師匠シリーズ

【師匠シリーズ】3人目の大人 バレンタインバージョン

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師匠シリーズセルフパロディ。http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3399046

2013年4月2日 12:43

 師匠から聞いた、ということになっている話だ。

「加奈子さんが僕に、チョコをくれる、くれない、くれる、くれない、くれる、くれない、くれる、くれn うわあああ」

 僕はその辺に生えていた花を投げ捨てた。

 けっして最後の一枚が不本意な結果になったためではない。我に返ったのだ。意味ないし。こんなことしても。バカバカしい。だいたい、さっきからずっと花びらが偶数じゃないか。もしかしてあの花、そういう統一規格なのか?

 今度は違う花にしよう。

 そんなことをぶつぶつと呟きながら歩く日々。

 バレンタインデーが近いのだ。

 ああ、バレンタインデー!

 高校生、そして中学生のころにも、これほどやきもきした記憶はない。大学1回生にもなって、たかがチョコに一喜一憂するなんて。自分がそんなガキだったなんて、驚いてしまう。

『ん』

『え、なんですかこれ』

『だから、ん』

『ん、って…… え、もしかして…… がさごそ、うわあああああああ』

 違うな。

 これは違う。ちょいテレ系で渡してくる人じゃない。

『ち、違うんだからな、これは! これはたまたまスーパーで買い物したときに福引で当たったやつなんだから! 食べ物かどうかも、中身がなにかも知らないんだからな。いらないから、あげるだけだから。勘違いするなよな。そ…… それに私チョコ嫌いだし、いらないからあげるだけだから……!』

 違う。

 こんなツンデレするときは絶対に裏があるときだ。逆に怖くて受け取れない。

『好きだ。つきあってくれ』

 直球。

 あの人らしいと言えば、あの人らしいが。

『チロルチョコだ。あげる。でもわかってるな。お返しは、期待してるからな』

 すごくありそうだ。凄くリアルに思い描ける。

 でも一番ありそうなのは。

『なんだ。さっきからもじもじして。どうかしたのか。トイレか? いっトイレ。がはは』

 これだ。イベント完全無視パターン。

 このおそれが最も高い。暗鬱な未来に光はないのか。

 そもそも師匠は、バレンタインデーに義理チョコでもなんでも、チョコをプレゼントする習慣があるのかどうか、それをリサーチしてみることにした。

 証言者1 小川所長(小川調査事務所の上司)

『ああ、加奈ちゃんか。去年はチョコくれたなあ。うちのトーマの分も。結構いいチョコだったような。ゴディバだったかな。服部くんはどうだった?』

 証言者2 服部(小川調査事務所のバイト仲間)

『…………』

 証言者3 卵男(隣人)

『去年いただきました。いっぱい持っていましたよ。部屋にたかりに行ったときに…… いえいえ、あはは。え? 自分で用意したチョコではなかったようですが。そう言えば、モテるから増えて困るとかなんとか。ああ、そうそう。以前、女子寮で起こる怪奇現象を解決して、それ以来毎年女性たちが送ってくるんだとか』

 証言者4 夏雄(筋肉はゴリラ、牙はゴリラ、燃える瞳は原始のゴリラ、つまりゴリラ)

『あ?(怒)』

 以上の証言を元に、師匠にもそれなりにバレンタインデーというイベントを意識している、という実績が確認できた。

 期待と不安。諦めと希望。

 僕は様々な感情に翻弄されながら、当日を迎えることになった。

「くれる、くれない、くれる、くれない、くれる、くれない、くれる、くれn…… うわああああ」

 近所の花はあらかたすべて千切ってしまい、仕方がないので脳内で花占いをしていた。かなり現実と虚構の区別がつかなくなってきている。自分でもやばいと思う。

 目の前の師匠も本物かどうかよくわからない。

「なんだ。どうしたんだ。急に家にきたかと思ったらだんまりで」

 首を傾げている。かわいい。

「あ、そうか。今日は2月14日か。そういうことか。忘れてたよ」

 くれる、くれない、くれる、くれない、くれる、くれない、くれる、くれn

「なんてウソウソ。あるよ。お前の分も。ほら」

 綺麗な包装の大きな箱が。

 くれる、くれる、くれる、くれる、くれる、なんだ、全部の花びらがくれるくれるの大フィーバーじゃないか!

「おい、どうした。いらないのか。変なやつだな」

 僕は師匠の手を、箱ごと握り締める。

「けっ、結婚しましょう!」

「はあぁ? 痛い。やめろ離せ」

「結婚して、子どもを作って幸せになりましょう!」

「なにトチ狂ってんだ。目が、目がイッてるぞおまえ」

「みんなでしゅっ、州の字になって寝ましょう!!」

「何人産ませる気だ! 普通、川だろ。離せって!」

 え?

「あ、離した。おい。どうしたんだ急に」

 いち、にい、さん……

 州の字で、大人に囲まれて寝る短い棒である、子どもの数は3人だ。

 しかし。

 一緒に寝る長い棒のうち、僕と師匠は2本、あとの1本は……

 そこにいてはいけない、3人目の大人の顔を想像して、僕は息を飲んだ。

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