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※話を追加したので再掲します。
右手の感覚
∧∧山にまつわる怖い・不思議な話Part23∧∧
185 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2005/10/27(木) 22:02:41 ID:Wu2V5BPx0
知り合いの話。
彼の奥さんが寝ていると、深夜誰かに起こされたという。
「もし」という呼び声で目を覚まされたのだが、枕元には誰の姿もない。
寝惚け眼なのであまり奇怪にも思わず、布団の上に正座して見えない客人に応対していると、
どうやら次のようなことが判明した。
「突然仕事が舞い込んで来たのだが、今のままではとても手が足りない。
どうか近所のよしみで、貴女の手を貸しては頂けないだろうか?」
近所付き合いを大事に考えている奥さんは、「いいですよ」と即答していた。
近所って何処の家?仕事とは何?自分は何をすればいいの?
なぜかそういう類いの考えが、まったく頭に浮かばなかったという。
すると「ありがとう」という応えがあり、そこで初めて頭がシャンとしたが、
声の気配は掻き消すように消えてしまう。
変な夢を見たわね、そう思い再び就寝した。
翌朝目覚めてみると、何とも困ったことになってしまっていた。
右手の感覚が失くなっているのだ。
肩から下が、動かすことは出来るのだが、神経が死んだかのように何の触覚も伝えてこない。
突付かれてもそれがわからない程の症状だったという。
186 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2005/10/27(木) 22:04:28 ID:Wu2V5BPx0
大慌てで病院にかかったが、精密検査の結果はどこにも異常がないと出た。
困り果てて、もうこうなったら大きな街の病院に行くしかないかと、夫婦で話し始めた頃。
丁度、変な夢を見て一週間目の夜だった。
やはり深夜過ぎに「助かったよ。迷惑をかけたね」という声を聞いた。
果たしてその翌朝、右手はすっかり元通りに復活したという。
近所のお婆さんが言うには、そりゃ山の神様だろうと。
なんでも、この辺りの山神は手足が一本ずつしかないそうで、
手が足りない折は、里まで人手を借りに下りて来る慣習なのだそうだ。
「神様って一体、山の中で何の仕事をしているのかしらね?」
奥さんはそう言って小首を傾げていた。
187 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2005/10/27(木) 22:05:21 ID:Wu2V5BPx0
余談。
「神様に文字通り貸しを作った訳だ。何か良いことあったんじゃないか?」
そうからかうと旦那は少し口ごもり、ぼそぼそと次のように口に出した。
「・・・いや、何と言っていいのかもう・・・凄いんだ・・・」
・・・どうやらあの日以来、奥さん本人は自覚してはいないが、
旦那さんにしかわからない超絶テクニックを授かったものらしい。
詳細はちょっと書けないが、現在夫婦仲は非常に良くなっているという。
東南アジアの呪術
∧∧∧山にまつわる怖い話Part22∧∧∧
709 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2005/09/26(月) 20:21:02 ID:5TglVPr70
同僚の話。
東南アジアに出張していた時のこと。
彼が逗留していた村で、殺人事件が起きた。
部族の有力者が二人、連続して殺されたのだ。
遺体はどちらも腹が裂かれており、肝臓が失くなっていたと聞く。
結局、彼が滞在している間に、犯人が捕まることはなかった。
呪術的な側面があるとかで、現地の警察も捜査に腰が引けていたという。
酒の席で現地人同僚に聞いたところ、この辺りの山岳民族が信仰している教義に関係があったのだそうだ。
その土着信仰では、内臓に霊的な物が宿ると信じられている。
各臓腑によって何が宿るか決まっており、肝臓には魂が宿るのだと。
「肝を食われちゃ、もう生まれ変われない。この世からの完全な抹殺なんだ」
そう言って怖れられていたらしい。
事件の真相は、部族内の権力闘争だったのかもしれない。
「お前は怖い話を集めているけど、やっぱり一番怖いのは人間だと思うぞ」
土産話にこの話を聞かせてくれた友人は、そう締めくくった。
登山中に一休み
64 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2009/06/11(木) 19:06:38 ID:4DqL1YVL0
後輩の話。
登山中に一休みすることにした。
飲み物でも作ろうとゲータレードの粉末を取り出し、口細の容器に入れる。
それから水筒で水を注いだのだが、いつまで経っても水が満ちてこない。
容器を取り上げた。おかしい、軽いぞ。今かなりの水を入れた筈なのに。
逆さに振ってみると、白いゲータレードの粉だけが地面にこぼれ落ちた。
「ここでは休憩するなってことかな」
そんなことを思い付いたので、別の場所で休むことにする。
谷を一つ越えた辺りまで歩き足し、残った粉と水で作り直してみた。
今度はちゃんと飲むことが出来たという。
梟がついてくる森
65 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2009/06/11(木) 19:07:35 ID:4DqL1YVL0
友人の話。
梟がついてくる森があるのだという。
「そこに入っている間、絶えず梟の声が聞こえるんだ。
奇妙なことに、家に帰ってからも気配がする。
電気を落とすと、部屋の何処かでホゥって鳴き声が聞こえるし」
梟の声がする間、彼の家からは鼠の姿が消えたという。
「しばらく経つと梟の気配も声もしなくなったし、鼠も出るようになった。
もう森に帰ったんだろうな」
自分の部屋にも来てくれないかな。少し羨ましく思った。
山犬
66 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2009/06/11(木) 19:08:31 ID:4DqL1YVL0
知り合いの話。
彼の祖父はかつて猟師をしていたという。
遊びに行った折に、色々と興味深い話を聞かせてくれた。
「変わったモノが出る山があったな。山というか沢だったんだが。
雨風が凌げる場所があったんで、よくそこで野宿してたんだわ。
これが次の日起きてみると、なぜか鉄砲に歯形が付いてる。
黒鉄で出来た筒にだけ、牙で囓ったような傷痕がな」
「その山には山犬さんっていう賢い御犬様がいて、鉄を嫌っているって話だった。
確かに噛まれるのは鉄砲だけで、他の物は儂らの身体も含め、何の被害も無え。
だからそんな不思議なモノもいるのかもなぁって、そう思ったよ。
そこにゃよく泊まらせて貰ったけど、その近辺じゃ獣を狩る奴ぁいなかったな。
鉄砲撃ちも気を遣っていたのかもしれねえ」
猟の帰りに、獲物の一部を沢に置いて帰っていた者もいたという。
「今はもう猟師専門って奴もいないしよ、あんな山奥まで行くことも無えだろう。
山犬さん、どうしてっかな」
祖父さんはそう言って懐かしそうに目を細めた。
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霧が掛かった秋の山
869 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2009/06/06(土) 17:56:33 ID:MaQ2T8Pi0
先輩の話。
霧が掛かった秋の山を歩いていた。深い薄野原を一人掻き分けながら。
藪漕ぎの手を休め、身を屈めて一息吐いてから再び顔を上げた。
目の前に、ついさっきまで無かった物がある。
真黒い柱が一本、ヌッと立っていた。
次の瞬間、異様な悪寒に襲われて、身動きが出来なくなった。
柱の上に何かがいて、それが自分を見つめている。
上の方まで視線は上げられなかったのに、何故かそのことだけはわかった。
冷や汗を流しながらゆっくりと目を閉じる。と、さっぱり悪寒が消えた。
恐る恐る目を開けば、もう柱はどこかへ消え失せていた。
出来るだけ急いでその薄野原を抜けたそうだ。
真っ赤
870 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2009/06/06(土) 17:57:22 ID:MaQ2T8Pi0
友人たちの話。
バイク乗りの間で、恐れられている峠があるのだという。
「夜にそこの峠を攻めていると、後ろに飛び乗ってくる者がある。
当のライダーにはわからないんだけど、後ろを走ってる奴らには丸見えなんだ。
ライトの中に浮かぶ、女の子の真っ赤な背中が」
「本当は白い服を着ているみたいだが、これが血塗れで真っ赤に見えてるってよ」
「これに憑かれると何故かブレーキが効かなくなって、猛スピードのままカーブに突っ込んじまう。
何とかやり過ごしても、下に着くまでにまず事故ンのよ」
「だから俺たちそこを“シャア専用”と呼んで、夜は避けるようにしてるんだ」
真面目な顔でそう聞かされた私は、言葉に詰まった。
入っちゃいけない山
871 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2009/06/06(土) 17:58:12 ID:MaQ2T8Pi0
知り合いの話。
彼の祖父はかつて猟師をしていたという。
遊びに行った折に、色々と興味深い話を聞かせてくれた。
「山にも色々あってな、入っちゃいけない山もある。
山の神様がキツいのか、人嫌いのモノがいるのかはわからないけどな。
儂も一つ、そんな山を知ってたよ」
「そうとは知らずにそこに入っちまってよ、野営してたんだ。
夜が更けるにつれて、何か声が聞こえてきやがった。
肝が冷えたね。儂の名前、それだけをブツブツと繰り返しとったから。
声は一晩中、周りの森ン中をグルグルと回ってた。
すぐそこにいる筈なのになぜか姿は見えなかったんで、こりゃヤバいぞっと。
火を絶やさんように注意しとったら、とても寝るどころじゃなかったわい」
「その後どうしたかって? 夜が明けたら即行でそこを下りたよ」
祖父さんはそう言って何でもないように笑っていた。
ヤツシ
822 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2009/06/03(水) 21:20:54 ID:IUaDZNkJ0
友人の話。
彼の実家があった山村には、おかしな掟があった。
「○○谷地では言葉を喋ってはならない」というものだ。
なぜならその谷地には、ヤツシが隠れ潜んでいるからだと。
ヤツシとは山奥に住む猿のような物の怪で、時折人里近くに下りてくるという。
ヤツシは人の会話を盗み聞くうちに、それを習得してしまう。
言葉を覚えてしまうと知恵がつき、やがて村人に取って代わろうと願うようになる。
そして山に入った者を食い殺し、その姿に化けて村に入り込む・・・
そう言われていたのだそうだ。
すり替わったヤツシは、自分が物の怪であったことすら忘れ、その人物に成り切る。
それが死んでから焼き場で焼かれた後、燃え残った大量の和毛が釜から出てきて初めて、
「あぁこの人はヤツシにすり替わっていたのだな」と気が付くのだと。
「もしかしたら俺、物の怪の血を引いていたりしてな」
友人はニヤリと笑ってそう言った。
頬撫で
823 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2009/06/03(水) 21:22:11 ID:IUaDZNkJ0
知り合いの話。
彼の地元の山では、昔から「頬撫で」と呼ばれる化け物が出ていたという。
夜道を歩いていると、傍の繁みからヒヤッとした手が出てきて、頬を撫でていくのだと。
遭遇するのは大抵子供だったので、そこを通る際にはよく大人が一緒に付いていった。
ある年に町の若手が総出で、清掃作業を行うことになった。
なぜに突然清掃の運びになったのか、その説明は一切無かったという。
清掃対象は丁度、頬撫でが出ると言われた辺りだった。
半日の作業の結果、ごっそりとゴミが回収された。
不思議なことに、その殆どが軍手やゴム手袋といった類の物だった。
また回収されたそれらのゴミが、焼却される前に寺で供養されたのも腑に落ちなかった。
「でもね。あの掃除以来、頬撫でがトンと出なくなったんだわ。
あのゴミ手袋、何か関係あったのかなぁ」
現在そこはゴミ捨て禁止の札が立てられており、違反者は厳しく罰せられている。
黒い小さな壺
824 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2009/06/03(水) 21:23:31 ID:IUaDZNkJ0
友人の話。
子供の頃、家族で渓流に遊びに行った。
鮎を釣る算段をする親から離れて、妹と二人で川に入って遊んでいたという。
「兄ちゃーん」妹が彼を呼ぶと、目の前の水面を指差した。
どこから流れてきた物か、黒い小さな壺が漂っている。
興味を引かれて手を伸ばすと、壺の中から何かが滑り出るのが見えた。
酷く小さな、でもズルリと長い、黒い毛に覆われた獣の手。
伸ばした手に痛みが走った。引っ掻かれたと気が付き、パッと手を引っ込める。
傷口を押さえて後ずさる彼の耳に、フゥーッ!と唸るような声が聞こえた。
壺の口がこちらを向いて、緑に光る二つの点が覗いている。
立ち竦む彼を残し、壺はそのまま下流に流されていった。
後日、その川で漁をしている叔父にこの話をしてみた。
「ほう川壺に出会ったか。しかし運が良かったな。
あちらが腹減らしていたら、尻子玉抜かれてたかもしれん」
そう言うと、叔父は友人の父に向かいこう注意した。
「次からはもう少し下った所の原を使えや。あそこなら何も出ん」
・・・あの時の僕って、実は危なかったの!?
それからしばらくの間、彼は夢に出てくる小さな壺にうなされたそうだ。
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鈴の音
773 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2009/05/30(土) 22:19:35 ID:Q1b1pPHc0
友人の話。
山深い峠道を一人歩いていると、背後から鈴の音が聞こえてきた。
リン リン リン
熊避けの鈴とは音色が少し違っていた。
誰だろうと振り返ってみたが、道上には誰の姿も見えない。
しかし音だけは確実に近付いてくる。
戸惑っていると、いきなりドンッ!と衝撃があって弾き飛ばされた。
大きな生物に体当たりされたような感じだったという。
尻餅を付いて呆然とする彼の前を、鈴の音だけが軽やかに通り過ぎて行く。
ようやっと立ち上がったのは、音が遠く聞こえなくなってからだった。
後日、実家の祖母からこんな話を聞かされた。
「あそこの山には昔から鬼が住んでいるそうだよ。
時々人を獲ってたもんだから、偉い御坊さんに鈴を付けられたんだって。
鬼が近よって来ても、察して逃げられるようにね。
あんた運が良かったよ。
鈴鬼が空きっ腹だったら、獲られてたとこだよ」
・・・この現代に鬼とか言われてもなぁ・・・
そう思いはしたが、それ以来鈴の音にはとても敏感になっているそうだ。
牛車
775 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2009/05/30(土) 22:21:47 ID:Q1b1pPHc0
先輩の話。
ほろ酔いで夜の田舎道を歩いていると、先の十字路を何かが横切るのが見えた。
牛車だった。中学生の頃、教科書で見たような外観。
車を引く牛馬の姿は無い。車だけがガラガラと音を立て、夜道を進んでいる。
そのまま山の入り口に差し掛かり、暗い森の奥へと進んで消えた。
お香らしき匂いが残っていたが、それもすぐ薄れてわからなくなった。
そう言えば奥の小山って、昔から女の鬼が棲んでいると言われていたっけ。
そんなことを思い出しながら、のんびり下宿まで帰ったのだという。
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田圃
675 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2009/05/26(火) 18:50:21 ID:rfBlirlx0
知り合いの話。
彼の実家の山には、多くの棚田が残されている。
その中に一つ、奇妙な田圃があるのだという。
斜面の真ん中辺りにあるその田は、誰も入らせないかのように太い針金で囲まれており、
畦寄りの場所には石碑みたいな物が二つ建てられている。
碑には時折、御幣のような物が掛けられたり、御供えがしてあったりして、きちんと世話がされている様子。
「あそこはヤメダ(病田)だからね」
気になって実家の者に尋ねたところ、そういう答えが返ってきた。
「あそこで作業をすると、決まって家の者に悪いことが起こるんだ。
かといって、潰してしまうのも恐ろしい。
怒りっぽい誰かが居座っているんだろうと、昔からああやって祀ってるんだよ。
お前もあまり近よらない方がいいかもしれんぞ。
うちの筋なんだから、罰が当てられる可能性がある」
この御時世に信じられないような話だなぁ、そう感じたと彼は言っていた。
信じられはしないけれども、そこに近よることはしないそうだ。
祠
676 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2009/05/26(火) 18:51:49 ID:rfBlirlx0
知り合いの話。
彼の住んでいる町の山には、一寸不思議な祠があるのだという。
小さな川を遡った淵、その傍らにある小さな祠だ。
渇水の折などにそこを訪れ、祈りを捧げるのだという。
「そうするとな、その帰り道、目の前に胡瓜が降ってくるんだって。
いや比喩でも何でもない、まんま野菜の胡瓜が、天からドサドサッて。
太くて瑞々しくて、咽の渇きを癒すには抜群らしい。
元々そこの祠は、人じゃなくて河伯が建てたとかいう逸話も伝わってる。
今は水涸れなんてこともなくなったから、胡瓜なんか願う人もいないけどね」
その祠、いつ訪れてみても綺麗に手入れがされているのだそうだ。
神社
677 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2009/05/26(火) 18:52:55 ID:rfBlirlx0
知り合いの話。
地元の神社に、変わったモノが出るのだという。
社の片隅に、時々大きなテルテル坊主がぶら下がるというのだ。
神社は山の奥にあるので、パッと見、緑の中に白坊主が浮いているように見える。
昔からオヒアガリさんだの単にヒアガリだとか呼ばれていて、これが目撃されるとしばらく雨が降らないのだと言われている。
彼は幼少時、このオヒアガリさんを間近で見たことがある。
彼曰く、大きなテルテル坊主が見えたので、ずんずん近よっていったのだと。
ある程度よった所で、白い布の下から何か覗いているのに気が付いた。
人間の足首から先が、だらりと伸びていた。
そのまま踵を返し、全速力で逃げ帰った。
以来、その神社の一角には近づかないようにしているそうだ。
大きな黒い牛を描いた木板
563 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2009/05/21(木) 20:43:25 ID:MZ+CeexK0
友人の話。
彼の実家は、山を幾つも持っている旧い名家だ。
その山の一つに御堂があり、大きな黒い牛を描いた木板が保管されている。
画家の手による作品ではなく、何代も前の主が絵から何まで自ら拵えた物だとか。
伝わるところによると、その主の代の頃、凶賊が屋敷に押し入ったのだという。
使用人が次々と斬り倒され、最早これまでと覚悟を決めたその時。
何処からともなく黒い颶風が飛び込んできて、あっという間に賊どもを打ち倒した。
風の中心にいたのは、信じられないほど大きく黒い牛だった。
真黒い身体の中で目だけが赤く輝いている。
主は震えながらも尋ねてみた。
「もしやあなたは、この家の守り神様で?」
その家は牛馬の取引で財を成していたそうで、そのことから黒牛を見て神様かと連想したものであろうか。
564 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2009/05/21(木) 20:44:07 ID:MZ+CeexK0
驚くことに牛は、片言ではあるが言葉を返してきた。
「イナ。ワレ、コノイエニタタルモノナリ」
呆気にとられ、ではなぜ祟る相手を助けたのか問うてみた。
牛の話は難解でよく理解出来なかったらしいが、詰まるところ、
“家筋を祟る代わりに、自分がもたらしたものでない凶事は退ける”
というのが牛の言い分であったらしい。
賊達を散々脚で踏み付けまくってから、黒い獣は夜の山に姿を消した―
言い伝えはここで終わっている。
その後なぜか主はこの牛を絵に描き表し、御堂を造って祀ったのだという。
「いやまぁ、御先祖様の気持ちは何となくわかるんだけどね。
意に反して祀られちゃったりして、牛さんも不本意かもしれんな」
ちなみに彼の一族に、祟られているという実感を持つ者は一人もいないそうだ。
「ま、例え不幸があったとしても、それが牛さんの祟りかどうかわからないし」
友人はそう言って軽く笑った。
ペグを打ち込む
445 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2009/05/18(月) 20:43:53 ID:AVxFT69V0
後輩の話。
登山部に入って、初めてのキャンプに参加した時のこと。
指導を受けながらテントを張る作業に勤しんでいた。
ペグを打ち込む段になったのだが、どうも上手く突き刺さってくれない。
木槌で力一杯に叩いても、弾力のある物に押し返されるような感触が返ってきて、それ以上地中に入ってくれないのだ。
浅い位置に何か埋まっているのかと思い、少しばかり土を攫ってみた。
白く柔らかい物が出て来たので、手で乗っている土を払い落とす。
人間の真白い顔が、そこに露わになった。
目は閉じられている。額に小さな傷があり、血がうっすら滲んでいた。
・・・僕がペグで突いた場所だ・・・
腰を抜かしていると、閉じられた目が見開かれた。
「痛っ!」と小さく叫ぶ。
次の瞬間、顔は幻であったかのように掻き消えていた。
思わずそこを掘り返してみたが、もうどこまで掘っても顔など見つからなかった。
キャンプ場のトイレ
446 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2009/05/18(月) 20:45:15 ID:AVxFT69V0
知り合いの話。
彼は時々、子供会のキャンプで引率を担当している。
使っているキャンプ場には大きなトイレがあるのだが、そこで奇怪な体験をしたという。
小用を足していると、古風な小便器が舌足らずな声を発したのだ。
甘~い!
驚いて辺りを探ったのだが、その時便所の周りには彼しか居なかったそうだ。
不気味に思ったが、声の内容が気になってしまい、山から帰ると病院で診断を受けた。
軽度の糖尿病だという結果が出た。
「軽い運動と少しの食事制限で対応できるでしょう。
しかしこの程度なら症状も出ないでしょうに、良く気が付きましたね」
担当医からそう言われたが、事情は一寸説明できなかったそうだ。
猪
447 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2009/05/18(月) 20:46:43 ID:AVxFT69V0
友人の話。
ある冬の夜、近所の人が裏山で猪を獲ったという話を聞いた。
ご相伴に与ろうといそいそと出掛け、裏手のカーポートに廻る。
獲れた猪はそこに吊るしてから解体するのが慣わしだった。
既に何人かの顔見知りが到着しており、家の主人を囲んでいた。
黒い大きな猪が、コンクリートの床に転がされていた。
しかし、どこか雰囲気がおかしい。
皆が皆、まるで猪の方を見たくないかのように顔を伏せている。
友人に気が付いた一人が、黙って猪に向かい顔をしゃくった。
その指し示す方を見て、思わず息を呑む。
転がされた猪の四肢の先は、人間の手足とほぼ同じ形状をしていた。
結局、猪は食べられることなく、山に戻され埋葬された。
撃った当人は、それから直ぐに猟を止めてしまったそうだ。
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川沿いの砂地
327 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2009/05/13(水) 20:18:39 ID:k3aqzg/A0
知り合いの話。
渓流に沿って歩いていると、行く手の川縁に誰かが蹲っているのが見えた。
ボロ布を纏っているような奇妙な格好をしていたらしい。
足元から何かを掬っては頭を上下させている。
何かを咀嚼している様子だ。
大きな岩を迂回してからもう一度目をやると、人影は消えていた。
足元に気を付けながらその場所に下り立ったところ、砂の上に何か穿ったような跡が残されていた。
「こんな山奥まで来て、川の砂なんかを飲み込んでいたのかな?」
辺りを見回したが、何の気配も感じられなかった。
変わった人もいるものだと思いながら、そのまま川を下り続けた。
下山し無事に家に辿り着いたその日の夜、おかしな夢を見た。
夢の中で彼は川沿いの砂地に立っていた。
あの影を目撃した場所だ。
彼の前に、例のボロ布に包まれた背中があった。
クチャクチャと湿った音が聞こえてくる。
やがてそいつはくるりと首を回し、彼を真正面から睨め付けてきた。
目の大きさが左右で異なる、異様な風貌をしている老人の顔がそこにあった。
右目は細く閉じられていて白目の部分しか見えず、目脂が酷い。
左目は大きく見開かれ、瞼が無いのかほとんど真円に近かった。
口元に濡れた川砂がこびり付いている。
328 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2009/05/13(水) 20:20:46 ID:k3aqzg/A0
やがて老爺は、嗄れ声を絞り出しながらこう言った。
「好きでこんなモン喰うているとでも思うたか」
そこで目が覚めた。全身に嫌な汗をかいていたそうだ。
「馬鹿にしたつもりなどないんだけどな・・・」
ボヤきはしたものの、何となく悪い気もしたので、取りあえず布団の上に正座し、
「すいませんでした」と適当な方面に頭を下げてみた。
何に対して謝ったのかは、自分でもよくわからなかったが。
まぁ間が悪かったよな、そう考えて自分を慰めという。
謝罪が功を奏したか、以来夢の中に老人は現れていない。
ちなみに彼は、それ以来あの渓流には近よっていないのだそうだ。
夜中のランニングを日課としている知り合い
389 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2009/05/16(土) 18:41:07 ID:JPvzn4oi0
知り合いの話。
彼は夜中のランニングを日課としている。
近くの山中腹に城跡があり、そこの公園まで往復すれば、彼の足で小一時間。
手頃なコースなのだという。
普段は公園の入り口で折り返しているのだが、ある冬の日、ふと熱いコーヒーを飲みたくなった。
いつもは素通りする公園に入り、自動販売機でコーヒーを購入。
ベンチに腰掛けて、熱い飲み物を啜り始める。
月が冷たく無人の園内を照らしていて、これは中々の雰囲気だと悦に入る。
その時、闇の中からザッザッと砂利を踏みしめる音が近よってきた。
やがて月光の下、野暮ったいスカート姿の、背の高い人物が現れた。
一目見て仰天した。
そいつは首から上の頭部に、スーパーの紙袋を被っていたのだ。
何の呪いかその袋には、太いマジックで一面に図形が落書きされている。
大きさは様々だが、皆同じ形状の図形。
「簡略化された“目”に見えた」そう彼はいう。
そいつは一旦足を止めたが、またすぐに動き出すと、彼の隣に腰を下ろした。
向こうの体温が感じられるくらいに、密着した距離でピッタリと。
突然のことに逃げることも出来なかった。
相手は終始無言。
ひたすら不気味だった。
390 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2009/05/16(土) 18:42:12 ID:JPvzn4oi0
チラチラと盗み見る内、剥き出しになった膝に目が吸い付いた。
ゴツゴツした皿の形、強そうな臑毛の剃り跡。
「・・・こいつ、男じゃん・・・」
もう我慢が出来ず、コーヒーを必死で飲み下した。
出来るだけさり気なく立ち上がり、自販機のゴミ箱まで空き缶を棄てにいく。
そのまま振り返ることなく、足を次第に速めながら公園の出口に向かった。
追ってくる様子はない。公園から出るや否や、全力疾走で走り出す。
最後に一瞬だけベンチの方を見たが、そいつはまだポツンと腰掛けていた。
後日、地元の高校生の間で、城跡公園に出る袋女が噂になっていると知った。
都市伝説のような調子で語られており、誰もその正体は知らないのだという。
「少なくとも、何かが袋を被って徘徊しているのは事実だ」
彼はそうボヤいていた。
彼は今でも深夜のランニングは欠かしていない。
しかし、あの公園に一人で寄ることは絶対にしないそうだ。
その甲斐あってかあれ以来、袋女には出会っていないという。
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『遭難した者たち』
276 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2009/05/11(月) 18:51:42 ID:8RTQ33Gr0
友人の話。
彼の住んでいる町は山深い場所なのだが、交通の便が良いせいか、季節によっては大勢のハイカーたちで賑わうという。
毎年のように遭難者が出ているらしい。
大抵は無事に発見されるのだが、時折運悪く死んでしまう人もいる。
遭難した者たちには、奇妙な共通点がある。
生きて還ってきた者も、死んでしまった者も、必ず一様に右足を折っているのだと。
そして決められてでもいるかのように、彼らは皆、六月に災難に見舞われている。
「実はな。あの山って、昔は姥捨てに使われていたらしいんだ。
捨てた老人が帰って来られないよう、右足を潰していたんだと。
町の黒歴史みたいなモンだから、知っている者もほとんどいない話だけど」
二人で久しぶりに飲んだ夜、ポツリポツリとこの話をしてくれた。
イエティ
277 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2009/05/11(月) 18:52:59 ID:8RTQ33Gr0
知り合いの話。
彼は何度かヒマラヤ近辺に遠征した経験がある。
イエティ(雪男)とか見たことありますか?
冗談半分でそう聞いたところ、こんな話をしてくれた。
「あそこらのある部族では、熊のことをイエティって名称で呼ぶんだ」
何だ、やっぱりそういうことだったんだ。
少しばかりがっかりしていると、彼は困ったような顔でこう続けた。
「でもな。確かに熊の絵見せたら、これがイエティだって答えるんだけども・・・。
彼らが言うには、イエティは主に二足で歩いて、おまけに片言で話し掛けてくることもあるんだと。
聞けば聞くほどよくわからなくなるよ。
俺たちの知ってる熊と、彼らの言ってる熊って、本当に一致しているのかね」
必殺
278 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ:2009/05/11(月) 18:54:18 ID:8RTQ33Gr0
知り合いの話。
彼の地元の山には、化け物が出る竹薮があるという。
どんな姿格好をしているのかはわからない。
目撃した者が皆死んでいるから。
見つかった死体はどれも、恐れて引きつったような顔をしていたそうだ。
外傷は特に見当たらないのだという。
大の男が二人まとめて死んでいたこともあったらしく、誰もそこに近よらなくなって久しいという。
「人が入らなくなったのが戦前のもっと前だっていうから、かなり昔の話だよ。
今でも地元の人間はそこに近よらない。
まぁ、元から通う便も悪くて寂しい所だったみたいだからね。
好き好んで行く者もいないんだろう」
化け物には名前が付けられていたという。
「ヒッサギ、そう呼ばれてた。
必殺と書いてヒッサギと読むんだって。
この辺りじゃ戦時中、竹槍のことをヒッサギヤリなんて言っていたらしいよ」
面白いだろという表情で、そう話してくれた彼だった。