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902:本当にあった怖い名無し@\(^o^)/:2014/07/24(木) 20:41:59.53 ID:DLMnSM/P0.net
「この先、危険区域 学園ミステリアス・ストーリーズ」(香月日輪)って児童書の、「ランドセルの中」って話がじわじわする後味でした。
〈1〉
まさしは野菜が嫌いだった。
でも、給食を残したら先生に叱られる。
そこでまさしは、給食に嫌いな野菜が出るとこっそりビニール袋に詰め、帰り道で捨てるようにしていた。
ある日を境に、ランドセルの中から野菜入りの袋が消えるようになる。
落とした痕跡はなく、誰かに見つかった形跡もない。
数度目に、誰にも触れられないようランドセルを見張っていたまさしは、野菜袋がランドセルの中で消えたのだと確信する。
それから、野菜以外のパンや菓子で試してみても、結果は同じ。
教科書や筆記用具に異常はなく、食べ物だけが滓や包み紙も残さずに消えてしまう。
不思議に思い、ランドセルの中を覗いてみたまさしは、そこに得体の知れない生き物が潜んでいるのを見つけた。
ランドセルの底に澱のように溜まった闇。そこに黒くて、何だかわからないものが息を潜めている。
それを見たまさしは、“それ”が野菜や食べ物を食べていたのだと理解し、納得した。
903:本当にあった怖い名無し@\(^o^)/:2014/07/24(木) 20:43:19.33 ID:DLMnSM/P0.net
〈2〉
それからまさしは、“それ”に餌をやるようになった。
野菜や菓子などの手に入る食べ物はそれにやり、いじめっ子に押しつけられた鳥の死骸を与えてからは、蛙や虫などの肉も食べさせてあげた。
“それ”は生きているものだと嬉しそうに骨を噛み砕きながら食べ尽くし、それにまさしは嬉しい気持ちになってしまう。
学校ではいつもひとりぼっち。友達が出来る前にいじめられる事の多かったまさしにとって、
“それ”に餌をやるのは心安らぐ時間だった。
友達が出来たとまではいわないが、もう自分は一人じゃない。
“それ”に餌をやるたび、ランドセルの底の闇が濃くなっていく気がしたが、
それでもまさしは毎日欠かさず、“それ”への餌やりを楽しく続けた。
904:本当にあった怖い名無し@\(^o^)/:2014/07/24(木) 20:44:40.78 ID:DLMnSM/P0.net
〈3〉
しかしある日、いじめっ子のやすしに目をつけられたまさしは、
嫌がらせで“あいつ”の餌にするはずだった野菜も台無しにされてしまう。
笑いながらやすしが去っていった後、給食で汚れた机や床を掃除するまさし。
同級生たちは同情の目を向けるだけで手伝ってくれない。まさしを助けた事をやすしに知られたら、自分も酷い目に遭わされるからだ。
まさしには、皆の気持ちがわかった。
それでも、いじめられた事より、誰もまさしに味方してくれない事が悲しくて、雑巾で床を拭きながら泣いていた。
――みんなは悪くないよ。
涙を零しながら、まさしは思った。
――みんなは悪くない。
――やすしがいるのが悪いんだ。
906:本当にあった怖い名無し@\(^o^)/:2014/07/24(木) 20:46:21.55 ID:DLMnSM/P0.net
〈4〉
それから数日後の放課後。
まさしはやすしを、無人の音楽室に誘った。
西陽が差す音楽室のピアノの椅子にはまさしのランドセルが置かれており、
まさしはやすしにランドセルの中に手を入れるよう促す。
僕の宝物をあげるから、もう僕をいじめないでほしい。すごく珍しい物だから、きっと気に入ると思うよ。
自分に媚びへつらうまさしの態度に気を良くしたやすしは、深く考える事なくランドセルに近付き、
その中に手を伸ばした。
その日から、やすしは行方不明になった。
大人たちは騒いだが、子供たちには無関係な他人事。
むしろ邪魔者がいなくなって、みんな清々していた。
いじめっ子のやすしが消えたことで、生徒たちは安穏とした日々を送り、まさしにも話をしてくれる友人が出来た。
ある日。飼育小屋を掃除していたまさしは、同級生とペットの話題をしていた。
「まさしん家は、ペットとか飼ってるのか?」
「んー…、この前までいたけど…」
「死んじゃったのか?」
「わかんない。急にいなくなっちゃったから…。でもひょっとしたらもう死んでるかもね」
そう言ってまさしは苦笑いした。
「変なもの食べさせちゃったから」
終わり