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出来損ない
∧∧∧山にまつわる怖い話Part13∧∧∧
359 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :04/10/02 23:38:42 ID:UXyuxyzL
友人の話。
彼の実家の山村では、時々おかしな存在が出たという。
それは、村の衆から『出来損ない』と呼ばれていた。
炭焼きをしていた彼の祖父も、『出来損ない』を見たことがあるという。
薪の山のすぐ横を、灰色の兎のようなものが駆け抜けたのだと。
それは確かに兎の耳と胴体を持っていたが、決して兎ではなかった。
その頭部には目も口もなく、その身体を動かしていたのは黒い蟋蟀の脚だった。
その後も小屋の近くで何度か見かけたそうだが、その度に段々と本物の兎らしくなっていったのだそうだ。
『出来損ない』の正体は誰も知らなかったが、
「おそらく山の動物を真似しているのだろう」と村では言われていた。
まれに、人間を真似しようとした出来損ないが出たらしい。
そうなると、しばらくは誰も山に入れなかったそうだ。
過去に人間に化けた何かが出たことがあるのだろうか。
今は炭焼きや猟をする人もおらず、『出来損ない』がまだいるのかはわからない。
柿が落ちる音
234 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2011/06/16(木) 19:20:34.94 ID:su66lpZA0
友人の話。
幼い頃、山中の実家へ遊びに行った時のこと。
祖父と一緒に庭で竹馬に挑戦していると、不意に背後で異音がした。
べしゃりっ
振り向いてみたが、何も黒土の上には確認できなかった。
気を取り直して竹馬に取り組み直したが、しばらくするとまた同じ音が聞こえた。
何度も聞こえると流石に無視出来なくなり、祖父に「変な音がする」と訴えた。
「ありゃよく熟れた柿が落ちる音だ。心配要らん。
お前は聞いたことがないから知らんだろうが、儂には懐かしい音でな」
祖父はあっさりとそう答えた。
235 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2011/06/16(木) 19:21:52.64 ID:su66lpZA0
そして庭の一角を指し示す。
「ほら、あすこに切り株があるだろう。
昔はでかい柿の木が生えていたんだ。
虫や病でボロボロになったんでな、何年か前に切り倒したんだよ。
でも何故かそれからも、柿の実が落ちる音だけは聞こえ続けてる。
柿の季節でもないのに音がするところを見ると、柿も迷っているのかもな」
迷っているって?
「成仏できてないってことだ。
耳がないから、ありがたい御経も届かんのかもしれん」
成人した今でも時々、べしゃりっという音を聞くと彼は言っていた。
山から降りてくるもの
∧∧∧山にまつわる怖い話Part17∧∧∧
170 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :05/01/15 17:50:04 ID:l0hAfHKp
知り合いの話。
山裾で土木工事に従事していた時のこと。
現場に入る前、監督員におかしなことを言われたのだという。
「山から小僧が降りてきたら、その日はもう帰れ」
小僧とは何かと聞くと、見れば分かるとだけ答えられた。
そんなことより、帰る時にはどんなに慌てていても、機械の管理を忘れないようにと、念を押して注意された。
何なんだろうとは思ったが、深く考えずに了承したのだという。
彼はその現場が終わるまでに、結局2回小僧を目にしたそうだ。
その時になって、初めて監督員の言葉が理解でき、慌てて撤収したのだと。
「小僧って何だったんだ?」という私の問いには答えず、彼はこう繰り返すのみ。
「洒落にならねえ。真っ赤でグズグズなんだよ。ブラブラだし」
とにかく精神衛生上、まったく良くないものだったらしい。
以来、彼は現場に入る時は、前任の人によく話を聞くようになったという。
樹海を車で走っていた
344 :雷鳥一号 ◆jgxp0RiZOM @\(^o^)/:2014/04/16(水) 19:29:55.33 ID:UWHOj+6M0.net
知り合いの話。
真夜中に、ある樹海を車で走っていた時のことだ。
行く手の闇の中、何か白い物が立っているのが遠目に見えた。
何だろうと思いながら、ぶつからないよう車を反対側に寄せる。
ヘッドライトに浮かび上がったのは、ウェディングドレスの女性だった。
上から下まで真っ白で、美人だが無表情だったらしい。
ギョッとしてスピードを落としたところ、二人の目が合った。
次の瞬間、女性はニヤリという笑みを浮かべた。
とても怖い笑顔だったという。
慌ててアクセルを踏み込み、傍を走り抜ける。
バックミラーには、かなりの高速で後をついてくる白い影が映っていた。
追い付かれたらどうなるのか、もうそれが怖くてたまらず、必死で逃げたという。
樹海を出る頃、背後の白い影はようやっと見えなくなった。
それ以来、彼はそこの道を絶対に走らないと決めたそうだ。
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山のペンション
780 :雷鳥一号 ◆jgxp0RiZOM @\(^o^)/:2015/04/18(土) 19:20:57.72 ID:vHwuCmsA0.net
知り合いの話。
家族で山のペンションに泊まった時のこと。
夜中、先に休ませたはずの娘が寝室から出てきた。
「どうしたの? おトイレ?」
そう彼女が尋ねると、まだ幼かった娘さんは困った顔で答えた。
「あのね、入れておくれって言うの。
でも、私じゃ窓の鍵に手が届かないの」
娘が何を言っているのかすぐにはわからなかったが、その内容を理解するや否や
「誰がそんなこと言ってるの!?」と聞き返す。
「えっと、角のあるお姉さんが窓を叩いてね、そう言うの」
慌てて夫を呼ぶと、二人一緒に寝室へ入り、窓を見た。
何か白い影が一瞬見えたが、あっという間に見えなくなる。
夫は彼女に娘を預け、一人外を確認しに行った。
やがて首を傾げながら戻ってくる。
「誰の姿も、足跡も見つからないよ。
建物周りは砂利が敷いてあるから、逃げたところで痕跡が残る筈なんだけど。
そう言えば、足音なんかもまったく聞こえなかったなぁ」
その後は何も怪しいことは起こらなかった。
しかしそこを後にするまで、どうにも落ち着かなかったという。
田植えをしていた
487 :雷鳥一号 ◆jgxp0RiZOM:2013/10/15(火) 19:23:14.36 ID:X/22lcU/0
友人の話。
山の棚田で田植えをしていた時、足を取られて転倒した。
体勢を持ち直そうとしたが叶わず、顔から泥に突っ込んでしまう。
次の瞬間、上空から棚田を見下ろしていたのだという。
いきなり切り替わった視点に驚いていると、真下の棚田に倒れ込んだ男が見えた。
転けた自分だった。
理由はわからないがヤバイと感じ、必死で体に戻ろうと念じていたら、視界が真っ暗になり息が出来なくなる。
顔が泥から出て、やっと自分が元の身体に戻れたことに気が付いたそうだ。
「俺ってあの時、幽体離脱でもしていたのかな?」
彼は不思議そうにそう言っていた。
秋の山で単独行していた
814 :雷鳥一号 ◆jgxp0RiZOM:2013/11/28(木) 18:39:40.55 ID:cqoM1j4y0
山仲間の話。
秋の山で単独行していた時のこと。
夜、焚き火の前に座っていると、突然猛烈な吐き気に襲われた。
とても堪らず夕食に食べた物すべて、盛大に地面の上に吐き戻してしまう。
嘔吐き終わると、吐き気は嘘のように消え去った。
大きく息を吐いて安堵していると、背後の藪から声がする。
「あ~、すっきりした」
慌てて藪の中を確認したが、そこには誰の姿も見つけられなかった。
その夜は落ち着かないまま過ごし、朝を迎えたのだという。
815 :雷鳥一号 ◆jgxp0RiZOM:2013/11/28(木) 18:40:38.52 ID:cqoM1j4y0
次の夜、昨晩のことを思い出しながらそこはかとなく不安になっていると。
背後で何者かの気配が沸いた。
振り返るよりも早く、背筋を電気が走り抜ける。
凄まじい快感が彼に襲い掛かったのだ。
「!!!!!」
声にならない叫びを上げて、意識がブツリと途切れる。
気が付けば、テントの前で俯せに倒れていた。
短い時間だが失神していたらしい。
しばらく立ち上がることが出来なかったそうだ。
「おれいね」
何処からかそんな声が届いたが、気にする余裕もなかったという。
「凄かった……本当に凄かった。
今も思い出そうとするだけで、色々と大変なことになりそうなんだ。
……下着とズボンを川で洗う羽目になったのは哀しかったけど」
切なそうにそう語る彼の前で、私は一体どんな顔をしていたのか。
今でもそれが気になって仕方ない。
豪邸の犬小屋
百物語2015 本スレ http://toro.2ch.sc/test/read.cgi/occult/1440842362/
285 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ @\(^o^)/:2015/08/30(日) 04:28:07.71 ID:AgCPeYID0.net
【83話】雷鳥一号 ◆jgxp0RiZOM 様
『豪邸の犬小屋』
顔馴染みから聞いた話。
彼の家の前には、ものすごい豪邸があるらしい。
そこの庭の一角に、これまた豪華な犬小屋が置かれている。
ちょっと前まで立派な犬がいたのだが、今は死んでしまったのか、何もいない。
ある寝苦しい夜、ボンヤリとそこの庭を眺めていると、何やら動く影が見えた。
芝生の上を大きな物がうろうろしている。
どう見ても、四つん這いになった人の影だった。
息を殺してみていると、やがて影は犬小屋の中へ入っていった。
それからすぐに、母屋から人が出てきた。顔見知りの住人だ。
懐中電灯で足元を照らしながら、犬小屋の方へ向かっている。
小屋の前まで辿り着くと、電灯の光をその中へ向けた。
犬小屋の中には、何の姿も見えなかった。
彼の目線からでも、空っぽの小屋内が見えたのだという。
彼が見ていた間に、犬小屋から出ていったものは無い。
さっき入っていった影は、宙に溶けるように消えていた。
住人は首を傾げながら、母屋へ帰っていく。
彼はそこでカーテンを閉め、それ以上庭が見えないようにしたのだという。
その後、何度かその住人と顔を合わし会話をしたが、
あの夜の影については、結局聞けていないままなのだそうだ。
旧校舎の肝試し
264 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ @\(^o^)/:2015/08/30(日) 04:00:49.18 ID:AgCPeYID0.net
【76話】雷鳥一号 ◆jgxp0RiZOM 様
『旧校舎の肝試し』
友人の話。
学生時代の夏休み、取り壊される予定の旧校舎で肝試しをしたのだという。
学校からかなりうるさく言われたので、かっちりとした計画を立て、
使用許可もちゃんと出して、スケジュール通り執り行った。
イベント自体は何も起こらず無事に終了したのだが、校舎から出た途端、
先生方が怒りながら飛んできた。
「こんな時間までどこで何やってた!?」
時計を見ると、もう少しで日が変わる刻限になっていた。
おかしい。
計画ではどんなに遅くとも、21時までには終了する予定だったのだが。
265 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ @\(^o^)/:2015/08/30(日) 04:01:38.32 ID:AgCPeYID0.net
先生方が言うには、帰りが遅いので心配し、旧校舎内を確認したのだが、
誰一人として姿が見つからなかったと。
さては連絡もせずに帰ったかと家に電話をすると、まだ誰も帰っていない
と言われたので、手分けをして探していたのだという。
しかし彼らは旧校舎からは出ていない。
彼ら生徒たちの腕時計は、皆揃ったように五時間以上遅れた時刻を指していた。
「結局、俺たちが時間を忘れて遅くなったという仕舞をつけられてさ。
親にも学校にもえらく怒られたよ。
でも、警察の人にまで怒られたのは困ったなぁ。
あの人たち、マジに怖いんだもん」
彼はそう言うと肩を竦めた。
登山者の遺体
465 : 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2013/01/07(月) 19:40:10.44 ID:1KGRDduZ0
山仲間の話。
地元の里山を歩いていると、登山者の遺体を見つけてしまった。
慌てて通報し、警察へと引き渡した。
後日「奇妙な点がある」と言って、警察が再び彼の元を訪れた。
件の登山者の死因だが、どうも滑落による墜落死であると判断されたのだという。
しかし遺体が見つかった所は、だだっ広くてなだらかな野原だった。
近くに滑り落ちてくるような高所など見当たらない。
どうやら彼は「死因に何かしら関係があるのでは?」と疑われていたらしい。
とはいえ、彼と死んでいた登山者とは何の関係もなく、面識さえなかった。
しつこく調べられたが、結局この件は事故死として処理されたのだそうだ。
「死んだ人って他県の人だったらしいんだけど、一体どこから落ちたんだろう?」
疑いが晴れてホッとした様子の彼は、不思議そうにそう言った。
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山小屋の解体撤去
604 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2013/01/12(土) 20:34:35.87 ID:wGmrCVnW0
仕事仲間の話。
以前仕事で、とある山小屋の解体撤去を請負った。
使われなくなって久しい小さな家屋だったらしい。
幸い近くまで車両が入れたので、作業自体は思ったより楽だった。
「ただ扉や窓が、何処も彼処も板で打ち付けてしっかりと固定されていたんで、それがちょっと厄介だったな。
でも妙なことに、そのすべてが内側から打ち付けてあったんだよ。
見たところ他に出入り出来るような箇所も無かったんだけど……。
いや、床板も室内から釘で止めてあったから、そっちからも出られない。
戸締まりしたヤツ、一体どこから出て行ったんだろうな?」
訝しく思いはしたが、施主がこの話題を嫌がる雰囲気だったので、それ以上詳しくは聞かなかったそうだ。
スクールバス
646 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2012/07/30(月) 20:01:46.95 ID:83pSmRyW0
アメリカで聞いた話。
アメリカでは、子供の通学にはスクールバスが利用されているのだそうだ。
この話をしてくれた彼の家は山中の農場で、
バスストップは近場にあるものの、そこから乗降している子供は、彼を含めて僅かだったらしい。
その日の朝、バスを待っているのは彼一人だけだった。
他の子らは体調でも崩したのだろうか、誰も来ない。
落ち着かない気持ちで待っていると、道向こうからバスが来るのが見えた。
車が近づいてくるにつれ、違和感が彼を襲う。
この路線のバスは最近新調されていて、それが気に入っていたのだが――。
今こちらに向かってくるバスは、どう見てもボロボロに錆びているのだ。
というか、どう見てもスクラップ寸前の廃棄バスにしか見えない。
明らかにいつも利用している車両ではなかった。
やがてバスは彼の目の前で停車し、扉が開いた。
車の中から、物が腐ったような嫌な匂いが漂ってくる。
黒ずんだ座席には、子供は一人として乗っていない。
647 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2012/07/30(月) 20:05:06.90 ID:83pSmRyW0
どうしようもなく不安になって、乗り込まずに運転席の方へ廻ってみた。
運転席は無人だった。
悲鳴を押し殺して、後退りしながらゆっくりとバスから離れた。
やがてドアが閉まり、バスは遠くへ去って行ったという。
それからすぐに、いつものスクールバスがやって来たそうだ。
彼は自分の見たバスのことを大人に話したが、誰も真面目に取り合ってはくれなかった。
「しばらくの間、一人でバスを待つのが苦痛になったよ」と、
大人になった彼は苦笑しながらそう言っていた。
竹藪
737 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2012/08/03(金) 20:16:15.80 ID:9p1uHgAq0
友人の話。
彼は毎年、地元で開かれる夏祭りに参加しているのだが、その祭りでは鬼の役をすることが多いのだそうだ。
鬼というのは子供を怖がらせて泣かせる役割で、赤い服と天狗の面を付けて、太い竹の棍棒を持っている。
竹は先を細かく割り、地面を叩いて子供を威嚇するのに使うが、
ある程度の太さがないと良い音も出ないし、壊れてしまうのも早いという。
去年、その竹がついに壊れてしまったということで、
今年は新しく切り出して作り直そうという話になり、祭り仲間達に良い竹がある場所を聞いてみた。
「いつも通り、○○水源地の竹で良いんじゃないか?」
「あそこは今どんどん伐採されてるから、太い竹は殆どないよ」
「□□さん宅の竹林は?」
「駄目。工事でこの前重機入れたから、かなり削られてるし」
「此処だけの話、演習場の奥にある竹が、本当に立派で良いんだけどなぁ」
「あそこは止めとけ、止めてくれ。撃たれるから」
ガヤガヤと半分楽しみながら打合せをしていると、ふと思い出した。
「××山にさ、先が行き止まりになってる細い山道があるじゃない。
その一番奥のドン詰まりに、目立たないけど竹藪があったよ。
あそこの竹はどうかな? 確か結構太かったと思う」
738 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2012/08/03(金) 20:19:35.10 ID:9p1uHgAq0
最近仕事した現場近くの竹を思い浮かべながら、そう提案してみる。
しかし、昔のことに詳しい幾人かが、渋い顔をして否定した。
「あそこのは駄目だ。祟るから」
口々にそんなことを言う。
聞けば、そこの竹を切り倒すと、切った者には何もないが、その家族に散々悪いことが起こっていたのだそうだ。
「死ぬってことはなかったらしいけど、家族に障りがあるのは厭だろ」
それはそうだ。
彼自身はあまりそういうことは信じていないみたいだが、それでもわざわざ自分から地雷を踏みに行くような性格でもない。
結局、伝を頼って別の竹藪を紹介してもらい、そこの竹を使用したそうだ。
呼ぶ女
429 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2012/07/21(土) 20:11:16.84 ID:gMq9PSoY0
アメリカで聞いた話。
山深い森林で鹿狩りをしていると、何処からともなく甲高い声が聞こえた。
「ハーイ」と人を呼ぶ声で、女性のもののように思えた。
同行していた仲間が、「出会しちまった」と顔を顰める。
声の主を知っているのかと聞くと、次のように言われたそうだ。
「これは、ここいらのインディアンから、『呼ぶ女』って呼ばれているモノの声だ。
もっとも女なのは首から上だけで、身体は鹿とか馬とかの姿をしているらしいがな。
インディアンにはインディアンの言葉で、白人には白人の言葉で呼びかけるらしい。
厭なことに、こいつは実は人を呼んでるんじゃなくて、人に狙われている動物に 注意を呼びかけてるって言われてるんだ。
だから、この女の声が聞こえたら、もう獲物は捕れないってよ」
その言葉通り、その日は結局、鹿を目にすることさえ出来なかった。
夕方になり、彼らが帰途についた時も、声はまだ聞こえていたそうだ。
夢の蛇
576 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2012/07/27(金) 19:53:33.92 ID:alRUP7m90
知り合いの話。
アメリカでインディアンの居留地にステイしていた時、腹痛に襲われたという。
とんでもない激痛で、身体を動かすことも適わなくなり、危篤状態にまでなったのだが、
現地の呪医が処方してくれた薬が劇的に効き、無事一命を取り留めたそうだ。
薬が効いている間は体中の感覚がなくなり、同時に痛みも感じなくなったという。
しかし奇妙な事に、寝ている自分を真上から見下ろしたり、建物の屋根をすり抜けてから空を飛んだりした記憶がある。
いやにくっきり、はっきりと。
呪医が言うには、この薬は体と心を切り離してから、患部を強烈に治す働きがあるのだと。
要するに、副作用として幽体離脱してしまう薬だったらしい。
回復後に、お礼の日本酒を持参して呪医を訪ね、薬の話をもっと詳しく聞いてみた。
それによると、とある森に棲まう、角の生えた大蛇から採取した薬だという。
「夢の蛇」と呼ばれるこの蛇は、呪医自身が魔法の歌を唄って森から呼ぶというのだが、
大層音楽の好みにうるさいようで、歌が気に入らないと姿を現さないのそうだ。
因みに上手く呼べる確率は、これまでの経験では十回に一回程度らしい。
歌が気に入ると森の中から出てきて、角を大人しく削らせてくれるのだと。
しかし歌が途切れると、蛇はこちらに興味をなくしたような様子になり、すぐさま姿を隠してしまうので、
削る間は必死で歌い続けなければならないそうだ。
「お前に処方した薬は、その角の粉末を使っているのだ」と言われた。
「今はもう滅多に入手できないから、ありがたく蛇と私に感謝しなさい」とも。
彼も負けずに、「この酒も滅多に入手できない、高価なものなんですよ」と言い包め、
皆で仲良く酒盛りを楽しんだのだという。
ヤカン
271 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2012/07/17(火) 17:12:37.99 ID:3ET3dz9+0
知り合いの話。
夕暮れの山道を下山していると、背後より何かが大きな音を立てて迫ってきた。
振り向いて見ると、ガラガラと騒がしく、薬罐が転がってくる。
「何でヤカンがこんな山中に?」
疑問に思っていると、薬罐は狙ったかのように、彼の足下でピタッと止まった。
じっと見ていると、どうしてか、目の前のそれを思いっ切り蹴飛ばしたくなった。
足を振り上げて、ハッと我に返る。
「いやいや蹴っちゃいかんだろ、落とした人が追って来ているかもしれんし」
頭を振り振り、拾い上げようと足下に手を伸ばす。
次の瞬間、薬罐は男の生首に変化していた。
口から赤い筋が垂れていて、恨めしそうに彼を睨んでいる。
「惜しかった」
首はそれだけを口にしてから、すぅっと消えてしまった。
一人だけ
272 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2012/07/17(火) 17:16:11.49 ID:3ET3dz9+0
知り合いの話。
仲間三人で、雪山に篭もっていた時のこと。
テントを畳んでいると、誰かが耳元で囁いてきた。
「・・・一人だけ・・・帰れるのは一人だけ・・・」
周りには仲間以外誰もいない。気のせいだと思い、忘れることにした。
その夜から天候が悪化し、吹雪に閉じこめられてしまう。
吹雪は一向に止まず、食糧も尽きた。
しかし皆、何とか生き長らえ、全員無事で下山したのだという。
その後一年の間に、彼以外の二人は、不慮の事故で死んでしまった。
「事故だって、偶然だってわかってはいるけどね。
あの幻聴が気になって仕方ないんだよ」
あれ以来、彼はスッパリと山を止めてしまったそうだ。
ビーバー
273 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2012/07/17(火) 17:20:16.60 ID:3ET3dz9+0
アメリカで聞いた話。
静かな湖畔の森を歩いていると、どこからともなく美しい歌声が聞こえてきた。
「一体誰がこんなに美しい歌声を出しているんだろう?」
そう思い、湖の周りを探してみた。
繁みを掻き分けていくと、大きなビーバーが水辺に見えた。
歌声に併せるように、気持ち良さ気に身体を揺らしている。
まるでビーバーが歌っているかのような気がして、驚いて小声を出してしまった。
途端、歌声は止まり、ビーバーが振り向いた。
ビーバーはしばらくこちらと見つめ合ったが、やがて苦笑としか思えない、
やけに人間くさい表情を浮かべ、水の中へ姿を消したという。
もう何処からも、あの美しい歌は聞こえなかった。
※続きは随時更新します。