師匠シリーズ

【師匠シリーズ】写真

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後に漫画版師匠シリーズ『そうめんの話』の加筆部分として発表。

新 鼻 袋 ~第四夜目~

357 :ゴーストハンター:04/04/08 22:01 ID:qmmCHtfb
日差しの強い日だった。
私は木陰の多い公園をみつけて一息ついた。
仕事柄、外回りが多いので夏は大変だ。
蝉の声がうるさい。
ベンチで涼んでいると、ふいに大きな白い帽子が私の方に飛んできた。
「うわっと」
思わず身を乗り出してキャッチした。
人間の本能というやつだ。
「すみません」
向こうから白いワンピースの若い女性が走ってきた。
帽子とお揃いだ。
私は笑顔で立ち上がった。
しかし女性の様子がおかしいことに気づいた。
真っ青なのだ。
「どうもありがとうございます」
「え、ええ」とりあえず帽子を手渡したが、彼女はそれを抱えるとほっとしたような表情を浮かべた。
だがまだ肩が震えている。
「あの、どうかしましたか」
「いえ少し疲れて・・・」
彼女はそういってベンチに腰掛けるとうつむいたま黙り込んだ。
私は戸惑いながらも座っていた場所にもどった。

358 :ゴーストハンター:04/04/08 22:03 ID:qmmCHtfb
蝉の声が空に溢れていた。
私はなんとなく立ち去りがたいものを感じて、時々彼女の方を盗み見た。
尻の辺りが蒸れて来たので、一度腰を浮かそうとしたとき、
「あのっ」
俯いたままの彼女が思いつめたようなような声を出した。
「この帽子大切なものだったんです。ありがとう」
へんな娘だ。だが、ただ事じゃない響きがあった。
「・・・でも、ありがとうじゃないんです本当は」
彼女はそういって肩からかけているバックから、インスタントカメラのようなものを取り出した。
「この中に、写ってるんですよ。この帽子を被った1年前の私が」
一体何をいい出したんだろう。
座りの悪いものを感じながら、私は彼女の「告白」を静かに聞き続けた。

「地元の人じゃありませんね。見えますか、街の様子が。
 今日はお祭りの日。ああ、ここからでも沢山ののぼりが見えますね。
 去年も私、この服とこの帽子を着ていました。
 そして他人に時計台の前で写真を撮ってもらったんです。ひとりで。
 覚えています。午前11時ちょうどでした・・・」

359 :ゴーストハンター:04/04/08 22:05 ID:qmmCHtfb
彼女は少し顔を覆ったようだった。
「上手く行くと思ってました。1年も待ったんですから。
 あの人を殺しても、私が捕まらないためのアリバイに。
 インスタントカメラの中に1枚だけ1年前の私が写ってるなんて、誰が思うでしょう。
 11時ちょうどに、時計台の前で笑う私・・・・
 その時間には彼を殺せない。完全なアリバイです。
 でもそれは、1年前の祭りの日。
 一年後の今日、私は11時ちょうどに・・・・」
彼女は声をつまらせた。
「彼を殺しました」
私は何もいえずに、ただ黙っていた。
腕時計を見ると午後2時半。
背中を冷たい汗が流れていく感覚だけがあった。
「1年という時間の隙間をフィルムの一コマにつなげるため、私はこの服を、そして帽子を着なければいけなかったんです。
 同じ夏の日。同じお祭り。同じ服。そして同じ笑顔で写真をとらなければいけなかったんです。
 だから帽子が飛んだ時、必死で追いかけました。
 追いかけたのは、本当は帽子だけではなかったから・・・」

360 :ゴーストハンター:04/04/08 22:06 ID:qmmCHtfb
「でもだめ、きっとだめだった。上手くなんか行きっこない。
 だからあなたにはありがとうじゃないんです」
彼女はカメラを構えてファインダーを覗き込んだ。
しかしなぜか「ひっ」という声をあげてすぐに顔を離した。
「やっぱり見える。ダメなんですよ。ダメ。見えるんですよ。
 カメラ越しに・・・あの人が」
汗の引いた顔で、彼女は小刻みに震えていた。
「レンズの向こうにいるんです。私がついさっき殺したあの人が。
 きっと写るわ。シャッターを切れば。写るのよ。
 彼の口がこう動いてた。
 『うまくいきっこないさ。そんなくだらないトリック。きみはつみをつぐなうんだ。ぼくをころしたつみを』」

彼女は脱力して、カメラを取り落としそうになった。
私は思わず身を乗り出してうけとめた。人間の本能なのだろう。
そして深いため息をついたあと、彼女は、
「ありがとう。他人に話してやっと楽になれました。
 ・・・会心のアリバイトリックの写真が心霊写真だなんて、間の抜けた話ですね」

361 :ゴーストハンター:04/04/08 22:07 ID:qmmCHtfb
彼女とはそれで別れた。
出頭するなら、付き添いますよ。といおうとしたが、彼女は首を振った。「お仕事、途中でしょ」といって。
結局彼女の話がどこまで本当だったのか、私にはわからない。
だが、妙に信じたくなった。
カメラのファインダー越しに見えるという死者を。
訳知り顔の心理学者ならこういうだろう。
「それは彼女の心の中にすんでいるのだ」と。
だが私は、信じたい。
あの時、風もなく飛んできた帽子を、信じたいのだ。

仕事、仕事。
私は足早に公園をあとにした。
気がつくと蝉の声が止んでいた。

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