後味の悪い話

【後味の悪い話】阿刀田高の短編小説

293:1/3:2007/01/09(火) 23:22:18 ID:kxhtbTAK0
阿刀田高の短編小説から

ある日、初老の女性Aの家に電話がかかってくる。
電話の相手は航空会社飛行機事故の乗客名簿に
女性の姉の名があったので今すぐきてもらいたいと。
女性は空港に行くタクシーの中で昔の事を思い出す。

姉は生まれたときから病弱で、あと二三年の命だと医者に言われていた。
当然、両親は短い命ならばと姉を可愛がり健康なAはなおざりにされがちだった。
しかし予想に反して姉はなかなか逝かず、かといって健康になるわけでもなく
医者の診断はいつもあと二三年だった。
年頃になるとAは近所に住む青年に恋をする。

両親を介して結婚に持っていき縁談はまとまりかけたが、
死ぬ前に結婚したいと姉が言い出した。
両親は姉が長くないと思っており、かつ戦争で青年が
出征しおそらく生きて戻らないだろう事から縁談は姉の下に移ってしまう。
そして戦争が終わり、その後の混乱期に
適齢期を終えてしまったAは生涯独身を余儀なくされる。
その上青年は無事に戻ってきており、当然姉も死んでいない。

297:2/3:2007/01/10(水) 00:08:15 ID:kxhtbTAK0
Aは実家を出て働く事になる。
姉夫婦は娘が一人できたが青年は肺炎で死んでしまった。
Aは青年が死んだのは高熱が出ているのに姉が
「私はいつも辛い思いをしている。それくらいたいした事無い。」と
医者を呼ばなかったためだと思った。

寡婦になった姉は実家に戻り、同じく夫を亡くした母と同居する事になった。
姉が病気がちである事から姉の娘Bは何かとAに頼る事が多く、
Aも未婚で子供が居ないためBを可愛がった。
しばらくの後、母が死んでしまった。
母は今でも病弱な姉を心配し家と土地を除く遺産の大半を姉に譲ってしまった。

本来ならAにも半分権利がある実家も、
姉が独り立ちできないことを理由にそのまま住み着いてしまう。
Bの事も考えてAもあまり追求しないようにしていた。
姉は働かないので母の残した遺産も目減りするばかりである。
Aがある日訪ねると姉はAに無断で庭に当たる土地の半分を売却してしまっていた。

Aは流石に酷いと文句を言うが姉は
「病弱な自分に母屋を出て行けと言うのか」とまくし立てAを追い立ててしまう。
Aは長年両親から姉のわがままを聞くようしつけられていたため姉に強く出ることができない。
結局Aは姉が死ねばBを引き取って母屋を相続しようと決める事で納得する。

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298:3/3:2007/01/10(水) 00:26:56 ID:lyf/F4P40
姉がBを家政婦代わりにこき使わないように、
また残った母屋を勝手に処分されないためにAは頻繁に姉を訪ねる義務を負う事となる。
Bがそろそろ学校を卒業し、就職や結婚と言うとしになった頃、
まったく働かない姉の資産は底をつきかけようとしていた。

姉はAに一緒に住んでほしいと持ちかける。
姉の生活費と介護の世話をしたくないAは断ったが、
姉はBを売り飛ばして金にするとほのめかす。
Aは姉にはBに対する愛情が無いのではないのかと疑う。
いざとなったらBを連れて逃げ出すことも考えていた矢先に先ほどの知らせが届いたのだ。

空港に到着すると姉の親族を呼ぶアナウンスが聞こえてきた。
Aは不謹慎ながらも喜んで受付に行くと奥に連れて行かれた。
「発作を起こされましてね、事故のあった便には乗らなかったんですよ。」
笑顔で応対する職員の後ろで介抱をせがむ姉の声が聞こえる…

302:本当にあった怖い名無し:2007/01/10(水) 00:47:30 ID:d75/y6pM0
正統派の後味の悪さだ。
姉が親としての資質に欠ける場合、早々にAがBの後見人(というのかな)になるとか
財産管理が杜撰すぎる点を指摘して管財人を指名するとか何か対策を打てそうなのに
身内の情がからんでずるずる時間が過ぎてしまうというリアルさがよい。

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