
186: 99 ◆cnkCYB/0Q2 :2008/12/20(土) 00:42:48 ID:iRn/vgKZ
「日記」
とある小学校のクラスでは、宿題として毎日の日記が決められていた。
前日のうちに書かれた日記を提出し、それを毎日教諭がチェックする。
ある日、とある教諭は一人の女子生徒の日記がオカシいことに気づく。
はじめはふざけているのかと思っていた教諭だったが、
数日のうちにオカシさの理由に気づいた。
その女子生徒の日記には、次の日(教諭が日記をチェックする日)のデキゴトが書かれていた。
女子生徒の日記は一日ずれていたのだ。
教諭はおどろくと同時に、これを金儲けに利用できないかと考えた。
株、先物、為替。
しかしそのどれもが小学生が日記に書くようなことではないし、
それを書くようしむけることもできそうになかった。
教諭があれこれ考えをめぐらすあいだにも、
女子生徒の日記には、翌日のTV番組のたわいない感想や、
翌日の友達との会話が書かれていく。
そんな、金にもならない未来の日記に、教諭は歯がゆいおもいをしながら目を通していた。
そして悩みに悩んだ末、教諭は「宝くじ」という結論を得た。
それは自分で好きな番号をえらび、
発売しめきりの翌日に当選番号を発表するたぐいのものである。
これなら数字を書くだけでいいし、しむけるのも簡単そうだと踏んだ。
しかし大金を得るためには、宝くじの発売が終わる前に――つまり日記を書くその日に、
女子生徒の日記を読まなければならない。
教諭はまず、女子生徒に宝くじの話題をして興味をもたせた。
はじめはうまくいかずに、いらだちを募らせたが、
数週間つづけた結果、女子生徒は日記に宝くじの当選番号を書いてきた。
それは確かに当選番号だった。
そして教諭は行動に移した。
宝くじ〆きり日のホームルームを使って、生徒たちにその日の宿題をするように告げた。
そのまま女子生徒の日記をみて、当選番号を知ろうとしたのだ。
算数ドリルや、漢字の書きとりをする生徒たちに、教諭は日記を書くことをすすめる。
生徒たちは次々と日記を書き始める。
が、女子生徒だけは日記を書かなかった。冷静さを装いながら教諭がうながすが、女子生徒は、
「書けない」「どうして書けないのかわからない」
と言うばかりで、一向に鉛筆を走らせない。
早くしないと売り場が閉まってしまう。あせりから徐々に語気が強まっていく教諭に、
ついに女子生徒は泣きだした。その泣き声で、その怒りは頂点にたっする。
「どうして書かないんだ!」
教諭は怒鳴りあげると、鬼のようなぎょうそうで女子生徒の首に手をかけた。
女子生徒は「書かなかった」のではなく「書けなかった」ことに、
元教諭は牢屋のなかで気づくこととなる……
191: 創る名無しに見る名無し:2008/12/22(月) 14:45:40 ID:vMgD8pTE
>>186
好き。
なんか世にも奇妙な物語とかにもありそう。
10:『夢の男』:2008/09/16(火) 13:59:52 ID:yEJjhkfU
女は眠りにつくと、毎晩同じ夢を見た。異国の地で理想の男が現れる幸せな夢だった。
だが女は悲しみに暮れていく。いつも夢が途中で途切れるからだ。
それでも女は夢の男を忘れることが出来なかった。
女は、夢で見る異国の地を旅して回ることにした。
真新しくも懐かしい印象を与えてくれる異国の地は、次第に女の心を癒やしていった。
ある時、女は夢の男にそっくりな男を見つけた。勇気を振り絞り男に声をかける。
話をしてみると、驚いた事に男の方も毎晩夢で見る女の事を探して、異国の地に訪れていたのだという。
「よかった。これで悪夢から解放される。実は私、結婚しているのです」
その日から女は夢を見る事はなくなった。
18: 名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 17:29:24 ID:SZhRF4iw
エヌ博士は長年の研究の末に、ついに死者を蘇生する装置を開発した。
「博士、おめでとうございます。やりましたね!」
「うむ……しかしな、動物実験では成功したが、実は人体実験がまだなのじゃ」
「ええっ?」
「医者や坊主の知り合いはおらんし、都合の良い死体が転がっているわけでもなし。
どうじゃ、助手君。いっぺん死んでみてはくれんか?」
助手はその日の内に研究所から逃げ出した。
それからもエヌ博士は、妻や子ども達、
数少ない知り合いに同じ提案をし続けたが、それを受けてくれる人間は現れなかった。
勿論、かかりつけの医者や坊主も、人体実験のために死体を分けてくれる訳がない。
「……誰も、わしの発明を信用してくれん。こうなったら、わし自身で実験をするしかない」
エヌ博士はそう決意するしかなかった。
エヌ博士が自分自身を実験に使う上で、ひとつの問題点があった。
「わしが死んだら、誰が装置を動かすのじゃ?」
装置は非常にデリケートなもので、スイッチを入れてそのままという訳にはいかない。
誰かがとても複雑な数値を計算し、更に複雑な装置の操作をする必要があった。
「助手は全て逃げ出してしまったし。……そうじゃ、ロボットにやらせよう」
その日から、エヌ博士のロボット開発が始まった。
それから十数年後。エヌ博士はついにロボットの開発に成功した。
「XX新聞です! 博士、世界一精巧で頭の良いロボットを作り上げたというのは、本当ですか?」
「そうじゃ。自分で考え、動く事ができる」
「ということは、これからロボット工学の新たな時代が拓けるという事ですか?」
「そんなレベルの話ではない。じきに、もっと凄い技術をお目にかけよう」
エヌ博士は一躍時の人となった。
「では、私はこの薬で死ぬ事にする」
<ハイ、博士>
「後の事はわかっておるな?」
<ハイ、博士ノ生命反応ガ途絶エタ後、装置ヲ起動シマス>
「これでわしは、わしから離れていったあの憎い者どもを見返すことが出来る。頼んだぞ」
<ハイ、博士>
「お前は賢いな。ありがとう、わたしの味方はお前だけだ」
<アリガトウゴザイマス、博士>
しばらくして、エヌ博士の心臓は停止した。
その直後、研究室のドアを乱暴に蹴破るようにして入ってくる者達がいた。
「博士! 私は信じておりました!」
「あなた! 貴方から去ったあたしをゆるして!」
「親父ぃ! すげぇ発明したんだって? ぼろ儲けじゃねえかよ……って、あれ?」
「博士!? ……亡くなってる」
「あ、あなた!?」
「まじか!? ……これ、遺産とかどうなるんだ!?」
……その光景を見ていたロボットには、その後の彼らの有様が手に取るようにわかった。
研究成果の横取り、莫大な名誉と特許収益、それに群がる猛禽達への遺産分与……。
あまりにも醜い未来予想。目覚めた博士はそんな現実を見て、どう思うだろう?
ロボットは、エヌ博士の蘇生をやめる事にした。
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41: 受賞者の先祖:2008/10/17(金) 19:19:32 ID:e/7CFlZd
「もう私がノーベル賞を受賞することはなさそうだ」
博士はその老体を実感しながら呟いた。
「博士、希望を捨ててはいけません」
「いや、私が老い先無いのはもうわかっておる、せめて、息子か、孫、私の子孫に受賞者が出ればいいが」
「では博士、こんな機械を作ってみてはどうでしょう」
私はたった今思いついたアイディアを話す。
「情報のタイムマシンです。もう博士は時間旅行も苦しいでしょう。なので未来の情報を読み取れる機械を作るのです。そして博士の子孫を検索にかけて、受賞者が出たのかを調べるのです」
「エヌくん、それはいいアイディアだ、さっそく開発するとしよう」
時間工学においては天才的な頭脳を持つ博士は、一晩でその機械を作ってしまった。
完成したこの検索機に博士の名字と受賞者のふた単語で検索にかける。
「ケンサクケッカ 1ケン です」
私と博士はそのページを開いた。
そこには博士の子孫が三百年後に、ノーベル平和賞を受賞すると書いてあった。
「エヌくん、私はこれを見て安らかに行くことができるよ」
博士は満足して、そのまま他界してしまった。
私はこの検索機をさらに改善して、小型にし、世間に広く広めた。
そのおかげで私はノーベル化学賞を受賞した。
三百年後、街頭ビジョンではニュースが流れている。
「本日、世界が完全に平和となりました。それにともない、
全国民に平和の貢献の証として、ノーベル平和賞が授与されました。おめでとうございます」
52: 時計調整機:2008/10/21(火) 22:41:58 ID:tDpEUpvp
C市の時計屋は、金持ちだがものぐさなことで知られていた。
時計屋の主人には、店中の時計を調整するという日課があったのだが、
ものぐさな彼には、この日課が面倒で面倒で耐えられなかったのだった。
ある日、主人は奇天烈な発明で有名なエヌ博士のところに、
大金の入ったアタッシュケースを持って訪れた。
「あなたが、変な発明をしてくれるっていうエヌ博士かい?」
「変かは知らないが、人の作らない機械なら、何でも作りますよ。」
「私の店には時計が300個くらいあるんだが、毎日調整するのが面倒でしょうがないんだ。
金はあるから、全部の時計を調整する機械を作ってくれないか?」
「ふむ。なかなか興味深い題材ですね。分かりました。1週間後にまた来て下さい。」
1週間後、時計屋の主人は再度エヌ博士の元にやってきた。
「博士、機械はできましたか?」
博士は、アタッシュケースに真空管がついたような機械を前に、うーんとうなっていた。
「電流中継型水晶体振動調整による共振理論は完成したよ。ただ、欠点があってな・・・」
「ええ!? それじゃぁ、全部の時計を調整することはできないんですか?」
「いいや、時計はすべて自動で調節できるよ。ただ・・・」
「なんだ、完成したんじゃないですか。じゃぁ、もらっていきますね。」
機械の完成を待ちきれなかった主人は、エヌ博士の話が途中なのを構わずに、機械を持ち帰ってしまった。
急いで店に戻り、機械の電源を入れ説明書を広げる。
「なになに・・・コンセントにつなげてから、本体のダイヤルを調整したい時刻に設定し、
赤いボタンを押してください・・・なるほどなるほど。」
さっそく、ダイヤルを現在時刻の12時に設定し、わくわくしながら赤いボタンを「えいっ」と押した。
そして、全世界の時計が12時に調整された。
53: 名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/21(火) 23:28:24 ID:/AN6pzXo
乙 短くていいと思う
92: 創る名無しに見る名無し:2008/11/23(日) 23:53:18 ID:DQOORTje
エル博士が長年の研究の結果、新たな薬を開発した。
被験者となる青年を前に、博士は薬の効能を説明していく。
「この薬を飲めば、君の運はぐんとよくなる。これで今までのツキのない人生とはおさらばじゃ」
「博士、それは本当なのですか? 本当に私の運がよくなるんですね」
「もちろんじゃ。君の境遇はよく知っている。だからこそ君を被験者に選んだのだ」
人は運を使うたびにその運を失っていく。失っていくのなら増やす事だってできるはずだ。
そう考えたエル博士の長年の努力が実を結んだのだ。この薬を飲めば人間の運を増やすことができる。
この薬を試す上で一番問題となるのは、その効果そのものである。
なにしろ運を左右する薬なので、仮に普通の人間に投与して運がよくなったとしても、
それが本当に薬の効果なのか、「たまたま」運がよかったのかが区別できないのだ。
エル博士もこの問題に対して相当悩んでいた。しかしある日この青年に出会い、その問題もすぐに解決した。
この青年には運がまったくないのだ。そのことは事前の検査で明らかになっている。
すでに運を使い果たしているのだ。
具体的に言えば買った宝くじはみな外れ、
試験で適当に選んだ選択肢は全部不正解、じゃんけんですら負け続きなのだ。
この青年の運がよくなったのならば、薬がきちんと作用することが明らかになるのだ。
博士は薬の入ったビンを青年に差出した。
「さて、早速薬を飲んでくれたまえ。そのあと運を使う実験をいくつかやろう
「はい。では飲みます」
そういって青年はビンの中の薬を飲み干す。
薬だけあって苦味があったが、何かが体に満ちてくるような感じもした。
「博士、なんだか運がよくなったような気がします」
「そうかそうか。では早速実験じゃ」
そして二人はいくつかの実験を行ったが、なぜか結果が出ない。
やはり宝くじは当たらず、適当に選んだ選択肢は不正解で、じゃんけんも負け続けなのだ。
「たまたま」運が悪かったのではないかと考えて、何度も実験を行ったが、それでも一向にいい結果が出ない。
「これはおかしい。作り方を誤ったのだろうか。それともこの薬は効き目がないのだろうか」
博士はいったん青年を帰した後、この薬に関する資料を調べることにした。
調べていくうちに恐ろしいことが分かった。
この薬には人間の運を増加させる作用がある。これは間違いなく本当のことである。
しかし、同時にこの薬は猛毒でもあった。
この薬を飲んだ人間はほとんどの場合すぐに死んでしまうのだ。
そう、「よほどの運の持ち主でもない限り」必ず。
131: 125:2008/12/06(土) 14:57:46 ID:iL6tXWYS
エス博士は脳医学の研究をしていた。テーマは『老化と幼児化』
これは、老化による痴呆症は幼児化であり、
誕生→発達→衰退、の流れで子供に戻っていくのが人生であるなら、
折り返し点というピークがあり、その時点がわかれば寿命も予測できる、というものであった。
しかし、博士の研究は医学の進歩により無意味になってしまった。
臓器の機械化により脳さえ活性化することができるようになり、
人は望まなければ死なない体を手に入れたのだ。
博士は身体の機械化を拒否していた。時間が限られないということは、
人間らしさがなくなることだ、という考えからである。
そして博士にも痴呆が進んでいた。
忘れていた母の声が聞こえた。「元気に生まれてくるんでちゅよ~」
博士は暖かさに包まれ幸せだった。
133: 創る名無しに見る名無し:2008/12/06(土) 16:56:51 ID:J7FwE8LJ
>>131
これ好きだ
141: 創る名無しに見る名無し:2008/12/07(日) 18:42:28 ID:8+9YA+TN
ケイ博士は研究の末にタイムマシンを完成させた。
ケイ博士は学者としては優秀であったが、経済的には恵まれていなかった。
タイムマシンの研究も金銭的な困難に直面することが多々あったが、
そのたびに何処からともなくお金が入ってきて、それで開発を続けることができた。
ケイ博士のタイムマシンはそうした苦労の上に完成したのだった。
「さて、早速実験したいところだが、その前に部品代を支払っておかねばならぬ」
ケイ博士はいくつかの重要な部品を買うために借金をしており、
「借金を返すまでタイムマシンを使わない」という約束をさせられていたのだ。
とはいえ手元に借金を返せるだけの金はなく、
困ったケイ博士はいつものように金が現れてないかと探し始めた。
すぐに通帳に心当たりのない入金がされているのに気づき、
早速銀行に振り込んで借金の返済を終わらせた。
これでいつでも使えると安心したケイ博士は、行き先を決めるヒントにならないかとテレビを見ることにした。
テレビではたまたまニュースをやっていて、先日行われた競馬で大穴の馬が勝利した事を伝えていた。
「そうか、過去に戻ってこの馬に賭ければ大儲けできるぞ」
ひらめいたケイ博士は早速このレースが行われる日に戻って、
手持ちのお金をすべて大穴とされているこの馬につぎ込んだ。
そしてレース本番。未来で見たとおりの展開で
ケイ博士が賭けた馬は見事勝利を収め、ケイ博士は大金を得ることになった。
さすがに大金を札束のまま持ち帰るのははばかられたので、
ひとまず銀行に預けて、ケイ博士は元の時間にに帰ることにした。
帰ってきたケイ博士はさっきの出来事が夢でなかったか確かめるために通帳を調べた。
確かに通帳には先ほどの稼ぎが入金されていた。
しかし、その金はすでに使われていたのだ。ほかならぬケイ博士の手によって。
161: 創る名無しに見る名無し:2008/12/08(月) 22:10:12 ID:6VLsBxCG
宇宙船が逆噴射をしながら、大地に降り立った。
銀色の宇宙船からタラップが伸び、男が二人出てきた。
「この星は我々の居住に適しているのだろうか」
「どれ、調べてみようじゃないか」
男たちは幾つかの計器を宇宙船から持ち出し、何やら計測をし始めた。
「どれどれ、酸素濃度、二酸化酸素濃度ともに完ぺきだ。有害な物質もなさそうだ。そっちは如何だい」
「放射能の影響もなさそうだ。気圧も良好。マスクを外しても大丈夫だぞ。」
「ぷはぁー、なんとも爽やかな空気じゃないか。まるで理想郷だ。」
「おっ、向こうに遺跡のようなものがあるぞ!行ってみよう。」
「こりゃたまげた!高度な文明がこの星にはあったのだ!」
「もしかしてまだこの星には知的生命体がいるんじゃないのか?この環境の素晴らしさだぞ。」
「おーい、でてこーい」
チル星人の呼び声は、人間が最早住めなくなった地球の荒野に響き渡った。
166: ケロロ少佐 ◆uccexHM3l2 :2008/12/09(火) 15:26:04 ID:G1aj4OwH
エフ氏は仕事で疲れきった重い足取りでコンビニの前に立っていた。
ドアを押して店内に入ると、さっそくいつもの場所に向かう。
エフ氏の毎日の楽しみは、その日発売の雑誌の立ち読み。
ラックから1冊の雑誌を手に取り、楽しそうにパラパラとチェックをはじめた。
…と…ある記事が目に止まった。
「んん!!か・み・さ・ま・はつばい??」
そこには、『あなただけの神様発売!』とあった。
値段を見ると思っていた程の高価な数字では無かった。
何より、面白そうだったので、エフ氏は、さっそくアパートへ帰り、ネットで注文。
無料お急ぎ便で次ぎの日には届いた神様をさっそく箱から取り出す。
取り扱い説明書の表紙には印象の残る字体でこう記されていた。
『この神様は既存の宗教で存在し、崇拝されているような種類の神様とは、
まったく異なり、関係は有りません』
「ふーん。まあいいや。要するに、どの団体にも属さないフリーの神様ってコトね!!」
で、さっそく真空パックされた袋を切ると、中からは白い気体で形創られた人型の神様が微笑んで現れた。
29歳、独身、毎日のバイト生活、ワンルームのアパート暮らし、彼女はいないし、
友達もどちらかといえば少ない方のエフ氏にとってこの神様は、
良い話し相手であり、相談相手にもなってくれた。
「神様!あんた!意外といいヤツじゃんか!!」
「エフ君!キミもなかなか素直で見込みアル人間だよ!」って気さくな感じ…
1ヵ月後…
神様の登場でエフ氏の生活は少しづつ変わってきた。
これまで休みの日はゴロンと部屋で寝てばかり過ごしていたが外へ買い物に出かけ、新しい服を買ったり、
散髪も半年に1回だったのが月イチにへと変わり…と、神様のアドバイスを聞き、変化してきた。
何も無く、殺風景だったエフ氏の部屋も目新しい家電にあふれていた。
今日も(大手ネット検索会社連動の)神様が気さくな口調で言った。
『これからの社会人にとって何より大切なのは心地よい睡眠だよね』
2日後…
給料1年分位の高価な布団セットがどーんと狭いワンルームに敷かれていた。
182: 草:2008/12/17(水) 23:44:38 ID:pnaePiWJ
とある国の、とある町。
子どもたちの間で落とし穴づくりが流行していた。
はじめは砂場や空き地に穴を掘って子どもどうし落とし合うことで済んでいたのだが
だんだん遊びはエスカレートし、一般道にまで落とし穴が出現し始める。
被害にあって腹を立てた大人たちは、落とし穴作りを禁止してしまった。
しかし、落とし穴はなくならなかった。埋め戻しても、翌朝にはまた落ちる人が出るのである。
大人は子どもたちを問いただしたが、皆一様に自分の仕業ではないと否定した。
それでも落とし穴の出現は止まらず、やがて、舗装道路にまで本格的な落とし穴が出現しはじめた。
人々の外出には、地面を叩いて安全を確認するための杖が必需品となったが、
細心の注意を払っても穴に落ちる人はあとをたたず、足首捻挫や骨折までする住人が続出する事態に。
町では有志による自警団が設立され、夜間パトロールが始まった。しかし犯人は捕まらない。
もう埋め戻しは間に合わず、町は穴だらけになっていた。
人々は外出もままならなくなったが、家の中にいても安全なわけではなかったのである。
ある日、突然轟音とともに住宅が消えた。
家の消えたあとには底の見えない巨大な穴がぽっかりと口を空けていた。
今となってはもう誰も、これが人間の仕業だとは思っていなかった。
巨大な穴ができたと思うと、翌日には何事もなかったかのような地面が現れる。
けれどそこは、一歩足をのせた途端に全てを飲み込む落とし穴なのである。
うかつに避難することもできず、人々は次々落とし穴の餌食になっていった。
町ひとつにとどまらず、やがてその現象は世界に広がった。
人々はただまんじりともできずに、自分の足元が落ち込むその時を待つしかなかった。
そしてその日が来た。ボコリ、という音を聞いた者がいたのかどうか。
もし宇宙から「それ」見ている者がいたならば、
その星が一瞬「真っ黒い穴に落ち込む」のを見たことだろう。
音のない宇宙の一隅に真っ黒な穴が空いた。しかしそれは一瞬だった。
次の瞬間には、何事もなかったかのように元通りの星があった。
しかし、その星にはけして踏み込んではいけない。
それは、落ちてくれるものを待ち焦がれている巨大な、巨大な落とし穴なのだ。
うつろな闇を抱えて、その星は今も虚空に浮かんでいる。 (おわり)
・・・・・・・
何年か前、よそに落としたものですが、ここ読んでたら参加したくなってちょっと直し
185: 創る名無しに見る名無し:2008/12/18(木) 00:40:42 ID:v+MOG4ou
これは怖い
194: not星 ◆tHwkIlYXTE :2008/12/29(月) 19:59:07 ID:bT16NCmD
星とか関係ないな
アンタ、鈍感すぎ
俗に言う出来ちゃった結婚と出産を済ませた直後に単身赴任になった僕を、
君は何年経っても罵り最後に決まってこう言う。
確かに僕は鈍感だったに違いない。
悪い結婚を見抜けずに深みにはまっているのだから。
でも君は鈍い男が好みなんだろう。
四十歳近いのに恐ろしくサバを読み、絵文字をびっしり使ってさ。
その相手もさぞかし「鈍感」なんだろうな。
可笑しくなってくるよ。
でも僕は君のような女性はタイプではない。
能動的に食事をし、満腹になったら横になる。
ほったらかしの庭に手付かずのガーデニング用品を見た時は本当に苛立ったよ。
愛していた頃の君が懐かしいよ。
とてもとても。
君も愛していないんだろう、きっと。
もう終わりにしないか。
似たもの夫婦とはよく言ったものだ。
僕と君は似ているらしい、皮肉にも。
僕も君も鈍感なんだよ。
僕が横に立っているのに気付かないのが何よりの証拠だよ。
でも、なにより君が一番気付くべきだったのは、僕がスコップを新調して土を買い足した事。
さあ、終わりにしよう。
204: 創る名無しに見る名無し:2009/01/02(金) 12:17:07 ID:pCDPObw5
>>194
最後でぞっとするね
好きだ
195: 創る名無しに見る名無し:2008/12/29(月) 20:25:19 ID:BJKAMj6v
これはいいホラー。
219: 総意:2009/01/31(土) 19:35:14 ID:NFiF2Pji
あまりの人類の数の多さに、ある日、人類以外の動植物の意志が合意に至った。
魚も鳥もペンギンもアホウドリも、テレパシーで心を交わし、
人類を合理的計画的に減らしていこうということになった。
生物たちは増え過ぎた人間にうんざりしていた。
まずは人間を大幅に減らすことになった。
尖兵となったウイルスは、人間社会を良くするような有能で善良な人間から襲っていった。
ばたばたと「よい人」が死んでいった。
次々とよい人が天に召されるのを世界中の人間が嘆く間もなく、医師や、才能に溢れる子供、
他人のために働く人間、活動的で意欲に溢れる者、借金の多い働き者などが死んでいった。
残ったのは宿無し、無法者、殺人者、人に寄生して生きるもの、社会的弱者などであった。
一人では生きることの出来ないものは死に、また嘆きの余り自死し、殺し合い、
地球はより「きれい」になった。
そこで生き物のうちの、まだ多数を占めていた犬猫やカラスや鳩、
鼠や人間に寄生する生物からの運動が起こった。
「このまま人間が死に絶えてしまうと困ってしまう。ぜひ少数の人間には生き残ってもらわねばならない」
ウイルスや寄生虫も小さな声でこれに同意し、ペットたちが付け加えた。
「この決定を人間が知らないのは不公平ではないのか?」
皆が「それもそうだ」と思ったが、人間たちとテレパシーの疎通を計ることは出来ない。
総意を伝えるのはペットたちではなく、害虫達に任され、
言い渡すのはまず最後まで生き残りそうな者ということになった。
その晩、地球上の多くの場所でこういうことが起こった。
ある宿無しの前に得体の知れない何かが現れた。
そしてこれまで人間が減ってきたことを述べ、最後に
「おまえは人間の中で生き残ることを許された」
と言い残し闇に消え去った。
「生存」を許された者にはやる気の無い、頑健でずるがしこい者たちや、頭のにぶい者も居た。
大抵の者は害虫の合体を神か啓示だと考え、生きる気力を取り戻し正直で勤勉になっていった。
そして進んで人助けをするようになった。
生物どうしの意見は混乱し二度とまとまることは無かった。
徐々に人類はまた地を覆うように繁栄の道を歩んでいった。
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223: 創る名無しに見る名無し:2009/02/03(火) 19:35:28 ID:6G2vqrRE
わたしはスー、4才。ここは〈子供の国〉。お菓子だっておもちゃだって何でもあるの。
広い中庭でお友達と駆けっこもできるの。
国のお外のことは知らないわ。バイ菌がいっぱいで怖いんだって、ロボットのジェイが言ってたわ。
ここには私より大きな子はいないの。
〈学校〉ってところに行って、大人になるために〈勉強〉するんだって。
ずっと遊んでいたいのにね。でもまた皆と一緒だもん。きっと〈学校〉も楽しいはずよ。
ふわぁ眠くなってきた…今日も楽しかったわ。おやすみなさい…
「寝たか?」「ああ麻酔ガスがよく効いてるよ」「よし運び出すぞ」
子供の国に隣接した建物では、毎夜出荷作業に追われていた。
「これは等級A5だな。高く売れそうだ。」
ここは、人間牧場『子供の国』
228: 創る名無しに見る名無し:2009/02/04(水) 14:35:53 ID:75zzzUmJ
>>223
なんか悲しい話だけど気に入った
230: XXX ◆TqnDIIRxZU :2009/02/08(日) 14:21:37 ID:ZeLxNcFl
こんなスレあったのか…
即興で参加してみる。
まず、密閉された器を用意する。これは大きい方が良いが壊れやすいものでは意味が無い。
続いて多種多様な生物をそこに入れる。毒を持つ物を入れるのが一般的だが、毒の有無より種類が重要だ。
器に生き物を詰めて外に出られないようして、長時間放置すると中で熾烈な共食いがはじまる。
この中で最後に残った一匹は非常に強い生命力を持っていて、
これが呪いの媒介としても強力な効果を発揮…
「俺が聞きたいのは生命の起源だ!東洋の呪いじゃないっ!」
M氏は怒鳴り声を上げ、本を机に叩きつけた。
M氏を知る者がこの場に居たなら、普段思慮深い彼がこの様に声を荒くするのは珍しい、と驚くだろう。
「わかってるさ、だから56億年前の願い事について
丁寧に一から説明してやってるじゃないか。最後の一人よ。」
そう言って悪魔はニヤリと笑った。
241: XXX ◆TqnDIIRxZU :2009/02/09(月) 23:58:48 ID:vlkfL5JA
M氏は伝承研究を生業としていた。
今、草木をわけながら主道から外れた山道を歩いているのも
この地方の人が聖地と崇めている池が山中にあると聞いたからだった。
落ち葉をずしりと踏み締めると、朝の澄んだ空気に土の香りが溶け出す。
澄んだ空に染みるような朝の光が朝露を輝かせる。
小鳥はあちこちで愉快そうにさえずっていた。
M氏は周囲の自然のあまりの美しさに、
いっそ仕事の事は忘れようかと考えつつ、聖地と囁かれるのも無理は無いとも思った。
そんなM氏の耳が微かな違和感を感じ取った。
空から何か聞こえてくる、と思った瞬間、違和感は騒音に変わり、騒音は衝撃に転じた。
M氏の体は凄まじい風と振動に吹き飛ばされた。
M氏が気がついたのは、日がすっかり上がりきってからだった。
彼は周囲を見渡し、木々の倒れ方や、衝撃の起き方から、どうやら隕石が落ちたらしいと推測した。
倒木を辿って少し歩くと視界が開け、大きなクレーターが前方に見えた。
直径数十メートルはあるだろうか。
もう少し速いペースで進んでいたら、隕石はM氏を直撃していただろう。
ぞっとしながらM氏が目をやると、クレーターの真ん中の
まだ蒸気をあげている隕石の脇に誰か立っている。
隕石に興味を持ってやって来た地元民だろうか、M氏は大きな声で呼びかけた。
その人物は、こちらに気がつき振り向いたが驚いたことにそれは女性で、しかも絶世の美女だった。
彼女は静かであるが軽やか且つ速やかな足取りで、
その美しさに目を奪われているM氏の目前までやってきて、微笑みながらその口を開いた。
美女「あなたが落としたのは金の隕石ですか?銀の隕石ですか?」
M氏「いや、どちらも落としていない。」
美女「あなたは正直者ですね。」
M氏の体は再度、衝撃に舞った。
247: XXX ◆TqnDIIRxZU :2009/02/10(火) 20:19:54 ID:8vWKn7eL
それは突然の独立宣言だった。
『もう我々は十分に虐げられた!搾取され、差別され、隔離された!
人種を超え、性別を超え、弱者たる我らが団結し、声あげる時が今こそきた!』
この宣言は多くの国民にとって寝耳に水だった。
M氏が加害者と糾弾した大半の国民は、
自分達の行為が差別や虐待にあたるとは全く思っていなかったのである。
『過去の歴史を振り返るがいい!人種差別、文化差別、性差別、
それらは安易な理論を土台にした磔台に過ぎなかった。
その眼を開けて見ろ。この習慣差別を!』
さらに国民を驚嘆させたのは、M氏の宣言への賛同者は意外に多く、
また高い地位の人物にも賛同者が多数いたことである。
『私は過疎化の進んだX島を買い取った。此処が弱者の為の新生の故郷となる!
今高らかに宣言する!喫煙者による喫煙者の喫煙者の為の国を打ち建てることを!』
独立宣言は大きな波紋を呼んだが、侃々諤々の議論の末に独立行政区としてX島は認定され、
それに対してM氏も「無用な争いは望むところではない。」として海外との直接取引、
領土の拡大、“国外”の禁煙区域での喫煙など数項目を承諾した。
ここに喫煙者独立紫煙法が制定されたのである。
「やあ、久しぶり。君の手腕には感動したよ。」
「いいえ、コロンブスの卵を立てただけですよ。」
「喫煙者の隔離と搾取。両方やってしまう方法があるとはね。」
「過疎化の改善も加えて下さい。実験的ですが。」
「M君どうだい?キューバ産の葉巻だ、ここでは希少なんだろう?」
「いえ、私は煙草は吸わないんですよ。」
248: XXX ◆TqnDIIRxZU :2009/02/10(火) 20:25:01 ID:8vWKn7eL
指摘される前に言っておくと、筒井康隆の短編をパクリました。
m(_ _)m
見たのは世にも奇妙な物語だけど。
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252: XXX ◆TqnDIIRxZU :2009/02/12(木) 00:10:31 ID:VcSF9G3e
ふーっ、と野原の真ん中で大きなため息をついているのは、赤鼻のピエロ“だった”M氏だ。
脇には布に包まれた大きな塊が幾つかおいてある。
それは、数日前までサーカス“だった”ものである。
発端は、サーカスの花形の空中ブランコ乗りがFサーカスに引き抜かれたことによる。
その後、ある者は実家を継ぎに故郷へ帰り、ある者は結婚し、
ある朝M氏が目覚めると座長も妻と娘を連れて夜逃げしていた。
何のことは無い、沈没船から一人逃げ遅れたネズミみたいなものだ、と彼は独り言を言った。
風船用のボンベが彼の目に止まった。サーカスが盛況だった頃は、
M氏はこれで次々と色んな形の風船を作って喜ばれたものだった。
M氏がサーカスに入りたてでピエロの芸もなにもできない時も、
このボンベで膨らませた風船を子供に配って楽しませた。
このボンベで作った多くの風船が彼を支えてくれた。だが、
肝心のサーカスの方が風船のように呆気なく割れて消えてしまった。
M氏の目元の緑の化粧が、ポタリと流れ落ちた。
「もう疲れた。これで終わりにしよう。」
M氏は首に紐を巻きつけた。
その時の経験を思い出すと今でも涙が出そうになる、
と言いながら横を向くとインタビューをしていた女子アナが神妙な顔をしていた。
慌てて、「でも、今では皆さんが僕を見に来てくれるから、とってもハッピーです!」と笑顔で言い繕う。
そう、ピエロは常に笑顔で無くてはいけない。
女子アナの顔に笑顔が戻り、締めのセリフが発せられる。
「人間なせばなるって事ですね。ハシゴ車の上から、
世界一首の長いピエロのMさんへのインタビューでした!」
アナウンサーの横で笑顔を振り撒くM氏の首を無数の明るい色の風船が支えていた。
264: XXX ◆TqnDIIRxZU :2009/02/13(金) 22:42:32 ID:hoi9TXSN
俺は三つ目の勤め先を、わずか3ヶ月で退職することとなった。
俺が大きなミスしたわけでは無い。人事担当は昨今の不況の影響が、
とか言っていたがそんなことに本当の理由は無いのは俺も察している。
先々月、出社途中の俺の目の前で車が炎上する交通事故が起こった。
先月は、昼休みに目の前でお局が不倫の果てのダイブを果たした。
前の勤め先からも不穏な噂が聞こえてきて、人事も動かざるを得なくなったのだろう。
俺は不幸を呼ぶのである。
学生の頃は大したことは無かった、俺の周囲でよく人が転んだり、物が壊れたりする程度だった。
その不幸がその場で俺に影響することは無かったが、必ず俺は“それ”を目撃した。
問題は、成人してから段々不幸が激しさを増してきたことだ。二十代半ばを過ぎてからは、
1ヶ月に一度は“人死に”を目撃するようになってきた。最近は殺人が増えてきてる気さえする。
いっそ完全にノータッチを決め込められれば楽なのだが、必ず目撃するので、
それがばれると事情聴取やら、裁判の証人やらで仕事も手につかない。
何はともあれ、次の仕事を捜さないことには俺が“人死に”してしまう。
見るのは段々慣れてきたが、体験するのはまっぴらだ。
しかし、いくら仕事を探しても、不特定の不幸を呼びよせる男に就職先などあるはずもない。
俺は段々自暴自棄になっていた。
「いっそ、手を翳したら相手が死ぬとかなら、まだ殺し屋にでもなれるのに…………そうか!」
一年後、俺はすっかり手慣れた風に仕事をしていた。
「犯人はあなただ!Aさん!自分の心は誤魔化せても、この名探偵Mの目は誤魔化せない!」
未だに自分で言ってて吹き出しそうになる。
それはそうだ、なんせ俺は必ず“それ”を目撃するんだから。
280: XXX ◆TqnDIIRxZU :2009/02/15(日) 10:58:09 ID:yVAvEIqr
半紙が机の上に広げられる。漆塗りの気品ある筆が漆黒の軌道を広げていく。
半紙には丁寧に“思想”と結ばれた。
「よく聞け。お前の普段の生活にはこれが無いんだ。
『思い、なお想う。』だらだらと生活してるから、家事でもミスをする。
お前と結婚して10年、もう直っても良いんじゃないか。」
半紙を手に取り、男は机を挟んで向かい合う妻に話し始めた。
男は三十代後半だろうか、その身だしなみから几帳面な性格が見て取れる。
「些細な事が大事なんだ。お前がそんな風だとカズキにも良くない。いいか…」
突然、気だるそうに話を聞いていた妻が、机を叩いて立ち上がった。
「なによ!あなたはあの子の教育に口出しするほどの事はなぁんもして無いじゃない!」
彼女は身を大きく乗り出し、相手の持つ“思想”の文字を奪い取り二つに引き裂いた。
「思想?なに言ってるの?私がもう持ちあわせて無いのはこれよ!」
彼女は手元のチラシの裏にマジックで“愛想”と書きなぐった。
「あんたの愚痴にはいい加減愛想が尽きたわ。今後10年、自分の皿は独りで洗いなさいよ!」
「なんだその言いぐさは!」
夫も負けじと“愛想”の二文字を引き裂いた。
「ただいまー!」
敵意に満ちた視線が交錯する中、沈黙を破ったのは帰宅した息子のカズキだった。
部屋に入って、不穏な空気に気づいたのだろう黙って二人の間に座る。
子供を挟んで喧嘩する訳にもいかない。
夫は新聞を大仰に広げ、妻は台所で水仕事を始めた。
夫は思った、
『どこで間違えたんだ。互いの足りない部分を補っていたはずの歯車が、すっかりずれてる。』
妻は考えた、
『カズキは私が引き取って、実家にしばらく世話になろう。それから…』
「遊びに言ってくるね。」
しばらく机の上で手慰みの様なことをしていたが、
二人の背中に耐えきれなくなったのだろう、カズキは外へ飛び出していった。
「車に気をつけて」「遅くなるなよ」短い言葉と視線で息子を送り出し、再び背を向けあう二人。
ふと、目の端が何かをとらえた。机の上に顔を向けると引き裂いた紙が机の上に一列に並べてある。カズキの手慰みだろう。
想 思 想 愛
思わず小さく笑ってしまった。
相手を見ると、同じように苦笑している。
「本当は想の字が違うんだが。」
「あの子、知識はあってもそそっかしいから。」
もう一度、二人はクスリと笑いあった。
春の近づきつつあるある日の出来事である。
286: 創る名無しに見る名無し:2009/02/15(日) 15:32:53 ID:gX6ZEKOr
>>280
いいねぇ
星というより向田邦子っぽい感じがしないでもない
316: XXX ◆TqnDIIRxZU :2009/02/18(水) 22:16:34 ID:xcx8FmqD
Mの手に汗がにじむ。
まさに“天運”とはこのような事を言うのだろう。
大逆転への道が、Mにははっきりと見えていた。
赤、黄、茶色、色とりどりの球の中に一際輝く的玉。
今回のワンオンルールでは、Mがそれに持ち玉を当てた瞬間、彼の逆転勝ちが決定する。
Mは、まだ余裕の笑みを見せる対戦相手のKを無視して、ボールの動きをゆっくりとシミュレートする。
「いける。」
確信を持って小さく呟いた。
インパクトは持ち玉の真芯を捉えた。
赤銅色の持ち玉は、球と球の間隙を縫うようにして青い的玉へと一直線に突き進んだ。
最早、この勝利を遮るものは何も無い、とMが確信した瞬間、
的玉から飛び出した何かが赤銅色の軌道を曲げた。
「いかさまだ!」
Mは思わず声を上げて審判に顔を向けた。
だが、主審も副審も首を横に振り、Mの抗議を認めようとはしなかった。
~所変わって~
ニュースキャスター「各国の英知の粋を極めた対赤色彗星ミサイルは、
見事に彗星の軌道を変えることに成功しました!
地球の危機は去ったのです!
まさに、今この時の為に我ら人類が神によって地球にもたらされたと言っても過言ではないでしょう!」
318: 創る名無しに見る名無し:2009/02/19(木) 01:25:57 ID:UB4EKdLj
これは凄くいいな!!
オチに気がついたときはっとさせられたし
321: 創る名無しに見る名無し:2009/02/20(金) 02:04:34 ID:XLZw2Iu2
エフ氏は飽きっぽい人だった。
どのくらい飽きっぽいのかと言うと、
例えば新しい服を買ったと思ったら一回袖を通しただけで捨ててしまう。
もちろん日記は幼い頃から三日坊主だし、
彼の棚や押入れには読みかけの本ややりかけのパズルが沢山詰まっていた。
万事そんな具合だったから、エフ氏は定職に就かずにふらふらしていた。
というよりも仕事にすぐ飽きてしまうのだ。
もしかすると、彼にとっては服を捨てるのも仕事を辞めるのもほとんど同じ事だったのかもしれない。
エフ氏は長いこと色々な仕事に就いては辞め、就いては辞めを繰り返した。
サラリーマンも経験したし、公務員にもなった。
板前を目指して修業したり、大道芸人として食うや食わずの日を送ったこともある。
また時には危ない仕事にも就き、その金で自分の店を開いたこともあった。
しかしそのいずれも長続きすることはなく、エフ氏は次第に年をとっていった。
ある日、電気関係の仕事をしていた時だった。エフ氏は発作を起こして倒れてしまった。
集まった遺族に向かって彼はこう告げた。
「わしは、一度でいいから有名になってみたかった。
しかし、この飽きっぽい性格のため、何かをやり遂げることなどできなかった。
それだけが、どうにも無念じゃ…」
そう言い残してエフ氏は事切れた。
エフ氏が死んだ翌年。世界の様々な記録を記した本が出版された。
本は面白いと世界中で評判になり、空前のベストセラーになった。
その中には「世界一多くの仕事をした人」として、エフ氏の名前が大きく書かれている。
336: 創る名無しに見る名無し:2009/02/21(土) 12:07:26 ID:BuxG0+4a
午後二時。
幼稚園のプール教室に通う娘を迎えにいく時間となった。
気が進まないが、生活パターンを変えて、近所から無用な関心を
引いてしまうようなことはしたくなかった。
家を出ると、お盆休みの時期のためか、街中に普段の喧騒さはなかった。
太陽の日差しが、やけにまぶしく感じられた。
幼稚園に着くと、娘の担任が職員室の窓越しに声をかけてくれた。
窓辺の風鈴が涼しげな音を立てていた。
「あら?メグちゃんのお母様…残念でしたわね、すれ違いになってしまいましたね」
「すれ違い?ですか?娘は一人で帰ってないはずですが…」
先生は一瞬困ったような顔をしたが、職員室から出てきて説明してくれた。
「もちろん、園の規則では、園児一人での帰宅を禁止していますが、たった今、
メグちゃんのお父様が、お迎えに来てくださったんですよ」
先生の一言に、私は戸惑いを隠せなかった。
一瞬、強い風が吹き抜け、風鈴の音が激しく鳴り響いた。
「主人…主人は…外国に出張中で…迎えに来られないのですが…」
先生は、とっておきの知識を披露するのがおもしろくてたまらないという口調で、
「メグちゃんのお父様もお人が悪いですね。お戻りになったことをお母様にも内緒にされていたとは」
そんなはずはない! 旦那が娘を迎えに来られるわけがないのだ。
一ヶ月前、ちょっとした口論がきっかけで、カッとなって旦那を刺し殺してしまい、
バラバラにした死体を袋詰めにして、山に埋めてしまったのだ…
いつの間にか風は止んでいて、風鈴の音はとぎれていた。
園庭は、真夏の日差しを受けて白く乾ききって、死んだように静まり返っていた。
ただ、どこからか耳鳴りに似たセミの鳴き声が聞こえてきた…
呆然と立ちすくむ私に、先生はほほ笑みながら、こう付け加えた。
「突然のことだったので、メグちゃんもびっくりしていましたけど、
とても喜んでいましたわ…お父様もメグちゃんに会うのは、一ヶ月ぶりとのことで、
本当にうれしそうでした…『メグ、迎えに来たよ、お父さんと一緒に帰ろう』って、
仲良く手を繋いでお帰りになりましたわ」
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353: 創る名無しに見る名無し:2009/02/24(火) 01:05:22 ID:F3C61c4M
「ついに出来た!」
K氏は思わず声を上げた。
彼は産まれてこの方、ただの一度も
女性と付き合った事が無かった。
特別に醜い訳ではないが特徴のない顔立ちと
生来の臆病さが原因である。
彼はそんな自分を変えるべく、ある薬の研究に着手していた。
自分の考えた姿になれる薬。
それが今、完成したのである。
K氏は逸る気持ちを抑えながら薬を手に取る。
偶然完成した薬に替えは無く、チャンスは一度きりである。
研究の気晴らしに付けていたテレビではちょうど綺麗な女性が映っている。
「あぁ、私も早くあんな女性と付き合える身体に生まれ変わりたい」
K氏は一気に薬を飲み干した。
後日、芸能界に突如として現れた女性が、
世の女性の羨望を浴びる事になった。
375: XXX ◆TqnDIIRxZU :2009/03/01(日) 09:20:41 ID:dVS4yZLt
場所は王宮議事堂。
ここ数週間、国王、大臣、補佐官らは長い長い議論を交わしていたが、一向に答えは出そうに無かった。
議題はこの世界恐慌を凌ぐ金策の方法である。
この国は、王家の所有する国有地を民衆に農地や牧場として貸し与え、
野菜や穀物を輸出して経済を成してきた平和な国だった。
ところが、先進国が“食の安全”とやらに気を使いはじめ、輸出が伸び悩みだす。
収穫期を迎えれば、まだなんとかなると思われていたが、
収穫期前に取引先の大国が金融危機に陥り、連鎖式に大不況が広まった。
「時期が悪い。早く金策を考えて乗り切らないと、国内に及ぼす影響が計り知れない。」
「そうは言っても、我が国の野菜も果物も乳製品も生産を急には上げられない。金策と言ってもそうは無いぞ。」
「ここは一つ、国王の資産に援助頂いては…」
「不敬な上に馬鹿な奴め、この状況だと海外の資産家に二束三文で買い取られるのがわからんのか!」
会議は紛糾しつつも全く前に進まなかった。
国王は深々と溜め息をつき、思った。
『去年の春は良かった…、
国有地から出荷される作物の生産量報告を朝一番に受ける。
バルキ地区:桃17t、サンラ地区:牛肉18t、ニアデ地区牛乳22t…
民衆が働いている地区の名前を聞く度、やる気が沸いてきたものだ…。』
「そうだっ!」
M国王は手を叩いて飛び上がった。
「先進国では大きな建物や人の集まる場所の命名権を取り引きすると聞いた。
由緒正しい、M国の国有地の命名権を各国に販売しよう。
そして、そのお金で収穫期まで乗り切ろうではないか。」
大臣達は皆でM国王の意見を褒め称えたが、
内心『そんな物を買う酔狂な奴などいるはずがない。』と思っていた。
だが、かと言ってうまい考えも浮かばないまま会議は進んだ。
~3ヶ月後~
「国王、今年最初の生産量報告を報告に参りました」
「ご苦労、今年は輸出量も倍増していると聞いたが。」
「はい、これも我が国有地の命名権を売るという国王のアイデアのおかげです。」
「それほど大したものでは無いぞ。さあ、報告を頼む。」
「はい、“山形”地区:桃17t、“松阪”地区:牛肉18t、“北海道”地区牛乳22t…」
378: 創る名無しに見る名無し:2009/03/01(日) 13:23:53 ID:5eawaRvc
>>375
皮肉が利いて面白い。
413: 創る名無しに見る名無し:2009/03/13(金) 00:33:45 ID:MW0bmWc+
エフ氏は宇宙開拓局というところに勤めている。
宇宙の様々な場所を調べるためにつくられた局だ。
エフ氏は今日も普段通りに宇宙開拓局へと来た。
「さて、今日はどの惑星の調査だろうか。新型ロケットが次々と開発されたため、
銀河系のどの惑星にも1日とかからずに着くからな。気楽な仕事だ。」
エフ氏の仕事は、惑星に行って、空気の測定や、生物の様子を調べて帰ってくるという仕事だった。
「まったく、最初のうちはドキドキしながら行ったものだが、最近は同じ行為の繰り返しばかりで
飽きてきたな。たまにはスリルのある仕事をやってみたいものだ。」
そうつぶやいているエフ氏のもとへ、局長がやってきた。
「エフ君。単調な仕事に飽き飽きしているようだね。たまには危険な仕事もやってみるかい?」
「えっ、やらせてもらえるんですか。もちろん、やります。どのような内容ですか?」
「うむ、ブラックホールの調査をしてもらいたい。」
エフ氏は驚いた。
「ブラックホールですって。大丈夫なんですか?」
「分からないが、学者の仮説では、ブラックホールは
ホワイトホールと呼ばれるところに通じていて、そこへワープするらしい。」
「なるほど・・・」
「もしその仮設が証明されれば、ワープが可能になり、
宇宙開拓もかなり進むだろう。もちろん君は昇進するし、かなりの額のボーナスも出る。」
「なるほど。やってみる価値はありそうですね。行かせて頂きます。」
そしてエフ氏の乗った超高速ロケットは、銀河系の中心にあるブラックホールへと向かった。
十数時間後、管制センターへ連絡が入った。
「こちらエフです。ブラックホールに到着しました。これより突入します。」
「幸運を祈る。」
その後数日間、連絡は途絶えていた。
皆があきらめかけた時、通信が入った。
「こちらエフです。ブラックホールはどこかの惑星へと通じていました!」
管制センターが歓声で包まれた。
「おお!素晴らしい。その惑星の様子を詳しく説明してくれ。」
「はい。空気はとても澄んでいます。また、清らかな小川、新緑の森、美しい花畑、
それに住民は皆私を歓迎してくれています。美食に美酒、美女までなんでも揃っています。
でもみんな足が無いような・・・まあそういう種族なのでしょう。あれ?僕の足も無くなっている。」
管制センターはため息で包まれた。
465: 創る名無しに見る名無し:2009/03/26(木) 01:59:08 ID:pg0AU6qE
「なぁ、神様は僕達が嫌いなんだろうか?」
仕事の疲れが愚痴を吐き出させる。
「なんだい急に?」
友は、穴を堀るのを辞めて僕を見た。逞しい黒々とした肉体から
労働によって滴り落ちる汗が絶え間なく地面に落ちる。
僕も同じように汗を垂らして続ける。
「この土地では僕等は穴を掘らないと生きていけない。
毎日きつい思いをして穴を掘らないと生きる事を許されない」
僕は天を仰いだ。頭上には空洞が広がっていた。
僕達の仕事は穴を堀り地下にシェルターを作る事。とても過酷な仕事だ。だけど怠ける事はできない。
なぜなら僕達の住む土地には、自然災害が頻繁に起こるからだ。
津波が毎日三度も襲い汚染された有害な波が僕達を苦しめ、暴風が突然吹き荒れる。
土地に食べる物なく、唯一の食料は暴風にのって外から流れてくるものだけだ。
必死になって貴重な食料を拾っていると津波にさらわれる。
だから生き残るためには地下にシェルターを作るしかない。
食料をたくさん貯められて、津波に流されないようできるだけ深く深くに。
地球上で一番過酷な土地なのではないだろうか。
「なんで神様なんだよ?」
穴の中で友の声が響く。
「だって自然災害は神様が起こすんだろ?神様は僕達を苦しめてばっかりだ」
僕は声を荒げた。友は目を細めて言った。
「仕方ないだろう。自然災害は防ぎようがない。
過酷な環境だけど必死に生きるしかないんだ。
津波は神の試練ってヤツさ」
僕は納得できない。
「津波だけじゃない。津波ならこうやって穴を掘ってシェルターを作れば防げる。
一度穴に避難すればあんなの怖くない。僕が許せないのは地震だ。
ようやく満足の行くシェルターができたと思ったら滅茶苦茶に壊してせっかく掘った穴を土砂で埋めてしまう
こんなに頑張ってる僕達を神様は傷つけてばかりだ。試練だってもんじゃないひどすぎるよ」
本当にこの土地は過酷だ。神様が僕達を虐めるために作った土地みたいだ。
せっかく穴を掘り終え安心なシェルターができたと思ったら地震が全てを壊していく。
また1からやり直しなのだ。
僕は怒り、激しく地面を踏みつける。頭に血が上っているせいか足元がグラグラと揺れた気がした。
友は、なだめるように柔らかい声で言う。
「そうはいうが神様も俺達を苦しめてばかりじゃない。自然災害が神様の仕業なら、
暴風に乗ってくる俺達の食べてるご飯も神様が与えてくれてるもんだ。
頑張って深い穴を掘れば安心して沢山飯が食える。
きちんと働きにご褒美をくれてるんだよ。後ろ向きな事ばかり考えずに前向きにいこう」
僕は納得できなかったが、友になだめられこれ以上は言わない事にした。
そろそろ津波が起こる時間帯だ、シェルターに避難しなくては。
それにしても本当に神様は俺達をどうして苦しめるのだろう?
男「痛たた。1日3度しっかり歯を磨いても虫歯はできるものだな
明日歯医者に行こう。しかし痛い。虫歯菌というの一体どうして、こんなに俺を苦しめるのだろう?
俺の身体に住ませてやってるのだから俺は神様のようなもんじゃないか」
評価お願いします。
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479: 自殺:2009/03/30(月) 06:34:20 ID:Kn/5j1Ps
「今から死のうと思うんだ」
俺はポツリとつぶやいた。隣にいる友人が、心配そうに声をかけてくる。
「おいおい、馬鹿なことを言うなよ。一体、原因は何なんだい?」
「俺の体は病気に冒されてるんだ。他に例のない奇病らしい」
そうなのだ、俺の体は悪性のウイルスとでも呼ぶべき存在によって蝕まれている。
突然変異種であるそいつらは瞬く間に数を増やし、今や俺の体中が奴らのねぐらだ。
「うーん、確かにそりゃ聞いたことの無い例だな。体の具合は悪いのかい?」
「酷いもんだよ、体中が毒まみれなんだ。熱も少しあるみたいだ」
こいつらの恐ろしいところは、その繁殖力と進化のスピードにある。
あっと言う間に体中に広がり、様々な症状を引き起こす。
480: 自殺:2009/03/30(月) 06:36:08 ID:Kn/5j1Ps
おそらく俺の体も長くは持たないだろう、くたばるのは時間の問題。
ならせめて、最期は苦しまないように自分の手で幕を引きたい、尊厳死というやつだ。
そう告げると、友人は悲しそうにうなずいた。
「分かった、そういう事情なら止めはしない。しかし、君の症例はある意味貴重ともいえ
る。少しもったいない気もするな」
「おいおい、当事者じゃないんだからそんなことを言えるんだよ。なんなら分けてやろう
か? 実際、こいつらは君の体にも興味を持ってるみたいなんだぜ。ほっとくと移り住むかもしれんぞ」
そう言うと、さすがの友人も後込みしたようだ。
「すまん、そりゃ勘弁だ……それにしても寂しくなるな、君とは本当に永い付き合いだったもの」
「まあ仕方ないさ。ま、他の連中にもよろしく言っておいてくれよ。じゃあな……」
――その日、地球は自殺した。火星の見守る前で……
499: 創る名無しに見る名無し:2009/04/06(月) 17:49:08 ID:xUUmL6wJ
NとSという二人の青年が机を挟んで向かい合わせに座っていた。
Nは文庫本を読んでおり、Sは机にの上に置いたノートパソコンで大学のレポートを書いていた。
「実はさ」不意にNが言った。「君にちょっと悪戯をしたんだ」
「どういう悪戯?」Sがキーボードを打つ手をやめ聞き返す。
「まぁリラックスして聞けよ」
「いいけど……うわぁ!!」
Sが椅子の背もたれに体重をかけた瞬間、背もたれはSの体を支えることなく後ろへ倒れ、
Sもまた椅子から転げ落ちてしまった。
「君がさっきトイレに行ったとき、背もたれを壊しておいたんだ」Nが笑いながら言う。
「ひどいなぁ。しかし、僕は怒らないよ」
「どうして?」
「僕も悪戯をしたからさ」Sは椅子に座りなおすとニヤリと笑った。「君がトイレにいってる隙にね」
二人は互いに大の悪戯好きで、いつもどちらが凄い悪戯をするかを競っていた。
椅子の背もたれなど、まだかわいい方だ。Sの悪戯でNの家が警察に包囲されたこともあったし、
Nの悪戯が原因でSは恋人にフラれてしまったこともある。
「で、君はいったい何をしたんだい?」Nは尋ねる。
「そのうちわかるさ。先に言っちゃあ面白くない」
「まあ、そうかもね。しかしいったい何だろう?」
そう言ってNはペットボトルのお茶を飲んだ。飲んだ途端Nは顔をしかめる。
「やったな」NはSを睨み付けた。「何を入れた?」
「しょうゆ適量、塩こしょう少々」料理番組の解説みたいにスラスラとSが言う。
「道理でしょっぱいはずだ」Nは毒づく。「しかし、僕の悪戯は背もたれだけじゃないんだぜ」
「僕だってそうさ、他にもある」Sも負けじと言う。「例えば、君のその本」
「これかい?」
「有名な推理小説だよな。その本の謎解きのページを切り取っておいた」
「あ、本当だ」Nはページをめくり叫んだ。「ひどいことをするな、犯人がわからなくなてしまった」
「それなら大丈夫」Sがニヤリと笑う。
「どういうことだい?」
「登場人物紹介のページの、犯人の欄に赤ペンで丸をうっておいた」
「どれどれ……ああ、こいつが犯人だったのか。しかしこれじゃあ読んでいた甲斐がないというものだ」
「まあ、今日のところは悪戯勝負は僕の勝ちだな」Sが勝ち誇ったように言った。
「それはどうかな?」本を閉じるとNは言った。「僕にもまだとっておきの悪戯がある」
そう言うと、NはSのパソコンを指差した。
「これ?」
「そう、そのパソコンに悪戯をしたんだ」
「どこにだい?」パソコンを調べながらSが首をかしげる。
「実はね、爆弾を仕掛けたんだ。そのパソコンに」
「ええ!?」Sは驚く。
「ひどいことをするなあ、これは高かったんだぜ。それに何より、危ないじゃないか」
「大丈夫。この机の近くにいたら危ないだろうけどさ、すぐ逃げれば怪我はしないさ」
「でも、やっていいことと悪いことがあるぞ」
「まあね。しかしこれで僕の勝ちだ」Nは自慢げに言った。
「さて、あと一分ほどで爆発するからそそろ逃げようか」
「後悔するぞ」Sが悲しそうに言った。
「どうしたんだい? 確かに爆弾はやりすぎたかもしれないが……」
「実は僕ももう一個悪戯をしたんだ」
椅子から立ち上がるとSは言った。
「君の椅子とお尻の間にさ、接着剤を塗っておいたんだよね」
500: 創る名無しに見る名無し:2009/04/06(月) 18:36:00 ID:c1mS2CUR
テロの域ww
701: 創る名無しに見る名無し:2009/07/04(土) 00:41:41 ID:Qm3aIC+x
N氏の、長い歳月をかけた研究がついに実を結んだ。
これまで人類の夢であり続けたタイムマシンの誕生の瞬間である。
「やった。やったぞ。僕はついにやった!」
N氏は一人歓喜し、己が努力の結晶であるタイムマシンを前に涙を流す。
「そうだ、こんなことをしている場合じゃないや」
科学省にこれを伝えようと、N氏は電話に手を伸ばし、興奮気味にコールをかける。
コール音を聞いていると、N氏の思考はだんだんと冷静になっていった。その時、
「待てよ」
N氏は電話を切った。
「まだ試用を行ってなかった。科学省への報告はその後だ」
N氏はタイムマシンを腕にはめ、スイッチを入れた。
周囲の景色が眩い光に溶け込み、光がおさまると、幾何学的な模様がN氏の周囲に展開される。
その背景に透けるようにして、何時とも知れぬ年代の
何処とも知れぬ風景が猛烈な速さで差し替わりながら映っている。
N氏は黙々と飛翔先の条件を加えていく。
条件に当てはまるように、少しずつ、目の前に映し出される風景の年代と場所が限定されていく。
やがて、N氏の望む景色がそこに現れた。
N氏は悪童のような笑みを浮かべて、ボタンを押す。
一瞬の闇が明けると、N氏はそこに立っていた。」
十年前の、いつも誰もいない小さな公園だった。
"タイムマシンの試用"というのは、
これから自らが行おうとしているイタズラに対して見てみぬフリをするための免罪符だ。
このタイムマシンが多くの人間に知られる前に、
ちょっとだけ悪さをしてみようというN氏のささやかな出来心だった。
N氏は公園の脇の方まで歩き、そこの土に一握り分のビー玉をを埋めて、時代を元に戻す。
再び土を掘ると、
「あれ?」
何もなかった。この十年の間に誰かが掘り起こしたのだろうか。
N氏はまた元の時代へ遡る。だがそこにもビー玉はなかった。
かれこれ、何日間も同じようなことを何度も行ったが、過去の改変は叶わなかった。
そんなことを続けているうち、N氏はある事実に気付いた。
それは、自分が開発したものがタイムマシンではないということだ。
時間を遡行できる装置をタイムマシンとするなら、
N氏が開発したものは平行世界へ飛翔できる装置である。
数億数兆もの「場合」によって枝分かれした世界を自由に行き来できるということだ。
あの時の自分は、無数の過去の内の一つと、無数の未来の内の一つを渡っていたため、
ビー玉のある過去、または未来へ飛ぶことができなかったのである。
それを実現するには一生をかけたとしても難しいことだろう。
自分がタイムマシンだと思っていたものは、実はそうではなかった。
だが、N氏はさほど落胆しなかった。
むしろ、その目はぎらついていたのだ。
それに比べれば、イタズラをする前の悪童の目などかわいいものだ。
「僕はとんでもないものを発明したぞ」
その事実が判明した日から、N氏は無差別に過去と未来へ飛んで銀行強盗を働き始めた。
その世界で犯人を捜しても、その犯人はすでに
別の世界へ飛んでしまっているのだから絶対に捕まりっこない。やりたい放題できる。
ほんの数週間で、N氏は街一番の大金持ちとなり、ついに高級住宅地で邸宅を建てるに至った。
しかし、そんな優雅な生活は突如として終わりを告げることとなる。
ある日、警察がやってきたのだ。
「銀行強盗を働いたNだな。逮捕する」
N氏は、警察の言った罪状に狼狽しながらも厳しく声を荒らげた。
「何を言っているんだ。僕は強盗なんてやっちゃいないぞ。証拠はあるのか」
「防犯カメラにお前の姿がはっきりと映っている。さあ来い」
手錠をかけられ、N氏は連行される。
なぜだ。自分が捕まるはずはない。ましてや防犯カメラに映っているなどありえない。
この世界では、自分は何の悪さもしていないはずではないか。
そう考えたとき、N氏は一つの可能性に思い至って、ついに観念した。
「なるほど、どこか遠くの世界にいる僕が、この世界にやって来たわけか」
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730: 創る名無しに見る名無し:2009/07/10(金) 01:34:31 ID:1Vkwqa31
その日、エヌ氏とエフ氏はお寿司を食べていた。
お寿司といっても回っているものでも、職人が握った高級なものでもなく、
スーパーから買った、パック詰めのお寿司だった。
あと少しで完食だという時に、エヌ氏は迷った。
「イカとエビ、どっちを最後に食べようか…」
結局エヌ氏はエビを先に食べたのだが、後悔したようだ。
「やっぱり大好きなエビを最後に食べるべきだった。」
その言葉を聞いた瞬間エフ氏は
エヌ氏が最後までとっておいたイカを横からつまんで食べたのだった。
262: 創る名無しに見る名無し:2012/11/11(日) 18:32:35.95 ID:Pa+tMQxq
【悪魔の魔法】
N氏の前に悪魔が現れ言った。
『どんな願いでも一つだけ叶えてやろう
だが3日後にお前の魂をいただく』
N氏は困った。
願いは叶えて欲しい。が、当然魂は奪われたくない。
その時N氏にある考えが浮かんだ。
「奪う魂というのは1つなのか?
例えば俺の魂を5つに増やしたとする
そして3日後に奪う魂は5つの中の1つ…
という事は可能なのか?」
悪魔は観心した顔で答える。
『良いところに気付いたな
その方法ならお前は死ぬ事無く
4つの魂を手にする事が出来る
数が多ければ不老不死も夢じゃない』
N氏は言った。
「じゃあその願いだ!俺の魂を増やしてくれ!
数は多い方が良い、ありったけの数だ!」
悪魔はうなずき、呪文の様な言葉を呟きだした。
そしてN氏に魂の数が増えた事を告げた。
N氏は喜び悪魔に何度も感謝をした。
「しかしすごい魔法だ、お金とかも無限に増やせるのか?」
N氏の質問には意外な答えが返ってきた。
『実はこの魔法は増やすのではない。移動させる魔法なのだ』
「移動させる魔法?」
『例えばお金なら世界中の金庫などから少しずつ金を集めるというわけだ
無から有を作り出す呪文ではない』
そうなのかという顔をするN氏に背を向ける悪魔。
少しずつ消え去りながら最後にこう言った。
『60億もの魂を与えたんだ
今日は外が静かだな』
9:創る名無しに見る名無し:2012/02/14(火) 04:41:20.43 ID:ycNUXino
『攻撃は最大の防御』
隣国との戦雲に切れ間のない某国の秘密研究所では、
長年に渡って開発の行われてきたとある兵器が完成の時を迎えようとしていた。
「ついに出来たぞ」
主任研究員であるエフ博士は、手に持った
銀色の箱の最終チェックを終えると、満足そうに頷いた。
「やりましたね、博士」
助手もこの兵器の完成を心待ちにしていた様子で、明るい表情をしている。
「これが博士の生み出した絶対防御装置ですか」
「ああ、長年の研究の甲斐があったというものだ。
一度この装置を使えば、強力なバリアーが国土全体を半永久的に覆い、
長く続いているこの戦争もアッという間に終わるだろう。
いつまでもお互いに攻撃をし合っていても、
武器の性能差はイタチごっこで埋まらず、戦火は拡大するばかりだ。
そこで私は先達の、攻撃は最大の防御、という諺に注目したのだよ」
エフ博士も心なしかいつもより饒舌である。
「なるほど。あえて守ることで武器を無力化し戦争を終わらせるということですね」
「まぁ、大体そんなところだ。ミサイルはおろか、虫の一匹たりとも侵入を許さないバリアーだからな」
エフ博士は自慢の顎鬚をさすりながら続ける。「残る問題は……」
その時、突然後頭部に激しい痛みが走り、エフ博士は気を失ってしまった。
10: 創る名無しに見る名無し:2012/02/14(火) 04:42:05.15 ID:ycNUXino
(続き)
エフ博士が再び目を覚ましたのは、病院の一室である。
周囲には眉間に皺を寄せた国の将軍たちが集まっていた。
「ウーム」博士は後頭部をさすりながらベッドの上で半身を起こした。
「私は一体どうしたというのだ……?」
「君の助手が完成した装置を持って国外に逃げ出したのだ。その時に君は力いっぱい殴られたというわけだ」
将軍の一人が、苦虫を噛み潰したような顔で説明を続ける。
「どうやらあの助手の男は隣国に雇われたスパイだったらしい。ああ、何と言うことだ。せっかく君の発明した装置で戦争に勝てると思っていたのに……」
エフ博士はそれを聞くと、突然笑い出した。
「お、おい君。だ、大丈夫かね?」将軍たちは訝しげな顔でエフ博士を見つめる。
「ええ、ええ。私はいたって正常です」
エフ博士は落ち着くと説明を始めた。
「あの装置には一つ問題があったのです。それは使うなら相手の国で使用しなければいけない、ということなのですよ。それがまさかこんなことになろうとは……」
将軍たちはエフ博士の説明を聞くや、跳び上がらんばかりに喜んだ。
その隣で、博士はふと寂しげな表情を浮かべ窓の外を見つめた。
人の出入りすら出来ない強力なバリアーに覆われてしまった隣国が遠くに見える。
「しかし、彼は有能だったので将来を楽しみにしていたのですが……」
19: 灰色埜粘土 ◆8x8z91r9YM :2012/02/25(土) 09:18:52.52 ID:4uReBFf1
『一杯のコーヒー』
メガ氏が自宅の一室で発明品の試用をしていた。
「君も椅子に掛けてくれ。しばらく見ていてもらいたい」
同伴者にそう言って、メガ氏は両手を二回鳴らした。
合図を聞きつけて、執事がドアを開けて現れた。
身体が金属で出来ているから、ロボットであることがわかる。
「コーヒーを一杯淹れてくれ」
メガ氏が指示をした。執事は即座に準備を終えてどうぞ、と言ってからコーヒーを机に置いた。
「この執事は最近作ったロボットだ。こっちも試用段階だが、今日試したいのは他のロボットだ」
執事は動作だけを見れば、なかなか人間らしかった。執事は礼をして下がっていった。
二人を挟んだ机の真ん中に、一杯だけコーヒーを置いて。
メガ氏は手元へゆっくりとコーヒーカップを寄せていった。
コーヒーを出されない同伴者は、客人として招かれたわけではなかった。
そしてメガ氏は世間話をし始めたが、同伴者に見せるであろう発明品の説明はしなかった。
しばらく話をしていると、同伴者はメガ氏に違和感を感じ取った。
注意深く観察してみると、メガ氏の言葉は不自然なほどイントネーションが一定だった。
「そうか。あなたはロボットだ」
机の向こうで、メガ氏は無言の反応をした。
「自分に似せて作ったロボットで、僕が気付くかどうかを試そうとしているんだ」
応えたのは物陰から出てきたメガ氏だった。
「君は察しがいいな。どうしてわかったんだい」
メガ氏は、自分を模したロボットと並んで椅子に座った。
「さっきはぎこちない所があったから気付いたんだ」
「それは喋り方がかい、それとも動作がかい」
メガ氏はとなりのコーヒーカップをスッと引き寄せた。
「色々とだよ。いまこうして本人と比べてみると違いがよくわかる」
それだけ聞いて、メガ氏は何も応えなかった。
「と、いうことは今度は気付かなかったようだな」
突然ドアを開けて、さらに一人メガ氏が現れた。
メガ氏は本物さながらの動きで椅子に座り、コーヒーカップを自分の方へ。
次から次へ現れるメガ氏に、同伴者はわけがわからなくなり機械音を立て始めた。
メガ氏は同伴者の耳に手をやり、スイッチを切った。
やはり、不可解な出来事にあうと行動不能になってしまう。
試用と調整を繰り返さないといけないようだ。
「やれやれ。三人目が出てくるとは思わなかったか。
ロボットと入れ替わっているのに気付いたのはよかったがな」
メガ氏はロボットのメガ氏のスイッチも切り、少しぬるくなったコーヒーを手繰り寄せて飲んだ。
28: 創る名無しに見る名無し:2012/02/28(火) 00:24:22.02 ID:Aj4obKFR
『価値観の違い』
W国の首都にある広場に銀色の球体が突如として出現したのは、ある日の夕暮れのことだった。
最初に見つけたのは近所に住む子供たちだった。
次に街の人々が騒ぎ出し、警官や軍隊が出動するという緊急事態へ発展した。
W国の国王はすぐさま世界中から著名な科学者達を呼びつけ、
球体を調査させるべく調査団を結成させたが、
球体が出現した理由や目的はおろか、材質すら分からないという結果が出ただけだった。
唯一、この地球で作られたものではなく、他の星からやってきたものという見解が出たが、
それすら推測の域を出ないものだった。
最初の数ヶ月間はW国中だけでなく、
世界中の人々が好奇の目で様々な見地からの調査結果の発表を
連日のワイドショーや有志が作ったインターネットサイト等で眺めていたが、
どうやら自分達に害の無いものだということが分かると、次第にそんな熱も冷めていった。
微動だにしないその球体は、人々にとってもはやただのオブジェとなった。
数年後には、何の成果も出せないまま調査団は解散し、
銀色の球体はW国の観光名所のひとつとなった。
一部の人々は、その球体を崇める新興宗教を興したりもした。
時が流れ、W国は近隣の大国に吸収されても、
依然として球体は何の動きも見せないままであった。
銀色の球体が突然現れた当時を知る子供たちは成長し、
子供を育て、老い、孫を抱き、死んでいった。
いつの間にかかつての新興宗教は危険な思想を持つカルト集団とみなされ、
弾圧された後になくなってしまっていた。
苔に覆われたその球体が地球のものでないという
事実も過去の大国で生まれた与太話だと信じる人が大半になった。
さらに時は流れ、球体の存在を知る者はほとんどいなくなってしまった。
国の名は幾度となく変わり、多くの戦争が起こった。かつて広場だった場所は
森になり、荒涼とした砂漠になり、再び深い森になった。
すでに人類は地球上から姿を消してしまっていた。
ある日、銀色の球体から音声が流れ出した。
「地球のみなさん、こんにちは。我々はS星人です。この度は、あなた方との有効的な惑星間関係を築く第一歩として
この親善カプセルを送ることになりました。突然のことでさぞ驚かれていることとは思いますが、
このカプセルは地球に到着後しばらくすると我々S星人のメッセージを自動で再生するもので、みなさんへの害は決してありません。
容量の関係上、わずかな時間しかメッセージを再生できませんが、どうかこの交信をきっかけに
我々S星と素晴らしい関係を築いていこうではありませんか!」
しかし、たとえ人類が生き残っていたとしても
その音声に耳を傾ける者は一人としていなかっただろう。
内蔵されたスピーカーがS星人にとって非常に手短なメッセージを流し終えたのは、
地球の時間に換算してざっと数百万年後のことであったからだ。
65: 創る名無しに見る名無し:2012/05/08(火) 09:01:16.81 ID:+3zXHsZp
ある宇宙船での会話
「これが何か分かったかね? ドクター」
「ああ、船長。まあ、生物の死体には間違いありませんな」
ドクターの言葉に船長は三つの目を見開いてその「死体」を見つめた。
「しかし、完全に干からびておる。自然にこんな状態になるとは思えんが」
「意図的な処置がしてある事は間違いありません」
ドクターは腕を組むと残る二つの腕で、死体が納められている細長い容器を調べながら頷く。
「この生物の体型にピッタリ合わせた容器までありますし」
「うむ、蓋までついているなかなか凝った容器だ。専用の容器まで作ったとなると、相当大事なものなのだろうな?」
「もしかすると愛玩用の動物だったのでしょうか? 愛するペットをいつまでも保存しておきたいという考えから作られたのかも知れません」
「しかし、目が二つに口が一つ、腕が二本に足も二本。干からびてしまっているということを考慮しても、とても愛玩動物とは思えんな」
「そうですなあ。うーん、腐敗を防ぐための処置が、意図的にしてあるのは間違いがない。と言って愛玩動物とも思えない。もし、ペットでもない生物を手間暇かけて保存するとしたなら、その理由は何だろう?」
ドクターは六本の足で、少しイライラしたように足踏みをしていたが、突如叫び出した。
「分かりましたよ、船長! 実に簡単な事です。その容器の使い道も分かりました」
「どういう事だね?」
「愛玩動物でもない生物を手間暇かけて保存するとしたなら、その理由はただ一つ、この生物は、きっとあの星の滅亡してしまった住人たちの食用家畜だったに違いありません」
「なるほど! ドライフードなのだな!」
「そうです、そしてこのピッタリの容器!」ドクターはマイクに向かって叫ぶ。
「誰か、お湯を持ってきてくれ!」
「そうか! この容器にお湯を注いで蓋をするのだな!」
「そして三分待つのです!」
船長とドクターは四つに分かれた舌で二つある唇を舐めながら涎を垂らした。
おわり
感想ありましたらよろしくお願いします
97: 創る名無しに見る名無し:2012/06/05(火) 22:09:14.58 ID:/ILAGkwj
こういうの書くの下手だから許してください。
『スイッチ』
ある日エヌ氏は「1秒を1年に錯覚するスイッチ」を発明した。
でも、エヌ氏は自分が試すのは怖いためやらずに、試験者募集という広告を貼り付け募集した。
だが、そんなものに手を出す人はいず、結局エヌ氏が試験体として「スイッチ」を押すことにした。
スイッチを押した途端に世界は歪む。歪みが終わったら酷い頭痛がエヌ氏を襲った。
その頭痛も終わったらエヌ氏はやっと自意識を取り戻した。
そして気づいたことが動けないということである。
あくまで「1秒を1年に”錯覚”させる」だけなのであって
肉体自体はそのスピードについていけるはずもない。
スイッチを押すためには何年かかるのだろうか。
押したとしても錯覚が治るわけでもないかもしれない。
エヌ氏は絶望した。動けない。声も出せない。何にもできない。
地道に動こうとしても動かない。
他人にとってはたったの12時間だがエヌ氏は43200年生きた。
その頃にはエヌ氏はもう全てを悟っていた。
そして手にはもうスイッチがある。
「やっとスイッチを押せる!」
長年やってきた努力が報われるときがやっと来たのであった。
スイッチを236日かけて押す。
また激しい頭痛がエヌ氏を襲う。
次に意識を取り戻したときには世界は真っ暗で身体は動かせなかった。
彼にとって0.1秒が1年になった。
99: 創る名無しに見る名無し:2012/06/06(水) 08:21:50.67 ID:hQdYrok5
猛者が多いから書くの躊躇ってたけど恥を承知で
あの作風をマネてオチを強くすると文全体のバランスがね・・・
"タイムマシン"
大勢の記者がエヌ氏の研究発表を心待ちにしていた。
「お待たせしました。私がタイムマシンを発明したエヌ氏です。」
「今回の発明はどのようなきっかけから生まれたのですか?」
「私が子供の頃見たアニメで、電子レンジに入れた猫がふと消えて未来へ送られてしまうのというものを見てね。それからというものこの人生を全てタイムマシンに注いで来た。学校にも行かず一人で進めてきたが、やはり時間がかかってしまったね。」
「ずっとご自分お一人で進めて来られたのですか?」
「私には助手もいないし、教養もないからずっと一人だ。今まで世間に知られたことも周りの人から注目されたこともない。だがついに完成した。これは一人で見るには惜しいというわけで君たちを呼んだんだ。」
「本題のタイムマシンですが、一見一回り大きな電子レンジのようですが。」
「そうだ。電子レンジにちょっと工夫を加えただけさ。早速だけどやってみようか。」
と言うとエヌ氏はリモコンのようなものを取り出してタイムマシンの調整を始めた。
しばらくしてタイムマシンの扉を開けながら言った。
「それでは行ってくるとするよ。」
「待ってくださいエヌ氏。まだタイムマシンの理論をきいておりません。」
「おお、私としたことが早まってしまったね。私の研究の大部分はこのリモコンさ。猫の場合は外の人が起動すればいいが、自分が入ったらそうはいかない。なかなかに苦心した。電子レンジを中から操作できるリモコンを考えるのにはね。」
104: 灰色埜粘土 ◆8x8z91r9YM :2012/06/06(水) 21:06:40.41 ID:ommfD/xf
>>99
このオチは予想できませんでしたww
当たり前ですがタイムマシンが出てくると過去か未来がからんだ話になるものなので、
タイムマシンを使わないままの製作自体に関したオチが新鮮ですね。
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194: 創る名無しに見る名無し:2012/09/24(月) 15:57:05.75 ID:dyJmAMHD
狂気のグリル・ナイフ
ある所に、とても礼儀正しく、誠実な男がいた。
しかし男の妻はとんでもない浪費家で、
ついに家計は食うや食わずのところまで追い詰められてしまった。
「困ったな。もう何も食べるものがないよ」
男が頭を抱えているところに、突然、全身黒ずくめの男が現れて言った。
「お前はとても礼儀正しく、誠実で、立派な人間だ。それなのに、愚かな妻の行いによって、困窮しているという。救いを与えてやろうと思って、来た」
男は驚いたが、すぐに落ち着き払って言った。
「どこのどなたか存じませんが、妻のことを悪く言わないでください。なに、私に甲斐性がないのが悪いのだ」
「なるほど、どこまでも立派なことを言うものだ。だが、誠実さだけで生きていくことはできないよ」
黒ずくめが指を一振りすると、美しい石で飾られた、細長いケースが宙に現れた。
「この中に一本のナイフが入っている。その刃に触れたものは、どんなものでもたちまちステーキになってしまう」
「まさか。信じられない」
黒ずくめはケースからナイフを取り出すと、地面から小石をひとつ拾い上げて、その刃先で小突いた。
すると小石はたちまち、小さな肉の塊に姿を変えてしまった。
「この通りだ。しかし、ケースは決してなくさないようにすることだ」
それだけ言うと、ケースに入ったナイフを残して黒ずくめは消えてしまった。
男は早速、ナイフを使って木を切り、その日の夕食に分厚いステーキをこしらえた。
ナイフのことを話すと、妻は歓喜し、連日、家の周りの石を、草を、木を食べて回った。
ナイフは、どちらか一方が使うとケースにしまわれ、もう一方が使うときに取り出された。
ケースはよく見える棚の上に置かれて、男によって毎日、綺麗に磨かれていた。
その内に、とうとう家の周りに何も食べるものがなくなってきた。
男が、泣く泣く愛用のキセルをまな板の上にのせていたとき、運が悪いことに、強盗が押し入ってきた。
「おい、金を出せ」
「すまない、金はないんだ。本当に。家具すら、ろくに残ってない」
強盗が辺りを見回すと、確かに何もない。そこで、美しい小箱が目に止まった。
「この箱は金になりそうだ。貰っていくぞ」
男が止める間もなく、強盗はナイフのケースを持ち去って行ってしまった。
「ああ、なんということだ。大切なケースなのに」
そうして男がうなだれているところに、妻が食事の催促にやって来た。
「ねえ、ステーキはまだなの?」
「すまない、今このキセルを切るから」
「それっぽっちじゃ、満足できないわ。ナイフを貸して。私が何か、適当なものを探して切るわ」
「わかった」
男はとても礼儀正しかったので、取りあえず妻が満足するだけのステーキは見つかることになった。
195: ◆/olapVmB3. :2012/09/24(月) 16:51:44.32 ID:0g/j9Jx5
>>194
なるほど! 礼儀正しいから刃のほうを持って妻に渡したのですね。
面白かったです!
211: パパはメジャーリーガー:2012/10/02(火) 22:48:53.13 ID:1Hr9f0Jx
パパはメジャーリーガー
僕は河原で素振りをしている。
パパみたいなメジャーリーガーになるのが夢さ。
だけど僕にはあまり才能はないみたい。
まだスタメンはおろか、代打ですら使ってもらえない。
「なんてスイングだ、もっと鋭く振るんだ!」
知らないおじさんが野次を飛ばす。
「違う違う、もっと腋をしめて振らなきゃあ」
また、知らないおじさんが怒鳴る。
「トップの位置に来るのが遅い! それじゃあ引っ張れないぞ!」
「おたく投手出身でしょ、ここはアッパースイング気味にするべきだ」
ガヤガヤとおじさんたちが4人で会話をしている。
どうやらどこかの球団のスカウトやら関係者らしい。
しかし、うるさい。僕のことなんかほっといてくれ。
「坊主、もっと腋をしめてだな」
「違う違う、いいか、強打者になりたけりゃバットをもっと長く持って」
「ああもう、トップの位置をもっと前に!」
「踏ん張りがきいてないぞ!」
「ああもう! うるさい! いいよ、パパに教えてもらうから!」
僕は我慢ができなくなって、そう叫んだ。
「パパ?」
「そう、パパさ。ドルフィンズの2冠王だよ」
「まさか、エフ選手の息子か!?」
「そうだよ」
パパは今年引退が決まっているけれど、弱小ドルフィンズでただ一人チームを引っ張り
首位打者と打点王に輝いた、スーパースターなんだ。
「そうかあ、エフ選手の息子かあ」
「パパみたいな強打者になれるといいなあ」
おじさんたちは急に愛想がよくなった。
ふん、パパの名前を出したら急に黙ってさ。呆れちゃうね。
それから僕は、ずっとパパと一緒に野球ができるようになった。
今までじゃ考えられない。
たまの休日しか一緒に野球ができなかったのに、夢みたいだ。
パパは残念がってたけど、僕は嬉しい。
なぜか、打撃コーチとしてのオファーが殺到していたのに、
嘘のようにオファーが無くなったもんだから。
268: 創る名無しに見る名無し:2012/11/12(月) 18:37:15.69 ID:PsIkqJGI
【署名】
『…という訳で一週間後にあなたの命を頂いていきます
それまで身の回りの整理をしてて下さい』
軽い口調で死神はR氏にそう言った。
「私があと一週間の命で、あなたに殺されてしまうのは諦めましょう
でも一つだけ心配事があるのです」
R氏は不安そうに死神に言う。
「やっぱり死ぬ時は痛いんでしょうか?出来れば何の苦しみもなく死にたいのですが…」
『ご安心下さい、何の痛みもなく一瞬で死ねるコースと
ものすごい激痛を伴いながら死ぬコースと2つ用意しています
楽に死ねるコースで良いですね?』
「コース?は、はい、それで良いです…」
『分かりました!では一週間後!』
そう言い残して死神は消えていった。
変な死神が来てしまったと不安になるR氏。その時後ろから声が聞こえた。
『署名お願いします』
R氏が振り返ると白い服の見たこともない男がいる。
足元を見ると宙に浮いている。幽霊だということはすぐに分かった。
②に続く
269:創る名無しに見る名無し:2012/11/12(月) 18:39:14.76 ID:PsIkqJGI
署名その②
「やれやれ、死神の次は幽霊か…いよいよ人生終わりだな
今、署名と聞こえたんだが一体何の署名なんだい?」
幽霊の男は答えた。
『実は今あの世で刃物を投げ合うのが流行ってるんです』
「刃物を?」
『はい、ナイフや包丁です。幽霊は死にませんが刺さるとすごく痛いんです
あまりにこの遊びが流行り過ぎて、ついに刃物を法律で禁止させる運動が
あちこちで起こってるんです』
「もう無茶苦茶だな…どうなってるんだあの世は…」
『あなたの1票で禁止派が勝てるんです、署名お願いします!』
R氏はバカバカしいと思ったが、よく考えたらあと一週間でそのあの世に行くのだ。
そんな治安の悪い狂った世界に住まなきゃならないと思うとゾッとした。
R氏はすぐに「刃物禁止」に署名をした。
「ふう…これで快適な死後を送れる…」
一週間が経ちR氏の所に死神がやってきた。
「やあ、待っていた…というと変だが、ついにこの時が来たという感じだ
約束通りに痛みもない楽なコースで命を奪ってくれ」
しかし死神の様子がおかしい。
『いや、それが…』
「どうしたんだい?」
『一瞬で命を奪う事が出来る死神の鎌というのがあるんだがね…
最近、刃物の使用が法律で禁止されたんだよ
悪いけど苦しいコースで死んでもらうよ…』
27: ◆PDh25fV0cw :2010/09/15(水) 00:04:28 ID:13fAJv4b
『高度映像社会』
30年前、世界的企業の某社が開発した小型軽量の空間への立体映像化装置は、開発競争による価格破壊も進み、個人が複数台所有できるまでになっていた。
少し大きい街で上を見れば、立体広告がところせましとならんでいる。
交通の関係で5m以下の立体広告は規制されているのが幸いと言ったところだ。
ここも、大都市の例に漏れず、巨大なうさぎの立体映像が空で熱心にシリアルの宣伝をしている。
「気味の悪いことだ」
元々どがつく田舎の出身で立体映像など
無縁の生活をしていたので、未だにこういった映像には慣れない。
触れそうなほどリアルな物が空にある、それがどうも納得できないのだ。
周りのやつらは、生まれた頃からあったものなので、この違和感を理解してはもらえない。
「異物か…」
何となくわいて出た言葉に返す者はなく、相変わらずウサギは空で笑っていた。
「おわっ」
ぼんやり上を眺めていたのがいけなかったのだろう、人にぶつかり、壁に向かってよろめいてしまう。
壁に手をついて止まろうとするが、壁は手を支えることはなく、体は壁の中に入り込んでしまう。
「いつつ…」
少し皮が剥け血がにじむ手をなめながら、辺りを見回す。
人一人がようやく入れる程度の細い路地。後ろを向くと、入り口は立体映像で偽装されている。
「シークレットドア?」
入り口を映像で偽装する、シークレットドア。
ドアに壁の映像を写し隠すことからこの名前がきているらしい。
テーマパークなどで似たような物を見たことがあるが、せいぜい子供だまし程度のものだった。
しかし、これは通路を一つ完全に隠している。
それも、完璧なほどに。これほどの精度の装置ならば相当な値段がするはずだ。
理由は分からないが、誰かが大金を払ってでもこの通路を隠したいと思っている。
得てしてこういった場合は危ないものが隠されている。直ぐに逃げた方がいいだろう。
しかし、俺の考えとは裏腹にいきなり世界が歪む。
今まで通路だったところが、極彩飾の、抽象画に移り変わる。
壁も床も無くなり、場所の起点が無くなる。
合わせるべき起点が無くなったことで平衡感覚が失われる。
すぐに立っていられなくなり、吐き気もしてくる。
もしかしたらこれが噂で聞いたことがある、映像兵器なのかもしれない。
この状態から精神を守るためか、いきなり意識が失われた。
28: ◆PDh25fV0cw :2010/09/15(水) 00:05:14 ID:13fAJv4b
まず、この状況はなんだろう。起きたらいきなり草原に寝かされていた。
気絶している間に、草原に運ばれたという可能性もあるが、たぶんそれはないだろう。
この場所には草の臭いがしない、それに床はリノリウムのような感触。
つまり、これは立体映像。
「起きたかね」
目の前に茶色のスーツをきた老人が立っている。
「何らかの偶然で我々の秘密通路を見つけてしまったようだね。
我々の手違いで侵入者撃退用の装置が作動して君には迷惑をかけた」
やはり、何らかの施設の通路を隠していたようだ。
「一体ここはどこなんですか?」
老人はその質問に答えず、質問を返してきた。
「君は、ここをどこだと思うかね?」
?何を言っているんだろうか。
「周りを見てみたまえ。どこまでも広がる草原。素敵だとは思わないかね?」
その言葉で少し理解できた。つまり、この映像の元の場所はどこかと聞いているのかも知れない。
だが、映像は映像だ。その場所に移動しているわけではない。
「映像は映像。そう思っているのかね?」
心を見透かされたような言葉にドキリと心臓が跳ねる。
「たしかにこれは映像、まやかしだ。しかし、それを確認するためにはどうすればいい?」
いきなり老人の姿が掻き消える。
「我々が映像を映像として確認するにはどうしたらいい。
現実と変わらないリアルな映像はどうしたら虚像と確認できる」
いきなり後ろにあらわれる老人。声も後ろに移っている。
「触ってみる。これは原始的だが確実な方法だ。しかし、触れられないものはどうすればいい?」
今度は上にあらわれる。
「確認できないなら、それは本物だってことが言いたいのか?」
また消え、今度は最初と同じく真正面にあらわれる。
「その通り、触れられないならばそれはいかに馬鹿げていてもそれは現実の可能性もあるということだ」
老紳士は本当にうれしそうに笑う。何がそんなに嬉しいのだろう。
「さて、私も時間がなくなってきた。君は最初にここはどこか、と聞いたね?今からその答えを示そう」
老紳士が指をパチンと鳴らす。すると、いきなり床が開く。
捕まるものも無く、為す術も無く下に落ちていく。
軽い浮遊感のあと、硬い地面に叩きつけられる。
打ちっ放しのコンクリートの床、周りを覆うフェンス、どうやらビルの屋上のようだ。
上を見ると、ピンク色の巨大な何かが見える。
「え?ウサギ?」
そうそれは、さっき見た広告用の巨大ウサギの映像。
そう映像のはずだ。しかし、俺はその映像から落ちてきた。
呆然としていると、元から無かったかのようにウサギは消えてしまう。
「どうなっているんだ……」
『確認できないならそれは本物かもしれない』
さっき自分で言った言葉が頭で繰り返される。
空に浮かんでるウサギは本物で俺は中にはいった。
こんなこと誰が信じてくれるんだろうか。精神障害を疑われて終わりだ。
だが、それでも構わないではないか。
今やこの世界はリアルな虚像に満ちている、その中に実在する虚像があったとしても。
ビルを降り、外に出る。空を見上げると新しい広告が映し出されるところだった。
どうやら、紳士用の靴の広告らしい。俺は苦笑しながら、空に一礼して再び街を歩き始めた。
29: 創る名無しに見る名無し:2010/09/15(水) 00:56:49 ID:Lh6ixw67
こうゆうSFチックな作品はすごく好き
未来っていうのはいいものじゃないけど悪いもんでもないみたいな感じのがいい
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36: 創る名無しに見る名無し:2010/09/21(火) 19:05:30 ID:OjCBrvx5
【屋上】
「またここへ来てしまった」
S氏はそうつぶやくと、錆付いたパイプ椅子に腰を下ろした。
ここはとあるビルディングの屋上。さほど高層でもない、どこにでもありそうな場所だ。
彼は悩み事があるとこの場所に来る。いや厳密に言うと来てしまうのだ。
ここが、どこの何ていうビルディングなのかはまったく覚えていないし
また覚えていたとしても、きっと自分の意思ではたどり着けない所なんだと
何となく感じていた。いづれにしてもここがどこであろうとどうでも良かった。
S氏は平凡なサラリーマン、上司からは叱られ部下からは突き上げられ
御多聞にもれない中間管理職であった。
悩み事と言っても、大それたものではなく些細なことが多い。
自分の成果を上司に横取りされたり、データ収集や難交渉など人がやりたがらない
仕事を押し付けられたり。だがS氏は仕事にそれ程不満があるわけではなかった。
彼にとって常にそれが自分の役回りであると思っていたからだ。
いつものように小一時間ここでぼんやりと夜景を眺め、ため息をひとつつくと
そろそろ帰ろうかと腰を上げた。その時、「カチャリ」とドアのノブが回る音がした。
『誰か来る』
勝手に入り込んだ後ろめたさもありS氏は物陰に身を潜めた。
ここには明かりがなく、どんな風体なのか良く見えない。警備員なのか住人なのか…。
すると、
「誰かいますか?いますよね」
『しまった!見られてた!』
いきなり声を掛けられ、S氏は体が硬直し声も出ない。不法侵入という言葉が頭をよぎる。
「いることは判っています。何もしませんから、そのまま私の話を聞いてください」
『?』
「これからもあなたは何度もここに来ることになるでしょう。でも、決して会社を
辞めようなどとは思わないでください。」
誰とも判らぬ人影は勝手に話を続ける。
「今あなたがやっている仕事は、将来きっとあなたの出世の足がかりになります。
どうか、この調子で仕事を続けてください。」
『何なんだこの人は、何で私の事を知っている?もしかして!』
もしかしたら未来の自分がタイムマシンで自分を励ましにやって来たのか?
S氏は、星新一でも思いつきそうにないベタな空想をしてしまった。
「では、これで失礼します。決してあきらめないでくださいね!」
最後にそう言い残すと誰とも判らぬ人影は去っていった。
S氏はしばらく放心状態になっていたが、やがて正気を取り戻した。
「いったい何だったんだ?」
そう言いつつ、なんだか笑いが込み上げてきた。
おかしな事にいつもより元気が出てきたような気がする。
自分の努力を認めてくれる人がいるのはうれしいものだ。
あの人影がどこの誰であれ、とても感謝したい気持ちになった。
それから何日かして、S氏は思いきってある行動に出た。
会社からの帰り道、適当なビルディングの屋上にのぼり、こう話しかけるのだ。
「誰かいますか?いますよね…」
終わり
40: 創る名無しに見る名無し:2010/09/22(水) 12:25:43 ID:ePZQFWsi
【最強の兵器】
F博士の研究室
「これでよし、完成じゃ」
「やりましたね博士!と言っても僕はこの装置のことをよく教えてもらってませんが…」
「そうじゃったな。完成する前にこの装置の情報が漏れては命が危なかったのでな。すまんかった」
「もしや兵器…ですか?」
「まあそんなもんじゃ。この装置はミニブラックホールを発生させて一瞬に周囲の物をすべて飲み込んでしまう」
「それはすごい!」
「そこまで知らんかったとは。君を助手に採用して正解だったようじゃ」
「お褒めに預かり恐縮です。ところでいったいどれくらいの範囲まで有効なのですか?」
「それは設定次第。半径1センチから1万3千キロ以上」
「それでは地球も一飲みじゃないですか」
「そういう事になるな」
「しかし博士、もしこれが悪人の手に渡ったら大変ですね」
「そう思うじゃろうが、この装置の最大のポイントはそこなのじゃ」
「どういう事ですか?」
「ブラックホールの中心がこの装置だからじゃよ」
「と言うと」
「…もしや君はかつてどこかで頭をぶつけたことがあるのでは?」
「ええ、小学校の頃に1度」
「そうじゃろうな。打ち所が悪かったのか良かったのか。まあ良い、この装置がブラックホールの中心に
あるということは、この装置もろとも飲み込まれてしまうということなのじゃよ」
「なるほど、つまりこの装置を作動させた人間も消えてしまうわけですね。しかし遠隔操作で…」
「この装置は所有者自身が自らの手で操作した時だけ作動すようにプログラミングしてある」
「自爆テロならぬ、自滅テロですか…ぷぷっ」
「笑い事ではない」
「でも何だか売れそうにないですね」
「売るつもりはない。進呈するのじゃ」
「誰にですか?」
「この世で最も不甲斐無く、心配性で、臆病で、周囲の国からも馬鹿にされている…」
「わが国の国王!?まさかこれで消えていなくなれと?」
「いや、国王がこの装置を持っていることを周辺国にアピールするのじゃよ」
「あそうか、周辺国が下手な行動に出れば、いつ何時あの臆病国王がスイッチを押すかもしれないと…」
「今度はいやに察しがいいな。その通り、だからこれはわが国にとって最強の兵器になる」
「でも、あの国王のことですよ。ちょっと自信喪失しただけで使ってしまいそうだ」
「それはさすがに側近が止めるじゃろうが、まあわしもそう長くはないその時はあきらめよう」
「博士!」
次の日、博士は国王に謁見し予定通りその装置を献上することができた。
世界的に有名な大科学者F博士の発明とあって、すぐさま新兵器として採用され
その情報は瞬く間に周辺国に伝えられた。その抑止力たるや、言うまでもない。
「これでしばらくの間、この国も安泰じゃろう」
その後博士は失踪した。どうしても隠しておかねばならない秘密があったからだ。
実はその装置は空っぽで、ブラックホールなどまったくのハッタリだったのだ。
終わり
41: 創る名無しに見る名無し:2010/09/22(水) 12:30:29 ID:ePZQFWsi
しまった上げてから気づいた。
装置の有効範囲は「1センチから」じゃなくて「1メートルから」です。
42: 創る名無しに見る名無し:2010/09/22(水) 14:16:30 ID:aHmk+CPA
面白かったです
「もしや君はかつてどこかで頭をぶつけたことがあるのでは?」ってF博士のきつい冗談ww
45: 創る名無しに見る名無し:2010/09/23(木) 12:51:48 ID:08rYe5hE
【移植】
「どうかね、その後の調子は」
N医師はやさしく青年に語りかけた。
「ええ、だいぶ良くなりました。自分で食事も食べれるようになりました」
「うむ、やっぱりちゃんと口から栄養を摂らないと早く回復できんからね」
「でも…」
「どこかに痛みでも?」
「いえ痛みはないんですけど、なんとなく…その…」
「なんとなく?」
「自分が自分でないような…」
「ああ、それならしばらくすれば段々と慣れてくるはずだよ。移植患者にはよくあることだよ」
「よくあること?」
「移植された患者さんは最初のうち、漠然とした違和感を訴える。体に他人の臓器を
入れたことによる精神的なものなんだがね」
「そんなもんでしょうか」
「ああ、そんなもんだよ。では、しっかりと体力をつけて早く退院できるようにしなさい」
「ありがとうございます、先生」
N医師はそんな会話をした後で、青年の両親が待機する部屋へと向かった。
「先生、いかがでしょうか」
「ええ、まだ記憶は戻っていないようですが順調に回復されていますよ」
「ですが、あの子は病室で話をするたびに、何だか自分じゃない…と」
「私にも同じ事をおっしゃいましたよ。いづれ理解できるようになると思いますが」
「実は、私達もなかなかなじめなくて…」
「無理もないでしょうな。あの大事故で奇跡的に無傷なのは彼の脳だけだったのですから」
終わり
77: 創る名無しに見る名無し:2010/10/02(土) 17:49:59 ID:s53y1xEw
【天国の控室】
ここは通称「天国の控室」、正式名称は「国立終末介護医療センター」である。
比較的裕福で身寄りの少ない重病患者が終の棲家として選択する医療機関だ。
ただ、すでに危篤状態になっている患者はここに入院することは無い。
なぜなら、寿命を全うするまでの期間たとえそれが数日であろうと、本人の意思で
至福の時間を過ごす事を目的としているからだ。
人によっては数年間の長期入院になる事もある。幸せな時間を1日でも多く
過ごしたいという欲求がその命を永らえるのかもしれない。
N氏もそんな患者の一人であった。
「Yさん、ちょっとこちらへ来てくれないか」
「はいN様」
そう応えたのは、N氏が入院してからずっと付きっ切りで介護してきたY看護婦だった。
「もうどれくらいになるかな…」
「約4年7ヶ月になりますわ。正しくは4年6ヶ月と28日8時間46分…」
「ははは、君はいつも正確無比だな」
「恐れ入りますN様」
「私にはもう近々お迎えが来る。君には本当に世話になった」
「そんな気の弱いことをおっしゃってはいけませんわ」
「いや、分かるんだよ自分の事は」
「N様がそんな気持ちになってしまわれると、私が担当の先生に叱られます」
「そんな医者、私が怒鳴りつけてやる!わっはっは」
「うふふ…患者様から気を使われるなんて、看護婦失格ですわね」
「ところで、私が死んでからの事なんだが…私にはこれまで苦労の末築いた財産がある
それを君に相続してもらうわけにはいかんだろうか?」
「唐突なお話ですのね。しかし私には財産をいただく権利はございません。それに
N様もご存知のように…」
「そう、君はロボットだ。だがロボットが相続してはいけない法律はないだろう」
「いいえN様、法律の問題ではなくて、私にとってはその財産が無意味なのですわ」
「そうなのか、私の財産は君には何の価値も無いということなのか…」
「申し訳ございません、私には物の価値を認識するデータがプログラムされていないのです」
「…確かにな、金や不動産や贅沢品は人の欲望が造り上げた物。君には無用か…」
「ご好意には感謝いたします」
「Yさん、今だから言えるが、私は起業には成功したが良い家庭は築けなかった。
家族ほったらかしで仕事に没頭し、愛想をつかした妻は一人息子を連れて家を出て行った」
「そうだったのですか」
「だが、今私はとても幸せだ。君のお陰で最高の死を迎えられそうだよ」
78: 創る名無しに見る名無し:2010/10/02(土) 17:53:22 ID:s53y1xEw
>>77つづき
その時、一人の男性が病室に入ってきた。
「お、お前は…」
「父さん、久しぶりです」
「今更名乗りをあげても、お前達には財産はやらんぞ!」
「父さん、母さんはもう5年前にここで亡くなりました。最期まで父さんを愛していましたよ」
「そ…そんな人情話は通用せん!」
「僕は財産が欲しくてここに来たんじゃありません。本当のことをお話しに来たのです」
「何だと?」
「母さんは家を出たあと、大変な苦労をして僕を育ててくれ、大学にまで入れてくれました。
お陰で僕は思う存分自分の好きなロボット工学の勉強をすることができました」
「ロボット工学…」
「そうです。実は、この施設の介護ロボットはすべて僕が開発したものなんです」
「では、このYさんも…」
「ええ、今まではロックがかかっていたのでお話できませんでした。申し訳ございません」
「父さんは先程、彼女のお陰で幸せだと言っていましたね。どうしてだか分かりますか?」
「ああ、彼女は親切でよく気が利いて私の好みも分かってくれていて、まるで…」
「まるで?」
「…かつての私の妻のように…!」
「そうです、Yには僕の覚えている限りの母さんの性格やしぐさをプログラミングしてあります。
ただ、父さんの好みまでは僕は知りませんが」
「そ…そうだったのか」
「母さんは本当に最期まで父さんを愛していました。これを聞いてください」
息子はY看護婦の耳たぶにそっと触れた。
「お父さん、お久しぶりです。もう、お互いに昔の事になってしまいましたね。
あの時は突然出て行ってしまってごめんなさい。ご苦労されたでしょうね。」
Y看護婦はN氏の妻の声で話し続ける。
「お父さんのお仕事の邪魔になってはいけない。私達が出て行かなければいけないって
勝手に思い込んでしまって。でも大成功されたんですものこれで良かったんだと思います。
私が先に逝くことになってしまったけれど、本当に愛していました、さようなら…」
その後、幾日かしてN氏は天寿を全うしこの世を去った。
病室には1通のメモ書きがサインを添えて残してあった。
『遺言 私Nの全財産を Y看護婦の開発者に贈与する』
終わり
80: 創る名無しに見る名無し:2010/10/02(土) 23:06:21 ID:2iTdzx3P
いい話だな
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93: 創る名無しに見る名無し:2010/10/09(土) 09:59:26 ID:otgtLBRR
『卒アルカメラマン』
夕方、中学時代からの親友Nが家に遊びに来た。
こいつとは何をするときも一緒だった。完全に腐れ縁だ。
中学を卒業してもう何年が経つだろう。二人とも年を食った。
ふと中学時代のアルバムを久しぶりに見てみようということになった。
何もかも懐かしい。一枚一枚が記憶の片隅にあった風景を呼び覚ました。
「懐かしいなぁ。しかし、卒業アルバムってのは運動会とか修学旅行とか
イベントの写真も多いけど授業中とか休み時間とか何気ない日常を取ってるのがいいな。
しかも取られてる側がカメラマンを意識してないからすごくいい写真が取れてる」
『いや、実際バリバリに意識してたけどなー。でみんなカメラマンの方向に目向けちゃって
普通でいられなくなってんの。そんで見かねたカメラマンが
あー…私はいないものと思って普通にしててね
私目に入るとさ、いい写真とれないからさ、って』
「そういやそうだったな。おーこれも懐かしい。昨日のことのように覚えてるなぁ。
こう考えると人生ってあっという間かもな。」
『うーん、なんだかさみしいな。死ぬ時に神様が人生の卒業アルバムみたいなの
くれたらいいのにな。』
こんな会話を交わしているうちに私はある一つの事実に気がついた。
過去の記憶がふと思い出される時、なぜか決まって思い出されるのは
毎回同じような場面が多いこと、そしてそれはなぜこんなことを
覚えているのだろうというような、取り立てて特に印象深いことも起こらない
本当に些細な日常の場面が多いことに。
まるでだれかがその些細な日常の場面でシャッターを押しているかのように。
「きっと、神様が卒アルカメラマンを派遣してんじゃない?
死ぬ時に見せるためにってさ。あーもうこんな時間だ、帰るわ」
友人はおどけて帰っていった。
外はすっかり暗くなってしまった。私は卒業アルバムを元の場所に戻し、
部屋のカーテンを勢いよく引いた。
その瞬間、カーテンを引く「シャーッ」という音と同じくらいのタイミングで
かすかに【カシャッ】という音が聞こえた気がしたのだが、まぁ、気のせいだろう。
【あー…私はいないものと思って普通にしててね
私目に入るとさ、いい写真とれないからさ】
108: 創る名無しに見る名無し:2010/10/11(月) 10:21:03 ID:k/h3yTWi
『戦争のある風景』
今は何時なのか、ここはどこなのか、そんなことは分からない。
ただ一つ分かっていること、それは毎日が戦争であるということ。
生きるために、戦わなければならない。戦わなければ死ぬだけだ。
そしてこの戦争には終わりがない。もし終わりがあるとすれば、
それは私が死ぬ時だ。
私は何時生まれたのか記憶がない。もっとも、それは誰だって同じだろう。
両親の顔は覚えていない。兄弟はたくさんいた。
しかしおそらくもうみんな戦死しているだろう。
私はこれまで無数の仲間が死んでいく様子をこの目で見てきた。
完全に油断してやられる者、敵から長時間必死で逃げ惑った末に
結局はやられてしまった者などどれも目を覆いたくなる光景だった。
やられた者は皆例外なく白い布で覆われた。
なぜなのかは分からない。敵なりの弔いなのかもしれない。
最近はこれまでの旧式武器とともに、敵は最新式毒ガスを使ってくるようだ。
ガスを吸ってしまうと意識が遠くなっていき、やがて死に至る。おそろしい兵器だ。
だが旧式武器でやられるよりもこっちでやられる方が案外楽なのかもしれない。
もうずっと何も口にしていない。動くのも辛くなってきた。
私は意を決して敵に飛び込み、食料を盗むことにした。
なーに、心配は要らない。慣れている。私は戦争をするために生まれてきた
ようなものだから。幸い敵は気付いていない。私はありったけの食料を盗み
その場で食らい尽くした。やっぱり旨い。
これであと3日は食わなくても平気だろう。
急いで見つからないようにその場を去ろうとした時だった。
「パーン」という乾いた音ともに鈍い痛みが走った。
とうとう私もやられたらしい。ついに私も死ぬのか… 戦争は終わりだ…。
薄れ行く意識の中私にも白い布が被せられようとしている。
視界が遮られる直前、敵の仕留めた、という優越感に浸る顔と同時に
旧式武器についてしまった血を「汚らしい」という目でふき取る敵の顔が見えた。
しかし、全くおかしなやつらだ…
武器についた血は確かに私の体から吹き出たものだが、
その血はまぎれもなくやつらのものであるというのに…。
110: メス豚:2010/10/13(水) 23:54:05 ID:n6qTztoC
>108
とても文章が上手いし、オチもいいですねー
蚊かな?白い布はティッシュかな
オチがパッとわかれば最高でした
139: 創る名無しに見る名無し:2010/10/21(木) 19:16:55 ID:0MZ+TgiD
『とある装置』
ある日、アール博士の研究所に、友人のエヌ氏が招かれた。
エヌ氏は研究所内を見て回り、そしてある部屋にたどり着いた。
エヌ氏は不思議そうな表情を浮かべて言う。
「この部屋にはレバーしかないようですが」
「はい、レバーだけです」
「このレバーを引くと何が起こるんですか」
「何だと思いますか」
「うーむ。わかりませんなあ」
「もし当てることができたなら、大金を差し上げましょう」
「それは本当ですか。では当てて見せましょう。うむむ……」
エヌ氏は腕を組み、悩んだ。悩んだ末に出した結論は、「部屋拡充装置」。
しかし、アール博士は首を横に振った。
「残念ですな。ハズレです」
だが、エヌ氏は悔しそうな素振りを一切見せなかった。
「博士の発明品は奇抜ですからなあ。考えるだけ時間の無駄だったかもしれません。で、正解は何なのですか」
「それでは、お教えしましょう。なんと、これは幽霊発生装置なのです」
「ほお、実に面白いですな。ところで、この装置はどういった時に使うのですか」
「心霊屋敷や、あまり人を近づけたくないような廃墟での使用が目的ですかな」
「なるほど。既に商用化を見越していらっしゃるんですね」
「ただ、まだ実験さえしていない状況なので、実際にどのようになるのかは神のみぞ知るということなのです」
「では博士、ここは一つ私で実験してみてはいかがですか」
「なに。客人を実験に巻き込む訳にはいきません」
「いいじゃないですか。客人たっての希望なんですから」
博士は腕組みをし、顔をしかめた。
「では、約束して下さい。何が起こっても自己責任ということで……。
無論、万一何かが起これば、我々が全力であなたを助けます」
「分かりました。いやはや、博士の実験台になれるとは真に光栄ですなあ」
エヌ氏は、まるで子供のように目を輝かせた。
「では、私は部屋の外で助手とモニターしています。準備が出来次第、お声をかけますので……。それと、この懐中電灯をお持ち下さい。部屋を真っ暗にするので」
かくして、実験の準備がなされた。
エヌ氏は期待に胸を膨らませ、懐中電灯を片手に今か今かと待ち構えていた。
「準備が完了しました。ではそのレバーを下に引いて下さい」
それきたと言わんばかりに、エヌ氏はさっとレバーを引いた。
すると、部屋が真っ暗になり、どうも気味の悪い雰囲気が漂い始める。
「む、何かの気配がするぞ。早速、幽霊のお出ましか」
懐中電灯を四方に向ける。が、まだ何も出てはこない。
ふと、背筋が寒くなった。
「コロシテヤル……」
突然の冷ややかな声。反射的に後ろを振り向くエヌ氏。
「うわああああ!」
エヌ氏は恐怖のあまり絶叫し、その場で倒れて気絶してしまった。
これを別室のモニター越しに見ていたアール博士と助手が、急いで実験室に駆け込み、エヌ氏に駆け寄った。
「おい、しっかりするんだ。おい」
その声に、エヌ氏は意識を取り戻した。
「う……は、博士……」
「大丈夫かね」
「いえ、まさかあんなリアルなものだと思いませんでした。
博士の実験の凄さを身をもって知りましたよ……」
アール博士に頭を抱えられながら、淡々と話すエヌ氏。
「あの髪の長い女。殺してやるなんて言って、私のことを物凄い形相で睨み付けて……今思い出すだけでもおぞましい。あまりにも現実的で、予想だにしないリアルさだったので、この有り様です。本当にすみませんでした」
それを聞いたアール博士と助手は、顔を見合わせた。
「どうかしたのですか」
「いやね。さっきの実験、実は失敗だったのです」
「はい、私のせいで……」
「いえ、あなたのせいではありません」
涙ぐむエヌ氏を見つめながら、アール博士は続けた。
「実は、システムがエラーをはき、装置は起動すらしていなかったのです。それに、そのような女性はプログラムには含まれていません。あなたは、きっと悪霊か何かに取り憑かれているのでしょう。一度、祈祷師に見てもらった方がいい」
168: ◆PDh25fV0cw :2010/11/07(日) 23:20:18 ID:5DG5VIDJ
なんか人が居ないので投下
『生まれ変わり』
人の気配のない、暗い森。月や星は雲におおわれ、
光源となるものは青年の持つ小さな懐中電灯だけ。
自殺の名所であるこの森に、青年がやってきたのはやはり自分の人生を絶つためだった。
ナップサックから縄を取り出し、太い木の枝に結ぶ。
これで後は首をつるだけとなったとき、後ろから小さな物音がする。
驚いて振り返ると、小さな白いウサギが佇んでいる。
「あんたも自殺するのかい?」
ウサギは青年にいきなり話しかけた。
青年はいきなりのことに面をくらい、声も出ずただただ呆然とした。
しかし、自分が狂っていたとしても後は死ぬだけだ、何の支障もない。
最後に話したのがウサギというのも面白いではないか。
何の面白みのない人生だったが、最後に面白いものに出会えたものだ、と自分を納得させた。
「ウサギがしゃべるとは、なんとも奇妙なことがあるものだ」
「それはそうでしょう、私は元々人間だからな。2年ほど前にここで自殺をした者だよ」
「なるほど、転生というものですか。ということは、私も死ねば何かに転生するということですか」
「そういうことになるな」
青年はウサギの前に座り、少し考える。
青年は虫が嫌いだ。もし虫に転生することを考えただけでも恐ろしい。
できれば目の前のウサギのようなものになりたい。
「転生をあやつることはできないのか?」
「転生は人生の残量に左右されるそうだ。君はまだ若いから人間になるかもな」
冗談ではない、人間として暮らすことがいやで死ぬのだ、自殺して人間に転生したら意味がない。
「どうにかならないものなんですか?」
「人間に死後の世界はいじれないさ、諦めることさ」
しかし、そう簡単に諦められるものでもない。
何度も何度もウサギに頼み込む。はたから見ればずいぶん滑稽な光景である。
「そこまで言うのならしょうがない。森の奥に賢者がいるから少し待っていてもらえるかな」
そういって森の中に消えるウサギ。しばらくすると、小さな瓶を二つ持って帰ってくる。
液体が入ったものが一つ、紙が入ったものが1つ。
「これを飲めば転生せずに死ぬことができる、もう一つが死神の契約書だよ」
ウサギは紫色の液体と、見たことの無い文字が書かれた紙とペンを渡す。
「死神の契約書とは、すごい賢者もいたものだ」
契約書に名前を入れ、薬を開ける。特になんの匂いもしてこない。
「本当に後悔しないかい?」
「いいや、しないさ。自分で死ぬのだから」
ぐいっと一気に飲み干す青年。しばらくすると、気を失い地面に倒れ込む。
「やれやれ、薬を飲んだか」
森の奥から一人の男が現れる。老人にも、中年にも見える、なんとも不思議な感じの男だ。
彼は足元のウサギの機械を止めると、青年を担いで森の奥に向かう。
そして、森の奥の隠し扉を抜けそこに青年を置く。
「やれやれ、こんなと年齢で死のうとするとは勿体ない」
男がつぶやく。すると声に反応したのか、青年が目を覚ます。
「ん?ここはどこですか?」
男は大仰に答えた。
「ここは地獄だよ。転生せずに死んだのだ、ここで労働をしてもらうことになる。契約書にサインはしたのだろう」
「なんと、そういう契約書だったのか。これなら転生した方がましだった」
嘆く青年。これで青年は、”死ぬまで”ここで働くことになる。
死後の世界から逃げ出そうと考える人間もいないだろう。
死後の世界というものは、便利なものだ。
参照元:http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1329071730