師匠シリーズ

【師匠シリーズ】お祓い2話『防火水槽』

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2 防火水槽

 師匠から聞いた話だ。

 大学1回生の秋だった。
 僕の師匠は、大学院に在籍しながら、興信所の調査員という変わったバイトをこなしつつ、オカルト道をまい進するかたわら、地元の消防団に入っていた。実に忙しいことだ。
 さいごの消防団は、イメージにあるファイアマン、つまり消防署員と違って、機能別団員とやらだそうで、いわばイザ鎌倉という際だけの協力員のようなものだ。
 そんな彼女は、家でごろごろしていても、ひとたび召集のサイレンが鳴ると、家から飛び出していき、近くにあった消防屯所に飛び込んでいったものだった。
 師匠が、なぜそんなに地域防災に積極的に貢献していたのかはわからない。普段の訓練や、操法と呼ばれるポンプ車を扱う競技の練習などはサボっているのに、さあ本番、というときには、異常にイキイキと参加していた。
 単に火が好きだったのかも知れない。
 昼間の火災で、消防団員の集まりが悪かったときに、僕も無理やりつれていかれたことがあった。僕は所属してないし、保険も入ってないし、たぶんまずいんだけど、女ジャイアンなのでしかたない。
 そんなこともあり、消防団の活動については、いろいろ学ばされたのである。
 火災が起きた際に、消防活動でもっとも重要なのが水利である。いくらポンプ車が現場に集結しても、水がなければ消火のしようがない。住宅地では、たいてい消火栓が一定間隔で設置されていて、地下の水道管から水を引っ張ることができる。
余談だが、この消火栓から水を取ると、地域の水道に濁りが生じてしまうので、地域住民から怒られることがあるそうだ。燃えているのが自分の家でなければ、蛇口からの生活水のほうが大事だとでもいうのだろうか。
 消火栓よりも、近くに川やため池などがあればそれを使う。吸水用のポンプを運んで行って、近くに置き、それが吸い上げる水を、ホースで火元まで運んでいく。火元まで距離がある場合は、途中で複数のポンプを仲介し、圧力をかけながら、水を遠くまで運ぶのだ。
 土地柄で、近くに川がなく、消火栓もないような場所には、防火水槽というものが設置される。水利として使えるものがないので、しかたなく消火用の水をあらかじめ溜めておく施設だ。山間の集落などに多いようだ。
 住宅火災が鎮火できる程度の水は必要なので、たいてい40トンだか60トンだかの容量の大きな水槽が、地下に設置されているそうだ。
 僕も山のなかで、『防火水そう』と書かれた赤い標識を見たことがあった。

 さて、その地域の火災発生時の水利を担う防火水槽であるが、ある日、僕はそれにまつわる不思議な話を聞いた。
「地鎮祭?」
「ああ、そうだ」
 師匠が言うには、とある消防団の班の担当区域にある防火水槽で、水が無くなるという事態が起きているのだそうだ。
「そこの防火水槽は地中に埋め込んであるタイプじゃなくて、地上にコンクリで作ってあるんだ。四角くてでかい石の箱みたいなもんだな。結構古いものらしい。それが最近、点検で蓋を開けたら、水がカラになってたんだと。どっかひび割れて、水が漏れてたんじゃないかと思って調べたけど、そんなに大きなひび割れは見つからなかったそうだ。で、また水を満タンまで溜めて、1週間後に様子を見に行ったら、またカラに近くなってたんだってさ」
「どっかから漏れてるんですね」
「古いものだからな。そりゃあ、小さなひび割れくらいあるだろうさ。でもそんなにあっという間に水が抜けるようなはずはないんだって。でも、現に水がカラになってるんじゃあ、いざ火事が起きたときに防火水槽の意味がない。で、地区の区長が、市の防災担当に直談判して、直すか、建て替えるかしてくれって、要望したんだ。でも、市は今年は予算がないからって渋ってたらしいんだけど、とにかく応急処置をしようってことになって、古田テントっていう業者に頼んだそうだ」
「土建会社じゃなくてですか」
「そこに頼む予算がないんだよ。なんでも、その古田テントってところは、テント生地を使って、そういう水槽の補修というか、補強をするのが得意なんだってさ。防火水槽だと、内側の全面に丈夫なテント生地を張って水を入れれば、水漏れの防止ができるってことだ。これなら本格的な補修工事と違って安く済むし、これまでも実績があるっていうから、さっそくやってもらったんだ」
「どうなったんですか」
「今度は少しもったけど、また1週間で半分水が抜けてたそうだ」
「底に穴があったら、そこに水圧がかかってテント生地でも破れるんですかね」
「わからんが、こりゃあ、なにか祟りでもあるんじゃないのか、って話になったらしい。なんでも、数十年前に防火水槽を建てるときに、祠だか地蔵だかがあったのをどけて、建てたらしいんだな。それをいまごろ地元の年寄り連中が持ち出して、騒いでるらしい」
「それで地鎮祭ですか」
「そう。結局、市が予備費で建設会社に修繕を頼んだらしい。内側のひびを埋めるだけの工事だけど、それプラス、テント生地の張り直しをするんだってさ。合わせ技だな。で、その工事の前に地鎮祭をするって話。面白そうだから、見に行こうかと思ってるんだ」
 そんな話を聞かされた翌週、僕は師匠に連れられて、市内でも一番北に位置する高輪地区に行くことになった。
 近くの小学校の跡地に軽四を停め、そこから歩いて現地に向かう。山間の地区なので、周囲に緑が豊かなのと、あと道が狭い。
 小さな公民館があり、そこにかなりの人がたむろしていた。そこから先に進むと、すぐに『防火水そう』という赤い標識が、道端に見えてくる。
 道から向かって右手側の狭い場所に住宅が固まっていて、そのなかに雑草が生えた雑種地がぽっかりとあった。そこに問題の防火水槽が鎮座している。左側は山の斜面になっている。
 なるほど、実際に見ると、やはりかなり大きい石の箱という印象だった。高さは3メートル近くあるだろうか。外側に簡易の鉄製の階段がつけられていて、そこから登ることができるようだ。
 防火水槽の周りには、関係者が集まっていた。神主さんがいて、祭壇をこしらえている。祭壇の周囲は、注連縄で囲まれていた。
 年配の男性が数人と、消防団の活動服を着た人が数人、神妙な面持ちで近くに立っている。建設会社のロゴが入った作業着を着た人と、古田テントというオレンジ色のロゴの作業着の人もいた。
 その周りを、離れた場所でたくさんの人が見守っていた。地元の人がほとんどのようだが、消防団の活動服の人間も多かった。
 知り合いを見つけたらしく、師匠は消防団員のところへ言って、しばらく話をしていた。
 準備が整って、地鎮祭がはじまるというころに、師匠が戻ってくる。
「あそこに黒いホースがあるだろ」
 指をさす先を見ると、黒いホースが左の山側から延びてきていて、それが防火水槽の上部に差し込まれている。そこに穴があるのだろう。
「この上のほうに谷があって、そこから山の水が自動的に流れ込むようになってるらしい。だから、使ったり、蒸発したりして水が減っても、自動補給されるんだな」
「その水が止まってたってことですか」
「いや、たまに取水側のほうで枯葉とかが詰まって水が止まることもあるらしいけど、定期的に取り除いてるから、問題ないらしい。今も水は流れ込んでるってよ。雨次第で多い少ないはもちろんあるだろうけど。問題は、やっぱりその溜まる先の水槽なんだよ」
 神主さんの挨拶がはじまると、ざわざわしていた声が自然とやんだ。やがて朗々とした、祓詞(はらえことば)がはじまる。
「このひもろぎに、しましがほどをぎまつりませまつる、
かけまくもかしこき、おおことぬしのおおかみはたこの、たかわのちくをうしはきませる、かけまくもかしこき、おおはたじんじゃにいわいまつる、おおかみたちのみまえに、かしこみかしこみもうさく……」
 地鎮祭が進んでいくなか、僕の隣で、師匠がもぞもぞしていた。しきりに上着をパタパタとして胸元に風を通している。
「やけに喉が渇くな」
 秋口とはいえ、今日はたしかに蒸し暑い。そう言われると、僕も喉が渇いている気がしてきて、だんだんとたまらなくなってきた。
 みんなが見守るなかで地鎮祭はとどこおりなく進み、無事に終了した。すぐに直会(なおらい)がはじまり、祭壇に供えられていたお神酒を、みんなで紙コップについで、回し飲みしだした。
 やがて近くの公民館から、割烹着姿の女性たちが次々とやってきて、麦茶や作り立てのお餅を、参列者に振る舞いはじめた。
 かなり量があったので、関係者ではない僕らも、なに食わぬ顔でいただいた。なかでも麦茶はあっという間に売り切れてしまい、すぐに追加が頼まれていた。
 僕らはそんな周囲の様子を伺っていたが、古田テントのロゴの服を着た若者が所在なさそうに遠くに立っていて、師匠がひょい、とそっちへ向かった。
 古田テントの社長らしい年配の人は、地鎮祭にも参列していて、今も如才なく関係者に挨拶して回っている。しかし、従業員らしい彼は、こういう場が苦手なのか、早く帰りたそうな顔をしていた。
「あ、こんにちは。私、消防団員なんですけどお」
 師匠はそう言って話しかけた。まあ、ウソは言っていない。
「あ、今回は、すみません」
 若者は、ぼそりと言って頭を下げた。
「ああ~、いやいや、大変でしたね。でもしっかりテント生地は張ってたんでしょ。しかたないですよ。破れたんなら、やっぱりヒビが大きかったんですね」
 師匠の言葉に、若者はぶすっとして、「いや、でも」というようなことを、小さく口のなかで転がしている。
「どうかしたんですか」
「……破れてないんすよ」
「え?」
 ニキビの浮いた顔を上げて、若者はふてくされたような口調で言った。
「オレ、生地を回収したあと、ちゃんと点検したんですよ。でも、やっぱりどこも破れてないんです。だから、俺たちの責任じゃないんすよ。でも社長が……黙って謝ってろって言うから……」
 最後は消えるような声だった。まずいと思ったのか、若者は「オレ、車に戻ってます」と言って足早に去っていった。
 その背中を見届けたあと、師匠は、「あはぁん」と言って面白そうな表情を浮かべた。

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 その3日後の夜だ。
 僕と師匠は、また高輪地区に来ていた。もちろん、防火水槽目当てだ。月明かりが薄い雲にかかり、チラチラと周囲の明るさが変わるなかを、僕らは足音を忍ばせて歩く。
 この事件が、祟りだなんて言われたら、師匠のやる気がでてしまう。こうなることは想像できていたので、付き合わされる僕も淡々としたものだ。
 深夜2時。コンビニなどもない山間の土地柄なので、あたりは暗く、とても静かだった。
 寝静まった住宅が散在する狭い道を進むと。3日前に地鎮祭が行われた場所にたどりついた。
「……ほら、あれが区長の家なんだ」
 声をひそめて、師匠が指をさす。防火水槽のある雑種地から、細い道を隔てて2階建ての比較的大きな家のシルエットが見える。なるほど、目と鼻の先だ。
「で、この防火水槽の土地も、代々区長の家が持ってて、市は借地料を払っているらしい」
 師匠は、地元の消防団員からさらにいろいろと情報を仕入れたようだ。
 その敷地のはずれに、道との間に設けられた側溝があった。
「見ろ、涸れてるだろ」
「そうですね」
 溝には水がなかった。
「この溝には、普段山からの湧き水が流れ込んでるらしいんだけど、1ヶ月くらい前に、急に涸れたんだってさ」
「防火水槽から水がなくなった時期ですね」
「これが問題でな。もし、防火水槽のひび割れから水が漏れ出していたら、土地の地下に浸透することになる。かなりの量の水だ。区長たちは、その水が土を流して、地下で地盤沈下を起こしてるんじゃないかって、心配しているんだ」
「なるほど」
「地下の見えない場所で土壌に隙間ができて、そのせいで湧き水の流れごと、もっと地下に落ち込んでしまったんじゃないかってことだ」
 懐中電灯は持ってきていたけれど、つけると目立ってしまうので、僕らは月明かりだけを頼りに、防火水槽にたどりついた。
「ちょっと、待ってください。じゃあ、ここって、いつ陥没してもおかしくないんじゃないですか」
 言っていて、自分で怖くなった。目の前の巨大な黒い塊が、突然ズンッと地面に沈み、僕らもその沈下に巻き込まれるような想像をしてしまったのだ。まるで地獄の蓋が開いたかのようなイメージが浮かんで、身震いする。
「まあ、無事に工事も終わったらしいから、昨日の今日で、私たち2人分の体重がかかったくらい、問題ないだろ」
 師匠はそう言いながら、防火水槽の外についた鉄製の楔のような階段に、手を伸ばした。
「よっ」
 そして、するすると登っていく。仕方なく、僕もおっかなびっくり、それに続いた。階段は、地鎮祭で見たときには、錆だらけだったが、工事の際に直したのか、きれいに磨かれていた。
 防火水槽の上に立つと、視界が広くなる。山間の狭い土地のなかに、周辺の住宅が体を縮めて納まっているのが、かすかな月明かりに浮かび上がる。
「谷の水のホースはつながってるな」
 防火水槽の山側の端から下を覗き込むと、黒いホースが少したわみながら、水槽の上部から数十センチのところでなかに入り込んでいる。
 師匠は手を伸ばしてホースを触った。
「お、冷たい。流れてる流れてる」
 そして、僕らの立っている天井の、ちょうど中央のあたりに鉄製の蓋があった。マンホールのようなものだ。
「さて、謎の防火用水消失事件は、解決しているのでしょうか。それとも?」
 師匠がしゃがんで、その蓋に触ろうとした瞬間だった。
 急に、背筋がぞわりとした。
 師匠がその姿勢のまま、顔を上げて、僕と目があった。
「おい、これは」
「はい」
 僕は、喉を押さえた。だれかに喉を締められたような気がしたからだ。しかし、それは喉の奥の水分が失われて、舌の根っこが、喉の壁に貼りついたようになっていたからだった。
 異常な渇き。
 それがだんだんと増してくる。
「手伝え」
 師匠がしゃがれた声で短く言う。僕も近寄って、マンホールのような蓋の取っ手をつかんだ。
「せぇの」
 ガロン、という音がして蓋が外れた。そのまま水平に移動させて、足元に置いた。
 僕は息を止めて、開いた蓋から、なかを覗き込む。緊張して、唾を飲み込みたかったが、喉はカラカラで、一滴もでなかった。
 水は、あった。
 水面にあぶくが見えた。ゴボリ、ゴボリと大きな気泡が、水の底から浮かび上がってきている。
 月にかかる薄い雲が晴れて、淡い光が、僕らと水を照らし出している。
 丸い蓋の下にたゆたう水は真っ暗で、底はうかがい知れない。しかし、その黒い水の底から、なにかが細い手をこちらにむけて、もがいているような気がした。
 喉が渇く。
 水面の下に、落ち窪んだ黒い目が見えた。やせ細った手が、水を搔く。僕は恐ろしくてたまらなくなる。でも、目をそらせないでいる。あれはなんだ。手は、無数にある。気泡は、湧いて出てくる。水面が、低くなっていく気がする。不気味な顔がたくさん揺らめいている。
 そして、渇きが……。

 ガラン。
 その音に、僕は我に返った。
 見ると、師匠が倒れこむようにして、鉄製の蓋を1人で閉じていた。
「いくぞ」
 すぐさま立ち上がった師匠は、突っ立っていた僕の頬を軽く叩いた。そのまま2人で、階段にかきついて、防火水槽から降りた。
 そのまま立ち去るかと思ったら、師匠は降りたばかりの防火水槽の外壁に体をぴったりと寄せて、耳をつけた。
「ちょっと、なにしてるんですか」
 僕はかすれた声で言った。しゃべると、舌の奥が喉に張り付いて、えづきそうになった。
 師匠は壁に耳をつけて、微笑を浮かべている。
「防火水槽を建てる前に、ここには祠があったそうだ。大昔、日照りが続いて、ここいらの村の人間が死に絶えるほどの干害があったんだと。山の水も涸れ果てるようなその死骸を埋めた場所がここだそうだ。その上に、供養するための祠を建てていたんだ。でも、その祠が死者の、死してなお渇く怨念を慰めていたわけじゃない」
「やめてください……」
 僕はそう言いながらも、近づけなかった。
 師匠は壁の向こうにある水のなかの、恐ろしいなにかの声を聞いているようだ。
「地下水だよ。この土地の地下を流れる水脈が、死者の渇きを潤していていたんだ。その水が涸れた。地盤沈下なんて話が出たのは、ほかにも予兆があったのかも知れない。実際のところ、地下ではそういうことが起きているんだろう。だから、地下水の流れが変わって、水が涸れたんだ。逆だったんだよ」
「逆? 逆って、なんですか」
「防火水槽から水が漏れて、地盤沈下を起こして湧き水が涸れたんじゃない。地盤沈下が起きて、湧き水が涸れて、死者の渇きが、防火水槽から水を失わせたんだ」
 そんな、非科学的なこと……。
 などという思いは浮かばなかった。僕もまた見てしまったからだ。あの真っ黒い水のなかで、飲んでも飲んでも渇きがやまない、地獄の光景を。
「祠のかわりの地鎮祭じゃあ無理だ。水だ。水。水じゃきゃあ……」
 師匠は、目を輝かせている。
「いったい、どうしたらいいんですか」
 僕のといかけに、師匠はきょとんとして、ようやく防火水槽から離れた。
「それは私たちよそ者の知ったことじゃないよ。喉が渇いたから、そろそろ帰るか」
 謎にたどりついた師匠は、それだけで満足したのか、あっけらかんとそう言って、僕の肩を叩いた。

 その年の冬、高輪地区の防火水槽のある雑種地の片隅に、小さな地蔵が置かれた。そのそばには山の上の谷からの水が、水槽の分と枝分かれして引かれ、側溝へ流れ込むようになっていた。ちょうど、地蔵の頭に流れかかるようにして……。

「結局、良い人エピソードじゃないですか」
 師匠の話を聞き終えた俺は、そう言った。
 夜の雨は続いていて、俺たちは神社の軒下から出られないままだ。
「いや、それが違うんだよ。結局、ひびの補修工事プラス、テント生地を張っても、防火水槽の水の消失はおさまらなかった。だから地元では、ますます祟りだ祟りだ、って話になったみたいでね。そこで僕の師匠は、仁科の婆さんのつてを使って、小川調査事務所に、地区のほうから依頼させたんだよ」
「うわ、そうきたか」
「で、お金もらって、対処したってわけ」
「ずるいなー」
 師匠は苦笑したあとで、ふっ、と息を吐いた。
「ま、そういう人だったから」
 それからしばし、沈黙して、俺たちは雨のしじまを眺めていた。湿った古い木造建築の、独特の匂いがあたりをつつんでいる。
「もうひとつ話そうか」
 師匠がぽつりと言った。
「これも、お祓いの話だ」
「ここまでは、お祓いが効かなかった、っていう話ばかりですけど」
 俺がそう言うと、師匠は笑った。
「そうだな。じゃあ、次の話は、お祓いが効いた話、ということにしようか」
 そうして、話しはじめた。

お祓い3話『魔よけ』に続く

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