名作・神スレ

【名作SS】幼女「待ちくたびれたぞ勇者」

247 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/30(金) 03:09:43.03 ID:+SsGWOIOo

* * *

王都 宿

勇者「じゃあ俺、昼間のうちに出かけてくるから、この部屋から出ないでくれよ。
   お前らの顔覚えてる兵士が街にいたら面倒なことになるからな」
   
魔女「わーかってるわ―かってるぅ」ゴロゴロ

竜人「さすが王都、人が賑わってますね」

勇者「……ほんとに出ないでくれよ?じゃあな」

神官「勇者様!こっちです。……本、持ってきました?」

勇者「よお神官。ああ、ばっちりだ。これ」

神官「わあ!後でじっくり読ませてくださいね。王室の司書さんから紹介してもらった本屋は、ここの角を曲がったところです」

勇者「その本屋が、魔族が書いたこの本を出版するのを頼まれてくれるといいんだが」

248 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/30(金) 03:10:13.73 ID:+SsGWOIOo

神官「……ええと、このあたりのはずなんですけどね」

勇者「もしかして……この廃屋みたいなボロい建物か?
   よく見りゃ本屋の看板があるぞ」
   
神官「えー……」

勇者「うーん……」

神官「俄かに不安になってきましたが……とりあえず行きましょう。
   あ、聞くところによると主人はかなりの変人らしいです」
   
勇者「えー……さらに不安になってきた」

ギィィィィッ

勇者「うるせっ…… おーい、主人いるか?」

神官「す、すごい埃っぽい店内……本が雑に積み上げられてる。ここお客さん来るのかなぁ」

本屋「は~い。んおっ!珍しいねえ。勇者サマに神官サマじゃないか。こんなインチキ本屋になんの用かね。ところであんたいい体しとるな」ジロジロ
   
神官「うっ。なんか私この方苦手ですぅ……」ササッ

249 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/30(金) 03:11:05.85 ID:+SsGWOIOo

勇者「1つ頼みがあってな。この本を出版してほしいんだ」

本屋「ん?ん~~。ほっほ、こりゃこのご時世だと出版してすぐ禁書指定を受けそうな本じゃの。
   作者名は、なしか。まあ珍しくないわい」
   
勇者「作者は魔族だよ」

本屋「……ほ?」

* * *

勇者「というわけ」

神官「勇者様、いいんですか?この怪しげな人に全部話しちゃって……」

本屋「ブァッハッハッハッハ!!おもろいことに手ぇだしとるのぉ!いいぞ、のった。出版しちゃる」

勇者「助かるぜ」

本屋「なーに、この店はもともと明るみに出せないような本ばかり扱ってるのさ。魔族が書いた本なんてのよりもっとすごいのもあるぞ」

神官(なんでそんな怪しいお店を、王室司書さんが知ってるんでしょう……)

250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/30(金) 03:11:49.91 ID:+SsGWOIOo

本屋「発行部数はどうするね?」

勇者「うーん。すぐ禁書になりそうなんだろ?少なめがいいのかな」

神官「ですかねえ」

本屋「お主らてんで素人じゃのぉ。こういうのは……禁書指定されてからの方が売れるんじゃ。禁じられるほど見たくなるのは人間の性じゃからの」

勇者「そ、そうなのか?じゃあそこらへんはあんたに一任するよ」

本屋「そうしてもらえると助かるね。出版自体は2週間あればできる。またそのころにここにおいで」

勇者「おう、頼むぜ。ありがとな」

本屋「ま、横の姉ちゃんは今夜あたりにでも来てもらって一向に構わんがの!」ニヤ

神官「ひぃぃっ お断りですよ!」

ギィィィィッ… バタン

251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/30(金) 03:12:20.96 ID:+SsGWOIOo

勇者「2週間っていうと、ちょうど俺たちが同盟結成を考えたときから3カ月経つ頃か」

神官「早いですね。もう半分ですか」

勇者「人集めっていう地道な作業だったからな。でも、そのおかげで着々と基盤は固まりつつある。
   でもそうだな。そろそろ次の段階に進むべきかもしれないな」

神官「次って言うと、星の国か雪の国に、認証書をもらいに行くんですか?」

勇者「ああ。本を配ってもらったり、ほかの普及活動は同盟のみんなに任せられるだろうし」

神官「そうですね。今夜の集会でそのこと皆さんに話してみましょう」

勇者「あ、そういえば。一週間後の集会に竜人と魔女も参加するから」

神官「ええ分かりました、竜人さんと魔女さんも―――って、ええぇぇぇ!?」

勇者「ばっ 声が大きい!注目されてんだろうが!」

神官「す、すいません!で、でも。なんでお二人が!?」

勇者「ちなみに今、俺の宿に二人ともいるから」

神官「えええぇぇっぇ!!」

勇者「だからいちいちリアクションでけーよ!!」

252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/30(金) 03:12:49.66 ID:+SsGWOIOo

一週間後 夜 バーの前

神官「まさか本当に王都に滞在するなんて……ほんと無謀というかなんというか」

竜人「一回来たところでないとテレポートできないところが不便なんですよね。でも無駄な時間を過ごしてた訳じゃないですよ」

魔女「そうそう、あの後勇者と話してからちゃんと王子探しにまた出かけたしー」

勇者「結局王子の手がかりは掴めないままか……どこにいるんだろうな。案外この王国に戻ってたりして」

カランカランッ

ざわざわざわざわ がやがやがや

勇者「おお、今日も集まってるな。みんな暇なんだな」

姫「暇じゃないわ、もう。忙しい中時間を縫ってきてるの」

騎士「私も姫様がもっと城で大人しくしてくれれば、よりお暇頂けるんですけどね」

司書「おや勇者様。本の件はいかがでした?」

勇者「滞りない。出版は2週間後だそうだ」

歴史家「2週間後ですか……その前に原本を見てみたかったな。待ちきれん。なにせ魔族の書いた本など前代未聞だからな」

冒険者「だよなー!早く読んでみてーなー!」

253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/30(金) 03:13:18.85 ID:+SsGWOIOo

戦士「……む?勇者、横のフードを被った2人はもしかして」

勇者「ああ。気づいたか。 おい、みんな、魔族の話なら本じゃなくて直接いま聴けばいいさ」

姫「どういうことですの?」

バサッ

勇者「今この場に魔族2人がいるからな」

竜人「初めまして。竜族の者です」

魔女「魔女ちゃんでーす!」

「!?」

「ま……魔族!?」

ざわざわっ

254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/30(金) 03:14:49.50 ID:+SsGWOIOo

姫「なっ……!?」

騎士「姫様、念のためお下がりください!」

冒険者「うっひょー!魔族初遭遇なんすけどー!」

勇者「落ち着けよ、みんな。まあ俺も同じようなリアクションとっちゃったんだけどさ、最初」

戦士「この者たちに敵意はない。俺が保障しよう」

神官「お二人ともいい方たちなんですよ!ほんとに!」アワアワ

司書「……た、大変失礼しました。初めて違う種族の方にお会いしたので、少々動揺してしまいました。情けない……」

歴史家「無礼をお許しください、魔女殿、竜人殿」

255 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/30(金) 03:15:20.31 ID:+SsGWOIOo

魔女「あはは、そりゃーちょっとびっくりするよねー。いいよ全然気にしてないから。私の心は海並の広さを持ってるから」

魔女「でも、剣を構えるのは警戒しすぎなんじゃないの?騎士さん」パチン

騎士「う、あ、も、申し訳ない……///」

姫「えっ、なに貴方、ちょろすぎないかしら。ウインクひとつで真っ赤ってどれだけ初心なの」

竜人「もしかして貴女がこの国の王女様ですか?私たちのためにお力を貸して下さって、本当にありがとうございます」

姫「私?いえ……むしろ私は謝らなければ……あなたたち魔族に」

竜人「謝るなんて、よしてください。これからよろしくお願いしますね、王女様」

姫「あ、あ……そうね。ええ……勿論です。こちらこそ///」

勇者(あれー?)

256 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/30(金) 03:16:06.20 ID:+SsGWOIOo

冒険家「いろいろ話聞かせてくれよ!魔族のオニーサンオネーサン」

歴史家「ぜひ詳しい話を私にも!いっそこうなったら私も本を書いてみるかな」

小説家「それなら私も。匿名なら問題なかろうて」

神官「あら……大人気ですね」

勇者「盛り上がってるとこ悪いが、しばらくこっちでの活動はあんたらにまかせていいか。
   俺と神官と戦士、竜人、魔女はこの国以外で活動するからさ」

戦士「む、ついに認定書入手に動き出すか」

勇者「ああ、そろそろいいだろう。王子探しのために、雪の国より星の国を優先しようと思う」

竜人「私も星の王に謁見させてほしいのですが」

勇者「……いやいやいやいや。それは流石にまずいだろ」

竜人「ではどうやって勇者様は王を説得なさるつもりで?」

勇者「そりゃーまあ」

257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/30(金) 03:18:34.22 ID:+SsGWOIOo

勇者「戦争はよくないから」

竜人「あちらは魔族を害獣か何かと同列に見なしてるんですよ。害獣駆除はなされるべきであって、いい悪いでは語れません」

勇者「じゃあ、こう言うさ。このまま戦争になれば、星の国もうちの国の軍力増強に協力させられるだろう、と。あちらさんはそういうの嫌いらしいしな」

竜人「それではどうして勇者様が神の法を使って無血クーデターを起こそうとしてるかの理由になってません。怪しさ満点ですよ」

勇者「うっ……」

神官「勇者様が押され気味だ!」

竜人「つまり、説得力を持たせるためにはやはり私が王に直接会わなければ。魔族は害獣なんかじゃないとはっきり認めさせるのです」

戦士「しかし、かなりの危険が伴うのでは?」

竜人「それも承知の上ですよ」

魔女「あ、ちなみにあたしはパスね!うまく敬語とか使えないから!」

竜人「それは元から期待してないから大丈夫です」

魔女「ひでーや!」

258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/30(金) 03:19:09.17 ID:+SsGWOIOo

勇者「じゃあ王に謁見組が俺、竜人。星の国で太陽国王子を探す組が魔女、神官、戦士、って感じでいいか」

魔女「いいよー」

戦士「承知した」

神官「あの、謁見組は二人で大丈夫なんですか?」

勇者「俺も竜人も転移魔法使えるし、やばくなったら逃げるよ。大丈夫大丈夫」

竜人「まかせてください」

魔女「がんばってねー」

姫「……」チラチラ

騎士「あの……なにさっきからチラチラ向こう盗み見てるんですか、姫様。ばればれですよ」

姫「なっ……あなただって、さっきから聴き耳立ててるのばればれです!」

騎士「べべべべつに俺は!なにも!姿だけじゃなく御声も美しいだなんて、おおお思ってませんよ、ええ!///」

姫「あらそう。その割には耳が真っ赤だわ」

259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/30(金) 03:19:46.49 ID:+SsGWOIOo

* * *

勇者「よっしお前ら!準備はいいか!」

神官「ええ、ばっちりです!薬草に、魔水に、気つけ薬も十分持ちました。あとお菓子とお弁当とお金と――」

戦士「張り切っておるな」

勇者「神官、菓子と弁当はいらないだろ」

神官「え?でも長い道中暇じゃないですか」

勇者「あのな、テレポートで行くに決まってんだろ?時間が節約できる時に節約しなきゃ」

神官「へあ!?あ、そっか!」

竜人「私たちも準備万端ですよ」

魔女「張り切っていこー」ダルン

勇者「行くぞ」

シュンッ

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260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/30(金) 03:20:13.06 ID:+SsGWOIOo

星の国 

がやがやがやがや ざわざわざわ

シュンッ

勇者「よし、うまい具合に路地裏に出たな」

戦士「なんだか不法侵入みたいで気がひけるな」

神官「で、でも竜人さんと魔女さんいますし、正規ルートはまずいですよね」

勇者「大丈夫だろ。前に俺たち一回きたし、勇者パーティだし」

魔女「あれれ、意外と大雑把」

勇者「俺たちは王宮がある都をここから目指そう。馬車ですぐだ」

神官「私たちはいろんな村や街を回りながら情報収集しましょうか」

魔女「なんかもっとキラキラしたところ想像してたんだけど、森とか畑ばっかりだね」

戦士「天文台のある都はすごいぞ。特に夜は身惚れるほど美しい」

魔女「ええっ!あたしも都に行きたいなぁ。宝石とか洋服とかみたい~~」

戦士「だめだ。そら行くぞ」

魔女「ああ~~」

神官「じゃあ、勇者様も竜人さんも、頑張ってくださいね!」パタパタ

261 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/30(金) 03:20:40.25 ID:+SsGWOIOo

がやがやざわざわ 

竜人「うわ……すごいですね。建築物のデザインが全て幾何学的に統一されてて、きれいな街並みです。それにあの王宮より高い塔は一体……?」

勇者「ありゃ天文台だよ。ここは別名、学問の都だ。ありとあらゆる分野の最先端をいく研究がなされてて、その中でも特に天文学が進んでるんだ」

竜人「それにしても高いですね。雲を突き抜けそうだ。魔王様にも見せてあげたいです」

勇者「夜はもっとすごいぜ。王宮に行くより先に宿をとっとこう」

竜人「ええ、分かりました」

宿屋

主人「いらっしゃい。2人かい?」

勇者「ああ、2部屋頼む」

主人「毎度あり。2階の部屋使ってくれ。1階の奥は食事処になってるから、よかったら食ってってくれよな」

竜人「食事ですか。先に腹ごしらえしていきます?勇者様」

主人「都限定、星入りスープが人気だぜ!」

勇者「それ一回食ったけど、何が原材料なのかさっぱり分かんないんだよな……。先に食事するか」

262 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/30(金) 03:21:35.91 ID:+SsGWOIOo

がやがや がやがや カンパーイ

竜人「……このスープのこれ、本当に何でできてるのか分かりませんね。まさか本当に星じゃあ……」モグモグ

勇者「だよな。俺もよくわからん」

料理人「栄養バランス完璧だぜ!栄養学も発展してるからな、この国は!タンパク質27%、ビタミン16%、それから……」

勇者「あーあーいい、いい!そういう話は聞かせてくれなくていいから!俺頭痛くなるから!」

 「おやっさん、肌荒れにきくいい食事よろしくっ!」
 
 「あ、ああ、構わねえが――あんたが食うのか?」
 
 「コラーゲンたっぷりのカクテルももらっちゃおうかな?」
 
 
勇者「! (この声……どこかで聞いたことあるような?)」

勇者「野太い掠れた声で甘ったるく女子みたいなことを喋る奴、どこかで会ったことがあるような」チラ

竜人「勇者様?」

勇者「!!!!!!」

263 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/30(金) 03:22:03.14 ID:+SsGWOIOo

勇者「竜人、今すぐこの店を出るぞ!」ガタッ

竜人「はい?まだ食べ終わってないのですけど」

勇者「いいから!この世界で一番の危険人物が背後にいるから!」ヒソヒソ

旅人「ん?あら?あらあら~!?やだ!!勇者ちゃんじゃないのぉ!?偶然ね!」ガタッ

勇者「Noooooooooo」

竜人「えっ……と。こちらの男性は、勇者様の知り合いですか」

旅人「例えて言うなら、ベガとアルタイルってとこかしら」

勇者「チガウ!チガウ!」

竜人「ああ。そういう愛の形もありますよね。私は応援してますよ、勇者様。安心してください」ニコ

勇者「誤解が加速して止まらないよ!俺を置いてけぼりにしないで!」

264 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/30(金) 03:22:31.56 ID:+SsGWOIOo

旅人「で?星の都になにしにきたの?勇者ちゃん」

勇者「あんたにゃ関係ないだろうが……おい!頼むからすり寄ってこないでくれ」

旅人「つれないわー。そんなところも好きだけど。でもあたし、これでも情報通だから役に立つかもよ?」

竜人「あの、私席はずしましょうか」

勇者「余計な気回さなくていいよ!ああ、もう。星の王にお願いしたいことがあって来たんだよ」

旅人「お願いしたいこと?へえ~ だったらいいこと教えてあげる」

勇者「いいこと?」

旅人「あ、別にやらしい意味じゃなくてね」

勇者「知ってるわい」

旅人「盗賊団の噂きいたことない?最近猛威を奮ってるらしいわよ、3国を股にかけて」

竜人「ああ、そういえば少し聞いたことがあるかも」

旅人「少数精鋭でかなり腕っ節の強い連中みたいよ。で、そいつが今狙ってるのが、この都の天文台のてっぺんに飾られてる宝石!っていう噂」

勇者「ふーん」

265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/30(金) 03:23:00.75 ID:+SsGWOIOo

竜人「なら、その盗賊団を捕まえて王に差し出せば印象良好って訳ですね」

旅人「そーゆーことね。どう?いい情報じゃない?」

勇者「確かに試してみる価値はあるな。盗賊団のアジトとかも知ってんのか?」

旅人「さすがにそこまでは知らないわ、ごめんなさいね。でも最近都ではその噂でもちきりだから、色んな人に話を聞いてみたらいいんじゃないかしら」

勇者「そうしてみるか。よし、食事も済んだし、行こう」ガタッ

旅人「あら?まだ情報料もらってないんだけど」

勇者「あ。……いくらだ?」

旅人「お金じゃなくても構わないわよ?」

勇者「い く ら だ」

旅人「つれないわね」

竜人(この人どこかで見たことあるような……)

275 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/11(水) 00:22:16.22 ID:pAdjx2C6o

旅人「……」

竜人「……!? な、なんでしょう。私の顔に何かついてますか?」

旅人「ん~。あなた、あたしと会ったことなぁい?見覚えがあるようなないような……」

竜人「! それが、私もそんな気がしてt……ハッ!」

竜人(この人、以前魔王城に流れ着いてきた人だ!やばい! それにしても、私が覚えているのはいいとして、
   忘却呪文かけられたはずのこの人がなんで私の顔を覚えているんだ?)
   
竜人「き、気のせいじゃないですかね、ハハハ……」

旅人「怪しいわね」

勇者「お、おい。もう俺たちは行くからな。じゃあ世話になったな!」

旅人「あ、んもう。逃げ足速いわね」

276 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/11(水) 00:23:08.42 ID:pAdjx2C6o

* * *

盗賊1「兄貴!兄貴ー!」バタバタッ

盗賊2「大変ですぜ兄貴!」

仮面をつけた男「んだよ……騒がしいな。天文台への侵入ルートでも割れたか」

盗賊1「それはまだですけど、もっとすごいこと聞きました!」

盗賊2「この星の都に、勇者が来てるそうです!!」

仮面「なに?勇者が……。確か勇者は神話級の剣を持ってるって噂だったな?」

盗賊1「時の神殿から持ち帰った『時の剣』ですね!さっき宿屋の窓を覗いてみたんですが、ばっちり持ってましたよ。
    大層高そうな宝石が柄に埋まってやした!」
    
盗賊2「しかも連れは一般人の男のみみたいですぜ!こりゃあ千載一遇のチャンスだ兄貴!」

仮面「ふん……そいつは本当なんだろうな?だとすると『時の剣』……いくらで売れるかね。
   よしお前ら。ターゲットを変更だ。勇者の剣を盗み取るぞ!!」
   
盗賊1・2「おっす!!」

277 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/11(水) 00:24:22.12 ID:pAdjx2C6o

勇者「うーん。いろいろ聞きこみしてみたけど、やっぱ盗賊団のアジトを知ってる者はいなかったな」

竜人「噂はそこここで聴くんですけどね。相当有名な盗賊みたいじゃないですか。悪い噂ばかりじゃないですし」

勇者「変に民衆に人気のある盗賊っているよな。義賊ってわけでもなさそうだが。で聞いた話によると……
   今回星の都で狙われているのは、この街の天文塔の頂点にある“アステリオス”という宝石だ」
   
勇者「いくら民に人気がある盗賊っていっても、アステリオスが狙われてると知ったら天文学者たちは怒髪天だろうな」

竜人「その宝石にどんな価値があるんです?」

勇者「そいつには魔力が宿ってるとされてる。別名「星の王」とも呼ばれるアステリオスは、星空を守護してるんだ。
   俺も神官から昔聴いた話だけど、天球を観察するのに邪魔なものはたくさんある。
   汚れた空気や街の灯り、人里と切っても切り離せないそれらをアステリオスは退けてくれるんだとさ」
   
竜人「なるほど。確かにそれは学者からしたら生命線とも言える代物ですね」

勇者「今日の夜から天文台に護衛に行こう。話はつけておいたからな」

勇者「あーあ、盗賊狩りならもっとこっちに人数いれりゃよかったな。神官、魔女、戦士のうち誰か一人でもこっちに入れてれば……
   そういえば、竜人って竜に変身しない場合、どれだけ戦えるんだ?」
   
竜人「それなりに剣術は嗜んでます。勇者様には負けますけどね。私も頑張りますよ」

勇者「そうか。頼りにしてるよ」

278 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/11(水) 00:25:35.75 ID:pAdjx2C6o

竜人「辺りが暗くなるまであと1時間ってところでしょうか。先に休みます?」

勇者「だな、今のうちに飯を食っとこう。今度はあいつに会わないといいが」

竜人「同感ですよ…… ん?」

ガシッ!!

男1「よお兄ちゃん二人でなにしてんだ!?これから飯かい? ならあそこの角の定食屋がオススメだぜ!」

男2「看板娘がとびきりかわいっくってな!……ん!?その姿……まさかオメェ勇者か!?」

勇者「あ、ああ」

男1「こいつぁすげえ!!まさかこんなところで勇者に会うとはよ!聞いたぜオイ、昔、北の大盗賊団を壊滅させたってマジか!?」

勇者「(あのころ魔物に全然遭遇しないから盗賊狩りばっかしてたんだよな……) 本当だ」

男2「かぁ~!かっくいいね!よしきた旦那、今日は俺の奢りだ!一緒に飯食わせてくれや!」

竜人「どうします、勇者様……って、ああ、ちょっと。引っ張らないでくださいって!」

勇者「お、おい。俺たちあんまり時間がとれないんだが」

男2「かまわねえかまわねえ!」

279 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/11(水) 00:26:29.43 ID:pAdjx2C6o

がやがやがやがや

男1「勇者様とそのお仲間様にかんぱーい!! 遠慮せずに飲んで食ってくれや!!」

男2「ここの葡萄酒は格別でね、俺も毎晩呑みにきちまってるのさ!おかげで酔ってるのか素面なのか誰にもわかんねえ有様だ!」

勇者「奢ってくれんのは有り難いけど、食事だけにさせてもらうよ。悪いな」

男1「なんだ勇者、お前下戸かい!?んなこと言わずに!!ほれほれ!!男なら一気に呷っちまいな!」

勇者「ちょっ!?ごぼごぼ……」

竜人「ああ、なにしてるんです。お酒は……」

男2「ほら兄ちゃんも呑みな!!!奢りだ奢りだ!!」

竜人「いや私はいいですって、ごぶっ!」

男2「はーはっはっはっは!!いい呑みっぷりだ!さすが伝説の勇者パーティだな!!」

半刻後

勇者「うっく――くっそ、なにしやがる。人の話も聞かずに――うぐっ。ああクラクラする」

男1「おいおい、もう終いかい?顔が茹だこみたいになっちまってるぜ!!」

280 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/11(水) 00:28:15.21 ID:pAdjx2C6o

竜人(これじゃ天文台に行くのは明日からになりそうですね。まあ仕方ありません。今日盗賊が来ないことを祈りましょうか)

竜人「勇者様、大丈夫ですか?」

男2「あんたは随分酒に強いんだなあ!呑んでも呑んでもしらーっとしてる」

竜人「まあ体質でして」

男1「ここの上は宿屋になってるんだ。俺が勇者を連れてってやるよ。お前らはまだ呑みたんねぇだろ?そこにいろよ」

竜人「いえいえ、私が連れてきますよ」

男1「呑ませちまった俺に責任があるからよ。気にすんなって。よいしょっと」

勇者「うっ」

竜人「そうですか……じゃあお願いしますね」

……バタン

男1「ふう、ふう。重いなくそったれ。おい勇者」

勇者「……」

男1「完全に寝入ってやがるな。しめしめ。これが、『時の剣』……。生きて出てきた者はいないという時の神殿の奥に眠っていたという……
   へへっ!すげえや!!それじゃこいつを失礼して!」
   
盗賊1「兄貴のところに持ち帰るか!!」

281 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/11(水) 00:29:22.31 ID:pAdjx2C6o

男2「あんたの出身はどこだい?」

竜人「太陽の国の北あたりですよ」

男2「へえ。あの国のか。それじゃさぞかし星の国の住民は奇妙に映るだろうな。周りを見てみろよ」

竜人「……」

「東洋から伝わった学術書をもう読んだか?あれに書いてある惑星の平均運動について疑問があるんだが……」

「天体の位置計算の補足表、最新のものがでたらしいね。これで私の研究も一歩前進といったところだ――」

竜人「……まあ、酒の肴に学問の話とは、結構変わってると思います」

男2「だろ?どこを見ても勉強のことばっかで、学のない俺らにとっては居心地悪いったらねえや」

竜人「ところで、お連れの方遅くないですか?ちょっと見てきましょう」

男2「あーあー!待て待て、俺が行ってくるよ!」

ガタッ!!バタバタ……

282 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/11(水) 00:30:01.73 ID:pAdjx2C6o

男2「よう。どうだった」

盗賊1「へっへ、見てみろこれ」

盗賊2「うおおおお!すっげえな!こりゃ高く売れるぜ!あいつらが気づく前に、兄貴のところに行こう!」

盗賊1「ああ!」

盗賊のアジト

盗賊1「兄貴ー!!盗んできやしたぜ!!時の剣だ!!」

仮面「おお、よくやったな。俺の方も朗報だ。天文塔への侵入ルート見つけたぜ」

盗賊2「さっすが兄貴だ!」

仮面「これから盗みに行くぞ。「星の王」――アステリオスを」

仮面「勇者が邪魔に来たとしても、この剣があれば無敵だ。丸腰の勇者と、伝説の剣を手にした俺、果たしてどっちが勝つだろうか」

盗賊1・2「兄貴だ!!」

仮面「そうとも。勇者が酔いつぶれた今がチャンスだ。行くぞ!!」

盗賊1・2「おう!」

283 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/11(水) 00:31:02.67 ID:pAdjx2C6o

「…………ま……う……さま、勇者様!!」

勇者「ん……!? な、なんだ?竜人?」

竜人「起きてください勇者様。腰に差してた剣はどちらに?」

勇者「へっ?どこにも置いてないけど――あれっ!?ない!!どこいった!?」

竜人「もしかして、さっきの男たち……私たちが追っていた盗賊団のメンバーだったのでは?」

勇者「なに!?っつ、頭いてぇ!あいつらどこ行ったんだ?」

竜人「勇者様を連れてった一人も、様子を見に言ったもう一人も、全然戻ってこないので見に来たらこのありさまですよ。多分もう逃げたかと」

勇者「あいつら!!最初っからそのつもりだったのか!くっそ!!急いで天文台へ行くぞ、竜人!」

竜人「天文台へ!?でも勇者様、足元ふらついてますけど」

勇者「俺から奪った剣を手にしてて、俺が体調万全じゃないこの今こそ、奴らにとって最大のチャンスだ!急ぐぞっ!」

竜人「勇者様そっち扉じゃなくて――」

ガターーン!!ゴシャァァァン!!!バタバタッ ゴトッ!

  おいなんだ!?上からなんか落ちてきた!  人!?

竜人「開け放たれた窓です――って、ああもう。遅かった……」

284 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/11(水) 00:31:38.46 ID:pAdjx2C6o

ダッダッダッダッ

守衛「止まれ、職員の印か推薦状は――ああ、勇者殿か……え、勇者殿!?なんで血まみれ!?」

竜人「さっき窓から落ちて……」

守衛「大丈夫ですか!?」

勇者「だいっ、だ、大丈夫だ!!気を抜くと吐しゃ物まき散らしそうな状態だが、大丈夫だ!」

守衛「それ大丈夫って言わないんじゃあ!? あ、行っちゃった……」

ダッダッダッ ズルッ バターーーン!!

 ユウシャサマー!!
 
 
 
 
守衛「……大丈夫だろうか……」

285 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/11(水) 00:32:18.10 ID:pAdjx2C6o

竜人「ここが最上階、宝石が保管されてる階ですね。!! 護衛の人たちが倒れてる!?」

勇者「俺も倒れそう…… おい、あんた! 気絶してるだけか。息はある」

竜人「まずいですね。もしかしたら宝石はもう……急ぎましょう」

勇者「ああ!」

勇者「この部屋か!開けるぞ竜人、準備しろ」

竜人「ええ」

バタンッ!

盗賊1「げっ!?誰だ」

盗賊2「勇者とその仲間!もう追いついてきやがったか!」

勇者「お前ら、やっぱり定食屋の男ども!!盗賊だったのか!!俺の剣を返せ!!」

竜人「全く、まんまと騙されてしまいましたよ。そして奥の、仮面をつけたあなたが親玉ですか?」

仮面「まあなぁ。でもそれがなんだってんだ?」

286 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/11(水) 00:33:23.76 ID:pAdjx2C6o

竜人「捕えます。剣は返してもらいますし、宝石もあなたたちに渡しません」

勇者「覚悟しろよ、お前ら」

竜人「勇者様、どこ向いてんですか。そっちただの柱ですしっかりしてください!!」

仮面「ッハッハッハ!剣も持たず、酒で千鳥足、そんな様で俺らと戦おうってのか?お笑い草だ。
   おい、お前ら、戦闘準備しろ! 俺も……」
   
   
スラッ――ジャキッ!

仮面「このお前から頂戴した剣の試し斬り、したいと思ってたところだ」

勇者「ハッ。強さってもんは剣で決まるんじゃない!本当に強い奴ってのは例え剣が鈍らだとしても立派に立ち振る舞えるもんさ」

仮面「いや、俺はこっちだ。どっち向いて構えてんだよ」

勇者「あーくそ!!もう!!いいからかかってこい!!」

仮面「じゃあ遠慮なくっ!」

ガキンッ! ギンッ! ガッ!

287 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/11(水) 00:34:19.15 ID:pAdjx2C6o

盗賊1「俺たちの相手はあんたか!?」

盗賊2「あんたみたいなひょろい野郎、10秒で地に臥せてやるよ!!」

ヒュッ―― ガッ

竜人「うっ、流石に速いですね!これは骨が折れそうだ……」

竜人(勇者様は大丈夫だろうか。あの仮面の男、相当な使い手だと思うのですが……)

仮面「ほらほら!どうしたよ勇者様!?防ぐのすらできなくなっちまいやがったかぁ!?」

勇者「くっ!ベラベラうるせーな!!」

仮面「すげえな、お前の剣。こんなに切れ味が鋭いのに、羽のように軽いぜ。ちょっと本気出せば――」

スパッッ

仮面「――お前のその鈍らも、真っ二つだ」

勇者「……ですよねー」

仮面「ハハハッ!ついに虚勢すら張れなくなったか。終いだな」

勇者(くそ、後ろは窓か!もう逃げ場がない)

288 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/11(水) 00:35:13.04 ID:pAdjx2C6o

仮面「こっから落ちたら、さすがの勇者様も命の危機ってやつじゃあねえのか?ん?」

勇者「ぐ……てめぇ……。一日に二度も窓から落ちてたまるか」

ヒュォオオオオオオ……

勇者(……さすが世界一の天文塔、てっぺんとなると雲も突き抜けてるのか)

仮面「どうだい、上半身まるまる雲の上に浮いてるってのは、どんな心地なんだ?なんなら落ちてみるか?」

勇者「…………その前に、ひとつだけ教えてくれよ」

仮面「なんだ?」

勇者「今――何時だ?」

仮面「あぁ?変なこと聞くな、お前。ちょうど12時を回ったところだ。時間がそんなに気になんのか?」

勇者「そうか。ありがとよ」ガシ

仮面「おい、なに剣掴んで―――――ばっ!離せオイ!!落ち――――」

勇者「一緒に夜空の散歩と洒落こもうぜ、仮面野郎!」

ヒュッ……

289 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/11(水) 00:35:56.38 ID:pAdjx2C6o

キンッ ガッ ガキン!

竜人「すばしっこいですね、本当っ…… ってあれ?勇者様たちはどこに?」

盗賊1「よそ見してる暇はねぇぞ!」

竜人「その様ですね……!さすが盗賊、評判になるのも分かりますよ」

盗賊1「へへっ!だろ!?」

盗賊2「双子の俺たちは息もぴったりさ!」

盗賊1「どんな野郎も二人で倒してきた!」

盗賊2「あんたも食らいな!!ほらよっ!!」

盗賊1「背中がガラ空きだぜ、おいっ!!!」

ザクッ!

竜人「いっ……」

盗賊1「ハハハ!食らったな!」

竜人「かすり傷ですよ」

盗賊2「かすり傷でも傷は傷。俺たちのナイフには象でも動けなくなるほどの痺れ毒が塗ってあるのさ!」

盗賊1「どんな猛者もひとたまりもないくらい強烈な毒だぜ!あんたも今にぴくりとも動けなくなるね!」

竜人「毒ですか……」

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290 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/11(水) 00:36:55.40 ID:pAdjx2C6o

ヒュッ!!キィンッ!

盗賊1「なっ!?なんで動けるんだこいつ?」

盗賊2「この毒を食らって動ける奴なんて初めて見たぜ!」

盗賊1「なんなんだお前……?ただもんじゃねえな!?」

盗賊2「この毒を解毒できんのは、貴重も貴重、ドラゴンブラッドだけだ。でもあんなの実在してるかどうかも怪しいね」

竜人「そうですね……。竜の血はどんな病も治し、どんな毒も解毒するってあなたたちの間では伝えられてますね。
   もっとも純粋な竜族なんてもうこの世にいないので、万能の秘薬はもう作れなくなってしまいましたけど」
   
竜人「そんなもののために、私の母も父も……」

盗賊1「ああん!?なにブツブツ言ってんだぁ!?」

竜人「いえいえ、話しすぎましたね、すいません。では勇者様のことも気になりますし、そろそろカタつけましょうか」

盗賊2「フン、毒が効かないからって調子に乗ん―――」

竜人「オラァァァァ―――!!!」

バキッッ!!

盗賊1「拳!?ぎゃぶっ!」

盗賊2「っがぁ!?」

盗賊1・2「」

竜人「さて、勇者様とあの仮面の男はどこに……」

291 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/11(水) 00:37:40.99 ID:pAdjx2C6o

ビュォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ

仮面「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!馬鹿かテメェ!!!馬鹿か!!!本当に飛びおりやがって!!しかも俺も道連れとかふざけんなよクソ野郎!!!」

仮面「酒で脳もイカレたか!?テメェなんかと心中する気さらさらねーんだよッ!!!」

勇者「ぎゃあぎゃあうるせえな!落ち着け!」

仮面「これが落ち着いていられるか!!!死ぬんだぞ俺ら!!!」

勇者「まあ聞け!俺は転移魔法を使える」

仮面「はっ!?」

勇者「でもそのためには、お前が持ってるその剣が必要だ。俺に剣を返すか、このまま墜落死するか」

勇者「どっちにする?」

仮面「……ッ!!!剣でもなんでも返すから、さっさとその魔法とやらを使えクソ勇者!!!!!」

勇者「はいよ!」

シュンッ

292 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/11(水) 00:38:10.79 ID:pAdjx2C6o

シュンッ

勇者「……ふう」

仮面「はーっ、はーっ、はーっ、気狂いかテメェ」

竜人「勇者様!ご無事でしたか。びっくりしましたよ、気がついたらいないんですから」

勇者「ちょうど時間が12時過ぎててよかったぜ。この魔法は一日に一回しか使えないからな。おら、返せよ宝石」

ジャキッ

仮面「くっ……この野郎」

勇者「剣も取り戻せたし、宝石も守れたし、盗賊団も捕えたし。一件落着……あれっ?」

竜人「あっ」

バタンッ

竜人「勇者様!」

293 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/11(水) 00:38:45.28 ID:pAdjx2C6o

* * *

勇者「うーん……まぶし……。ん?朝か。ここは……宿?」

勇者「あれ、俺確か昨日盗賊と戦って、その後……」

ギィ バタン

竜人「お目覚めですか」

勇者「竜人!俺、どうなって?」

竜人「盗賊団のリーダーを倒した後、倒れたんですよ。まああれだけケガした後ですからね。体調はどうです?」

勇者「もう万全だ」

竜人「……この国の王から、召集がかかってます。勇者様が目覚め次第、体調が良好なら城にきてほしい、と」

勇者「国王から?そうか。じゃあ、行くか。お前、本当に来る気なんだな?」

竜人「ええ。もちろん」

勇者「ふう、じゃあ気を引き締めていくぞ。俺たちの本来の目的――認証書をもらいに行くんだからな」

竜人「はい。魔族と人の未来のために」

勇者「……」

勇者(魔王、見てろよ。認証書を絶対持ち帰ってやるからな)

294 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/11(水) 00:39:20.00 ID:pAdjx2C6o

魔王城

魔王「……」

ニンフ「魔王様、どうかしましたか?」

ノール「さっきから上の空ですけど」

魔王「……いやなんでもない。えっと、日付はこの日でよいのだったか」

ニンフ「ええ。でも……魔族が危機に晒されているこの状況で、本当にいいのかしら。その……」

魔王「いい。こんな状況だからこそ、何か皆を明るくさせるようなことが必要なのだ」

ノール「そう言って頂けると救われます」

魔王「私も楽しみにしている。竜人や魔女、勇者くんたちも来られたらいいのだがな。で、もう決めたのか?」

ニンフ「はい」

ノール「もう村のみんなにも伝えましたし衣装も準備しました」

魔王「そうか。もうすぐだな」

ニンフ「魔王様、どうぞ宜しくお願いしますね」

ノール「お願いします」

魔王「うん、分かってる。楽しみにしているぞ」

295 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/11(水) 00:40:01.64 ID:pAdjx2C6o

魔王(勇者くん、神官、戦士、竜人、魔女……元気にやっているだろうか)

魔王(やはり私だけ何もできないというのも歯がゆいものだな)

魔王(なんとか私の魔力と私の体を分離できれば、結界を維持しつつこの島以外で私が活動できる。
   その魔法を先日から研究しているのだが……一向に完成しない)
   
魔王(……はあ。いまごろみんなはなにしているのだろう……)

296 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/11(水) 00:40:48.62 ID:pAdjx2C6o

* * *

ゴゴゴゴゴゴ……バタ…ン

星の王「やあ。久しぶりだな勇者。横の彼は初めて会ったね」

勇者「お久しぶりです。星の国の王子よ」

竜人「初めまして……」

星の王「僕の国に来ていたのなら、言ってくれればよかったのに。盗賊団を捕えてくれて感謝しているよ。
    なにせ狙われてたのは天文台のアステリオスときたもんだ。盗まれていたらと思うとぞっとしないよ」
    
星の王「今盗賊たちは地下の牢につないで――」

騎士「失礼します!謁見中申し訳ございません、囚人どもが奇妙なことを口走ってまして、ぜひ王の耳にお入れしたいことがあるとか……」

星の王「僕の?そうか、じゃあここに連れてきてくれ」

騎士「よろしいのですか?」

星の王「ああ、いいよ」

勇者(王の耳に入れたいこと?なんだ?妙なことを言わないといいが……)

297 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/11(水) 00:43:00.61 ID:pAdjx2C6o

仮面「チッ 離せよテメェ!」

騎士「暴れるな!!」

星の王「罪人たちよ。僕に言いたいことがあるって言ってたけど、なんのことだろう」

盗賊1「王子様!聞いてください!そいつらは、少なくとも勇者でない方のそっちの男は!!人間じゃありません!!!」

勇者「!?」

竜人「……」

星の王「……なんだって?」

盗賊2「おかしいんですよ!人なら間違いなく効くはずの毒薬を食らってもピンピンしてやがったぜ、そいつは!!
    あり得ないかもしれねえが――そいつは!!」
    
盗賊2「人間じゃない!!魔族だ!!!」

勇者「なっ……!」

ざわざわざわざわ

騎士1「……っ!」

騎士2「魔族だと!?太陽の国が魔族との戦争を目論んでるとは聞いていたが、我が国にまで!?」

298 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/11(水) 00:44:16.78 ID:pAdjx2C6o

勇者(くそ!場の空気がもってかれた。交渉を有利にするために盗賊団を捕えたってのに、これじゃ逆効果だ)

星の王「騎士たちよ、剣をおさめなさい。ここにいるのは、私の友人だ」

勇者「!」

星の王「どういうことだか説明してもらってもいいかい?勇者……そして、お隣の彼は、なんて名前なのかな」

竜人「星の国の王子よ。素性を明らかにせず、あなたの御前に現れた無礼をお許しください。
   私は正真正銘、魔族の――竜族の血をひく者です」
   

ざわざわっ

騎士「貴様!!一歩たりともそこから動くな!宮殿にまで入り込んできおって!!」

勇者「俺たちは!!あなたに危害を加えようとしてここに来た訳ではありません!!どうかお話を聴いてください、王子!」

仮面「魔族だと!おいおい牢獄にいれる相手を間違ってるんじゃないか王子様!!俺たちを釈放してあいつらを牢にぶちこめよ!!」

盗賊2「どうりで毒がきかねぇわけだ!薄汚い魔族の血め!!」

騎士「動くな蛮族!!!」

星の王「……静かに」

星の王「我が国らしく、理性をもって物事を判断しようじゃないか。そのためにまず勇者と竜人の主張を聴こう。
    なぜ魔族の者が僕の国に?人間の希望たる勇者、君は何故魔族と共にいる?」
    
勇者「……有難うございます。ではお話しましょう。俺が魔族と共にここにいる理由、そして」

勇者「俺たちここ星の国に来た理由を」

299 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/11(水) 00:45:27.83 ID:pAdjx2C6o

勇者「俺は太陽の国の王に命じられて魔族討伐の旅に出ました。そしてついに魔王城の居場所を突き止めたのです。
   でも、そこで出会ったのは、想像していた魔族とは全く異なる者たちでした」
   
勇者「そして聴かされた魔族の歴史、境遇。俺たち人間に伝えられてきたものと全然違います。
   100年前の人魔戦争、その原因についても人間と魔族では伝えられてきたものが異なっています。
   俺は、何が正しいのか分からなくなりました」
   
勇者「歴史の曖昧さは仕方のないことです。でも1つだけ、分かっていることがあります。
   魔族は、俺たちが思っているよりずっと善良で、人間と性質が一緒だってことです」
   
星の王「一緒?どういうことだろう」

勇者「一緒です。気性の荒い者もいれば、血を見るだけで卒倒する者もいます。大体は、俺らと一緒です、平和な世界が好きなんです」

竜人「勇者様の仰る通りなんです。私たち魔族は戦争を始めて人間たちを脅かそうなんてこれっぽっちも思ってません。
   100年前の戦争で我らはどんどん種を減らし、今では純粋な魔族もほとんど残ってません」
   
星の王「……」

竜人「聴いてくれますか。私たちの歴史を」

星の王「……」

騎士「惑わされないでください、王よ!王宮の奥に魔族が入り込んでいるこの状況が既に危険ですよ!」

星の王「……聴かせてほしい。ぜひ」

騎士「王よ!!」

勇者「……!」

竜人「……! 有難うございます……!」

300 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/11(水) 00:46:24.10 ID:pAdjx2C6o

星の王「騎士たちよ、少し黙っていてくれ。僕の身を案じてくれるのはいいが、それではなにも新しい見聞など得られないのだから。
    真実とは常に思いもよらぬ方向から我らを導く。僕たちはそれを拒んではいけないのだ」
    
騎士「……っ! 仰せのままに、王よ」

星の王「さあ、聴かせておくれ。魔族の話を聴くのは初めての経験だ。歴史学も、天文学ほどではないが、この国では盛んなのだよ」

竜人「……はい。では……」

星の王「……なるほどね。実に興味深い話だ。それで、君たちは僕に何をお願いしたいんだい。
    盗賊たちを捕えたのも、交渉をスムーズに進めるための交渉材料のつもりだったんだろう?」
    
竜人「ばれてましたか……」

勇者「さすが王子です。太陽の国が魔族を殲滅しようという動きがあるのはご存じですよね」

星の王「ああ、確かあと3カ月後くらいだったかな。また軍隊要請の文が届いていたよ」

勇者「俺は、俺たちは、それを阻止しなければなりません。でも国王は聴く耳を持っておらず。
   よって、神の法を執行させるために貴方様の認定証を頂戴しにまいったのです」
   
星の王「神の……法?」

星の王「………………フフ」

竜人「?」

星の王「あーっはっはっはっはっは!!」

竜人「!?」

301 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/11(水) 00:48:00.14 ID:pAdjx2C6o

星の王「まさか本当に!?そんな制定以来一度も成功していない神法を本気でやろうと思っているのかい?」

勇者「……本気です。
   例え成功率が低くとも、やらなければ魔族は、こいつらは殺されるんですよ。人間の勝手な都合で。
   そんなの見過ごせるわけありません!!3カ月後に行われるのは――粛清じゃない、ただの虐殺だ!!」
   
竜人「お願いします。認定書を下さい。私たち魔族に生きる希望を下さい」

星の王「では、メリットとデメリットを考えてみよう」

勇者「……は?」

星の王「まずメリット。ゼロ」

勇者「いやいや!ゼロじゃないですよ!罪のない魔族たちが殺されずにすむんですよ!?」

星の王「それは魔族たちのメリットであって、僕たち星の国のメリットではないよね。
    では次。デメリット」
    
星の王「まず神の法執行失敗した場合、太陽の国の僕たちに対する風当たりは間違いなく強くなるだろうね。
    交易、外交、いろんな面で影響がでてくるだろうさ」
    
星の王「しかも神法はこれまで成功例がないときた。理由は分かってるよね。国王がそうむざむざと玉座から引きずりおろされるものか。
    なんとしてでも妨害するのさ。あらゆる手段を使って。大体君たちみたいな国の是正を目論む若者たちは暗殺されて、歴史の闇の中に葬り去られてきた」
    
星の王「こんな条件の下で、僕が認定証をだすと思うかい?
    魔族の君には同情するよ。でも頑張ってとしか言えない。悪いけどね」
    
竜人「……!!」

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302 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/11(水) 00:49:59.87 ID:pAdjx2C6o

竜人「……ひとつだけ、いいでしょうか」

星の王「なんだい?」

竜人「……人と魔族。悪だとすれば、どちらでしょう?」

星の王「難しい質問だ。でも多分、人だろうね。罪深い生き物だよ」

竜人「……そうでしょうとも。私も今、そう感じているところです」

騎士「貴様っ!」

竜人「……」

勇者「…………待ってください!!あります。メリット」

星の王「ん?」

勇者「あ、ありますよたくさん!!えっと……」

勇者(くそ、こんなとき神官がいてくれりゃあいろいろと喋ってくれてるだろうに……!
   でも俺が考えなければいけないんだ。考えろ!この頭でっかちの王子様を納得させられるような案を思いつかないと……)
   
勇者(魔族……魔王城……あの島…… そうだ)

勇者「神の法が無事執行された場合、魔族たちも交易ができるようになります。魔王城のある島では、人間界にない農産物や資源がたくさんあります。
   もし魔族が自由の身になった暁には星の国を交易面で優先しますよ! な、竜人!」
   
竜人「えっ?あ、はい!」

303 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/11(水) 00:51:12.39 ID:pAdjx2C6o

星の王「なるほど。でもそれだけかい?」

勇者「う……あ、あとは……」

竜人「……あともうひとつあります」

竜人「先ほど、あなたは『天文学ほどではないが、歴史学も盛んだ』と仰いましたね。
   学問の都であるここでは、歴史学、民族学、民俗学諸々最先端の研究がなされていると思います」
   
竜人「魔族という『滅びゆく種族』の語る歴史や文化、そのまま葬り去っていいのですか?
   あなたがたにとっては貴重な研究材料ではないのですか?私たちの仲間には、純粋な血族ではありませんが
   エルフ、ヴァンパイア、グリフォン、ハーピー、マーメイド、キマイラ、様々な種族がいます」
   
竜人「人体実験はごめんですが、認定書をくださればあなたがたに惜しみない協力をすることを約束しますよ」

星の王「……………………ハハ、やるじゃないか」

星の王「いいよ、認定書を差し上げよう」ニッコリ

勇者「!」

竜人「ほ、本当ですか……」

星の王「試すような真似をしてしまって申し訳ないね。まさか魔族に、本当に我々のような知性があったとは。
    いや恐れ入ったよ。どうやら君たちの話も真実みたいだ。僕は今日、また未知の真理に出会った。
    星に感謝をしなければ」

304 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/11(水) 00:51:57.04 ID:pAdjx2C6o

竜人「有難うございます」

勇者「やったな、竜人!王子、有難うございます!!」

仮面「おい、ちょっと待てよ。なに和解ムードになってんだコラ。魔族だぞ!?
   なんで魔族は見逃して俺たちは牢獄行きなんだよ!」
   
星の王「ああ、忘れていた。罪人たちを牢へ戻せ」

騎士「ハッ」

仮面「待て待て!離せよ!!」

星の王「どうしてアステリオスを盗もうとなんてしたんだい?あれがなくなったら天球の観察に支障をきたす。
    我らの国の一番大切な宝石なんだよ」
    
仮面「ケッ!石がなんだ、星がなんだ!!んなもん、腹の足しにもなんねぇよ!」

仮面「いいかよく聴け!俺はこの国が大っきらいだ!この世界には朝食うパンにすら事欠く奴がたっくさんいるんだ!
   あんな宝石、すぐ金にしちまって食いもんにした方がよっぽど役に立つってもんだ!
   それを後生大事に塔のてっぺんに保管しやがって、この国は勉強しすぎてアホに成り下がった奴ばっかさ!」
   
勇者「……」

305 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/11(水) 00:52:42.79 ID:pAdjx2C6o

星の王「学問の発展がいずれ国の発展にも繋がる。そもそも僕は慈善活動にも積極的だけど」

仮面「あの宝石を売った方が、その高邁な精神による慈善活動とやらよりもよっぽど民のためになるね!
   結局口だけだてめぇらは!教科書だけ見て国の汚い部分を見てねぇんだよ!!」
   
星の王「ひどい言われようだ」

騎士「貴様ッ!黙れ!!」

仮面「ぐっ…!」

盗賊1「兄貴ー!」

盗賊2「兄貴、もうしゃべらん方がいいですって!」

勇者「王よ、もうひとつお願いがあります。あの者たちを俺にまかせてくれないでしょうか」

仮面「はっ!?」

竜人「え!?」

星の王「理由は?」

勇者「俺たちが結成してる同盟はまだまだメンバーが足りません。できるだけいろんなところに人脈をはりたいんです。
   盗賊団のメンバーはまだいませんし、こいつらかなり腕が立ちます。俺にまかせてくれませんか」
   

306 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/11(水) 00:53:23.76 ID:pAdjx2C6o

盗賊2「はあああ!?なに言ってやがんだてめぇ!」

星の王「分かった、まかせよう」

盗賊1「ええええ!?なに言ってんだこのクソ王子!」

星の王「ほかならぬ勇者の頼みなのだから。星が僕に示してくれている。
    君は世界を導く者だって……」
    
勇者「は、はあ」

勇者(相変わらず、たまに訳分からないこと言う人だな)

星の王「じゃあその者たちを釈放しよう。では勇者、竜人、盗賊団よ」

星の王「――君たちの行く末に、星の導きがあらんことを」

307 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/11(水) 00:55:31.48 ID:pAdjx2C6o

今日はここまでです
男しか主に出せなかった(白目)

310 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/11(水) 22:11:05.37 ID:CBPwCfTRO

竜人って男だったんだ(震え声乙ー

311 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/12(木) 18:54:44.17 ID:75zHzbiJo

>>310
俺もその事実に驚愕

312 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/12(木) 22:15:02.66 ID:aI/xHT7co

竜人の性別逆だって思ってる方いそうだなーと思ってたらやっぱりいらっしゃいましたか
一応顔合わせで、姫が竜人に一目ぼれしてる描写いれたんだけど分かりにくかったですね…

男 勇者 戦士 竜人 仮面 盗賊1・2 騎士 グリフォン魚人キマイラ
女 魔王 神官 魔女 姫 ハーピー 

くらいかな?では投下

313 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/12(木) 22:15:59.64 ID:aI/xHT7co

――その頃――

魔女「ぜっっっっ」

魔女「んぜんっ!見つからないじゃん!!どこ行ったんだよ君らの王子様!?」

神官「はあ……そんな簡単に見つからないとは思ってましたけど」

戦士「今日も成果がだせなかったな」

魔女「あ、あそこに座ってる人かっこよくない?もしかして王子かな?ねーねーそこの君!」

魔女「違いました」

神官「ていうかやっぱり手かがりがですね、少なすぎますよ。……あれ?なんですあの鷹、こっちに飛んできます」

戦士「文が結んであるぞ。どうやら俺たちあてのようだな。なになに。
   ……む?なんだこの文字は。暗号か?」
   
魔女「見して。……これ、竜人からだね。んーと」

314 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/12(木) 22:16:31.46 ID:aI/xHT7co

魔女「認定書ゲットしたって!!」

神官「ま、魔女さん、しーっですよ!ちょっと声小さくしてください!」

魔女「いけね。ごめんごめん」

戦士「なんと!よくやりおったな勇者と竜人の奴」

魔女「続けるね。しばらくあっちも都で王子の聴きこみしてから帰るってさ。
   ……おっ!星の王様があたしたちが探してる王子様と幼少の時に知り合いだったみたいで、話聴いたって」
   
神官「え、なんて書いてあります?」

魔女「髪は金で、左目の下に泣きぼくろがあって、鎖骨あたりに昔剣術大会で負った傷の痕があるはずだって」

戦士「ほう。容姿は大分絞れたな」

魔女「ふーん。剣はかなりの腕前らしいよ。大会で優勝したこともあるみたい」

戦士「貴族たちの剣術大会なら俺も一度見たことがある。実戦よりも型の美しさの方が重視されるような大会だったが、
   それなりに白熱しておった。かなり独特な構えでな、こう片手を前に突き出してもう一方を……」
   
魔女「あたしたちに言われてもちんぷんかんぷんなんですけどー。魔術師組だもん。
   なんならお返しに光魔法と闇魔法の比較考察について講釈したげよっか?」
   
戦士「む……結構だ」

315 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/12(木) 22:16:57.82 ID:aI/xHT7co

神官「それにしても、これからちょっとは人探しも楽になりそうですね!勇者様たちも探してくれているそうですし!
   明日は武器商人の方たちにお話窺ってみましょう」
   
戦士「そうだな」

魔女「早く王子様に会ってみたいなー。どんくらいかっこいいんだろ?噂になるくらいだから相当だよね。神官も気になるよね?」

神官「へ?いえ私は別にそれほどでも」

魔女「好きな男とかいないの!?」

神官「はい!?な、なに言ってんですか!? 魔女さん、今そういうことお話してる場合では!」

魔女「いいじゃん別に、もう今日することないし。教えてよーねえねえー」

神官「いやですっ、もう勘弁してくださいよ!私そういうの興味ありませんからっ!」

キャッキャ キャッキャ

戦士「…………」

戦士(早く勇者たちと合流したい……)

316 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/12(木) 22:17:24.25 ID:aI/xHT7co

星の都

勇者「なあ。こういう顔の男見たことないか?」

学生「なんですそれ、似顔絵ですか?……うーん、見たことないですね」

竜人「金髪で左目の下に泣きぼくろがある男の人、ここに泊まったことありますか?」

宿屋「んん?ごめんな兄ちゃん、覚えてねーや。なにせ一日に何十人も客が来るからな」

勇者「……なかなか、見つからないな。やっぱり」

竜人「人が多すぎることがかえって仇になってますね」

勇者「おおい、お前らどうだった?」

盗賊1「へい!成果なしです!」

盗賊2「全然だめでしたぜ勇者の旦那!」

勇者「そっか。あれ、あいつは?」

仮面「……気安く呼ぶんじゃねぇよ。チッ」

317 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/12(木) 22:19:34.90 ID:aI/xHT7co

勇者「いたのか。西の方の酒場と宿屋はどうだった?」

仮面「……」

勇者「おい、ちゃんと聞きにいったんだろうな。無視すんなよ」

仮面「言っておくがな、俺はお前の下についた訳でもなんでもねぇからな。今逃げたら即牢に戻されるだろうから、協力してやってるだけだ」

盗賊1「兄貴、でも俺たちこの人たちのおかげで助かったんですぜ?おまけに昨日飯奢ってもらったし」

盗賊2「竜人の旦那にも悪いこと言っちゃったな。すいません」

竜人「いや別にもういいですよ」

盗賊2「魔族がこんないい人だなんて知らなかったぜ。でもこの人の仲間が王国に殺されそうなんだろ?
    弱きを助けて強きをくじく!それが俺たちの信念じゃねえですか兄貴」
    
盗賊1「俺と弟は孤児でね、きたねえ路地裏で、泥棒の濡れ衣着せられて追いかけまわされて、餓死しそうになってたところを
    兄貴に助けてもらったんだ。だから、竜人の旦那の気持ちもちょっとばかし分かるんだ」
    
竜人「そうですか……大変でしたね」

盗賊2「兄貴、俺たちも協力しましょうよ!」

仮面「チッ! ほだされやがって馬鹿ども。まあいい、今だけだ。
   西は宿屋も酒場も目撃情報ゼロだったよ。このお前さんが描いた美青年像もちゃんと見せてやったぜ」
   
勇者「そっちもだめか」

318 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/12(木) 22:20:00.69 ID:aI/xHT7co

勇者「つーか、気になってたんだが」

仮面「あ?」

勇者「お前なんで仮面なんてつけてるんだ?怪しまれるだろ、とれよ」

仮面「うるせえな、いいだろ別に。ほっとけ」

勇者「まあ無理にとは言わないが……不便じゃないのか」

盗賊1「兄貴は俺たちと出会った時からこの仮面を愛用してんだ。よっぽど気にいってんですね!」

仮面「まあな。そんなことより、おいあそこの武具屋にはもう寄ったのか」

竜人「あそこはまだです。休憩してから行こうかと」

仮面「さっさと行くぞ。大きめの店だから客もいっぱいいんだろ。おーい親父、ちょっと話聞かせてくれよ」

盗賊2「あ、待ってくだせえ兄貴!」

竜人「急にやる気出しましたね。行きましょうか勇者様」

勇者「お、おう。……ん?こっちの狭い通りの奥……看板が見えるな。もしかして……」

勇者「悪い、先に行っててくれ」

竜人「え?あ、はい。……?」

319 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/12(木) 22:20:28.06 ID:aI/xHT7co

勇者「やっぱり武器屋だったか。目立たないところにあるし品ぞろえも悪いが、なかなかいい剣を売っている。市場じゃ見たことのないものばっかりだ」

鍛冶屋「おやいらっしゃい。見慣れない客だ。新しい剣かね?買い取りもやっとるよ」

勇者「ああいや、買いにきたわけじゃないんだ。人を探していて」

鍛冶屋「むっ!?お主、その腰の剣は……まさか神殿の……ふぉおお!ちょっと見せとくれ!後生じゃから!後生じゃから!」

勇者「ええっ!?あの、話聞、」

鍛冶屋「やはりそうか!!この美しい刀身……わしが何年修業を積んでも到達できんレベルだ。素晴らしい」

勇者(聞いてねえ……)

鍛冶屋「しかし、万人にとって扱いやすい剣という訳でもなさそうだな。この重さと刀の薄さ、しなり具合。なかなか扱いづらそうじゃ。
    そういえばこの間、店に何年も置いてあった業物を金髪の若者が買っていったわい。
    それも癖のある形でな、わしもなんであんなの作ったのか分からんのだが」
    
勇者「! 金髪の若者!?詳しく聞かせてくれ!そいつ、もしかして左目の下になきぼくろとかあった!?」

鍛冶屋「んなもん知らんわ」

勇者「ええっと、じゃあ、どんな剣買っていったんだ?」

鍛冶屋「こんな形の短剣だ。お前さんに使いこなせるのかと訊いたらな、わしが見たことのない構えをとってみせた。
    こう左手に短剣を握って、右手にサーベルを控えさせとるんじゃ。で足がこう」
    
勇者(これが貴族の剣術なのか?俺大会見に行ったことないんだよな……今度戦士に訊いてみるか)

勇者「あっ、じゃあ首元に傷跡はなかったか?」

320 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/12(木) 22:20:56.80 ID:aI/xHT7co

鍛冶屋「傷跡ねえ……おお、そう言えば若者が来た時には雨が降っておってな、天気が悪いと古傷が痛むだのなんだの言っとった」

勇者「本当か!そいつで間違いない。ありがとなおっさん!じゃあ剣返してくれ」

鍛冶屋「……」

勇者「……」

鍛冶屋「……」

勇者「……いや、早く返してくれよ」

鍛冶屋「……」

勇者「おい!!」

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321 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/12(木) 22:21:22.96 ID:aI/xHT7co

* * *

竜人「勇者様。どこ行ってらしたんです? ここの店も手掛かりはありませんでしたよ」

勇者「ちょっと手こずったが……聞いてくれ、王子の手がかりを見つけたんだ」

竜人「えっ」

勇者「近々雪の国に発つと言ってたそうだ。間違いなく最近まで彼はこの都にいた。もう少し目的地を絞り込みたいから、聞きこみを続けよう」
   
仮面「雪の国だぁ?はーん、奴さん随分飛びまわるもんだ。俺は星の国だけの協力でいいだろ?
   お前ら2人は好きにしろ。この際盗賊から足を洗っちまえばいい。俺は俺で好きにやる」
   
盗賊1・2「そんな、兄貴~!」

勇者「だめだ。最後まで協力してもらうぞ。そういやさっきの鍛冶屋との話で出たんだが……
   俺の剣、一般人にはかなり使いづらい形状だそうだ。あの天文塔で、よくお前あんな身のこなしできたな」
   
竜人「確かに変わった剣ですよね。装飾用や鑑賞用とも思えるくらい」

仮面「剣と名のつくもんなら大抵使えるさ。生きるために手当たりしだい近くにある刃物で戦ってきたからな」

勇者「へえ……」

322 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/12(木) 22:21:48.82 ID:aI/xHT7co

しばらくしたあと 魔王城

シュンッ

盗賊1「おお~!ここが魔王城ですかい!?すげえ!でけえな!」

盗賊2「俺たちまで連れてきてもらえるなんてな!ラッキーだぜ!」

仮面(魔王城か……いい宝あるか?)

竜人「盗んだら殺しますよ」

仮面「!?」

勇者「結局あれから王子の目撃情報はチラホラあったけど、雪の国のどこに行ったかまでは特定不明だったな」

竜人「まあ、これでもちょっとは前進しましたよ。雪の国ではきっと見つけられるはずです。……おや」

シュンッ

魔女「あ。勇者に竜人と――え、横の人たち誰?」

神官「お久しぶりです!皆さん!」

戦士「おお、認定書のことは聞いたぞ。でかしたな二人とも」

勇者「おー久しぶり」

323 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/12(木) 22:22:34.63 ID:aI/xHT7co

神官「聞いてください勇者様!王子を見たって人、いましたよ!なんと、次は雪の国に向かったそうですっ!!!」

勇者「ああ、俺たちもそれ聞いた」

神官「エッ」

勇者「雪の国のどこに向かうかは特定できたか?」

神官「いや……ええと……いえ……。ごめんなざい゛……」

勇者「なんで涙ぐんでるんだよ!?」

神官「調子に乗りました……穴があったら地核まで掘り進めて埋まりたい……」

勇者「ナイーヴすぎだろお前!」

魔王「……いつまで城の外でおしゃべりしているつもりだ?」

竜人「魔王様。ただいま戻りましたよ」

魔女「魔王様ぁぁ!ただいま~!」

仮面盗賊1・2(魔王……??あれが……?)
            
                  ↑
勇者「恒例の行事になってるな、これ」

324 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/12(木) 22:23:00.34 ID:aI/xHT7co

魔王「本当に認定書を……?すごい……まさか……。それに王子の行方もあと一歩というところだな。
   みんな、本当にありがとう」
   
勇者「あの国にもどうせ認定書をもらいに行くつもりだったしな。でもあと2カ月と少しで見つかればいいが……」

竜人「勇者様たちはこの後太陽の国に戻って、皆さまに報告なさってください。出版した本のこともあるでしょうし。
   表だって動けない私と魔女は、雪の国で引き続き王子探しをやりますよ」
   
魔女「はあ~……あたしあの国寒いから嫌い」

竜人「我がまま言うんじゃありません」

戦士「そうだな。それからこちらも落ち着き次第雪の国に向かって認定書を女王からもらおう」

神官「はい」

魔王「ところで、竜人たちも勇者くんたちもここを発つのは明日になるだろう?ぜひみんなに参加してほしいことがあるんだ」

勇者「ん?なんだ?」

魔王「ふふふ」

勇者「なんだよ、楽しそうだな」

魔王「明日は結婚式があるのだ」

325 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/12(木) 22:23:26.41 ID:aI/xHT7co

勇者「結婚式?ここでか?」

神官「わあ、素敵です!」

戦士「めでたいな」

竜人「ああ、あのニンフとノールのですね。間に合ってよかった」

魔女「大変!じゃあ明日のための洋服とメイクとヘアセットの準備して今日は早く寝なくっちゃ!おやすみみんな!」

勇者「はやっ まだ陽が沈んだばっかりだぞ」

魔王「式を執り行うのも魔王の役目なんだ。準備はもうばっちりしてあるから、勇者くんたちも楽しみにしててほしい。
   一緒にきたあの仮面の彼と盗賊たちにも伝えてくれ」
   
勇者「おう、分かった」

326 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/12(木) 22:23:52.58 ID:aI/xHT7co

翌日

仮面「なんで俺たちまで……」

竜人「あなた、夜中城の中をこっそり徘徊してたでしょう」

仮面「べっ、別になんもしてねぇけど!?」

竜人「……」

魔王「盗む価値のある芸術品なんかこの城にないぞ。物色しても無駄だ」

勇者「つーか、お前、結婚式くらいその仮面とれよ。一人だけ舞踏会の招待客だぞ。
   あとそれからいつもつけてるそのマフラーも。確かに今日は肌寒いけどおかしいだろ」
   
仮面「うるせぇな、ほっとけ。魔王のお譲ちゃんの言う通り、全然お宝ねえんだもんな。来て損した」

魔王「仲間の彼らはすごく楽しそうだが」

盗賊1「おお、ここが式場かぁ。俺結婚式にでるのなんて初めてだ」
盗賊2「俺もだぜ。花がたくさんあってきれいだなぁ!てか魔族ばっかだここ!すげえ!」
子エルフ「兄ちゃんたちも人間だー!人間いっぱい増えたー!すげえ!」

仮面「……はあ」

魔王「じゃあ先に私たちは先に中に入ってる」

魔女「またね~」

327 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/12(木) 22:24:19.04 ID:aI/xHT7co

ニンフ「魔王様、今日はよろしくお願いします」

ノール「よ、よろしくお願いします」

魔女「わああっ ニンフすごく似合ってるよ!きれい!ノールも男前じゃん!」

竜人「いやーやっぱりこういう行事は心躍りますねえ。幸せになるんですよ二人とも」

魔王「手順はこの間の言った通り、ここで婚礼の儀を終えたあと、外にでて島のみんなが作ってくれたアーチを潜って
   離れたところにある東屋まで歩いて行ってくれ。……そんなに緊張しなくていいと思うが」
   
ノール「そ、そそそそうなんですががっがね!」

ニンフ「やだもう、ノールったら……この人緊張しいなんです」

魔女「でも、ちょっと天気が心配だね―――あ、うそ……」

ポツ、ポツ……ザァアアア―――……

竜人「雨が……」

ニンフ「あら……どうしましょう」

ノール「これじゃ延期、かな?」

魔王「ああ、大丈夫。ちょっとこの荷物持っててくれ、魔女」

魔女「魔王様、えっ?なんで杖構えて」

竜人「ちょっと待ってください特大の風魔法発動して雨雲を吹き飛ばそうとかそういうの洒落にならないんでやめてくださいよ!?魔王様!?」

328 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/12(木) 22:24:45.25 ID:aI/xHT7co

魚人「いよぉ、久しぶりだな勇者御一行」

ハーピー「こんにちは」

勇者「久しぶり」

グリフォン「認定書ひとつ手に入れたって本当かい?すごいなあ」

戦士「まことだ。もうひとつも必ず手に入れる」

キマイラ「それは頼もしい。いやはや、あなた方のご活躍と今日の結婚式のおかげで久しぶりに島に活気が戻りましたね。
     子どもたちも元気に振る舞ってはいるもののやはり一抹の不安を感じていたようですが、今日は元気いっぱいで安心しました」
     
魚人「俺はいつでも元気爆発だけどな!!!!!フゥッ!!!!式場から二人が出てきたら秘蔵の酒を新郎にぶっかけようと思ってな!!!ワインシャワーだ!!!」

ハーピー「頼むからやめてあげて」

神官「花嫁ブチ切れますよ、それ……」

勇者「そろそろ式が始まるかな……。ん?」

ポツ、ポツ……ザァアアア―――……

戦士「む、雨か」

マーメイド「大変!私はむしろ大歓迎だけど」

魚人「俺もむしろ大歓迎なんだけどな」

グリフォン「魚人族はそりゃそうだろうけどさ。これじゃ式は中止かな?」

子ヴァンパイア「ええー!俺結婚式見たいー!」

盗賊1・2「「俺も見たい!!」」

仮面「てめえらすっかり馴染んでんなぁオイ」

329 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/12(木) 22:25:11.71 ID:aI/xHT7co

カッ!

神官「うわあ!?眩しい……これ、魔法の光じゃないですか?誰かが魔法を使ったんですよ」

勇者「魔法を?でもどうして。……あれ……雨が止んだ。代わりにあの白いの――雪か?」

戦士「いや、これは」

子エルフ「花びらだー!空から花びらが振ってくるー!」

仮面「……魔法でこんなこともできんのか」

グリフォン「僕も初めて見たなあ」

ハーピー「すごい……きれい」

勇者「これって――そうか、魔王か。完成させたんだな」

子ヴァンパイア「あ!お姉さんとお兄さんでてきたー!」

魚人「よおしお前らみんなでアーチ準備しろ!!あいつらを出迎えるぞー!!」

わいわいわいわい がやがやがやがや
「おめでとう!」 「おめでとうございます!」 「お幸せに!ニンフ!ノール!」

ニンフ「わ……す、すごいです。本当に雨が花びらになっちゃった……!」

ノール「こんなことが……」

330 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/12(木) 22:25:37.69 ID:aI/xHT7co

魔王「ほら、みんな待ってるぞ」

ノール「は、はい!有難うございました!」

ニンフ「こんな素敵な結婚式を挙げることができて、私たち幸せです……ぐすん」

魔女「泣いたらメイク落ちちゃうよ?夜に宴会もあるのにさ」ニコッ

竜人「さあ、行ってらっしゃい」ニコニコ

わーわー
 オメデトー ……
 
 
竜人「はあ……なんか涙でてきた……魔王様もいつかお嫁にいくのかと思うと。うぅ」

魔女「でたよー竜人の親ばか」

魔王「……。心配せずとも嫁にはいかないよ」

竜人「え?いまなんか言いました魔王様?」

魔王「なんでもない。私たちも行くぞ」

魔女「はいはーい」

331 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/12(木) 22:26:03.80 ID:aI/xHT7co

* * *

魔王城 鐘塔

魔王「……」

魔王「……誰だろう。ここに上ってくる足音が聞こえる。みんな宴会の準備をしているはずだけど」

勇者「なんだ、魔王。こんなところにいたのか。どうりで姿を見かけないと思った」

魔王「勇者くんか」

勇者「なにしてんだ?」

魔王「もうすぐ陽が暮れるなって」

勇者「ああ」

魔王「思ってた」

勇者「つまりサボリかよ。宴会の準備手伝えよ」

魔王「サボリではない。休憩と言う」

332 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/12(木) 22:26:35.57 ID:aI/xHT7co

勇者「あの魔法完成させたんだな。以前言ってた魔法だろ?」

魔王「そうだ。私は魔王なのに城から出れない無能魔王だからな、魔法の研究か草むしりくらいしかすることがないのだ」

勇者「そんなに卑下せんでも」

魔王「最近は空から菓子を降らせる魔法の前に、魔力を自分の体から分離させる魔法を研究している。それが完成したら私もいろいろ役に立てるのに……」
   
勇者「そんな魔法が作れたら、魔術界が騒然とするな」

魔王「作るさ。絶対」

勇者「本当に作りそうだから怖いよ。……お前と図書室で魔法のことを話していた時から随分時間が経ったもんだ」

魔王「色んなことがあったけど、今のような状況になるとは夢にも思わなかった」

勇者「俺も。……そうだ。忘れてた。ほらよ、これお前にお土産」

魔王「? ブローチ?」

勇者「星の都で売ってたものだ。陰で見てみろよ、火が灯ってるわけでもないのに光るんだ。
   露店の商人は本物の星が入ってるって言ってたけど、まあ売り文句だろ。原理は分からないな。お前なら分かるか?」
   
魔王「これは……多分、月桂樹の葉とガラス球と……いや」

魔王「……本物の星が入っているんだな、きっと。だってこんなにきれいなんだから。ほら、ささやかな光だけど頑張って瞬いてる」

魔王「勇者くんが星をくれた。君は本当にたくさんのものを私にくれる」

333 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/12(木) 22:27:04.02 ID:aI/xHT7co

タンッ

勇者「おい、そんなところに登ったら危ないぞ。ただでさえ運動能力ほぼゼロなんだから」

魔王「う、うるさい。少しくらいはある」

魔王「……この鐘塔は島で一番高いところにあるんだ。ここからなら島の全貌も、その向こうに広がる海も見える」

勇者「おー……。きれいな眺めだな」

魔王「勇者くんは死にたいって思ったことはあるか?」

勇者「なっ、なんだ突然。どうした。そんなことあるわけねぇだろ」

魔王「そっか。じゃあ勇者くんは強い人だ。実を言うと、私は昔何回も思ったことがある……早く死んでしまいたいって」

勇者「………………なあ、そこから降りろよ。そろそろ宴会も始まるんじゃないか?もう戻ろう」

魔王「竜人と魔女に会うまで毎日毎日毎日毎日そう思ってた」

334 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/12(木) 22:27:29.97 ID:aI/xHT7co

勇者「魔王。降りろって。手、貸してやるから」

魔王「……ん」

グイッ

勇者「ちょっ――馬鹿、落ち……っ」

魔王「でも、今は生きててよかったって思ってる。みんなと一緒に、勇者くんと一緒にこれからも生きたいって思ってる」

魔王「ありがとう、勇者くん……!」ニコッ

魔王「一緒に飛ぼう!掴まって!」

バサッ!!

勇者「わっ!?」

魔王「ほら、いま私たちは塔より高いところにいるんだ!」

魔王「夕陽に照らされて、空も私も勇者くんも、村も海も……全て金色に輝いている。なんてきれいなんだろう。そう思わないかな?」
   
勇者「風景を楽しむ心の余裕がないんだよっ!飛び降りたのかと思っただろ! ったく、お前に翼があるの忘れてたぜ……」

335 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/12(木) 22:28:02.79 ID:aI/xHT7co

魔王「飛び降りるなんてそんなこと、しないよ」

勇者「まぎらわしいんだお前は」

ノール「……ん?あれは……」

ニンフ「あら」

子エルフ「えー!じゃあ兄ちゃんたち、とうぞく団なの!?宝石とか盗んだの!?」

盗賊1「まあな。星の都の宝石だって、あともう少しで手に入れられるところだったんだぜ」

盗賊2「そうそう!星の都の次は雪の国宝物庫のスノーダイヤ、その次は太陽の国の美術館の『ほほ笑む女』を狙ってたんだぜ」

子ヴァンパイア「俺それ知ってるー!本で見たことあるー!すげえな兄ちゃんたち!」

盗賊1「勇者の野郎のあの剣だって、一回は盗みに成功したしな!へへへ!」

子エルフ「じゃあ兄ちゃんたち勇者より強えの!?」

子ヴァンパイア「……あー!!勇者と魔王様が空飛んでるー!!」

魔女「ほんとだぁ。あたしも箒もってこよっかな」

竜人「ああ、帰ったら魔王様の服を繕わなくては……」

336 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/12(木) 22:28:31.61 ID:aI/xHT7co

勇者「もう少し暗くなったら、ほんとに星まで手が届きそうだな」

魔王「うん……でもいらない。勇者くんがさっきくれたこのブローチがもうあるから。
   これから空が暗くなって、みんな旅立って、いつか私一人になったとしても」
   
魔王「この星がいつでも私を照らしてくれるから、さびしくないよ」

勇者「……。一人になんかなってる暇ないだろ? あのさ、お前雪を見たことないって言ってたよな」

魔王「うん、ない。でもいつか勇者くんが魔法で見せてくれるって言った」

勇者「あれやっぱり俺には難しい。無理だ」

魔王「えっ」パッ

勇者「ばっ!!おい手を離すな落ちる!!!」

魔王「ご、ごめん。……そうだな、難しいか。別に気にしなくていいぞ、勇者くんだって忙しいんだから……」

勇者「だから、代わりに!お前を雪の国に連れてってやるよ。俺たちが認定書を集めて、王子も見つけたら、
   魔族がこの島に留まる必要も、結界を魔王が張る必要もないだろ?
   そうしたら俺がお前を雪の国まで連れてってやる」
   
勇者「あそこに行ったら雪なんて腐るほどあるから、1日で見あきるだろうけどな。ハハハ」
   
魔王「私がこの島の外に……?」

勇者「そうだよ。鼻が真っ赤になるくらい寒いから覚悟しておけ」

337 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/12(木) 22:28:57.65 ID:aI/xHT7co

魔王「うん……そうなったら、嬉しい。すっごく嬉しい」

勇者「じゃあ約束な」

魔王「うん。約束だ」

勇者「……もう陽が沈んだな。宴会も始まってるだろう。戻ろうか」

魔王「……………………勇者くん、」

勇者「ん?」

魔王「   」

ビュッ バササ…

勇者「わっ すごい風だ。悪い、聞こえなかった。もう一回言ってくれるか」

魔王「……いや。大したことを言ったわけではない。気にしないでほしい」

勇者「なんだよ、気になるって」

魔王「あ。やっぱり宴会もう始まってた。早く行かないと料理がなくなってしまうな。急ごう」

勇者「? お、おい、引っ張るなって」

338 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/12(木) 22:29:42.65 ID:aI/xHT7co

がやがやがや わいわいわい

魚人「はいはーい!俺一発芸やりまーす!!秘儀水提灯!!」

グリフォン「わぁ。すごいなあ。それ腹の中どうなってるんだい?かっ捌いて本の通りか確かめてみたいな」

竜人「魚人、今すぐ逃げなさい」

ハーピー「人間同士の結婚式と、魔族の結婚式ではなにか違うところあるんですか?」

神官「人間同士といっても宗教によってしきたりは異なるんですよ。我々太陽の国では――」

ニンフ「魔王様」

魔王「ん?」

ニンフ「それなんですか?不思議なブローチ……きれいな灯りですね」

魔王「星の灯りなんだ。勇者くんからもらったのだ。ふふふ」

ニンフ「まあ、素敵。……魔王様は勇者様をとっても慕っていらっしゃるんですね」

魔王「…………。…………聴いてくれ、ニンフ」

ニンフ「はい」

魔王「この世界が変わったら、勇者くんが私を雪の国まで連れてってくれるって言った。
   二人で一緒に旅をするんだ。見たことのない景色を見て、会ったことのない人に会って、アクシデントもないと……つまらないな」
   
ニンフ「ええ、そうですね」

339 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/12(木) 22:30:08.92 ID:aI/xHT7co

魔王「きっといつか勇者くんも誰か人間の女の子と結婚するだろう。それまででいいから……
   それまでずっと勇者くんと一緒にいたいな。いっぱい色んなものをくれたから、今度は私が返したいんだ」
 
ニンフ「魔王様と勇者様、すごくお似合いだと思いますのに、どうしてそんなことを言うんです?
    あ!姿かたちのことでしたら、私の一族に伝わっていた成長薬のレシピがあるので心配しなくとも!」
    
魔王「そういうことじゃない。というかそんな薬あったのか」

魔王「とにかく!いいんだ。絶対にこの世界を変えてみせる。全部うまくいく。魔族のみんなを救ってみせる。ニンフもみんなも何も心配しなくていい」

ニンフ「魔王様……」

魔女「ニンフちゃん、魔王様!主役と王様がそんな隅っこでなにしてんのー?こっちおいでよー!」

ニンフ「あ……」

魔王「行こう」

魔王(全部終わったら、雪を見に行く)

魔王(勇者くん。約束、忘れないでね……)

341 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/12(木) 22:32:16.14 ID:aI/xHT7co

ここまでです
いつもレス励みになってます、ありがとうございます

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