340 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/12(木) 22:31:11.14 ID:NbXCKLmho
仮面は女なのかな?
342 :以下、新鯖からお送りいたします 2013/09/12(木) 22:32:57.22 ID:aI/xHT7co
あ、仮面は男です
352 :◆TRhdaykzHI 2013/09/17(火) 16:55:19.95 ID:8nPUf0/xo
朝
勇者「じゃあ俺たちは王国に帰るぜ」
竜人「私たちは雪の国へ先に行ってます」
魔女「残り時間も折り返し地点に来ちゃってるし、ちゃちゃっと王子見つけないとね」
仮面「ちょっと待て。なあ!俺たちも雪の国に連れてってくれねぇか」
戦士「む?何故だ?お前は俺たちと一緒に王国に来る予定ではなかったか」
仮面「雪の国に同じ盗賊やってる奴らいるから、そいつにコンタクトとってやるよ。王子様探してんだろ」
竜人「有り難いですけど、急に協力的になりましたね?」
勇者「怪しいな……」
仮面「うるせぇな。この俺様がせっかく協力してやろうと思ってんだからゴチャゴチャ言うんじゃねぇ」
盗賊1「兄貴がいれば百人力ですぜ!」
盗賊2「兄貴は盗賊ギルドの中でも有名なんだ!」
仮面「そういうこった。いいだろ?」
勇者「じゃあまかせるよ。ところで魔王の姿が見えないがどこ行った?」
353 :◆TRhdaykzHI 2013/09/17(火) 16:56:06.33 ID:8nPUf0/xo
ぱたぱた
魔王「……すまない、待たせた」
神官「魔王さん、どうしたんですそんなに息を切らせて」
魔王「昨日の夜、書庫で古い古い魔術書を見つけて。それを読んでたんだ……
竜人、魔女。もし王子の持ち物を見つけたらここに持ってきてくれ」
魔女「え、なんで?」
魔王「この書に書いてある魔法を発動させれば、その持ち物から本人の居場所が特定できるんだ。
まさか本棚の奥にこんな本があったとは思わなかった。もっと早く気付けばよかった」
神官「そ、そんな魔法あるんですか?」
魔王「勿論古い魔法だから準備もめちゃくちゃ面倒だが、なんとかこっちで用意しよう。
ヤモリの子どもと3日間月明かりに照らしたムーンストーンと女子の生き血400ミリリットルなどなど」
勇者「もろ黒魔術だな!生き血とか久々に聞いた」
盗賊1「怖い」
盗賊2「怖い」
戦士「しかし、持ち物なら姫様に頼んで城から持ち出してもらえばよいのでは?」
魔王「それが本人が手放して1年以内のものでなくてはならないのだ。
王子がいなくなったのはそれよりも前だろう?だから使えないんだ」
仮面「残念だったな」
354 :◆TRhdaykzHI 2013/09/17(火) 16:56:41.52 ID:8nPUf0/xo
魔王「あと残り時間は約3カ月……そろそろあの魔族に敵意むき出しの王も準備を整えていることだろう」
竜人「ええ。一刻も早く王子を見つけ出さなくては」
魔女「ちょっとのんびりしすぎちゃったかなぁ。でも全然見つからない王子が悪いよねーまじ腹立つんですけど」
仮面「王子ねぇ。今までそんなに探しても見つからなかった奴頼りにする前にほかの方法ねぇのか?
まあ俺はあんたらの目的なんてどうでもいいんだけどよ。さっさと自由にしてもらいてぇんだこっちは」
勇者「いいや、これしかない。俺たちも王国の様子を確認したらすぐ雪の国に行って認定書をもらう」
神官「そろそろ王様も勇者様を呼びだしそうですよね。戦争の準備しろーって言って」
戦士「だな。ボロを出さないように気をつけろよ勇者」
魔王「そうだ、十分気をつけてくれ、勇者くん。特に、勇者くん」
魔女「ついカッとして王様に喧嘩売っちゃだめだよ?勇者」
竜人「全て水泡に帰しますからね、勇者様」
仮面「お前が一番危ねぇよな勇者」
盗賊1・2「確かに」
勇者「おいおい!なんで俺にだけ注意するんだよ!?そんなに信用ないのか俺!」
魔王「まあ強いて言うなら」
勇者「傷ついた!俺傷ついたよ!あーもう分かったよ、気をつける。じゃあそろそろ行くわ俺たち。お前らも達者でな」
竜人「では私たちも行きますか。魔王様、私がいなくても規則正しい生活を送ってくださいよ」
シュンッ
355 :◆TRhdaykzHI 2013/09/17(火) 16:57:33.00 ID:8nPUf0/xo
魔王「……行ったか。急に静かになってしまったな」
魔王「さて私は先ほど話した魔術の下準備でもしておこう。まずはヤモリ……」
夕方
魔王「ああ、疲れた……。もう自分の部屋まで歩いてくるのも面倒だ。一人で使うにはこの城は広すぎる」
魔王「急に眠気が……いやでも今寝たら夜に眠れなくなってしまう……うぅ……」
魔王「ちょっとだけ、ちょっとベッドに横たわるだけ、ちょっとだkグーーーーーー」
バタンッ
356 :◆TRhdaykzHI 2013/09/17(火) 16:58:08.80 ID:8nPUf0/xo
魔王(…………ん……?)
魔王(これは……夢か……。というか普通に1秒くらいで寝てしまったな。不覚だ。
ここは、外? 行ったことのない場所だ。 あっちに人だかりが見える……なんだろう)
魔王(音は聞こえないな。この人間たちは一体何を見ているんだ?……誰かが両脇の騎士に剣を突き付けられている。
手を後ろ手に縛られて……ああ、罪人か。処刑でもするのだろうか)
魔王(私たちの島にはこのような罪人がでたことないから助かるな。このような処刑を行いたくも見たくもない)
魔王(なんの罪だろう…………罪人の顔は…………)
魔王(あれ……おかしいな。見覚えがある……彼は……勇者くん?)
魔王(そんな。どうして勇者くんが捕えられて……。いや落ち着け、これは私の夢だ)
魔王(私が不安がっているからこんな夢を見るんだ。早く覚めよう。早く早く……)
魔王(夢であっても、こんな光景見たくない……!早くしないと剣が振り下ろされてしまう……)
魔王(早く夢から覚めなくては……っ)
魔王「…………ッ!!」
ガバッ
魔王(……はぁ……やっぱり夢だった。嫌な夢だ……。
部屋が真っ暗だ。こんな時間まで寝てしまうとは。灯りを……)
魔王「……!? そこにいるのは誰だ?」
357 :◆TRhdaykzHI 2013/09/17(火) 16:58:52.35 ID:8nPUf0/xo
男「……貴様が今の魔王か」
魔王「村の魔族ではないな。人間……でもない。誰だ?そもそもどうやってここに入ってきたんだ?」
男「まさかこのような娘が魔王を名乗るとは……随分魔族も落ちぶれたものだ」
魔王「質問に答えろ」
男「こんな、部屋にぬいぐるみ置いていたり、リボンをあしらった天蓋付きベッドで寝るような娘が魔王なんて片腹痛いわ」
魔王「勝手に入って勝手にじろじろ部屋を見るな。なんて失礼な奴だ。やめろ馬鹿そこはクローゼットだ開けるなっ」
男「馬鹿だと?口のきき方を誰かから教わらなかったのか、無礼者」
魔王「無礼なのはお前の方だ!捕縛魔法……あれ?捕縛魔法!……ん?」
男「無駄だ、ここも貴様の夢の中だ」
魔王「夢……?じゃあさっきのは……」
男「それも夢だ。これも夢。まあそうカッカするな。一度貴様と話をしたかったから夢に介入させてもらった」
魔王「夢に介入なんて私でもできないぞ。何者だお前は」
男「自惚れるなよ。それに口のきき方に気をつけろと先ほど言ったはずだ。俺は魔王……貴様からすると先代の魔王にあたるか」
魔王「えっ?」
男「ふん、貴様も俺と同じ赤い瞳か。100年たっても受け継がれるものは受け継がれるのだな」
魔王「ええっ?」
358 :◆TRhdaykzHI 2013/09/17(火) 16:59:32.15 ID:8nPUf0/xo
男「なにを驚いておる」
魔王「先代魔王……お前が私の祖先なのか?」
男「なんだ、知らなかったのか。あとお前と言うな。
正確には祖先と言うより、血族というだけだ。俺の妹がお前の祖先だ」
魔王「えっ……ええ?そうだったのか?」
男「本当に知らなかったのか。随分とぼけた奴だ。それで魔王をやっていけてるのか貴様。
まあいい。些細なことだ。それより貴様に話がある」
男「何故勇者を殺さない?魔族が危機に瀕しているこの状況で貴様は一体なにをしているのだ。
貴様と今の勇者なら、苦戦はするだろうが貴様の方が力はあるだろう」
男「さっさと殺して勇者の肉を食らえ」
魔王「食らう……?気持ち悪いことを言うな」
男「勇者の肉を食らえばあいつの魔力も手に入る。そうすれば魔族を脅かす人間どもも一掃できるだろう。
同胞を守れるばかりか人間どもへの復讐もできるのだぞ。なにを迷うことがある?」
男「情けを捨てろ。憎しみだけ心に抱いておけばよい。貴様らを散々虐げてきた人間どもが憎くないのか?」
魔王「…………私はこの魔力をそんなことのために使いたくない。
傷つける魔法じゃなくて、誰かを幸せにできるような魔法を使いたい」
魔王「私は勇者くんも人間も殺さない。魔族のみんなだって殺させない。私は、お前と同じ道を辿らない」
男「そんな世迷言が通用すると思っておるのか」
魔王「通用させてみせる」
男「……ふん。せっかく忠告しに来てやったのに、親不孝な娘だ」
魔王「だれが親だ」
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359 :◆TRhdaykzHI 2013/09/17(火) 17:00:00.29 ID:8nPUf0/xo
男「その頑固なところ、あいつによく似ておる。……ならばやってみるがいい。後悔しても知らんぞ」
魔王「……」
男「では俺はそろそろ行こう。ではな」
魔王「あっ、待ってくれ。訊きたいことが……」
ガバッ
魔王「………………」
魔王「誰もいない……今度こそ、現実か」
魔王「寝たのに疲れがとれてない……あれが先代魔王、か。まさか血がつながってたとは」
魔王「……全然私と似てないじゃないか」
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
魔王「似てない。……うん」
魔王「……ん?ベルの音。誰か城に来てる」
ケット・シー「……あ、こんばんは魔王様。どうしたの?なんか顔色優れないよ」
魔王「いや、なんでもない」
ケット・シー「今って竜人様いないんだよね?うちのお店に食べに来ない?魔王様も一人ぼっちで食べるのなんてさびしいでしょ?」
グゥゥゥ
魔王「……」
ケット・シー「……お腹すいてるみたいだし」
魔王「腹の虫が鳴ったぞケット・シー」
ケット・シー「ナチュラルになすりつけられた!?さすがだ魔王様!」
魔王「行くぞ」
ケット・シー「あー待ってくださいよー」
360 :◆TRhdaykzHI 2013/09/17(火) 17:00:27.89 ID:8nPUf0/xo
太陽の国
カランカランッ
女主人「いらっしゃ……おや勇者たちかい。やっとお帰りなすったか」
勇者「よう。なんというか、賑わってるな」
ざわざわざわ
「この本ほんとうに魔族が書いたってのか?」
「魔族って字書けるのか!?流石に嘘じゃないのか」
「例え嘘だとしても、変わったストーリーだな。魔族と人間がねぇ……本当にそうなれば、平和が一番なんだけどさ」
「しっ。宮殿の騎士が通るぞ、本を隠せ」
神官「本、出版できたんですね。私たちの居ぬ間に、どうも有難うございます」
戦士「ここに来るまでもそこかしこでグリフォンの書いた本を読んでる連中を見たぞ。なかなか話題になってるようだな」
勇者「後で本屋の主人にも礼を言いに行かなくちゃな」
女主人「ちょっと店の倉庫で話をしないかい。今は客もあんまりいない時間帯だし」
勇者「ああ」
361 :◆TRhdaykzHI 2013/09/17(火) 17:00:59.34 ID:8nPUf0/xo
女主人「さて、と。ここなら普通に話をしていいだろう。あんたらがいなかった間のことを話しておこうと思ってさ。
とその前に成果を聞いておこうか。認定書はどうだったのさ?」
勇者「ふっふっふ」
神官「えっへっへ」
勇者「刮目せよ!これが星の国の王子からもらった認定書だ!」
神官「わー!」パチパチ
女主人「うっ!眩しいー!認定書から謎の後光がぁ!?」
戦士(この茶番、俺も乗らねばならないのだろうか)
勇者「認定書はもらった。うちの王子はまだ見つかってないんだけどな。全くどこにいるんだか」
女主人「やったじゃないか。さすがさね」
戦士「してそちらは?」
女主人「こっちはねぇ、結構大変なことになってたよ。まず本が売られて、すぐ禁書指定されたよ」
神官「ええっ!?だめじゃないですか!」
女主人「いや、かえってよかったよ。禁書指定なんて滅多にされないからさ、どんな本なんだろうって逆に人気が出たらしくって。
あの胡散臭い本屋も珍しく客でいっぱいだよ」
勇者「おお、あの主人が言ってた通りだったな」
女主人「それから王様の魔族殲滅について色んなとこでみんな本を片手に語り合ってるってわけ。
うちの店でも御覧の通りだ。で、よさそうな客には同盟加入しませんか~?って声をかけて仲間を増やしてるとこ」
女主人「こんな感じで仲間は結構増えたよ」
362 :◆TRhdaykzHI 2013/09/17(火) 17:02:13.45 ID:8nPUf0/xo
女主人「でも、いっこトラブルがあってさ。いつものようにあんたら抜きでここの地下で集会を開いていたときに、
突然王様直属の騎士団がやってきてね」
戦士「なに?」
勇者「なっ、ここがばれたのか!?」
女主人「どうしてあいつらが嗅ぎつけたのかは分からない。なんとか全員逃げのびたんだけど、あいつら完全に納得してる空気じゃなかったね」
神官「ひえぇぇ……っ」
女主人「王様もちょっと街の空気が変わったことに気付いたのかもね。あんたらが戻ってきてくれてよかったよ。
5日後に王様が住民に向けて、演説をするらしいよ」
勇者「そうか……。ここが正念場だな。流れを持ってかれたら仕舞いだ」
神官「で、でもどうするつもりですか?表だって反論できたらそれが一番ですけど、そしたら私たち逮捕されちゃいますよ」
勇者「俺にひとつ考えがある」
女主人「へえ……あんた脳筋タイプかと思ったけど、ちゃんと考えてるんだ。まああんたらも旅で疲れてるだろう。
今日は奢りで御馳走してあげるよ。テーブルにつきな。そろそろ私も店に戻らなくちゃ」
勇者「そりゃ有り難いが、前半でさらっと失礼なこと言わなかったか。
俺のパーティは脳筋、非脳筋、半脳筋の俺というバランスがいいパーティだぞ」
戦士「おい聞き捨てならんぞ勇者よ……」
勇者「いってぇ!!叩くなよ!!冗談だって」
363 :◆TRhdaykzHI 2013/09/17(火) 17:02:43.16 ID:8nPUf0/xo
がやがやがや
勇者「相変わらずここの飯はうまいな」
神官「それにしても……」
「俺は魔族に会ったことねえが、やっぱり殺すのはかわいそうじゃないか?そもそもそれがきっかけで戦争につながるかもしれんぞ」
「魔族がどうのこうのは分からないけど、税が重くなったのには困ったよ。私も王様には反対だね」
「本当に王様の言ってることは正しいのか?大体なんで魔族が書いたからと言ってこんな普通の本が禁書指定されるってんだ」
神官「……ここまで反響を呼ぶとは思いませんでした」
戦士「成功と言っていいだろうな」
勇者「王様の言うことを全部鵜呑みにすることが一番まずいからな、国民たちがちょっとでも疑うようになったらそりゃ大きな進歩だ」
「はあ?あんたら何言ってるんだ?俺は田舎の村出身だが、昔魔族の奴らに畑を荒らされたぞ!!それに奴ら妙な魔法を使いやがる!気持ち悪い連中だ!」
「そうよ。私の村なんて、人間に紛れて吸血鬼が住んでたのよ!!犠牲者は出なかったけど、もし誰かが殺されていたらと思うと!ああおぞましい!」
「あんな底知れない不気味な者たちと仲良くなんて、冗談でも無理だ。お前らは実際に会ったことないからそんなこと言えるんだよ」
勇者「……」
364 :◆TRhdaykzHI 2013/09/17(火) 17:03:18.10 ID:8nPUf0/xo
戦士「……まあ、ああいう意見もゼロではないのだな」
神官「悲しいですね……あんなにいい方たちなのに。きっと誤解ですよ」
勇者「誤解じゃないとしても、本当に悪い奴がいたとしても、それで全員殲滅しようっていうのは極端な話だ。
うーん……なんて言えば伝わるんだろうな。俺は舌戦なんて得意じゃないんだ」
神官「舌戦?え、勇者様なにするつもりですか」
バサバサッ
戦士「む、この白い鳩……宮殿からの伝達ではないか」
勇者「俺宛てだ。明日戦士と神官と、王に会いに来いってさ。さっそくお呼び出しだぜ」
神官「なんか緊張しますっ……きゅ、宮殿に入った途端に捕まえられたりしませんよね!?」
戦士「もしかしたら罠かもな。それで明後日の演説の代わりに俺らが処刑されるのだ」
神官「ひぃぃぃ!!縁起でもないこと言わないでくださいよ戦士さん!!!」
戦士「先に言ったのは神官だろう」
勇者「しっかし、ここの地下で集会をやってることあっちが感づいているとしたら、もう集会やらない方がいいかもしれないな。
これからは大っぴらに集まることもできない……できても少人数でだ。大人数じゃいざというとき逃げられないし」
戦士「なに、あと俺たち3人が集中すべきなのは認証書と王子のことだけだ。同盟管理に関しては、女主人がかなりのやり手だしな」
神官「確かに……ビラとかいつの間に作ったんでしょう」
戦士「姫様も、彼女にお付きの騎士もなかなか頼りになる。王室司書や歴史家も頭が回るし、本屋の主人も曲者だ」
勇者「曲者って」
戦士「彼らの頑張りに応えるためにも、絶対に目的を達成しよう。俺たちパーティの真骨頂を見せるときだ」
勇者「ああ!そうだな!いける気がしてきたぜ!神官もそろそろ震えを止めろ!」
神官「むっ、武者震いですっ!!」
365 :◆TRhdaykzHI 2013/09/17(火) 17:03:51.71 ID:8nPUf0/xo
翌日 王宮
神官「はあ……はあ……ごくり……」
戦士「大丈夫か神官」
神官「実は昨日寝れませんでした……あああ、胃が痛いっ。単体治癒魔法……!」
戦士「魔法使うのか!?胃痛で!?」
勇者「おい大丈夫か?そろそろ謁見の部屋につくぞ」
「殿下、勇者様、神官様、戦士様をお連れしました……」
国王「御苦労だった。下がってよい」
「はい」
国王「さて勇者、神官、戦士よ。魔族侵攻まで3カ月をきったが、お主たちの調子はどうかね。日々鍛錬を重ねているか?
魔族殲滅ではお前たちの鬼神のごとき活躍を期待している」
戦士「はい、心得ております」
神官「ひゃい!……し、失礼しましたっ……はい!」
国王「そう緊張するな。魔族に恐ろしさを感じるのは仕方のないことだ。だが案ずるな、我々も着々と準備を進めている。
我々の全軍力、そしてお主たちの力をもってすれば例え魔王と言えど恐るるに足らん」
勇者「……」
国王「勇者?先ほどから口を閉ざしたままだが、どうかしたのか。まさか今更戦うのが怖いなどと申すでないぞ。
お主の戦力も既に計算に入れておるのだからな」
366 :◆TRhdaykzHI 2013/09/17(火) 17:04:21.64 ID:8nPUf0/xo
勇者「……そうではありません」
神官「(勇者様?ど、どうしたんですか?)」
戦士「(勇者、こらえろ)」
勇者「……っ、いえ、申し訳ありません。全身全霊をかけて……魔族を討つ、ことを約束します」
国王「それでよい。勇者よ、迷うな。敵に情けをかけるな。期待しておるぞ」
国王「さて本題だが、近頃この国で不穏な動きが見られるのだ。どうやら同盟を組んで国に楯突こうという不遜な輩がいるらしい」
神官「」ギクッ
勇者(やっぱり感づかれてる……でも首謀者が俺たちとはまだ思ってないか。本人に言うってことは)
国王「テロやクーデターなど起こされては敵わん。国民の安全にも関わることだ。
勇者、神官、戦士。お主たちにその者たちの正体を突き止め捕えてほしいのだ」
勇者「ええ……勿論です」
国王「頼むぞ。それからあともうひとつ……」
国王「4日後王宮の前で、国民に向けて私自ら演説を行う。
勇者よ、国民の期待を背負う者として、彼らの志気を上げるためにお主にも演説をしてほしいのだが」
勇者「すいません。4日後から星の国に向かう予定なのです。どうしても外せない用事がありまして」
国王「そうか。残念だが強制はすまい。ではこれからも修練に励んで、いずれ訪れる戦いの時まで己を磨くがいい。
下がってよいぞ」
勇者「はい」
国王「………………」
367 :◆TRhdaykzHI 2013/09/17(火) 17:05:01.51 ID:8nPUf0/xo
国王「……待て勇者よ。これを持ってゆけ」
勇者「これは?」
国王「魔除けの札だ。お主を魔の者から守ってくれよう」
勇者「どうも有難うございます。では」
宿屋
神官「緊張した……寿命が5年縮んだ……」
戦士「同盟のことやはり感づかれていたな。流石にあの時は心臓が止まった」
勇者「俺、魔王城でみんなが言ってたことが分かったよ。俺が一番ボロ出しそうだ」
神官「ひやひやしましたよ、もう。ところで、星の国にまた行くんですか?」
勇者「いや行かないよ。この大事な時に行く訳ないだろう」
戦士「ではどうしてうそを?」
368 :◆TRhdaykzHI 2013/09/17(火) 17:05:28.69 ID:8nPUf0/xo
勇者「……これだ」
戦士「引き出しから出した……いつかのひょっとこの面か。それがどうした」
勇者「これを……こうだ」
神官「顔につけましたね」
勇者「そして、このローブを羽織る」
戦士「うむ」
勇者「これでどっからどう見ても俺には見えまい。俺は正々堂々国王の前に姿を表わして議論で勝負してやる!」
戦士「神官」
神官「はい、戦士さん」
勇者「?」
スパーーーンッ!!
勇者「いった!!!なんだよ両脇からビンタって!!!?ああっ面が!飛んでいった!!」
戦士「お前は馬鹿か」
神官「それでばれないと思ってるんですか。声は勇者様そのものですよ」
戦士「姿はただの怪しい変質者だがな。大体演説と言ったら騎士たちも王の周りにいるだろう。
戦えば強さで勇者と分かる。逃げるのも転移魔法は使えないんだぞ?」
勇者「いや、分かってるけどさ。つーか今のビンタで顔が腫れて面いらずだよ畜生」
369 :◆TRhdaykzHI 2013/09/17(火) 17:05:56.24 ID:8nPUf0/xo
神官「とにかく、やめてくださいよ!?だめですからね!戦士さんだってこう言ってるんですから」
戦士「勇者、気持ちは分かるが危険すぎる。今は動くときではない」
勇者「あーはいはい。分かったよ……。じゃあまた明日な」
ガチャ バタン…
勇者「……でも、だったらどうするんだよ?」
勇者「認定書や王子探しも勿論大事だけど、もっと根本的に変えなくちゃいけないこともあるんじゃないか?」
勇者「とにかく、もう寝るか……明日、危惧したようなことが起きなければいいが……」
370 :◆TRhdaykzHI 2013/09/17(火) 17:06:25.04 ID:8nPUf0/xo
* * *
時の女神「さて……」
女神「ここが運命の分かれ道」
女神「一方はいずれ破滅に至る道。一見勇者たちの目的が完遂されたかのように見えるけど、じわじわと破滅へと至る道」
女神「もう一方は光の道。犠牲は少なくないけれど、勇者が守りたいものは守れる、彼が望んだ道」
女神「彼はどちらを選ぶのでしょう」
女神「…………どちらも、私にとっては悲しい結末しか待ってませんけどね」
* * *
371 :◆TRhdaykzHI 2013/09/17(火) 17:07:06.80 ID:8nPUf0/xo
翌日 宮殿前広場
ざわざわざわざわざわざわざわ
がやがやがやがやがやがやがや
神官「わ、すごい人だかり」
戦士「これじゃ帽子やフードを被って顔を隠さなくとも、俺たちのことを気にする者もいないだろうな」
勇者「まあ念のためだよ。……あ、国王と姫様が出てきたぞ。姫様すごい不機嫌な顔してるなぁ」
神官「勇者様、絶対、ぜーったいこらえてくださいよ?」
勇者「分かってるって」
国王「国民たちよ、よくぞ集まってくれた。今日私が皆に告げたいのは、後に控えた魔族侵攻および殲滅についてだ」
王様―! 国王様!
国王「皆には税を増やして申し訳ないと思っておる。しかしそれも無駄にはせん。
100年前の戦争で、我々太陽の国は辛くも成功をおさめた。それから魔族は絶滅の道を辿ったかのように見えた……」
国王「戦争から100年、我々は勝ち取った平和を享受して過ごしていた。永遠にこの平穏が続くと思っていた」
国王「が、しかし。魔王の復活したという知らせは皆の耳にも届いただろう。我々の平和なる時は今にも崩れ去ろうとしている!」
372 :◆TRhdaykzHI 2013/09/17(火) 17:08:15.14 ID:8nPUf0/xo
国王「このまま放っておいては、戦争の前の状態……人々がただ魔族に搾取され、虐げられて疲弊する悪夢の時代に逆戻りだ」
国王「国民たちよ、今こそ立ちあがるべき時が来た。我々は戦おう、そして再び自らの手で勝利をつかみ取ろう」
国王「我々には伝説の勇者がついている。案ずるな、恐れるな。魔の者をこの世から排除し、偉大なるあの太陽のような栄光を!」
国王「今こそ、この手に!!」
わーーーーーー!! 王様ーーー!!
今こそ魔族を殲滅する時だ!! 今やらなくていつやるんだ!!
人類に偉大なる栄光を!!
ざわ… ざわ…
「でも……本当にいいのかしら? 魔族にも家庭があって子があって……避けられる戦いなら……」
「俺はちょっと王様には賛同できない……かも」
「戦争が今やるべきことなのか?もっとほかにあるんじゃないのか?」
「戦いに税を使うなら私たちの孤児院に少しでも寄付をして頂きたいです……」
勇者「(おっ……!いいぞ!)」
神官「(もっと声を大きくです!流れを変えましょう!!皆さん!)」
姫様「(皆さん……!)」
国王「ふむ……やはり毒されておる者たちが少なからずおるようだな」
373 :◆TRhdaykzHI 2013/09/17(火) 17:08:43.47 ID:8nPUf0/xo
国王「なにやら私の知らないところで、あることないこと嘯いてる輩がおるようだが、騙されるな」
勇者(嘯いてるのはあんただろうが!)
国王「魔族が書いたという本を出版したり、私への不信を煽ってよからぬことを企む輩に唆されてはいかん」
ざわざわ… ざわざわ……
「でも……」 「俺は反対だ」
「やっぱりおかしいよ」 「魔族は戦いなんて望んでないんじゃないか?」
国王「ならばこう言おう。今我々が魔族を殲滅しなければどういうことになるか」
勇者(……?)
国王「いずれ魔族と人が共に同じ土地で生活するようになる日が来るかもしれん。ある者が言うように、魔族に戦いの意志がないならば」
国王「そしていずれ、人と魔族の血は入り混じってゆくことだろう。だんだんと純粋な人の血を持つ者は減ってゆく。
想像してみるといい、自分の娘や息子の結婚相手に魔族の者を連れてくる光景を。
魔族の血が流れている自分の孫や子孫を、本当に愛せるか?」
国王「人とは違う肌の色、目の色、体質、寿命、全て受け入れられるのか?
私の息子や娘がそのようなことを望んでいたら、なんとしてでも目を覚まさせようとするだろう」
ざわざわっ! ざわざわ…
374 :◆TRhdaykzHI 2013/09/17(火) 17:09:10.53 ID:8nPUf0/xo
「そんなこと……想像してなかった」
「本当にそんなことが起きてしまうのか?」
国王「起きる。絶対に」
姫「お父様……っ!」
国王「人類の尊厳を守るためにも、今我々は行動せねばならん。国民たちよ、皆はただ私を信じてくれればいいのだ」
国王「国を信じ、私を信じ、私にただ着いてきてくれればいい。私は常にこの国を一番に考えておるのだから」
「そうなのかな?」
「俺馬鹿だから、なんかよくわかんなくなってきちまったよ。やっぱ王様の言うこと聞いてた方がいいのかも」
「そうよね……王様は間違いなんてしないもの。私なんかが頑張って考えるよりずっと素晴らしいことを思いつくはずね」
国王「そう……それでよい。流石は我が国の民だ。賢く強い。それでこそ、我が太陽の国の民」
わーーーー!!王様万歳ーー!!
わーーーわーーー!!!太陽の国万歳!!
女主人「なんだいこりゃ……!ねえみんな!どうしちまったんだい!」
本屋主人「ぬかしおるわい」
司書(これでは……私たちの今までの地道な努力が……)
姫(だめ、このままみんなを解散させてしまっては挽回することができないわ。
ここで何かアクションを起こさないと!でも、どうやって?……私がやるべきなの?)
375 :◆TRhdaykzHI 2013/09/17(火) 17:09:37.68 ID:8nPUf0/xo
勇者「このぉっ……!」
神官「勇者様、だめだって言ったじゃないですかー!危ないですよ!おさえてください戦士さん!」
戦士「やってる!!落ち着け勇者、頭を冷やせ!こいつ、ちゃっかり面を持ってきおって!」
勇者「じゃあどうするんだ!?このまま国民たちが王の言いなりになったままじゃ、いくらクーデターを起こせたって何も変わりはしない!」
勇者「同じことの繰り返しになるだけだ!今ここで俺が出なくちゃ皆の考えを変えさせることができない。もう時間も残されてないんだぞ!」
神官「うっ……それは分かってますけど!!」
わーーーーわーーーー!! 国王様ーーー!!!
国王「有難う。では」
勇者「国王が壇上から降りていっちまう!離せよ戦士!!!」
勇者「待っ―――」
少年「王さま、まってください」
勇者「!?」
国王「ん……?」
376 :◆TRhdaykzHI 2013/09/17(火) 17:10:04.40 ID:8nPUf0/xo
だれだあの坊主? 確かパン屋の息子の…… ああ、あの知恵遅れの?
少年「ぼくは戦いなんてしないほうがいいと思う。だって戦いって自分がころされたり相手をころしたりするんでしょ?
だれかがしぬのは悲しいよ。だから戦いなんてしない方がいいよ」
少年「ぼく、本読んだ。まぞくの人が書いた本。ぼくそれ好きなんだ。まおうとゆうしゃさまがなかよくなるはなしなんだ。
読んじゃだめって言われたけど、こっそり読んじゃった」
母親「こらっ!!あ、あんた王様になに言ってんの!!」
国王「坊や、君はまだ小さいから色んなことが分からないのだよ。君は母親の言うことをきちんと聞いていい大人になりなさい。
そのような胡散臭い本は読むべきではないよ」
少年「うさんくさい……本当かうそか分からないってことだ。でも、じゃあ、王さま。
王さまは、まぞくの人に会ったことがあるんですか?」
母親「こらっ!!!!」
国王「…………」
少年「会ったことないのに、悪いって決めつけるのは、うさんくさいってことじゃないんですか?」
国王「随分と……」
母親「黙りなさい!!この子ったら!!」
少年「ぼく、お母さんに“この世にはうそがいっぱいある”って言われた。
だからぼくみんなにバカって言われてるけど、いっぱいいつも考えてる。
どれがうそか、どれが本当か。ぼくは……王さまより本を信じる!」
少年「ねえ、お母さんもそこのおばさんもおじさんも、それでいいの?」
少年「いっぱい考えなくて、本当に、それでいいの?」
377 :◆TRhdaykzHI 2013/09/17(火) 17:10:36.58 ID:8nPUf0/xo
少年「ぼくは……ムグッ」
母親「す、すいません本当にうちの子馬鹿たれで……ハハハ」
ざわ…
「なんだあの坊主、生意気な」
「でも……じゃあどうしろって言うんだ?俺はなにを信じれば?」
「王様を信じてれば間違いなんてないのよ!」
国王「……なかなかおもしろいことを言う子だ。子どもはそれくらい元気な方がいい。
しかしいずれ君も大人になった時に分かるだろう。絶対的に正しい存在があるということを」
神官「あ、あの子……!すごいですねって あれ!?!?戦士さん、勇者様はどこに!?」
戦士「ぬ!?おらんぞ!!どこいったあいつ!?」
神官「ああああっ!あの少年に注目してるうちに逃げられましたっ!早く見つけないと!!」
戦士「!! 神官、あそこの屋根の上だ!」
神官「え!?」
ひょっとこ「よく言ったな、少年!」
神官「あああああああああああああああああああああっ!!!」
戦士「あのバカ……」
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384 :◆TRhdaykzHI 2013/09/19(木) 21:07:03.19 ID:0/gixNDzo
「なんだあの変質者!?」
「だれだ?」
姫「なにあれ……」
国王「……?」
神官「いやーー!変な感じに広場がどよめいてるーー!もうあんなに止めたのに勇者様の馬鹿ー!」
戦士「無駄だったな……」
ひょっとこ「あることないこと嘯いてるのは一体どっちだろうな?みんな……」
ひょっとこ「少年の言う通り、本当にそれでいいのか!?国の言うことをなんでも鵜呑みにして、信じて」
ひょっとこ「ああ、そうして自分の意見を誰かに委ねてれば、もしその選択が間違いだったとしても
自分が責任を負わなくていいから楽だよな」
「……!」
「なんだあいつ!知った口を!」
国王「貴様が主犯か。……捕えろ」
傭兵「ハッ!」
ひょっとこ「だからみんな選択肢がひとつだって思いこみたいんだろ?王様だけを信じてればいいって」
ひょっとこ「でもそれじゃだめなんだ!!いま、みんなの前には二つの選択肢がある」
ひょっとこ「王様を信じて魔族殲滅に賛同するか、俺たちを信じて殲滅に反対するか、二つに一つ」
ひょっとこ「選ぶのはみんなだ。王様が言うからとか、誰かが賛成してたからとかじゃなくって、自分で真剣に考えてほしい」
385 :◆TRhdaykzHI 2013/09/19(木) 21:08:22.85 ID:0/gixNDzo
ひょっとこ「自分の気持ちを大事にしてほしい。どんな小さなことでも下らないことでもいいよ。
それは誰にも否定されていいものじゃない、例え……国王であっても」
国王「蛮族めが……たわごとを。さては貴様も魔の者か!?」
ひょっとこ「そうやって悪い奴はなんでも魔族にしちゃうから、魔族は悪って思われてんじゃないのか?」
傭兵「覚悟しろー!!うおおおおお!!」
ひょっとこ「チッ! いいかみんな!俺たちは国王に対して戦うぞ!この世に絶対的存在なんていないんだ!
考えを放棄して自分の言うこと全て信じろなんて宣う王について行く気なんてさらさらないからな!!」
ひょっとこ「うおっと」
傭兵「おい!逃げたぞ!!追えー!!」
わーわー! なんだなんだ!? どよどよ……
神官「……」
戦士「本当に正面きって喧嘩売りおった……あいつ」
386 :◆TRhdaykzHI 2013/09/19(木) 21:09:01.72 ID:0/gixNDzo
宿屋
勇者「すいませんでした」
神官「もー!なにやってんですか!?勇者様の頭にはもしかして馬糞が詰まってるんですか!?」
勇者「ひどい……でもさ!声色だって変えたし、俺だとはばれてなかったろ?」
神官「ドヤ顔しないでくださいっ!ばれてた、かも!しれないんですよ!?どうしてこう向こう見ずなんだか」
戦士「まあ……落ち着け神官。結果よければすべてよしとしよう。
勇者の言葉の後では、かなり広場の空気も変わっていたではないか」
神官「確かにあのちょっと怖いくらいの王様盲信ムードはなくなったからいいんですけど……もうあんなことしないで下さいよ?
冷や汗だっらだらだったんですから、私」
勇者「ごめんって。でも、これで少しは流れをこっちに持ってこれたろ。この勢いのまま、雪の女王のところに行こうぜ」
戦士「街の同盟メンバーに話を聞いて、準備を整えたらすぐに発つか」
神官「分かりました。……あの女王様、素直に認定書くれますかね」
勇者「俺の予想だと、拍子抜けするほどあっさりくれるか、めちゃくちゃ難易度高いかのどっちかだと思う」
戦士「同感だ」
神官「ああ~……はい」
勇者「前者であってくれることを祈ろうか。 じゃ、明日はそれぞれ行くところがあると思うし、別行動だな」
戦士「ではまたな、勇者、神官。無茶するなよ」
神官「私も勇者様に念を押したいですね…… ではまた」
勇者「はいはい」
387 :◆TRhdaykzHI 2013/09/19(木) 21:12:21.09 ID:0/gixNDzo
数日後
勇者「あーよく寝た。今日は本屋の主人と武器屋と露店商人に会って……あとは姫様にも会えたらいいんだけどな、難しいか」
コンコン
勇者「こんな朝早くに誰だ?」
兵士「おはようございます、勇者様。国王様より言付けを預かって参りました」
勇者「王様からっ? なんて?」
兵士「本日正午過ぎより軍で勇者様方を含めた全体訓練を致しますので、宮殿隣の訓練場までお越しください」
勇者「全体訓練……分かった。ありがとう」
兵士「よろしくおねがいします」
勇者「まあ、仕方ないか。本当ならやるつもりもない戦いに向けての訓練なんてのに時間を割いている場合じゃないんだが」
388 :◆TRhdaykzHI 2013/09/19(木) 21:14:53.13 ID:0/gixNDzo
翌日
勇者「よし、今日は昨日こなせなかった用事を済ませるぞ」
コンコン
勇者「まさか…… どうぞ」
兵士「おはようございます勇者様」
勇者「おはようございます……」
そのまた翌日
勇者「今日は!今日はないだろう!よっし出かけるぞ!」
コンコン
勇者「あわわわわ」
兵士「おはようございます勇者様。どうかなさいましたか?」
勇者「な、なんでもない」
389 :◆TRhdaykzHI 2013/09/19(木) 21:17:22.03 ID:0/gixNDzo
* * *
昼のバー
勇者「どーなってんだ、おい!!」
女主人「荒れてるねぇ勇者」
神官「最近訓練訓練訓練訓練、訓練ばっかりで筋肉痛です」
戦士「おかげでこっちの用事が全然こなせないな。まかせっきりで済まない」
司書「いえ大丈夫ですよ。しかしまさかバッタリ勇者殿たちとここで会うとはね。このあとの用事は?」
神官「今日もこれから訓練場に呼び出されているんです。訓練は夜までミッチリ行われるので、全然暇な時間がないんですよ」
勇者「もしかして……俺ら疑われてたり……?」
女主人「……あはは」
戦士「ははは」
神官「うふふ」
司書「……ハハ」
勇者「そそそそそんんんなわけないよな!!」
神官「そそそそそそうですよ!」
戦士「おいお前ら、コップから飲み物零れてるぞ」
女主人「でもすぐ捕えないってことは、疑われてるとしても『怪しいなこいつら』くらいじゃないの?」
司書「それ以上疑われないように気をつけて下さいね。あなたたちが要なんですから」
勇者「ああ……」
390 :◆TRhdaykzHI 2013/09/19(木) 21:18:03.77 ID:0/gixNDzo
訓練所
将軍「今日はこれで終いだ。勇者殿たちもお疲れ様でした。次の訓練は一週間後となります。
大事な全体訓練ですのでくれぐれもご欠席なさらぬよう。殿下からのお達しです」
勇者「(一週間後!? よし、チャンスだ)」
神官「(これまで毎日訓練強制参加でなにもできませんでしたからね。この機を逃す手はないですよ)」
戦士「(ふむ。雪の国に行くのか)」
将軍「? なにか?」
勇者「いやなんでも!」
勇者「よし、やっと訓練が終わったぜ!明日の朝雪の国まで出発するぞ!二人とも準備しとけよ」
神官「了解です。……ってあれ?こっちに歩いてくるの姫様じゃないですか?」
騎士「姫様、ちょっ待ってくださいよ~」
姫「いた!勇者!こっちよ騎士!」
勇者「姫様?訓練場にいらっしゃるなんて珍しい」
戦士「というかお久しぶりです」
姫「あなたたちに会いに来たのですよ。ところでその前にひとつ確認したいことが」
姫「……ひょっとこ?」
勇者「イエス、ひょっとこ」
姫「馬鹿!!」
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391 :◆TRhdaykzHI 2013/09/19(木) 21:20:35.13 ID:0/gixNDzo
騎士「やっぱり勇者さんだったんですかあれ。大胆なことしますね!」
姫「大胆どころの話ではないわよ!お父様もあれからピリピリしてるし、もうちょっと慎重な行動を……
と言いたいところですが、……ごめんなさい」
勇者「どうして姫様が謝るんです?」
姫「あの場でああするべきだったのは、王族である私だったのに。
私がなにもできなかったせいで、あなたを危険に晒してしまって、申し訳なく思っているわ」
騎士「姫様……」
勇者「いや、あなたが気にすることではありませんよ。あれは俺が勝手にやったことですから」
姫「……ごめんなさい。それから、ありがとうございます。……それで、これをあなたたちに渡したくて」
勇者「手紙?」
姫「ほかの方からお話を聞きました。なんでも魔王さんがお兄様の居場所を特定する魔術を発見したとか。
その手紙、お兄様からのはずです。この間お父様のお部屋にこっそり侵入した時に発見しましたの」
騎士「侵入!?いつの間にそんなことを、姫様!?」
姫「ただそれが、いつ頃の手紙なのか分からないの。1年以内のものでないといけないのよね」
勇者「そうですか。でも、大事な手掛かりですよ。一応魔王のところに持っていこうと思います。
それから雪の国に認定書をもらいに行くつもりです」
392 :◆TRhdaykzHI 2013/09/19(木) 21:22:46.72 ID:0/gixNDzo
姫「お願いしますね。……いけない、そろそろ戻らなくては。では、ご武運をお祈りしてます」
騎士「王国の方は僕たちにまかせて下さい。……あ、あの最後に……魔女さんはお元気ですか?」
戦士「今は雪の国にいるぞ。寒いのは苦手と言っていたが、まあいつも通り元気だろう」
騎士「そっ、そうですか。よかった。いや別に大した意味はないんですけども」
姫「あっずるいわ!私は聞かなかったのに……!」
神官「ふふふ、竜人さんも元気でしたよ」
姫「誰もあの方のこととは言っていないでしょう!なんですその生温かい微笑は。やめなさいっ」
姫「本当に本当に私たちもう行きますわ。ほら騎士」
騎士「ええ。では」
勇者「竜人も魔女も幸せ者だなー」
神官「ふふふふ」
393 :◆TRhdaykzHI 2013/09/19(木) 21:24:06.21 ID:0/gixNDzo
翌日 朝
勇者「準備はいいか?二人とも」
神官「ええ、バッチリです」
戦士「雪の国に行くのに随分予定から遅れてしまったな。もう残りあと2カ月しかないぞ」
勇者「無駄な時間を過ごしちまった。まず魔王に昨日の手紙を渡すために魔王城に行くぞ」
シュンッ
勇者「よし到着っと。ん?なんか島の様子おかしくないか?」
神官「なんでしょう。今日はお祭りですかね。提灯と旗がいっぱい島中に……夜になったらきれいでしょうね」
戦士「変わった紋様が描かれているな。不思議な印だ」
子エルフ「あー勇者だ!久しぶり!」
魚人「おっお前ら元気だったか!!今日来るたぁタイミングばっちりじゃねえかよ!!さては狙ったな!?ハッハッハ!!」
ケット・シー「こんにちはー」
勇者「なんだ、今日は祭りなのか?」
ノール「そうなんですよ。一年に一度の魔族の祭り、今日は月祭りです」
394 :◆TRhdaykzHI 2013/09/19(木) 21:28:17.11 ID:0/gixNDzo
勇者「月祭り?なんだそれ」
子ヴァンパイア「月明かりの道を通って死んだ人が帰ってくるんだよー」
神官「へ……?」
ハーピー「こんな時にお祭りなんて不謹慎かもしれませんが……ずっと続いてきたお祭りなので」
魚人「夜からやるからよ、お前らも参加しろよ!うまいもんいっぱい用意してるからよ!!
この祭りも最後になっちまうかもしれんと思うと盛大にやらなくっちゃな!!」
キマイラ「おや、そんなネガティブなこと言うなんて、魚人さんにしては珍しい」
魚人「ハハハ!いっけね!!うそうそ!!じゃあまたなお前ら!魔王様のところに行くんだろ?」
神官「死者が蘇るお祭り……ってあのあの、本物の死者じゃないですよね?ね?」
戦士「……」
勇者「……」
神官「黙らないで下さいよ!」
勇者「さあ……未知の世界だからな。まあ魔王に直接聞いてみよう。おーい魔王、いるか?」
シーン
勇者「あれ?城にいないのか?」
神官「おかしいですね。探してみましょうか。私は庭を見てきます」
戦士「じゃあ俺は大広間へ」
395 :◆TRhdaykzHI 2013/09/19(木) 21:28:49.47 ID:0/gixNDzo
勇者「自室にでも行ってみるか」
勇者「おーい魔王、いるか。……ノックしても返事がないな。……あ、開いてる」
勇者「魔王?」
ビュンビュンッ!
勇者「ファーーーッ!?なんだこの矢のトラップ!?」
勇者「げっ なんか魔法陣踏んじゃった!これ一体なんの……」
バリバリバリバリッ!!!ビシャァァァン!!!
勇者「ぐあっぁあああああああ!!!」
396 :◆TRhdaykzHI 2013/09/19(木) 21:31:35.71 ID:0/gixNDzo
プスプス…
勇者「おい……なんで自室にこんな罠しかけてんだよ……ここはダンジョンか。もう満身創痍だよ」
魔王「……」スヤスヤ
勇者「寝てるし。よくあの大騒音の中で起きないな……。」
勇者「寝顔だけ見てれば本当ただの子どもだな。 おーい、魔王。朝だぞ」
魔王「…………ん……牛?」
勇者「俺のどこらへんを牛と見間違えた?言ってみろこの野郎」
魔王「あれ?勇者くんか。来てたのか。いらっしゃい。ところでなんでそんなボロボロなんだ?」
勇者「お前のせいだよ!なんなんだよあの入り口のは!」
魔王「ごめん。この間不法侵入されてな。一応しかけといたのだが勇者くんが引っかかるとは。ところで何か用事でも?
あ、別に用事がないと来るなという意味ではないぞ。いつでも歓迎するが。お腹はすいているか?
一緒に朝食を食べよう。この間パンケーキの作り方を習ったから作れるぞ」
勇者「え、なに!?畳みかけるように喋るな! お前ってそんな饒舌だったっけ!?」
魔王「だって久しぶりに会ったから仕方ないじゃないか。では着替えるので先に広間に行っててく……」
勇者「どうかしたか?」
魔王「なんか……変な感じがするな。勇者くんから」
勇者「え?」
397 :◆TRhdaykzHI 2013/09/19(木) 21:36:33.50 ID:0/gixNDzo
魔王「君から知らない魔力を感じる。勇者くんのものではないな。赤ん坊でも身ごもったか?」
勇者「どういう発想だそりゃ」
魔王「では何か魔術具でも身につけているのか」
勇者「もしかして……これか?国王からもらったっていう魔除けの札だ」
魔王「ああ、きっとそれだ。なんだかすごく嫌な感じがする」
勇者「へえ。じゃあちゃんと効いてるんだな。ほれほれ」
魔王「や、やめろ。それを近づけないでくれ。鳥肌が立つ。やめろったら。」
勇者「ちょっと楽しくなってきた。はっはっは」
魔王「わーーーーーっ気持ち悪い気持ち悪い!それ以上近づけるなーーーっ」
魔王「……は」
勇者「……」
魔王「……」
魔王「いま何か悲鳴のようなものが聞こえたな。神官が虫でも見つけたのかもしれない。早く行こうか」
勇者「お、おう……なんかすまんな」
魔王「なにが?」
勇者「いやそんな下手な嘘つかせて……いたいっ!杖で殴るな!ごめんって!」
398 :◆TRhdaykzHI 2013/09/19(木) 21:38:05.46 ID:0/gixNDzo
大広間
神官「かくかくしかじかってわけで、これが王子からの手紙らしいのです。ただ条件に合致するかは分からないんですけど」
魔王「なるほど。ではさっそくやってみようか。準備は整えてある」
戦士「ほう、用意がいいな」
魔王「大分頑張ったのだ。全身全霊で褒めてほしい」
勇者「よしよし」
魔王「勇者くんの全身全霊はそんなものか。がっかりだ」
勇者「よぉぉぉぉしよぉぉぉぉぉぉぉし!!!!」
魔王「そういうことじゃなく……もういいや。もういい、いいから。髪の毛ぐっしゃぐしゃになる。さて、あとは女子の生き血だけ採ればすぐに儀式を始められる」
戦士「そうか。よし神官」
神官「えっ!?わ、私!?」
魔王「? 別に私の血を採るつもりだったから平気だ。ではいくぞ、……はぁ……はぁ……いくぞっ……! うっ……くぅ……!」
戦士「神官!」
神官「うぅぅぅ、魔王さんのこんな姿見せられたら立候補するしかないじゃないですかー!!いいです私やりますぅぅう!!」
魔王「わっ…… あ、」
ザクッ!!
神官「っきゃーーーーーー!? 魔王さん大丈夫ですか!?ごごごごめんなさい私が大声あげたから!!」
魔王「わーーーーーー!? い、いたいぞ!」
勇者「そりゃ痛いだろ!なにやってんだ! 神官、治癒魔法!!」
神官「え、あ、はい! でも魔族の方って教会の魔術効くんでしょうか!?」
戦士「ええいそれより先に血を採取だ! そんなに大けがじゃないから落ち着け3人とも!」
399 :◆TRhdaykzHI 2013/09/19(木) 21:41:04.78 ID:0/gixNDzo
* * *
魔王「ではこれより儀式を始める」
神官「うわああ、この部屋の禍々しさすごい」
勇者「そのいかにもな黒いローブは必要なのか」
魔王「当たり前だ。ふう、じゃさっさと終わらせてしまおう。手紙を魔法陣の中心において……」
魔王「……どうやらこの手紙は1年以内のものではないな。魔法が発動しない」
勇者「なんだ……じゃあ無駄足だったか。せっかく貴重な一週間を割いてきたのに」
神官「残念でしたね」
魔王「ところで、この王子からだという手紙には目を通したのか?もしかしたら何か手掛かりをつかめるかもしれないぞ」
勇者「ばか、そんな倫理に反すること、勇者がするわけないだろっ!」ガサガサ
戦士「といいつつ手紙を封筒から出しているお前の手はなんだ」
勇者「いや居場所の手がかりがつかめたら見ないつもりだったんだけどな。もう時間も多く残されてないし、ちょっとくらいは許してくれ、王子様」
勇者「えーどれどれ」
勇者「…………これと言って……特筆すべきことは書いてないな。至って普通の内容だ」
戦士「ふむ。内容を見るに、なかなか素直で親思いの青年のようではないか」
400 :◆TRhdaykzHI 2013/09/19(木) 21:43:26.70 ID:0/gixNDzo
魔王「ん?待ってくれ、これ、行の文頭だけ見ると……『くたばれじじい』」
勇者「oh」
戦士「ぬ……」
神官「あ、あれれー?私の王子様像がガラガラと音をたてて崩落していく」
勇者「なんか居場所特定するの、自信なくなってきたわ俺」
魔王「まあそう憂慮せず、前向きにいこうではないか。今日は泊まっていくのだろう」
勇者「もう今日は転移魔法使えないしな」
魔王「外の様子を見て分かったかもしれないが、今日は祭りの日だ。ぜひ楽しんでいってほしい」
神官「あ、それ村の方に聞きました。あああああの!本当に亡くなった方がいらっしゃるのですか……?」
魔王「怖いのか?」
神官「いえ、そんなことは決してありませんけど!」
魔王「それは……参加してからのお楽しみ、だ」ニッコリ
神官「そんな魔王さん……意地悪しないでくださいよ~!」
401 :◆TRhdaykzHI 2013/09/19(木) 21:46:24.74 ID:0/gixNDzo
夜
神官「わーっ!きれいですね戦士さん!提灯がいっぱい光ってて幻想的です。それからこの音楽……島の方が演奏されてるんですか?魔王さん」
魔王「うん、そうだ」
戦士「ほう。賑わっておるな」
神官「でもなんでみなさん、面をつけてるんですか?」
魔王「二人にも用意してあるぞ。祭りの日はみんなこれをつける決まりだ」
戦士「あのいつも仮面をつけている男も、今日なら溶け込めたろうに」
神官「変わった面ですね。木彫り?」
魔王「死者が月明かりを渡って蘇る祭りと銘打ってあるが、本当に死者が紛れているかは分からない。
でも、たまに見かけない背格好の者を目にすることもあるから、もしかしたらいるかもな。運がよければ会えるかもしれないぞ」
神官「ハハハ……マタマタ、ゴジョウダンヲ……」
魔王「ところで勇者くんは?」
神官「あれ、てっきりもう参加されてるのかと」
魔王「いや、まだ来てない。まだ城にいるのだろう。私が探してくるから二人は先に祭りを楽しんでてくれ」
戦士「すまんが頼むぞ。あいつ寝起き悪いから気をつけてくれ」
402 :◆TRhdaykzHI 2013/09/19(木) 21:49:03.01 ID:0/gixNDzo
魔王「うーん。大広間にも客間にもトイレにもいない。
……ここは図書室か。勇者くんはあまり本を好きな様子ではなかったけれど、一応見てみるか」
勇者「……」
魔王「あ、いた。机に突っ伏して寝てると、腕がしびれてしまうぞ……起きて勇者くん。勇者くーん」
魔王「全然起きない。どうしよう。かわいそうだがゆさぶってみるか、って渾身の力でも全然揺れないぞ。あ、あれ?」
勇者「うぅ……」
魔王「困った。…………ふーっ」
ガタガタッ! ゴシャッ!!
勇者「!?……なにした!?」
魔王「耳に息を吹きかけただけだが。思いのほか大きい反応でこっちが慄いたぞ」
勇者「起こすなら普通に起こせよ!お前の100倍こっちはびっくりした」
魔王「そんなにか?昔魔女にやられた悪戯をしてみただけなんだけども。大丈夫か?」
勇者「ああ、一人で立ち上がれる。ってもう夜か。俺、随分寝てたみたいだな」
魔王「迎えに来た。ところで何の本を読んでたんだ?」
勇者「これだよ」
魔王「それ……」
勇者「グリフォンが書いたあの本。本屋の主人に返してもらったんだ。で魔王に渡そうと思って忘れてた」
魔王「いいのか?私がもらっても」
勇者「もともとお前のものみたいなもんだ」
魔王「そうか。じゃあ遠慮なく。これから毎日読もうっと」
勇者「やっぱり字読めるんじゃないかよ……」
魔王「うーん、何も聞こえなかったな。さあ、もう祭りは始まっているぞ。早く行こう」
勇者「わっ、引っ張るなって」
403 :◆TRhdaykzHI 2013/09/19(木) 21:50:55.24 ID:0/gixNDzo
がやがや がやがや
魔王「今年は竜人と魔女は参加できなかったな。残念だ」
グリフォン「だねぇ」
魔王「そのひょろ長い体に間延びした声。君はグリフォンか」
グリフォン「面つけてもやっぱり分かっちゃうね。チ……じゃなくて矮躯に長い髪、君は魔王様だよね」
魔王「チってなんだ、チって。なにを言いかけた」
グリフォン「いや~今年は彼らも参加してくれてたんだね。ほんと人間なのによくやってくれてるよねぇ」
魔王「話をそらしたな。……まあいい。勇者くんたちのことなら、本当に感謝してもしきれないくらいだ」
グリフォン「あれれ、彼、女の子たちに囲まれて楽しそうに話してるけど、行かなくていいのかい?」
魔王「質問の意味が分からないな」
グリフォン「えぇ、そう?意外だな。じゃ僕お店に料理もらってこよっと」
魔王「……」
魔族女1「勇者様、お話聞かせてください!」
魔族女2「付き合ってる人、いるんですか?」
魚人「初体験はいつですか!?」
勇者「おい最後。面で顔が見えないが明らかに違う奴混じってるだろ」
魔王「……はあ」
グリフォン「『私も早く大人になりたいなぁ』……ってところかな?」
魔王「まだいたのか。早く行け。違う」
404 :◆TRhdaykzHI 2013/09/19(木) 21:53:28.10 ID:0/gixNDzo
魔族女「あれ、勇者様どこ行くんですか?」
勇者「いやちょっとトイレに……ははは」
勇者「ふう。ああいう話題はなんか慣れない……思わず逃げてきてしまった。
勇者「海辺には誰もいない、か。 しばらく休憩するか」
勇者「それにしても。本当に村で見かけたことのない奴がチラホラ混じっているんだが、まさかな……。面のせいで分からないだけだよな、うん」
ザッザッザッ……
男「……」
勇者「よう。あんたもあんまり村じゃ見かけない姿だな。一休みしに?」
男「……」
勇者「あのー……?」
男「幻滅した」
勇者「え、ええぇ……」
405 :◆TRhdaykzHI 2013/09/19(木) 21:55:05.49 ID:0/gixNDzo
勇者「流石に初対面で幻滅されたのは今日が初めてだ」
男「全く、魔王だけかと思えば勇者まで日和っておったとは。なんだその貴様の情けない面は」
勇者「いやお面だからこれ。あんた一体何者だ?」
男「貴様は、奴には似てないな。血縁関係はないのか」
勇者「……おいおい何の話だ?」
男「今の俺でも勝てそうだな」
勇者「はっ?――うっ!!」
キィンッ!
男「ふん、なんとか凌いだか。呆けた顔のくせに剣の腕はそれなりらしいな」
勇者「いきなりなにするんだ!?危ないだろ!」
男「むしろ貴様とあの娘が、どこまでやれるか興味が湧いてきた。せいぜい頑張ってみろ」
勇者「はぁ? あの娘ってだれだよ?」
男「これを貴様にやろう。有り難く受け取れ」
勇者「おい、俺の話聞けよ! って、なんだこれ?小ビン?
なあこれなにが入っているんだ?……あ!? い、いない」
勇者「なんだったんだあいつ……怪しい奴だな。あんな男この村にいたか……?」
魔王「勇者くん?一人でなに騒いでるんだ?」
勇者「うわっ! 魔王か……。いやさっきまで一人じゃなかったんだが」
406 :◆TRhdaykzHI 2013/09/19(木) 21:55:59.92 ID:0/gixNDzo
勇者「怪しい男に怪しいものをもらった」
魔王「すぐ捨てるべきだと思う」
勇者「だよな。城に帰ったらゴミ箱にいれるわ」
魔王「怪しいものって、それか?……この液体、すごい魔力を感じる。しかもなんとなく覚えがあるような……
まさか、その怪しい男って……勇者くん、大丈夫か?なにもされてないか!?」
勇者「いきなり切りかかられた」
魔王「えっ。け、怪我はないのか?…………脱げ」
勇者「最近耳の調子が悪いな。え?なんか言った?」
魔王「今すぐ服を脱げ」
勇者「えっちょ、なんで杖構えてっイヤァーーー!!!」
魔王「……よかった。怪我はないみたいだな」
勇者「ねえほかに確かめる方法いくらでもあったよね!?なんで服破いちゃった!?」
魔王「つい無我夢中で」
勇者「ふざけんなよ!ついで人のこと裸にするなよ!」
魔王「ところでこれだが……どうやってあいつは自分の体と魔力を分断したのだろう。
液体化……ふむ。もしかしたら、いけるかも。もう私を無能などと言わせないぞ」
勇者「お前がそんな苦戦するなんて、よっぽど難しいのか。その魔法」
魔王「難しい……です」
勇者「口調が変わってしまうくらいなのか。分かった」
407 :◆TRhdaykzHI 2013/09/19(木) 21:58:44.36 ID:0/gixNDzo
魔王「魔力は生命そのものと密接に結びついている。その証拠に、魔族が魔力を全部使い切ると、死ぬ」
勇者「そうなのか?」
魔王「だから魔力を切り離す魔法は、命を二分するくらい難しい。それを容易くやってしまうとはやっぱりあいつ、さすがというべきか」
勇者「だからあいつってだれだよ?知り合いか?」
魔王「いや、えっと。えーと。まあ」
勇者「ふーん。ま、訊かれたくないなら詳しくは探らないよ」
魔王「……助かる」
ザザーン……ザザーン……
魔王「……海面に月明かりが反射しているのが見えるか?」
勇者「ああ」
魔王「あそこを通って死者たちが帰ってくる。面をつけて、だれとも分からないように。
今日は死者も生者も入り乱れて、悲しみも何も全部忘れてみんなで楽しむ日なんだ。勇者くんや神官や戦士殿は楽しんでいるだろうか」
勇者「向こうにいる二人楽しそうだぞ」
魔王「それはよかった」
勇者「裸同然だけど俺もそれなりに楽しいよ。裸同然だけど」
魔王「それはよかった」
勇者「よくねえよ」
408 :◆TRhdaykzHI 2013/09/19(木) 22:00:01.23 ID:0/gixNDzo
魔王「明日、雪の国へ?」
勇者「ああ」
魔王「そうか」
勇者「女王に会ってくる。心配すんな、すぐ認定書もらってきてやるよ」
魔王「うん。信じてる」
勇者「な、なんだ。やけに素直だな」
魔王「私はいつも素直だ。 やっぱりその小ビンについてだが、捨てずにとっておいた方がいい」
勇者「なんでだ? 正直気味悪くて持ち歩きたくないんだけど」
魔王「万が一ということもある。こういうときの勘はよくあたるのだ。大人しく従っておけ」
勇者「まあお前がそこまで言うなら……なんか身につけるグッズが多くなってきたな……」
魔王「国王に先代ま……もごもご……からの贈り物か。では私からも贈ろう」
勇者「いいよ別に、ってなにしてんだお前」
魔王「元気がでるおまじないだ。君の頭をなでている」
勇者「どんな画だよ、これ。見た奴になにか誤解されそうだからやめろ」
魔王「む……」
409 :◆TRhdaykzHI 2013/09/19(木) 22:01:16.46 ID:0/gixNDzo
グリフォン「あーあ。もう月が落ちていくね。祭りも終わりだ」
魚人「また来年かぁ。じゃ、まぎれてるかもしれない死者さんたちよ、また来年な!!」
マーメイド「片付けましょうか」
神官「お祭りも終わりですか……なんだか寂しいですね」
戦士「また来年、参加させてもらえばいい。さあ、俺たちも片付けを手伝うぞ」
神官「……はい!」
410 :◆TRhdaykzHI 2013/09/19(木) 22:01:43.45 ID:0/gixNDzo
* * *
朝
神官「うん、今日も快晴ですね!旅立ち日和です」
戦士「どうせあちらについたら雪だがな」
勇者「一瞬で着くから温度差やばいな。 じゃあ、行ってくるな、魔王」
魔王「ああ。あちらの竜人と魔女とあの仮面の彼たちによろしく」
魔王「行ってらっしゃい。気をつけて」
411 :◆TRhdaykzHI 2013/09/19(木) 22:02:54.12 ID:0/gixNDzo
雪の国
ビュォォォオオオ
神官「さっむっ……」
勇者「この国はいつ来ても寒い。だが負けるな!!よっしゃさっそく女王のところに行くぞ!!」
戦士「待て勇者。あそこを見てみろ」
勇者「ん?」
仮面「あそこで飲んでいる男、随分と金に余裕があるようだな。少しくらいちょろまかしても罰はあたらねぇだろ。適当に指輪や装飾品を頂いてくるか」
盗賊1「そっすね兄貴!」
盗賊2「それ売っぱらってもっと上着買いたいですぜ兄貴!寒ぃ!」
仮面「いつもの作戦で行くぞ。今日は豪華な飯が食えるから楽しみにしとけ」
勇者「なーにーしーてーんーだ仮面野郎。その仮面剥いで燃やすぞ」
仮面「あ?なんだてめぇら、こっち来てたのか。遅かったな」
戦士「お前らちゃんと王子探ししておったのだろうな。泥棒業ばっかりやっておったのではないか」
盗賊1「その通りですz ピギャー!痛いよ兄貴!!」
仮面「やってたに決まってんだろ?あんまり偉そうな口きくなよオッサン。髭凍ってんぞ」
戦士「よーしオッサン怒ったぞ、こいつらも女王のところに一緒に連れてくか」
神官「賛成ですね」
勇者「賛成だな」
仮面「おい!誰も行くなんて言ってねぇだろうが!」
盗賊2「兄貴行ってらっしゃい!」
盗賊1「ご武運を、兄貴!」
仮面「てめぇら、裏切りやがって!離せこら!!」
勇者「行くぞ」
412 :◆TRhdaykzHI 2013/09/19(木) 22:09:48.15 ID:0/gixNDzo
ここまでです
雪