ホラー

【洒落怖】ソンチョ

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ソンチョ(後日談)

原著作者「怖い話投稿:ホラーテラー」「とくめいさん」 2011/01/22 22:18

ソンチョは一週間ほどで退院した。
「まだな、胸に糸が縫われとるんよ。見てみ、これが糸じゃ。これ、しばらくしたら抜きとるらしいぞ」
「この糸抜くんか?それは痛いじゃろなぁ。
 しかし、傷でかいなぁ。ソンチョはサクッと切ったんじゃな。血ぃとかすごかっただろ?」
「自分でもようよう覚えとる。包丁でザックリいったんじゃあの時。痛かったな~」
そりゃ自分で切ったんだから覚えとるじゃろと、その時はもう武勇伝というか笑い話。
ホントは二,三日で退院できるぐらいの浅い傷だったそうだ。
でも頭おかしくなってるかもしれんからと、ソンチョの母親が心配して入院させてたらしい。
入院というよりは、様子見と言うべきだろう。
「ひどいかあちゃんじゃろ。自分の子供に向かって、頭おかしくなってるかもしれんて」
「さすが、ソンチョのかあちゃんじゃ。思ってもなかなかそんなこと言えんぞ」
「病院はヒマで死にそうだったわ。探険もできんのじゃ。歩きまわると、お医者様が『傷口開くぞ』って脅すんよ」
「それは怖いな」
田んぼの排水溝でザリガニ釣りしながら、そんな話をしていた。
久しぶりにソンチョと遊べるもんだから、嬉しくて嬉しくて。

「あとな、あの神社のことだけど」
「なんかわかったの?」
「何もわからん。ジジイだけじゃなくてババにも聞いたけど、神社なんて知らんて。
 とうちゃんとかあちゃんにも聞いたけど、やっぱりそんな神社知らんて」
「ソンチョのジジババがわかんないなら、わかんないんだろなぁ。神社の話、どこまでしたん?」
「俺達があの神社に行ったことは言うてないよ。
 だから、友達から聞いたんじゃけど、あの山に神社ってあんの?って感じかな。
 別になぁ、ジジイもババも隠すそぶりとかしてないからなぁ。
 危ないから探すなとも言わんし、神社あるならお参り行かんとなとかほざきよる。ホンットに知らんようじゃ」
「俺のジジババはもう死んどるからなぁ。わからずじまいかなぁ」
「八方塞がりじゃ。にっちもさっちもいかんことを、八方塞がりと言うらしい」
「じゃ、今の俺達は八方塞がりじゃ」
その日はソンチョの退院翌日だったから、大事をとって走り回る遊びはしなかった。
でも、ソンチョが我慢できなくなって「木のぼりぐらいええじゃろ」だったから、公園に行ったのは間違いだったかな。

「夏休みのうちに退院できてよかったな」
「全然よくない。プール入ったらダメなんじゃ。プール入ったら死ぬって」
「そりゃそうじゃ。胸がパカッといってしもてるんじゃから」
その日はホントに楽しかった。
暗くなるまで遊びたかったが、「かあちゃんが今日だけは早く帰って来いって」と、
夕方早々にソンチョとしぶしぶ帰路についた。
そしていつもの電柱の下でバイバイした。
「じゃあ、また明日な。明日はめいっぱい遊ぼな」

その日の晩。俺は意外な人物から、あの神社について聞くことになる。
とうちゃんの帰りが早かったから夕ご飯を家族みんなで食べて、その日はかあちゃんも酒を飲んでほろ酔いになっていた。
とうちゃんは早々に寝てしまい、弟もみんな布団に入った頃だ。
茶の間にはかあちゃんと俺の二人だ。母ちゃんは自家製の梅酒を飲みながら、俺と一緒にテレビを観ていた。
「なぁ、肩たたきしてよ」
「なんでじゃ。俺、もうそんな子供と違うじゃろ」
「ええじゃろが。かあちゃんも疲れとるんよ。お願いします~」
「しゃあないな。すっかり酔っ払いやんけ。今日だけじゃ」
普段は頼まれても絶対にしないが、その日はソンチョと遊んで気分が良かったから、
トントンとかあちゃんの肩を叩いてやった。
本当に何気なく、肩をたたきながらかあちゃんに尋ねた。
「なぁなぁ、あの山に神社ってあんのか?」
これでかあちゃんに聞くのは二度目だった。一度は知らないと言われたから、別に期待もしていなかった。
「山ん中にか?そりゃ、ないじゃろ。聞いたことないって。ホントに神社なんてあんのんか」
「やっぱり、そうだよなぁ。友達がある言うてたから」
「そなら、今度お参り行かんとなぁ。
 …あの山の怖い話、しちゃろか。おまつりって話じゃ。知らんじゃろ」
ビクッと、俺は肩をたたく手を止めてしまった。おまつりって。あの、おまつりか?
「ちょっと、ちゃんと肩たたきぃよ」
「あぁ、ゴメン。どんな話じゃ、おまつりって。縁日か何かか」
「縁日のどこが怖いんじゃ。
 かあちゃんがな、かあちゃんのひいじいちゃんに聞いた話じゃ。だから、お前にとってはひいひいじいちゃんじゃ」
平静を装って肩をたたいていたが、心臓はバクバク鳴っていた。
神社は知らんのに、あの神社にあった『おまつり』は知ってるのか?
「どんな話じゃ」
「これな、ホントに怖いから。
 お前は臆病だし、まだまだチビッコ思ってたから話したことなかったけど、来年はお前ももう中学生じゃ。
 怖がらずに最後まで聞いてみ。あ、肩、もういいよ」
そう言われて、俺はちゃぶ台をはさんでかあちゃんの対面に座りなおした。
自分がその時どんな顔してるかわからなかった。
いつものかあちゃんなら俺が怖がってるのに気付いただろうが、
その時は都合よく酔っぱらってたから、話を聞くことができた。
「最初に言うとくけど、この話はかなりエグイぞ。
 ○○(←俺の弟)にしたら大泣き確実じゃ。だから、お前も面白がってこの話はすんなよ」

ここからがかあちゃんの話の本題。話し言葉だと伝わりにくいと思うから、改めて文章で書き直す。

昔、この村には『まつり』と呼ばれる村の長がいた。
正確にはその村の長が『まつり』と呼ばれるのではなく、村の長の一族全体を指して『まつりの一族』だったらしい。
まつりはその土地の治安自治の他に、もうひとつ役割をもっていた。
それは、今で言えば葬儀人。村で死者が出た時に、成仏できるように式典を行っていた。
『まつり』と呼ばれる所以はそれだった。
『末に至り』を『末り』と言い、葬式、つまり祭典を行うことの『祭り』であり、神仏を祀る『祀り』であった。

ある時、まつりの長男が急死してしまった。原因はわからない。
いずれは次代の長になるであろう、たくましく人望厚い青年だった。
その時の村の長を務めていた父親は、どうしても長男の死を認めることができなかった。父親は長男を溺愛していたのだ。
しかし、まつりの一族である以上、長男の葬儀は自分たちで行わなければならない。
死んで次第に蒼くなっていく長男の化粧をしながら、父親は悲しみに支配された。
そうして父親がとった行動は信じられないものだった。
我が子であるその長男を食ったのだ。
煮たのか、焼いたのか、それとも生で食ったのかはわからないが、長男の全身をついばんだのだ。
そして父親は、それを隠すことも無かった。
一族を集め、みなの前でこう言ったのだ。
「人肉の、なんと美味たることか。腕も美味い。足も美味い。腹も胸も、顔も美味い。
 しかし、心臓の美味たることにはかなわない。この心臓より美味いものは無い。
 私は息子の命を喰った。しかし、死した長男の生命は、今も私の中で脈打っているのがわかる。
 お前たちも食え。長男の魂が、自分の体に宿るのがはっきりわかるだろう」
まつりの他の者は驚いたが、長男の死に悲しみ暮れる者は父親だけではなかった。
最初に母親が、次に長男の妻が、姉が、次男が、子供が、死んだ長男の肉を食った。
そして、食った者はこう言うのだ。
「人肉の、なんと美味たることか。腕も美味い。足も美味い。腹も胸も、顔も美味い。
 しかし、心臓の美味たることにはかなわない。この心臓より美味いものは無い」

それからまつりの一族は、家族で死者がでると、その亡骸を喰らうようになった。
しかし、人肉食いたさに人を殺すことは決して無かった。
死者を食らう以外は正気だったし、
むしろ、村人に死者が出ると自分たちが食べるのではなく、その家族に死んだ者を食べるように勧めた。
最初は気味悪がっていた村人も、死者を食べたまつりの一族が若々しく、活力に溢れ、たくましくなったのを目にすると、
勧められたとおりに死んだ家族を食べるようになった。
するとどうだ。
これまで病気がちだった者も体が丈夫になり、若い男は巨躯の体に、若い女は美しく、年老いた老人も若若しくなった。
まつりの一族だけでなく、村人皆がこう考えるようになった。
死んだ者の生命をもらうのだ。それには、心臓を喰らうのが一番良い。心臓にかなう肉はない。
腕や脚は食べなくても、心臓だけは皆食べた。

しかし、この風習は長くは続かなかった。
どこから来たのか、ある一家族、いや一族が村に移住してきた。
この一族が、死者を喰らう村の風習を見てこう言い放ったのだ。
「死者をもう一度殺すとはなんと罰あたりな。一度命を落とし、いま天に昇ろうとする者の命を喰らうとは。
 死者を殺す以上の罪は無い。鬼の所業だ」
狂気の沙汰を失えば、これこそ正論だった。
死者の胸を切り裂き心臓を取り出していた村人は、次第に罪悪感にさいなまれ、死者を食うのを止めたが、
まつりの一族だけは止めることはなかった。
これまで多くの死者を見送っていたからだろう。そんな言葉は意味の無いことだと、そう考えたのだ。

それからどれくらいだろうか。村人の信頼を得た移民の一族は、まつりの一族に代わってこの土地の長となった。
死者を喰らうのをやめなかったまつりの一族は、いつの間にかこの土地から消えていた。

と、そこでかあちゃんはひと息ついた。
「なぁ?怖いじゃろ?」
「なんじゃ、死んだ家族を食ってしまうて。ウソじゃろ」
「おうおう、怖がっとるのぅ。どうするかい。最後まで聞くか?」
「最後までって…話は終わりと違うの」
「まだじゃ。こっからがホントにエグイんじゃ」
そして、かあちゃんは話を続けた。

まつりの一族に代わって土地を治めた移民の一族こそ、鬼の一族だった。
鬼の一族は言葉巧みに村人を扇動し、村で逆らうものはいなくなった。
そして、鬼の一族は黒い箱を持ってこう言うのだ。
「この村には、忌まわしきまつりの一族の血が残っている。
 この箱はまつりの血を嗅ぎわける、まじないの箱だ。
 箱の中には、それぞれの氏(うじ)を書いた神木が入っている。
 この箱で、まつりの血が混ざる氏を見つけよう。
 その氏の人間から、一番まつりの血の色濃い者を殺すのだ」
鬼の一族はその箱から一枚木の板を取り出すと、その板に書かれた姓を持つ村人全員を山へ連れて行った。
連れて行かれた村人はその日のうちに山から帰ってくるが、その人数は一人少なくなっていた。
山に連れて行かれた村人の話では、山の中には鬼の一族が立てた屋敷があるらしい。
そこで別の黒い箱から、木の板を一人ずつ引かされる。
箱と同じ黒い板を引いた者こそ、まつりの血の色濃い者とされ、その者を残してみんな帰ってきたのだ、と。

村人も馬鹿ではない。そのうち気付いたのだ。
鬼の一族は死者を喰らうのではない。生きたまま喰らうのだ。消えたまつりの一族は、皆喰われてしまったのだ、と。
黒い箱は『おまつり』という畏怖の行事として恐れられた。
村に災害が起こるたび、鬼の一族はまつりの血のせいだとして、黒い箱を持ち出した。
台風が村を襲うと、「またおまつりが開かれる」と村人たちは嘆いた。

ふぃぃ、と息をつくと、かあちゃんは空になったコップに梅酒を注いだ。
「おしまい」
「おしまいて!なんも終わってないじゃろ!」
「怖いんか」
「怖いとかじゃなくて、話は途中じゃ。まだ終わってない。こんなん気持ち悪くて寝れるか」
「それがいいんじゃ。怖くてあの山に登ろなんて、思わんじゃろ。
 この話はなぁ、大人が子供に山登らせんために作ったホラ話じゃい。
 昔は山ん中は危なかったからなぁ。コンクリ道路なんて無かったから。
 かあちゃんも、ひいじいちゃんから言われたなぁ。あの山には鬼の屋敷があるから、登ったら食われるぞ~って」

案の定、その日は一睡もできなかった。
布団に横になっていろんなことを考えた。
きっとかあちゃんの話は、全部が全部本当ではない。
山にあるのは屋敷じゃなくて小さな神社だ。ソンチョと俺に起こったことと、いろんなところで相違点がある。

翌朝、居ても立ってもいられなくて、俺はソンチョの家に走った。
「お前から俺んち来るのはめずらしなぁ」
「ソンチョ、あの神社のことわかった。おまつりのことも、全部じゃないけど、わかった」
かあちゃんから聞いた話をソンチョに聞かせた。
寝てなかったし、もともと話し方も上手くない俺の話を、ソンチョは遮ることなく最後まで聞いてくれた。
「それ、ホンマの話か」
「わからん。かあちゃんは、ひいじいちゃんのホラ話て言うてたけど。でもホラ話じゃない。でも、なんか」
「そうじゃ。なんかちがうな」
そう。自分たちが体験したことと、かあちゃんから聞いた話とでは、微妙に噛み合わないのだ。
箱は二つじゃなくて一つしか無かったし。名字の箱の中におまつりの板が入っていた。
ソンチョが俺の手を食おうとしたのもわからない。おまつりの札を引いた者は食われる側ではないのか。
「あの神社、なんで左右に小屋があったんじゃろ」
「わからん。その話だけじゃ、わからんことが多すぎる。
 今日、ジジイが帰ってきたら聞いてみる。今度は神社じゃなくて、おまつりの話を」
「うん。俺のかあちゃんが知ってるぐらいだから、村長はもっと詳しく知っとるかもしれん。
 あとな…ソンチョ、入院してて忘れたかもしれんが、俺達、黒い箱出しっぱなしで帰って来たろ」
「ああ!そうじゃ!あの箱出しっぱなしじゃ!」
「あれ、大丈夫かなぁ」
「アカンじゃろ…怖いけど、それはアカンじゃろ。しまわないと、たたられる」
「もっかい行くんか!?俺は嫌じゃ。あそこは怖い。ソンチョは行くつもりか」
「俺かて行きたくないよ。でも行かな、鬼さんに食われてしまうかもしれん」
そんなことないとは言えなかった。
これまで起こったこととかあちゃんの話を合わせれば、もしかしたらまだソンチョは危ないのかもしれない。
「ソンチョが行くなら、俺も行く」
「あたりまえじゃ。俺ひとりで行かすつもりだったんか」

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即日決行。その足で山の神社へと向かった。
胸にまだ糸が縫われているソンチョと、ソンチョに噛まれた右手のかさぶたがはがれない俺と。
「ソンチョ、新しい靴買ってもらたんか。かっこいいなぁ」
「ああ。かあちゃんが買ってきたんじゃ。でも、俺は前の靴のほうがええ。これ大きさ合ってないんじゃ」
「今日は裸足じゃないから、痛くないな」
「アレはあぶない。こないだの、けっこう足の裏も切れてたぞ」
「俺もじゃ」

けもの道を抜け、例の石段の前までやってきた。
「ソンチョ、やっぱり怖いよ」
「俺かて怖いって。でも、よく思い出してみぃ。こないだはオバケも神様も、鬼さんも出てこなかったじゃろ。
 だから、そんなに怖がることはないのかもしれん」
ソンチョは俺に言っているようで、一方でソンチョ自身に言い聞かせるようだった。

石段を上ると、前回と同じようにツルで覆われた鳥居が見えた。
「間違いない、あの神社じゃ。消えたりしてないなぁ」
「お前は方向音痴だから、俺と一緒じゃないと来れんぞ。はぐれたら、死ぬからな」
「怖いから、一人では来んよ」
左右に小屋が、正面に本殿が。
しかし、神社の敷地に広げたはずの木の板は、一枚残らず無くなっていた。もちろん、黒い箱も。
「無いぞ、ソンチョ!だれか持っていったんか?」
「そんなことあるか。あんなもん欲しいやつおらんて。でも、キレイさっぱり無くなっとるぞ」
「もしかして、鬼さんか」
「お前、怖がりのくせに何でそんなこと言うんじゃ。怖くなるじゃろが」
「怖いから言うんじゃ。鬼さんが持っていったのかもしれん」

小屋の裏も、本殿の裏も探したが、一枚も見つけることができなかった。
「ソンチョ、どうする」
「まだ探してない場所があるじゃろ」
「それはイヤじゃ!また入るんか!あの部屋は真っ暗じゃ」
まだ本殿の中は探してなかった。もしかしたら。誰かが本殿の中に箱を戻しているとしたら。
「確かめんと」
「懐中電灯は?」
「そんなもんない」
「うう、ソンチョ、このまえみたいにいきなり走ったら許さんぞ」
「アホか、俺かて怖くてそんなことはもうできん」
そして、暗い暗い本殿の中を進んでいった。

「やっぱりじゃ!箱がある!これ間違いないぞ、あの箱じゃ」
「ソンチョ、怖いぞ!これは怖いぞ!なんで、誰がもとに戻したんじゃ!」
「わからん。逃げろ!」

ソンチョと俺は全速力で本殿を飛び出し、そのまま神社を抜け出て、けもの道に戻ったところでようやく一息ついた。
「怖かった~。なんじゃ。ソンチョ泣いとるのか」
「ホンマじゃ。泣いとる。なんじゃ、お前も泣いてるんか」
「あれ、俺も泣いてる」
俺たちは完全に歩みを止めた。
こいつは、この感じは、ソンチョじゃない。俺も、俺じゃない。
「ソンチョ!」
「ばかたれ!怖くて涙が出ただけじゃろ!早く、山を降りるぞ」

コンクリ道路に帰ってくると、ソンチョと俺は山を見上げた。
「俺、やっぱり、ジジイにおまつりのこと聞くのやめる」
「うん。知らんほうがいいのかもしれん」

結局、俺のかあちゃんから聞いた『おまつり』の昔話。
あれは全部が本当じゃないけど、全部が嘘というわけでもない。俺達はそう結論づけた。
怖くて、これ以上調べる気にはなれなかった。

「なぁ、ソンチョ」
「なんじゃ」
「あさって、となり町のお祭り、一緒に行こか」
「おう。かたぬきの針、お前の分も用意しちゃるよ」
「去年見つかって怒られたじゃろ。針は出店の使わないとアカンよ」
「お前は、またか。ほれ、あれじゃ。そんなんだと…」
「なに?」
「忘れた。大人の言葉じゃ」
「なんじゃそりゃ」
「お祭り、楽しみじゃな」
「うん。晴れるといいなぁ」

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