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知人から聞いた話。
彼の家の裏には、小さな祠がある。
なにを奉ったものなのか、家族の誰も知らない。いつからあるのかもわからない。ただ、毎日の世話の仕方だけが伝わっているのだという。
世話といっても簡単なもので、朝夕に掃除をし、握り飯と茶を供え、手を合わせる。それだけのことだという。
てっきりなにかご利益があるのかと思ったが、彼曰くそういう話は伝わっていないらしい。ただ、毎日欠かさず世話をしろとだけ、昔から言われているのだとか。
ずいぶん昔の話だが、知人は一度、世話を欠かしたことがあるという。
子供のころ、母に言われて世話にいったのだが、面倒なので掃除をせず、握り飯と茶を供えて手を合わせた。それも形だけで、すぐに家に戻ろうとした。
すると、祠がごとごとと揺れた。
何事かと振り返ってみると、祠の中から女がこちらを睨み付けていた。
血走った目や、ぐしゃぐしゃに絡まりあった髪の毛が恐ろしかったという。
泣きながら家に逃げ帰ると、母にしこたま怒られた。
「ちゃんとお世話せんからよ」
結局、母と一緒に祠まで戻り、今度はきちんと掃除をして手を合わせた。祠は何事もなかったように静かだった。
「それって、結局なにが奉られてるんだ?」
私が聞くと、さあ、と彼は首をかしげた。
世話さえしてれば、なんの問題もない。ならば、いちいち確かめる必要もないだろう、というのが彼の主張だった。
「そもそも、記録なんて残ってないからね。中身を確かめようと思うなら、祠を開けてみるくらいしか方法がない」
「開けるつもりはないのか」
「あまり気は進まないよ」
知人はそこで初めて、少し嫌そうな顔になった。
「だって、開けたら出てくるかもしれないだろ?」