625: 本当にあった怖い名無し 2018/01/14(日) 23:02:16.15 ID:6Pwpj1wn0
あきという人の、「エルハンブルグの天使」という漫画。
中世風のファンタジーで、後味悪いというより切なくてもやもやする系。
悪辣な城主を倒し、新たな王としてエルハンブルグ城にやってきた覇王マディス。
マディスの親友である剣士ラルヴァン。
彼は美しい「天使」が城に入ってきたマディスの額にキスをするのを見る。
「おまえ、頭に天使がくっついてるぞ」
と教えてやるが、マディスには「天使」の姿が見えない。
「とびきりの美人だ」と言うと、見えないマディスは悔しがるが、
それを笑いながらもラルヴァンは少し含みのある様子。
ラルヴァンには昔から「天使」や「精霊」が見えていたが、
彼らが選ぶのはいつもマディスのほうだった。
実際には剣も馬術も、実力はラルヴァンの方が優れているし、
戦でマディスが勝ってこられたのもラルヴァンがいたからだ。
それなのに、「天使」はいつもマディスを選ぶ。
他の者には見えないからこそ、
世界が心の底から『おまえは彼より劣っている』と言っているのが見える。
ラルヴァンはマディスに対する嫉妬と劣等感を心中に秘めていた。
626: 本当にあった怖い名無し 2018/01/14(日) 23:06:00.70 ID:6Pwpj1wn0
しばらく経ってマディスは嫁を取ることになり、相手の女性から手紙が来る。
しかし元々田舎者のマディスは無教養で、読み書きが苦手なため、
返信をラルヴァンに書かせる。
当然反対するラルヴァンだったが、
前にもラブレターの代筆をしたことを思い出して、結局代わりに書いてやる。
どの女も、会えば結局マディスに惹かれるのだ。
手紙を書いたのがラルヴァンだと知っても。
ラブレター効果でめでたくそのお姫様、プリマが嫁入りしてくる。
美しい彼女はマディスともお似合い。
ある日ラルヴァンが中庭で「天使」を見ていると、
プリマがやって来てラブレターのことを問い質す。
彼女はラブレターの相手がラルヴァンだと言うことに気づいていたのだ。
「あなたの詩(手紙のこと)をもっと読みたい」
「わたしは頭のいい男の方が好き」
とラルヴァンに迫るプリマに、ラルヴァンは
「頭がよくて俺好みの良い女だ」と返すも、
「あなたはマディスを見下している」と言われて強い言葉で彼女を拒絶する。
それきり彼女とは何もなかったのだが、
実はマディスがその場面を見てしまっていた。
プリマが子供を生むと、マディスは息子が自分に似ていないことからラルヴァンへの疑惑を強くしていき、
ある日とうとうそれを口に出してしまう。
ラルヴァンは否定したが、
マディスがそれを信じていないことを見抜き、城を去った。
「俺に悪いと思うなら、子供をちゃんと愛してやれ」と言い置いて。
627: 本当にあった怖い名無し 2018/01/14(日) 23:11:00.05 ID:6Pwpj1wn0
城を離れたラルヴァンは、遠い町で二人の部下と一緒に細々と暮らし始める。
何年かして、風の噂でプリマが亡くなったこと、
マディスは後妻を娶り、その妻との間の子を溺愛していることを知る。
それからさらに十数年が経った頃、一人の子供がラルヴァンを訪ねてくる。
それはマディスとプリマの子、ペルセス王子だった。
ペルセスは「天使」の話が聞きたいという。
「天使」に良い思い出のないラルヴァンははぐらかすが、
ペルセスの言葉から彼にも自分と同じものが見えていることを悟る。
同時にマディスがペルセスを愛していないことにも気づき、
ペルセスが本当に聞きたかった質問(自分はラルヴァンの息子なのか?)にノーと答える。
しょんぼりするペルセスを、ラルヴァンは
「俺たちは天使で繋がっている」と慰めて送り出した。
さらに数年経つと、ペルセスとマディスの対立が激しくなり、国は荒れ始める。
城内ではペルセス派の勢いが強くなり、マディスは幽閉された。
ラルヴァンは悩んだ末、民衆を率いてエルハンブルグ城を攻め落とした。
牢屋の格子越しに再会するマディスとラルヴァン。
「始めからこうなると思っていた」とマディスは嗤う。
昔からラルヴァンが居なければ何もできなかった。
勝利はすべてラルヴァンがもたらしてくれたものなのに、
どうしてラルヴァンは手に入れたものをすべて自分に譲るのか分からなかったと溢す。
628: 本当にあった怖い名無し 2018/01/14(日) 23:12:21.15 ID:6Pwpj1wn0
自分が努力して手に入れたものでも、
結局みんなマディスに惹かれるじゃないかと言い返すラルヴァン。
しかしマディスに 「努力して手に入れたならなぜ手放す」
「ペルセスもプリマも、欲しかったならどうして連れていってやらなかったんだ」
と叫ばれて、何も言い返すことが出来ない。
そしてマディスは格子越しにラルヴァンに跪き、新たな王への口上を述べる。
「覇王ラルヴァン、悲願のエルハンブルグ城陥落おめでとうございます。あなたにこの城を……」
それは二人で城を手に入れた時、ふざけ半分でラルヴァンが述べた口上だった。
「やめてくれ」と泣くしかないラルヴァンに、
マディスは「なんだよ、いい歳して、なあ」と呟くのだった。
新たな王となったラルヴァンは、中庭から「天使」を見ている。
相変わらず、「天使」は近くにやってこない。
捕らえられたペルセスが、「天使は邪な人の近くには来ない」と言っていたことを思い出す。
あんなものは羽根の生えた幻覚だ、と思いつつ、
ペルセスに「天使は自分にも近づかない」ことを言えなかったことを思い返すのだった。
最後に「その後、賢王(←ラルヴァンのこと)の子にも天使が見える者は現れず、
賢王の死後、天使を見た者はいなくなった」とナレーションが入っておしまい。
しっとり切なくて好きな漫画なんだけど、
なんかすごくもやっとした読了感。
「天使」はラルヴァンが思っているような「優劣」を考えてる訳じゃなくて
ただの城を大事に想う精霊だっていうことは序盤で明かされてる。
マディスを選んでキスをしたのは、ラルヴァンからは血の臭いがしたから。軍人だしね。
たぶん今まで他所で見た精霊達も、みんなそうだったんだろう。
でもラルヴァンにそんな事情は分からないし、
なまじ見えちゃうから深読みして劣等感で苦しむ。
結果、親友との関係も、好きだった女性との関係も(持っちゃまずいけど)ズタボロになって、
いい歳した大人が二人でボロボロのプライドぶら下げて喧嘩することになったわけで。
後味悪いというか、悲しい。
ファンタジー要素は「天使」くらいで、魔法とか全然出てこないけど、おすすめ。