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805:1/3:2013/01/10(木) 21:17:25.33 ID:yOKcD0Ce0
岡嶋二人「クラインの壷」
イプシロン・プロジェクト研究所が開発しているクライン2というゲームに
主人公上杉の応募したゲームシナリオが採用されることになった。
クライン2は膨大な時間と費用を掛けて極秘に開発されているまったく新しいゲームで、
全身裸の状態で機械の中に入ることで完璧な仮想現実の世界を体感できるというもの。
味覚や嗅覚などの五感はもとより、冷たいビールが喉を流れ落ちる感覚といったものまで
再現されており、現実世界と区別できないほどの出来だった。
上杉はシナリオ原作者として、このゲームのテストプレイに参加することになる。
訪れたイプシロンの事務所で、上杉は梨紗という女性と出会う。
彼女も上杉と同様テストプレイのために雇われたアルバイトだった。
イプシロンの事務所から研究所までは車で移動するのだが、
二人が乗り込んだ車は窓ガラスが黒く塗りつぶされており、外の様子を伺い知ることもできない。
テストプレイヤーの上杉たちにすら研究所の場所は
教えてくれないほど徹底した秘密主義の下でクライン2の開発は行われていた。
806:2/3:2013/01/10(木) 21:18:38.83 ID:yOKcD0Ce0
上杉は毎日イプシロンの事務所に通い、どことも知れない研究所に移動してテストプレイを行う。
梨紗ともいい雰囲気になってきたりして、しばらくは楽しい日々が続く。
ある日、上杉の義兄が事故で病院に運ばれたという連絡が研究所に入る。
急遽テストを切り上げて病院に駆けつけるが、義兄の事故というのは結局嘘だった。
さらに翌日、梨紗が姿を消した。
研究所に梨紗から「テストプレイヤーを辞める」という連絡が
あったと聞かされるが、上杉はその言葉を信じられずにいた。
その晩、上杉の元に七美という女性から電話が入る。
七美は梨紗の友人だと名乗り、数日前から
梨紗の行方がわからず、何か知らないかと思って電話したのだという。
(詳細は省くが、七美は梨紗の手帳を見て上杉の名前と連絡先を知った)
梨紗の失踪について七美と話しあっているうち、上杉はイプシロンに対して不信感を抱き始める。
義兄の事故の連絡を受けて病院に向かったあの日、梨紗の身に何かが起こったのではないか。
そもそも自分はイプシロンの連絡先など義兄に伝えていない。
従って研究所に連絡がくるはずもない。
病院に呼び出されたのは、梨紗の身に起きた「事故」を隠蔽するための時間稼ぎなのではないか。
807:3/4:2013/01/10(木) 21:20:02.64 ID:yOKcD0Ce0
以降、上杉は七美と二人でイプシロンについて探りはじめる。
新聞社に勤める七美の元カレの協力
などもあり、やがて二人はイプシロンの陰謀を突き止める。
イプシロンはCIAと繋がっており、過去アメリカで人体実験を行い6人の犠牲者を出していた。
クライン2はゲームなどではなく、人の記憶を人為的に塗り替える、
ある種の洗脳装置のようなものであった。
上杉たちはイプシロンの研究所の場所を突き止め、上杉が単独で潜入する。
研究所オフィスのファイルを漁り、梨紗がテスト中の事故で死亡していたことを発見する。
オフィスに繋がるエレベーターの駆動音を聞き、咄嗟に身を隠す上杉。
現れたのは研究所の所長とスタッフ。
そのスタッフの腕には外で待っているはずの七美が捕らわれていた。
一瞬の隙を突いて飛び出した上杉は、所長を人質にして七美の解放に成功する。
そのままエレベーターに乗り込み脱出を試みるが、
天井から催眠ガスが噴出し気を失ってしまう。
つづきます
808:4/4:2013/01/10(木) 21:20:41.55 ID:yOKcD0Ce0
気がつくと上杉はクライン2の中にいた。
機械を出てモニタールームに向かった上杉を所長やスタッフが笑顔で迎える。
その中には死亡したはずの梨紗の姿もあった。
「あと少しでクリアだったのに、残念だったわね」と所長が言う。
事態が飲み込めずにいる上杉に、所長がネタばらし。
つまりこの数日間の出来事はすべてクライン2が見せた仮想世界での出来事だったのだ。
七美や新聞記者の元カレなどはみなゲームの中のキャラクターであり、
現実には存在しないのだという。ショックを受ける上杉。
その後、梨紗と一緒に帰路につき、そして二人は始めてのキスを交わす。
これで晴れて大団円、かと思いきや――。
翌日、上杉は姿をくらます。もはや彼には現実と虚構の区別がつかなくなっていた。
今ここにいる自分が現実なのか、それともこれはクライン2が見せている仮想世界なのか。
自分のいる場所がクライン2の中なのか外なのか、確かめる方法は一つしかない。
思考の堂々巡りを断ち切るため、上杉は手首を掻き切った。