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67:本当にあった怖い名無し:2006/02/17(金) 12:47:20 ID:WOkBdhxN0
昔読んだ眉村卓のSF短編。タイトルは失念。
宇宙人と親交を深めるため、異星間のホームステイのような事が行われている未来。
主人公の地球人青年は、ある星の女性を自宅に迎える事になる。
不幸にも、彼女は青年が吐き気がするほど嫌悪を感じるタイプの外見を持っていた。
ピンクでブヨブヨと太り、声も言葉も耳障り。気が狂いそうになる青年。
だが、彼女は優しくて頭が良く、知性的ですばらしい人格の持ち主だった。
青年もそれを次第に理解する。少しでも彼女の外見が好みにならないものかと、
青年はある時から、彼女の食べ物にこっそりヤセ薬を入れるようになった。
異星人には有害かも知れなかったが、誘惑を抑えられなかったのだ。
これで外見が好みになってくれたら、彼女は青年の理想のひとだった。
効果はてきめんのようだった。彼女は日ごとにスマートに、美しくなっていった。
…だがステイの期間が終わり、彼女は帰ることになった。
今では青年は、彼女を心から愛していた。だが彼女の星は遠い。
一度帰ったらもう二度と来るのは無理だし、それは青年の側からも同じ事だった。
最後の夜の思い出にと、寄り添って立体写真を撮るふたり。
別れ際、彼女は本当に彼を愛していた事をつげ、悲しげな瞳で去っていった。
しばらく孤独な日々を送った後、青年はやっと写真を見ようと思った。
それまでは、思い出がつらくからと、大事にしまってあったのだ。
だが…それを見た瞬間、青年は嘔吐する。彼と写っていたのは、
最初に来た時のままの、太った醜い肉のかたまりの彼女だった。
彼女にやせ薬など効いていなかったのだ。むしろ有毒だった。
だが青年の願いを読みとった彼女は、薬入りを承知で毎日食事をとっていた。
一方で、少しずつ彼の感覚と価値観を操作していた。彼女の種族にはそういう力があったのだ。
初めて、別れ際の彼女の、深く苦しげなまなざしの意味を知る青年。
いつかこの力が切れることさえも、彼女は知っていたのだ…。
青年の中では、彼女との楽しい思い出が、何回もぐるぐると回り続けるのだった。