後味の悪い話

【後味の悪い話】伊藤潤二「緩やかな別れ」

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845: ↓1/2:21/10/18(月) 12:18:00 ID:sMKK
緩やかな別れ  伊藤潤二

ヒロインは幼いころに母親と死別した。
それ以来、「父も死んでしまうのではないか」とひどく恐れるようになり、
父親が死ぬ悪夢を繰り返し見るようになった。
ヒロインが大人になっても、回数は減ったが、悪夢は続いた。

ヒロインは旧家の跡取り息子と恋人になった。
ヒロインと恋人の結婚は、恋人両親からは強く反対されたが、それを押し切って結婚した。
結婚後、義両親とは同居だった。
ヒロインはいい嫁になろうと努力したが、義両親の態度はそっけない。
年の近い義妹が、何かと味方してくれるのがありがたかった。

結婚しても、ヒロインは時折、父の死の夢を見て泣いた。
そして夫に慰められた。

ある日ヒロインは、家で老女の幽霊を見た。
夫に「老夫婦の幽霊が!」と訴えると、夫は
「ああ、それは幽霊じゃなくて残像だよ。君が見たのは、高祖母だろう」
と答えた。
残像とは、一族で力を合わせてよみがえらせた死者の像だ。
一族の者が死ぬと、葬儀の後に儀式を行い、残像を生み出すのだ。
残像は触ることも話すことも出来るし、温もりもある。
しかし徐々に薄れて、約20年で消えていくのだという。
この20年は故人との緩やかな別れの時間であり、大切な時間なのだ。
義妹も、実は残像で、10歳の時に死んでいる。

846: ↓2/2:21/10/18(月) 12:18:31 ID:sMKK
ヒロインは
「父が死んだら、残像を作ってほしい」
と夫に頼んだ。
夫は優しく
「そうだね。君にこそ残像は必要だ。
…でも、残像は一族で力を合わせて作るものだから、僕だけでは決められない。
皆に相談してみないと」
相談の結果、義両親にきつく断られ、ヒロインは深々と頭を下げて
「身勝手なお願いをして申し訳ありませんでした」
と詫びた。

結婚してから10年後、ヒロインは夫が浮気してるのを知って、夫を問い詰めた。
夫は「彼女と結婚するつもりだ」とあっさり答えた。
激昂するヒロインに、夫は穏やかに
「君は残像だ。結婚前に事故で死んだ。
僕は両親に、そして一族の一人一人に頭を下げて、君の残像を作ってもらったんだ。
そして結婚した。君が消えるまで、添い遂げるつもりでいる」

ヒロインは最初はショックを受けるものの、すぐに自分が残像であることを受け入れた。

そして家を出て、実家へ向かった。
実家へ向かいながら、ヒロインは考える。
(繰り返し父親の死の夢を見て泣く妻を、夫はどう思っていただろう。
私は一度でも夫の死ぬ夢を見て泣いたことがあっただろうか)
実家に着いたヒロインが、父親に
「パパ、ただいま」
と穏やかに微笑んで、物語は終わる。

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