せばいいのか?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……
狩人「あれは……?」
<神の左手と右手が襲いかかってきた!>
勇者「うわあ……」
162 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/31(火) 12:36:20.39 ID:wqbpIV35o
―――そのころ―――
銀髪男「勇者たちは塔に上ったか。……フン、神になど会えるものか、あんな妙ちくりんな4人組が」
黒髪女「もう、その話ばっかりね。彼の仲間になればよかったのに、そんなグチグチ言うなら!」
銀髪男「誰がなるかっ! 大体、俺が『勇者』でないと意味がないんだよっ!」
金髪男「おいっ!! ここにいたのか、さっさと一緒に来い!!」
銀髪男「なんだ? なにかあったのか?」
金髪男「大ありだ。またあの吸血鬼だ、あいつが仲間ひきつれて海の向こうから飛んでくるのが見えた!
今回も俺たち3人で撃退するぞ! 海岸へ急げ!」
銀髪男「またか、あいつ! 諦めの悪い奴だ!」
黒髪女「何度来ても無駄だって言うのに」
ザッ
163 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/31(火) 12:36:46.72 ID:wqbpIV35o
カチャ。
カチャッ。
カチャ。
カチャッ。
164 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/31(火) 12:38:40.33 ID:wqbpIV35o
吸血鬼「ハァ……身が灼ける……溶ける。今日も快晴だなぁ、沈めよ太陽……つーか俺夜行性だし……眠いし……」
兄「大丈夫か。にんにくの素揚げ食べるか」
吸血鬼「ええ~~っ!? お、王子、冗談キツイッスよ、ハハハハハ……」
吸血鬼(割と笑えない状況で追い打ちかけるとかさすが魔王の息子、えげつねえーっ……俺のヘロヘロな様子見ろよ空気読めよ」
兄「ん?」
吸血鬼「オエェッ!! やべっ ま、また口に出てたっ、すいません謝るんでにんにく近づけんでください!!」
銀髪男「また来たのか吸血鬼め! 四天王の末席が! 諦めて帰れ!」
吸血鬼(人間にまで末席だって思われてる……)
金髪男「どれだけ仲間を引き連れてこようと無駄だ。塔へは指一本触れさせないし、結界を壊させもしない!
いまはお前にとっておねんねの時間だろ?棺桶のペッドの中にさっさと戻れ」
吸血鬼(俺すげえなめられてる……! やばい! 四天王なのに。四天王なのに。くっそお前ら黙って聞いてりゃあ……」スッ
黒髪女「あら。それ以上近づいてきて大丈夫? 『聖陣』に触れちゃうとすごく痛いんじゃない?」
金髪男「なんだ、もう張っていたのか」
黒髪女「当たり前じゃない。ところで横の男はなんなの? …………」
銀髪男「…………こいつ……まさか?」
165 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/31(火) 12:40:20.39 ID:wqbpIV35o
兄「なるほどな。あの女か、お前の天敵は」
吸血鬼「うっ、はい。ヴァンパイアハンターの一族みたいで、あの女が陣を張るとどうにもこうにも……」
兄「分かった」スッ
バチン
黒髪女「……えっ!? そんな、陣が、そんな簡単に消せるわけな――」
ドッ!!
黒髪女「あぐっ……!? う……く」
銀髪男「おい!!?」
兄「この程度か。さあ残り二人、女は死んだ、もう聖なる陣とやらに守ってはもらえんぞ。どうする」
銀髪男「この野郎!!……戦って貴様らを殺すに決まってるだろ!!」
金髪男「貴様、何者だ?」
兄「お前らが知っても無駄だろう。どうせ今日のうちに消える命だ」
吸血鬼「俺にまかせてください! こいつらには散々馬鹿にされてイライラしてたんだっ!!
死ねーーーーーー!」
銀髪男「はァッ!!」ズバッ
吸血鬼「うぎゃーーーー! いてえーーーっ!」
銀髪男「雑魚が……! 貴様はすっ込んでろ、邪魔だっ!!」
兄「……」
兄「昼でなく夜だったらどうなんだ?吸血鬼」
吸血鬼「えぇ?なんスか?」
兄「俺は今日はあくまで手伝いだしな。それにお前の実力を測るいい機会だ。
本気を出して人間相手に無様な姿を晒すようなら、お前に四天王の一人を名乗る資格はない」
吸血鬼「まぁそッスね……」
166 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/31(火) 12:42:18.05 ID:wqbpIV35o
吸血鬼「でも本気って言ったって、」
兄「俺が夜にする。存分に戦え」
吸血鬼「えっ?」
金髪男(夜にするだと……?)
兵士「な、なんだ? 急に空が暗く……、あ!黒い雲が太陽を覆い隠してるぞ」
兵士「おい、どんどん暗くなって……ま、まるで……」
銀髪「…………夜」
吸血鬼「ハハハハハハ……さすがだ。次元が違いますね王子! 俺はあんたに一生ついてきます! 王子万歳!」
兄「そんなに長い時間保てるわけではないぞ」
吸血鬼「十分です」
……スッ
銀髪男「くそ、妙な術使いやがって! 昼だろうが夜だろうが関係あるかっ!」
金髪男「……二人同時に斬りかかるぞっ!」チャキ
ズバッッ
吸血鬼「あいたーーーーーーーっ!…………くない。クククク……」
銀髪男「なにっ!? 確かに斬ったはず」
金髪男「体が霧に……!」
167 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/31(火) 12:44:58.85 ID:wqbpIV35o
吸血鬼「三勇士も、兵士も、騎士も、魔術師も、神官も、この場にいる奴全部まとめて処刑の時間だ」
吸血鬼「処刑だ。処刑だ。処刑だ。処刑だ。処刑だ。処刑だ。処刑だ。処刑だ。処刑だ。処刑だ。処刑だ。処刑だ。処刑だッ!!」
吸血鬼「絞首刑?火刑?溺死刑?斬首刑?石打ち刑? いいや違うな、逆さ十字で磔刑だ!!
苦しみ抜いて謙虚に死ね! 死ぬときくらい身の程わきまえろ」
吸血鬼「―――蛮族め」
168 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/31(火) 12:46:20.13 ID:wqbpIV35o
カチャッ。
カチャ。
カチャッ。
「ハッピーエンドが一番好きなんだ」
カチャッ。
「どうしたの? いきなり」
169 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/31(火) 12:47:56.31 ID:wqbpIV35o
剣士「えーーーーーーいっ!!」
狩人「……」
<剣士の薙ぎ払い! 神の左手にダメージを与えた!>
<狩人の攻撃! 神の左手にダメージを与えた!>
<神の右手の打撃! 剣士にダメージを与えた!>
<神の左手の打撃! 勇者はかわした!>
勇者「剣士、前に出すぎだ、もっと下がって!」
剣士「えっ? ごめん、全然聞こえないよ! なに?」ヒョイ
狩人「下がって」バシュ
剣士「ほああーーーーっ!! かか狩人ちゃん、だからなんで時々私を狙うのー!? ブーツが縫いとめられちゃったよ……!」
勇者「うわあっ 言葉の代わりに矢を使用しないで狩人頼むから! えーととりあえず剣士に防御結界を張って……」
<神の右手の打撃! 勇者にクリティカルヒット!>
<神の左手は沈黙呪文を唱えた! 勇者は魔法が使えなくなった!>
勇者(だーーっ 詠唱中に攻撃するな! しかも沈黙って。僧侶、沈黙解除してくれ)
僧侶「ウオオオオオオオオ! 剣士ちゃんが危ねーーーー! 今俺が助けるぞおおおおお!!」ダッ
勇者(ちょっ……)
170 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/31(火) 12:50:05.65 ID:wqbpIV35o
剣士「いいやブーツ脱いじゃえっ! とどめだーーーーーーっっ!!」
僧侶「じゃあ俺も必殺僧侶ブローだーーー!!」
ザシュッ! ゴンッ!
<神の左手と右手は動きを止めた>
勇者「……あ、扉が開いた。ゴリ押しで試練をクリアできたみたいだ。す、すごいな二人とも」
僧侶「まあな。人生、それはつまりゴリ押しだ」
狩人「剣士……すみません。つい口より手より足より矢が先に出てしまう」
剣士「いつもギリギリで当たらないけど、けっこうびっくりするから、矢より口と手と足をだしてほしいな!」
狩人「じゃあ足を」
剣士「できれば口を真っ先に出してほしいな!」
勇者「僕たちは見事に協調性がないね」
剣士「うーん……」
僧侶「なに、最後にどうにかなりゃいいんだよ。細かいことは気にすんな!!」
狩人「……」コク
171 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/31(火) 12:51:17.87 ID:wqbpIV35o
勇者「大雑把な……。まあでも、4人ともバラバラなのに最後はなんとかなるから、僧侶の言う通りなのかもしれないな」
剣士「変な安心感があるよね。でも、これからもっともっと私たち強くなれるよ!
まだまだ4人で旅し始めたばっかりじゃない、これからだよ勇者」
狩人「……」コクコク
勇者「そうだね。うん……そうだ」
僧侶「ところで話がらっと変わるけど、さっきの神の左手と右手って女神様の両手なんだろうか。
あんまり女性らしい手とは言えなかったが、これから会う女神がゴリラみたいなのだったら俺どう反応していいか分かんねーわ」
僧侶「どうしよう」
剣士「本当にがらっと話変わったね。そんなこと言ったら僧侶くん、女神様に怒られるよ。今も聞いてるかもよ」
僧侶「……!!」
狩人「……」スタスタ
勇者「あはは……」
勇者(ほんとみんな自由だな。でも……、うん、そうだな、これはこれでいいのかもしれないな)
勇者「……先に進もうか! きっともうすぐ最上階だ」
狩人「はい」
僧侶「ん? お、おう!」
剣士「うんっ!行こう!」
172 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/31(火) 12:51:57.28 ID:wqbpIV35o
――――――カチャッ。
カチャ。
「ハッピーエンドが一番好きなの。幸福な終わり方でない物語なんてなんの価値もないって思うんだ」
カチャ。
173 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/31(火) 12:53:20.71 ID:wqbpIV35o
「本を読んだの?」
「昔に。分厚い本だったの。最初は幸せだったのに、次々に主人公には悲しいことがたくさん降りかかって、読んでる私も辛かった。
でもそのまま読み続けたよ。最後には必ず幸福な終わりが待ってるはずだって、主人公は報われるはずだって、そう思って」
「予想は当たった?」
「ううん。そのまま主人公は悲しいまま死んじゃった。
彼の死は彼の生と同じくらい果てしなく無意味で、しかも彼はそれを痛いほど自覚しながら死んじゃったからさらに悲壮なんだよね」
「それはひどいな」
「報われないのは彼だけじゃない。私だってそうなの。
幸せな結末を期待して、我慢して読み続けていたのに、バッドエンドだなんて聞いてないって。
読んだ時間を返してほしいって思った。その本に費やした時間全部無駄だった」
「辛辣だなぁ」
「報われない物語なんてね、あの本の主人公の生と死より無価値だよ。いらないの、この世から消えてしまえばいいと思うの。
どうしてバッドエンドなんてものがこの世界に存在して、しかもハッピーエンドと対極の位置にあるのか、私には全然理解できない。
読んで、見て、楽しいの? そんなものを娯楽だと感じる人間なんているの?」
カチャッ。
174 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/31(火) 12:56:46.58 ID:wqbpIV35o
「娯楽として楽しいというよりは、芸術として美しいと思うから悲劇は愛されるんじゃないかな」
「芸術……」
「古代、まだ羊皮紙もなかったころには、人々にとって物語とは演劇だったんだ。一番最初に生まれて流行したのが悲劇。
喜劇は悲劇より歴史が浅いんだ」
「悲劇しかない世界なんて変だよ。みんな狂ってる」
「きっと、美しいんだ。半永久的に咲き続ける造花より、やがて花弁を散らして枯れてしまう本物の花が人々に愛されるように、
栄枯や明暗、悲喜の転換はドラマティックで刹那的で、観ている人にある種の生を感じさせるんじゃないかな」
「よくわかんないよ。私はそうは思わない。それなら私は造花の方が好き」
「または……祈りも願いも努力も他人への献身もことごとく踏みにじられてしまう様とか、最初から最後まで救いようのない筋書きとか、
そういうのって意地悪な目で見て楽しいって感じるんじゃなくて、どうしようもなく悲しいけどそれと同時に、ただ美しいんだ」
「悪趣味だよ」
カチャ。
「じゃあ人は自分がそんな目に遭いたいって、心の奥底では思ってるってことにならない?」
「だからこその観劇さ。他人の悲劇を見るのが人は好きなんだ。多かれ少なかれ」
「………………………………」
「僕はそれこそ人だと思う。いいじゃないか、人間礼賛。あるがままに受け入れればそっちの方が楽だ。理想なんて持たない方がいい……」
175 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/31(火) 12:59:26.21 ID:wqbpIV35o
「……そうだね、昔なら私も間違いなくそう言ったよ。
あのね、覚えてる?太陽の塔を上ったときのこと」
「覚えてるよ。頂上で本物の吸血鬼、四天王の一人と対峙しちゃったんだ」
「こわかったね。でも、その前の戦闘で私たち全然チームプレイできてなかったのに、吸血鬼戦でいきなりできるようになったよね」
「協調性皆無だったのにね。剣士は前に出すぎるし、狩人は味方に矢を射るし、僧侶は回復役放って敵を殴りに行くし……」
「勇者は味方を気にしすぎて自分がおろそかになるし」
「あははは……そうだった。本当にひどかった。でも、戦いなのに、少し楽しかったな」
「そうだね。楽しかった!みんなで力を合わせて勝ったときは、どんなに怪我してても嬉しかったよ」
「うん。楽しかったね。そう。やっぱり…………楽しかった。剣士と狩人と僧侶が僕の仲間になってくれて、本当に………………嬉しかったな」
「あとは雪の国に行くための船に乗ったときとか、金貨100枚稼がなくちゃいけなくなって入ったカジノとかね。いま思いだしても笑っちゃうよ」
「うん……」
「それからさ――それから、」
「……」
「……」
「……?」
「剣士……?」
カチャ。
「……剣士…………けんし」
カチャ。カチャ。カチャ。
カチャ。カチャ。カチャ。
カチャ。カチャ。カチャ。
「……いや、ちゃんと分かってるよ。幻覚なんだってさ」
「ちゃんと理解してる。分かってる。全部知ってるよ」
176 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/31(火) 13:01:48.94 ID:wqbpIV35o
もういない。だれもいない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。い。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。い。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。だれもいない。だれも。
177 : ◆TRhdaykzHI 2013/12/31(火) 13:03:09.91 ID:wqbpIV35o
剣士「ついたーーーっ! やっとついたーー! 最上階ついたーー!」
狩人「わっ…… ひっぱらないで。ください」
僧侶「身だしなみ整えないとな! どう?剣士ちゃん、俺の顔になにもついてない?」
剣士「左目の上に大きい青たんこぶついてるよ」
僧侶「うがあッ ここにきて21階のトラップが効いてくるとは!」
勇者「扉開けていい?」
僧侶「待て、あと10分待て」
ギイィィィィィ……
僧侶「お前、俺のこときらいだろ?」
勇者「そんなことないよ」
183 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/21(火) 23:08:01.79 ID:t8u86Crso
「……よくぞここまで辿りつきましたね」
僧侶「結婚してください女神様」
勇者「僧侶、黙っててくれる?」
剣士「うわ……! あなたが、か、神様……? きれい」
狩人「……」
「はい。私が太陽の国の守護神です。この塔の攻略者をずっとお待ちしておりました。
私は力を司る者、あなた方に至高の武器を差し上げましょう」
「これらをもって、国を蝕む悪を滅ぼすと誓ってください。
もっとあなた方とお話をしていたいのですが、今は時間がありません」
勇者「時間がない……?どういうことですか?」
「貴女方が塔を上りはじめてから、魔族がこの国に侵入しました。
悪しき者がここに近づいています。今から授ける武器によって、その者を退けて頂きたいのです。勇者とその仲間たちよ」
勇者「魔族が……!?」
剣士「ええっ!?」
「ではまず、弓を背負った貴女から。貴女には……虹の弓と稲妻の矢を」
狩人「ふぇっ……は、はあ。ありがとう……ご、ございます……」
「神職のあなたには、癒しの杖を。貴方の癒しの力を最大限引き出してくれるでしょう」
僧侶「結婚してください」
「ごめんなさい」
184 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/21(火) 23:09:20.42 ID:t8u86Crso
「剣を振るう貴女には、葡萄十字の剣を。救いを授ける剣です」
剣士「わーい!勇者見て見てー!なんかすごい剣もらった」
「……そして、勇者。選ばれし者よ。貴方には、この、とこしえの杖を……」
勇者「……ありがとうございます」
「人の子らよ。脅威が迫っています。必ずやその闇を払うと約束してください……」
「…………来ますよ」
185 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/21(火) 23:15:08.84 ID:t8u86Crso
* * *
兄「…………はー……暇だな」
兄「……。あいつもまあやる時はやるじゃないか。四天王の名に相応しい力だ」
兄(しかし……この光景に心が痛まないと言えば嘘になるかもしれないな
だがこれは戦争だ。仕方のないことだ……)
兄「……俺はどうするか。吸血鬼は塔に向かったが。あいつ一人でなんとかなるか……?」
魔族「王子様ー!!」バサバサ
兄「ん?どうした?」
魔族「大変なんですっ! 宝物庫に何者かが侵入しているみたいでっ!
でも結界が張ってあって下級の者じゃあ対処できないんですっ!」
兄「父上はなんと?」
魔族「魔王様は今日の体調が芳しくいらっしゃらないようで、あと頼れる方は王子か四天王かと言うところでして……」
兄「……(そこまで強度な結界が作れるとすると……)
分かった。すぐ行く。ここは吸血鬼にまかせて平気だろう。元々、俺は手伝いという名目だからな」
魔族「助かりますっ!」
186 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/21(火) 23:16:51.95 ID:t8u86Crso
タッ……タッ……
吸血鬼「らんたった、たった、ふんふーーーん」
吸血鬼「王子のおかげですんなり塔も制圧できそうだ。これで竜とかヒュドラとか魔女の奴らにでかい顔されずに済む。
それにしてもやっぱり魔術師の血は格別だなあ」
吸血鬼「魔力があるかないかで大違いだ! 三勇士もあれだけ手こずらせてくれた割にはゲロマズだったしなあ……
やっぱり人間なんて存在価値のない生き物だよなあ。魔術師以外餌にもなりゃしない……」
吸血鬼「まーいいや! そろそろ最上階、さくっと神様殺して塔を制圧しちまおう!
どうもー四天王の末席の吸血鬼ですー! 女神様殺しにきましたーっ!よろしくおねがいしまオワアアアアアア」バタン
勇者「!!」
剣士「ぎゃーっ」
僧侶「なんだてめー!!」
狩人「……!」
吸血鬼(げぇーっ!! 神様って5人もいるの……!?!? くそめんどくせーっ!! いくらなんでも5人は多くねえ!?」
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187 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/21(火) 23:21:12.89 ID:t8u86Crso
「戦ってください、勇者……」
勇者「お前が四天王の一人、吸血鬼か……!」
僧侶「吸血鬼……? なら……テメーがババアや町のみんなを化け物にしやがった奴か……!!」ギリ
吸血鬼「へ?町?なんのことかよく分からないんだけど、あれっ、もしかして君たち神様じゃない感じ!?」
剣士「神様じゃない、人間だよ」
吸血鬼「俺より先に塔の頂上に到達した人間がいたとは……まじかよ。そんなんありかよ!頑張ってここまで来たのに!!
じゃあもう殺すしかねーーーな!!俺はキャリアアップのために何としてもここの神様支配下に置かないといけないわけだよ
その礎となってくれよ人間!ハッハ!!悪霊に取りつかれた豚どもっ!!死んでくれ!!」
吸血鬼「処刑第二グラウンドスタートっ!俺がお前らを裁いてやるから安心して冥府に召されろ!あっはっは!!」
剣士「この魔族頭おかしい!」
勇者「来るぞ!」
逆さ十字の吸血鬼が襲いかかってきた!
188 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/21(火) 23:23:20.10 ID:t8u86Crso
剣士の攻撃! 吸血鬼にダメージを与えられない!
狩人の攻撃! 吸血鬼にダメージを与えられない!
剣士「あ、あれっ!? 確かに斬りつけたはずなのにっ! 体が霧みたいになって……!」
吸血鬼「はっはーん……お前らごときに俺が傷つけられるはずないだろお?あんまりなめてもらっちゃ困るな……」
勇者の雷魔法! 吸血鬼にダメージを与えた!
吸血鬼「ホアアアアアアアアアアアア!? な……なん……え!?今の……攻撃魔法!?
まさか……お前が勇者か!? いててて……」
勇者「……!」
吸血鬼「…………」
吸血鬼「……ははあ。へえ……。お前が……。ふうん……」
剣士「勇者気をつけて!こいつ気持ち悪いよ!」ブンッ
僧侶「確かに気持ち悪いな」
吸血鬼「俺のどこが気持ち悪いんだよ!結構お洒落に気を使ってるんだぞ!」
189 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/21(火) 23:27:46.19 ID:t8u86Crso
「少し時間を稼いでください。あの者の弱点は日光です。私がなんとかします……」
勇者「女神様……っ」
剣士「おりゃー!」
狩人「……くっ……」
吸血鬼「はーっ、お前らの攻撃なんて全然効かねーつの……さっさと女神とやら殺して帰りてーんだわ俺……
まあ回復役からぶっ殺すのがセオリーか?」
吸血鬼の攻撃! 僧侶に大ダメージを与えた!
僧侶「ぐああ!」
剣士「僧侶くんっ! 」
勇者(女神様からもらった武器を持ってしてもここまで差があるのか……
このままじゃ手も足も出せない……!)
吸血鬼「……うん。まあまあの味だな。もっと緑黄色野菜とってくれてたらさらに美味しかったかもしれない。
じゃあ次は勇者の血の味テイスティングだーっ!!魔族みんなお待ちかね!!よっしゃ行くぞオラーーーっ!!」
190 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/21(火) 23:30:08.49 ID:t8u86Crso
剣士「させるかっ」ザシュッ
吸血鬼「ああん? だーから、効かねーって……」
カッ!
吸血鬼「うおっ まぶしっ!? こ……これは日光!?なんで……」
「魔王の子が昼を夜に変えてしまったようですが……それを私が正しい時に戻しました。
滅しなさい、悪しき者よ」
狩人「これなら……。剣士、あいつに今ならダメージを与えられるっ、構えて!」
剣士「う、うん! ……あ、あれっ!?消えっ――きゃっ!?」
吸血鬼「あははははは……こんなものなのか?神様の力ってさぁ……
これくらいならまだまだ俺は自由に動けるぜ?」
僧侶「剣士ちゃん! 貴様ぁぁぁぁ……このドスケベ野郎!!セクシャルハラスメントだぞ!!その汚らわしい手を離せ!!」
吸血鬼「腕抑えただけでセクハラなの!? 人間世界まじ世知辛ぇな……」
狩人「剣士……」
僧侶「おい勇者っ!!お前なに黙ってるんだ!!剣士ちゃんがいやらしい魔族に捕まってるんだぞ!?何とも思わないのか!?」
剣士「ええー!? いやらしい魔族なの!? やだーっ離してよーっ」
吸血鬼「いや俺に下心は一切ないけれども!あらぬ誤解は避けたいのだけれども!
つーか人間なんて全部家畜以下だと思ってるし……邪な心を抱いてると思われてること自体侮辱っていうか……」
剣士「腹立つなあ!」
191 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/21(火) 23:37:14.08 ID:t8u86Crso
僧侶「てめー勇者なんとか言えっこのぉ……」
勇者は水魔法を唱え終えた! 幾枚もの氷板が吸血鬼を取り囲む!
吸血鬼「あ?」
僧侶「あ?」
氷が鏡面と化し、吸血鬼の体に光が収束される!
吸血鬼は弱体化した!
吸血鬼「ああああああああ!?なに……なにそれっ!?」
勇者「いまだ、剣士!狩人!」
僧侶「うおおおおおおおおおっ!!」
勇者「君は攻撃に回らなくていい!」
192 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/21(火) 23:38:30.38 ID:t8u86Crso
吸血鬼「オエエエエエエエエエッ……また具合が悪くなってきた……くそ!!てんめえええやりやがったな勇者死ねこの野郎!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
吸血鬼「こんなの氷を壊しちまえば終わりじゃねえか!!おえーッ 吐きそうになりながらも頑張る吸血鬼パーーンチ!」
狩人「させない」ヒュッ
吸血鬼「ぐう……っ!?」
狩人の矢が吸血鬼の手のひらと肘を射ぬいた!
吸血鬼「ちょっと……ちょっと待って!せめて勇者の血だけ吸わせて!後生だから!そしたら魔界に帰るから!!ね!!」
勇者「ね! じゃないよ、嫌だよ!嫌に決まってるだろ」
吸血鬼「てめーの答えは聞いてねーーーんだよお!!!よこせオラア!!」バッ
狩人「勇者はレバー嫌いだからあんまり美味しくないと思う……!」
勇者「たっ確かに嫌いだけどもそういう問題!?」
193 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/21(火) 23:43:47.91 ID:t8u86Crso
剣士「……だめ」
――ズ……ッ
吸血鬼「……」
剣士「……お前なんかにあげる勇者の血なんて、一滴たりともこの世に存在しない」ズッ
吸血鬼「馬鹿な……いくら日光にあたってても、俺がこの程度の一撃で……こんな……」
僧侶「攻撃力増加の補助魔法、5回重ねがけしておいたからな」
吸血鬼「えげつなっ……ガフッ……」
吸血鬼「……血……俺、ここで死ぬのか……これで終わりなのか、全部……ああああ嘘だろ……まじかよ……ああもう畜生」
「消えなさい……悪しき魔族よ……」
剣士「……」ビチャ
吸血鬼「くそ……なにが悪しき魔族だ……ふざ……けるな……。お前らはかなら……ず……まおうさまが……」
吸血鬼は血だまりに沈んだ。
吸血鬼を殺した。
194 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/21(火) 23:45:12.58 ID:t8u86Crso
僧侶「……死んだ……?死んだか?」
「魔族は死にました。あなた方の健闘に感謝します」
狩人「……はあ……」ガク
剣士「ほ、ほんと……?倒せた?」
勇者「みんなのおかげだ。僕一人じゃ勝てなかった。ありがとう、三人とも」
僧侶「……うおおおお!やったな!魔族の一人をぶっ殺したぜ!これで俺もハーレムを都でもてもてだ!!」
狩人「……」
僧侶「何故そんな軽蔑のまなざしで俺を見るんだ、狩人ちゃん……!?」
195 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/21(火) 23:45:54.96 ID:t8u86Crso
「塔の最下層まで私が送ってあげましょう。勇者とその仲間たちよ、雪の守護神と星の守護神も私と同じように救ってあげてください。
魔族の力は人間の何倍も強い故、私は貴方達に力を与えました。
そして、雪の神からは知恵を、……星の神からは、あなた方の望むものを授かるでしょう」
「人類の命運は貴方がたにかかっているのです。どうかご武運を……」
「……それから、あともうひとつだけ、ここに辿りついた勇者に伝えなくてはならないことがあります」
「……勇者、こちらに」
勇者「は、はい……?」
196 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/21(火) 23:46:35.44 ID:t8u86Crso
第九章 マイディアブラザー
197 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/21(火) 23:47:38.04 ID:t8u86Crso
* * *
数十日後
王都 場末のパブ
女A「え~~すごおい、あなたが四天王の一人ヴァンパイアを倒したのぉ?」
女B「ヴァンパイアって三勇士を皆殺しにしたっていうこわ~~い魔族でしょ?僧侶さんすごーい!強いのね!」
僧侶「いや……それほどでもないよ、ハッハッハ」
女C「まあ謙虚。そんな偉業を成し遂げたなら堂々としていらっしゃればいいのに!」
女A「あなた方がいればこの国も安心ね!」
僧侶「僕は本当サポート役だったので……ハッハッハ! もう一本ドンペリ入れてくれる!?」
「「「喜んでー!」」」
198 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/21(火) 23:49:17.97 ID:t8u86Crso
* * *
市
ガッシャガッシャ……
剣士(新しい剣……大きいのに全然重くない。何の素材でできてるんだろう。不思議だなあ)
剣士(ヴァンパイアを倒してから、王都に戻って王様に報告をして……次は、雪の国。
あの国は最近魔族の侵攻が苛烈で、首都が落ちそうなほど困窮してるって)
剣士(……王様に「頼むぞ」って言われちゃった。なんだか全部夢みたい……私たちが王様に頼りにされてるなんて。
まあ、私たちっていうより勇者に期待しているんだろうけど!)
剣士(でも優しそうな王様だったな……初めて見ちゃった……緊張した)
剣士「……あ! 狩人ちゃんっ!こんなところで偶然だね、なにしてるの?」
狩人「別に……」
剣士「? そう?買い物かな? ……あ!見て、このマフラー。ふかふかもふもふなのに安い、お買い得だ」
商人「お買い得だよ!」
剣士「次は雪の国に行くんだからあったかくしていかなきゃね。すっごーっく寒いんだって!行ったことないからちょっと心配なの。
……あ……でも、狩人ちゃんは王都で弓兵団に入団するって最初から言ってたっけ。もう私たちと一緒には旅しないんだよね」
狩人「……」コク
剣士「そうだよね。ちょっと寂しいけど、お互いがんばろーね。狩人ちゃんと一緒に戦えて楽しかったよ」
狩人「……」コク
スタスタスタ……
剣士「あ、行っちゃった」
199 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/21(火) 23:50:35.24 ID:t8u86Crso
商人「嬢ちゃん、買うの?買わないの!? 買うよね勿論!?」
剣士「え、あ、待って待って!何色にするか決めてないよ、まだ……」
商人「若い女の子にはこっちの赤色とか、桃色なんかが人気だよ。それかこっちの白とかね」
剣士「あっ」
商人「ん? おや渋いねえ。そんな草色なんて……女の子は地味な色より明るい色の方がいいんじゃないかと思うけどね」
商人「……え?これ買うの?返品不可だよ!いいの!?そ、そうか。毎度ありっ!」
王立図書館
勇者「…………」
勇者(「2羽の鷹に獅子の左目」……うーん、一体なんのことだ?
いろんな人に話を聞いてみたり、図書館の本を片っ端から調べてみたけど分からないなあ)
勇者(鷹はまだしも、獅子なんてこの国の象徴だから王都のどこにでも彫刻や絵画があるし。
どうしよう、もうすぐ雪の国へ出発しなければならないのに、まだ全然女神様から言われた謎を解けてないよ)
勇者「まずいな」
~~~~
200 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/21(火) 23:52:34.44 ID:t8u86Crso
「勇者。『2羽の鷹に獅子の左目』です。そこに辿りついたとき、貴方は絶大な力を得ることでしょう……」
勇者「鷹と獅子……ですか?」
「……ただし忘れないで。その力は人が持つには大きすぎる。人が扱うにはその分代償が必要になるのです。
一度使ったらもう後戻りはできません。……よく考えてください」
勇者「分かりました」
「……」
~~~~
勇者「分かりましたって言っちゃったよ。全然分かってないよ。
王都に鷹なんて飛んでないからやっぱり森に行くべきかな……とすると獅子の方も本物のライオンを探さないと、ってこと?」
勇者「うわ……厄介だな」
剣士「勇者、ここにいたんだね。女神様が言ってたことの意味、分かった?」
勇者「剣士。 いや……それがさっぱり」
剣士「そんなに焦らなくてもいいんじゃない?いつか自然に分かる時がくるよ。
もしかして朝からずっとここにいたの?」
勇者「そうだね」
剣士「じゃあ休憩しよ! ねえねえ見てこれ。あったかそうなマフラーでしょ?」
勇者「市で買ったの?うん、いいんじゃないか。似合うと思うよ」
201 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/21(火) 23:54:45.23 ID:t8u86Crso
剣士「しかもね、この色、勇者の目の色とそっくりじゃない?生き映しじゃない?このグリーン」
勇者「僕の目はこんなにきれいな緑じゃないけどね」
剣士「ううん。そっくりだよ。これ勇者にあげるね!君、寒いの苦手でしょ?寒い日の朝は寝起きがめちゃくちゃ悪いもんね」
勇者「えっ、僕に?」
勇者「……うわ、ありがとう。うれしいよ」
剣士「うん! それでね、私も雪の国は初めてだからマフラー買おうと思って私は白色を……あ、あれ」
剣士「あ……私の分買ってくるの忘れちゃったよ」
勇者「…………」
剣士「わ、笑わないでよー!ちょっとうっかりしちゃっただけだもん」
202 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/21(火) 23:56:44.19 ID:t8u86Crso
ゴーン……ゴーン……
勇者「もう二時か。市に行くついでに昼食も済ませようかな」ガタ
剣士「えっ! 一緒に市に行ってくれるの? やったー!」ピョンピョン
勇者「しーっ ここ一応図書館だから……」
ゴーン……ゴーン……
剣士「あ。そっか。ごめんごめん。……あれ?ねえ、この時計塔の鐘の音で思いだしたけど」
剣士「時計塔の大きな時計の針って、長針に鷲で、短針に鷹の飾りがなかったっけ」
勇者「……まさか二羽の鷹っていうのは、二時ってこと?じゃあ獅子っていうのは……
なんだ?窓から光がいきなり射してきた」
剣士「窓の外のライオンの彫刻の目に太陽の光が反射してるみたい。で図書館の中にあるライオン像にも光があたってるけど……
こっちは何ともないね?このライオン像に女神様の言ってた武器っていうのがあるのかな?」
勇者「ええっ!? 図書館の中に?」
勇者「このライオン像は目を閉じてるな……ひょっとして」スッ
剣士「うわっ 目が開いた! こわっ
あ……また目に光が反射して、今度はあっちの像に」
勇者「なるほど。光を辿っていけばいいんだ。ただ、多分それができるのは2時から1分間だけ……急ごう!」
203 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/21(火) 23:59:08.30 ID:t8u86Crso
図書館 地下4階
剣士「地下まで来ちゃったね。 わーカビ臭い」
勇者「ここが最下層だ。誰も人がいないな。僕も初めてここまで下りてきたけど……」
剣士「変な本ばっかりだもんね。あ、あのライオンで最後じゃないかな?」
獅子像「太陽の光をこの目に浴びたのは一体何千年ぶりだろうか……やはりいいものだな」
剣士「あれ?勇者、声枯れた? なんか変な声だよ」
勇者「剣士こそ、いつの間にそんな渋い壮年のおじさんのような声に」
獅子像「ここだ、ここ。私だ。お前らの真正面にいるだろうが、無視するな」
勇者「像が喋った……」
剣士「不思議!」
獅子像「なにも不思議なことなんてあるもんか。像が喋ったらおかしいのかね」
獅子像「まあとにかくここに光を運んできてくれた礼だ。
私の左目の水晶をとるがよい、それが鍵だ」
勇者「鍵……何のための鍵だい」
獅子像「鍵なのだから、当然扉を開けるために決まっているだろう。ほら、扉はそこにあるではないか」
剣士「……?」
勇者「書棚ばっかりで扉なんてないけれど」
獅子像「下だ、下」
勇者「床の紋様? 確かに扉っぽく見えなくはないな。よく見ればくぼみもある。
ここに水晶をはめればいいのかな?」
剣士「なんかわくわくするね!すごい!」
204 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/22(水) 00:00:21.70 ID:Yo6LtTMRo
勇者「……。はめたよ」
獅子像「そうか。そしたらば……」
剣士「そしたら?」
獅子像「受け身をとっておけ」
勇者「ああ、受け身を……。……えっ?」
ガコッ!!
勇者「床がッ!? うわあああっ!!」
剣士「勇者っ」ガシ
ウワーーーー
キャーーー
獅子像「あ……勇者じゃない奴も落ちてしまったな。まあいいか。どうなるか分からんしな。
2名様ご案内ーっと……」
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205 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/22(水) 00:03:52.21 ID:Yo6LtTMRo
――ドサドサッ!!
勇者「うぐっ」
剣士「うーーー……いたたたた……もう、なにこれ。ここどこ? 真っ暗で何も見えないよ。
勇者?勇者、どこ行っちゃったの?」
勇者「君の下だよ」
剣士「下って……わああああああっ!? ごごごごごっごめんね!? なんかやけに地面があったかいなとは思ったんだけどっ
そういう仕様なのかなって思ってっ!本当にごめん!」
剣士(ひゃーーなにやってんのなにやってんの馬鹿!馬鹿馬鹿!信じられない!)
勇者「いや、大丈夫。それよりここは一体……地下4階より下があったのか?とりあえず灯りがほしいな」
剣士「ちょ、ちょっと待って、もう少し灯りつけるの待って。もしくは私から離れたところで灯りつけて」
勇者「? なんで?」
剣士「いま顔がひどいことになってるから……すぐ冷ますからっ」
ボッ……ボッ……
勇者「あれ……壁の松明が次々に灯っていく。誰かいるのかな?」
剣士「いるとすれば間違いなく私への嫌がらせが目的だよね」
206 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/22(水) 00:08:56.66 ID:Yo6LtTMRo
勇者「ここに女神様の言うものが……。 ん?あれは祭壇?」
剣士「なんかおどろおどろしい雰囲気だね。ちょっと怖いよ」
剣士「……あっ、でもあれ、すっごいきれいな剣と本!あれが女神様の言ってた武器かな!」
勇者「剣と本…………。……っ?」ゾク
勇者(うっ……なんだ今の? あの剣を見た瞬間、寒気が……。 嫌な感じのする剣だな……)
剣士「見て勇者。刀身が真っ赤な剣って、一体何でできてるのかな。あ、すっごい軽いし振りやすいよ」ブンブン
勇者「うわあっ。なんて物怖じのしない性格なんだ。……剣士、今すぐその剣を離して」
剣士「え?なんで?」
勇者「なんだか嫌な気配を感じるんだ。その剣は……使わない方がいい」
剣士「まあ、使えないんだけどね。全然鞘から抜けないの、この剣。すごく固くて」
勇者「え? ……本当だ。なんだこれ。かたっ……!」ガチャガチャ
剣士「この剣の名前、なんて読むの?この国の言葉じゃないね」
勇者「古代語かな。ええと、『魔剣……」
勇者「『魔剣アルファルド』。……魔剣って!!やっぱり曰くつきじゃないか!」
剣士「でもすごい強い剣なんじゃないのかな?今は抜けなくても、いつか抜けるかも。
私もっと強くなりたいの。旅の間この剣を私が持ってたらだめかな」
勇者「……だ……だめだ。魔剣なんて言うからにはどんなデメリットがあるか分かったもんじゃないよ。
それに抜けない剣なんて一緒に腰に下げてたら邪魔だろ?とにかく却下」
剣士「えーっ! ……あっ私にはそういうくせに自分は本を懐に入れようとしてる!ずるい!」
207 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/22(水) 00:10:57.56 ID:Yo6LtTMRo
勇者「え?入れてないけど?」
剣士「マントのその妙に四角い出っ張りは何なの!!」ガバッ
勇者「なんでもないって。ちょっ……!」
剣士「やっぱり入れてるじゃない。これは?タイトルはないんだ……。魔法書?」
勇者「まあ、多分。大半は文字が掠れていて読めないけど、最後の方のページに、まだ僕の知らない呪文が二つあったんだ。
一つは見たことのない文字で書かれていて分からないんだけど、もう一つは使うことができる」
勇者「剣は抜けないけど呪文は使える。だからこれは持ち帰るよ」
剣士「えーーーーーなにそれずるい。勇者が詭弁を弄して私を煙に巻こうとしてる!」
勇者「女神様の言ってた意味も分かったし、これで心おきなく雪の国に行けるな。よかった。
あーお腹すいた。早く市に行こう。マフラー売り切れになっちゃうかもしれないしね」
剣士「んもー頑固なんだから。分かったからそんなに急ぎ足で行かないでよ!待ってったら!」
剣士「ていうか階段あったんだ。帰れないかと心配しちゃったよ。……勇者?どうしたの?」
勇者「……」チラ
……カチャッ
勇者「! (剣が……今……)」
勇者「何でもない。早く行こう。早く……」
208 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/22(水) 00:12:23.04 ID:Yo6LtTMRo
ざわざわ…… ざわ……
「勇者だ」 「あれが勇者……」 「吸血鬼を倒したって」
剣士「有名人だね、勇者」
勇者「なんでそんなに君は嬉しそうなんだ。全然僕は嬉しくない。こんなに注目されると居心地が悪いよ」
「勇者がいま犬のフン踏みそうになったぞ!」 「あの勇者が屋台の食いもん買って、一口も食べないうちに地面に落としたぞ!?」
「おい見たか今の……地面に落とした食べ物、一瞬拾おうとしたぞ。手がぴくってしたぞ」 「食い意地はってるわね」
「いや、あの三勇士より強いっていう勇者だぞ。それも何か理由があったのかも……」 「なるほど……」ザワザワ
勇者「いや別に本気で食べようとしたわけじゃないけどさ……条件反射っていうか……。ていうかそんなところまでじろじろ見ないでくれっ」
剣士「分かる分かる。地面に接してない上の部分だけならいけるんじゃないかな!?とか思うよね」
魔術師長「ふふ。有名になるのも一苦労ね、勇者。久しぶり」
勇者「本当に久しぶりだね。それに偶然。どうしたの?」
魔術師長「ちょっと実験の材料を買いに市に来たんだ。どう?剣士も一緒にちょっと学院でお茶でもしない?
いろいろあなたたちに訊きたいこともあるし、私も魔法のことでなら何か力になれるかも」
勇者「そうだね、とりあえず今はどこか室内に隠れたい気分だ……」
ざわざわ ざわざわ
212 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/28(火) 14:14:43.71 ID:j3E0y9sZo
* * *
剣士「? ねえ、なんでみんなあそこに集まってるのかな」
魔術師長「ああ、あそこは神殿区の入り口。一日に一回、神殿長があそこから顔を見せるのを信者たちが待ってるんだよ。
ほら、そろそろいらっしゃるわ」
ざわ……
剣士「へえ……。あの人が神殿で一番えらい人なんだよね。僧侶くんの上司の上司の上司?」
勇者「そうなるね」
魔術師長「あっ。神儀官がこっちに来る。私この間、彼女とちょっともめたから顔合わせづらいわ。
ごめん先に行ってる!なんかごまかしといてくれる?」スタスタ
勇者「ええっ ちょっと?」
神儀官「……久しいですね、勇者様。それから初めまして剣士様。
あら、もう一人いたように思えたのですけど、気のせいでしたかね」
勇者「あ はい、そうですね。気のせいかと……」
213 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/28(火) 14:15:51.96 ID:j3E0y9sZo
神儀官「あなたたちの活躍は耳に入っていますよ。魔王の部下のうち1人打ち破ったそうですね。
神殿長様も大層お喜びになっておられます」
神儀官「魔族など……我らが崇める神の神聖なる魔法からは程遠い、なんと野蛮で危険な魔法を操ることか。
あの者たちが生きているということだけで、我ら神殿の意義が揺らぎます」
勇者(野蛮で危険な魔法か……)
勇者(何故だろう。まるで僕の使う術も非難されているような……)
神儀官「勇者様。神から直々に与えられたその力でもって、必ず魔族を根絶やしにすると誓ってくださいな」ニコ
神儀官「それから剣士様。まだ剣を握った月日も短いというのに、大層ご立派な技量をお持ちだと聞いております。
あなたもその剣を振る理由を違えぬよう……」
神儀官「では私はこれで。魔術師長によろしく伝えてください」スッ
剣士「……なんか怖い人」
勇者「釘を刺された気分だな」
僧侶「率直に言って嫌な人だな?」
勇者「うわっ!? 僧侶いつからいたんだ。いやそれより、彼女は女性だよ?」
僧侶「んなの見りゃ分かる。俺が女相手だったら誰にでもでれでれすると思ったら大間違いだぜ。
俺も選り好みくらい、してるっ!!」
剣士「そ……そうだったんだ!?」
214 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/28(火) 14:16:54.09 ID:j3E0y9sZo
僧侶「王都に来て初めて神殿の連中を見たが……まあ思った通りだな。一応気を付けた方がいいぜ」
勇者「気をつける……?」
僧侶「俺たちや魔術師が魔法を使えるのは、あくまで神様の力を借りてるって体だからなぁ。
洗礼を受けて、修業を積んで、聖典を読み込んでってな風に魔法を会得してんだ」
僧侶「だが魔族の奴らは、そんなもん全部すっ飛ばして色んな魔法ぶっ放してるわけだろ。
そういうのが神殿の癪にさわるんじゃねーの。よくわからんが、魔法を独占してる神殿の権威とかが貶められる意味で」
剣士「あれ。でも勇者って、洗礼とか修業してないよね」
僧侶「だから気をつけろって言ったんだ。極端に言えばお前も魔族側なわけだ。神殿にとっちゃおもしろくないんじゃねーのかってこと」
勇者「そんな、僕は別に魔法を使って誰かを傷つけようなんて思っちゃいないよ」
僧侶「お前がなにをしようが関係ない、その力を持ってるってことだけで問題視される……かもしれない。
俺がいま言ったことは全部俺の推測だ、あの女の口ぶりでそういうこともあるかもなってだけ」
僧侶「ま、危惧するのも全部魔王を倒してからの話になるけどな」
勇者「……」
215 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/28(火) 14:17:55.00 ID:j3E0y9sZo
剣士「そんなのひどくない?もし僧侶くんがいま言ったことが本当だとしたら許せないよ。
だったら魔王を倒した後、私が神殿も倒すよ!!」
勇者「えっ」
僧侶「おお……思いきったことを言うなぁ 剣士ちゃん」
勇者「……。まあ、魔王を無事倒せたらそのことは考えるよ。今は魔族のことをまず考えないとね」
副団長「面構えが少し変わったな?勇者」
勇者「うおわっ……だ、だからみんないきなり現れるのやめてくれよ」
副団長「すまんな!!!街を歩いていたら皆を見かけたので、つい全力で走ってきてしまった!!!」
剣士「相変わらずすごいバイタリティ」
僧侶「なんだこの汗臭い男は……」
副団長「戦う意思がようやく鋼のごとく固まったと見えるぞ、3人とも」
217 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/29(水) 00:40:02.91 ID:OxPf79xSo
勇者「そうかもしれない。……塔から下りて目にした、あの壮絶の一言に尽きる光景がまだ瞼の裏から離れない。
吸血鬼と、それから赤目の魔族に殺された人々の血で真っ赤に染まった大地……」
剣士「…………」ゴク
僧侶「ありゃあひどかったな。さすがの俺でも慄然としたぜ」
副団長「塔の警備にあたっていた騎士兵士、魔術師神官含めておよそ150人がやられた。
しかもあんな惨たらしいやり方で……思い出すのもおぞましい」
勇者「もうあんなことさせない。もっと強くなって、早く戦争を終わらせなければ、また繰り返される。
僕が止めなくちゃ」
剣士「僕たちが、でしょ?」
勇者「……うん。僕たちが、止めなくちゃ」
副団長「ああッ!!!!!その意気だッ!!!!!君たちなら絶対にできるッ!!!!共に悪しき者たちを討ち砕こうッッ!!!!!」
僧侶「うっせ」
218 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/29(水) 00:42:09.38 ID:OxPf79xSo
* * *
魔王城
魔王「なんと……吸血鬼が勇者にやられたと……?」
兄「なにっ? なら勇者はあの時、すでに塔の中にいたのか。くそ、そうと知っていれば……」
兄(俺があの時、塔に進んでいたならば……)
魔女「まあ、仕方ありませんね。どうせあいつのことだから調子に乗ってしまったのではなくって? クスクス……」
ヒュドラ「魔王様。聞けばその勇者は、次は私の治める雪の塔に向かっているとか。
私にお任せ下さい。必ずや勇者の首をここに持ってきてやります」
魔女「なぁんだ。先に星の国にくればいいのに……ねえ?人形ちゃんも悲しんでるわ」
魔王「ならばヒュドラに任せよう。しくじるなよ」
炎竜「魔王様、ならばわしも、」
ヒュドラ「炎竜殿。心配は御無用です。私に一任させて頂けますかな」
魔王「炎竜は太陽の国制圧を担当してもらおう……」
炎竜「はっ」
魔王「では散れ。今日はここまでだ。また収集する」
219 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/29(水) 00:43:53.68 ID:OxPf79xSo
兄「……父上。ヒュドラはああ言ってますが、俺にも戦わせてください。
もし勇者の存在が脅威でないとしても、芽は早いうちに摘んでおいたほうがいい」
魔王「いや、息子よ。お前には別の任を与える。娘を連れ戻すのだ。ここ、魔王城に」
兄「……!」
魔王「……変わり者だとは思っていたが、まさか人とともに行方を眩ますとは思わなんだ……
いずれ太陽の国も焦土に変わる。娘をみすみす巻き添えにするわけにもいかん。
それでもいいと、あいつは思って出て行ったのだろうがな。あれでも我が愛しの娘、妻の忘れ形見よ」
魔王「必ず見つけ出してここまで連れてこい。いいな。抵抗されたら力づくでもだ。お前の力の方が娘より強い」
兄「……は、はい」
兄(妹……お前は……)
~~~
220 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/29(水) 00:45:49.48 ID:OxPf79xSo
魔王城 宝物庫
兄(侵入者と聞いたが、術式をこんなにきれいに解く奴なんて限られてくる……大方、)
兄「……やはりお前だったか」
妹「兄さん。……気づかれないようにここに入ったつもりだったんだけどな」
兄「あれでか。痕跡が至るところに残っていたぞ。本当に隠す気があったのか」
妹「え。本当?……えへへ、じゃあ本当は気づいてほしかったのかも……
兄さんにはお別れ、言いたいなって思ってたから」
兄「? 何を言っている?」
妹「ここに侵入しちゃったのは、これ、返しに来たの。人里に入るためにつけてたこの指輪」
兄「『魔力封じの指輪』か……それを返すということは、もう人の土地に行くのをやめたのだな。賢い決断だ」
妹「ううん、そうじゃなくって。あのね兄さん……あの人に、私が魔族だってこと、ばれちゃったの」
兄「はっ!? な、ば、馬鹿。一体どうしたんだ。だからあれほど気をつけろと再三言っただろう!
その者の名を言え。あの国を制圧したら真っ先に俺がこの手で……」
妹「どうして怒っているの?」
兄「それは……お前が傷つけられただろうから……人に思い入れたお前が悪いとは言え、
人間ごときにお前が悩まされることはないだろう……」
妹「違うの。兄さん。私の人とは違う瞳と耳と、それから魔法を見ても、彼は……怖がらなかったよ。
私は私だって言ってくれたの。受け入れてくれたのよ。種族なんて関係なしに」
221 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/29(水) 00:47:00.09 ID:OxPf79xSo
兄「騙されているんだ。まさかお前……駆け落ちなんぞするつもりじゃあないだろうな」
妹「兄さん。聞いてくれる? 私、夢を見たわ。私が夢で未来を視ることは知ってるよね?母さんと同じように」
兄「ああ……」
妹「どんな夢を見たと思う?あれはきっと遠い遠い未来ね。赤い目の魔族の女の子と……それから勇者って呼ばれてた男の子がね、
人間の子どもたちと笑ってたわ。女の子は「魔王」って呼ばれてたのよ。なんだか私に似てたの。
ねえ……とっても幸せな光景だったのよ。想像してみて、兄さん」
兄「馬鹿な。あり得ない。魔王と勇者が共に笑い合うなど、そんなふざけた話があるか!」
妹「あるのよ。遙か彼方の遠い未来で。私が視たんだもの。……私ね、魔族のみんなと同じくらい人が好き。
魔法なんて使えなくったって、弱くったって、彼らはとっても一生懸命に生きてるんだよ。
花を愛でる気持ちも、家族を愛する気持ちも、私たちと何一つ違わないわ」
妹「だから私は、私のやり方で未来を辿るわ。夢で視たあの光景にいつか世界が追い付くように。
ごめんね兄さん。お父様には、本当に申し訳なく思ってるのだけど……兄さんがお父様を支えてあげて」
兄「なにを言って……正気か?」
妹「お父様に最後に会えないのは悲しいけど、会ったら絶対止められちゃうわ。兄さんに会えてよかった」
兄「……」
222 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/29(水) 00:51:01.30 ID:OxPf79xSo
兄「そんな未来が真実あるとするのなら、今俺たちが行っていることはなんだというのだ。
俺は……俺だって……殺さずにいられたら、何も奪わずにいられたらそれが最良だ……しかし」
兄「もう戦争は始っていて、終わらせねばならん。未来がどうあれ、決着をつけねば。
そしてそれは、俺たちの勝利という形でなければならない。敗北者には死と屈辱が待っているのだから」
妹「勝利も敗北も無意味だっていうことに、いつか兄さんも気づくわ。
それでも戦うというなら……私の大切な兄さん。世界でたったひとりの兄さん……」
妹「本当は、私の魔力は何かの水晶にでも封じようかと思ってたのだけど、全部兄さんへのおまじないに使うね。
私のほとんどすべての魔力を使った、最後の魔法だよ」
兄「何をするつもりだ?」
妹「兄さんが大ピンチに陥ったときに、きっとこの魔法が兄さんを守ってくれる。とびきりの魔法なの」
兄「……魔力のほぼすべてを……本気なんだな」
妹「もう必要ないのよ」
223 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/29(水) 00:51:38.05 ID:OxPf79xSo
兄「……どうせ言っても聞かないか」
妹「うん。どんな結末になったとしても、これは私の選択なのよ。私は後悔しない。だから兄さんも責任なんて感じないでね」
兄「俺の心配をする前に自分の心配をしろ。……死ぬなよ」
妹「死なないわ」
妹「さよなら!兄さん。元気でね……ごめんなさい」
兄「…………ああ……」
兄「……」
225 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/30(木) 11:27:33.62 ID:nJnhUEEmo
* * *
老弓兵「これが慰霊碑だ。ここにあいつの名前が……ほら」
狩人「……はい……」
老弓兵「あいつはよく、お前さんのこと話してたよ。そりゃもう嬉しそうに。
聞いてる俺たちの耳にタコができそうだった。ははは……」
老弓兵「あいつの最期は……?」
狩人「聞いてます」
老弓兵「そうか……。……あんたがどうしても弓兵になりたいってんなら反対しないがね、
復讐のために兵士になる奴なんてザラだし……しかし、老婆心から言わせてもらうと……」
狩人「いえ。私は戦います」
老弓兵「……そうかい。あんたがそうしなきゃ生きれないなら仕方ないよ。
じゃあしばらくここでゆっくりしてくといい」
狩人「ありがとうございました……」
226 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/30(木) 11:28:45.86 ID:nJnhUEEmo
狩人「……」
僧侶(あれ。狩人ちゃん、こんなところで一体なにを……慰霊碑?)
僧侶「なにしてんだい」
狩人「……祈りを捧げてました」
僧侶「ああ……って慰霊碑の前にいるんだからそうだよな。
俺の知ってた奴も何人かここに名前が刻まれてんだ。
僧侶ちゃんは……家族がここに?それとも友人?」
狩人「婚約者が」
僧侶「ああ婚約者が…………こんっっ!?!? あ、ああ……そ、そうだったのか」
狩人「里で一番の弓の使い手だった。国を守るために兵士になるって言って里を出たっきり。
1年前に魔族に殺されてもういません」
僧侶「ああ……」
狩人「遺体は……ひどかったです」
狩人「だから私は彼に教わった弓術でもって仇をとりたい。
それくらいしか私にできることは……ない……から」
僧侶「俺も同じだな。婚約者なんてもんじゃないが。
いきなり生活ブッ壊されて、生きてた連中あんな化け物にされて、こんなんじゃ腹の虫が収まらねーよ
」
僧侶「なあ、狩人ちゃん。俺たちと一緒に行こうぜ。王都に残るなんて言わずにさ。
結構俺たちもなかなかいいパーティになってきたんじゃないかって思うんだけど」
狩人「一緒に……」
僧侶「それにさ、あいつらだけじゃ不安じゃないか?あのオトボケ勇者に天然剣士ちゃんの二人だぜ
俺たちが支えてあげねーといつしくじるか分かったもんじゃねーよ」
狩人「……」
僧侶「ん?なんだ……俺の顔になんかついてる!?」
227 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/30(木) 11:30:21.74 ID:nJnhUEEmo
狩人「意外だと思って……」
僧侶「意外?」
狩人「意外と……世話焼き」
僧侶「今はお節介な男が王都でもてるらしいからな」
狩人「そんなの……聞いたことないです。でも……そうですね。確かに3人だと不安……」
僧侶「3人って俺も入ってんのかよ」
狩人「だから、一緒に連れていってもらえますか」
僧侶「……ああ、勿論!」
剣士「あっ!僧侶くんに狩人ちゃん!ここで会うなんて偶然だねー、なにしてるの?」
狩人「……剣士、勇者」
勇者「だれがオトボケ勇者だよ」
僧侶「うわーっ!お前すっげえ地獄耳な!!こわっ!!きもっ!!」
勇者「うるさいな……色ボケ僧侶」
僧侶「てめーーー言ってはいけないことを言ったな覚悟しろ」
勇者「いたっ!!」
剣士「二人ともうるさーい!こういうところでは静かにしないといけないんだよっ!!」
狩人「……」クス
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228 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/30(木) 11:33:06.77 ID:nJnhUEEmo
『太陽の国の山奥にある小さな村で育った私は、雪の国に入国する時に初めて海を見ました。
本当は陸から国境まで行った方が早かったのですけど、魔族の襲撃を恐れる船の方に
護衛として一緒に乗ってほしいって言われて。
遠回りになっちゃうけど海を見ることができて私はとっても嬉しかったです。
雪の国に近い海だったから、水は冷たくて指先をつけてみるのが精いっぱいでした。
そしたら狩人ちゃんが、誰かに宛てた手紙をボトルに入れて流すっていう遊びを教えてくれて、
今まさにそれをやってみてるところなんですけど……あ、狩人ちゃんって言うのは一緒に旅をしてる仲間で、
あと僧侶くんと勇者も一緒に旅をしてて、勇者の名前はハロルドって言うんですけど勇者だから勇者なんです。
なんで旅をしてるかって言うと魔王を倒すためです。あ、私は剣士だよ。最近剣の扱いも上手くなってきました!
自分で言うのもなんだけど!
乗る予定の船が明日出港予定なので、今日は夕方、港に出ている露店をみんなで見に行きました。
大きなイカの日干しにびっくりしてたら、勇者がふわふわの雲みたいなの手に持ってて、
なにそれって訊いたら「雲だよ」って本当にそう言うからもっとびっくりしちゃったよ。魔法で作ったんだって。
食べてみたら砂糖みたいに甘くって……雲って甘いんだ、って呆然としてたら、
横にいた狩人ちゃんと勇者がなんか含み笑いしてるのね。はっとして、近くの露店に目を配ったら、雲と同じのがありました。
「わたあめ」って言うんだって。ええとつまり、私は二人に一杯食わされたってことなんです。
二人で私を騙すなんて、ひどいと思いませんか?全くもう。
でもその後会った僧侶くんに同じことやってみせたら……彼も見事に騙されてました。すっごくびっくりしてたな。
ああ、もう便箋がなくなっちゃう。なんだか変な手紙になっちゃったけど……うーん、ごめんなさい。
家族以外に手紙なんて書いたことないから、不慣れなんです。敬語もちょっと変かも。
では、親愛なる誰かさんへ。あなたの幸福を祈っています。
Nina 』
229 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/30(木) 11:35:23.85 ID:nJnhUEEmo
少年は時計屋が手紙を読み終えるのを待って、途中から止まったままだった右手を思わずというようにこめかみにあてた。
その内容は昔祖父が読んでくれたあの手紙のものと酷似していた。
「信じられないなぁ。それ、僕が持ってる手紙を書いた人と同じだ。小さいころ、海辺を歩いてるときに見つけたんですよ」
「俺はこの街の大河で釣りをしてたら見つけたんだ。なんだか捨てられなくてな」
よかったらこれ、やるよ。時計屋の青年が、瓶ごと少年の手に押しつける。
二人が店の奥にある青年の私室にいるにも関わらず、
店頭にずらりと客を圧倒するように飾ってある時計たちのカチコチ、カチコチと秒針を鳴らす音がここまで響いていた。
「いいんですか」
「いいって。俺が持ってたってしょうがねえしな。もしかしたら3通目もあるかもしれないぜ。おたく、旅してんだろ?そのうち見つけるかもな」
楽観的に時計屋が笑うのにつられて、少年も口端を上げた。
本当にそうなればいいのに。
しかし少年が子どもの頃に聴いた手紙には、4通目だと「Nina」は書いていた。
海を漂っているだろうあとの2通を彼が受け取れる確率は、恐らく天文学的に低い。
230 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/30(木) 11:37:01.80 ID:nJnhUEEmo
笑う傍らでそんな諦観を覚えながら、ようやく彼は作業を再開する。
テーブルには祖父から受け継いだ珍妙な器具が鎮座しており、どれも時計屋にとっては見たこともないような品ばかりだった。
すり鉢のようなもので薬草をすり潰している彼に、青年が頬杖をつきながら尋ねた。
「おたくみたいな若い薬師、いるんだな。しかも旅してこんな辺鄙な村までよくもまあ。
しかも一人で。いつから旅してるんだ?」
「祖父が亡くなってからだから……3年前くらいからかな」
「ふうん。大変なんだな……。でも薬師なんて、都市で勤務するのが普通なんだぜ。結構稼げるって話だ。
旅なんてしてちゃ、おたくの懐に入ってくるのは雀の涙みたいなもんだろ?なんで旅なんかしてるんだ」
俗物的な質問をぶつけられて、彼は苦笑した。
しかし時計屋が本当に単なる興味本位で訊いていることが分かっていたので、
彼も軽い気持ちで一片の衒いもなく答えた。
むしろ青年の裏表のない、竹を割ったような性格に、今日出会ったばかりだと言うのに親しみを覚えていた。
「祖父から教わったことをできるだけ広めたくて。都市や大きな街から離れたところだと、神官さんもいないから」
「確かにな」
「……はい、できましたよ。これが関節痛に効く薬です。
とりあえず2カ月分作りましたけど、なくなりそうになったら僕宛てに鳥を飛ばしてくれれば届けさせます」
231 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/30(木) 11:38:41.82 ID:nJnhUEEmo
お待たせしてすみませんと謝ると、それには答えず青年は彼の目をじっと見た後「すごいな」と感嘆した。
薬は青年の父親へのものだった。今も足の痛みに悩まされて店の2階で休んでいる。
ここのところ店番は息子にまかせっきりだったそうだ。
「ありがとな。これで親父もよくなるだろうよ」
青年は一度店頭に行くとすぐ戻ってきて、彼に小さな懐中時計を手渡した。
金属のひやりとした感触が手のひらに広がり、手から零れた鎖がたてた軽やかな音が心地よく彼の耳朶を打った。。
「これ礼。俺が作ったやつなんだ。ちょっと特殊な時計でな。耳を当ててみろよ」
言う通りにしてみると、いかにこの時計が彼に役に立つかが分かった。
「大事にするよ」何度も礼を言って時計屋の扉を開ける。胸から下げた懐中時計がカチコチと絶え間なく高らかに鳴いていた。
232 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/30(木) 11:39:49.70 ID:nJnhUEEmo
「お待たせ、オリビア」
オリビアが尻尾を振って彼にすり寄ってくる。
遅いと抗議するように何度も彼の手に頭を押しつけて、それから胸の懐中時計に気づくと訝しげにふんふん鼻を鳴らした。
オリビアは一緒に旅をしている唯一の彼の仲間だ。
3歳の大型犬で、旅をはじめた頃は両手で持てるくらい小さかったのに、今では立ちあがってのしかかられると彼の方が力負けしてしまう程成長を遂げた。
「もらったんだよ」
なめられそうな気配を察知して、すぐに時計を外套の中にしまった。唾液でべとべとにされたらたまらない。
「さあ、じゃあ行こうか」
233 : ◆TRhdaykzHI 2014/01/30(木) 11:43:19.23 ID:nJnhUEEmo
オリビアとともに街道を行く。
午後の日差しは柔らかく霞んでいて、木漏れ日が彼の外套とオリビアの金色に波打つ毛皮にまだら模様をつくった。
ふと手紙を思いだす。海を渡り、雪の国へと赴く彼女たちを想像した。。
大昔の手紙だということは分かっていたが、遠く離れた雪舞い落ちる冬の地で、いまこの瞬間にも寒さを吹き飛ばすほど彼女達が賑やかに騒いでいそうな気がしてならなかった。
狩人に、僧侶に、手紙を書いた剣士、それから勇者。
1世紀前の人魔戦争でこの国を勝利に導いたとされる先代勇者とその仲間。
一体どんな人たちだったのだろうか。
王都に近づいたら、王立図書館で先代勇者たちのことを調べてみようと彼は考える。
これまで旅の途中に訪れた町にある小さな図書館には、ほとんど彼らに関する資料がなかったからだ。
「でも、まだまだ遠いな」
独り言を呟くと、オリビアがそんな弱気な彼を叱咤するようにワンとひとつ吠えた。
ときどき彼はこの相棒のことをお目付け役かなにかに感じてしまう。
「分かってるよ」
誤魔化しながら歩を進める。
王都どころか、次の街までもかなり距離があったが、
彼は外套の中で光る真新しい懐中時計と賢い愛犬とともに、晴れやかな気持ちで午後の空の下をゆったりと歩き続けたのだった。