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【洒落怖】怪談「あべこべ」

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怪談「あべこべ」

これは私が、友人のK君から聞いた話です――。 

 今から10年ほど前のこと。釣りが趣味のK君は、とある釣り仲間から山陰の日本海側にある“釣りスポット”を教えてもらいました。そこで早速、当時付き合っていた彼女と一緒に、車で夜釣りに出掛けたそうです。

ただ、初めていく釣り場ということもあり、道に迷ってしまい、彼らがようやく目的地に着いたのは午前0時。駐車場などはなく、海岸沿いに車を停めると、あたりは真っ暗だったそうです。

他に釣り人もいないし、まわりには民家などもまったくない、そんなさびしい海岸だったと、K君は言います。

そんななか、早速釣りを始めたK君でしたが、全くアタリも無いまま、1時間、2時間……と、ただ時だけが過ぎていきました。1人なら何時間粘っても平気なんですが、今日は彼女と一緒に来ている。

その彼女は隣でじっとしていて、おそらく手持ち無沙汰にしている。そこで彼は気を遣って、「飲み物でも買ってくるわ」と言い、少し離れた自販機までジュースを買いにいきました。

そして飲み物を手に戻ってくると、彼女は見知らぬ人たちに囲まれていました。それはどうやら4人組で、とはいえ彼女とは楽しそうに話をしているのです。

不審に思いながら近づいていくと、K君に気づいた彼女が「地元の方ですって」と紹介してくれました。しかも、その4人は家族なのだと。確かに、お父さん、お母さん、中学生くらいの女の子、そして小学1年生くらいの男の子の4人組で、家族であるのは本当のようです。

ただ、この家族はなぜ、こんな夜遅くに小さな子どもを連れて出歩いているのだろう……。そんなことを思っていると、お父さんらしき人がヌーッとK君の前にやって来て、「ここは釣れないでしょう。この先にもっと魚が釣れる場所があるんですよ。一緒に行きませんか」と、誘ってきました。

もしかしたらここは、仲間から教えてもらった釣りスポットと、少しズレていたのかもしれない。

そう思いながらもK君は躊躇しました。なぜなら、彼らとはいま出会ったばっかりですし、何よりもその家族には、うまく言葉にできないながらも、妙な違和感を覚えていたからです。

そこでK君は、「彼女と来てるんで……」と断ろうとしました。しかしその瞬間、彼の言葉を遮るように彼女がこう言ったのです。「行こうよ、連れて行ってもらおうよ」と。

気が乗らないK君でしたが、彼女はいつにも増してしつこく誘ってきました。なんだか違和感はありますが、向こうは子供連れなので、まぁ、変なことはしてこないだろう――。彼は迷いながらも結局、その家族についていくことにしました。

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しかし、“父親”が「こっちですよー」と、彼を導くように後ろを向いた、そのとき。何気なく見えたその首元に、K君の視線は吸い寄せられました。

本来隠れているはずの服のタグが、見えていたからです。

「あれ!?」

彼は確かめるように、その家族全員の服装をまじまじと見ました。そして……先ほど感じていた違和感の正体、それに気づいたんです。

父親だけでなく、母親も、娘も、息子も、みんな服が裏返しだったのです。ズボンもスカートも何もかも……靴までも、左右あべこべに履いている――。

みなさんは、日本には“逆さ事”という風習があるのをご存知でしょうか。

死者の世界はこの世と全てが逆になっている、という考え方のもとに、たとえばお葬式の時には着物を左前にしたり、足袋を左右逆に履かせたり……そうしたことで、死んだ人間と生きてる人間とを区別する風習です。

それを知っていたK君は、目の前の家族を見て直感しました。

「この人たち、この世のものじゃない」
そして本能的に「逃げなアカン!」と思いました。
そこでK君は、彼女にそっと耳打ちしたのです。
「1、2、3で逃げるぞ」

1、2、3――。彼は事情を飲み込めていない彼女の腕を掴んで、その場からダッーと走り去りました。

そして全速力で車まで戻ったK君は、彼女を助手席に押し込み、自分も急いで運転席に乗りこみました。

彼女はあまりの事に戸惑い「どうしたん、何があったん」と尋ねてきました。

「お前気づかなかったんか? あいつら全員服が裏返しやったやろ。ズボンも裏返し、靴も左右あべこべに履いてたぞ! あれはヤバいって!」

そう言った瞬間、彼女は、

「えーー! すごーい!!」

と言いながら、“手の甲”で拍手をしたのです。

そして「ハハッハハッハハッハハハ」と、聞いた事のない声で笑いだしました。

恐怖を覚えたK君は、慌ててギアをドライブに入れ、アクセルを踏みました。しかし、「ザザ、ズズズッザー」とタイヤが擦れる音がして、車は海の方へとバックをしはじめました。まるでこのまま、海の中へと引きずりこまれるように……。

「お、おい! 車が後ろに進んでる……どうゆう事や!」

助手席の彼女に向かって必死に叫ぶと、彼女はカッと目を見開き「……大丈夫、ちゃんと前に進んでいるよ」。そう言ってフッと気を失ったのです。

それと同時に車も止まりました。海に落ちるまでほんの数センチ……。本当にギリギリのところだったそうです。

なんとか気を取り直し、エンジンをかけ直すと、幸い車は正常に動きだし、その場から離れる事ができました。

しかし、バックミラーを見ると、先程の家族がすぐそこまで迫っているのが見えたそうです。ただ、その表情は笑うでもなく、怒るでもなく、どこか少し寂しげだったとK君は言います。

後でわかった事ですが、その場所ではかつて、車で海に飛び込んだ一家心中事件があったそうです。それが、K君の体験した出来事と何か関係があるのか。それは誰にもわかりません。

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