スポンサーリンク
264:「善女のパン」1:2006/06/20(火) 13:26:49 ID:ALhLZxz+0
上にちょっとあったOヘンリーから「善女のパン」
ミス・マーサは40歳独身。小さなパン屋を営んでいた。
彼女は店にたまにくる、中年の男に興味を惹かれていた。
男は、ドイツなまりで喋り、服もぼろぼろだったが、とても礼儀正しかった。
男は店で、いつもきまって安くて古いパンだけを買っていた。
マーサはある日、男の服に絵具の汚れがあるのを発見する。
安くて古いパンだけを買い、絵具を使っている。
このことから、マーサは男のことを、絵が売れなくて貧しいけど努力している画家だと思う。
男が本当に画家か確認するため、マーサは店にヴェニスの風景画を展示し、
店に来た男と、絵について話をする。
男は絵について慧眼を持っており、マーサは確信を深める。
以来、マーサと男は気軽に話する仲となり、マーサはさらに男に惹かれていった。
しかし男はそれでも、マーサお手製のケーキなどには手を出さず、
安くて古いパンしか買わなかった。
マーサはあまりにも貧しい男に手を差し伸べたくて、
何か美味しいものを買い物の際に添えてあげようと思ったが、
そのことが男に恥をかかせるのではないかと思い、実行には移せなかった。
265:「善女のパン」2:2006/06/20(火) 13:27:52 ID:ALhLZxz+0
マーサは店に出る時、ういういしく青いブラウスを着て、おめかしするようになった。
おしゃれなアクセサリーも着けるようになった。
ある日男が来店し、談笑したあと、いつものように古いパンを注文した。
その時、外を消防車がけたたましい音を鳴らしながら走っていき、
男が店の外へ出て何事か見に行った。
マーサはこの時とっさに、兼ねてからの考えを実行することを閃いた。
男の注文した古いパンに切れ目を入れ、中にたっぷりバターを塗ってあげたのだ。
そして少し見たくらいでは気づかないようにまた切れ目を戻し、
男が店に戻った時には、もうパンを紙袋に入れて包装していた。
男が店を去ったあと、マーサはいつになくどきどきしていた。
大胆なことをしただろうか、あの人怒らないだろうか。
いえ、これくらいのことならいいわよね、厚かましくないわよね。
彼は絵を描きながら、古いパンと水で朝食の支度をするのだろう。
そしてパンにナイフを入れるだろう。そして――。
私の気持ちに気づいてくれるだろうか――。
マーサは若い娘のように赤い顔になって、想像を膨らませていた。
267:「善女のパン」3:2006/06/20(火) 13:28:34 ID:ALhLZxz+0
その時、急に表のベルが鳴り、店のほうが騒がしくなった。
マーサは急いで店に出ると、そこにはあの男と、もう一人知らない若い男が一緒にいた。
男の顔は真っ赤で、髪はかき乱れ、全身をぶるぶると震わせていた。
そしてマーサに向かって、ドイツ語で憎悪をぶちまけた。
「バカヤロウ!!!!!!」
「お前のせいで俺の人生めちゃくちゃだ!!!!」
「このおせっかいの老いぼれババアめ!!!!!」
男はありとあらゆる言葉でマーサを罵倒した。
談笑していたときの優しい目の面影もなく、ただ激しい憎しみだけが
マーサを見ていた。
しばらくして連れの男が、
「もういいだろう」
と宥めすかし、なんとか男を店外へ連れて行った。
そのあと店に戻り、愕然としているマーサに向かって説明した。
曰く、あの男は建築製図家で、ここしばらく大きな仕事である
市役所の設計図を書いていた。
この仕事で成功すれば男にとっても大きな飛躍だ。
設計図の下絵は鉛筆で書き、それを仕上げると
古いパンくずで下絵の線を消す。それが一番よく消えてよいのだ。
だが、あのバターのせいで、設計図は、
もう何の役にも立たなくなってしまった――。
マーサは力なく奥の部屋に行き、青いブラウスを脱ぎ、
それまで来ていた古くさい茶色の服に着替え、
おしゃれなアクセサリーをくずかごに捨てた。<了>
Oヘンリーといえば、「賢者の贈り物」や「最後の一葉」などの
心温まる話が有名ですが、こういう話もたくさん残した作家です。
これも、親切心が仇になる、というパターンですね。
後味悪いんだけど、忘れられません。
269:本当にあった怖い名無し:2006/06/20(火) 14:09:12 ID:ut7jTSFM0
ヘンリって後味悪い話ばかり書いてるよな。
賢者の贈り物や最後の一葉が「美談」として取り上げられているから
勘違いされているだけで。
他のヘンリ作品を読んでいたら、あれだって
美談として書いたんではなく、いつもの皮肉だろうと読めてしまう。