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671: 本当にあった怖い名無し@\(^o^)/ 2016/07/30(土) 22:09:56.84 ID:tpVGep4U0
歌舞伎の「藤十郎の恋」
名役者の藤十郎は、新作芝居の役作りで悩んでいた
若手役者の人気に押され、新たな役に挑もうと新作を書かせたが、これが人妻と命がけの恋をする話だった
ところが藤十郎は不倫など蔑んでいたし、経験はないし、道ならぬ恋の心持ちがわからない
芝居一座が料亭で盛り上がっていても、藤十郎は一人他の座敷に入って考え込む
そこに彼のファンの料亭の女将が来て、大事なお客を放って置いた事を詫びる
すると藤十郎は「実は長い間ひそかに想っていました」と恋を打ち明け出す
もちろんこれは芝居で、熱烈に口説きながら相手の様子を観察し、不倫の心持ちを知ろうとした
女将は貞淑で人のいい女だったが、真に迫る演技にほだされ騙されてしまう
ついに覚悟を決めた女将が行灯を吹き消すと、藤十郎はさっと立ち上がる
女将はぎょっとして手を握るが、藤十郎は障子をぴしゃっと閉じて立ち去った
藤十郎の新作芝居はその演技で評判になった
女将が舞台裏にあいさつに来ると、役者達は冗談を言った
「藤十郎は実際に人妻を口説いて稽古したという噂ですが、女将さん、あなたですか?」
それはまったく冗談で本気ではなかったし、女将も笑って言った
「まさかそんなこと…でも嘘でもあの方に口説かれた人は果報者ですよ」
そこに藤十郎が現れると、女将は会釈を交わして楽屋の奥へ入った
藤十郎は相手役に色々と演技指導をする
「もっと手をぐっと握るんだ。こういう時、女は男よりもっと熱っぽくなる」
役者達がなるほどと感心しているうちに、芝居の幕を開ける時間になった
すると裏方達が「大変だ!女将が首を吊った!」と、遺体を担いで来た
皆は女将をいたわしく思い「なぜ死んだのだろう」と言った
また「せっかく評判の芝居なのに、ここで死人が出るとは…」と心配する
だが藤十郎はきっぱりと言った
「この藤十郎の評判が、女一人の死で揺らぐ事はない!」
そうして芝居の幕を開ける事になった
藤十郎は「芸術のために、女の一人や二人死んだって…」と涙を流しながら舞台へ向かった