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5:1/3:2006/10/15(日) 01:41:58 ID:V01HFnH30
乙です。
山岸涼子の漫画から。題名失念。たぶんガイシュツだろうけど許して
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上司のきつい怒鳴り声を聞くのがほとほと嫌になり、両親の反対を振り切って
街を出て田舎で働く事にした主人公。
海が近くにあり、漁業が盛んな村で花などを教えている未亡人の家へ
住み込みの家政婦として雇ってもらう。
物腰柔らかで穏やかな未亡人はかつて見てきた上司達とは一線を画していて、
"やはり越してきて正解だった"と主人公は喜んだ。
先輩家政婦にいろんな事を教えてもらいながら、主人公は充実した生活を送っていた。
けれど、気になることがあった。時折、甲高い鳥の鳴き声のような音が
どこからともなく聞こえてくるのだ。
決して聞いていて気持ちのいい声ではなかったが、未亡人も先輩家政婦も
別段驚いた様子は見せない。日常茶飯事の事なのだろう。
鳥が鳴いているだけだろうと自身を納得させ、多少気にしながらも主人公は普通に日々を過ごしていた。
そんなある夜、主人公が寝ていると、奇声と共に何かが主人公の上に落ちてきた。
あわてて電気をつけてみると、片腕を失い、落ち窪んだ目を光らせた
不気味な少年が「鬼、鬼」と繰り返しながら涎をたらしていた。
主人公の悲鳴を聞きつけて未亡人や先輩家政婦が駆けつけ、不気味な少年を取り押さえる。
奇声を上げて「鬼だ、鬼だあ」と泣き喚く少年。
恐怖に震える主人公へ、未亡人は「あれは私の息子だ」と説明した。
生まれつきあんなふうの少年を見せて、主人公を驚かせたくなかった。
だから今日まで隠していたと未亡人は告白した。
少年は普段離れの小屋で暮らしているのだという。
次の日から、主人公は少年の世話を任せられるようになった。嫌がる主人公だったが、
先輩家政婦に「普段は大人しい子だから」と諭され、嫌々ながら食事の差し入れ等をこなしていた。
主人公の方でも、"こんな息子を持った彼女のつらさは計り知れないはず。頑張らなくては"と
未亡人に対して同情の念を抱きながら不気味な少年の世話に耐えた。
そんなある日、村で祭りが開かれた。未亡人や先輩家政婦のすすめもあって、主人公は祭りに行く。
漁業が盛んな村ということもあり、祭りは大量に釣った魚をみんなで分けるという内容のものだった。
6:2/3:2006/10/15(日) 01:42:31 ID:V01HFnH30
いくらか魚をもらい、家に帰ろうとする主人公を一人の女が呼び止めた。
「あなた、あそこの家で家政婦をしているんでしょ?」
「ええ、そうですけど」
「あそこに、とっても可愛い男の子がいるでしょう。だいぶ大きくなった頃じゃない?」
主人公は言葉を返しあぐねて戸惑った。本気で言ってくれているのだろうか?
別の子供のことを言っているのだろうか。
「ちょっと小生意気な所があってとっても可愛いのよ。頭も良くて。船に乗った時なんか、一人前にオールを漕いでさ」
「え?片手で?」
「まさか。しっかり両手で握っていたわよ。大人顔負けの上手さなの」
釈然としないまま、主人公は家路に着いた。どういう事だろう?頭が良い?両手で握って?
混乱しながら家の門をくぐると、例の叫び声がまた響いた。
また少年が暴れているのだと離れの小屋に向かった主人公の目に、「鬼だ」と
泣き叫びながら頭を抱えている少年と、少年の後ろに恐ろしい形相で棒を握り締めながら
仁王立ちになっている鬼の姿が映った。
主人公は取り乱し、そばに立っていた先輩家政婦に「本当に鬼だわ、○○さん(少年)が襲われている!」と
助けを求めるが、先輩家政婦はばつの悪そうな顔をして佇んでいるばかり。
戸惑う主人公を前に、鬼が仮面を外した。仮面の下に現れたのは未亡人の顔だった。
「○○(少年)なんか、死ねばいいんだ。私の大事な人を奪ったんだから。
あの人ではなく、○○が死ねばよかったんだ」
恐ろしい形相をして叫ぶ未亡人を呆然と見つめながら、主人公は意識を失う。
未亡人の夫、つまり少年の父親は溺れる少年を助けようと海へ入って死んだ。
少年だけが助かったのだ。
病室で目覚める主人公。そばで泣きじゃくっていた母に聞けば、あの村はあの後
大洪水によって何もかも流されてしまったらしい。空前絶後の大津波であったと。
助け出されたのは主人公だけだった。
未亡人も少年も先輩家政婦も、真実と共に海の底へ沈んでしまった。
8:3/3:2006/10/15(日) 01:44:56 ID:V01HFnH30
場面変わって、回復した主人公は街へ戻って仕事を始めていた。
きつく怒鳴り散らす上司を前に、打たれ強く仕事をこなす主人公に対する上司達の評価は高い。
「最悪ね。どうしてあんなふうに怒鳴り散らすのかしら」
上司の横暴を愚痴る同僚に対して、主人公は笑って返した。
「でも、怒鳴る人って好きよ。変に優しいよりはずっとまし」
主人公はあの村での出来事を回想した。
あの女性が言っていた男の子は本当にあの少年について言っていた事だったのだろうか。
あの未亡人が見せた鬼のような一面は現実だったのだろうか?
主人公は首をふり、自身の考えを打ち消した。あれは、生か死かの狭間で見た一種の夢だったのだ。
あの女性が言っていた男の子は別人で、あの少年は生まれつき腕がなく精神異常だったのだ。
そうでなければ、自分が腹を痛めて生んだ子をあんなふうに思える人間がいるはずがない。
あれは夢だったのだ。
すべてが海に沈んだ今、真実を知る術はない。
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これ、一応ラストは「真実は闇の中~」みたいな締めだけど
まず間違いなく少年はたびかさなる虐待によって精神に変調をきたし、
腕を切断されてる。
全体的に不気味でこわい雰囲気で、ぞくぞくしながら呼んだ。
山岸涼子はこういうリアルなこわさが上手いと思う