ホラー

【洒落怖】雷鳥一号さんの怖い話シリーズ その2

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寡婦地蔵

732 : 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2013/08/20(火) 19:14:50.51 ID:dTHcu64U0
友人の話。

彼女の地元には、一寸変わった地蔵さまがあるのだという。
街外れの山を少し上った所に祀られているその地蔵さまは、
人の願いをまず確実に叶えてくれるのだというのだ。

ただし、大人の女性限定。

ここに女性が願掛けに行くと、その夜中に何者かが家の寝床に侵入してきて、
あんな事やこんな事をウリャウリャされてしまうのだそうで。
それと引き換えに願い事が叶うのだと言われている。

何というか、後家さんに大層人気があったといい、
その為かこの地蔵さま、昔から『寡婦地蔵』とか『ヤモメさん』などと呼ばれていた。

「君は願掛けしたことあるの?」と私が聞くと、
「私は絶対に近寄らない」と無表情に返された。
聞くんじゃなかった。怖かった。

クサマラ

733 : 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2013/08/20(火) 19:15:31.68 ID:dTHcu64U0
知り合いの話。

彼の実家の山には、その昔クサマラと呼ばれた化け物が出ていたそうだ。
当時そこは実家の土地ではなかったらしいが、そこの山道で野宿をすると、この怪に襲われてしまうということだった。

ただし、大人の女性限定。

被害者の話では、丈の高い草むらがガサガサと揺れると、
姿の見えない何かがそこから飛び出してきて、あっという間に押し倒されてしまい、
あんな事やこんな事をウリャウリャされてしまったそうだ。
しかし何故か、クサマラを責めたり恨んだりする者はいなかったらしい。

「テクニシャンだったのかどうか知らないが、まぁ性に関しては大らかな時代だったんだろう。
 しかしあまりに噂が広まったんで、地元で風聞が悪いという話になってしまい、
 結局うちの先祖がそこの山を買うことになったんだ。
 で新しく道を刻んでから、クサマラの出る山道は使えなくした。
 それからは、不埒なマラさんは出なくなったということだよ」

苦笑いしながら、彼はこの話を聞かせてくれた。
聞いていた私も苦笑いしていたと思う。

クダン

734 : 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2013/08/20(火) 19:17:00.53 ID:dTHcu64U0
知り合いの話。

彼女が住んでいる山村には、ある物の怪の話が伝わっているそうだ。
一人で山に入ると、足音がヒタヒタと後をついてくる。
振り向いても何の姿も見えないのだが、その場からすぐに逃げ出さないと、
地に押し倒されて、あんな事やこんな事をウリャウリャされてしまうのだと。

ただし、大人の女性限定。

この目に見えない物の怪はクダンと呼ばれていたそうで、
山に一人で入った女性、それも成熟した者にだけ悪さをしていたらしい。
襲われて運悪く孕んでしまった女性は、人面獣身の怪物を生むという。

こうして生まれた怪物もまたクダンと呼んでいたそうで、
面妖な外見ではあるが、人語を解し、性質も大人しく人に懐きやすかった。
加えて予言や失せ物捜しの神通力を持っていたので、村では重宝していたそうだ。
酷い凶作の年にはわざとクダンのいる山に、単独で女性を登らせたこともあったとか。

「酷い話だよねぇ、まったく。
 死にはしないけど生贄だよ、まぁ大昔の与太話だけどね。
 子供の頃にこの話を聞かされてからは、一生懸命に身を護る術を考えたものだわ」
そう言いながら、彼女は傍らの猟銃を撫でていた。
「……まさか、そのために狩猟免許を取ったの?」
そう問う私に、彼女は、
「さぁて?」と凄みのある笑みを浮かべた。

キスリング

702 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2013/08/19(月) 19:58:09.95 ID:W1HFvYnk0
友人の話。

彼とは随分昔からの山仲間なのだが、すっかり出不精になった私と違い、あちらは今でもよく山に登っている。
この前久しぶりに逢った際、最近はどこを登っているのかという話になった。
よく一緒に登っていた岳を思い出した私は、「あそこには今でも行っているの?」と尋ねた。
彼は顔を顰めて、次のような話を聞かせてくれた。

「今はあそこに登ってない。っていうか近寄っていない。
 前にS君と登ったんだけど、下りてから彼が変なことを言ったんだ。
 『今でもキスリングを使ってる人、いるんだな』って。
 何のことだと尋ねたら、
 『僕らの前に、キスリングと鳥打ち帽姿の登山者が歩いていただろ』って、そんなことを言う」

キスリングザックとは、昔使われていた帆布製のリュックサックのことだ。
大容量で頑丈だが、横幅が広い構造で、肩への負担が大きい。
またパッキングも難しいことから、今ではほとんど使われなくなっている。

「S君によると『下りの途中からずっと見えてたぞ』なんて言うんだけど。
 僕はそんな格好の登山者なんて、誰一人見ていないんだ。
 というか、あの日は僕ら以外、誰もあの山道を歩いてなんていなかった。
 彼は『いた!』、僕は『いない!』って押し問答になったんだけど、まぁそこは取りあえずそれで終わったんだよね」

703 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2013/08/19(月) 19:59:03.05 ID:W1HFvYnk0
「後日、別の山仲間にこの話をしてみたんだ。何の気なしに。
 そうしたら、えらく不気味な話を教えてくれた。
 その彼女曰く『私たちもあの山で同じ体験をしたことがあるわ』って。
 まったく同様に、彼女の連れの内、一人だけが目撃していたんだって。
 そう、古風なキスリングを背負った男性の姿を」

「見えた子は『私って霊感があるから』なんて嘯いていたそうだけど、
 それから二ヶ月くらい後に、突然死んじゃったらしい。
 その内に誰かが『あの子が見た男性は、死神だったんじゃないか』なんて言い出して、えらく怖い思いをしたんだとか」

そこまで聞いてから、私は静かに問うた。
「……この前君と逢ったのは、S君の葬式の時だったよね。
 今聞かせてくれた話は、一体いつぐらい前の話なんだい?」
彼が答えるに、
「葬儀の日より二ヶ月以上は前だね。三ヶ月は経っていなかったと思う」

少し鳥肌が立った。

「……本当に死神を見たのかな?」と言う私に、しかし彼は否定的だった。
「いやそりゃ、違うと思うんだけどね。
 あそこって結構有名所だし、年に一体何人が登ってると思ってんの。
 話題にそうそう上らないってことは、何とも無い人が大部分なんだろ。
 実際、僕らも結構あの山に登ったけど、まったく何も無かったじゃない」
「でもねぇ……」そう私が零すと、
「だよねぇ。どこか薄気味が悪くて、ちょっと登れなくなっちゃった」
彼は顔を顰めながらそう返答した。

昔馴染み

169 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2013/03/30(土) 20:45:57.42 ID:Aeqwcwa30
知り合いの話。

まだ幼い彼が実家に里帰りをしていた時のことだ。
父親と里山を散歩していると、川に小さな橋が掛かっている場所に出た。
街の川と違って魚の影が濃いことに興奮し、川面を一生懸命に覗き込んでいた。
そんな彼の様子を、父親はすぐ背後から見守っていた。

と、いきなり父親は「おーい!」と大声を上げ、上流の方へ手を振り始める。
目を向けると、誰かが川から上半身を出していて、やはりこちらへ手を振っていた。
同い年くらいの子供に見えたが、頭も腕も真っ黒で、表情などは見えない。
ただ赤い口だけが、パカリと開いているのが見てとれた。

彼が目を凝らそうとすると、すぐにそいつは水の中に姿を消したという。
「今の誰、何処の子なの?」そう尋ねると父親は、
「昔馴染みだ、気にするな」とだけ口にした。

実家へ帰ってから祖母にこの話をすると、
「あの子はよく河童と遊んでいたからねぇ」と懐かしそうに言われたそうだ。

テーブルクロス

∧∧山にまつわる怖い・不思議な話Part69∧∧

155 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2013/05/21(火) 20:30:52.87 ID:DKYMwAuh0
友人の話。

近場の森林公園に、家族でバーベキューに出掛けた。
炭火を熾すのは主人に、子供の世話は祖父母に任せ、彼女は食卓の準備をしていた。
折り畳みのテーブルを広げて足を立て、テーブルクロスを被せて食器を並べる。

水入れ代わりの水筒をテーブルに置いた時、クロスの端がスッと持ち上がった。
まるで誰かが指で摘んでいるかのように。
次の瞬間、
「ハイッ!」
と元気の良い声がして、クロスだけがスルッと抜き取られた。
上に載っている食器などはそのままで、微動だにせず倒れもしなかった。
まるで曲芸でも見せられたような気がした。
我に返ってクロスを拾い上げたが、何もおかしな所はない。
しばし考え、取り敢えずパチパチと拍手をしておいた。
拍手しながら森に向かって小声で頼み込む。
「お願いですから今の芸、食事中は披露しないで下さいね」

お願いが効いたのか、それ以降変わったことは起こらなかったという。

ミミズに似ていた

∧∧∧山にまつわる怖い話Part7∧∧∧

728 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :04/03/15 04:39
友人の話。

夏山キャンプでテントを設営していた時のこと。
ペグを地面に打ち込むと、テントの周りの地表が急に波打ち始めた。
何事かと引き抜くと、いきなり地中より、柔らかく湿ったものが飛び出してきた。
どうやら設営地の真下に潜んでいたらしい。

彼の悲鳴を聞いて集まった仲間の見たものは、彼の身体に巻きついている巨大な軟体動物だった。
蒼黒い体表に、七色の筋がいくつも走っていたらしい。
ミミズに似ていたが、嫌になるくらい大きくて、且つ美しかったという。
それは彼から引き離されると、意外に機敏な動きで地中に潜り込んでしまった。

身体表面に鋭い刺を持っていたらしく、彼は身体中傷だらけになっていた。
しばらく熱を出して寝込んだそうだ。

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痩せた犬

51 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :04/02/21 01:13
友人の話。

瀬戸内の小島に遊びに行った時のこと。
小高い山に蜜柑畑が連なっており、ひなびた雰囲気が好きな彼は、その中をのんびりと歩いていた。
内海が一望できる開けた場所で、荷物を枕に昼寝を始めたそうだ。

ふと気がつくと、彼の傍らで痩せた犬が一匹、尻尾を振っている。
頭を撫でてやると、犬は彼の手を舐めて鼻を鳴らした。
匂いを一頻り嗅いだ後、安心したように彼の側で横になる。
一人と一匹でそのまま転寝を始めたという。

目が覚めた。数時間も寝たろうか。
大きく伸びをして横を見ると、犬の姿は見えず、代わりに別の物が目に入った。
犬の白骨がすぐ横で、半分土に埋もれていた。
眼窩から伸び出たハルジオンが一輪、花を咲かせていたという。

なぜか怖いとは思わず、「犬も寂しかったのかな」などと考えたという。
骨に手を合わせてから、山を降りたのだそうだ。

『川で水を汲んでいた』
818 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :04/02/15 02:39
アメリカで山岳ガイドに聞いた話。

ある山岳国立公園でキャンプしていた時のこと。
川で水を汲んでいると、水中の手にかかる抵抗がいきなり増えた。
まるで手の周囲の水だけがゼリーにでもなったかのようだった。

次の瞬間、ゼリー状の水が腕を伝って身体に這い登り始めた。
酸でも噴いているのか、腕に痛みをおぼえる。
動転したガイドは、自分の腕ごと近くの焚き火に突っ込んだ。
軽い火傷と引き換えに、生きたゼリーを引き剥がすことに成功したのだという。
それはするすると動いて、川の中に流れ込み、見えなくなってしまった。

上手く捕まえてりゃ、俺の名前が残ったかもな。
そう言ってガイドは笑っていたそうだ。

湖の祭

819 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :04/02/15 02:40
アメリカで山岳ガイドに聞いた話。

あるインディアンの居留地になっている山の頂に、聖なる湖があるという。
その水は澄み切っているが、底が見えるほど浅くはない。

かつては年に一度、インディアンはこの湖で祭りを催していた。
祭りの夜になると、湖の底から光が射してきて、水が宝石のように輝いたそうだ。
輝く水面に娘たちが船を漕ぎ出し、贈り物を収めた籠を、水の中に静かに下ろしていく。
籠が水底につくと、やがて結ばれた紐が引っ張られる合図がある。
引き上げられた籠の中には、この土地では取れない品々が換わりに入っていたそうだ。
その後、湖に向かい感謝の意を込めて、夜を徹しての宴が開かれていたと伝わる。

もうこの祭りは行われておらず、何を交換していたのかも定かではない。
湖の底から光が射すこともなくなった、と言われている。
一体、彼らは何者相手に物々交換をしていたのだろうか。

後ろから声をかけられた

820 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :04/02/15 02:41
アメリカ人留学生から聞いた話。

彼の実家は、有名な大きい湖の近くにあるという。
黒い山に囲まれた小さな町なのだそうだ。
彼はそこで生まれ育ったのだが、子供の頃に不思議な物を見たらしい。

夕暮れ、幼い彼が家路を急いでいると、後ろから声をかけられた。
振り返ると奇妙な男が立っていた。
身体は普通の人間だったが、驚くことにその頭部はまるで蛙そっくりだった。
蛙男は湖までの道行きを尋ねてきた。
彼がおっかなびっくり教えると、丁寧に礼を言ってから歩き去ったのだという。

数日後、夕暮れにやはり同じ場所で、彼は再び呼び止められた。
振り返ってから彼は硬直したらしい。
今度の男は、蛇の頭部を持っていたのだ。
彼は蛇が苦手だった。
蛇男は「蛙に似た男を知らないか?」と、しゃがれた声で聞いてきた。
彼は思わず、蛙男が湖に向かったことを告げてしまう。
蛇男は軽く会釈をし、足早に暮れなずむ道の彼方へ消えていった。

思い出すと今でも、夢を見ていたのかなと思うのだそうだ。
それでも彼は、蛙男の小父さんが無事に逃げ切れたことを祈っているという。

サンダーバードにまつわる話

853 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :04/02/17 01:06
先輩の話。

アメリカに留学した時に、クラスメイトから聞いた話。
インディアンの伝説で、サンダーバードという怪鳥の話が伝わっているという。
色々とタイプがあるらしいが、級友の地元ではかなり気持ちの悪い姿だったらしい。
馬をさらえるほど大きく、羽毛の間から鱗が見えたのだそうだ。
切り立った高い岸壁の中腹に、その怪鳥は巣穴を作っていたという。

ある時、大学のロッククライミング部が、この穴を調べに登ったそうだ。
穴に達して、中を覗いた学生は言葉を失った。
動物の骨がうず高く積み重なっていたのだ。
どうやら伝説は本当だったらしい。

遺骨はよく知られた動物のものばかりであった。
その中には、人間のものもあったのだという。
しかし、巣穴の主の骨は見当たらなかった。

「もしかすると、今でもこの国の空を飛んでいたりするかもな」
そう言って、友人は話を締めくくったそうだ。

860 :サンダーバード関連?のコピペ:04/02/17 04:58
北米先住民による一般的な描写は、雷鳴、稲妻、大雨を起こす鷲に似た巨鳥。

ナヴァホ族の伝説には、雛鳥の餌にするために人間を攫った『絶壁の怪鳥』の言い伝え。

同じ様な話で、ミシシッピー上流域のイリニ族には、
大人の雄鹿をも鉤爪で易々と運び去れる程の巨大な、『人食い鳥ピアソー』の伝説がある。
ピアソーは村人を次々と攫っては、断崖の洞窟に運んで貪り食った。
何百人もの戦士が、何十年にも渡り入れ替わり立ち替わり退治しようとしたが失敗。
しかし、イリニの大酋長ワートゴ達の毒矢により、ついに退治された。
彼等はこの恐ろしい事件を、現場の絶壁に書き残す事にした。

1673年8月、マルケット神父とジョリエ神父の一行が、川下り中に絶壁の怪鳥の岩絵を発見。
岩絵は垂直の断崖の途中、25m前後の辺りに存在。
赤緑黒の3色で彫り込まれ、どれも長さ9m、高さ3m以上ある。

1839年には、先史文化研究家ジョン・ラッセル教授が2羽の絵を確認。
上記ピアソーの伝説を報告した人物でもある。
同教授は先住民2人と、ピアソーが人間を運んだとされる断崖中の洞窟に潜入した。
川面から20m近い高さにあり、形は不規則ながらも高さと幅は約6m、奥行きは約9m。
床面は白い人骨でぎっしりと埋め尽くされ、1m程ほっても地面には届かなかった。

その後、この付近の岸壁は採石場になるなどして、岩絵も1846~47には完全に消滅。
現在は戦いの現場付近の岸壁に、岩絵を復元した看板が吊り下げられている。

火の番

29 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2009/04/30(木) 18:57:34 ID:u3KG1eMV0
友人の話。

仲間何人かでキャンプに出かけた時のことだ。
夜も更けて他の者は寝入ってしまい、火の側に居るのは彼一人だった。
欠伸を噛み殺しながら、そろそろ火の始末をして俺も寝ようかな、などと考えていると、
覚えのない声が話しかけてきた。
「何しているんだい?」
顔を上げると、火を挟んだ向こう側に誰かが座っていた。
ぼんやりとしか見えない、大きな黒い影。視界に霞でも掛かったかのよう。
何故かその時は不思議とも怖いとも思わず、普通に返事をした。
「んー、火の番をしてる」
相手の正体は何者なのか、何でこんな時間にこんな場所に居るのか。
そういった類いの疑問がまったく頭に浮かばなかった。
先程まではシャンと起きていた筈なのに、寝惚けた時のように思考が上手く働かなかったという。
ぼんやりと、俺寝惚けているのかな、と考えているうち、また話しかけられた。
「その火が消えたらお前さんどうする?」
「んー、消えないよ」
「こんな山ン中じゃ、一寸先も見えない真っ暗闇だろうな」
「んー、この火が消えちゃったら、そうなるだろうね」
「闇は深いぞ。中に何が潜んでいるかわかったもんじゃないね」
「んー、暗いのは怖いよ。だから火の番をしなくちゃね」

30 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2009/04/30(木) 18:59:00 ID:u3KG1eMV0
声の主は、頻りと火を消すように勧めてきた。
「火の番なんか止めちゃえよ。もう眠いんだろ。寝ちゃえよぐっすりと」
「んー、そうしたいけど、そういう訳にも行かないんだよね」
「俺が消してやろうか?」
「んー、遠慮しとくよ」
「消すぞ」
「んー、でも直ぐまた点けるよ、暗いの嫌だから」
「一度消えた火は直ぐ点かないぞ。無駄だからもう寝ちゃえよ」
「んー、ライターもあるし、火種があれば直ぐ点くよ」
「ライターか。それがあれば直ぐに火が点くのか」
「んー、点くと思うよ。簡単に山火事になるぐらい」

すると声は、ライターを無心し始めた。
「火が消えないならライターなんてもう要らないだろ。俺にくれよ」
「んー、これは大切な物だから駄目だよ」
「俺が代わりに火を見ててやるよ。だからライターくれよ」
「んー、僕のじゃないから、やっぱり駄目だよ」

こんな押し問答を何度くり返しただろうか。
やがて影がゆらりと立ち上がる気配がした。
「火が消えないんじゃしょうがないな。帰るとするか。また遊ぼう」
その言葉を最後に、何かが山の闇の中へ去って行った。

31 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2009/04/30(木) 19:00:43 ID:u3KG1eMV0
「ばいばい」
小さくなる気配にそう挨拶していると、いきなり強く揺さ振られた。
ハッとして身構えると、揺すっていたのは先に寝ていた筈の仲間だ。
目が合うや否や、凄い勢いで問い質される。
「お前!今一体何と話してた!?」
「何とって・・・あれ?」
そこでようやっと思考がはっきりし、明瞭にものが考えられるようになる。
「えっ今、僕、何かと会話してたの!? 夢見てたんじゃなくて!?」
気が付くと残りの皆もテントから顔を出し、こちらを恐ろし気に見つめている。
彼を揺すり起こした者が、次のように教えてくれた。

曰く、テントの外で話し声がしたので目が覚めた。
夜中に迷惑なヤツだと思い、テント中の寝顔を確認してから青くなった。
人数から判断する限り、今外には一人しか出ていない筈だ。
恐る恐る外を覗くと、焚き火を挟んで座る影が二つ。
片方は間違いなく友人だったが、もう一方が何かわからない。
人の形をした、黒い塊に見えたらしい。
友人と影は、何度もしつこいくらいに言葉を交わしていた。
どうやら、火を消す、消さないで揉めている様子。
絶対に消すんじゃないぞ!
声に出せない願いを胸中で叫んでいると、じきに影は立ち上がり山奥へ消えた。

32 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2009/04/30(木) 19:01:33 ID:u3KG1eMV0
いつの間にか他の皆も起き出しており、背後で息を殺していた。
影がいなくなった時、テントの中では安堵の溜め息が重なったそうだ。
その直後慌てて外に飛び出し、憑かれたように火を見つめる友人を引っ掴んで、
ひどく揺すって目を覚まさせたのだと、そう言われた。

思わず、影が消え去った方角の闇をじっと見つめてしまった。
何も動く気配はない。足元で薪の爆ぜる音が聞こえるだけだった。

その後彼らは、その山を下りるまで絶対に火を絶やさないよう心掛けた。
不寝番を二人立てて、火の番を交代でしたのだという。
その甲斐あってかその後、あの黒い影はもう現れなかったそうだ。

「僕はあの時、何と会話していたのかな?」
思い出すと今でも鳥肌が立つのだそうだ。

白い雑種犬

673 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :04/08/17 00:46 ID:xes23ovJ
知り合いの話。

仕事でイギリスに出張した際、現地の同僚から変わった話を聞いたという。

その同僚がまだ幼い頃、彼の家では犬を飼っていたそうだ。
実家の山村からもらった、白い雑種犬だった。
色々と変わった所のある犬だったらしい。
普通、犬猫の類いは、目を見つめるとすぐに視線を逸らす。
好奇心や注意が続かないためらしいが、その犬はじっと見つめ返してきた。
根負けして視線を外すのは、いつも彼の方だったという。

ある日、身体の調子が悪く、学校からいつもより早く帰宅した。
門を潜り庭を歩いていると、いつもは彼を迎える犬が出てこない。
どうしたのかな?と思い、犬の名前を呼びながら犬小屋を覗いてみた。
愛犬の姿は見当たらず、小屋の床には何か毛のような物が堆積していた。

674 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :04/08/17 00:46 ID:xes23ovJ
持ち上げてみて、思わず悲鳴を上げる。
それは可愛がっていた犬の毛皮だったのだ。
悪い冗談のように目と口が黒い穴を開けており、微かに温もりが残されていた。

ショックで泣き喚きながら、母屋へと駆け込んだ。
驚きながら迎えてくれた母親に、「犬が剥かれちゃった」と訴えた。
慌てて外に出ようとする母子に、「バウッ!」という吠え声がかけられた。
見ると、玄関のすぐ外に犬が座り込んで、尻尾を振りまくっていた。
犬は激しく息を弾ませていた。まるで慌てて駆け戻ってきたかのように。
それを見た母親が、「嘘を吐くのもいい加減にしなさい」と説教をする。
いくら「本当に見たんだ!」と言っても、もう相手にされない。

奥に引っ込んだ母親を恨めしく思いながら、彼は犬の前にしゃがんだ。
いつもは目を逸らさない犬が、その時だけはツッと余所を向いた。

675 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :04/08/17 00:48 ID:xes23ovJ
こいつめ、謀りやがって。
腹立ちまぎれに、頭を強くクシャクシャにしてやったという。
犬は機嫌を取るように、その手をペロリと舐めてきた。

「俺が思うに、あいつは時々毛皮を脱いで、何かしていたんだな。
 結局、現場は押さえられなかったけど」
犬は彼が大学に入学する年、フイッと姿を消してそれきりだそうだ。

「あんな犬でも、いなくなると寂しいよ」
そう言っていたという。

※続きは随時更新します。

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