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【後味の悪い話】博内和代の短編「外環視点」

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641:本当にあった怖い名無し:2007/01/17(水) 21:14:18 ID:DfVcQRYQ0
博内和代の短編「外環視点」

とある田舎町で、親族の強い勧めで見合いをした男。
その席には雪子という名の女性がいささか緊張した面持ちで座っていた。
何を話しかけても返事をせず、ただひたすら
黙って俯いているばかりの雪子に、男は戸惑いを覚える。

やがて男の思惑など構わずに縁談はとんとん拍子で進み、
男は雪子の家に婿養子として迎えられることとなる。
もともと強い意志も無く流されるままに生きてきた男は、
「それもまあ良いか」とばかりに現状を受け入れる。

簡単な祝言も終わって、夫婦となって初めての夜を迎える二人だが
相変わらず雪子は喋ろうとしない。
「ろくにお互いのことも知らないのだから、無理もない」
と思った男は気遣うつもりで優しく声をかける。
その声で顔を上げた雪子は、一冊の絵本を抱えたまま夫となった男に言う。

「ね、ご本、よんで」

見合いの席でも祝言の場でも雪子が喋らなかったのは
「そうしなさい」と親にいいつけられたからだった。
喋ればボロが出る。雪子がどういう人間かがバレる。そうなれば縁談は上手くいかない。

ここに至って、ようやく男はこの縁談がいつまでもブラブラしている自分と
精神が幼児のままである雪子とをまとめて片付ける意味があったのだ、と理解する。
憤った男は親族や雪子の両親を問い詰めるが、のらりくらりとかわされてしまう。
家では相変わらず幼女と何も変わらない妻が絵本をめくっている。
優しく接してやろうと努力してみる男だが、家事など一切出来ないどころか
生理の処置すら満足に出来ない、自分より年上の「子供」に対して苛立ちがつのるばかり。

そして、男は遠い町まで雪子と旅に出かける。
邪険にされても男をおずおずと慕い、はにかんだ笑みを見せる雪子は
人気の無い駅の椅子に座ったまま「ここで待っているように」言われて、
列車に乗る男を見つめる。
自身が、飼うことの出来ない犬猫のようにここで捨てられるのだと理解することもなく。
男を乗せた列車はゆっくりと動き出し、ホームから男を見つめる
雪子の姿は次第に遠ざかっていく。
乗客もまばらな列車内では、男が疲れたような笑みを浮かべたまま静かに涙を流していた。

……映画「鬼畜」で東京タワーに子供を置き去りにするシーンがあったが、
それとか思い出して軽く欝入る。

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