後味の悪い話

【後味の悪い話】フレドリック・ブラウン「ドーム」

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303: 1/2 2014/09/15(月)15:37:09 ID:JhsyZZufa
フレドリック・ブラウン「ドーム」1958年刊行

37歳の男、朝のラジオニュースでアメリカのある都市が全滅した事を知る。
ソ連の核ミサイルに違いない!と思った男、28歳の女秘書にプロポーズしてあっさり振られる。
あんまり急だし、そういう事はもう少しロマンチックにしてほしいし、男の事は偉大な科学者と思い尊敬もしているが異性だと意識した事はない、というわけ。
男は秘書に説明する。

男は以前、政府の依頼で最強シールドを開発していた。
装置を中心に球状の磁場を発生させ、外部の影響を受けない強力なシールドだ。
ただし発生させる時に莫大な電力が必要で、電力はシールドの大きさの3乗に比例する。磁場の維持と解除にはたいした電力はかからない。
つまり、アメリカの街々なり軍事施設なりを守る大きなシールドを複数作るには、アメリカ全土の電力を消費しても足りないのだ。
政府は研究を捨て、男は野に下った。

男は秘書に都市が1つ全滅した事を告げ、君を救いたい、今すぐ結婚しなくとも友達として一緒にいてほしい、今まで研究一筋だったがこれからは君を愛する事に専念できる、と説得に努めるが、秘書は男の自宅兼実験施設のビルを出ていこうとする。
若い頃に看護婦の訓練を受けた事があるから有事の際には役に立つ筈、と主張する秘書を、男は止められなかった。
秘書が駆け出すのを見送った男は、装置を作動させた。

自宅兼実験施設のビルがすっぽり入る半径10mあまりのシールドができ、外の様子が見えなくなった。
あれから30年、男は何度もシールドを解除しようとしたが、死の灰の恐怖、文明を失い野蛮人に逆戻りした生き残りに殺される恐怖で、男はたった一人の生活を続ける事を選んだ。

304: 2/2 2014/09/15(月)15:38:46 ID:JhsyZZufa
生き残りの人類は野蛮人だろうか、せめて農耕時代になっていれば自分の知識を分け与えて感謝されるだろうか、と思った男は装置のスイッチを切った。

灰色のシールドが消え、見慣れない様式の整然とした早朝の街が現れた。
核戦争後わずか30年でここまで文明が復活するものだろうか、と思いながらビルを出てもう開店している商店に入ると、若い店主がまじまじと男を見た。
男が恐る恐る訊ねると…

30年前、最終戦争の気配を嗅ぎ付けた銀河連盟の大艦隊が地球に飛来した。
都市が1つ全滅したのは、全くの事故。ソ連の核ミサイルではない。
核を動力にした宇宙船が一機墜落したのだ。
艦隊は誤解を解き、地球は銀河連盟への加入を許された。
今や世界政府ができ、銀河連盟の一員となった地球は火星と金星に植民し、恒星間旅行も可能となった。
そればかりか…

店主は気の毒そうに男を見た。
「あなたはお幾つで?」
「67だ」

…そればかりか、銀河連盟が教えた長寿法で人類は数百年の寿命を得た。
これはせいぜい50までに受けなければ意味がない。

男は礼を言い、ふらふらと店を出た。
あの日ラジオニュースをもう少し聞いていれば、今頃は相変わらず美しい女秘書と暮らす事もできたのだ。

親切な銀河連盟は男が求めるもの、すなわち磁場を再現する為の莫大な電力を気前よく与えてくれるだろうか。
そうすれば男は、短い余生をシールドの中で、たった一人で送る事ができる。
男はかつて恐れていた死を、彼の人生と同じ孤独な死を待ち望んでいた。

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