ホラー

【洒落怖】お久しぶり

85: Classical名無しさん:07/11/21 17:25 ID:fN5XjLSU

怖い話というか、ちょっと不思議ないい話です。3分割します。

うちの両親は東京で知り合ったんだけど、どっちもたまたまA県A市出身。
学生の頃から東京で暮らしており、仕事関係で知り合い結婚して、そのまま東京在住。

3歳の頃、父、母、8歳上の姉、俺が集った晩飯時。
いきなり俺(名前はM本良K)が、
「ねえお母さん、そこに知らないおじいさんが立ってボクを見て笑ってるよ」って言い出した。
そこには誰もいないので、父も母も姉もさすがにびっくりしたって。
父も母も、「何言ってるの良K(俺の名前)、誰もいないでしょ」と言ったらしいが、
俺は頑に「いるよそこに!笑ってるもん!帽子かぶってるおじいさんいるよ!」って言い張ったとか。
ちょっとして俺は、「あ、おじいさん今いなくなった。手を振ってたよ」と言い、食事に戻った。

すると父がいきなり、「あ!良秀おじさんじゃねえか?」と言いだして、母は「やめてよ!」と怒ったらしい。
ちょっとした後に家の電話が鳴り、父が出ると、
A県A市の親戚から「良秀さんが今亡くなったよ」という知らせ。
全く知らない俺は普通に食事をしているが、父も母もかなり驚いたそうだ。

その良秀さんというのは俺の父の育ての親みたいな人。結婚してるが子供がいなかった。
俺の父の父(祖父)は早くに亡くなり、代わりに祖父の弟である良秀さんが
父の母(祖母)と、父と、父の姉をいろいろ面倒見たという話だった。

自営業を営んでいて、いつも帽子をかぶっていたらしい。
察するところ、きっと作業着だと思う。父はそれでハッと気づいたのではないかと。
良秀さんは俺が生まれたとき、すでにその頃入退院を繰り返していたがわざわざ東京まできて、
父に、「お願いだ。名前に良の字を入れてくれ。俺は子供いねえから、
何か残したいんだ」と懇願し、父も快諾して俺の名前に「良」の1文字が入る事になった。
良秀さんの奥さんも2年後に亡くなり、その後、良秀さんの自宅もなくなってしまった。

※この話は、3歳の事なので俺自身には記憶はない。父と母と姉から聞いた話。
(つづく)

86: Classical名無しさん:07/11/21 17:26 ID:fN5XjLSU
俺の父は、俺が小学5年の冬に病気で亡くなってしまった。
小学6年まで東京にいたが、結局、中学からは両親の実家があるA県A市で暮らす事になった。
母の実家で暮らす事となったが、父の実家(父の姉が住んでいる)の家もけっこう近く、
年に2回は必ず母と姉と3人で顔を出していた。そのときは良秀さんの遺影にもちゃんと挨拶してた。

結局俺は高校卒業後、東京の大学へ行き、サラリーマンをして1人で暮らしていた。
29歳の時にA県にいる母の体調が悪くなり、翌年に母の実家へ戻る事となった。
しかし、戻ったはいいけど、いかんせんやりたい仕事が見つからない。
職安に行っては悩み、結局動かず、みたいな日々を繰り返していた。

そうこうして2ヶ月くらい経ったある日、近くに住む高校時代の友達から電話がきた。
「気分転換にでもちょっとドライブ行くか?」と誘ってくれたので、友達の車で週末に出かけた。
生粋の地元民である友達は俺の知らない地域をいろいろと案内してくれて、かなり遠くまで行った。

夕方くらいに県境付近まで来て、その郷愁感にも影響された俺と友達は帰りたくなくなってきて、
「このまま、この辺で酒飲んで泊まろうか」って話になった。
ホテルを確保して少し付近を歩いてみると、居酒屋を見つけたのでそこへ入った。

最初は、東京での仕事話やA市のいた頃の話なんかをして盛り上がっていたが、
飲むに連れてついつい愚痴っぽくなって、「こっち全然仕事ないよな~、どうしようかな~」と言い出し始め、
それを友達が「いいことあるよ、頑張れよ」的な感じになりグダグダしていた時、
通路を隔ててはす向かいの席にいる老人がなぜか俺をジッと見ていることに気がついた。

東京の話してるから珍しいのかな?なんて思いながら、俺もその老人をちらちら見て目が合っていた。
まあでも、こっちも酔ってきたので気にせず、相変わらず俺は愚痴をこぼしていた。

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87: Classical名無しさん:07/11/21 17:28 ID:fN5XjLSU
そのうち友達もかなり酔ってしまい、2人して大声でワイワイと会話していた。友達が、
「M本良K(俺の名前)、しっかりせい!頑張ればなんとかなるで!よし、景気漬けにキャバクラだ~」
なんて言い出して、そろそろここを出るかという矢先に、
はす向かいの老人が「あなた、M本さんっていうの?」と、立ち上がって口を開いた。

間違いなく俺に向かって話しかけている。
俺は「はい、そうですけど」としか答えられなかった。少し良いが覚めた。
老人を背にして座っていた友達は何がなんだかわからないという顔。
老人は「今日はA市から来たの?」と聞いてきて、俺はまた「はいそうです」とだけ答えた。

「何を、耳そばだてて聞いてたんだこの人は」と思って、俺はたぶん訝しい顔をしたはず。
さらに「あなたの親戚で良秀さんって人、おじいさんだと思うけど、知りませんか?」と聞いてきた。
俺はすごい驚いたが、「親戚でいましたけど…」と答えた。

すると老人は、根掘り葉掘り聞き始めてきた。
話すと、意外に感じは悪くなかったので、つい俺もいろいろと丁寧に答えてしまった。
「A市のT町で小さい会社やってたって聞いてないですか?」と聞かれて、
「もうとっくの昔になくなりましたけど、やってたそうですよ」と答えた。

すると老人は突然、「ああ、私ね、良秀さんに世話なったんだよ~、はあ~~信じられない」と涙を浮かべた。
この話に友達が急に身を乗り出して、老人に話しかけた。もちろん俺も聞いてみた。

(4分割になります、あと1つ)

88: Classical名無しさん:07/11/21 17:28 ID:fN5XjLSU
いろいろ話してみてわかったこと。
この老人(K谷さんという)はその付近に住んでいる人。
良秀さんの経営する小さな会社で5年間働いていたが、都合がありA県A市を離れた。

それからずっと近隣の県で暮らしていた。
身寄りのいなかったK谷さんに良秀さんはすごく優しくしてくれたそうで、
自己都合で退社する際に旅費まで出してくれた、と話していた。
「苦しい時代にあれだけ他人に思いやりをもっていた人はいなかったよ」と。

K谷さんは仕事を引退してからA県に戻ってきて今のところに住んでいた。
ずっと良秀さんに会いたかっけど、会う術を知らなかったとかで、悔やんでいたと。
俺を見たときに「なんだか似てるなあ」と思い出したそうで、だからジッと見ていたらしい。
(ちなみに祖父も父も良秀さんも俺も、みんな顔が似ている)
話を聞いていると俺の名前が出てきて、名前まで似てると。それで声をかけたそうだ。

翌日、K谷さんの家に行く約束をしたので、昼に待ち合わせてからお邪魔した。
K谷さんは、良秀さんからもらった手紙をいまだに保管しており、タンスから出して準備してくれていた。
俺はもちろん良秀さんのことはよくわからないが、とにかく感動した。

俺はA市に戻ってすぐ母にこのことを話し、翌日には電話で父の姉にも話した。
その後、翌週にK谷さんはA市まで1人で何時間か電車に乗って出てきた。
何十年ぶりかに、良秀さんの遺影に向かって「おひさしぶりです」と涙を流していた。
こんなことってあるんだなあ、と本当に不思議だったが、必然以外ありえないよねこれって。

(おわり)

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