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874: 1/2:2012/10/29(月) 22:10:13.58 ID:WfGNpI50O
星新一「妖精配給会社」
地球に一台のロケットが飛来した。中にはタマゴが一個。
タマゴからは「妖精」が生まれた。
猫ほどの大きさで、猫より軽く、全身を灰色の毛皮で覆われた、翼と尻尾を持つ生物である。
妖精は地球の言葉を学習し、世辞を言った…と言うより、世辞を言うしか能のない生物だった。
労働もできず、知能は世辞を言うのがせいぜいで、肉は食肉にする価値もない味と量、
毛皮は趣のない灰色で染める価値もない程弱く、単性生殖でタマゴを生んで増える。
悪魔でもなく天使でもない、害はないが益もないという意味で、妖精という呼び名が広まった。
妖精は従順だった。研究所での第一声は
「こんなつまらない生き物を飼ってくださってありがとうございます」
餌は残飯をおとなしく食べた。
同じ食卓に着かせようとしても、固辞するのだった。
妖精を好まぬ人間も、
「お世辞を聞き入れないとは、あなた様はなんという高い見識の持ち主でございましょう」
という決めゼリフで妖精を受け入れた。
875: 2/2:2012/10/29(月) 22:11:54.86 ID:WfGNpI50O
妖精配給会社が設立され、妖精は不幸な人々に優先的に配給された。
難病に苦しむ少女、身寄りのない老人などから感謝の手紙が届いた。
妖精はタマゴで程よく増えるので、世界中のほぼ全ての人々に行き渡った。
妖精配給会社はその使命を終え、社史編纂室などを残して規模を縮小した。
社史編纂係の聾者の老人は、妖精を持っているがその恩恵には与れない。
老人は数年前の事を思い出していた。
息子夫婦に妖精をプレゼントしたら、二人ともたいへん喜んだものだった。
しかし、妖精が増えると息子夫婦は離婚した。
都合のいい世辞を聞きすぎたせいだと、世辞を聞くことのできない老人にはわかっている。
老人の息子は、たまに老人が訪れても、薄汚れた部屋で妖精に囲まれてうっとりしているだけだ。
息子夫婦だけではない。世界的に離婚率が上がり、独身者が増え、出生率が下がっているのだ。
老人は思った、地球人を穏やかに絶滅させるために、何者かが妖精を送り込んだのでは…?
しかし、老障害者の僻み根性と思われるのがオチだろう。
老人は淡々と仕事を続けた。おしまい。