ツイッターで有名なたらればさんが、Fate/Grand Order 第1.5部、亜種特異点Ⅱ悪性隔絶魔境『アガルタ』の考察・感想をつぶやいていました。
いつもながらとても勉強になる内容です。
目次
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※以下、たらればさんの「アガルタ」に関する話題まとめです。
たらればさん 亜種特異点『アガルタ』考察
「アガルタ」モチーフについて
・本作品は『千夜一夜物語』という古代アラブ社会を戯画化した伝統作品を、さらに戯画化したシナリオでした。
・つまり今回は全体的に「日本語→英語→日本語」と二段階翻訳したような「いびつさ」が(他シナリオよりも露骨に)現れており、そのことが本シナリオの好き嫌いの振れ幅を広げているのかなと。
・そのうえであらためて、やっぱりこのシナリオで描かれる世界観は確かにはちゃめちゃで、戯画的で、狂っていると思います。
・ただそれは、「じゃあそこで対比されるこの世界や中世社会は狂っていないといえるのか?」、そして「自分は狂ってないといえるのか?」を突きつけるシナリオなんでしょうね。
・なお、彼女のイラストは若く豊満で言動にややビビりが入ってますが、原典『千夜一夜物語』内では女嫌いの狂王を前に1001夜「おもしろ話」を語り明かしただけでなくその約2年半の間に男子3名を産んだ、超肝っ玉かあちゃんです。
舞台はアガルタ=伝説内の地底世界
そんなわけで攻略のため、今回は「アガルタ」へレイシフト。舞台はオカルト伝説内の地底世界ですか……。いきなり不穏。
アストルフォ登場
・そしていきなりアストルフォ登場。『シャルルマーニュ伝説』の主要登場人物ですね。
・シャルルマーニュとは、かつて欧州に存在した神聖ローマ帝国の初代皇帝です。フランス語読みでシャルル皇帝、ドイツ語でカール大帝(神聖ローマ帝国の領土は現在の両国にまたがっていた)
・シャルルマーニュには虚実入り混じった多くの伝説があり、「シャルルマーニュ十二勇士」は日本で言うところの「真田十勇士」みたいな感じで、つまりアストルフォは仏版猿飛佐助というか。
シュバリエ・デオン登場
・続いて(シュバリエ・)デオン登場、18世紀に実在した性別不詳の外交官。おおデオン。
・アストルフォとデオンが狂言回しとして登場することで、この世界観がいっそう虚実が攪拌された世界観だということを示すと。
デオンは以前紹介した『黒博物館 ゴーストアンドレディ』藤田和日郎著にも登場します。
・『レディアンドゴースト』はナイチンゲール女史の功績と狂気がすばらしい筆致で描写されている名作です。『ベルばら』の主人公オスカルはデオンをモチーフにしている部分もあるんじゃないかなー。
「王とはどのような存在であるべきか」がテーマの一つ
フェルグス・マック・ロイ登場
・そして若きフェルグス・マック・ロイ登場。個人的にちょっと苦手キャラです(若いほうも壮年も)
・最初「なんでこのキャラが?」と思ったのですが、終節で納得。彼は「王とはどのような存在か」を問う存在なのですね。王として不完全であるか、人間として不完全であるかと。
・シェヘラザードの言動含め、「(多くの民衆の運命を決めうる)王とはどのような存在であるべきか」というテーマがあると。
・終節でのフェルグス「人間として欲深すぎたので、王としてより男として生きた」が浅いようで深い。
アマゾネスの女王登場
・3節に戻ってアマゾネスの女王登場。「冥界の王(ハデス)に会わせる」と言っているのでギリシャ神話系か。
・トロイヤ戦争でアキレスと戦って敗れた女王ですね。こりゃまた因縁深そうなキャラを……。
コロンブス登場
・レジスタンスのライダー登場。コロンブスには思うところがありすぎるので後述。イース、不夜城、エルドラド、桃源郷、竜宮城という舞台設定は、これは「理想しかない国家」ということか。
・オルタは反転した存在ですが、海賊公女ダユー(ドレイク)や則天武后は、それぞれの素性を過剰にした存在か。
不夜城のキャスター登場
千夜一夜物語は、かつて岩波文庫版を読んだ遠い記憶が。初心者向けには『アラビアンナイトを楽しむために』阿刀田高著がよいのではないかと思います。
管見のとおり、エロくて不条理で差別的な描写が乱れ打ちの作品ですが、蠱惑的な魅力があります。庶民の物語なんですね。
アラビアンナイトについて
以下、『千夜一夜物語(アラビアンナイト)』をざっくり説明します。
アラビアンナイトのあらすじ
黒人奴隷と王妃の密通を目撃したシャーリアル王は、弟(この弟も妻と奴隷の不貞を目撃している)と旅に出て、魔神と情婦に出会うも、その情婦も魔神の目を盗んで密通を目論みます。
そうした経験をへて王は「女」という存在に絶望。それ以降、王は国中の処女を夜伽の相手として宮廷に召し上げ、一晩相手にさせてあくる朝に殺す、ということを繰り返した。
そうして国に処女が居なくなった頃に名乗り出たのがご存じ大臣の娘、シェヘラザード。時に語り部、時に登場人物となって、臨場感抜群で語ったそうです。
千一夜明けたのち、シェヘラザードは「3人の息子を母なし子にするのは不憫でしょう」と交渉し、自らの命と王妃の地位を勝ち取ったわけですね。
男は妻を4人まで娶り、女は浮気すると殺される社会で、「王は改心して幸せに暮らしました」と。
狂っているのはどの社会なんでしょうね
アガルタのキャラを上回る 奴隷王コロンブスの所業
・さておき13節、奴隷王コロンブスによる、「おまえらは価値観が変わった時代に生まれただけで、俺は昔の価値観だからOK」と奴隷制肯定論。
・「ローマもギリシャもエジプトもみんな奴隷制があったんだから、カルデアの英霊だって奴隷ユーザーだらけ」正論だ。
・とはいえ史実のクリストファー・コロンブスの(新大陸発見という)功績と、「人類悪」としか言いようがない実績は、本作におけるあのやや偽悪的なキャラ造形をはるかに超える所業でした。
・ここらへん、『コロンブスの不平等交換 作物・奴隷・疫病の世界史』山本紀夫著に詳しいのでご興味ある方はぜひ。
▼『コロンブスの不平等交換 作物・奴隷・疫病の世界史』
・この本、中南米の農業史というかなり斬新な切り口から、歴史学における「コロンブスの交換(新大陸発見で旧大陸とどのような交換がなされたか、という意味)」について、「あれは交換なんて生易しいものではない、侵略そのものだ」と断じる名著です(半分くらいトウモロコシとジャガイモの話だけど)
以下コロンブスの悪事をざっくり説明
・コロンブスが新大陸を発見したことにより、旧大陸(欧州)はアメリカ原産のトウモロコシ、ジャガイモ、トマト、トウガラシ、チョコレートなどを手に入れ、世界の食卓が変わった。
・旧大陸ではそれを「発見」と呼んだが、それは中南米の住民が長い時間をかけて育んだ資産だった。
・いっぽう「交換」というからには新大陸も旧大陸から受け取るものがあったが、その最大の事象は天然痘、はしか、インフルエンザ等の疫病だった。
・またサトウキビや馬、豚などの家畜も新大陸へ持ち込まれたが、それは疫病をさらに蔓延させ、奴隷貿易を加速させるものだった。『銃・病原菌・鉄』も参照。
・さらにいうと、奴隷商人がその悪辣な本領を発揮するのは、欧州において貴族の召使いや荷役として奴隷を使役するため(だけ)ではなかった。
・より非人道的だったのは、アフリカでさらった黒人奴隷を新大陸(中米)へ連れていき、大量のサトウキビを生産させるため。砂糖生産には奴隷労働が必要だった。
・コロンブス以降、スペイン人やポルトガル人によってアフリカから中南米へ膨大な数の奴隷が輸出された(これにより欧州は大量の砂糖を獲得。いわゆる三角貿易ですね)。
・その奴隷の数は1000万人とも言われるが、それは生きて到着した数にすぎない(半数以上が悲惨な奴隷船内環境で亡くなった)
・こうした歴史がありながら、彼の名を冠した「コロンビア」という言葉は、いまもアメリカ合衆国の雅号(日本でいうところの「大和」みたいな扱い)として、超名門大学や特別区に冠されている。
(閑話休題)
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第15節、シェヘラザードが黒幕と告白
千夜一夜物語は数百年間にわたる継ぎ足しの物語であるという事実を逆手に。作品の輪郭が(継ぎ足しで)不確かなものであるならば、唯一「シェヘラザードが書いたもの」という事実だけは揺るがない、「作者」だけは確定している、という解釈。
な、なるほど。
若きフェルグスの説教「貴女(シェヘラザード)が戦うべきは【終幕】ではなく、恐れに染まっている自らの道程なのではありませんか」 超正論ですが、通じる見込みはないと。
ラスボス連戦前問答、こっち(主人公)の頭に血を登らせて石を割らせようとしてもそうは問屋がおろさないですぞ。
シェヘラザードの言葉に激高するたらればさん
シェヘラザード「彼(魔神柱)から聞きました。ただ一人、自らの意思で座より消失した英霊がいると」
「ああ、なんて羨ましい。私もそんなことができれば、話は簡単だったのに」
……………………。
あぁ? いまなんつった???
令呪と聖晶石を使って魔神柱とシェヘラザード撃破。ぐぬぬぬ……。。。
「聖杯」の代わりにワイルドカードとして「玉手箱」が大活躍。
主人公「死の恐怖というのはね、生きた意味で打ち消せるのだと思うよ」「そりゃあ近くでずっと見てきましたから」 こ、こ、これは……。
最終戦終了
最終戦終了、魔神柱、武則天、シェヘラザード、フェルグスが消滅し、最後の最後にブラヴァツキーが登場し、空飛ぶ円盤でラピュタ脱出。思わず脳内で流れるあの地平線〜♫
最後の解説、というかモノローグ、これつまり「ホームズがノンフィクション作品としてまとめた」ということかー。なので「夜話団円(Happily ever after =めでたしめでたし)」なのですね。
さあ続いて「下総国」です頑張りますー!!
サポート欄の皆さまいつも本当にありがとうございます!
(了)
参照元:https://twitter.com/tarareba722/status/1140637213987758080
FGOの醍醐味について
FGOが楽しくてしかも勉強になるなあ、と思う醍醐味は、
- テレビドラマや一般書で知る偉人像
- FGOで語られる「その人こういう面もあった像」
- へー、と本を読んでみると(2)だけでなくさらに超える面もあった像
というケースで、ジャンヌ・ダルクや源義経、ナイチンゲールやサリエリなど、創作元、一次創作(描写)、二次創作、そして受け手(読者)が複層的に存在していて、それぞれがそれなりに緊張感を持ちつつ参照し合いながら、「まあそもそも歴史ってそういうものだよね」と気づかせてくれるところでもあるんだよなあ、、と実感しています。
個人的には、クリストファー・コロンブスの「侵略先でしっかり侵略者、奴隷商人として振る舞った」という負の面だけでなく、「奴隷(アフリカ)と大規模農園(新大陸)と欧州大航海時代(旧大陸)」という、人類史上最悪の三角貿易システムを組み上げた人物だと知れたことが、なにげに大きかったです。
第1部は、7章+終章をとおして「人類史とは究極的には【死】を描き、その照り返しとしての【生】を綴ってきた」というメッセージがあると思っているんですけども、そう考えると第2部は、「では描かれなかった死、語られなかった生には意味も価値もないのか」と問うストーリーラインなのだと思います。
その話の萌芽はすでに第1部に仕込まれていて、先ほどの(それぞれの英霊レベルでの)「創作元」と「一次創作」と「二次創作」と「読み手」の関係性にある緊張にも見つかるんじゃないかなあ、、。。
などと考えながら、オニランドを進めております。フランス組たのしそう、、。。
参照元:https://twitter.com/tarareba722/status/1183686542495113216