ホラー

【洒落怖】戦前、小動物を売っていた

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∧∧∧山にまつわる怖い話Part18∧∧∧

631 :562:2005/03/31(木) 07:56:28 ID:7JSn77uQ0
私の父親は山好きです。当然、山関連の友人も多く、私も山へ行く度にそうした方々と話をしました。
そして、その友人の中にAさんという方が居ます。
私が彼と最後に話をしたのは高校生の頃です。
高校卒業後、進学の関係で地元を離れてからは一度も会っていない上、
結構な年齢に達していた筈なので、今は亡くなってしまっているかも知れません。
Aさんは県内でも山深い山村の出身で、実に色々な話を知っていました。
私にも沢山の話を教えてくれましたが、その中でも印象深い話をさせて頂こうと思います。

632 :562:2005/03/31(木) 07:57:33 ID:7JSn77uQ0
Aさんが少年の頃(戦前)、罠を仕掛けては狸や狐、イタチなどの小動物を獲っては、
皮を剥いで売っていたそうです。(当然、今では許されない事だと思いますが)

そんなある日の事。Aさんはいつものように仕掛けた罠を見回りに、山へと入りました。
獲らぬ狸の皮算用をしていたAさんですが、その日の収穫はゼロ。
すっかり気落ちしたAさんは、元来た道を引き返し始めました。

ところが、通いなれた道、目を瞑ってでも帰れる、自信のある山道であった筈なのに、
周囲の風景がまるで違うのです。
「どこかで道を間違えたのか?いいや、そんな筈は無いんだが…」
Aさんは見覚えのある道を探し始めました。
が、行けども行けども知らない場所ばかり。そうこうするうちに日も暮れ始めました。
「これはいよいよマズイぞ。下手をしたら、山で夜を明かさないといけない」
何とか元の道に出ようと必死になりましたが、全ては徒労に終りました。

すっかり暗くなった山の中でAさんは途方に暮れました。ところが…。
耳を澄ませると、どこからか人の話し声が聞こえる。
最初は幽霊か何かと思ったのですが、よくよく見渡せば遠くに灯かりも見える。
「しめた!人が居る!今日はあそこに厄介になろう」
Aさんは灯かりを目指して歩き始めました。

やがて、灯かりのすぐ目の前まで来たAさん。焚き火がチロチロと燃えています。
焚き火を起した主に事情を説明しようとしたのですが、そこで言葉に詰まってしまいました。

633 :562:2005/03/31(木) 07:58:15 ID:7JSn77uQ0
焚き火の前には、2人の人が居ました。
どちらも女性で、焚き火を挟んで向かい合い、何事かを話しています。
2人はとても美人で、豪華な着物を着ていました。
綺麗なのは大変結構なんだが…でも、どうしてこんな山の奥に、女性が2人きりで居るんだろう?
何も話せずに突っ立ってるAさんに、片方の女性が、
「そこでは寒いでしょう、近くで当たりなさい」と、優しく声を掛けてくれました。
Aさんは無言で火の近くに行くと座りました。2人は相変わらず話を続けています。
そこで、Aさんは変な事に気付きました。
目の前の焚き火なのですが、確かに燃えている。燃えてはいるが、薪が無い。また、音も全然無い。
ただ、地面の上で火が燃えてるだけなのです。
こんな火などあるものか。きっと、この2人は人ではない。狐か狸か知らんが、きっと化かされているのだ…
これは大変な所へ迷い込んだものだ…せめて、怒らせないように気を付けないと。
さっきまでは人が居て助かったと思っていたAさんは、急に心細くなりました。
兎に角、目の前の2人は人でない事は確かだ。下手をすれば命まで取られかねない…。

すると突然、「お前は、○○の所のAでしょう?」声を掛けられました。
先程声を掛けてきた女性が、いきなり話し掛けてきたのです。
何で俺の事を知っているのだ…内心ビクビクしながら、正直に答えようかどうか迷いました。
正直に答えたら喰われてしまうかも知れん。何せ、今まで俺は結構な数の狸だの狐の皮を剥いでるんだ。
こんな所で仲間の敵討ちなどされたら、逃げようが無いじゃないか。
「隠さなくても良い、こちらはお前の事をよく知っている。お前の父や母の事も、よく知っている」
Aさんは何を言われているのか全然分かりませんでした。俺の父親や母親を知っているってどういう事だ。

634 :562:2005/03/31(木) 08:01:44 ID:7JSn77uQ0
「あまり子供を驚かせるものじゃない。見なさい、怖がってるでないの」
もう1人の女性が、答えに詰まっているAさんを見かねてか、助け舟を出してくれました。
彼女は続けて話します。
「私達に化かされていると思ってるみたいだけど、決してそんな事はしないから安心しなさい。
 明るくなってきたらね、道を1つ越えて更にずっと下りなさい。そうすれば、村への道に出られるから」
何とかAさんは声を出しました。
「何で俺の事を知ってるんですか?二人は誰?」
すると、2人はそれぞれ名前を言いましたが、やたらと長くて難しい名前でした。
「立派な名前ですね」と言うと、二人は笑って返しました。
そして、「私達は皆、こんな名前だから」と言いました。

やがて、夜も明けてきました。
すると、
「そろそろ山を下りなさい。さっきも言ったけれど、ここを真っ直ぐ下りなさい。
 途中で細い道があるけれど、それを行ってはいけない。その道を越えて、更に下へと下りなさい」
「その細い道は何の道なんですか?」とAさんは質問しましたが、
「知ってもしょうがない事だから」と返されるだけでした。

2人に別れを言い、Aさんは山を下り始めました。
下りる途中、後ろを振り返りましたが、既に灯かりは消えて人の気配も消えていたそうです。

女性に言われた通り山を下ったAさんですが、さっき言われたような細い道が見えてきたそうです。
ここを下った方が、早く山から出られそうなんだけどなぁ…
そんな考えが頭を過ぎります。
「行っては駄目だと言われたけど、見た目は全然普通の道だし、この道を下ってしまおう!」

635 :562:2005/03/31(木) 08:02:50 ID:7JSn77uQ0
そう思って踏み出そうとした時です。道の奥から、人が1人歩いて来るのが見えました。
なんだ、俺以外にも人が居るじゃないか。やっぱりさっきの2人は狐か狸だ。
この道を無視して更に下ったら、滝壺なんかがあるに違いない。
危ない危ない、騙されるところだった。
そう思いながら、道を歩いて来る人に声を掛けようとしたAさん。
が、相手の姿を見て絶句してしまいました。
見た目は確かに人でした。そして、昔の貴族の従者が着てるような狩衣を着ています。
しかし、Aさんが驚いたのは、その人の服装ではありません。
その狩衣を着た人物。袖から出ている手足に、皮膚も無ければ肉も無い。
要するに、白い骨が剥き出しになっていました。
また顔には、目の部分だけに穴を開けた木の面を被っています。
その下も白骨であろう事は、当然予想できました。
そいつがフラフラと道を歩いて来る。
何故白骨が歩けるんだ。これこそおかしいじゃないか。
Aさんは、とっさに茂みに身を隠しました。
逃げようとして下手に動くより、藪に隠れてやり過ごそうと考えたのです。
その白骨は、相変わらずフラフラと歩いてきます。
そしてよくよく見れば、何かを引きずっているようでした。
その引きずってる物を見て、Aさんは再度仰天します。

636 :562:2005/03/31(木) 08:04:16 ID:7JSn77uQ0
足に縄を掛けられた白骨でした。
しかし、引きずっている奴が狩衣を着ているのに対して、引きずられている白骨は立派な着物を着ています。
恐らく、貴族か何かなのでしょう。
Aさんが推測するに、狩衣の男は主殺しをしたのではないか、との事です。
ここで言う『主』とは、引きずられている貴族風の白骨。
その従者たる男は、その罪の為に死罪となったのではないか…。
が、当時のA少年は、そんな事を考えるほど余裕がありません。
ただただ、頼むから気付かれませんように…と願うのが精一杯でした。

やがてその白骨は、Aさんの隠れている茂みの前までやって来ました。
そして、そのまま通り過ぎてくれるかと思いきや…そこで立ち止まって周囲を見渡し始めました。
しまった!気付かれたか…
狩衣の白骨は、縄を持つ方とは逆の手を、そろそろと腰の刀に伸ばします。
もはや一刻の猶予もなりません。
見付かるのは時間の問題であるように思えました。いや、既に見付かっているのかも。
じっとしていても見付かる。ここはイチかバチか…やるしかない。

637 :562:2005/03/31(木) 08:08:57 ID:7JSn77uQ0
Aさんは声にならない声を挙げながら藪から飛び出し、一足飛びに道を飛び越えて、
転がるように山を下り始めました。
後ろからは刀が空を切るような音がしましたが、振り返る勇気などありませんでした。

躓いたり転んだり、枝に顔を打たれたりしながらも必死に山を下り、
気付けば自分の住む村のすぐ近くの道に出ていました。
日はすっかり昇っていましたが、それでも安心できずに村まで駆けて行きました。

村では、「Aが消えた、神隠しにでも遭ったのではないか」と話し合ってる最中でした。
Aさんは事の次第を両親に話したそうです。
それを聞いた両親は、「山の神様が息子を護って下さった」と大層喜んだそうです。

また、2人の女性が話した「自分の名前」ですが、
1つは村の近くにある山、もう1つは少々遠方だが有名な山に居る神様の名前ではないか、との事でした。
狩衣の男と貴族の白骨に関しては、両親も全く知らなかったそうです。
Aさん自身も色々調べてみましたが、結局分からなかったそうです。

もし、Aさんが女性の言う事を聞かずに、最初の道を行ったらどうなっていたか、
もし、狩衣の男に捕まっていたら…全ては闇の中です。

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戦前の体験 その2

656 :562:皇紀2665/04/01(金) 01:02:02 ID:shfE6z7E0
次にお話させて頂くのも、引き続きAさんの体験談です。
これも戦前の体験だそうですが、この話をしていた時のAさんはしたたかに酔っていました。
ですので、実際の体験とは異なる部分が入っているかも知れません。

前回の話から時は流れ、Aさんは17,8歳位になっていました。

そんなAさん。ある日用事があって山道を歩いていました。
昔の人というのは凄いもので、峠の5つや6つは休み無しでも平気で歩いたそうです。
初夏の日差しを浴びながら、もうひと踏ん張りで峠の頂上だ…と考えていたのですが、
その時、妙な音が聞こえてきました。
何やら後ろが騒がしい…足を止めて後ろを振り返りました。
音からすると、誰かがこちらへ駆けてくるようです。
ガシャ、ガシャ、ガシャ…何かがぶつかり合うような音…何の音だろう?
Aさんは気にせずに先を急ごうと思ったのですが、音が気になってしょうがありません。
鍋釜を背負って夜逃げでもしてるのか?でも今は昼間だから夜逃げじゃねぇよなぁ…
暢気な想像をしていたAさんの前に、その音源の主が姿を現しました。

657 :562:皇紀2665/04/01(金) 01:03:00 ID:shfE6z7E0
「なんだ、ありゃ…」
思わず呟くAさん。無理もありません。彼の目の前に現れたのは、全身を甲冑に身を包んだ男だったのです。
外見を見る限り、Aさんとそれ程違わない年齢…いや、
あどけなさが残っているので、1歳か2歳年下かも知れない…の男性が、
やはり同い年ぐらいの女性の手を引きながら、こちらへ駆けてきます。
「そんなに急いで、何処へ行く?」
Aさんは声を掛けましたが、2人はその声を無視して、と言うよりまるで聞こえない感じで走ってきます。

やがて、Aさんの前を2人が通過しました。
「人を無視して、なんだあいつ等は。女連れて歩いてるからって調子乗りやがって」
少々嫉妬が混じった独り言と共に2人を見送ったAさん…と思った瞬間、
今度は凄まじい速さで、数人の集団がAさんを追い抜いていきました。
「危ねぇな、コノヤロー!」
突然の事にビックリしてと叫ぼうとしたAさんですが、その集団の姿を見て再度ビックリしました。
先程の男性と同じく、全員が甲冑を着込んでいます。手には日本刀だの槍だの、物騒な物も持ってます。
「物騒な連中だなぁ。あんな物で何をするつもりだ、オイ」

少々好奇心が出てきたAさんは、峠の頂上まで一気に駆け上がりました。
そして下を見下ろします。頂上からは真っ直ぐな一本道が続いてます。
そこからは、さっきの2人組の男女、それに甲冑集団も見えました。

658 :562:皇紀2665/04/01(金) 01:03:36 ID:shfE6z7E0
集団は男女を取り囲んでいました。そして、槍や刀を2人に向けています。
「尋常じゃないぞ、これは…一体何が起きたんだ?」
そう呟いた瞬間、槍を持った1人が女性を一突き。
「あっ!やりやがった!」
思わず叫ぶAさん。が、包囲した集団は情け容赦なく、今度は男性の方に槍や刀で襲い掛かります。
男性は僅かに抵抗したようですが、これまた槍や刀でメッタ刺しにされ、斃れてしまいました。
寄ってたかって酷い事しやがる!
そう思ったものの、Aさんとて安心はできません。殺害現場を見た以上、自分だって殺されるかも知れない。
こんな山の中じゃ助けも呼べない…。
が、Aさんの心配とは裏腹に、誰もAさんの事を気にしてる様子はありませんでした。
彼等は既に虫の息となった2人を、尚も槍や刀で刺し続け…最後に、なんと首を切り落としてしまいました。
昼間の惨事を目の当たりにして、呆然とするAさん。

やがて、その集団は首を乱暴に掴むと、こちらへ引き返してきます。
逃げないと…そうは思うものの、体が動きません。
甲冑集団の人々は、顔や鎧に飛び散った血を拭こうともせず、こちらへ歩いてきます。

やがて、Aさんの目の前まで来た彼等は、Aさんには目もくれず、さっさと峠を下って行ってしまいました。
何だったんだ、あいつ等は…そんな事より警察だ、警察に知らせないと!
そう思い直し、再び峠道を見下ろします。しかし…

659 :本当にあった怖い名無し:皇紀2665/04/01(金) 01:04:50 ID:shfE6z7E0
「あれ?あの2人はどこへ消えた?!」
ついさっき、集団に寄ってたかって殺されて、首を刎ねられた筈の2人の遺体が消えていました。
急いで峠を下りて、先程の惨事が起きたであろう場所に駆け寄ります。
現場には死体はおろか、血の一滴も残っていません。
「首の無い奴が1人で歩き回る筈は無い。それに、さっきの奴等は首しか持ってなかった。
 じゃあ、俺が見たのは一体…」

この惨事は、夜中や明け方ではなく、白昼堂々と行われました。
また、甲冑の音を覗いては走る音も叫び声も一切しなかったそうです。
この不可解な出来事に関しては、Aさんなりに結論を出しています。
彼が言うには、村からそう遠くない所に、小さな城跡がある。
ある時、何らかの理由で、城から女性を連れて脱走した者が居るのではないか。
追撃隊まで組んで追いかける程だから、何か重要な情報でも持ってたのだろう。
もしくは、逃げられては困る人物だったのかも知れない。
そして、数百年の時を超えて、その時の光景が何度も繰り返されているのではないか。
それをたまたま、Aさんが目撃してしまった…。

660 :562:皇紀2665/04/01(金) 01:06:00 ID:shfE6z7E0
上の件については、私も独自に調べました。ただ、ネット上で調べただけなので限界があります。
まず、Aさんの言う「村からそう遠くない」というのは、人それぞれだと思います。
私にとっては、結構遠いと思える距離でした。
また、城跡にしても、青葉城址や久保田城址のように立派なものではなく、本当に小さなもので、
県内の田舎に小山(と、言うよりは丘)がポツンとある感じです。
城跡に関わる歴代城主やその一族なのですが、その末裔は今でも居ますので、
ここで出すのは控えさせて頂きたいと思います。

それにしても、この残酷な光景は、今でも繰り返されているのでしょうか。

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