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子供の頃、お盆で山形にある父の実家に帰省した時の話。
夏休みの宿題の自由研究でトンボの観察にするために
昼過ぎに田んぼのあぜ道にビデオカメラをセットした。
そのまま、川に泳ぎに行った帰り道だった。
生暖かい風が吹いてきた。折角さっぱりしたのになんだよ!と思って空を見上げると
入道雲がもくもくと空に広がっていく。一雨くるな、と急いでカメラを回収にその場所にむかった。
雲の影が田んぼを走っていく。カメラが見えてきた。そのとき、カメラの向こうに何か見えた。
遠くからでよく分からなかったが、全身白づくめの人たちがうねうねと動いているようだった。
段々遠ざかっていく。その先には田んぼしかない。
奇妙に感じたが、雨も降りそうだしカメラの回収が先だ。
カメラを持って家に付くとすぐに夕立が振り出した。
濡れずに済んだと安心して居間に入ったとき祖父が帰ってきた。
濡れた頭をタオルで拭きながら居間に来た祖父にさっきみたものを訊いてみた。
祖父は途端に険しい顔をして「にしゃ(お前の意味)、あれ見だんか?目ぇ合わせぢまっだんか?」
そのとき雷が丁度近くに大きな音を立てて落ちた。
祖父のあまりの剣幕と雷に驚いて、訳も分からず俺は泣き出してしまっていた。
「遠くだったから良く分からなかったよ…」泣きながら言う俺の頭を撫でながら言った。
「あれは見ぃだらいがん。見んでえがった。」祖父は涙ぐんでるようだった。
落雷で停電してしまったのでビデオを見るのは忘れていた。
翌日、朝食のあとビデオのことを思い出し、観ることにした。
予想より多くのトンボが映っていた。
風で田んぼの稲の葉が擦れる音と遠くからセミの鳴き声が聞こえるくらい。
たまに鳥の鳴き声もする。のどかなものだった。
しかし、しばらくすると突然音が止んだ。そして何かを引きずるような音が聞こえてきた。
画面は雲の影が田んぼに映りこむくらいで殆ど変化が無かった。
音は次第に大きくなっていく。ざわざわというかぼそぼそというか人が話すような音も聞こえてきた。
そして、いきなり画面にそいつらは現れた。
突然、まばゆいばかりのスポットライトが飛び出したくねくね'sを映し出す
「KA-KA-SHIは」「どこだ!」ステージにくねくね'sの声が響く
詰め掛けたオーディエンスはくねくね'sの久々のステージに期待で爆発しそうだ
今晩も伝説のリリックが聴ける。ストリート生まれヒップホップ育ち。本物のラップが聴けるのだ
キャップを斜めに被りオーバーサイズのTシャツをきたくねくねがターンテーブルをいじりながら目で合図する
重たいサウンドがスピーカーから響く。ショウの始まりだ
「 ここでTOUJO! おれらMOURYO! いつもMUHYOUJO! くねくねSANJYO!
カカシBANZAI! 鳥はSANKAI! あぜ道俺ら歩くZENKAI!
(ドゥ~ン ドゥンドゥンドゥ~ン キュワキャキャキャッキャキュワキャ!)
作地減少! 農費上昇! 過疎で閑散! 飯だ母さん!
冷たい世間を生き抜き! 冷たい麦茶で息抜き!
どこだKA-KA-SHI農業MONDAI! そんな毎日リアルなSONZAI!
SAY HO!(HO!) SAY HO HO HO HO!」
くねくねのプレイは好調だ。オーディエンスの熱狂はこわいくらいだ
まだ俺らの時代は始まったばかりだ、そんなメッセージがマシンガンのようにくねくねの口から飛び出していく
本物のヒップホップ。それがここにあるのだ