ホラー

【洒落怖】2chの怖い話「巣くうもの」

救うものシリーズ概要

巣くうものシリーズ解説
2ちゃんねるのオカルト板のスレ「死ぬほど洒落にならない話を集めてみない?(通称・洒落怖)」に投稿された一連のレス、およびそれに登場する霊的存在。 8つのレスそれぞれに「巣くうもの」「呪いの部屋」「原発並み」「印」「指輪」「融合体」「呪いのコンパクト」「模倣」のタイトルが付けられている。

概要

  • 「巣くうもの」とはみえるひとな女友達Aが言うには、Bの身体を出入りしている何か。普通の霊と違うものがいる。寄生虫との関係に似た状態とのこと。
  • 霊的なものは大抵それを避けるのでBは心霊体験をできない。B本人は気づいてない。
  • ひとまずは当時のAが知る限り、ソレはBを守っていた。
  • しかしAが感じる気配では、とても善意の守護ではない。というか悪い感じらしい。
  • 強力な霊とBのナニかが戦うときにはB当人は爆睡する、というAの推測
  • 成長している。
  • 情念がなく、何か意思があって動いてるのは解っているが、その源になる感情は感じられない。
  • 巣くうもの

    何年か前にあった怖い話を投下する。

    そん時は俺は地方大学の学生で、同じ科の連中とグループでよく遊んでた。
    たまに混ざる奴もいて、男4~6人で女4人。
    一人暮らしの奴の部屋で集まって飲んでると、よく怪談したがる女の子がいた。
    決まって嫌な顔する子も居て、Aとする。
    こっちの子が俺とかなり仲良かった。

    怪談好きな方をBとするが、Bも別に電波とかじゃなくて、怪談も体験談はなくて、それこそこのスレで面白い話を仕込んできてんじゃないか、
    みたいな怖い話をする子で、本当は幽霊とか信じてなさそうだった。

    むしろAの方が「見えるんだ」と言ってて、AはいつもBを避けてる感じだった。
    2人で遊ぶとかは絶対ないし、グループでも距離を開けたがってる雰囲気で
    俺とあと一人、Aの「見える」を聞いて信じてる奴(Cとする)は、本当に霊感があったら遊びで怪談するなんて嫌なのかもしれない、と思ってた。

    ある日、Bと仲のいい男の一人が、恐怖スポットの話を仕入れてきてた。
    車で30分くらいで行ける場所にあるそうで、Bも他の連中も面白がって、その場で肝だめしツアー決定。

    来てない他の連中も呼び出そうってことになって、俺はAに電話した。
    俺自身は行く気だったけどAは来ないだろうな、と思い
    「これから~~の辺りに行くってことになったんだ。ただ、肝試しだし他にも来ない奴いると思うし」
    と言った。そしたら、Aは遮るように
    「それって、何か大きな空き家のこと?その辺りで肝試しって」
    「あ、そう。その家の裏に何かあるらしいから」
    「………よした方が良くない?ってか、やめなよ。誰かの家で飲んで怪談したらいいじゃん、わざわざ行かなくても」
    よりによってAに怪談話を進められて少し驚いたが、仲間たちは既にノリノリで準備中。
    「いや……みんな行く気だし。Aは気が進まないなら、今回は外していいと思うけど」
    するとAは少し黙って
    「………Bは行くの?」
    「行くよ。一番、やる気満々だし」
    「……そうなんだ……じゃ、私も行くから、ちょっと待ってて」
    たまげたことに、Aは本当に来てBと一緒に車に乗った。
    結局これない奴も居て、総勢6人で、一台(ワゴン)に乗って出発した。

    Bは少しKYなとこがあって、Aに距離置かれてるのもあんまり解ってないっぽく、車中で初めは面白そうにお喋りし続けてたが、すぐに欠伸をし始めた。
    「バイトとかで疲れてんのかなー。眠い~」
    眠そうに呟くBに、Aが
    「寝てなよ。着いたら起こしたげる」
    「ありがと。ごめん、少しだけ寝る」
    Bは運転してる奴に断ってうとうとし始め、Aは黙って窓の外を見てた。

    で。着いたときもBは起きなくて、もはや完全に熟睡。てか爆睡。
    「寝かしとく?」って俺らが顔を見合わせたら、Aが
    「連れてくね。後で怒るよ、置いてったら」
    ってBを担ぎ起こして、強引に車から出したんだよ。
    仕方ないからCが背負ってやったんだけど、AはBの手を掴んでて、他の車の奴らが降りてきたら、一番先頭に立って歩いてった。

    そこにあった古い家は、普通に不気味な空き家で、皆は結構もりあがって「うわー」とか言ってた。Bは起きないまま。AはBの手を掴んだまま。
    いよいよ本番で、家の後ろに回ったら、何かぽつんと古井戸みたいなもんがあった。
    近寄ってのぞいて見ると、乾いた井戸の中に、ちっちゃな和式の人形の家みたいなもんが見えた。
    「何だー?」って一人が身を乗り出したのと、Aが
    「さがってっ!」て叫んだのが同時だった。
    覗いた奴がびびって身体ひっこめた、そのすぐ後に
    「カシャ……」だか「ズシャ……」だか、何か金属っぽいような小さな音がした。
    「下がって!下がって!こっち来てっ!」
    Aが喚き出すまでもなく、もう何か、すごい嫌な感じが一杯だった。
    カシャカシャ、ガシャズシャ、て変なジャリジャリした音が、しかもどんどん増えながら来るんだよ。
    その訳解らん井戸の中から
    こ っ ち に む か っ て 。

    もう逃げたいのに身体が動かなくて、横見たらやっぱり仲間がへたってるし
    音は近づいてきて、姿は見えないけど絶対に何か居たと思う。
    「俺君、もっとこっち来て!!!!」
    Aが怒鳴りながら俺の手を掴んで、何かを掴ませた。
    俺が掴んだのを見たAは、今度は少し横でヘタってる奴を必死で引っ張って、また何かをつかませてる。
    てか。よく見たら、俺が掴んでるのはBの右足。さっきの奴が掴んだのはBの左手。
    Bの右手はAが掴んでる。Cは相変わらずBをおぶってる。AはBから手を離さずに
    必死に他の仲間を引っ張り寄せてた。
    その後のことは、色々とよく解らなかった。
    ただハッキリ覚えてるのは、気がついたら、目の前に何かがいたこと。
    白いんだかグレーなんだか透明なんだか、煙なんだか人影なんだか、何か良く解らない「何か」が俺らの前に居た。
    ちょうどその辺りから、ガシャガシャガシャガシャガシャ、ズシャズシャズシャズシャズシャ、みたいな金属音が耳一杯に響いてきてた。
    いや、こう書くとその煙みたいなもんが金属音立ててたみたいだけど、そうじゃなかった。
    俺らは「煙か人影みたいなもん」の背中を見てて、それが「見えない金属音の奴」とぶつかり合って止めてるんだって、そういう光景だった。

    「俺君、C君、動ける?逃げよ!!速く逃げようよ!」
    Aが叫んで、俺らは必死で身体を動かして車へ向かって、何とか乗り込んで逃げ出した。
    Cがハンドルを握る車の中で俺が振り返ったとき、もう何も見えなかったけど、金属音だけは結構長いこと耳に残ってた。

    その後。結局帰り着くまで熟睡こいてたBに「何も出なかったから起こさなかった」と
    説明して帰らせた後、皆で震えながら明け方まで飲んだ。

    数日後にAを捕まえて経緯を聞いたら、げんなりした顔でいろいろ教えてくれた。
    あの古井戸がマジで危ない本物だったのは予想通り。
    「家の正面に居る分には大丈夫だけど、裏に回って井戸まで見たらダメ」
    だそうだった。
    問題は俺らを助けてくれた妙な影なんだけど、Aは凄い嫌な顔で
    「あれはBの……何ていうか、ついてるものなの」
    と言った。
    AがBを避けてたのは、嫌いだからじゃないそうだった。
    ただ、Bに纏わりついてるものがいて、それが凄く強くて薄気味悪いものだったんだと。
    で、初めはBに取りついてる霊か、と考えたがどうしても違和感があって。
    ある日、Bから出てくる『それ』を見て、不意に気づいたんだそうだ。

    『それ』は『Bの中』にいるんだと。

    「……Bがあれのいる世界に繋がってて出入り口になってるのか、それともB自体があれの棲む場所なのか、どっちかだと思う」
    Aもよくは解らないようで、とにかくそれはBから出てきてまた戻っていくんだと言っていた。他の霊的なものは全部Bを避けるそうで、多分あれのせいで近寄れないんだとも。

    「あれは私たちを守ったんじゃないし、Bのことも大事だとかじゃないと思う。ただ、ドアとか家が壊れたら困るでしょ。だから」
    何とかした方がいいのか、と思っても、Bは本気では霊を信じていないようだったし、普通の霊じゃないから払えるとも思えなかった。
    だから放っておいたけど、自分は近寄りたくなかったんだ、とAは言った。
    ただ、『それ』がBを深刻な危険から守っているのは知っていた。

    そして、あの日俺らが本当に危ない場所に行くと感じて、止められないならBの中に居る『それ』に守ってもらうしかない、と考えてついてきたのだという。
    「あれが守るのはBだけだからね。少しでも離れたら、井戸から来てた方に憑かれて人生終わってたよ。俺君も、他の皆も」
    言われて背筋が寒くなったのを紛らそうとして
    「……でも、何だろうな?Bについてるのって。結構よくないか?結局守ってくれるんなら」
    そう言ったら、Aは羨むような蔑むような複雑な眼を向けてきた。
    「あのね俺君。お腹に住みついた寄生虫が孵化するまでは守ってくれるって言ったら、それって嬉しい?」
    「……」
    ……何となく、言いたいことが解った。
    Bに巣くってるモノは、とにかく自分だけの都合でBの中に居座ったり顔を出したりするわけで、ひょっとしたらBから何かを奪ってるのかもしれないわけで。
    いつか自分の都合でBをぶち破って出て行ったりするかもしれないわけで、その時には周りにも影響するかもしれないわけで、しかもBは本気で何ひとつ全く気づいていないわけで。
    「放っとくしかないんだよね」
    そう言ってAはため息をついた。
    「井戸から出てきた方も、凄かった。神様が最悪の状態になったみたいな感じだった。
    並みの霊能者とかじゃ負けちゃうだろうって思うくらいの奴だった。
    あんなのと渡り合える、Bの『あれ』も、どうせ何やってもどうもできない」

    それから時間が経って、俺もAもBも社会人。
    ふと思い出したんで、投下しました。
    ちなみに、理由はBから連絡あったから。
    結婚した上に子供も生まれて元気にやってるそうです。
    Aに電話してそう言ったら
    「Bが寿命になるまで、あれが大人しくしててくれたら、それが一番いいよね」
    と言ってたところからして、Aは、Bが今もあれを背負ってると確信してるようです。

    普通の霊と違う、そして人間の『中』に居る『何か』って、何なんでしょうね?いや、井戸の底のミニハウスから来た金属音も気になりますが。
    どっちでもいいんで、誰か心当たりでもあったら、教えて下さい。
    長文すみません。以上です。

    上で井戸の底のミニハウスと、知り合いの中に住んでるモノの話を書いた者です。
    タイミングの悪いときに書いたようで、残念でした。
    おまけに、その後アクセス規制に巻き込まれたorz
    オカ板に何か知ってる人でもいないかな、と考えたのですが。

    余談ですが、Bは怪談と共に時々
    「本当の霊体験がしてみたい!一度もないんだよね」
    と言っていました。
    上の話の前後にも肝試しやらコックリさん系の遊びやらを試してみていたようですが、全敗らしかったです。

    後にAが言ったところでは
    「無理だと思うよ。アレはB本人には見えないようになってるみたいだし、他の霊は、霊感のあるなし以前に、全く何もBに近づかないから。
    井戸のあの音はちょっと並じゃなかったから、近づこうとしたんだろうけど。
    だからBのアレも、Bを眠らせて全力でやったんじゃないのかな。これは想像だけど」
    そう言えば、あの夜はAがあんだけ叫んだのにBは眼を覚ます気配もなかったな、と思いました。

    なお俺は、それより前にBが雑談で
    「家で一人でコックリさん(みたいな何か心霊系の遊び)したけど、反応ないし、眠くなってそのまま昼寝しちゃった。あーゆーのって中々、成功しないね」
    と言うのを聞いた記憶があります。
    ……いや、成功してたんだったりして……というか、だとしたら、その時は何が来てたんだか……

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    呪いの部屋

    何でも、Aが、もう1人学生時代の友人(Fとします)に誘われて、二人でB宅を訪問してきたそうです。
    「何か」が今もいるのか、そして何よりBの子供は普通なのかどうかが知りたかったと。
    最も帰ってきた後の話を聞くと
    「……行くんじゃなかった……」と言ってましたが。

    Aによると、Bは郊外のやや長閑なところに住んでいて、喜んで迎えてくれたそうです。
    休日だったので、B夫と子供も居て挨拶したと言っていました。

    そして結論から言って、やっぱり「何か」はBの中に居たそうです。
    ……しかも、A曰く「育ってた」と。
    大きくなってたと言うか強くなってたと言うか、ハッキリしてきてたと言うか。
    「やっぱり形とか顔とか、そういう輪郭は見えないんだけどね。
    霧だとしたら『濃くなってた』、人影だとしたら『立体的になってた』って感じで。
    気配も強くなってて、撒き散らす匂いっていうか放射能みたいなものが増えてた感じで、
    正直ぞっとした」

    また、AとFが最寄り駅に降りたときから、街そのものが酷く嫌な感じが漂ってたそうです。
    「みえるひと」でないFさえも落ち着かない様子で、
    「……何だか変わった感じするとこだね。子供が多いわりに静かだからかな?
    少し早いけど、お店入るよりBの家いかない?」
    と言うほどだったと。
    Aは、Bの家に向かう間の短い道すがらに、霊的に酷く悪い状態のものを驚くほど大量に見たそうです。
    酷い死に方をして浮かばれないんだ、と一目で判るのとか、性質の良くない動物霊とかがもうウヨウヨしていたと。
    正味の霊だけじゃなく怨念じみた空気の塊?みたいなものとか、物凄く古そうな嫌な気配とか、
    得体の知れないモノが寄って来たりして、本気で怖かったそうです。

    「街が邪念にまみれてるみたいで怖かった。1人だったら引き返してたと思う。でもFに霊の話とかして変だと思われたくなかったし、もう後ろに憑いてきちゃってるのもたみたいだったから。Bの家に行けば何とかなる、と思って、そのまま行った」

    それで急いでB宅に着くと、その中には相変わらず何も近寄れないらしく、
    B宅内はBの背負ってる『何か』の気配が充満してる他は綺麗なもので、むしろホッとしたそうです。

    「B夫もBの赤ちゃんも普通だったよ。ただ、そっち系について物凄く感受性がない人だった。
    元からいいものも悪いものも全然感じなくて、だからどっちの影響も受けなくて、一生『こっち』の現実の世界だけと関わって生きる人が、たまに居るんだよね。
    Bと一緒に暮らすなら、そうでないとダメだと思う。B夫も赤ちゃんも、守護霊が見えなかったから。守護霊もあの家に居られなくて、いなくなったんじゃないのかな」

    ……守護霊いないって、大丈夫なんだろうか。
    2人がBと居ないときは守護霊が戻って来てるのか、とAに訊いてみましたが、そこは解らんとのことでした。

    何はともあれ、久しぶりに会ったんで互いに近況報告したら、Bの趣味、と言うか怪談好きも健在だったそうです。
    そこそこ新しく、立地も良く広々として立派な部屋だったので
    Fが誉めると、何とB宅は、札付きの瑕疵物件だったらしく……
    結構な頻度で住人が変わるせいで、大して古くもないのにB一家は10何番目かの住人だそうでした。中で事故や自殺が複数あり、他にも不幸があって出て行った住人がいたりして評判の部屋になってしまっていたため、家賃は破格の安値だったとか。

    「不動産屋さんも案内してくれたけどあんまり勧めて来なかったしね~。
    近所の人も知ってて、『本当に大丈夫?あのね、何かあったら無理に我慢しないで引越した方がいいよ。こんな話して悪いんだけど、その部屋、色んなことがありすぎるから……気をつけてね』って心配されちゃったよ。
    でも、この人(B夫)そういうの全然気にしないし、私はむしろ幽霊いるなら見てみたいし~」

    のほほんと笑いながらBは言ったそうでした。
    「でも結局、そういうのって話ばっかだよね。うち、もう半年住んでるけど、全然なにもないよ。近所でも事故とか結構あるし、踏み切りではねられちゃった子供もいたし、気をつけなきゃ危ないのは同じなんだよね。偶然この部屋の人に集中したから、呪いの部屋にされちゃったんだろうね」

    ……Fは「そうだよね」と頷いたそうですが、Aは顔が引きつるのをこらえるのがやっとだった、と言っていました。

    A曰く。
    おそらくその部屋は、本物の『呪いの部屋』だったんだと言う事でした。
    何かのきっかけで悪いものの溜まり場になってしまう場所、というのがあるんだそうです。
    霊的な位置関係とか、近くに沼や海があるとか、その方向とか色々なことのせいで、悪いものを吸い寄せて溜め込んでしまうポイントができてしまうことがある、と。
    「それが建物の中で気密性の高い部屋だったりすると、よけいに溜まったものが出てかなくなるの。
    そこに悪いものが溜まるから他の場所が綺麗でいられる、ってこともあるから。……そこにBが住み始めたんだよね、いきなり」
    それは、つまり。
    Aの表現したところでは
    「町中のゴキブリとかムカデとかスズメバチとかを全部集め続けてきた害虫で一杯の小屋の真ん中で、不意に特大のバルサンをたきまくったようなもの」

    だそうでした。そしてAは、こうも言っていました。
    「Bのことが嫌いなんじゃないけど、2度とBの家にもあの辺りにも行かないと思う。
    ……もっと散らばったりして落ち着いた状態になるまで、何年もかかりそうな様子だった」

    Aの言では、B夫とBの子供は大丈夫だろうということでした。
    一緒に暮らしている限り、Bの「何か」の気配が色濃く染み付き続けるから、大概のものは避けていくし、そもそも霊的なものに害を受け難い性質だから、と。
    現に、帰りにB夫が外出のついでに駅まで送ってくれた時には、道にたむろしてる悪いものはむしろ避けていたそうで。

    ……問題は、おそらく付近に住んでいる人だろう、と……
    何か、後味の悪い話になってしまいました。

    読んでくれた人、どうも。
    後味悪くてすまん。

    俺も何かスッキリしなくて、吐き出したかったんだ。
    多分、Aもそうだと思う。
    Aは「みえるひと」だけど、だからって漫画に出てくるスーパー霊能者みたいなことはできないんだと言ってました。
    絶対に勝てない、何もできないと解ってるものには関わらないようにしてる、いちいち手を出してたら今まで生きのびてない、ともらしたのを聞いた記憶があります。

    ただ、何も見えないのに危険は自動的に防がれるBは羨ましくないか、と重ねて尋ねた時には、重そうにハッキリと首を横に振ってました。
    「絶対に、思わない。あんなモノに身体の中に住みつかれて自分で気づいてない、なんて死んでも嫌。上手く説明できないけど、結果として助けて貰ったことがあっても、アレは感覚が受け付けない」
    とのことです。

    普通の霊と何が違うのか、との質問に対する答えは
    「情念がない」
    でした。

    「違和感については説明し難いけど、解りやすく言うとね。
    霊ってある意味で心が剥き出しで存在してるようなものだから、人でも動物でも、必ず何か色、っていうか想いが見えるんだよ。
    『生きたい』とか『苦しい』とか、シンプルなのでも。
    その情念に基づいて、こっちの世界で祟ったり守ったりするんだから。
    でもBのアレは、それが見えない。何か意思があって能動的に動いてるのは解るんだけど、その源になる想いが一貫して全く無い。
    Bの中から出てくる時も、Bの中に戻ってく時も、井戸から出てきたモノとぶつかってた時でさえ、全くなかった。
    霊的なものとしては、絶対にありえないことなんだよ」

    ……本当に何なんだろうか?

    原発並み

    ここまでは前のスレで書きました。
    それを前提として、当時、女友達Bの元彼氏(Eとします)に聞いた小話を思い出して投下。

    Eは一度、Bを実家に連れて行ったそうです。
    そしたら、今までの歴代彼女には親切で礼儀正しかったE姉が、Bに対しては非常に失礼だったそうな。
    無茶な因縁をつけて頭からお茶をかけたり、口汚く罵ったり、失礼というよりイジメのレベル。
    zにかく酷くイライラした感じで、ついにEは姉を台所へ呼び、Bを部屋へ残して、E母とEとで責めたんだそうだ。
    そしたらE姉の言い分が
    「裏のお墓の仏様が、みんなして狂ったように暴れて怖がってる!あんな女が家の中に居るだけで私だって嫌だ!!」
    と、こうだったそうだ。
    EもE母も呆れて相手にせず、あまりにE姉が言い張るので近い内に心療内科へ連れて行こうかと考えつつEは話を切り上げてBのところへ戻った。
    そしたら、なんと、Bは座布団枕に寝てたんだと。
    幾ら起こしても起きないBにもE母は呆れ返り、しかもE姉は追い出せ追い出せとうるさいので、とりあえずEに告げてBを連れ出させ、帰らせた。

    ここまでなら単なる女同士のイビリなんだが、その後があった。
    ……E姉が言った通り、E家の裏には広めの墓地(その向こうに寺も)があり、EがBを車に乗せて走り去った次の日、その墓地で大騒ぎがあったそうだ。
    一夜にして倒れた墓石、数十個。
    真っ二つになったのやらヒビが入ったのやら、削り取られたように表面の文字が消されてたものまであり、幾つもの墓石が偉いことになっていたとか。
    その後、Eが実家付近の噂をE母から聞いたところでは、何でも幾つかの家が何度墓を直しても倒れる。一軒の家が霊能者を頼んだところ
    「ダメですね。何度お墓を直しても、もうご先祖様を呼び戻して安らかに眠らせることは出来ません。……お気の毒ですが、今後の埋葬には別の場所を探された方が良いかもしれません」
    と言われたとか。

    ……Bの「ソレ」と墓地の仏様がモメたんだろうか。
    ってか、E姉はみえるひとだったのか。
    「ソレ」ともめていなくなっちゃった仏様はどこにいったんだろう?とその話を聞いた後でAに尋ねてみたら
    「考えたくないから。てか、凄い気の毒だよね。マイホームで寛いでたらお隣に原発が移動してきたみたいな状態だったと思うよ、その人たちにしたら」
    ……確かに考えたくない事態だな、と思いました。

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    AがB宅を訪問した時のことを、もう1つ話してくれた。
    そっちは上手くまとめ切れなかったのもあり、時間がかかってしまった。
    こっちも後味悪い話なんで、俺としては誰かにブチまけてスッキリしたい。
    すまないが、お付き合い願います。

    Aが友人Fと共にB宅を訪問した際、踏み切りではねられた子供の話が出たことは先に書いた通り。
    その原因は知らぬが花で、Bは切なそうにため息をついたそうです。
    「辛いよね、小さな子供の不幸って。親御さんは死ぬほど辛いだろうね。私だって、この子が大人にもならない内に先にいっちゃったりしたら、どうなるか解らない」
    だよね、とFと頷きあったBは、ふと思い出したように、
    「小学生の頃に同級生に不幸があってね、その子のお母さん半狂乱でさ。
    お葬式に行ったんだけど、近寄ったら凄い目で睨まれて、お前が死ねばよかった、何でうちの子がって怒鳴られて怖かった。
    でも、今なら少し解る気がするなあ」
    しんみり言ったBは、その時の思い出話をしてくれたそうです。
    Bの10年以上前の思い出話 + 俺はAからの又聞き + 少しフェイク
    で解りづらいけど、その話は以下の通り。

    Bの父親は昔、何年かに一度は異動して引越す仕事をしていたそうです。
    で、小学校の3年だか4年だかの頃に田舎に住んでた時期があって、ベッドタウン化が始まったところ、みたいな町で、小学校には転校してきたヨソ者と、地元の住人の両方が通ってたそうです。

    あるとき、Bは同級生の女の子に、自宅へ招かれたと。
    その家は地元の旧家で、他にもヨソ者・地元問わずに何人かの子が呼ばれてて、
    単独で来た子もいれば親と来た子もいて、BはB母に送られて行ったそうです。
    大きな立派な家で、地元の小さなローカルな行事の時期だとかで、同級生の兄弟も友達を呼んでて、そこんちの親戚とかも来てて、ちょっとしたお祭り状態だったとか。

    酒や菓子や料理が出て、子供達は遊んで、大人は話をして、日が暮れかけた頃にそこんちの父親が一同を集めたそうです。
    で、お開きの前にすることがあるから、お姫さま?だか巫女さん?だかの役をやってくれる子供を募る、と言うようなことを言ったらしい。
    衣装も道具もあるので、ぜひ新しく越してきた(ヨソ者)の子の誰かに頼みたい。
    これから仲良くしたいから、と。
    綺麗なヒラヒラした白い服を見て、Bは「ハイハイ!」と真っ先に手を上げ、
    「じゃあ君に」となったそうです。
    そこの人に白い服を着せてもらい、お化粧してもらって白い布を被り、おみこしみたいなものの上に載せてもらって大はしゃぎした記憶があると。
    B母も「あら~!可愛いわよ、B」と喜んで写真を撮ったりしていたとか。
    そこんちの父親、つまり当主の説明では、おみこしに乗って近所の社へ行き、担いできた人たちがおみこしを置いて一度離れる。
    そしたらお姫様はおみこしを降りて神社の中に入って
    お供え物とお酒を置いてくればいい、社の中にいれば迎えに行く、と。
    おみこしにBを乗せて何人かの男性が担ぎ、一行は山道を登っていったそうです。

    「はしゃぎ過ぎたもんだからさ、行く途中で静かになったら凄い眠くなってね。
    うとうとして、気づいたらもう誰もいなかったから、慌てて神社の中に入ったんだけど、もう本気でメチャメチャ眠かったもんだから、
    とにかく適当にお供え物とお酒置いて、そこでダウンしちゃった。
    後でお母さんに聞いたら、おみこし担いでた人が迎えに来たら熟睡してて、回収して負ぶって戻ってくれたんだって。
    『迷惑かけて!!!』ってお母さん怒ってた。
    おまけに、家に帰ってから今度は体調崩して寝込んじゃってさー。
    3日くらい熱が引かなくて、『騒ぎまくった上にあんな所で寝るからよ!』ってお母さんに叱られまくったよ」

    Bが寝込んでる間、祭りの夜にいた地元の大人たちが、頻繁に見舞いに来ていたそうです。
    特にその旧家の同級生母はちょいちょい来てくれ、身体の調子はどうか、変な夢を見て魘されたりしないか、と色々とBに尋ねたそうです。
    「お見舞いにって、お姫様の衣装、もって来てくれたの。
    私が気に入ったみたいだから、部屋に飾っておいたらいいよって。他にも、そこの神社のお守りとか、お祭りのときのお供え物とかくれてさ。迷惑かけたのに怒ってなくて、優しかったんだよ、そのおばさん。だけどね」

    Bがようやく熱が下がり、回復して学校へ行ってみると。
    その、招いてくれた旧家の子が、B回復の前日に、亡くなっていたそうです。
    B母とBが連れ立って葬儀に行ったら、Bたちを見た同級生母が凄まじい勢いで喚き始めたと。
    『何であんたが生きてるんだ』『どうしてうちの子が連れてかれるんだ』
    『××に行くのはあんたのはずだ、印はどうした』
    などなど正気でない調子で喚かれ、B母が例の白い衣装を返そうとすると同級生母はさらに激昂して、うそだ、こんなのはうそだと喚きまくり、BとB母は焼香できずに帰ったそうです。
    「あの時は怖くて泣いちゃったけど、後でお母さんが言ってたんだよね。
    『自分の子供が自分より先に死んだりしたら、誰だって悲しくておかしくなるのよ
    Bに何かあったらお母さんだってそうなっちゃうよ。
    Bが悪いんじゃないから気にしないでね』って。今は本当にそうだろうなって思う」
    ……で、Aが俺にしてくれた補足説明(含むAの推測)。
    「……Bの好きな怪談って、車とかエレベーターとかばっかりだからかな。
    何で気がつかないの?って正直思うけど。
    ……白い着物に白い被り物って、それ、お姫様でも巫女さんでもなくて、花嫁さんなんじゃないの?」

    言われて初めてゲッとなった俺も、相当鈍いと思います。

    『輿』に乗って、神様の居る『社』に運ばれて、酒とお供えと一緒に1人で残される
    『白い着物に白い被り物』の娘っていったら、それはつまり。
    「……専用の乗り物が実際にあるくらいの古いきちんとしたお祭りなら、普通、大事な役を新参者の子供なんかに頼まないよね。同い年のそこの家の子がいるのに。
    ……その頃はBのアレも小さかったのかもしれないね。
    熱出して寝込んじゃったってことは」

    B一家は、しばらくして、また転勤のため町を出たそうです。
    それまで例の同級生の家には徹底的に避けられ、またそこの家は(B母いわく「不運なことに」)事故だか病気だかが相次いで、上の子(死んだ子の兄弟)が入院したりしてたために忙しそうで声をかけられず、例の白い衣装は返却できずじまいで、今もBが持っているそうです。
    Bは、子供をなくした母親は辛いんだ、悲しいんだ、ということを感じて衝撃を受け、今も片付けや引越しなど何かの折にその衣装を見るたびに切なくなるそうです。
    「お見舞いで私がこの衣装もらっちゃってなかったら、あの子は助かったかなって思ったりして。何だか捨てられなくて、ずっと持ってる」

    ………もっともAの意見では、その古びた白い着物は
    「マーキング、だと思った。何となく、ぱっと見たとき」
    だ、そうでした。
    どっしりした絹地で、子供が着れば長く裾を引きずるだろうサイズのその着物には、全体に、細かい精緻な何かの文字のような文様のようなものがミッシリ織り込まれていたそうです。
    そして、ほんのかすかに残るたきしめた香のような香りと共に、妙に「生ぐさい」(とAは表現してました)気配と言うか、あっちの世界のもののにおいがした、と。

    Aの言では、同級生家は、Bが生還した上に中々「連れて行かれない」ので、駄目押しに花嫁の印の婚礼衣裳をB家に持ち込んだのではないか、と(完全に推測だけど、と言っていました)。
    けれども社の主は、何か(多分、Bのアレ)に阻まれて結局はBを連れて行けず、そして社の主が暴れた結末がそれだったのではないか……と。
    ……もしそうだとしたら、と考えて、非常に不快な気分になりました。
    Bたち新参者の子を家へ誘った同級生家の子達は、どこまで知っていたのか。
    そしてまた、思惑が外れて自分の子が連れて行かれてしまった母親が、どんな気分だったのか。
    とにかく後味の悪い話だと思います。

    「私も持ってるよ、見る?」とBが見せてくれた写真は何枚かあり、AはBに頼んで一枚借りてきたそうで、ご丁寧に俺に見せてくれましたorz
    ……白い着物の幼いBに、巻きつくような何本かの黒い線が写ってる写真を。
    「ピンボケの木の枝が映り込んじゃって、心霊写真みたいでしょ」
    とBは言ったそうですが、木の枝よりは黒いでかい手がBを掴んでるように見えました。
    ついでに、Bの姿の輪郭の外まわりがグレーっぽくぼんやりして見えるのは、
    「白い着物を着てるから」(B談)と言うよりは、あの井戸のミニハウスの一件で見たモノの掴み所のない姿に似ているような……。

    ……B母は、数年前、友人にさそわれ、ちょっとしたおふざけで、霊能者にその写真を見せたことがあるそうです。霊能者は
    「この少女は、強い強い山の霊に魅入られています。気の毒ですが、次の誕生日を迎えることはないでしょう」
    と言い切ったとか。
    「今は大学生ですよーって言うのが気の毒で、はあそーですかって帰ってきちゃった」
    とB母から聞いて、2人で吹き出しちゃった、とBは言ってたそうです。

    憶測ばかりのハッキリしない話でなんだが、以上です。

    指輪

    実は学生時代の話はもう一つあり、それについて最近わかったことがあって
    話がまとまったんで、投下させて下さい。
    こっちは井戸の一件同様、俺の直接体験が入って来ます。

    Bの学生時代の元彼Eの話は前に書いた。
    Eは俺らの遊び仲間じゃなかったんで、井戸の一件には絡んでない。
    Bとは卒業直前あたりで就職のことで行き違って別れたと聞いてる。
    ひょっとしたら今も、Bを出入りしてるものの存在は知らないかもしれない。

    学生時代、Eから貰った指輪をBが仲間内で披露してたことがあった。
    金銀組み合わせの指輪で、仲間内の女子の言では結構いいものらしかったが、Aが凄い微妙な様子だった。
    井戸の一件の後だったので、俺は後でこそっと「あの指輪なんかある?」とAに聞きました。
    「……うん……まずいかも。でも、どうしよう。俺くん、お祓いできる人とか知らないよね?」
    俺はAの他に「みえるひと」の本物は1人も知らなかったので、そう言うと、Aは閉口した様子で。
    Aは、自分がみえるひとだが、経験則で危ないものを避けてきただけで、霊能者などの知り合いはいないらしいです。
    「……それに、Bも貸してくれないよね……お祓いとかするところにB本人連れて行ったら、まずBのアレと揉めるかもしれないし……」
    かと言って、指輪が霊的に危ないなどといったら、Bのことだからそれこそ面白がって肌身離さず持ち歩くのが、俺にも想像できた。
    「……ま、Bはアレがいるから大丈夫なんじゃん?」
    と俺は言ったが、Aは複雑な顔で「ん……ていうか……ちょっとね……」と言い、それで会話は終わりました。

    次の日、大学内でAが事故って怪我した。
    捨ててあった何かのガラスでサックリ切ったとかで大学の保健管理センターへ運ばれたAは、その時一緒に居た同じ科の奴に、自分の荷物は最寄の講義室に置いといてくれ、後で取りに行くから、と言ったらしい。
    で、事故の後にそいつと俺が出くわして話した。
    財布とか貴重品はさすがに放置じゃまずくないか?と言うことになり、俺が預かっといてやるってことにした。

    講義室に行くと、誰もいなくてAの鞄がぽんと椅子の上においてあった。
    見覚えはあったが、他の奴のだったらまずいし、失礼して中を開けて、何か氏名の解るものを確認しようとした。

    そしたら。
    財布の入ったポケットの中に、一緒に、小さなビニール袋に入った指輪が見えた。
    前日、Bが皆に見せまくってたのとそっくりのが。
    え、何で?これBの指輪か?どうしてAが?と思ったが、
    単に同じもの買ったのかもしれないし、まあひょっとしたら、Aが思い切って
    無断拝借してお祓いに持ち込むつもりだったのかもしれないとも考え、とにかく財布の中の免許証を確認して、鞄を持って部屋を出ようとしたら、後ろから「にゃー」って声がした。
    振り向いたら、窓枠のとこに灰色っぽい猫がいた。
    にゃあ、ってもう一度鳴いた猫がひょいっと窓から外へ下りてから少しして、気がついた。
    ……さっき居なかったよな?猫。それでここ、4階だよな?外に木の枝とかあったっけ?
    慌てて鞄を置いて窓に駆け寄って見ると、窓の外には何もない。
    木の枝が張り出してもいないし、建物の外側のどこにも猫はいないし、勿論落ちて死んでたりもしない。
    ……4階位なら飛び降りて逃げられるモンなのか?と思いつつ戻ってAの鞄を手に持って、仰天した。
    絶対さっきまでなかった派手な裂き傷が鞄についてた。
    駄目押しにもう一度、足元で「にゃー」って声がするに至って、ようやく俺は、Aがしきりに気にしてた例の指輪が俺の持ってる鞄の中にあるんだ、という事実に気がついた。
    「………」
    ぞく、と背筋が寒くなったところへ、また「にゃー」さらにガリッて音が続いた。
    見下ろすと、俺の靴ヒモが結び目のとこで何箇所か裂けてた。もちろん猫は居ない。
    にゃー。にゃー。にゃー。
    かなりの至近距離に聞こえるその声は、何だか段々と嫌な感じになってきてた。
    冷や汗をかき始めた俺の周りをうろうろしてた鳴き声に、ぼそっと暗い感じの人間の声が重なった。
    『……なんか、死んじゃえ。死ねばいいのに』
    エコーをかけたような変な声だった。
    「……!」
    硬直した俺は、咄嗟に大急ぎで携帯電話を出して、速攻で電話をかけた。
    プルル、プルル、と呼び出し音が鳴る間も、足元で見えない猫が鳴いてた。
    靴や鞄がカリカリ音を立てて、ちらっと見下ろすと床にも何だか、傷が増えてきてるような気がした。
    ガリッと衝撃があって足首に痛みが走ったのと同時くらいに、電話が繋がった。
    『はーい、もしもしー?』
    「Bか!?あのさ、俺だけど、えっとAのこと聞いた?」
    有難いことに、Bは学内にいた。急いでAの怪我の件を説明し、荷物を預かってくれと頼むと、Bは快諾した。
    電話を切った俺は、Aの鞄を持ってダッシュしてBと待ち合わせた場所へ向かった。
    エンドレスに足元から聞こえる猫の鳴き声に混ざって、ぽそ、ぽそ、と『死んじゃえ』とか『死ねばいい』とか呟く女の声がし続けた。

    建物を出たあたりで、しゅっ、と足の間を通り抜けるような感触がして、足がもつれて思いっきりこけて、止めてあった自転車に突っ込んだ。
    「うわー俺君!?大丈夫?」
    待ち合わせしてた自販機の所から、大声で言いながらBが駆け寄ってきた。
    「俺君、手!それに足も血が出てんじゃん!」
    Bが騒ぎながら俺に手を貸してくれ、荷物を持ってくれて、気がついたら猫の声も変な女の声もしなくなってた。

    ただ、後で確認したら、やっぱり足の傷は自転車の金具で切ったんじゃなく爪で引っかかれた傷でした。

    Aの怪我もそれほど酷くはなく、A鞄の中にあった指輪は、AがBから借りたものでした。
    同じようなのがどうしても欲しいから、お店で見せて「こう言うのが欲しい」と言うのに見本にしたい、と言って借りたそうで。
    ただ、俺が鞄をBに預けた話をすると、Aは「……あ、そう」と言ったきりで、猫と女の声についても何も説明してくれなかった。
    ……今になって俺がこの話を思い出したのは、最近AがB宅を訪問したときの件があったからでした。
    Bの部屋の話、白い衣装と神社の一件の話を聞き、
    「Bの中にいるものは、Bを守るだけで、悪霊退治をするわけではない。
    周囲の人がとばっちりを受けても祟られても、Bが無事なら何もしてくれない」
    と言うことを知って急に気になったのが、この一件だった。
    俺はこの後、Bと指輪の話をしたことがある。
    Bはその時、Aから返却されたその指輪をはめてた。
    「Aが同じようなの欲しがってたけど、見つからなかったんだよね。あれ、Eが親戚の子に選んで買ってきてもらったんだって」
    で。
    Eに指輪を選んでくれた、その女の子が、Eの在学中に亡くなってるんだ。
    Eが葬儀に出たと言っていたのは、確か、この一件の少し後だった。
    当時は、俺が女の声を聞いたときには生きてたわけだから無関係だと思ってた。
    あの一件は、Bの手元に指輪が戻ってBには何も起こらなかった事で片付いたつもりでいた。

    でも、今考えてみるとどうしても気になって、先日、改めてAに聞いてみた。
    Aは物凄く迷ってたが、やっぱり黙ってるのがしんどかったようで、しつこく聞いたら最後には話してくれた。
    クロだった。
    「……その親戚の子、Eが好きだったんだと思うよ。どこで呪いの方法を見つけたのか知らないけど、実際に猫を殺して本格的に呪いかけるくらい、Bが憎かったんじゃないかな」
    俺が聞いたのは、やっぱりその子の声らしかった。Eから指輪を貰う女に対して、死んじゃえ、と呟いて猫を殺した時の声なんだろう、と俺は思った。

    そしてAが心配してたのは、Bが呪われることじゃなかった。
    Bの中にいるものの性質をかなり正確に把握してたAは、動物を殺して形を整えて行われた呪いの、「返り」を気にしてたんだった。
    「……私も俺君も大怪我じゃなかったでしょ?呪い自体には、人を殺すような力は無かったんだと思う。だけど」
    Bにはアレが居たから。
    Bをターゲットに真っ直ぐ飛ばされたものを、アレが真っ直ぐ打ち返したときに「加速がついちゃった」んだと、思う……

    Aは、それ以外は何も言わなかった。
    多分、当時のAは、指輪をどこか霊能者のところへ持ち込んで、呪いを外してもらおうと考えてたんだと思う。
    正直、Aと話してから、少し気持ちの整理がつかなくて、混乱してる。
    俺がBを呼んでAの鞄を渡さなかったら、Eの親戚の子は死ななかったんだろうか。
    BにAの鞄を預けたと言ったとき、Aが取り戻そうとしなかったのは、もう間に合わないと思ったのか、怪我して怖くなったのか、俺は解らない。
    いずれにせよ、もう何年も前の話だ。

    Bは何も悪くないんだろう。普通に彼氏から貰った指輪を喜んでただけで。
    少し大雑把だけどイイ子で、同じものを探すのに貸してと言ったAに快く指輪を貸し出してくれるような奴だったわけで。
    でも、俺が悪いんだとも思いたくない。
    Aも俺も巻き込まれただけじゃないか、って気持ちが消えない。
    同時に、猫を殺して呪いをかけた女の子は確かにゾッとするけど、相手がBでなかったら、死人は出なかった話だったんだと思わずに居られない。
    Aが複雑な顔で「何もできないんだよね」って繰り返す気持ちが初めてまともに解った気がした。
    吐き出させてもらってすまない。
    以上です。

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    融合体

    ……8月に物凄いことがあったんで、纏めました。
    以下、フェイク込みなんで辻褄が怪しいところもありますが、どうぞ。

    最初の井戸の話のときに書いた大学時代の仲間内の男子C、こいつから連絡があった。
    Bが最近、時間が出来たのか懐かしくなったのか知らんが、昔の友人にちょこちょこ連絡しててCも電話で話したそうだった。

    ……んで。
    Bと話して昔の井戸の一件を思い出して、職場でネタにして喋ったそうです。
    そしたら職場の女の子に呼び出され、その子の知人の男(20代後半、俺らと同年代)に会ったと。そいつの用件を纏めると、
    「ヤバいものに憑かれてる知人が居る、坊さんも神主も霊能者もダメだった、そのBさんの力を借りたい。連絡を取って欲しい、詳しく教えて欲しい」
    Cは井戸の一件しか知らない、つまりBの「ソレ」に守られた記憶しかないので、気軽に受けあい、ついでに他にも良く知ってる奴が居ると俺とAを推薦したそうです。

    俺とAは話し合って、二人つれだってCとその男(Hとします)に会った。
    指輪の件、白い着物の件、B宅の件を一通り説明し、BについてるものはB当人にも他の人間にも制御できず、また悪霊や呪いの類は「跳ね返す」だけで祓ってくれない、周囲に被害が出るからやめておけと告げた。
    どうやらHも「みえるひと」らしく、AがB(幼少時 with白い着物)の写真を見せたら、即座にハッキリと表情が固まった。
    「………凄いね、これ。この子マジ生きてるの?今も?こっちのナニ、山神様とか?
    こんなんに狙われても大丈夫なワケ?これなら、本気でいけるかも」
    Hは本気になったようで、俺らがやめろと言うのにはとりあわず、しきりにBについてる「アレ」について尋ねてきました。
    Aは躊躇いつつも、他の「みえるひと」の意見を聞いてみたかったようで、さらにざっと説明をしていた。
    みえない俺には良く判らん感覚的な言葉が多く
    「硬さは?こう、バキンていきそうな」
    「そうじゃないし、寒いとかスレてる(?ずれてる?)とかもなくて。ただこう、ぞわっとするだけで、そこにあるのに何で?みたいな変な印象の」
    「え、本当に?じゃあザリザリ擦ってるみたいな感じはある?」
    「それもないです。するんとして、侵食もしないしできないし」
    こんな感じの意味不明なやり取りの末に、Hは
    「……俺も全く見当がつかない」
    と首を捻っていました。
    その後はもう一度、「本当に止めた方がいい」と俺とAから念押ししてお開きにしました。

    ……数日後の土曜日に、Aから電話が来ました。
    BがこれからCと会うから来ないか、と言って来たそうです。
    『出る』家があるから、良かったらAと俺にも声をかけて来いとCに言われてAに電話をよこしたと。
    たまげて家を出、Aと合流してBに指定された待ち合わせ場所に行くと、そこにはHが車で待っていました。
    Hはニヤニヤしながら
    「悪いね。BとCは後から来るから、乗ってくれよ」
    といい、車中で説明をしました。
    ……こいつ、Cに頼んでBに連絡とって約束したそうです。
    「知り合いの家が“出る”から来ない?って行ったら2つ返事だった。いいご主人だね、『昔の友達と肝試し?いいよ、羽を伸ばして来い』って子供の面倒見てくれてるって。あんまり時間ないから急がないと」

    Hの目的地は、高級住宅街の塀に囲まれたでかい豪邸でしたが、車が止まった時には俺の横のAは硬直して真っ青でした。
    「悪いね。大丈夫だよ、俺ら部外者だし、出入りしても手ェ出さなければね」
    Hに促されてしぶしぶ降りたAは、その豪邸を見上げて、引きつった顔でHをみました。
    「……本気で?」
    「まあね。……ここんちの奥さんが、俺の母親の幼馴染。息子が完全にイカれちゃってんだよ」
    「何いってんの?その人が助かったって、周り中に散って広がるだけじゃ」
    「俺も考えたし。……出られないところに押し込めてやりあってもらえばいいんだろ?勝敗つくまで、徹底的にさ」
    2人が言い合ってる間にドアが開き、中から中年のおばさんが出てきて、俺らを招き入れました。
    ……どうぞ、と通された部屋に居る男を見て、思わず硬直しました。
    壁向いて立った横顔は白目むいて天井見上げて、唇の端が少しだけ上がってニヤついてるみたいで、どっか壊れたような形相でブツブツブツブツ何か呟き続けてて、上手く言えないけど、その目つきが本気で怖い。
    実はコレがウチに出る悪霊です、って言われたら信じたと思う。
    俺もドン引きしたけど、Aはもう真っ青でした。

    「……もとはどこに?」
    Aが聞くと、Hは少し疲れたような余裕のない顔で笑って
    「そこが一番まずいんだよね。……解んないんだよ、気がついたら拾っちゃってて」
    後で二人に聞いたら、そこんちの息子(Iとします)についてたのは、何だか複数の人霊が怨念をツナギにして融合したようなものだそうでした。
    様子から言って、長いこと生き物でなくモノに憑いていたと解る状態で、本体と言うか依りしろと言うか、それがIに憑く前に居たものがあるはず。
    それが除霊するときに手がかりと言うか土台になるらしいです。
    なのに、どこで取り付かれたのか解らないために除霊の手がかりがなく、霊能者に無理だと言われたそうでした。
    Hの答えを聞いたAは、さらに怯えたような顔をしていました。
    「……この人、大丈夫なの?何かヤっちゃったとかないの?」
    「……あー。寸前まで行ったことはある、かな。今はとりあえず、ちょい前に来てくれた人が体にヨケ(?)つけて抑えてるから」
    そんな感じの怖い会話の途中で、外から車の音がしました。
    CがBを乗せて来たのですが、案の定と言うか怖いことにと言うか、Bは車中で既に熟睡していました。

    HがCからBを引き取り、抱えて奥の部屋へ連れ込み、床に寝かせて毛布をかけました。
    後からIをそこんちの奥さんが連れてきて、熟睡中のBと空ろな目のIを残して、俺らは部屋を出ました。

    ……考えてみりゃ、眠ってる既婚女性とおかしな男を1つ部屋に入れたりしてとんでもない話です。
    何故かその時は、Hの全く躊躇いのないテキパキした態度とBは何があっても無事、と言う考えが当然のこととして頭の中にあったため、唯々諾々と従ってしまいました。

    ドアを閉めると、Hがドアに背をつけて廊下に胡坐をかいて座りました。
    Aが俺にしがみつき、奥さんが足早に廊下を戻って引っ込んで少しして。
    部屋の中から、凄まじい破壊音が響き渡りました。
    壁か柱がぶっ壊されてるんじゃないかってくらいの轟音に混ざって、
    ガシャン、パリンとガラスか茶碗が割れるような音。
    俺はギョッとしましたし、Hは揺れるドアに背中を押し付けて座り込んだまま動きませんでした。
    Cも、何かHから聞かされていたのか、落ち着かない様子ながら、あまり慌てた様子もなく。

    どれだけ時間が経ったのか、誰も動かずに待ち続けて、ようやく中の音が小さくまばらになってきたとき。
    直ぐ内側から誰かがゆすってるようにドアががたがたっと揺れ、鋭い、あせりまくった切迫した男の声が聞こえました。
    「おい、助けてくれ!!お願いだ、助けて!開けてくれ、早く!早く!!ここを開けてくれえええっ!!」
    Aが顔をあげてHに向き直り
    「ねえ、もういいんじゃない?開けて出してあげようよ」
    ここで俺もはっとして
    「おい、さっきの人(I)、正気に返ったんじゃないか?」
    と言葉を添えましたが、Hはぎっと俺たちを睨みつけて「まだ」と言いました。
    それからさらに時間が過ぎ、中から全く音がしなくなって、やっとHは立ち上がりドアを開けました。
    ……中は、HがBを寝かせIを入れて出たときと全く変わりありませんでした。
    壊れたものも動かされたものもなく、ただBが部屋の真ん中で大の字になって寝てるだけ。
    あの破壊音を立てたと推測できるものの痕跡1つなく。
    そして部屋の隅にうずくまって震えていたIに、Hが駆け寄りました。
    「おい、I。俺、わかるか」
    「あ……H?H!!」
    目が焦点を結ぶと、Iは取り乱した様子で、しかし初対面の時より遥かにまともな様子でHに掴みかかりました。
    「H、化け物がいたんだ!本当だ、俺に化け物が、襲い掛かってきて俺を殺して」
    「……ほいほい」
    幾らか安心した様子でHがポンポンとIの肩を叩いて宥めた。
    その時、俺の横に居たAがふらりと傾いたのが視界に映った。
    慌てて受け止めた俺に、Hが
    「あ、ごめん。リビングに連れてったげて。ココは辛いでしょ」
    と言った。Cと一緒にAを運んで廊下を戻りながら、やっと気がついた。

    さっきHと喋ってたIの声。
    破壊音が止む前に部屋の中から聞こえた声とは、全然違う声でした。

    ……その後、Aが目を覚まして動けるようになり、眠り込んでるBをA宅へ移した上でB夫を呼び、AがBを引き渡しました。
    変に疑われると嫌なので、俺もHもCも、男は全員席を外しました。
    B夫は怪しむ様子もなく爆睡してる妻を引き取っていきました。

    「あ、またですか?すみません。ひょっとしたら知ってるかもしれませんけど、睡眠障害とか言うんですかね。突然パタンと寝ちゃって目がさめないことがあって。これの母親から、小さい頃はよくあったって聞きましたけど、結婚してからは年に一回もないし、病院で検査しても異常ないし、本人覚えてないけどガスだの何だの危ないものは必ず寝る前に止めてるし、子供と居る間は起きないし、倒れるとかじゃないから問題ないんで俺は気にしてないんです。
    面倒をかけてすみません。連絡ありがとうございました」

    A曰く。
    「……ガスとか火とかは絶対に大丈夫だと思う。Bが止めなくても、必ずアレが何とかするから。赤ちゃん居るとないってのは意外。
    Bが子供できてから、危ない場所に行ったり危ないもの買ったりしなくなってきたのかな」
    H曰く。
    「さすがに赤んぼ放置して熟睡は、Bさんの潜在意識が拒むんじゃね?アレ、Bさんの意識とカンペキ無関係って訳じゃないと思うよ。
    無意識の部分とかに食い込んでないと、寝かすのはないと思うし。Bさんでなきゃいけない理由があるんだろーねー。
    赤んぼ預けるとか家族が一緒とかでないとフルで戦えないなんて不便な状況、ただの間借りならショバ替えしてるよ」

    あのとき部屋の中から聞こえた声についても、「みえるひと」な2人に聞いてみた。
    こちらは2人とも完全一致。
    『融合してた人霊のウチの一体が、消滅の危機に瀕して自我を取り戻した』
    だそーです。
    あの部屋、事前にHが、使える伝もコネも知識も全部使って、頼めるだけの人に頼んで、何重にも霊的に閉鎖してたんだとか。
    で。
    その檻の中で、Bについてるアレと、Iについてたモノとが。
    互いに在るだけで互いを削りあう至近距離に置かれることになり、
    形容し難い激烈なバトルが繰り広げられたようです。
    結果は、またしても、Bのアレの勝ちでした。

    ……助けてくれ、開けてくれ、と叫んでいたのは。
    逃げ場のない檻の中で、Bのアレと戦いながら2度目の死の恐怖を、味わっていた誰かの霊だったと。

    衝撃でした。
    生身でない、声帯を持たないとは信じられないほど、声はリアルでした。
    そしてAが倒れたのは、霊的に比喩的に「血染めの惨殺現場」を見たためでした。
    その霊たちがどうなったのか、と言う質問には2人とも答えてくれなかったし俺も考えたくありません。Bのアレはお払いだの浄霊だのしてくれる存在ではないと既に知っているので。

    話は概ねこれで終わりです。
    Bは次の日の朝に目を覚まし、鼻歌と共に朝食と夫の弁当を作ったそうです。
    Iは精神科へ通院しているそうですが、以前と違って会話ができて治療効果がきちんと出ることにI母は大変喜んでたそうでした。
    ついでにCは、Hから何を聞かされたか知りませんが、もうあまりBとは連絡を取りたくないようなことを言っていました。

    最後に、その「融合した複数の人霊」これが一番、この話の嫌なところですが。
    「恐らく半世紀以上は前、だけど100年は経ってない」

    「全員、両手の爪が剥がされてた」
    そうでした。
    それ以上はAもHも説明してくれませんでしたし、俺も聞きたくないと思っています。
    どこでどんな目にあった誰だとしても、判れば気分悪くなるだけでしょうから。
    以上です。

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    呪いのコンパクト

    “巣くうものシリーズ”で纏めてもらったので、説明は省略。
    仕事が多忙で2ちゃんから遠ざかってたが、時間できたんで投下。
    今年初めのことだから、もう結構前のことです。
    前回書いた怨霊のカタマリ憑き男Iの件で知り合った、俺の人生2人目の「おそらく本当にみえるひと」Hがらみの事件だ。

    BがAに連絡して、会おうと言ったそうで。
    思えば、学生時代からAはBを(というかBについてるモノを)避け気味だったが、BはAを気に入ってたようだった。
    去年から何だかんだでAがBと関わってるから、このまま友達付き合いを復活したい(現在進行形)んじゃないかと思う。

    Aは断る理由もなく、先の件で引け目があったのでOKしたものの、Bと2人きりはどうしても気が進まず、俺を呼び出した次第だ。
    引け目とは、怨霊塊憑男Iの家に熟睡中のBが連れ込まれた段階で反対しなかったことだそうだ。
    A曰く、前回は本当にとんでもなかったらしい。
    「井戸の時は逃げたら済んだけど、あの時はHさんが逃げ道を塞いでたから……
    ドアが揺れ始めてからずっと、止めなきゃいけなかったんじゃないかって思って、もしBのアレが負けたらBはどうなるの?って凄く怖かった」
    と。

    当日、Bと待ち合わせ場所で会った時、すでにAが微妙な顔してた。
    ファミレスに入ると、Bが「コレ見て♪」と鞄から何か出した。
    コンパクト?ってのか?丸い平たい2つ折りで、内側は両面が鏡の奴。
    何か古そうな奴。金属っぽい質感で、凄く古っぽい感じ。
    横のAは、また表情が固まってる。
    「アンティークなんだよー。この前ほら、肝試しなのに現地到着前に私が寝ちゃったでしょ?Aと俺君が旦那に連絡してくれて」
    Bは、あの後Cの呼び出しで“肝試しスポットを教えてくれた人”としてHに会ったそうだった。
    「Hさん、おかしな場所に行かせたせいで倒れたんじゃないかって謝ってくれてね、お詫びにってコレくれたの♪
    結構よくて気に入ってるんだけど、安いものじゃないみたいなんだよね。お返しにお菓子でも送ろうかと思ってさー」

    適当に喋ってBを返した後、Aが即効でHに連絡して、数日後に会った。
    現れたHは、俺らがBに会ったと聞いた段階で何やら察してたようだった。
    Aが「何考えてんですか!」と怒鳴ると、Hはフフンと鼻で笑って言った。
    「いいアイディアだと思わない?散らばらないよ、あれ」
    ……呪いの部屋と同じように呪いのグッズも現実に存在することを、改めて知らされました。
    いや、指輪の一件で既に判っていたようにも思うが、古物やリサイクル品に稀にでもその類のものがあると思うとやはり怖い。

    件のコンパクト、確かにモノは良いがHは一銭も払ってないそうです。
    むしろ金をやるから黙って引き取ってくれと泣かれた代物だと。
    前回の話の怨霊塊憑き男IのためにHが情報収集してる間、Hが「みえるひと」だという情報も、広く垂れ流しだったそうで、お払いしてくれと妙なものを持ち込んでくる奴は割りと居たと。
    Hは、何も憑いてない場合はそう教えてやり、たまに出てくるホンモノについては小遣い稼ぎのネタにしていたと言ってました。
    金目の物で自力で片付くものは引き取り(そして片付けて売り)、奉納で済むものは処理方法を助言したりして、ポツポツ稼いでたのだそうな。

    「もちろん命は惜しいから、手に負えないのはムリだっつって断ったよ。
    あの鏡はね、間違えた。鏡から離れないんだから最悪本体ごとおっぽり出せば済むわけで、リスクも小さいと思ったんだけどね。甘かったねー。
    だからBさんに頼んじゃった」
    Hは、からからと笑って言った。
    Hに聞いたところでは、そのコンパクト?は持ち主の不在を許さないのだとか。
    捨てようとすると邪魔が入って、どうしても捨てられなかったそうです。
    憑いてるモノはHの手に余るから長く持ってたくないし、かと言って他人に譲るのも良心が痛むので、持て余してた一品だと。
    「本体から他所にはいけない奴だし、Bさんのアレと勝負できるレベルじゃないから問題なし。Bさん、寝なかったっしょ?」
    Bが例のコンパクトをしばらく愛用してくれたら擦り切れて掠れて消え去ってくれるだろう、と言うのがHの言い分でした。

    で、実はここまでが前フリです。

    再度俺にAから連絡が来たのが、確か5月下旬。
    ……B、コンパクトを手放してしまったと。
    Hにも連絡したら、あの飄々としたHがあわくってたそうです。
    俺も巻き込まれで付き合い、3人で次の所有者を訪ねました。

    AがBに聞いたところだと、友人(学生時代のではない、俺達とは面識なし)に見せたら、凄く良い品だと言われ羨ましがられ、ちょっとだけ貸して欲しいと言うから貸したら返してくれない、と。
    「携帯に連絡してもメールしても返事がないの」
    と言った時のAの表情を誤解したようで
    「貰い物なのに申し訳ない」とBは凹んでいたそうです。

    ……Aが苦労してBから聞きだした名前その他の情報を頼りに
    俺達がB友人宅を探し当てた時、B友人は離婚前提の別居だとかで、家には居ませんでした。
    ご主人だけいて、俺達の目的が奥さんに貸したコンパクトだと言うと、出てきて暗い顔で言葉少なくモノを渡してくれました。
    そのとき、両足首に包帯を巻いていた彼の右袖口からちらりと、手首より少しだけ上辺りに何か見えました。

    モノを引き取りB友人宅を辞して、俺はAとHに確認しました。
    …見間違いじゃなかったです。ヒトの歯型だった、と2人とも言いました。
    その後の2人の会話は、以下の通り。
    「奥さんの歯型だよね、アレ」
    「だろうね。……やっちゃったねえ」
    さすがのHが、真っ青に青ざめていました。
    「Hさんのせいだよ」
    「うん、俺のせい。……呪いのコンパクトだよって言っといたから、Bさん離さないと思ってた」
    「勝手なこと言わないで下さい。大体、高価なものなら泥棒にあうことだって考えられるでしょ。何でそんないい加減なことするんですか」
    Aが物凄く刺々しい口調で言ってHが黙り込み、気まずい気分で俺らはHと別れました。

    例のコンパクトは、Hが持ち帰りました。
    もっともA曰く、もうコンパクトには何もないそうでした。
    Bが愛用していた数ヶ月で削り取られ磨り減り続けたモノの、
    最後っ屁と言うか断末魔と言うか、そういうものをB友人は受けてしまったのだと思う、と。

    その後、俺が6月にHと飲んだとき(Iの件以降、何となく付き合いしてる)に聞いたところでは、まっさらになった例のコンパクトを売り払った金に色をつけて、例のB友人である女性に送金したそうです。
    送金先は自腹で調べたそうで、いつも能天気に見えるコイツでもあの一件はこたえたんだな、と思いました。

    また最後になりますが、そのコンパクトに憑いてたものの正体について。
    Bのコンパクト紛失以前、AがHを呼び出した際に少し聞きました。
    ……俺にはよく判らなかった話ですが、Hが“みた”ところでは
    『4つ足の哺乳類に昆虫の羽根がある』生き物がしがみ付いてたとか。
    Aには姿は見えなかったが(能力の差か、Bが居たことによる影響かは解らないと)、ぶんぶんと背筋の寒い羽音が絡まりついてたと。

    その中では1人だけみえない俺が
    「哺乳類に虫の羽って何?異次元の生き物とか?」
    と聞いたら、AとHがまるで狙ったようなタイミングでバッと目をそらしたのが印象的でした。
    Aは黙ってましたが、Hはハハハとわざとらしく笑い
    「……人間が、恨みとか呪いだけで精神のカタチまで捻じ曲げてあんなモノになれるってのが怖いよね。本当に」
    と言いました。
    正直、俺はグロいものを見る力が無くてよかったです。

    曖昧な部分が多いですが、以上です。

    模倣

    また時間ができて、少し前にあった話をまとめたんで、気晴らしに投下。
    去年の秋の話です。
    H、コンパクトの件で懲りたのかと思ったら、懲りてない。
    相変わらず『みえる』のを利用してちょいちょい稼いでるようで、その奴の『小遣い稼ぎ』に関わる話。

    いつもHはいらんことする、と奴の絡む話には常に不愉快
    (でも他に“みえるひと”の知人がいないため縁切り困難)
    のAが、文句より興味で根掘り葉掘り聞いてた、怖いよりは珍しい(らしい)事例です。

    コンパクトの件を投稿してから、何ヶ月かしたころ。
    Hから連絡がきて、飲みに行くことになった。
    んで呼び出された先が、変な場所だった。
    少し距離のある市で、街外れに森っぽい林があって、その中。
    おいおい、と思いつつ指示された通り砂利を敷いた道に入ったら、何か寂れた石碑みたいなもんが奥にあった。
    石碑の横で待ってたHに「おいこら」と言うと、奴は
    「大丈夫、大丈夫。居るけど、しょぼい奴だから♪」
    とかほざいて、カッカッカと笑った。

    「そーか。んじゃ、とっとと出て飲みに行こうぜ」
    と俺が言ったとこで、Hの携帯が鳴って奴が出た。
    「はーい♪J(俺。以後、俺の略称はJとします)来たよ。あ、ここ」
    Hが携帯を切り、砂利道を歩いてきたBに手を上げた。
    「やっほー♪Jくーん」
    手を上げ返しながら歩いてくるBの姿。手にはコンビニ袋。
    「お疲れー。Bさん、コンビニ行くとき迷わなかった?」
    「少しだけ。横道間違えちゃったみたいでした、ここ戻るときも」
    答えたBが、コンビニ袋の中身――雑誌とかお茶ペットとかガムとか、何か細々したものを、下げてたバッグに詰め替え始める。

    その隙に俺がHを見ると、小声でコソコソ説明してくれた。
    「頼まれごとで、話の段階じゃよくみえなくてさあ。最悪のケース想定してBさん呼んどいた。勇み足だったけどねー」
    そう言や、会う日時と場所を指定したのはHだった。
    何も知らない既婚女性のBを一対一で呼び出せる仲じゃないから、俺を口実に使いやがったらしい(Cは嫌がったんだろう。怨霊塊憑男Iの件以来、Bの話はしたくないっぽい様子だから)。

    呆れた俺に構わず、Hは続けました。
    「JとBさん、仲悪くはないんだよね?今日は一緒に飲みでオッケー?
    一軒目でBさん帰して次行ってもいーよ。一軒目、俺おごるよ」
    「や、B一緒で全然構わないし。3人でいんじゃね?」
    で、そのまま飲む店の相談してたら、またHの携帯が鳴った。
    携帯を見たHは、俺とBに向かって言った。
    「悪い。ちょい待ってて。少しかかるかもしんないけど」
    Bは
    「J君いるし、大丈夫~。お喋りしてます~」
    と能天気に答え、Hは俺だけにこそっと
    「この辺、Bさんいたら寄っても来れない連中ばっかだからさあ。全く心配しなくていーよ♪」
    と言い、夕日の射し始めた木立の間に消えてった。

    そいでBとダラダラ学生時代のこととか喋ってたら、ものの数分で
    「おい、J(俺)!!」
    ってHの声がした。
    何か妙にあせった声だった。
    「……?おう。何だ、早いじゃん」
    「あー。ちょい、こっちきて!」
    ややあって、道じゃなく横の林の中から現れたHは、頭に蜘蛛の巣を引っ掛けて肩に葉っぱつけて、変に青ざめていた。
    「………?H、何かあったのか」
    俺が尋ね、Bも「Hさん~?」と不思議そうに聞いたが、Hは答えもせずに凄まじい勢いで近づいてきた。
    そして俺の腕をがっしり掴んで、結構な力で引っ張りつつ「来いよ」と言った。
    何か変だ、と思って、俺は何となく腕を引く力に抵抗して、引っ張り合うようになったところへBが割って入るように近寄って「Hさん、何したんですか?」と言った。

    そしたら。ぶったまげたことに、凄い勢いで向き直ったHがぱっと俺を放したかと思うと、Bの胸倉を掴んで、ぶん殴った。
    バキッと、グーで、女の顔面を。
    悲鳴を上げて倒れるB。
    俺は仰天して、動くことも出来ずにただHの形相を見ていた。
    さらにBを引き起こして2発目を入れようとするHを、やっと動いた俺が引き止めて手を放させた。
    Bは、よろけながら立ち上がり、止める間もなく
    「キャ―――――!助けて――――――――!」
    みたいに叫びながら、林の中に走りこんで逃げだした。
    慌てて追おうとした俺の肩を掴んだHを見て、表情に正直びびった。
    これマジでHか?と思った俺の耳に、Aの声が刺さった。
    『J君?Hさん?大丈夫――――――?』
    「あ―――――――大丈夫!今、撃退したから!」
    Hが張り詰めたような大声で返す。
    「……ほい、J」
    やっと少し表情の和らいだHは、携帯を俺の耳に突きつけた。
    『J君?もう居ない?Bのニセモノ』
    「……え?」
    思わず聞き返した俺に、Aはざらっと説明してくれた。
    ……さっきまで俺と居て、Hを待ちながら俺と大学時代の話とかしてて、Hに殴られて走って逃げたBは、Bじゃない、と。

    完全に思考の停止した俺をHが引っ張って、林から普通の道路に出てしばらく歩いて、コンビニを見つけて近づいた。
    もう薄暗くなった駐車場に、Bが居て。携帯をいじってました。
    「あ、J君!Hさん!」
    元気よく声を上げたBの顔には、殴られた痕など全くなく。
    「待ち合せ場所に戻ろうとして道に迷って、コンビニ戻っちゃってー。
    メール出しても返事ないから、電波悪いのかなって焦ってたんですよ」
    「……うん、電波悪かったしJ来たし、動いちゃった。メールは来てないなあ」
    辛うじて笑ってみせたHと、まだ思考停止してた俺の携帯が、一緒に鳴った。

    『Bです。すみません!コンビニには着いたけど、そこ戻る道が解らなくなっちゃいました。コンビニで待ってるので、J君着いたらコンビニ来てくれませんか?』

    着信したメールを読んでやっと頭が動き始め、混乱の渦に巻き込まれた俺をよそに、HとBはまた飲みの店を相談してた。
    決めるとさっさと電話して予約した2人に引きずられ、とりあえず飲んで喋り、一段落したら早めに店を出て
    『主婦だしお子さん居るから、そろそろお開きで』
    とHがBを言いくるめて解散し、俺は半ば混乱したまま帰宅しました。

    数日後。Hと連絡を取りA交えて3人で会って、やっと俺は事情説明を受けることが出来ました。
    『分身というか、自分の姿を見る人が出る場所。祟り等がないか調べてくれ』
    との依頼を受け、見た人と直接会ったHが、敵の気配や強さが何故か読めないことに心配になり保険にBを呼ぶことを考え、口実に俺との飲みをセッティングしたのは、前述の通りです。

    とりあえず気配を探りに1人で現地入りしたHは、相手の気配が予想以上にしょぼくて貧相なことに拍子抜けしたそうです。
    確かに霊的なものが居る、だけど年代物の割りに本当にしょぼい。
    相談者に会っても読めなかったのは、しょぼすぎて気配が弱かったからだ、と納得したほどで。
    分身とかを“みせる”以上のことができそうには全く思えないから気にする必要なし。それが当初のHの結論でした。
    「いやね、本っ当に貧相だったのよ。来て損したと思うくらい」
    と。

    で、Bが待ち合わせ場所の石碑に来て、二人でJ(俺)を待ったが、最悪の事態を想定して(ヤバいモノが居たら、うまいことBのアレを使ってB当人には気づかせずに片付けよう、と算段してたらしい。
    Hのこういうとこが、Aの神経に障るようですが……)、待ち合せ時間をずらしてあったので、暇すぎて間が持たない。
    Bがガムを欲しいと言ったので、コンビニへの道を教えて行かせた。
    1人残って、漂えども姿はない貧相な気配をお遊び程度に探ってるうち、俺到着。つづいてB帰還。
    「その時はね、本当に変だとは思わなかったんだよ。アレもいたし」

    HもAも、みえるひとは皆、人をみるときには外見だけじゃなく自然に気配や憑いてるモノもみるのだそうです。
    Bは全く普通に間違いなくBの気配を持っていて、“アレ”も居た。
    何も疑う要素はなかった。
    ただ一つ違和感があったのは、ちゃんとみえる“アレ”の気配が変に弱いというか薄いこと。
    気配の質は同じだから、Bの中に引っ込むと気配が弱まるのか、と解釈してスルーしたのだが、仕事電話で石碑を離れてからもやはり気になる。
    何だろう、あの、みえるのに弱いってか、薄いってかペラいってか、
    と考え続けててふっと頭に浮かんだ言葉。
    『ハリボテみたいな気配なんだ』

    いや、引っ込むと外側が抜け殻っぽく残るのかも、と考えても違和感が打ち消せない。
    形だけ残して中身が引っ込むとか、何か凄く不自然だ。
    そういう偽装とかハッタリとかと一番無縁な、生の力がむき出しでいるような存在が、Bのアレなのに。
    どんどん不審が増してきたので電話を中断して引き返し、こそっとBの写メを撮って、Aに送って聞いてみたそうです。
    すぐにAから返信があり『Bのアレじゃない。絶対違う』と断言。
    アレは引っ込むと形がみえなくなる。その時も気配は残り香みたいにBを包んでいる。弱くなんかならない、と。
    その返事を受け取ったHは、瞬時に結論に到達したそうです。
    アレが偽物で背負ってるBが本物ってのは、絶対に、ない。
    有り得ない。どんなにそっくりでも、Bごと偽物なんだ、と。

    ……その辺の理屈は、正直俺の理解できない点もありましたが。
    とにかく“偽物のアレを背負った普段通りのB”は、みえるひと視点では有り得ないようです。

    なお、Hを焦らせAにも驚きだと言われた事実。
    それは、石碑に居たモノが気配や憑き物を模写したことでした。
    2人の言では、他人の声や姿を真似るモノはワリといる。
    そして人間の姿を模した程度のものは、本人の気配とか憑依してる霊とかを写さないので、幻覚でも化けてても、みえるひとには疑問の余地なく解るのだそうです。
    なのに今回のモノは、本人の気配やオーラ(的なもの)どころか、
    背後の霊の気配まで含めてコピーしようとしたわけです。
    これは本当に、みるのも聞くのも2人とも初のケースだそうな。

    「Bさんのアレも特殊レアものだし、さすがにコピりきれなかったんだろーけど。それでも、あの精度だよ?ふつーの人なら、守護霊まで完全にコピーできる可能性が高いよ」
    「Hさんが騙されたくらいだもんね…何だろ?ソレ、弱いってのもフリじゃかったんですか?」
    Aの質問にHが身振り手振り交えて説明した限りでは、Aの見解も
    「それは確かに。取るに足らないレベルですよね」
    とのことだった。

    そのしょぼい貧相な気配がBを模して何をしたかったのかも、謎です。
    あの時Hは俺が狙われたのかと慌てたそうですが、冷静に返ってみると、生身の人間1人をどうこうできる程の力はなかったようだと。

    そして今となっては、調査もできない状態だったりする……と言うのは、
    あの日、Hに全力でぶん殴られたモノに何があったのか、あれ以降、その貧相な気配の持ち主は居なくなってしまったからです。

    後日、石碑を訪れたH(with 俺とA)は「居なくなっちゃった」と苦笑しながら言いました。
    Aも同意したし、その頼まれ事は、どうやらこれで解決ってことになるらしい。
    パニックでフルスロットル状態のHに殴られて、消えたか逃げたかしたんじゃないか、とはAの言です。

    また、Hの突然の暴行に仰天した以外は特に体感がなかったと思った俺だが、後で思い出すと、ひとつだけ確かに変なことがあった。
    石碑の横でB(だと思ってた何か)とひとしきり喋った記憶があるのに、何を話したか全く思い出せないんだ。
    『大学の頃の話をした』と言うような曖昧な記憶だけ残ってて、何年生の時のこと、とかどのイベントの話、とかが全く解らない。
    飲み屋で本物のBが喋ってたことは、俺が上の空気味だったにも関わらず、しっかり覚えてるのに。

    HとAに話すと、さらに難しい顔で
    「ってことは、幻覚系じゃないよな」
    「変身で、Hさん騙すほどそっくり?うーん……」
    と、二人して首を傾げていました。
    長いわりに結局オチなしですが、以上です。

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