後味の悪い話

【後味の悪い話】六人目の客と銀のティーポット

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58:1/32021/12/12(日) 12:05:09.35ID:91hwAWTi0
『質屋探偵ヘイガー・スタンリーの事件簿』より「六人目の客と銀のティーポット」。
主人公は、ロンドンのスラム街で親類の質屋経営を預かる若い娘。

ある日、近所の老女が、銀器のティーポットを質入れに来た。
老女は盲目ながら、編み籠の内職で辛うじて生活費を賄い、他人の施しを受けずに自活してきた。
だが、老境の病身でとうとう今までほど仕事量をこなせなくなった。

そのポットは蓋がハンダ付けしてあり、茶器としての用を成さない代物だった。
「若い頃の大事な手紙を封印してある、期日までに必ず請け出すから」との約束で、老女は貸金を受け取る。

わずかな稼ぎから借金を返そうと、老女は食事を切り詰め、寒い屋根裏アパートでも火を入れずに過ごした。
その無理が祟って、ついに寝たきりの病人になってしまう。
心配して看病する質屋娘に、老女はティーポットの来歴を語った。
それは、元婚約者から贈られた物だった。

老女は、元は裕福な家の育ちで、両親が他界した後も
盲目の彼女に代わって家の中のことを世話する女中や、親友に囲まれて幸せだった。
好青年からプロポーズを受け、茶園の事業を軌道に乗せたら呼び寄せるとの話で 彼は先に単身インドへ渡った。
最初の頃は恋文のやり取りをしていたが、次第に彼の手紙は冷淡になり、
最後に婚約破棄する旨の短い文とともに今までの手紙全てが送り返された。
女中は憤慨し「そんな手紙は処分して、忘れるべきだ」と進言したが、
彼との思い出を捨てることができず、こっそり贈り物のティーポットの中へ封印した。
悪い事は続き、親の遺産を管財人に乗っ取られ、困窮した彼女はその後の30年をスラム街で細々と暮らすことになる。

59:2/32021/12/12(日) 12:06:11.33ID:91hwAWTi0
いよいよ死期を悟った老女は、最期に封印を解いて思い出の手紙をもう一度読み聞かせて欲しいと頼む。
質屋娘が読み上げると、記憶にあった文面とは違い、自分が送った手紙には
「英国を離れてインドになんか行くのは嫌だ」「盲目の私はどうせ足手まといなんでしょ」等と
ネガティブな内容が書き連ねてあり、彼の手紙には「どうしてそんな事を言うんだ」と困惑の返事が並び、
最後に「もう僕たちは婚約破棄した方がいい」という手紙だった。

その後、彼女の親友と彼が結婚した。
彼は事業で成功し、今はイギリスに戻って高級街で暮らしている。
没落した家から女中を親友が引き取り、今は夫妻の邸宅で家政婦(メイドを統括する管理職)に出世していた。

質屋娘は横恋慕した親友が女中を買収し、
女中が盲目の彼女の手紙の代筆で嘘の内容を書いたのではないかと疑う。
義憤に駆られた質屋娘は邸宅を訪ね、処分されたはずの手紙を突き付けて家政婦の自白をとり、
老女の家へ面会に来るよう夫妻の呼び出しを言付ける。

夫妻の到着を待つ老女に、質屋娘は「夫に全てをブチまけ、復讐すべきだ」と後押しする。
しかし老女は、貧しい中でも毎週教会に通い「罪を犯す者を 我らが許す如く、我らの罪をも許し給え」
という“主の祈り”を唱える慈悲深い気質。
刻々と近づく時間の中、許しか復讐かの決断を迫られる。

60:3/32021/12/12(日) 12:08:02.29ID:91hwAWTi0>>65
夕刻、仕事で遅れるという夫より先に、まず親友が現れた。ふくよかな奥様になっていた。
痩せ衰え死にかけの下賤な貧民と化したかつての親友を目にした奥様は、一瞬ギョッとし
青ざめてベッドに縋り付いて、恋に勝利しても この数十年 罪悪感で心穏やかでなかったこと、
家を追い出されたと知って行方を探したけど見つけられなかったことを告げ、謝罪した。

老女は、ならば夫へ真相を打ち明け
30年前 自分が最後まで婚約者に誠意を持って接していたことを証するよう言うが、親友は取り乱し
「それだけは! 今の私達には、士官になった息子も、結婚して孫を産んだ娘もいる。
子や孫には罪は無い。どうか今さら私達の家庭を壊すような事だけはしないで」と懇願する。

迷った末、老女は「…いいわ、あなたを許す。彼が真実を知ることは決して無い。
あなた(質屋娘)も口外しないで」と告げて、思い出のティーポットを抱いて息を引き取った。
死後、恰幅の良い紳士となった元婚約者が到着した。
「間に合わなかったか。だが、今となってはどうでもいい。彼女は愚かに心変わりし、私を裏切った。
その結果がこの惨めな有様だ。おかげで、私は今の最良の妻を得ることができたが。」
「最良の妻ねぇ?」質屋娘はよっぽど真相をブチまけようかと思ったが、約束に従い思い留まった。
老女が胸に抱くティーポットの中身を知れば、決して並んでは出て行かなかったであろう妻と二人
部屋に背を向けて元婚約者は去って行った。

61本当にあった怖い名無し2021/12/12(日) 12:09:11.73ID:91hwAWTi0
「主の祈り」や赦し云々への言及量が妙に多いあたり、
おそらく「実利は何も得られなかった悲惨な最期ながら、
虚飾の幸せに浸る名士夫妻より“最後まで高潔さを保って神に召された老女”の精神性のほうが
よほど高い次元にある」というカタルシスを含むラストなんだろうけど……。

正直、キリスト教的な感覚がピンとこない自分からすると
ただただ ひたすら救いが無い話という印象しか無い。

62本当にあった怖い名無し2021/12/12(日) 12:18:32.97ID:MnUfwpMY0
宗教観の違いはどうもならんね
以前、教会での葬儀に参列したことがあるが
死は悲しい別れではなく、神の元に召される喜びのプロセスなんだ
…と聞いて驚いた仏教徒

64本当にあった怖い名無し2021/12/12(日) 12:49:48.78ID:yh2R265H0>>532
仏教でも心に憂いがなくなったのだから成仏間違いなし
という気がするが

65本当にあった怖い名無し2021/12/12(日) 13:17:26.72ID:NimF0UBE0
>>60
切ない上に胸糞が悪くなるな
現実でもこういすれ違いは有るし

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