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265: 名無しさん@おーぷん 2014/08/11(月)11:38:02 ID:upZqEc7qd
吸血姫美夕シリーズの初期の作品。作者は垣野内成美。 タイトルは忘れた。
香苗が中学生の時に両親は事故死した。
大学生の兄に、香苗は「私は学校の寮に入る。二人で暮らす準備が出来たら迎えに来て。
待ってるから」と言った。
寮では意地悪をする子もいなかったし、友達もたくさんできた。
しかし繊細な香苗にとって、他人に囲まれて暮らすのはひどくストレスの貯まるものだった。
「いつか兄が迎えに来てくれる」それだけを支えに、香苗はストレスフルな暮らしに耐えていた。
時は流れ、香苗は高校生になった。迎えは、まだ来ない。
深夜、寝付けなかった香苗が何気なく窓の外を見ていると、裏庭の湖のほとりにA子先輩と
見知らぬ少女(美夕)が一緒にいるのが見えた。
美夕はA子先輩の首筋から血を吸い、血を吸われたA子先輩はそのまま湖に入って
入水自殺してしまった。
あの子は吸血鬼だ! A子先輩はあの子に血を吸われて殺された! お兄ちゃん助けて! と
香苗はひどく怯えた。
香苗は翌日、学校の図書室で吸血鬼に関する本をありったけ借り出した。
たくさんの本を抱えてよろよろ歩いていると、女子生徒にぶつかって、本を2、3冊落とした。
女子生徒は親切にも落とした本を拾ってくれた。
香苗は礼を言って本を受け取ろうとして、硬直した。
女子生徒は美夕だった。
美夕は意味ありげな口調で「その本、面白い?私も読んでみようかな」と言って去っていった。
香苗は真っ青な顔で立ち尽くした。
しかしその後美夕は何をするでもなく、香苗の周辺にも現れなかったので、香苗は少しずつ
吸血鬼への恐怖を忘れていった。
3ヶ月後、学園祭が行われた。
クラスの演し物の準備をしていると、友達が香苗に「お兄ちゃんが来たよ」と教えてくれた。
香苗は喜んで兄を迎えに行ったが、兄は綺麗な女性といっしょだった。
ショックを受けた香苗は「私、部活(茶道部)の方の手伝いがあるから!」と言って逃げ出した。
茶道部室には誰もいなかった。
香苗が混乱した頭で兄のことを考えていると、美夕が現れて
「お兄さんと一緒に暮らせないわよ。あなた、邪魔になるじゃない」と言った。
最後の心の支えを砕かれた香苗は放心状態で、気がつくと自分から首筋を美夕に差し出していた。
美夕は香苗の血を吸いながら、優しい声で話しかけてきた。
「A子さんはね、ずっと死にたがっていたの。受験のことや複雑な家庭の事情を
抱え込んでいたから。何回も湖のほとりに来て入水しようとして、でも怖くて出来なかった。
だからA子さんに望まれた通りに彼女の血を吸って、夢を与えて湖の底に導いたの。
これが一番いい結末でしょう?」
いつまでも帰ってこない香苗を心配して、友達が香苗を探しに来た。
香苗は焦点の合わない目で茶道部室の近くを歩いていた。
香苗は美夕の与えた夢の中にいるのだ。兄とふたりで寄り添い合って暮らすという幸せな夢の中に。