名作・神スレ

【名作SS】幼女「待ちくたびれたぞ勇者」

514 :◆TRhdaykzHI 2013/10/11(金) 19:26:52.51 ID:o74a0MbXo

女主人「離しなっ このクソ野郎が!」

本屋「全く老体にひどいことをしおるわい……」

司書「皆さん!私たちのことは気にしないで、早くここから逃げてください!」

神官「えっ……!!ど、どうして……!?」

戦士「人質か。こすい真似を」

勇者「なっ、なに捕まってんだお前ら!」

女主人「うるさいね!あんたらこそほいほいここに来てんじゃないよ!ちったぁ疑いな馬鹿!」

司書「喧嘩してる場合ではないですよ、早く逃げてください……!!」

勇者「……っ」

国王「私の言いたいことは分かるな? 抵抗をやめ、武器を捨てなさい」

勇者「…………ほらよ」ガチャン

国王「身柄を拘束しろ」

騎士「はっ」

515 :◆TRhdaykzHI 2013/10/11(金) 19:28:39.65 ID:o74a0MbXo

神官「いたた……」

戦士「……」

女主人「馬鹿……あんたらまで捕まってどうすんのさ!」

司書「申し訳ありません……皆さん」

国王「貴様らがなにを企んでいたのか、大方の予想はついている。
   認定書はもう受け取っているのかね?」
   
勇者「!」

勇者「……そこまで察しがついていたとは。ハッ……情けないが、まだどっちの国からも受け取ってない」

国王「魔術師……」

魔術師「は、承知しております」

勇者「(げっ……)」

魔術師「『我が言葉に従い、真実を示せ』」

勇者「うっ……やめろ!」

神官「勇者様!」

魔術師「『認定書はどこにある?私に差し出しなさい』」

戦士「勇者……!」

勇者(手が……勝手に……!!くそ……!)

国王「ほう。あの偏屈屋の王子と、高慢な女王、どちらからも認定書を持ち帰ってきていたとはな。
   全く、侮れんものだ。しかし……私の放蕩息子の行方までは掴めていまい」
   
勇者「……」

516 :◆TRhdaykzHI 2013/10/11(金) 19:34:00.29 ID:o74a0MbXo

国王「図星のようだな。あれの行方はいまだに私ですら掴めんのだ。今どこで何をしているのやら」

国王「……これはもう必要ない。暖炉にでもくべてしまえ」

騎士「はい」

ビリビリ……

勇者「……! やめろ!」

ボォッ パチパチ……

神官(……あぁ……。あんなに苦労して手に入れた認定書が……灰に、なって……)

勇者「……ッごめん」

戦士「お前のせいではない」

517 :◆TRhdaykzHI 2013/10/11(金) 19:35:12.56 ID:o74a0MbXo

国王「残念だが――クーデターを企み、国王である私を陥れようとし、民を無意味に惑わしたその罪」

国王「死をもって償ってもらうほかない」

国王「三日後。計画の首謀者である三人の処刑を行う」

国王「それまでその者らを牢獄に繋いでおけ」

騎士「ハッ」

大臣「やれやれ、ひと段落ですな。まさか勇者が魔王と繋がっていたとは……。
   あのような若者が、何故……疑問が残りますな。魔族に惑わされていたのでしょうか?」
   
国王「それはないだろう。彼奴の目を見れば分かることだ」

国王「しかし、まさかあそこまで彼奴らが動いておったとは。
   これはあの放蕩息子の捜索もいよいよ本格化させんとな」
   
国王「またこのようなことが起きたら面倒だ……。あいつもそろそろ満足したろう。
   未だ王座を譲る気は毛頭ないが、私もいい年だしな」
   
大臣「仰せのままに」

518 :◆TRhdaykzHI 2013/10/11(金) 19:36:24.15 ID:o74a0MbXo

ガンッ!

勇者「くそ!剣さえあれば、こんな牢……」

戦士「落ち着け、勇者。こういう時にこそ冷静になることが重要だ」

勇者「冷静になんかなってられるか。畜生、あと一歩だったってのに!」

神官「私たち、三日後に処刑、ですよね。どんな処刑方法なんでしょうか……」

戦士「重罪人だからな。そりゃあ国民の前で首をスパッと……或いは磔にされて内臓を下から串刺しに」

神官「いやぁー!血みどろスプラッタ!神よ、哀れな子羊をお助け下さい!」

勇者「おぞましいことを言うのはやめてくれ!吐きそう!」

勇者「はぁ……二人ともすまなかった。全部俺のせいだ」

神官「気を落とさないでください。勇者様だけの責任じゃありませんよ」

勇者「認定書も……昨日受け取りたてほやほやだったのに。
   灰になったら流石に無効だよな。つーか王子もまだ……いや」
   
勇者「あいつ、そうだ、あいつはまだ俺たちの仲間ってことがばれてない!」

戦士「うむ。しかし……なあ」

519 :◆TRhdaykzHI 2013/10/11(金) 19:41:27.18 ID:o74a0MbXo

神官「そ、それに、魔王さんや魔女さん、竜人さんなら、もしかしたら灰から認定書を再生できる魔法が使えるかもですよ」

勇者「ああ、あいつらならもしかして……って思えてしまうことが恐ろしいな。
   仮面も捕まってない。まだまだ諦めるには早いってことだな」
   
戦士「しかし、どうも俺は仮面と王子を結びつけるのは早計だと思うのだが……」

勇者「でもあいつがそうでないとしたらもう希望が見えないぞ」

神官「王様に私たちの目論見が露呈してしまった以上、国を挙げて何が何でも阻止しようとするでしょうね」

神官「もう……こうなったら、祈るしかありません」

戦士「祈る、か……」

神官「きっと、信じる者は救われます。最後まで信じましょう――運命を」

520 :◆TRhdaykzHI 2013/10/11(金) 19:42:39.07 ID:o74a0MbXo

魔王城

魔女「じゃ、ちゃちゃっと行ってくるね。王都」

魔王「待て」

竜人「?」

魔王「……」

魔王「今、魔女の転移魔法で王都に行ったら、二人とも今日は転移魔法が使えなくなる……」

竜人「それは分かってますけども、急ぎませんと。時間はもうたくさんは残されていないのですから」

魔女「大丈夫だよー、心配しなくても」

魔王「……そうだな。余計なことを言った。でも、くれぐれも気をつけて」

竜人「ええ。これまで振り回してくれた王子様の首を絶対にとっ捕まえてやりますよ」

魔女「どんな人なのかなぁー王子って。ついに会えるのかー」

魔王「だから気を引き締めろと……まあいいや。行ってらっしゃい」

521 :◆TRhdaykzHI 2013/10/11(金) 19:44:22.46 ID:o74a0MbXo

王都

魔女「ふう。到着」

竜人「……? なんだか、いつもより騒がしいですね。何かあったんでしょうか」

ザワザワザワザワ……

男性「号外!号外!!大ニュースだよ!!」

男性「あの伝説の勇者とお仲間の二人が、反逆罪で三日後に処刑だ!!!」

ザワザワザワザワ……

魔女「はぁ!? どういうこと!?」

竜人「一部下さい!」

男性「毎度あり!!さあさあ皆も買った買った!!今年一番の大ニュースだ!!」

竜人「ええと……勇者様たちが捕まったのは……私たちが来るほんの1時間前ですね」

魔女「魔族と裏で繋がり、国家転覆を謀ったため、死罪って!?なんでばれちゃったのかな?」

竜人「とりあえず、なんとか助けださないと。三日間のうちに彼らを助けだして、
   あとは旅人さんの言う一週間後まで逃げ延びられれば、まだチャンスはあるはずです」
   

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522 :◆TRhdaykzHI 2013/10/11(金) 19:46:25.48 ID:o74a0MbXo

ザワザワ

「あの勇者が魔王とつながってたなんて。俺たちは裏切られたのか」
「どうなっちまうんだ、この国は」

魔女「! 竜人、顔隠して」

竜人「あれは……騎士団か。どこに向かって……」

女性「……な、なんです騎士様。うちに何か用ですか?」

騎士「ここの主人に用がある。悪いが入らせて頂きますぞ」

女性「ちょ、ちょっと!なんなんですか!」

騎士「来い!魂を穢した売国者め」

男性「離せ!畜生!」

女性「やめてください!主人は何もしてません!連れてかないで!」

子ども「パパー!」

「かわいそうに……今日で何件目だ?」 「自業自得だろ」 

竜人「…………」

523 :◆TRhdaykzHI 2013/10/11(金) 19:52:10.22 ID:o74a0MbXo

塔の上

竜人「くっそ、街中騎士だらけだ」

魔女「って、何も塔の上じゃなくても、ほかに隠れられるところあるんじゃないの」

竜人「ここなら地上からの目は届かないでしょう。しかし困りましたね。
   勇者様たちのほかにも、どんどん味方の人間が騎士たちに捕えられてしまっています」
   
魔女「こんな空気じゃあ、あたしたちの格好悪目立ちだね。ろくに歩けないよ」

竜人「あ~~~~もう!王子も見つけないといけないし、勇者様たちも助けないといけないし、
   魔王様にもこのこと知らせないと……ああ、そうだ。鳥を今のうちに飛ばそう」
   
魔女「できるだけ急いでね、鳥くん。緊急事態だから」

鳥「ピィー」バッサバッサ

竜人「もうなんなんですか、この状況!胃が痛い!思考回路が焼き切れ寸前ですよ全く!」

魔女「やばい、竜人が発狂し始めた。あんた本当追い詰められるとすぐ胃が痛くなるよね。
   もーめんどくさいからしっかりしてよ。早く作戦考えて」
   
竜人「丸投げよくないと思います。少しは私のストレス軽減してくださいよ……。
   ……とりあえず暗くなるまでここで待ちましょう」
   
竜人「で、まずは魔王様が特定してくれた場所に行って、王子に会いに行く。
   勇者様たちを解放するためにも、地の利がある王子を仲間につけておいた方が得策でしょうしね」
   
魔女「りょーかい」

534 :◆TRhdaykzHI 2013/10/15(火) 00:45:00.72 ID:loQvPbLEo

ドンドンッ!

姫「どういうつもり!?出して、出しなさい!」

大臣「申し訳ありません、姫様。王都中が混乱しています故、いまは自室にてお待ちください。
   国王様からのご命令でございますので、恐れ多くも鍵をかけさせていただきます」
   
姫「鍵……? どうしてそんなことを。お父様に会わせて!!ここから出しなさいよ!!」

大臣「姫様、貴女様は王族の自覚をもって、慎重に行動して頂きたいものですな」

姫「この、分からず屋ポークヘッド!」

大臣「どうやら魔族の暗示にかかっているご様子……後で神殿の者を呼びましょう」

姫「肉壁大臣!髭面眼鏡!豚!!!」

大臣「随分強力な錯乱の呪いにかかっているご様子ですなぁ!?ええ!?あーあー聞こえない!」

兵士「大臣殿、ご報告に参りました。
   東の民衆による暴動は既に鎮圧されましたが、今度は王都の南と西で暴動が起きて、ただいま鎮圧にあたっています」
   
大臣「南と西でも、か。分かった、私から殿下に伝えましょう。
   現場での指揮は引き続き、将軍に任せます。牢の警護は騎士団長にまかせるので」
   
兵士「ハッ」

535 :◆TRhdaykzHI 2013/10/15(火) 00:45:58.09 ID:loQvPbLEo

姫「あっ……行っちゃったわ。もう!」

姫「勇者たちが捕えられてしまったなんて、一体どうしたら……。
  それに、暴動って……何が起こっているの?」
  
姫「このままじゃ全ておしまいよ」

姫「お兄様……いまどこにいらっしゃいますの……!?」

536 :◆TRhdaykzHI 2013/10/15(火) 00:51:50.06 ID:loQvPbLEo

ドゴーン…… ワーワー
 いたぞー!捕まえろぉ! やれるもんならやってみろー!
 

竜人「……そろそろ動きだしてもいいような暗さになりましたが、あちこちで聞こえる爆発音は一体……」

魔女「よくわかんないけど、あたしたちにとっては好都合じゃない?」

竜人「確かに混乱に乗じて騎士の目を引かずに移動できるのはいいですけど。
   ……気にしても仕方ありませんね。行きましょう」
   
魔女「そうそう。利用できるもんはよく分からなくても利用しなくっちゃ」

タッタッタッタ…

竜人「もう少しです。この通りを真っ直ぐ行って……ここだ!」

魔女「ここ?こんなボロっちぃ廃屋に王子様がいるっていうの? うそでしょ」

竜人「確かに魔王様に告げられた場所はここのはずなのですが」

バタバタッ そっちにいたか!? 虱潰しに探せ!

竜人「うわ、人が来ます。とりあえず中に入りましょう!」

魔女「なんか汚そうだしやだよー」

537 :◆TRhdaykzHI 2013/10/15(火) 00:53:35.69 ID:loQvPbLEo

ガサガサ

竜人「一応人が住んでたらしき痕跡はありますね。ソファーや調理道具も……ボロボロですけど」

魔女「でもホコリだらけだよ?普通に廃墟レベル」

竜人「誰かさんの部屋も似たようなもんですけどね」

魔女「こんなに汚くないもーん」

魔女「ていうかまさかの本人不在? いい加減あたしもイライラしてきたんだけどな」

竜人「……」

魔女「なに見てんの?」

竜人「壁に貼ってあるメモ、見てください。全部どこかの建物の見取り図です」

魔女「ほんとだ。変な趣味だね!」

竜人「趣味……なんでしょうか。 ん!?」

竜人「これ、双子の盗賊さんのバンダナじゃあ……?」

魔女「あれ。なんでこんなところにあるの?ここって、あいつらの家ってこと?」

竜人「っていうより、仮面さんと双子の盗賊さんの……アジト、と言った方がいいですかね。
   ここに葉巻の吸い殻があります。双子は葉巻を吸ってませんでしたし」
   
竜人「とすると見取り図は盗みに入る前の事前調査でしょうね」

竜人「……もしかして」

竜人「王子って……まさか」

538 :◆TRhdaykzHI 2013/10/15(火) 00:57:36.33 ID:loQvPbLEo

魔女「あ。ねえ!ゴミ箱にビリビリに破かれたメモ入ってるよ」ゴソゴソ

竜人「意味深ですね。つなげてみましょう。……これも見取り図ですか」

魔女「これってさあ……王都の牢獄のじゃないの?」

竜人「何故そう思うんです?どこの見取り図なのかは何も書いてありませんよ」

魔女「だってさ、窓がどこにもないよ。これを見ると7階建ての建物だと思うけど、
   そんな高い建物、さっき私たちがいた時計塔くらいしか王都にはないよね?」
   
魔女「だとするとこの見取り図の建物は地下7階建てってことでしょ?
   窓がなくて、そんな大層な地下の建物って、牢獄くらいしかなくない?」
   
竜人「なるほど。確かに説得力がありますね」

竜人「牢獄の見取り図が破かれてゴミ箱に捨てられてたってことは……
   王子、いや仮面さんは勇者様たちを脱獄させに牢獄に向かったのか?」
   
魔女「はあ?なんで王子=仮面?テンパりすぎでしょ、竜人。プッ」

竜人「さっきあれだけ鋭い考察したのに、何故そこは気づかないんですか。
   あり得ない話じゃないですよ。現に魔王様の魔術が、ここに王子がいたと示したんです」
   
魔女「だって王子って……金髪碧眼イケメンハンサム王子様って……もっとさあ……もっと!!!」

竜人「言いたいことは分かります!完全に同意しますが、今はおさえて!」

539 :◆TRhdaykzHI 2013/10/15(火) 00:59:06.37 ID:loQvPbLEo

竜人「多分、この家に誰もいないってことは、彼らは牢獄に向かったんでしょう。勇者様たちを助けに」
   
魔女「仮面君、結構情に厚いところあるんだね」

竜人「私たちも行きますよ。この見取り図を覚えれば、裏口からこっそり侵入できます」

魔女「よっしゃ、行こうか!みんなを助けに!」

540 :◆TRhdaykzHI 2013/10/15(火) 01:00:27.29 ID:loQvPbLEo

牢獄 地下1階

仮面「……」チラ

騎士A「今日は随分城下が騒がしいな」

騎士B「なんでもあちこちで暴動が……」

騎士C「すまん、ちょっと便所に行ってくる」

騎士A「早めにすませろよ、今日は特別重警護をしなければならないのだから」

騎士C「へいへい」スタスタ

騎士C「はぁー……誰が囚人を脱獄させに来るってんだ。そんな奴ここ10年来たことねーっつの」

仮面「じゃあ俺が記念すべき10年来の脱獄補助者だな」ダスッ

騎士C「ぐむっ!?」

仮面「……騎士装備、似合うか?」

盗賊1「似合ってますぜ兄貴」

仮面「じゃ、ちょっと待ってろよ」

541 :◆TRhdaykzHI 2013/10/15(火) 01:02:46.61 ID:loQvPbLEo

仮面「待たせたな」

騎士A「ぶはっ、お前、なんで兜被ってるんだ?」

騎士B「……? 待て。そいつ……」

仮面「遅えよ」

* * *

仮面「おら、これ着ろ」

盗賊2「すげー。騎士団の鎧なんて一生着る機会ねーや」

盗賊1「おもっ……重いッス!!これじゃまともに戦えねーよ兄貴!」

仮面「戦う必要はねーよ。さっき倒した騎士三人組の異常に、誰かが気づく前に勝負を決める」

仮面「いちいち出会う騎士全て相手してたら時間が足らん。盗賊らしくコソコソしながら勇者たちの牢に行くぞ」

盗賊1「なるほど」

盗賊2「でも、勇者の旦那たちはどこに捕まってるんだろ」

仮面「どうせVIP待遇の最下階、地下7階だろうさ。さっさと行くぞ」

542 :◆TRhdaykzHI 2013/10/15(火) 01:06:36.17 ID:loQvPbLEo

地下3階

仮面「ん? なんかここの階は騒がしいな」

盗賊1「あ、あれって、街の人たちじゃねぇですかい?」

女主人「こっから出しな!おいこら聞いてんのかい馬鹿騎士!」ガンガン

騎士「……」

本屋「静かにしてくれんかのう、わし寝たいんじゃが」

司書「よくこんな状態で寝れますね」

女主人「全く、頭が固い連中だよ」

歴史家「同感です。なんとか脱獄できませんかねぇ」

男性「帰してくれよ~妻と子が待ってるんだよ~」

盗賊2「どうするんで?」

仮面「どのみちあそこを通過しねぇと地下4階に行けねえ。仕方ねぇな……」

仮面「見張りは6人か。多いな。少し博打にでるか」

543 :◆TRhdaykzHI 2013/10/15(火) 01:09:07.78 ID:loQvPbLEo

仮面「大変です!」

騎士D「どうした?」

仮面「先ほど当番を代わりに地下1階に赴いたのですが、見張りをしていた騎士が全員倒れていました!
   もしかしたら脱獄者が出たのかもしれません!」
   
騎士E「なんだって!?まさか……あり得ん!」

騎士F「どこの牢から脱獄者がでたのか、確認せねばなるまい」

盗賊1「私たちがここの牢を見張ります。皆さまは地下1階をお願いします!」

騎士G「分かった!」

仮面(よし……)

騎士隊長「なんだ?どうかしたのか」ヌッ

騎士H「隊長、大変です。地下1階の見張りが倒れていたようで、脱獄者が出たかもしれません」

騎士隊長「なんだと!?しかし、それをどうやって知ったのだ?」

仮面(……)ダラダラ

544 :◆TRhdaykzHI 2013/10/15(火) 01:13:17.60 ID:loQvPbLEo

騎士D「この3人の騎士が知らせに来ました」

騎士隊長「お前らか。どこの部隊の所属だ?言ってみろ」

仮面(部隊!?)

騎士隊長「どうした……?まさかド忘れしたわけじゃあるまいな」

盗賊1「えぇと……あの……」

騎士隊長「……ハァッ!」

盗賊2「うわぁッ!?」

カランカラン……

盗賊2「うわわ、兜がっ」

騎士隊長「貴様、見ない顔だな。それに随分鎧に着慣れていない様子も気になる」

騎士隊長「我ら騎士団の名を騙る賊め。構えろ!こいつらも牢に入れるのだ!」

騎士「「「はい!」」」

仮面「チッ ばれちゃあしょうがねえな!!」

545 :◆TRhdaykzHI 2013/10/15(火) 01:17:17.90 ID:loQvPbLEo

騎士F「はぁ!せいっ!」ザッ

盗賊1「うぐぐ……鎧が重くて……! どわッ!!」

騎士D「なんだ、口ほどにもないじゃないか」

盗賊2「いってて……!!」ドサッ

仮面「お前らしっかりしろ!盗賊の根性見せつけろ馬鹿!」キィン ザシュッ

騎士隊長「よそ見している暇があるのか!?」

騎士H「うおおおお!!」

仮面「おいおい、俺一人で6人はさすがに手こずるぞ……!」

??「全体睡眠魔法!!!」

仮面「……!? だ、……れ……だ……」バタッ

546 :◆TRhdaykzHI 2013/10/15(火) 01:20:47.96 ID:loQvPbLEo

??「仮面さんたちまで眠らせてどうするんですか」

??「あんだけ入り乱れてたら区別なんてできないっしょ。まあいいや、叩き起こそう」

??「そうですね」ユサユサ

仮面「うぐ……む……」

??「だめだよ、あたしの睡眠魔法なんだから、そう簡単に起きないよ。これくらいやらなきゃ」ドスッ

仮面「いっ……うぅ……」

??「仕方ない、時間がないので許してくださいね」

??「そんな振りかぶっちゃっていいの?」

??「っらぁ!!」

仮面「ぐえぇぇ!!?」

竜人「よかった、起きましたね」

仮面「うっぐゲッホ、ゲホ、ゴホゴホッ!!」

魔女「時々ほんとにあんたが怖くなるよー」

547 :◆TRhdaykzHI 2013/10/15(火) 01:23:32.59 ID:loQvPbLEo

仮面「てめぇぇ、なにしやがんだゴラァ!!殺すぞクソドラゴン!!」

竜人「彼らも起こしましょう」

魔女「っていうか、あたしが状態異常回復魔法かければよかったねー」パァァ

盗賊1・2「……あれ?俺なんで眠ってたんだ?」

仮面「もっと早く気付けよ!!わざとだよなお前ら!!」

竜人「失礼しました。大丈夫ですか?」

仮面「てめーのせいで腹がいてーよ。死ね、5回死ね」

盗賊1「なんで竜の旦那と魔女の姉貴がここに?」

魔女「そりゃ、勇者たちを助けに来たに決まってんじゃん!君たちもでしょ?」

盗賊2「そりゃあ心強いや!」

竜人「そこの牢に入ってる人たちも起こして、ここから逃げてもらいましょう。
   裏口までの最短距離にいる見張りは全て魔女が眠らせました」
   
竜人「今なら誰にも見つからずに逃げ出せるはずです」

548 :◆TRhdaykzHI 2013/10/15(火) 01:26:56.91 ID:loQvPbLEo

女主人「助かったよ。恩に着る」

司書「ありがとうございます……!」

女主人「私たちは牢の外でやれることをやるよ。勇者たちによろしくね!がんばんなよ!」

本屋「グッドラックじゃ」

タッタッタ……

竜人「私たちも先を急ぎましょう!」

魔女「そんなに呪文の効果、長いわけじゃないからさ」

盗賊1「全員眠らせちまうなんて、魔法ってすげーっすね」

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549 :◆TRhdaykzHI 2013/10/15(火) 01:31:50.35 ID:loQvPbLEo

地下4階

タッタッタ

竜人「すいません。あなたたちのアジトに入らせてもらいました」

仮面「は!?」

魔女「ちゃんと掃除した方がいいよ」

仮面「るせー。てか何勝手に入ってんだよ。
   ああ、見取り図を見たんだな?だからここの裏口を知ってたってわけだ」

竜人「二つ訊きたいことがあります。走りながらでいいので答えてください」

竜人「昼から続いてるあちこちでの暴動、あれはあなたが?」

仮面「まあな。って言っても俺がしたのは人家がない路地裏とか空き家に少しばかり火薬を仕込んで爆発させただけだ」

魔女「テロじゃん」

仮面「一応近隣の住民に許可とったよ。何気にノリノリな奴が多くてな。
   あちこちで騒ぎを起こして、牢獄に集中してる騎士兵士を分散させたかったんだ」
   
仮面「でも俺が起こしたのは最初の数件だけだぜ。後は勝手に民衆がやってくれた」

竜人「今逃がした人たちも加わって、さらに苛烈になるでしょうね……騎士もお気の毒に」

魔女「今夜は眠れないね」

550 :◆TRhdaykzHI 2013/10/15(火) 01:34:16.25 ID:loQvPbLEo

騎士「なんだおm」

魔女「死ねぇぇぇ!」

竜人「違うでしょうが!睡眠睡眠!」

老女「ありがとうございます……この恩は忘れません」

商人「外でド派手な花火あげてやるぜ!俺は勇者やあんたらを応援する!がんばんな!」

バタバタ……ドタドタ……

盗賊1「順調に国民を解放できてますね!」

盗賊2「こんなに多くの人が捕まってたなんて、驚きだ」

仮面「牢も広いから面倒だな……。が、もうここまで来たら意地でも全員逃がすか。
   その方が後に有利になりそうだしな」

竜人「しかし意外ですね」

仮面「あん?」

551 :◆TRhdaykzHI 2013/10/15(火) 01:37:30.35 ID:loQvPbLEo

魔女「仮面君が勇者を助けるために、こんなに頑張るなんて、ね。 君ツンデレ?」

盗賊1「兄貴はクールに見せかけて、内に燃えたぎる魂をもつ熱い男だぜ!」

仮面「別にただの乗りかかった船だ。それにまだ、あいつに報酬をもらってねぇからな。
   人探ししたり、雪山に獣退治しに行ったり、いくら請求してやろうか今でも楽しみだ」
   
魔女「素直じゃないんだからー」

仮面「ニヤニヤするんじゃねぇ!!」

仮面「で?竜男、お前のもうひとつ俺に訊きたいことってなんだよ?」

竜人「ああ……」

地下6階

竜人「あなたの正体は――……」

??「止まれッ!!」

竜人「!?」

552 :◆TRhdaykzHI 2013/10/15(火) 01:38:40.04 ID:loQvPbLEo

仮面「だれだ!?」

騎士団長「貴様らこそ、何者だ!!この先は通さんぞ」

騎士副団長「こいつら、どうやってここまで!?」

竜人「今までいた騎士たちとは装備が違う。見るからに手ごわそうですね」

盗賊1「こ、この二人、騎士団長と副団長だ」

盗賊2「に、逃げて別ルート探した方がいいっすよ!!」

魔女「大丈夫、まかせてよ。全体睡眠魔法!」

団長「なっ……!? この呪文……貴様、魔族か!!どうやってこの国に入りこんだ!?」

魔女「あ、あれ?効かない?」

団長「副団長、お前は国王様にこのことを知らせに行け。ここは俺が受け持った」

副団長「はい!」

竜人「それは……まずい。とてもまずい!待て!」

団長「貴様らの相手は俺だ」

竜人「くっ」

553 :◆TRhdaykzHI 2013/10/15(火) 01:40:46.99 ID:loQvPbLEo

魔女「混乱魔法!麻痺魔法! あーもーなんで全然魔法が効かないの!?」

団長「俺に呪いは効かない。『破魔の指輪』を装備しているからな」

魔女「そんなのアリ!?」

団長「まとめてかかってこい! 一網打尽にしてくれる」

仮面「フン……いいぜ。一度その高い鼻へし折ってみたかったんだ」

盗賊1「魔法が効かないなら!」

盗賊2「レベルをあげて物理で殴れ!」

仮面「相手は槍使いだ。リーチが長いが、懐に入り込めればこっちの勝ちだ」

竜人「数の利を生かしましょう。連携が大事ですよ!」

団長「推して参る!!」ゴォッ

558 :◆TRhdaykzHI 2013/10/16(水) 22:10:32.23 ID:M3l9gFzjo

竜人「数の利を……」

ブォンッ!!

竜人「生かし……」

ブォンブオンッ!!

竜人「連携が……」

ブォンブオンブォンッ!!

竜人「ええい! できるわけあるか!!」

盗賊1「つ、つええ」

盗賊2「うわぁあ!」ドサッ

団長「自ら牢獄に侵入してきたことを後悔するがいい。今に貴様らの背後にある牢にぶち込んでやる」

仮面「はぁ……はあ……薙ぎ払いが厄介だな。4人で囲い込めればかなり有利になるはずなんだが」

団長「うおおおおッ!」

ガッ!!

盗賊1・2「ぬわーっっ!!」

559 :◆TRhdaykzHI 2013/10/16(水) 22:13:19.78 ID:M3l9gFzjo

魔女「ひゃっ……君たち大丈夫!?」

盗賊1・2「」

仮面「おい、しっかりしろ!!」

魔女「気絶してるだけみたいだけど……」

竜人「なんて馬鹿力だ……戦士さんに勝らずとも劣らずですね」

団長「他愛もない。あとは3人か」ブンッ

竜人「!」

仮面「うおっ!!」

竜人(このままじゃ防戦一方だ。ここで時間をとられるわけには……っ)

団長「終わりだっ!!」

560 :◆TRhdaykzHI 2013/10/16(水) 22:15:00.16 ID:M3l9gFzjo

竜人「…………っ!」ブンッ

仮面「お前なにしてんだ!!?頭沸いてんのか!」

団長「なにっ!? 剣を投げ……っ!?…………が」

団長「避けられぬとでも、思ったのか!!」

ズブッ!!

竜人「ぐっ……っげほ……」ガクッ

魔女「竜人!!」

団長「…………。……!?」グッ

竜人「……死んでもこの槍、離しませんよ。仮面さん!今のうちに!」

団長「貴様……!まさかそのために……!」

仮面「うおおおおおおっ!!」

団長「ぐああぁ!!この……賊めが……!!!」

561 :◆TRhdaykzHI 2013/10/16(水) 22:17:20.76 ID:M3l9gFzjo

団長「……っ」グラッ

団長「……ならん!!」グッ

仮面「しぶてぇ野郎だな……!!」

団長「この程度の傷で……俺は倒れん……ここは通さん!!!」

団長「槍がなくとも、この身ひとつで事足りる!!」

仮面「こちとらもたもたしてる時間なんてねーんだよ、……!?」

団長「……?」

盗賊1・2「「おりゃああああああああああああああああ!!」」スパッ

団長「貴様ら……!?」

団長「しかし虫けらが一匹だろうが三匹になろうが、変わ……」

団長「か……k……!?」ガクッ

団長「n……に……を……」

562 :◆TRhdaykzHI 2013/10/16(水) 22:18:29.81 ID:M3l9gFzjo

盗賊1「痺れて動けねぇだろ?象でも動けない痺れ毒だ」

盗賊2「竜には効かないみてぇだけどな」

団長「…………!!」

盗賊2「魔法がだめなら物理で状態異常だ」

盗賊1「騎士団団長撃破!!」

仮面「お前ら……たまには役に立つじゃねぇか!さすが俺の子分だぜ!」

魔女「大丈夫?無茶しないでよ、もう」

竜人「ええ……」

仮面「おい、死んでねえか竜男!」

竜人「……平気ですよ。竜族は生命力強いので、これくらいなら……いてて」

魔女「あたし治癒魔法あんまり得意じゃなくって……ほんと応急処置くらいしかできないんだけど」

竜人「十分です。さあ、いつ追手が来るとも限りません。行きましょう……」

仮面「……次がいよいよ最下層だな」

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563 :◆TRhdaykzHI 2013/10/16(水) 22:19:19.94 ID:M3l9gFzjo

地下7階

仮面「オラァー!てめぇら助けに来てやったぜ、跪いて感謝しろ!!」

神官「ひえ!?」

戦士「仮面!?盗賊も……竜人と魔女も!?お前ら、どうして」

竜人「助けに来ました……って、何故二人だけ……?」

神官「さっき騎士団長さんと副団長さんが来て、勇者様は最下層の地下牢に移されてしまいました。
   街で暴動が起きているから、用心のために特別な牢に入れると……」

魔女「えー」

竜人「地下7階が最下層では……?」

仮面「おかしいな……ここより下なんてなかったはずだが」

盗賊1「解錠ならまかせてくだせえ」カチャカチャ

盗賊2「ピッキングなら誰にも負けねえ」カチャカチャ

戦士「助かった。心から礼を言う」

神官「ありがとうございます……!」

魔女「よっし。で、勇者の牢にはどうやって行けばいいの?」

戦士「この通路の奥に連れていかれていた。行ってみよう」

564 :◆TRhdaykzHI 2013/10/16(水) 22:20:31.49 ID:M3l9gFzjo

仮面「あぁ!?行き止まりじゃねぇかよ」

戦士「一体どこに階段が……」

盗賊1「ここまで一本道だってえのに、どこに消えちまったんだ?」

魔女「どーなってんの??」

竜人「…………」

神官「竜人さん?」

竜人「……そこの床だけ、音の反響が違います……恐らく空洞になっているのではないかと」

仮面「よく分かったな。全然違いを感じねえよ」

魔女「でも取っ手なんかないし、床を壊せそうもないし、万事きゅーすだね」

神官「うーん、きっとどこかに仕掛けがあるんじゃないでしょうか……」キョロキョロ

戦士「目に留まるのは燭台くらいか……。む」

戦士「ほかの燭台は埃で汚れていたり錆びているのに、この燭台だけ妙に新しいな」

神官「あ、ちょっと待って……」

盗賊2「お、右に回せる」ガチャ

ガコン

盗賊2「ぎゃあああああああああああああああ」ヒュー

神官「落とし穴!わ、罠です!」

戦士「うおおおおおおおおおおおお」ガシッ

盗賊2「はあ……はあ……死ぬかと思った……」

565 :◆TRhdaykzHI 2013/10/16(水) 22:21:29.54 ID:M3l9gFzjo

神官「さ、さすが最下層への扉ですね。意地悪なトラップです。
   ……目立たないですけど、この壁の石だけダミーでずらせるのをさっき発見して……」

神官「多分この窪みに手の平を合わせれば、階段が出没するのかと思います」

盗賊2「先に言ってくれねぇか」

神官「ごめんなさい! えっと……じゃあやってみますね。一応気を付けてください」

神官「……えいっ」

ゴゴゴゴ……

神官「あ、開いた!」

戦士「暗いな……用心して行こう」

竜人「……私は夜目がきくので、先導しましょう」

魔女「どきどきするね」

566 :◆TRhdaykzHI 2013/10/16(水) 22:24:08.10 ID:M3l9gFzjo

勇者「………………はぁ」

勇者「俺、なにやってんだろ……、ん?」

キサマラ ナゼココニ 
 ウギャアアアア アベシッ
 
 

勇者「……なんだ?」

神官「勇者様!大丈夫ですか!?」

勇者「え……!?お前ら……!」

魔女「勇者!完全に姫ポジションの勇者!助けに来たぜっ!」

勇者「情けなくて泣きたくなるから姫ポジションとか言わないで!自覚してるから!」

仮面「この檻……なんだ?扉も鍵も何もねぇ。どうやってお前、この牢に入れられたんだ?」

竜人「なんだか変な感じがします。ただの金属でできていないのかも……いたたッ」バチッ

勇者「それ以上近づくな。この牢は特別製らしくてな、魔法で結界が張ってあるんだ」

勇者「術者が解錠するか、死亡するかしないと俺は出られない」

神官「術者って、宮廷の魔術師のことですよね……ええええ、どうしましょう」

竜人「斬り続けたら結界が壊れたりは……」

仮面「しねぇな。実体がないものはいくらなんでも斬れねえよ」

567 :◆TRhdaykzHI 2013/10/16(水) 22:30:21.69 ID:M3l9gFzjo

魔女「竜人が竜に変身してブレスかましてみれば?」

竜人「こんな地下で竜に戻ったら全員生き埋めです……もう少しここが広かったらよかったんですけど」

仮面「んだよ、せっかくこんな地下深くまで来たってのに!!」

勇者「……みんな、本当にありがとな」

勇者「でももういい。俺は牢に残る。すぐに騎士たちが来るだろうし、早くここから逃げるんだ」

神官「なに言ってるんですか、このままじゃ処刑されちゃいますよ!」

竜人「諦めないでください。何か手はあるはずです」

勇者「情けないけど、お前らに全部頼んだ。俺のことは気にせず、認定書をまた取りにいってくれ。
   国王は俺の処刑まで王都に目を配るだろうから、その隙にこの国を脱出しろ!」

魔女「馬鹿言わないでよ。君が死んだら魔王様泣いちゃうよ」

勇者「ここで全員捕まったら魔族はどうなる?……俺のことは本当に気にするな」

勇者「魔王によろしくな」

竜人「……」

勇者「それから、仮面。お前の事情も知らずに、いろいろ巻き込んでごめん。無礼を承知で、恥も忍んで言うけど」

勇者「どうか、みんなを……魔族を、俺の仲間を頼みます」

仮面「……なんで急に畏まった言葉なんて使ってんだよ」

568 :◆TRhdaykzHI 2013/10/16(水) 22:31:02.74 ID:M3l9gFzjo

勇者「だってお前、」

勇者「この国の王位継承者だろ?」

569 :◆TRhdaykzHI 2013/10/16(水) 22:31:32.60 ID:M3l9gFzjo

仮面「……………………」

仮面「………………は?」

勇者「! おい、後ろだ!!」

仮面「くっ!?」バッ

カランッ……カランカラン……

騎士「動くな!!」

射手「頭をカチ割るつもりだったのに。割れたのはその変な仮面だけか」

神官「もう追手が……!」

竜人「え?」

魔女「……君、それ……」

勇者「…………お、前」

勇者「その顔の傷跡、なんだよ?」

仮面「なんで俺なんかを王子と勘違いしたのか知らねえが、的外れだぜ」

仮面「俺は王子じゃない」

勇者「はあああああ!?!?」

570 :◆TRhdaykzHI 2013/10/16(水) 22:36:37.05 ID:M3l9gFzjo

勇者「左目の泣きぼくろは!?」

仮面「見ての通りそんなもんねぇ」

勇者「首の傷は!?いつも巻いてる布、傷跡を隠すためだろ!?」

仮面「ちげーよ。ただ不格好な痣があるから隠してるだけだ」

勇者「だっ……お前……ふざけんなよ!!!紛らわしいんだよ!!!」

仮面「勝手にてめぇが勘違いしたんだろうが!!」

騎士「ごちゃごちゃと騒ぐな!全員でかかれーっ!」

「「「うおおおぉぉ!!」」」

神官「もうだめです!これ以上ここにいられません!」

戦士「ぬ……!!勇者ぁ!!!」

勇者「なんだ!」

戦士「お前の剣があれば、その牢も断ち切れるのではないか!?」

勇者「え!? でも、剣は宮殿に保管されてるはずだ。取りに行く時間なんて」

戦士「できるのか、できないのか、どっちだ!!!」

勇者「…………ッ」

勇者「……ああ、できる!やってやるさ!!!」

戦士「そうか!ならば待っていろ!!すぐに持ってきてやる!!」

571 :◆TRhdaykzHI 2013/10/16(水) 22:39:07.64 ID:M3l9gFzjo

戦士「よし!!地上まで駆け抜けるぞ!!」

仮面「武器のないオッサンと神官は下がってろよ。俺たちが切り開く!」

戦士「いや、俺が先を行く。竜人、剣を貸してくれ」

竜人「……どうぞ」

戦士「俺にまかせろ。行くぞ、仮面!盗賊!魔女!!」

盗賊1「おお!!」

盗賊2「邪魔だああああどけぇぇぇ!!」

魔女「あたしも出来る限りサポートするよ!」

神官「勇者様、待ってて下さい!!必ず戻ります!!」

勇者「ああ……悪いな。気をつけろよ!」

572 :◆TRhdaykzHI 2013/10/16(水) 22:39:47.45 ID:M3l9gFzjo

宮殿

国王「まだ牢に侵入した人間と魔族は捕えられていないのか?」

大臣「はい……騎士団が健闘しているのですが、まだ報告はありません」

国王「まさか魔族が、私の国にな……なめられたものだ」

国王「必ず捕えろ。殺しても構わん。しかし問題は魔族のことだけではない……」

大臣「はあ……暴動が、鎮圧しても鎮圧しても次から次へと起きてまして……
   明日の朝には宮殿の前に詰め掛けかねない勢いです」

国王「……何故わからん。私こそ国民のことを第一に考えているというのに。
   やはり群衆は愚かだ。理性ではなく感情や情緒で判断する生き物だ」

大臣「殿下、もう夜も更けます……。そろそろ休まれては」

国王「……」

573 :◆TRhdaykzHI 2013/10/16(水) 22:40:57.49 ID:M3l9gFzjo

草陰

竜人「」

魔女「はーっ はーっ しんどいまじしんどい」

仮面「全員生きてるか……儲けもんだな」

盗賊1「体中いてえ」

竜人「」

盗賊2「ってちょっと!!竜の旦那がしゃべってねぇ!!生きてますか旦那ぁぁ!!」

竜人「ぎ、ぎりぎり……少し体力を消耗しすぎました……ぜえはあ」

神官「うう、すいません……杖があればすぐ治療できるんですけど。
   竜人さんだけじゃなくて皆さんも傷だらけですし……ごめんなさい私役立たずで!生きる価値のないゴミクズで!」
   
魔女「ちょっとここで休もうよ……」

574 :◆TRhdaykzHI 2013/10/16(水) 22:43:24.89 ID:M3l9gFzjo

戦士「……やはりお前は王子ではなかったか」

仮面「勇者も言ってたけど、とんでもねぇ勘違いしてくれるな。んなわけねーだろ」

盗賊1「兄貴の素顔初めて見たぜ!男前だ!」

魔女「でもイケメン王子って感じじゃあないかな」

仮面「うっせ」

神官「あの……首の痣って?」

仮面「あぁ、……まあいいか。これだよ」

盗賊2「な、なんですかい?それ。手の形がくっきり残ってら」

竜人「まるで誰かに、首を絞められたみたいな痣ですね」

仮面「その通りだよ。母親に首を絞められた時の痣が、何故かずっと消えねえんだ」

575 :◆TRhdaykzHI 2013/10/16(水) 22:45:17.77 ID:M3l9gFzjo

神官「その顔の傷も、首の痣も、あなたは一体……」

仮面「聞いておもしろい話でもねぇけどな。まあ、息を整える間に与太話として聞くか?」

仮面「実はな、俺は貴族の息子として生まれたんだ」

盗賊1「はえっ!?」

盗賊2「えええ!?兄貴が!?」

魔女「じょ、冗談としか思えないなぁ」

仮面「そんなに驚かなくてもいいだろーが。今はこんなんでも昔はお坊ちゃんだったんだよ!」

仮面「……よくあるだろ?貴族の世継ぎ問題。俺の母親は後妻でな、前妻と父親の間には俺と同じくらいの息子がいたんだ。
   俺の兄だな。前妻は俺が生まれる随分前に亡くなった」

仮面「ま、それなりに兄とも仲が良かったんだけどな。そこで親父が逝っちまった。
   そうなると俺と兄でどっちが後を継ぐかで周りの大人がやいのやいのとうるせぇ」

仮面「人一倍俺に跡を継がせたがってたのが俺の母親だ。
   俺は社交も勉強も着飾るのもあんまり好きじゃなかったし、兄の方が出来が良かったから
   普通に兄に継いでほしかったんだがなあ……」

仮面「で、その母親の頑張りが報われたのか跡継ぎは俺に決まった。
   だがやっぱり兄の方が適任だと思ってたんでな、その意思を母親に素直に告げたらこのザマだ」

神官「母親が実の子どもを、跡を継がないからって殺そうとするなんておかしいですよ!そんなの……」

仮面「今思うと俺の母親も貴族として生きてくにゃあ、ちょっとばかしメンタルが弱かったな。
   自分の立場と俺の立場を考えて、ノイローゼ気味になってたんだろ」

仮面「くっだらねえ世界だ、貴族も社交界ってやつも。どいつもこいつもにこにこ笑いながら腹の内では自分の評判と外聞のことだけ考えてる」

仮面「だから俺は家と国をでて、盗賊界のトップに立つことにした!!」

576 :◆TRhdaykzHI 2013/10/16(水) 22:46:57.57 ID:M3l9gFzjo

仮面「世界中の埃被ってる宝物を、欲すがままに盗み去る!それが俺の正義だ!!どうだ、恐れ入ったか!!」

盗賊1「まじっすか……」

盗賊2「兄貴にそんな過去があったなんて……」

神官「な、なんかすいません……詮索するような真似をしてしまって」

仮面「おいおい、湿気た面すんなよ。なんか語っちまって恥ずかしいな」

仮面「そろそろ体力が回復したか?宮殿への侵入口を探しにいかねぇとな」

竜人「人間もいろいろ大変なんですね……」

戦士「勘違いしていて悪かったな。仮面の言う通り、そろそろ動くか」

コソコソ……

戦士「俺たちが脱獄したことは既にもう知れ渡っているだろう。
   あれだけ派手に出てきたんだからな」

神官「でも、まさか宮殿に侵入しようとしてるとは思ってないんじゃないですか?」

魔女「見当違いのところ捜してくれてればいいけど」

盗賊1「兄貴、宮殿の見取り図とか知らねえんで?」

仮面「さすがに知らねえよ。宝物庫には興味あったけどな」

竜人「じき、夜が明けます。できれば暗いうちに剣を入手したいのですが……」

577 :◆TRhdaykzHI 2013/10/16(水) 22:48:21.34 ID:M3l9gFzjo

竜人「あ。そういえば……この耳飾り、仮面さんのですか?雪の国で見つけたんですけど」

仮面「なんでお前がそれを持ってんだ!?」

竜人「あああぁ……。自分の頭の残念さが悔やまれます」

竜人「金髪で首元を隠してて、やけに羽振りのいい男って、あなたですか……」

仮面「羽振り……ああ。お前らと別れた後、ちょっと……な、いいもん拾ってな」

戦士「どうせ盗んだんだろう」

仮面「盗んだと書いて拾ったと読むんだよ」

神官「めちゃくちゃな」

魔女「でも君、耳飾りなんてつけてなかったよねー」

仮面「別に……値打ちがありそうなもんだったから、いつか売ろうと思ってただけだ」

魔女「ふーん……」

竜人(しかし、仮面さんが王子じゃないとすると、本物の王子は一体どこに……)

竜人(確か勇者様の処刑は――今から60時間後の正午12時)

竜人(それまでに、見つけられるのでしょうか……)

578 :◆TRhdaykzHI 2013/10/16(水) 22:49:06.13 ID:M3l9gFzjo

魔王城

魔王「今日は曇りか。雨が降り出さないといいが」テクテク

子エルフ「あ、魔王様だ。おはようございまーす」

キマイラ「おやおや、今日は早起きですね」

魔王「もう一人は?」

子エルフ「今日は風邪で休み!魔王様、一緒に勉強する?」

魔王「いや、今日は……」

魔王「ん……?」

鳥「ピィーッ」バサバサ

魔王「なんだ?……竜人からか」

魔王「…………!」

子エルフ「魔王様?どうしたの?」

キマイラ「顔色が悪いようですが……?」

魔王「…………いや、なんでもない」

魔王「急用ができたので城に戻る」

子エルフ「あっ……行っちゃった。魔王様どうしたのかな、先生」

キマイラ「様子がおかしかったですね……」

579 :◆TRhdaykzHI 2013/10/16(水) 22:50:49.04 ID:M3l9gFzjo

魔王「処刑……勇者くんたちが」

魔王「…………」

魔王「…………」

魔王「助けに、行かないと」

魔王「1日……いや、半日で完成させてみせる」

魔王「……待ってて。すぐに行く」

580 :◆TRhdaykzHI 2013/10/16(水) 22:52:23.89 ID:M3l9gFzjo

宮殿

騎士「そっちには!?」

騎士「いや、いない」

バタバタバタ…

戦士「……行ったか」

神官「仮面さんが無駄に部屋の宝を物色してるから姿見られちゃったじゃないですか……」

仮面「あまりに見事なダイヤのネックレスだったからな」

魔女「同感」

竜人「二人とももっと緊張感を持って臨んで頂けますかね!?」

仮面「けが人なんだから大声でツッコミ入れんなよ。うるせえし」

竜人「自分でも己の立ち位置が忌々しいですよ……!」

盗賊1「しかし宝物庫ってどこにあるんですかねい」

魔女「じゃあ聞いてみよっか」

神官「え?」

581 :◆TRhdaykzHI 2013/10/16(水) 22:53:11.59 ID:M3l9gFzjo

兵士「宝物庫は……西と東にそびえる双塔の……東の方……」

魔女「そっ、鍵はかかってないの?鍵はどこ?」

兵士「わ……わからん……」

魔女「オーケー、もういいよ」

兵士「」ガクッ

魔女「魔女ちゃんお得意の自白呪文でした!」

仮面「便利なもんだな、オイ」

戦士「東の塔、あれか……。しかし鍵は一体どこに?」

竜人「心当たりがない以上、虱潰しでいくしかないですね……」

神官「仕方ない、ですよね。頑張りましょう!」

数時間後

兵士「てやぁー!」ブン

戦士「しつこいぞ!!」

神官「あっ、あっちの角からも援軍が来ます!!」

仮面「埒があかねぇ!やっぱ逃げるぞ!」

魔女「この部屋、入れるよ」ガチャ

582 :◆TRhdaykzHI 2013/10/16(水) 22:54:35.85 ID:M3l9gFzjo

戦士「……気づかず通り過ぎたな……
   しかし、敵の数の多さと我々の体力の消耗がネックだ」

盗賊1「昨日からずっと寝ずに戦い続けでへとへとですぜ」

盗賊2「鍵も全然ないし」

仮面「少しここで休憩するか。このままずっと動き続けてたら逆に効率が悪ぃ」

魔女「ねえ、あんた本当に大丈夫なの?顔色悪いよ」

竜人「お荷物にはなりませんよ」

神官「いくら竜族だと言っても、流石に無理しすぎです」

神官「ここ、倉庫みたいですし、包帯か何かありませんかね……」ゴソゴソ

魔女「仮面君の言う通り休もう。……あたしも疲れちゃったよ」

魔女「…………なんか、目閉じたら……急に眠気が……」

盗賊1「扉の鍵……閉めてねえ……うーん」

??「……ん……」

??「……み……さ……!」

魔女「なによぉー……うるっさいなぁ……」

??「起きてください、みなさん。大丈夫ですか!?」

魔女「うーん……?」

584 :◆TRhdaykzHI 2013/10/16(水) 22:56:45.95 ID:M3l9gFzjo

魔女「わ!?」ガバッ

姫「きゃ!?」

魔女「え……お姫様?」

姫「大丈夫ですか?ケガはない?驚いたわ……扉を開けたらみなさん座りこんでるんですもの」

仮面「……うおおぉぉ!?!?」ガバ

騎士「ギャー!なにするんですか!!僕です、僕!!姫様お付きの騎士ですよ!!」

仮面「あーびっくりした。思わず首に剣突き付けちまった」スチャ

姫「皆さん、無事でよかった!神官と戦士も」

神官「姫様もご無事でなによりです。でもどうしてここが?」

姫「私も部屋に閉じ込められてたのですが、彼が部屋から出してくれて。
  戦士と神官が脱獄して、勇者がまだ囚われていると盗み聴いたとき、
  あなたたちは絶対勇者を助けるために、宝物庫の勇者の剣を取りにくると思ったの」

姫「で、宝物庫の鍵をこっそり取ってきて、私もあなたたちを探してたのだけど、
  何の気なしに倉庫を覗いたらみんな死んだように眠ってて……
  ていうか死んでるのかと思ったわ。卒倒しそうになったわよ、もう」

585 :◆TRhdaykzHI 2013/10/16(水) 22:59:25.14 ID:M3l9gFzjo

竜人「しまった、私たちいつの間にか眠ってしまったみたいですね。
   窓の外がもう暗い。ざっと2時間経過したところでしょうか……」

魔女「でも、お姫様とすれ違いにならなくてよかったじゃん!結果オーライ!」

盗賊1「体も軽いっす!腹は減ってるけど!」

騎士「だと思って、わずかばかりですが厨房から食料も持ってきました。パンや水ばかりですけど、よければ」

仮面「うお!気がきくなぁ!」

姫「それから、怪我してる方もいるだろうと思って、いろいろ医療室からかっぱら……拝借してきましたわ。
  とりあえず竜人さん、あなたのお腹の傷診せて下さい。出来る限り治療して見せます」
  
竜人「……助かります」

姫「これから宝物庫に?」

竜人「ええ」

姫「気を付けてくださいね。私も鍵をとった直後に、こっそり宝物庫に侵入しようと思ったのですけど、
  多くの魔術師が塔への道に集合して何かやってて、見つからずには通れなかったの」

騎士「何か仕掛けてるのかも」

仮面「かもっていうか、ぜってえ仕掛けてんだろ」モグモグ

魔女「だるいねー」モグモグ

戦士「しかし、行くしかなかろう……俺と神官の武器もそこにあることだし」

586 :◆TRhdaykzHI 2013/10/16(水) 23:00:49.40 ID:M3l9gFzjo

姫「……はい。とりあえずですけど、傷の手当てはこれで終わりです。
  造血剤の効き目はどうです?」
  
竜人「ありがとうございます。大分楽になりました」

盗賊1「顔色も少し戻ってきてるみてぇですね」

姫「魔族の方にも効き目があってよかった……。でも無理は禁物ですわ。
  私も専門の知識を持っているわけではないので、応急処置の域をでませんもの」
  
竜人「本当に助かりました。ここでへばるわけにはいきませんからね」

竜人「姫様が来てくれてよかったです」

姫「そ……そう言って頂けると……そっそんなの当然ですわ!感謝してくださいまし!!嬉しくなんてありません!!」

騎士「姫様、キャラがブレブレです」

魔女「そんなイチャイチャしてると、宝物庫で死亡フラグ回収~なんて事態になってもしらないよ~」

竜人「誰と誰がイチャイチャしたって言うんです。さて、じゃあ準備を整えたら宝物庫に向かいますか」

仮面「面倒なことにならなきゃいいがな……」

596 :◆TRhdaykzHI 2013/10/20(日) 02:27:22.76 ID:7+gijod6o

魔王城

魔王「…………よし!できたっ」

魔王「私の魔力を分断してここに留める魔術。
   これで結界を私から独立して張り続けることができるから、王都に私も勇者くんたちを助けに行ける……」
   
魔王「さて、問題はどれくらいの魔力を私から切り離すか、だ」

魔王「…………私が無事帰ってこれるとしたら、残しておく魔力は数日結界を張るくらいの量でいいわけだが」

魔王「…………」

魔王「そういうわけには、いかないだろうな」

魔王「一応……1年分……いや3年分くらいの魔力をここに残しておいた方がいいかな」

魔王「すると私の身に残る魔力は半分のそのまた半分以下くらいになってしまう……けど、
   無駄な消費を避ければ十分戦えるだろう」
   
魔王「よし、魔術発動」

パアァァァ……

魔王「……う……なんか変な感じだな。一気に魔力が減ったせいで、めまいが」

597 :◆TRhdaykzHI 2013/10/20(日) 02:28:08.44 ID:7+gijod6o

魔王「……処刑まであと40時間弱か。急がなければ」バサッ

バサバサバサ…

窓の下

子エルフ「……」ヒョコ

子エルフ「魔王様、今日元気なかったからおやすみって言いに来たんだけど」

子エルフ「処刑って??だれがだろ……」

子エルフ「魔王様、どっかに飛んで行っちゃった。先生に知らせた方がいいかな……」

598 :◆TRhdaykzHI 2013/10/20(日) 02:28:38.53 ID:7+gijod6o

王都

神官「あれが宝物庫のある塔です。あそこに行くには、この橋を渡るしかありません」

竜人「暗くて足元が見えにくいですね。気をつけないと」

魔女「結構大きい橋だねー。さっさと渡っちゃおうか」

戦士「しかし……姫様たちと別れてから、橋の前に来るまで、全く騎士や魔術師に遭遇しなかったな。
   不気味なほど静まり返っていた」
   
仮面「ラッキーだったじゃねぇか」

戦士「ただの幸運で済ませられればいいがな」

神官「姫様が言っていたことも気になりますね。見たところこの辺りに人はいないと思いますが……」

仮面「いないならいないでいいっつの。さっさと行こうぜ」

599 :◆TRhdaykzHI 2013/10/20(日) 02:29:21.23 ID:7+gijod6o

魔術師X「……来ましたよ、魔術師長」

魔術師長「来たわね。うふふふ」

魔術師Y「発動させますか」

魔術師長「まぁだ。まだだめよ。もっと橋の中央に来てから……うふふふふ。楽しみね」

魔術師長「私とあなたが一緒に研究したこの魔術。早く発動させたいわぁ。ねえ?召喚師長サン」

召喚師長「うまく発動すればいいけどね。これだけの魔術師、召喚師を動員して発動させる魔術なんて、初めてだよ」

召喚師W「尽力しますよ、僕たちも」

魔術師長「さあ、そろそろね。みんな、配置について」

召喚師長「……普段でかい顔している騎士団を見返してやろうじゃないか」

魔術師長「うふふ、あいつらって真正面から剣を振り回すしか脳がないんだから、野蛮よねぇ」

召喚師長「戦い方などいくらでもあるというのに。相手の弱点を探り、その弱点をさらけ出すしかない状況を作り出す」

魔術師長「それから罠にかけて追い詰めて、じわじわ弱らせていくのよ。うふふふふふ。楽しみ」

召喚師長「それじゃあ、やろうか。みんな集中してくれ」

600 :◆TRhdaykzHI 2013/10/20(日) 02:30:23.87 ID:7+gijod6o

魔女「……ん……?」

神官「…………あれ……なんか……竜人さんか魔女さん、いま魔法使いましたか?」

竜人「いえ?」

魔女「気をつけて……なんか来るかも」

仮面「なんか、ってなんだよ。もっと具体的に――あ!?」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ

不死鳥「ここは……通さぬ!!」

盗賊1「!? ほ、炎がしゃしゃしゃべ……!?なんだこりゃ!!」

盗賊2「め、めちゃくちゃでけぇぇ!!ま、魔物っ!?」

魔女「いやあんな魔族知らないんだけど」

神官「これは……幻獣です!
   宮廷の召喚師が作り出す魔法生物……でも、人の言葉を話すほどの知能をもった幻獣だなんて」
   
神官「しかもこんな大きな生物、初めて見ました。恐らく魔力も攻撃力もケタ違いのはずです!気をつけてください!」

戦士「やはり仕組まれていたか……戦うより宝物庫まで突っ切った方が速い!駆け抜けるぞ!!」

不死鳥「させぬ!!」

ゴオオオォォォォオォッ!

601 :◆TRhdaykzHI 2013/10/20(日) 02:42:26.36 ID:7+gijod6o

魔女「ちょ……橋、燃え尽きちゃったんですけど」

仮面「なんつー火力だよ!!こりゃあやべえんじゃねえか!?」

魔術師長「うふふふ、焦ってるわ。焦ってる。でもまだまだこれからよ」

召喚師長「成功か……知能のある幻獣を召喚できたのも、全て君たち魔術師の協力のおかげだ」

魔術師長「私たちもいい研究データが得られてメリットばかりよ。例には及ばないわ」

602 :◆TRhdaykzHI 2013/10/20(日) 02:43:12.72 ID:7+gijod6o

召喚師長「さて、次は彼らの退路を断つように伝えてある」

魔術師長「進むことも戻ることもできなくなって逃げ場がない状況で、あの不死鳥が橋をも溶かす炎を吹いたらどうなるかしら」

召喚師長「大人しく燃えてくれるのもおもしろいけど……」

魔術師長「いやね。そんなの興ざめだわ。――きっと彼らは、空に逃げるはずよ」

召喚師長「本当にあの中に竜族の生き残りが?」

魔術師長「そのはずよぉ?私は参加してないけれど、以前兵士たちとともに魔王城を襲撃したときに、
     王国軍と戦ったのはたった3人の魔族……魔王に魔女、竜と聞いてるわ」
     
魔術師長「その魔女の姿を見た者が騎士の中で何人もいるわ。なら竜の方もこっちに来てるって考えるのが妥当でしょ?」

召喚師長「へえ……にしてもまさか本当に魔族が勇者を助けにね……」

魔術師長「私自身は勇者に恨みも何もないし、むしろ好感を持っていたのだけどね。あなたもでしょ?」

召喚師長「まあ、ね。でも……仕事だからね」

魔術師長「しょうがないわよねぇ」

603 :◆TRhdaykzHI 2013/10/20(日) 02:43:41.39 ID:7+gijod6o

バサッバサッ

魔術師Z「……竜だ!本物の……」

召喚師S「すごい……データとらなきゃ」

魔術師長「ほらほらぁ、ね。言った通り。竜がみんなを背に乗せて逃げるはず、あたったわ」

召喚師長「不死鳥と大きさは互角か。思ったより大きい竜だな」

魔術師長「うふふ、でもあの竜、手負いなのよねぇ。あの暑苦しい騎士団団長と交戦したときの傷……まだ治ってないはずよ」

召喚師長「彼らはここから逃げて一旦体勢を立て直そうとするだろう。でも逃がしはしない。
     追ってくれ、不死鳥。絶対にここから逃がすな。あの竜を空中にとどめるんだ」

不死鳥「了解した……」

魔術師長「うふふ、全部計算通りね。空中戦をできるのはあの竜と、箒にのって飛べる魔女だけ……あとの5人はただの人間。
     でも彼らが仲間だって言うなら、飛ぶことのできない人間を背に乗せて空に留まるしかない」
     
召喚師長「既に橋はほぼ壊されて、地上であの不死鳥の炎から逃れる術はないからね」

魔術師長「彼は手負いでいつまで飛べるのかしら?いつまで不死鳥の攻撃をかわせるかしら?」

召喚師長「せっかくなら賭けるかい? ははは…」

魔術師長「遠慮しておくわ……あなた強いんだもの」

604 :◆TRhdaykzHI 2013/10/20(日) 02:44:19.80 ID:7+gijod6o

不死鳥「いつまで逃げるのだ? 我が炎を受けてみよ!」

竜「…………ッ」

魔女「はあ、ぎりぎりで箒召喚できてよかった……けど、どうすんの!?こいつ!弱点とかないわけ?」

神官「弱点……炎を纏った鳥……や、焼き鳥……?」

戦士「しっかりしろぉぉ神官!!焦るのは分かるが冷静になって考えてくれ!!」

仮面「おいおい、こんな怪獣相手にするなんて聞いてねーぜ!剣で攻撃しようにも、近づいただけで全身燃えちまう!!」

盗賊1「絶体絶命のピンチ……って、わああ!?竜の旦那、ち、血が……」

盗賊2「大丈夫なんですかい旦那!!」

竜「……」コクン

魔女「危ない!来るよ!!」

ゴオォォォォォッ!!

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605 :◆TRhdaykzHI 2013/10/20(日) 02:45:31.03 ID:7+gijod6o

魔女「沈黙呪文!!麻痺呪文!!」

不死鳥「ふん…」

魔女「混乱呪文!!」

不死鳥「無駄だ…………む!? ぐぐ……」

神官「!!効いた!?」

不死鳥「……一瞬囚われてしまったが、もって数秒。どの道無駄だ、逃しはしない!」

魔女「ちっ 混乱だけ効くみたいだけど、ほんの少しの間だけみたい。
   竜人……あんたそろそろ限界なんじゃないの?大丈夫!?」
   
竜「……」ギロッ

仮面「やせ我慢してんじゃねーよ、うざってぇなあ。お前らと一緒にこのまま燃えカスなんて、俺ぁごめんだぜ」

神官「ちょっと、そういう言い方はないんじゃないですかっ!」

戦士「よせ、……なにかほかに言いたいことがあるのだろう?仮面」

仮面「……魔女、またあの焼き鳥野郎に呪文をかけろ」

魔女「数秒しか効き目ないけど、いいの?」

神官「魔女さん、前!!」

ゴオォォォォォォッ!!
   ゴオォォォォォッ!!
   
   

606 :◆TRhdaykzHI 2013/10/20(日) 02:46:33.91 ID:7+gijod6o

戦士「魔女!!!」

盗賊1・2「姉貴ぃぃぃぃ!?」

魔女「ここ! 間一髪、転移魔法で避けたから平気……じゃない!!」

魔女「っぎゃー!あたしのローブの裾燃えたああああああぁっ!!」

戦士「竜人も、翼が……」

仮面「魔女、ローブぐらいでぎゃあぎゃあ騒いでないで、早くしろ!」

魔女「っるさいな、やってやるわよ!!こんのぉぉぉっ、本物の魔族なめんじゃないわよ!!混乱呪文!!!」

不死鳥「む……っ」フラフラ

仮面「よし!」ヒュッ スタッ

神官「仮面さん!? な、えっ!?地上に降りたら……!」

仮面「俺があいつをなんとか引き留める。あいつが混乱している間にさっさと宝物庫に行け!!」

戦士「お前……とことん素直じゃないな」

仮面「へっ、まあな。でも長くはもたねえだろうから、俺が燃やされる前に早く勇者の剣と武器とって戻ってきてくれよ」

盗賊1「兄貴!俺たちも手伝いやすぜ!!」スタッ

盗賊2「もちのロンでさぁ!!」スタッ

魔女「本気?どうやってその剣で……」

仮面「うるせー!!やろうと思えば人間……いや、生物はなんだってできんだよ!!早く行けっ」

魔女「ありがとね! 行こう竜人!!今の内に!」

神官「必ず勇者様の剣を取り戻してきます!!仮面さん……あの、さっきはすいませんでした!」

607 :◆TRhdaykzHI 2013/10/20(日) 02:47:42.84 ID:7+gijod6o

不死鳥「……む?竜と女……!!宝物庫には行かせぬぞ!!待て!!」

仮面「待つのはテメーだ、焼き鳥野郎。おーいこっちこっち」

仮面「(おい、お前ら。ありったけの罵詈雑言であの鳥を挑発しろ)」

盗賊1・2「(? 了解っす!)」

盗賊1「やーいやーい焼き鳥野郎!味付けは塩か?たれか?」

盗賊2「そんなチンケな炎で俺たちに勝てると思ってんのかぁ?俺たちゃ天下の大盗賊団だぜ!!」

仮面「てめぇみたいな鳥なんか、飽きるほど相手してきたってんだ。遊んでやるからかかってこいよ、チキン野郎」

不死鳥「貴様ら……我を愚弄するのもいい加減にしろ……」

不死鳥「骨さえ燃やしつくしてくれるわ!!」

ゴオォォォォォォ

召喚師長「うわ、まさか人間3人を囮にするなんて。読みが誤ったな」

魔術師長「不死鳥サン、そっちの人間じゃなくて宝物庫に向かってる竜と魔女を追ってちょうだい!」

不死鳥「ちょこまかと逃げおって!!さっさと燃え尽きてしまえ!!!」ゴオオ

魔術師長「ちょ……聞いてる?」

召喚師長「おーーい!そっちじゃなくって!!あっち追って、あっちーー!!」

不死鳥「死ねぇぇえぇええええ」ゴオオ ゴオオ

召喚師長「……知能つけない方がよかったかな……」

魔術師長「かもねぇ」

608 :◆TRhdaykzHI 2013/10/20(日) 02:49:59.34 ID:7+gijod6o

ガチャガチャ

神官「あ、開きました!」

戦士「武器がごちゃごちゃしていて分かりにくいな。2階まであるぞ」

神官「! 私の杖!よかった……竜人さん、いま治癒魔法かけますから!魔女さんは怪我ありませんか?」

魔女「あたしはローブが焦げただけだから大丈夫」

神官「……はい、終わりです。大丈夫ですか?」

竜人「すごい……あっという間ですね。聞いてことのない言語の呪文でしたが、あれは?」

神官「あれは古代の言葉ですよ。神への祈りの言葉です。
   私たちが使う魔術はあなたたちとは根本的に違うんですよ。私たちが使う魔法は全て『神の奇跡』ですから」
   
竜人「神……」

神官「神様の偉大なる力を祈りによってお借りしてるに過ぎません。私自身は何の力もないんです」

竜人「神は実在していると考えているんですか?」

神官「え?」

竜人「いえ、神官なのですからそうに決まってますよね……すいません。なんでもないです。私たちも勇者様の剣を探し……」

戦士「見つけたぞ!勇者の剣だ!!」

魔女「戦士の大剣もここにあったよー。ほい」

609 :◆TRhdaykzHI 2013/10/20(日) 02:50:40.43 ID:7+gijod6o

神官「よかった!これで勇者様を牢から救えます!」

戦士「それより前に仮面たちのことが気になるな。早く行こう。竜人、もう平気なのか?」

竜人「ええ。今ならあの不死鳥とも空中戦をやり合えますよ。さあ、では……」

カシャンッ!

魔女「わ、ごめん。なんかひっかけて落としちゃった。割れてるし」

竜人「国宝割るとか、恐ろしいことしますね」

魔女「やばいかな。なにこれ……『忘れじの鏡』?」

神官「……変ですね。これ、偽物じゃないですか?本物だったら落としただけで割れませんよ」

神官「忘却呪文を一切跳ねのけるっていう鏡です。古くからここに保管されてると聞きますが……」

竜人「………………ん?」

魔女「………………忘却呪文を?」

610 :◆TRhdaykzHI 2013/10/20(日) 02:52:00.26 ID:7+gijod6o

竜人「…………え。ちょっと待ってください。…………」

魔女「………………ここにあるのが偽物だとしたら、本物は誰かが持ち去ったってことだよね…………」

戦士「どうかしたか?二人とも」

神官「この鏡がなにか?」

竜人「……」

魔女「……」

竜人「……」

魔女「……」

竜人「…………イエ、ナニモ……」

魔女「…………ハ、ハヤク、カメンクンタチ ノ トコロニ……イカナイト……ネ」

戦士「お、おい。どうした本当に。汗がすごいぞ」

611 :◆TRhdaykzHI 2013/10/20(日) 02:52:37.93 ID:7+gijod6o

神官「…………」

神官「ほかにやるべきことが見つかったんじゃないですか?」ニコッ

魔女「でも……」

神官「勇者様のこと、それから仮面さんたちのこと、私たちにまかせてください。ね、戦士さん」

戦士「よく分からんが、お前たちがほかにやるべきことがあるというのならそちらを優先してほしい」

竜人「しかし……空を飛べる私や、混乱呪文を使える魔女を抜かしてどうやってあの鳥に……」

魔女「みんなを見捨ててあたしたちだけ助かろうなんて、できないよ……。
   魔族のあたしたちと一緒に戦ってくれた、大事な人たちだもん」
   
神官「大事な人たちじゃないです」

魔女「えっ」

神官「私たち、仲間です!」

戦士「仲間に必要不可欠なのはお互いを信頼する気持ちだ。俺たちを信じろ、魔女、竜人」

神官「そうです。私、勇者様と戦士さんと旅してひとつだけ学んだことがあります……
   『やけくそで思いきってやってみたら、案外なんでもできる』ってことですよ。あはは。私たちのパーティらしい」
   
戦士「それで全部乗りきってきたんだ、俺たちは。 行け、二人とも。あとはまかせろ」

神官「私もお二人のこと、信じてますから。神のご加護があらんことをお祈りしています!」

魔女「……ありがと!絶対王子連れてくるからね!!」

竜人「信じてますから、絶対後でまた会いましょう。仮面さんたちにもよろしくお伝えください」

竜人「転移魔法!」

シュンッ

614 :◆TRhdaykzHI 2013/10/20(日) 03:00:36.23 ID:7+gijod6o

神官「……行きましたね」

戦士「俺たちも、仮面たちのもとに。橋は溶けてしまったが、なんとかして向こうへ行こう」

神官「はい。よいしょっと」

戦士「……神官、それは『神殺しの大弓』では?」

神官「ええ、そうですよ。一応遠距離攻撃用の持っていった方がいいかと思いまして」

戦士(神職が神殺しって……)

神官「ふふ。私の神学校時代のあだ名、知ってますか? CHの鬼ですよ」

戦士「CH……まさか!?」

神官「そう、私のクリティカルヒット率は95%です。攻撃力は弱いですけどね」

戦士「俺より高いだと!?」

神官「…………ふふっ」

神官「昔の血が騒ぎますよおおおおおおおおおおおおおっっ!!行きますよ、戦士さん!!!!!!!!」

戦士「お…おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!??」

615 :◆TRhdaykzHI 2013/10/20(日) 03:04:07.87 ID:7+gijod6o

魔王城

竜人「うかつでした……盲点でした。いえ、言い訳なんてできません。もっと早く気づいていれば!!アホか自分は!!」

魔女「すぐに魔王様にあの魔術を使ってもらおう。この、彼……でいいんだよね?からもらった顔パックを使って、王子の居所を教えてもらわないと」

竜人「……魔王様! 魔王様?おや……城にはいないみたいですね。魔王様がやるより時間がかかってしまいますが、自分たちでその魔術を発動させましょうか」

魔女「急がないといけないもんね」

竜人「……ふう……なんとかうまくいった」

魔女「ええと?彼は雪の国と星の国の中間地点くらいにいるみたい……ていうか移動中?」

竜人「今は午前4時……処刑まで約32時間ってところですか。
   今日は私も魔女も転移魔法を使ってしまいましたし……飛んでいくしかなさそうですね」
   
魔女「えーと。太陽、雪、星の三国って上から見ると、それぞれ三角形の頂点になってて
   国同士は、あたしたちが飛んでいくと10時間くらいかかるよね?」
   
竜人「馬で走ると倍以上かかりますけどね。ええ、10時間」

魔女「じゃ、その王子がいまいるところに一直線に行けば、7、8時間くらいでいけるからー。
   往復16時間くらいで帰ってこれる。よっしゃ、余裕だね!」
   
竜人「いや……まず、星の国、王子の場所、雪の国という順番で行きましょう」

魔女「はっ!?なんで!?」

竜人「なんでもなにも、忘れましたか?神官さんと戦士さんが言ってたでしょう。認定書が燃やされてしまったんですよ。
   もう勇者様たちも私たちも助かるには、王子に今日か明日、王位を継承してもらわないといけません。
   彼には突然の話で悪いと思ってますけどね」
   
魔女「あ、そっか。そうだよね、もうあっちの王様、今回のことでカンカンだろうし。勇者たちもずっと危ないし」

616 :◆TRhdaykzHI 2013/10/20(日) 03:05:06.27 ID:7+gijod6o

竜人「星の国まで10時間。認定書をもらって、王子を見つけて、雪の国まで10時間。そこでまた認定書をもらって、太陽の国に帰ってくるまで10時間」

魔女「合わせて30時間かー……ギリギリ処刑には間に合うね」

竜人「ええ」

コンコン

竜人「ん?来客ですね。どなたでしょう」

キマイラ「すいません、失礼します。竜人様も魔女様もお戻りになられてたんですね」

子エルフ「大変だよ!聞いて聞いて!」

魔女「大変て、なにが?」

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617 :◆TRhdaykzHI 2013/10/20(日) 03:05:56.51 ID:7+gijod6o

竜人「え!?魔王様が王都に!?でも……結界は張られたままですよね?この結界は術者が結界内にいないと発動しないはずですが……?」

子エルフ「ほんとだよ、バサバサって飛んでったの見たよ!」

魔女「……魔王様の部屋と、結界の魔法陣がある部屋、見てきた。自分の魔力を切り取って、独立して結界を発動させてるみたい」

竜人「そんなことが……!?」

魔女「しかも、結構な量の魔力がここに残ってたよ。結界が何年も張れるくらいの膨大さ。
   魔王様に残ってる魔力は微々たるものだと思う」
   
キマイラ「……魔王様……それなら我々のことを気にせず、結界を解いてくださってよかったのに」

グリフォン「本当にね」

子エルフ「グリフォンさんいたの……」

竜人「そんな僅かな魔力で王都なんて行ったら、魔王様といえど危険ですよ!まさか……。……いや、なんでもありません」

魔女「…………ッ!!」

竜人「魔女!どこに行くつもりです」

魔女「どこって……決まってんじゃん!王都に魔王様を連れ戻しに行くの!」

618 :◆TRhdaykzHI 2013/10/20(日) 03:09:30.35 ID:7+gijod6o

竜人「…………………王都に行ってる時間はありません。星の国の都の方向とは大分違いますから」

魔女「王子を連れてくるのも、どっちか一人がやれば十分じゃないの?」

竜人「空を飛んで移動するんですよ。ということは、どう頑張っても人の目に止まります。
   なにがあるか分かりません。一人より二人の方が確実でしょう」
   
魔女「……じゃあ!竜人は魔王様を見捨てるって言うの!?絶対あの子死ぬ気じゃん!
   そんなの絶対許さない!竜人がなんと言おうと、あたし魔王様を止めてくるから!!」
   
竜人「魔女、」

魔女「魔王様がいない世界でなんて、生きのびても意味ないもん!!そんなの絶対絶対だめ!!!」

竜人「……」

パチンッ……

魔女「……」

キマイラ「……子エルフくん、ちょっと外で一緒に遊ぼうか」

子エルフ「お、おねえちゃ……」

キマイラ「さあさあ」

619 :◆TRhdaykzHI 2013/10/20(日) 03:10:15.86 ID:7+gijod6o

竜人「少し落ち着け。神官さんと戦士さんと約束したこと、忘れたのか?
   魔王様が心配なのは私だって……この村の魔族みんながそうです。あなただけじゃない」
   
魔女「……」

竜人「魔王様だって何も考えずに王都に向かった訳じゃないはずです。もう、子どもじゃないんですから。
   彼女が考え抜いて思い悩んで、その結果の行動のはずです」
   
魔女「……」

竜人「それをあなたがふいにする気ですか?私たちには私たちのやるべきことがある。
   それを為すことが、いま、魔王様のためにできる唯一のことですよ」
   
魔女「…………」

バキィィィィィッ!!!

竜人「がはっ!!」ガシャーン

魔女「いっったいなぁぁ……なにすんの?お返しだよ」

竜人「いや、全然威力ちが……!!」

620 :◆TRhdaykzHI 2013/10/20(日) 03:11:33.99 ID:7+gijod6o

魔女「あんたのさぁ!!そーいういい子ぶったところ大っきらい!!あとそのまどろっこしい喋り方!?なんなのそれ!?普通に喋れよ!!」

竜人「……はい?じゃあ私も言わせてもらいますけどね!!みすぼらしい体のくせに露出度の高い衣服選ぶのやめてもらえますか!?」

竜人「それにあなたが何でもかんでも面倒事を私に押し付けるから、私がそういうブレーキ役に甘んじてたんですよ!!あなたがしっかりしてくれればですね……!」

魔女「はあ!?責任転嫁やめてくれます?つーかみすぼらしい体ってなによ!!!この猫かぶりドラゴンが!!」

竜人「だれが猫かぶっているんです、だれが!!言ってみろゴラ!!」

魔女「やっぱかぶってんじゃん!」

魚人「……えーなにこれ?」

グリフォン「かくかくしかじか」

魚人「ほー。グリフォンさんバケツ2個貸して」

621 :◆TRhdaykzHI 2013/10/20(日) 03:15:52.38 ID:7+gijod6o

魔女「このエセ紳士!!世話焼きオカン男!!」

竜人「黙れ馬鹿魔女!!いい加減にしろ!!」

バッシャアアアアアアアアアアアアアア

魔女「……」ポタポタ

竜人「……」ポタポタ

魚人「……目、覚めたかい?」

魔女「…………うん」

竜人「…………すいません」

魚人「仲間割れしてる状況じゃないって、二人とも分かってんだよなぁ?ん?」

魔女「…………ふー。ごめん。……王子、探しに行かないと……だよね」

竜人「魔王様のことは、もういいんですか」

魔女「ちょっと頭に血が上ってた。そう、だよね。あたしはあたしのやるべきことを……しないとね」

竜人「……多分、魔女が言いださなければ私が言いだしてましたよ。頬叩いてすいませんでした」

魔女「あたしも、顔ぶん殴って鼻血出させたし、おあいこだよ。気にしないで」

竜人「……。……………ええ、そうですね」

622 :◆TRhdaykzHI 2013/10/20(日) 03:16:19.31 ID:7+gijod6o

魔女「魔王様、きっと大丈夫だよね。だって、魔王様なんだから」

竜人「ええ。私たちのかわいくて強い一番の王様ですから」

623 :◆TRhdaykzHI 2013/10/20(日) 03:16:49.99 ID:7+gijod6o

王都 入り口

兵士I「勇者が処刑なんて、世も末だよなあ」

兵士H「だよなあ。つーかさっき、噂で、魔族が国に侵入してるって聞いたけど」

兵士I「なんだそりゃ。朝から酔っ払っちまってんじゃねーの?」

兵士H「騎士様の言うことは分からんわ。ハッハッハ」

兵士I「……ん?なんだあれ……鳥?」

兵士H「でけえなあ。鷹かなにかか?ここらじゃ珍しいな」

兵士I「どんどん近付いて……あ、あれ?ありゃ人じゃねえのか?」

兵士H「ま、まさか。人って背中に翼が生えてんのか?いるとすりゃ、そりゃ魔族だよ、魔族」

兵士I「だよなあ。魔族だよなあ」

スタッ

魔王「…………」

兵士I「…………魔族だああああああああああああああああ!!魔族が来たぞおおおおおお!!」

兵士H「橋を上げろおおおおおおおおお!!門を閉ざせえええええええええええええ!!!!!大至急だあああ!!!」

624 :◆TRhdaykzHI 2013/10/20(日) 03:17:59.57 ID:7+gijod6o

ギイィィィィィ…

兵士長「魔族!?本当にか!?」

兵士I「はい!!確かに見ました!!」

兵士長「すぐに将軍をお連れしろ!!お前は宮殿に報告を。橋は上げたな!?門は!?」

兵士J「いま完全に閉ざしました!!」

兵士長「第一隊は暇そうな魔術師・兵士・射手を片っ端から連れて来い!!
    それ以外は城壁から投石機と大砲と弓で魔族を迎え撃つぞ!!」
    

兵士長「よし!!ってえーーーい!!」

ビュンビュンビュンッ!!

魔王「……土の防壁」

ズドドドドドドッ

兵士長「なっ……あ、あの魔族……もしやあのとき、海で巨大なイカの怪物を作り出した奴か?」

魔王「―――……―――」

魔術師「何か呪文を口にしています!気をつけて」

625 :◆TRhdaykzHI 2013/10/20(日) 03:19:01.89 ID:7+gijod6o

魔王「――…。」

―――カッッ!!

兵士長「…………」

兵士I「……門が……一瞬で、木っ端みじんに」

兵士G「こ、こんな魔法……食らったら、ひとたまりも……」

兵士長「信じられん……やはり化け物か。くそ!!なんとしてもここは守りきれ!!奴を王都に入れるな!!!」

魔王「化け物ではない。魔王だ。さっきの魔法は人にあてるつもりはないので安心しろ」

兵士長「…………フッ。そりゃあ有り難い。魔王が……王都になんの用だ?」

魔王「勇者たちを助けに」

兵士長「は?」

魔王「彼らを……解放しろ!」

処刑宣告から2日目、午前6時
勇者処刑まで、残り30時間。

634 :◆TRhdaykzHI 2013/10/22(火) 03:08:19.73 ID:ikyh7zHDo

宮殿

「勇者処刑をとりやめろー!!」「国王がでてくるまでここから退かんぞ!」

騎士「こら!いい加減にしろ!!立ち去れ!!」

「いてっ!なんだよ、暴力で解決か!?」 「私たちはただ抗議しに来ただけよ!」
 「処刑を取りやめなさい!」 「魔族のことも、王様の言うことは信じないことに決めたぞ!」
 

国王「……まだ宮殿前の民衆は片付かないのか。うるさくて敵わん」

大臣「申し訳ありません……。何分彼らも武器を持っているわけでもなく、ただ主張しているだけなので、
   騎士たちに武力制圧させることもできず……」
   
大臣「しかもその数は刻一刻と増えてきております。王都各所の暴動も収まるところを知らず、いやはや……」

国王「………………愚かな民衆め」

騎士「国王様!大臣様!失礼します……緊急事態です!!」

国王「どうした。脱獄した戦士・神官、そして国に侵入した二人の魔族は捕えられたのか?」

騎士「い、いえ。それが……!!」

騎士「魔王が!魔王が王都の中央門に現れたとの連絡が警備兵より入りました!」

国王「なに……!?」ガタ

635 :◆TRhdaykzHI 2013/10/22(火) 03:09:24.81 ID:ikyh7zHDo

大臣「それは確かなのですか!?」

騎士「はい。今も城壁で魔王と兵士たちが交戦中です。しかし、こちらの戦力不足は否めません。
   奴は一瞬で王都を閉ざす大門を吹き飛ばしたとか……」
   
騎士「『勇者たちを解放すれば、王都に侵入することもなく立ち去る』と主張しているそうなのですが」

国王「…………」

国王「……フッ……おもしろい。勇者らを助けに来たというのか。魔族が」

大臣「どうなさるおつもりですか、殿下」

国王「戦える者を全て中央門へ。魔術師長と召喚師長にも伝えろ。絶対に王都への侵入を許すでないぞ」

騎士「では……魔王の主張は」

国王「飲むわけがなかろう。むしろ魔王が一人で我が領地に赴いたのを好機とも捉えられる。
   奴が落ちれば残りの魔族を制圧するのも容易かろう。……随分勇者に執着しているようだしな」

国王「今の時点ではこちらが有利だ。さあ、行け」

騎士「ハッ!」

636 :◆TRhdaykzHI 2013/10/22(火) 03:10:25.58 ID:ikyh7zHDo

バッサバッサバッサ…

不死鳥「どこだ……どこに逃げた……」

仮面「あ゛ーーーもう、なんでお前ら竜と魔女をどっかにやっちゃったんだよ!!
   あいつらなしでどうやってあれから逃げるって言うんだよ!!」
   
盗賊1「今俺たちが隠れている岩陰も、いつか見つかっちまいやすぜ」

盗賊2「死ぬ……まじで死ぬ……」

神官「うう……もう薬草も魔力も残り少ない……」

戦士「この状況、どうやって打破したものか……」

仮面「……ん!?」

神官「あれ? 不死鳥、方向転換してどっか行っちゃいました……?」

盗賊1「どういうことだ?」

盗賊2「もう俺たちを探すのを諦めたってのか?」

仮面「……なんにせよ、御の字だな。勇者の剣は手に入れたし、ひとまずどっかで少し休息していこうぜ」

戦士「全員ボロボロだしな。よく生き残ったものだ……」

637 :◆TRhdaykzHI 2013/10/22(火) 03:11:09.10 ID:ikyh7zHDo

ドーーーン……!
   ズドーーン!
   

女主人「ハッ!騎士も兵士も鈍い奴ばっかさね!重たい鎧なんか着てるからさ!
    次は騎士駐屯地に殴りこみに行こうか」
    
冒険者「やりますね姉さん!!俺も久々に血沸き肉躍るぜーー!!」

司書「しかし……なんだかおかしくないですか?さっきから全然我々を追ってきませんよ。
   なんかあわただしい様子ですし、もしかして何かあったのかも」
   
本屋「そういやあ、さっき中央門の方で大きな音が聞こえたのお。
   てっきり同胞の仕業かと思ったが、それにしちゃ規模が大きかったのが気になったのでな」
   
女主人「んー、確かに中央門の方向に向かってるね。こりゃ本当になんかあったのか……?」

638 :◆TRhdaykzHI 2013/10/22(火) 03:13:15.35 ID:ikyh7zHDo

中央門

将軍「……久しぶりだな、魔王」

魔王「で、勇者たちを解放するのかしないのか、どちらなんだ。
   言っておくが、私はそれなりに強いぞ。人間たちを傷つけるのは本望ではないが」
   
魔王「もし私の出した条件を呑まなければ、建物や道路は甚大な被害を伴うだろうな。経済的被害は尋常じゃないぞ」

将軍「脅しのつもりか?…………答えは、ノーだ。我々は貴様に屈しない。ここで討つ!!王国軍の名にかけて!」

魔王「……」

将軍「魔術師長、召喚師長、どうだ?」

魔術師長「ええ。整ったわ」

召喚師長「いやーやっぱり知能無い方が扱いやすいよね。じゃあみんな、行くよ。陣について」

魔王「……!」

不死鳥「ピィィィィィィィィッ……」バッサバッサ

将軍「兵士隊は指揮に従って大砲で、射手隊はおのおの石弓で、遠距離攻撃で援護しろ」

将軍「相手は魔王だ!!油断するな!!しかし怯みもするな!!国王軍の意地を見せてやれ!!」

「「「「おおおおおおおおおおっ!!」」」

639 :◆TRhdaykzHI 2013/10/22(火) 03:14:33.60 ID:ikyh7zHDo

魔王「炎を纏った鳥……いや、鳥の形をした炎? 魔族ではないな」

不死鳥「スゥ……」

魔王「! 氷水魔法」

ゴオォォオォォッ!

魔王「……結構分厚い氷柱を立てたつもりだったんだがな。一瞬で水蒸気にさせられるとは」

ヒュウゥゥゥウ…

魔王「おっと、土の壁! ……飛んでくる砲撃と矢と、あの鳥を一緒に相手するのは骨が折れるな……」

魔王「さて……どうしようか」フラッ

640 :◆TRhdaykzHI 2013/10/22(火) 03:15:42.17 ID:ikyh7zHDo

将軍「……」

魔術師長「なんか、変ね。魔王って海戦のときに、すごい大魔法連発してたのよね?」

将軍「ああ」

召喚師長「不死鳥の炎を相殺したり、大砲を防いだり……魔法の質はかなり高い。詠唱時間も短いし。
     でも、正直言って聞いてたほどじゃあないね」
     
魔術師長「それによく見てれば足元がたまにフラついてるし、顔色も悪いわ」

将軍「様子が変なのは俺も気づいている。しかしそれがなんだというのだ?」

魔術師長「別に?ただチャンスねって言いたかっただけよ。あなたはどう問われてると思ったのかしら?」

将軍「婉曲な言葉を俺は好まんぞ」

召喚師長「はいはい。これだから戦士とか剣士って……」

641 :◆TRhdaykzHI 2013/10/22(火) 03:17:00.54 ID:ikyh7zHDo

魔王(私が出した脅しという名の交換条件を跳ねのけられた今、勇者くんたちを助けるには牢獄に直接手助けに行くしかない)

魔王(さっさと王都に侵入したいんだけど……空を飛んで無理やり城壁を越えてしまおうか?)

魔王(いや、牢獄がどこにあるのかも分からないし、それなら思う存分戦える広いスペースのあるここで始末をつけた方がいいか)

魔王(とりあえず……あの鳥をどうにかしたい)

不死鳥「ピィィィィィィイイイイ!」ゴォォォ

魔王「『氷の矢』、『氷の刃』……はあ、全て奴の体に触れただけで蒸発してしまうか。なんて温度だ」

魔王(……仕方ない、あの術で動きを止めよう。詠唱時間が長いし魔力消費も大きいからあまり使いたくなかったんだが)

魔王「とりあえず分身を2体作り出して……本体の私は隠れよう」

642 :◆TRhdaykzHI 2013/10/22(火) 03:20:43.73 ID:ikyh7zHDo

魔王(詠唱をしている間……分身がどうにかばれずに、かつ消されずにすめば御の字だ)

魔王「―――……―――…――――――」

ゴオォォォッ ドーーンッ!! ズドッズドッ…!

魔王「―――…………―――……!」

魔王「…―――…――――――」

不死鳥「ギイイイイイイイィィィ!!!」スウッ

ゴオォッ!!

魔王「っ!……――――――……。詠唱完了っ…」

魔王「地に伏せろ!重力魔法!!」

不死鳥「ギ……ッ」

ゴシャアァッ!!

不死鳥「ピ……ギ……ッ」ミシミシ

召喚師長「あああああ!僕の不死鳥がっ!!」

魔術師長「重力を操作して不死鳥を地に縫い付けたの……!?まさかそんな魔法まであったなんて」

魔術師長「うふふふふ……おもしろいわね!でもその子、ただの火の鳥じゃなくってよ?うふふふ」

将軍「相変わらず気味の悪い女だ。おい!!魔王が消耗している間に畳みかけろ!!」

兵士「はいっ!!」

召喚師長「気を付けた方がいいよ?将軍。畳みかけようとしているのはあちらも同じかもね」

将軍「なんだと?」

643 :◆TRhdaykzHI 2013/10/22(火) 03:22:06.81 ID:ikyh7zHDo

兵士「砲弾装填かんりょ……」スパッ

兵士「へっ!?」

ビュオォォォォオッ

兵士長「将軍!!ぜ……全大砲、今の風によって破壊されました!!」

将軍「全て、だと? クソッ……」

魔術師長「風魔法ね。でも不思議……いまの風、私たちを傷つけることもできたはずなのに、どうして大砲だけ?」

将軍「フン。目測を誤っただけだろう!
   射手はそのまま遠距離攻撃を!兵士はそれぞれの武器を持て!突撃の準備をしろ!!」
   
将軍「俺が……先陣を切る。橋を下ろせ」

魔王「はあっ……はあっ……はあっ……げほげほ」

魔王「あとはこの鳥を……重力魔法の効果を上げて、圧死させる」

不死鳥「ギギ……ギ……!!」メキメキメキメキ

バキッ!!

魔王「はあ…はあ……」

魔王「は……?」

644 :◆TRhdaykzHI 2013/10/22(火) 03:24:44.13 ID:ikyh7zHDo

召喚師長「不死鳥って、何故不死なのか知ってるかい?その身が朽ちたとき、炎に包まれて、その灰から新たに生まれ変わるのさ」

パキパキ……パキ……

魔王「それは……厄介だ」

魔王「だけどやりようがないわけじゃない。土の壁をつくって、それでこいつを密閉してしまえば……」ズドドドッ

魔王「炎は空気がなければ燃え続けることはできない。さっきの完全体になる前に閉じ込めれば、不死鳥もさしたる脅威ではない」

召喚師長「……ほう」

魔術師長「確かに」

将軍「納得しとらんで、お前らも俺たちの援護をしろ!まだ魔力は残っておるな!?」

将軍「よし、今だ!!奴の首を国に捧げるのだ!!勝負の女神は我らに微笑んでいる!!行くぞ!!」ドドドド

兵士「「「「うおおおおおおおお!!!」」」」

魔術師長「うふふふふ。効くか分からないけど、捕縛魔術もう少しで発動できるわよ」

召喚師長「大型幻獣10体召喚完了!行け!」

魔王「…………チッ」

645 :◆TRhdaykzHI 2013/10/22(火) 03:26:45.90 ID:ikyh7zHDo

将軍「なんだ……!?この霧は……これも魔王の魔法なのか!?」

兵士長「前が見えないほどの霧ですね。これでは……」

将軍「くそ!!奴を逃すな!!まだ近くにいるはずだ!!探せ、なんとしても!!」

兵士「どわ!?」ブンッ

兵士「ば、ばか!!俺だよ俺!味方だ!!」

魔術師長「あなたの召喚した幻獣で、匂いで追えないの?」

召喚師長「探らせてるのですが、だめだね。匂いも消してる。あなたの方は?」

魔術師長「対象が視認できないと発動できないのよ、私たちの魔法って。これは一本とられたわね」

646 :◆TRhdaykzHI 2013/10/22(火) 03:27:32.64 ID:ikyh7zHDo

射手「霧が……晴れましたね」

兵士「いない……」

将軍「くそ!!!奴は王都に侵入した可能性がある!!血眼になってでも探し出せ!!
   俺は騎士団に話をつけてくる」
   
将軍「魔術師長。お前の魔術で王都内にいる魔王の居場所は割り出せんのか?」

魔術師長「さすがに疲れちゃったわ。でも、ほら……魔王城の在り処をつきとめたあの預言者なら可能なんじゃないかしら」

将軍「最近音沙汰を聞かないが、まあいい。合わせて尋ねてくる」

魔術師長「がんばってね」

647 :◆TRhdaykzHI 2013/10/22(火) 03:30:25.07 ID:ikyh7zHDo

騎士団副団長「将軍殿!」

騎士団団長「魔王はどうであった?こちらは一応住民の避難は……全員に呼びかけた」

団長「素直に従わない連中も多かったが。そういう奴らは大体宮殿前に集まっている……
   散らそうと奮闘しているのだが、なかなかままならん。武器で脅す訳にもいかぬのでな」
   
将軍「そうか。俺たちは……魔王を逃した。恐らく王都に侵入していると思われる」

副団長「なんですって!?」

将軍「すまない。俺たちは魔王を探し出す。騎士団も余力があれば協力してくれ。
   それから、宮殿にいる預言者様のことは知っているか?」
   
団長「確かいまは病床に臥せられているが……魔王の居場所を占ってもらうか?俺が話をつけにいこう。
   現場の指示は副団長にまかせるぞ」
   
副団長「はい」

将軍「助かる。では」

648 :◆TRhdaykzHI 2013/10/22(火) 03:31:49.48 ID:ikyh7zHDo

路地裏

魔王「あー……はあ……はあ…」ズッ ズッ

魔王「疲…れた」ドサッ

魔王「ここまで来るのにも魔法をかなり使ってしまった。火傷した足も治したいが……
   勇者くんたちを脱獄させるために魔力を残しておかないと……」
   
魔王「……いまは……ええと、もうすぐ正午か。随分戦ってたんだな」

魔王(処刑まで時間はある。焦らずにここは傷をいやそう。どこかの空き家に入って薬を頂戴しようかな。
   はしたないとどこかの竜に怒られそうだが、緊急事態だし仕方ないのだ、うん)
   
魔王(仮面や竜人、魔女たちはどこだろう……合流したいが、無理そうか)

魔王(とりあえず傷の手当てをして……体力と魔力の回復を待とう。それから牢獄の位置を探りだして……ええと)

魔王(疲労で頭が回らない……)

649 :◆TRhdaykzHI 2013/10/22(火) 03:32:31.13 ID:ikyh7zHDo

午後3時

預言者「申し訳ありません……なにぶん高齢のため、体調が常に万全というわけにもいかないのです」

団長「いえ。こちらこそお身体の調子が悪いときに無理を言ってすいません」

預言者「やっと、視えました。魔王は、王都南東区。民家のひとつに留まっているようです」

団長「南東区……分かりました。ありがとうございます。ご協力感謝いたします」

団長「南東区……か」

団長「すぐに兵団、騎士団ともに知らせねば」

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650 :◆TRhdaykzHI 2013/10/22(火) 03:33:46.57 ID:ikyh7zHDo

午後4時30分

宮殿前

わーーーーわーーーーー
   わーーーーーわーーーーー
   

国王「魔王を仕留めることも、追い払うこともできず、あまつさえ王都への侵入を許してしまうとは
   我が国の兵士はなにをやっているのだ?騎士団といい兵団といい、魔術師団といい……」
   
大臣「宮殿前に集まっている民衆の数も、まだ増え続けてます。
   魔王が侵入したから避難するように言っているのですが、全く聞く耳持たずでして」
   
大臣「むしろ勇者とともに魔王を応援するような輩もちらほら……」

国王「…………」

国王「愚民め」

国王「一人だと自分で考えることもしない……
   そんな人間たちがただ単に騒ぎに浮かれて、心地のいい言葉に便乗して、それが自分の意志だと思いこんでいるだけのこと」

国王「そのような愚かな国民たちを導くのが王たる役目よ」

大臣「では、どうなさるおつもりですか?」

651 :◆TRhdaykzHI 2013/10/22(火) 03:34:55.91 ID:ikyh7zHDo

国王「いま宮殿の前にいる民衆は、ただ誰かが唱えた力強い言葉に引きずられているだけだ。
   ならば、正気に戻してやればいい。より大きな、より正しい何かを見せつけてやればいい」
   
国王「……こんなことを言うと、私が悪役のようだな。フッ……」

大臣「殿下……?」

国王「……」

国王「勇者の処刑を、予定より18時間早める」

国王「明日の正午に執り行う予定だったが、変更だ。今日の18時、今から1時間と四半刻後に 」

国王「宮殿に集まっている民衆の前で。彼らが信じる偶像を処刑してみせよう」

国王「神の加護など、彼には備わっていないことを……本当に信じるべきなのは誰なのかということを」

国王「盲目で無知たる民たちに見せてあげよう」

大臣「……では準備を」

国王「ああ、頼む」

652 :◆TRhdaykzHI 2013/10/22(火) 03:35:52.98 ID:ikyh7zHDo

午後5時

魔王「……ようやく牢獄の場所が分かったな。そこらを騎士と兵士がうろちょろしているから煩わしいことこの上ない。
   しかし無駄な魔力を消費するわけにも……いかないし」
   
魔王「傷の手当てはできたが……魔力はほとんどまだ空だ。でも、何もできないわけじゃない。うまくやれば、どうにか」

将軍「……!!!(魔王……!!)」

兵士「しょ、将軍……!」

将軍「待て……焦るな。まだ奴はこちらに気づいていない」

魔王「……ん…?」

子ども「ふえぇぇぇ……ママぁぁ……みんな どこ行っちゃったの……」

653 :◆TRhdaykzHI 2013/10/22(火) 03:37:35.17 ID:ikyh7zHDo

兵士「あ!子どもが……避難し忘れたのでしょうか。魔王があんな近くにいますよ!助けないと!!」

将軍「…………奴は……なにをしているんだ?」

兵士「え?」

魔王「……ええと、大丈夫か?」

子ども「だれ……?」

魔王「立てるか?あっちに騎士がいるから、保護してもらえばいい」

子ども「さっき足くじいて……いたくて立てない……ぐす」

魔王「けがをしていたのか。見せてみろ。……これでもう痛くない?」

子ども「うん。もう痛くない!すごいね……神官様なの?神官様って君みたいな子どもでもなれるの?」

魔王「こ、子ども……いや、私は神官ではないが」

母親「ああ!!こんなところに!!よかった……!」

子ども「ママ!」

654 :◆TRhdaykzHI 2013/10/22(火) 03:38:18.99 ID:ikyh7zHDo

母親「あなたは娘のお友達かしら?とにかく、一緒にここから避難しましょう。
   魔王が王都に入ってきているらしいの。騎士様たちに保護してもらっ……あら?」
   
魔王「いや……私は、ええと……」

母親「あなた……その目と……耳……ま、魔王……なの?」

子ども「違うよ、神官様だよ。わたしの足、治してくれたもん!」

母親「え……!?本当なの?」

魔王「私は、人を傷つけるつもりはない。勇者くんたちを助けに来たんだ」

母親「処刑されるっていう……あの……?」

魔王「! 騎士がこちらにもうすぐ来る。私はこれで」タッ

母親「あ、あの!!娘を助けて頂いて……本当にありがとうございました!」

子ども「ありがとう、神官様ー!」

魔王「……」

655 :◆TRhdaykzHI 2013/10/22(火) 03:38:53.96 ID:ikyh7zHDo

タッタッタッタ……タ

将軍「待て、魔王」

魔王「! ……く……」

将軍「杖を下ろせ。我らも剣を抜いておらんだろう」

魔王「なんのつもりだ?」

将軍「聞きたいことがある。さきほどのあれは、どういうことだ?」

魔王「……見ていたのか」

魔王「君たちが初めて魔王城に来たときからずっと言っている。
   私たちは人間に敵意も持ってないし、ただそっとしておいてくれれば何も望まないと」
   
魔王「いや、むしろ、手を取り合って共存関係を築けたらとさえ思っている」

将軍「まさか……魔族が本当にそんなことを思っているというのか。それを信じろというのか。
   ……と、数時間前の俺なら言っていただろうな」
   
将軍「俺の信条は『己の目で見るまでは何も信じない』。つまり言いかえれば、見たものは信じるということだ。
   いま俺は人の子の傷を癒す貴様の姿を見た。それは俺にとって何にも勝る情報だ」
   
魔王「……?」

656 :◆TRhdaykzHI 2013/10/22(火) 03:40:19.96 ID:ikyh7zHDo

騎士「いたぞ!!魔王だ!!!」

騎士「将軍殿もいる。囲めー!!!」

将軍「……この通りを右に曲がり、大通りを北にずっと進め。宮殿につく」

将軍「勇者の処刑が早まった。処刑は午後6時、いまから1時間後だ」

魔王「なに!?処刑は明日の正午だって……!」

将軍「だから早まったと言っただろう。早く行け。勇者を助けに来たのだろう。ここは俺が受け持つ」

兵士「わー……将軍まじっすか……」

将軍「お前らはどうする?己が信じる道を行け。俺の敵になろうとなるまいと、好きにするがいい」

兵士「じゃあ、味方で」チャキ

騎士「なっ、将軍殿!!どういうおつもりですか!!?」

将軍「ここを通りたくば俺を倒してから行け!!!」

魔王「……あ……ありがとう」

将軍「礼には及ばん」

657 :◆TRhdaykzHI 2013/10/22(火) 03:40:55.32 ID:ikyh7zHDo

午後5時30分

牢獄 地下7階

仮面「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!やっとここまで辿りついたあああああああああああ」

神官「なんか以前より警備が薄いですね?いや助かりますけど」

戦士「行くぞ!!最下層!!」

バターン

盗賊1「勇者の旦那あああああああああああっ!!」

盗賊2「お待たせしやしたあああああああああああ」

神官「勇者さ…………まッ!?」

戦士「い、いない……?」

仮面「どういうこったぁ……?」

658 :◆TRhdaykzHI 2013/10/22(火) 03:42:00.40 ID:ikyh7zHDo

午後5時45分

勇者「…………」

勇者「夕日がきれいだな」

処刑人「最後の夕日です。とくとご覧ください」

勇者「そうだな」

勇者「……俺は死ぬなら、魔物にバッサリ切られて死ぬか、旅の途中に谷に落っこちて死ぬかだと思ってた」

勇者「まさか処刑されるとはな。ハハ……笑ってくれていいぜ」

処刑人「…………自分もまさか勇者様の首をギロチンにかける日が来るとは思っておりませんでした」

勇者「ギロチンで処刑してくれる部分がまだ良心的か?」

処刑人「…………そろそろ時間です。断頭台へ」

勇者「……。ああ」

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