ツイッターで有名なたらればさんが、Fate/Grand Order 第5特異点 北米神話大戦 イ・プルーリバス・ウナム 「鋼鉄の白衣」の考察・感想を呟いていました。
いつもながらとても勉強になる内容です。
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※以下、たらればさんの「FGO・イ・プルーリバス・ウナム」に関する話題まとめです。
たらればさん 第5特異点「イ・プルーリバス・ウナム」感想
全体のモチーフ
・序盤から「インド二大叙情詩」と「ケルト神話」と「アメリカ近代合理主義」の三つ巴に。サブタイトル「北米神話大戦」はガチだったのですね…。
・第3節、キッドの「毎日祈ってたけど銃声が邪魔して神様まで届いていなかった」という言い回しが素敵だ(西部劇っぽさをちゃんと振りかけてる)
・ケルト神話の参考文献は『図説 ケルトの歴史』鶴岡真弓・松岡一男著が大変コンパクトかつ図も豊富でわかりやすくてお薦めです。
・ケルトとは「ケルト語を話す(非古代ギリシア、非ローマ帝国の)文化集団」を指すと。
・クー・フーリンとメイヴ女王、原典ではかなりガチの殺し合いしてるんですよね…。
・余談ですが、ケルト人自身は「文字」を持たず、その神話は侵攻してきたキリスト教勢が(自分たちの神話を混ぜて)書き留めました。
長い年月をかけて編纂されているのでごった煮で盛りすぎな傾向が強いと。
・加えて近代に入りイングランドの対大陸思想やアイルランドの独立問題とも密接に関わってきます。
・そうしたケルトの物語勢が、近代合理・物量主義に加えて西洋思想の化身的存在としての「アメリカ」と対峙する…という構図は、めっちゃダイナミックだなぁと感心しました。
フィン・マックールとディルムッドの師弟関係やフェルグスが絶倫なところなど、原典の差し挟み方にいちいち気が利いてます。
ナイチンゲール登場
・フローレンス・ナイチンゲール登場。バーサーカーでの召喚に深く納得。衛生管理に神経質(クリミア戦争当時の戦死因1位が感染症だと突き止めたのは彼女)、身分ではなく症状の深刻度で区別する(差別型トリアージの撤廃も彼女の仕事)等、超人ぶりは史実どおりですね。
・ナイチンゲール婦長といえばもちろん『看護覚え書き』(各社から訳書が出てます)で、現代でも思想書として読むに値する好著なんですが、それはさておき『黒博物館 ゴースト アンド レディ』藤田和日郎著はエンターテイメントとして老若男女に薦められるすばらしい本なので、ぜひ読んでほしいです。
エジソン登場
・エジソン登場。お、おう……。そらテスラも世界を滅ぼそうと思うわな。ああ、「アメリカ」の化身なのか。
・言い争っているエジソンとナイチンゲール、双方の狂い具合が絶妙にリアルでした。オカルティズムの母・ブラヴァツキーとエジソンは史実でも親交があり、ええと、そういうとこだぞエジソン。
ネロとエリザベート
・ネロの祝祭大好き属性(それで民衆を堕落させたとキリスト教史に刻まれる)の属性をハリウッドにぶち込むだけでなく、650人殺しのエリザベート・バートリーとペアを組ませてブロードウェイ進出を目論ませるあたり、尖ったキャラクター先行型の物語ってここまでぶっとべるんだなぁ…と感心しました。
インド叙情詩について
・インド叙情詩、ラーマヤーナとマハーバーラタは、『いちばんわかりやすいインド神話』天竺奇譚著で勉強しました。
・たしかにわかりやすかった。原典でもアルジュナはいいとこのお坊ちゃんで、カルナは苦労人なんですね。
・戦闘時の二人の声がどことなく似てるの、細かいけど素敵演出(二人は異父兄弟)
ラーマとシータの悲恋譚
・第11節、ラーマとシータの悲恋譚がかなりグッときました。ラーマの「余を倒したければ10の頭と20の腕を持って掛かってこい!」というセリフ、『ラーマヤーナ』における宿敵、魔王ラーヴァナの特徴ですねこれ。
・スカサハ師匠登場。『BLEACH』久保帯人著で言うところの四楓院夜一さんポジションですか。
第13節
・第13節、スカサハさんの解説、脳筋(ケルト)vs.機械(西洋近代主義)に括られない文化的存在を模索するあたり、本章のテーマがある気がしました。
・カルナが「父と母に誓って勝利を奪う」と語ると、アルジュナが「私も父と母、そして兄弟に勝利を誓おう」と返すのはグッとくるなー
第19節 マーリン登場
・第19節、マーリン登場。原典(アーサー王伝説)のマーリンには変身能力があるんですが、フォウ君がマーリンの化身ということ? というより「キャスパリーグ(アーサー王伝説に出てくる怪猫ですね)をよろしくしてやってくれ」と言っていて、フォウ君は媒介的存在? 考えても仕方ないので先へ。
・ジェロニモ、ロビン・フッド、李書文、ベオウルフ、シナリオの鍵を握ってそうで握らず賑やかしとポイントチェックで消えてゆくあたり、個性がインフレを起こしている気が…。(それが本作の特徴といえば特徴なのでしょうけれども)
最後にニコラ・テスラ再登場。エジソンとまさかの共闘で胸熱展開。
「文明」とは何か、が本章のテーマ
・「文明」とは何か、が本章のテーマだった気がします。時代によって称揚される才能とその使い方が異なり、人類の営為への考察が深い。
・仮に「死」が敗北であるならば、定命の存在である人は必敗の運命にあります。
・しかしそうではなく、人は救い、癒し、創りあげ、次世代に技術を手渡すことができる。それはひとりの天才が成し遂げる偉業の中にはなく、日々の営為にあるのではないか。ナイチンゲール婦長、すばらしいなー。
・最後にエリザベートが、ずっと「緑」とか「マネージャー」とか言ってたロビン・フッドに真名で呼びかけてて、こういうのにいちいちグッときてしまう体になってしまいました…。
・なお最後にナイチンゲールが主人公に重ねて語った盟友シドニー・ハーバートは、ナイチンゲールに働かされすぎて過労死したという説があります。
・ともあれ修復完了してカルデアへ。マシュが倒れて…え…?
・考察、長すぎました…これでもだいぶ削ったんですが…。続いて第6章へ。頑張ります!(了)
おまけ:ナイチンゲールについて
思想家としてのナイチンゲール
・タイムラインで「ナイチンゲールの理論家としての側面」が話題のようなので、2分でわかるナイチンゲールの偉業を作りました。
・彼女はもちろん偉大な実務家であり実践者なんですが、後世の影響を考えると「思想家」としての一面が凄いと私は思います。
・ナイチンゲール婦長といえばもちろん『看護覚え書き』(各社から訳書が出てます)で、現代でも思想書として読むに値する好著なんですが、それはさておき『黒博物館 ゴースト アンド レディ』藤田和日郎著はエンターテイメントとして老若男女に薦められるすばらしい本なので、ぜひ読んでほしいです。
・筋金入りのお嬢様がある種の妄執に取り憑かれると、人類史に偉業を残すことになるという一例。彼女のそこらへんの姿をよく描いている『ゴーストアンドレディ』お薦めです。
・ナイチンゲールさんが(看護師としてはもちろん)優れた実務者であったことは、著作(『看護覚え書』)を読むとよく分かります。私が一番感動した部分を一部引用。「仕事論」として多くの管理職、責任者にぜひ読んでほしいです。
・ナイチンゲール先輩は、ある種の天才が若い頃に病床の身となり、その才能の矛先がある専門学術分野一点に集中した時に起こる、偉大なパラダイムシフトの好例だと思っています。
・なおナイチンゲール先輩の業績がいかに英国内で評価されているかというと、2012年のロンドン五輪開会式で、五輪の開会式って開催国の創世の功労者が讃えられる伝統があるんですが、蒸気機関車(スチーブンソン)と作家(シェイクスピア)と並んで看護士が登場するほどです。
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おまけ2:神話について
・FGOの最大の魅力といったらやはりキャラクターであり、歴代の英霊を目の当たりにするたびに彼らの背景をより詳しく知りたくなって、本棚からかつて読んだ新書を引っ張り出したりKindleで探して購入したり、近頃は図書館に行って入門書を借りてきて読みあさっておったりと、大変充実しております。
・ここ数日は特に神話系が自分の中で盛り上がっておりまして、そこでふと、ケルト神話もメソポタミア神話もインド神話も、みんな叙情詩なんだよな…と気づいてしみじみ感動するわけです。
・クー・フーリンもギルガメシュもカルナも、古代の英雄が活躍するのはみんな「詩(うた)」の中なんですよね。
・それもそのはずで、人類発祥から約200万年で「文字」が発明されたのはたかだか(?)ここ6000年の話であり、それ以前の人々はどうやって自らの社会の成り立ちや王の正統性や生活の知恵を伝えていたかといえば、やっぱりそれはその風土から生まれたメロディとピッチとリズムに乗せた「詩」なわけで。
・そのことは、今もなお世界各地に残る無文字社会を観察すればよく分かるわけですね(彼らは歌と踊りで物語をつむぎ、後世に伝えます。『無文字社会の歴史』川田順造著は超名著なのでお薦め)。
閑話休題。
・じゃあ日本語でそれにあたるものは何かというと『万葉集』なんだろうなぁと思うわけです。
・私たち日本語話者が五七五七七の調べで紡がれる、季節の移ろいや恋の切なさ、別れの辛さや夜空の美しさに感動するのは、もしかしたら文字が発明される遥か前から歌い継がれてきた原風景に通じるかもしれないと思えるからなのかなと、FGOをやりながら思うわけです。
(了)