後味の悪い話

【後味の悪い話】楳図かずお『目』

729: 1/3 2017/09/24(日) 15:45:58.15ID:ghYaRFNR0
楳図かずおの「目」

ある女が見合いをして結婚した。
古風な女で、夫にはあくまでも貞節で従順、無駄に出歩くこともなく家事に励んだ。
夫もそんな妻を信頼して愛し、夫婦は淡白で平凡ながら幸せな日々を送っていた。
ある日、妻の幼なじみだった男が夫の留守中に訪ねてきた。
久しぶりに会う懐かしさに思わず家に上げた妻だったが、男は豹変して妻の身体を求めてくる。
最初は拒むも、自分にも理解できない激情に流されて自ら床を用意し、
夫ではない男とこれまでになく激しい性の歓びを味わう妻。
その最中、ふと窓を見やると、一対の目が部屋の中を覗いていた。
「誰?!」と叫び窓に駆け寄ると、隣家の幼女が逃げ出していくのが見えた。
妻は幼女に情事を見られたと思い、激情も一気に冷めて男に帰るよう促した。
「俺はまだ満足していない、また来る」と言う男に妻は困惑するのだったが、
帰り道、男は偶然トラックに轢かれて即死した。
男の死に安堵するものの、幼女の口から不貞が明るみに出る恐れは消えない。
今はまだ幼いが、成長して、目にしたことの意味が判った時どうなるか…
妻は幼女の言動に怯え、幼女の方も妻のことを避けた。
次第に落ち着きを取り戻していったが、妻は、後ろめたさから以前にも増して夫に従順になった。
夫は妻の心中を知らず、浮気をしても飲み歩いても咎めることのない妻の寛大さを喜ぶと同時に
「何をしても怒らない妻がなんだか恐ろしい」と知人に漏らすのだった。

730:2/3 2017/09/24(日) 15:46:45.42ID:ghYaRFNR0
何事もなく長い年月が過ぎ、ある晩、会社から帰った夫は妻に
「今度新しい秘書を雇ったよ。誰だと思う?」と話しかけた。
新しい秘書とは、成長した隣家の幼女だった。
それを聞いて再び激しい恐怖に駆られる妻。
あの女の子がいつ夫に真実を告げるか知れない…

さらに月日が流れ、年老いた妻は病を得て死の床に就いた。
夫と二人きりにさせてもらうと、長年心に秘めていたことを告白した。
人生で一度だけ不貞を働いたこと、今は夫の秘書となった隣の幼女にそれを見られたこと、
それ以降、いつ夫の耳にその事実が伝えられるか常に恐れを抱きながら過ごしてきたこと。
妻の告白に、夫は「秘書に聞いて知っていたよ」と答えた。
その瞬間、妻の顔は恐ろしく引きつり、驚いた夫が声をかけた時には既にこと切れていた。
埋葬される妻の死に顔は、未だかって誰も見たことがないほど恐怖に歪んだものだった。

731: 3/3 2017/09/24(日) 15:47:46.72ID:ghYaRFNR0
しばらくして、秘書と二人きりになった時に夫は尋ねた。
幼い頃の記憶に、自分の妻を覗き見たことがあったか、と。
秘書は「あります。その時のことははっきりと覚えています」と答えた。
幼かった彼女は夫婦の寝室に素敵な人形が飾ってあるのを知り、それが欲しくてならなかった。
その時も夢中になって人形を見つめていたが、突然どこからともなく妻が姿を現して怒った。
(背の低い幼女には、箪笥の上の人形は見えても床の上は見えなかった)
それからは妻のことがなんだか怖くて避けていたのだ、と。
すべてが明らかになった今、夫は深く考え込むのだった。
「なぜ自分はあんな嘘を吐いたのだろうか?寛大過ぎる妻に恐れを抱きながら数十年過ごした後に…」

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もとより明るみに出るはずもないことにおびえ続け
死の間際にも安らぎを得ることができなかった妻があわれだった

733: 本当にあった怖い名無し 2017/09/24(日) 18:38:18.86ID:2b7n6kI90
>>731
面白かった
楳図かずおってこういうの何気にうまいんだよね

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