後味の悪い話

【後味の悪い話】編みかけのマフラー

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225: 1/6:2009/09/15(火) 00:53:07 ID:I9d4/ZoC0
小説だが、タイトルや作者は忘れた。
内容も微妙に覚え違いがあるかも。やや作って書いてる箇所がある。
長文になってスマソ。ちなみにホラーではない。

主人公Aは30歳くらいの綺麗めの女性で、やや落ち目の化学系会社(中堅規模)の社長の娘。
いいかげん結婚しろと、祖母に電子機器会社?の息子との見合いを持ちかけられ
今さら相手の人柄よりも肩書きを重視する祖母に失笑しつつも、断るのが面倒でAは受ける。

ところが、見合いの席で出会った男性Bは、子供の頃の知り合いだった。

10歳くらいの頃、父の会社は公害訴訟を起こされ、重厚長大型産業は既に時代遅れだった。
地元からの嫌がらせが家族まで及ぶのを避けるため、Aは引っ越しで転校させられた。
しかし、公害企業の娘というのは転校先にも知られており、子供の無邪気な正義感から
会社業務には無関係なAまで、悪者の子には当然の制裁というようにいじめを受ける。

Aは、父は確かに時代の先見には劣ったが、利便生活の恩恵を受け入れた消費者も同罪だろうと反感を持つ。
そんな中で、ちょっと精神的に幼めでトロいクラスメートの少女Cだけは、社会問題とかあまり念頭になく
普通にAに話しかけ、Aとしてはそんなつもりは無いが友達同士のような位置づけになっていた。

ある日の図工の時間、AはうっかりつまずいてCの粘土細工を潰してしまう。
のろまだが何故かこういう手先だけは器用なCに嫉妬したんだろうと、クラスメートは一斉にAを批難した。
そこを、天然無垢のC本人だけは、Aちゃんはそんな事しないよとかばってくれた。
が、Cが精一杯Aをフォローすることで、かえってクラスメートにはAの故意を印象づける結果となる。
理不尽だが、AはそんなクラスメートよりもCのほうを憎く思った。

その後、母子家庭で食事の用意をしているCの家の前を通りかかったAは、
道端に落ちていたライターを見つけた瞬間、Cを困らせてやりたい衝動に駆られ、
Cが台所を離れた隙に火のついたティッシュを窓からコンロ脇へ投げ込む。
すぐ戻ってくると思ったCはなかなか現れず、コンロを焦がすボヤどころか

226: 2/6:2009/09/15(火) 00:56:10 ID:I9d4/ZoC0
燃え広がって火事になった。通報を受けた消防車が駆け付け、野次馬の人だかりの中でAは
Cを抱えて家から逃げ出てきた兄Bと一瞬目が合う。必死の形相だったからか睨むような目つきだった。
火傷で黒むくれのBとは違い、きれいな赤い頬をしていたCは、しかしその時すでに酸欠で死んでいた。

Aは結果の重大さに恐ろしくなって本当の事を言い出せないまま
事件は留守番の子供(C)の火の不始末とされ、Bと母親は焼け家を出て引っ越して行った。
粘土の濡れ衣でさえ猛攻撃を受けたのに、正真正銘の犯罪を断罪されずに過ごす不釣合いを
Aはものすごく後ろめたく感じたが、言い出せないまま、自分もやがてまた引っ越して地元に戻った。

その後、罪の意識を引きずって生きてきたAは、本心を話せる親友もなく
何人か男性と付き合っても今一つしっくりいかず、何となくこの歳まで来てしまった。
大人になって自分の前に現れたBを見た瞬間、ああ、復讐しに来たのだと覚悟を決めた。

ところがBは、火事後に心労で母まで亡くしたショックで、幼児返りしたような性格だった。
当時の鋭い目つきと同一人物とは思えないくらい、Cに似た柔和な表情で、
ただ、頭の切れは良く優秀なため、今の養父母に跡継ぎとして施設から貰われていた。
一中小企業だった会社を今の状態にまで発展させたのは、Bの手腕によるところが大きい。

ちょっと頼り無さそうに見えるものの、にこやかな人当たりも取引先には概ね好評だった。
目鼻立ちが整って地位もあるBなのに、この精神的幼稚さのせいで今まで女性経験は無かった。
自分と出会ったことは忘れているのだろうか?と、Bの意図をつかめず戸惑うAだったが、

今まで興味を示さなかった見合い話の中から何故かBが自発的に
Aとの面会を希望したのだと養父母から聞き、何か喋りなさいと促されて
「殺したいほど人を憎んだことがありますか?」という場違いなAの問いに
即答で「はい」と返したB(養父母たちは、温厚なBがあっさりそう答えるのを意外そうに驚く)を見て、
接触を図ってきた彼を受け入れるべきだと、縁談の進行を了承した。

227: 3/6:2009/09/15(火) 00:58:05 ID:I9d4/ZoC0
Bの精神的欠陥を後から知った祖母はこの縁談に難色を示しだしたが、Aは頑として進行を主張し、
縁談はトントン拍子に進んでAとBは結婚した。二人きりの新居は、誰も目撃者のいない密室だ。
しかし、Aの緊張に反して、Bは紳士的で(相変らず子供っぽくはあるが)、穏やかな新婚生活だった。

この人は結婚の意味が解っているのだろうか?と、幼稚園児のおままごとのように結婚式を喜ぶBを
Aは訝ったが、そこは一応30代の男で、初体験で不慣れながら夜の営みもこなし、上達も早かった。
Cの「お兄さん」と認識していたBと交わることに、Aは当初 近親相姦的な違和感を感じ
「私を犯すこともこの人の復讐の一環だろうか?」などと考えていたが、やがて夫婦として馴染んだ。

Aとの結婚生活が円満に進むにつれ、Bは、人当たりの良さはそのままに、少しずつ
子供のようにはにかむ照れ笑いが消えて、普通に次期経営者として
頼り甲斐のある好青年の振舞いになっていた。

なんとなくこのまま平穏に時が過ぎればいいなと思い始めていたAだったが、
近所では、奥さん達グループの新入りいじめの対象になっていた。
そんな中、おっとりした奥さんのDだけは、皆をなだめてAをかばってくれた。
Cと違って聡明で身なりも小綺麗なDだが、かつてのCと似た雰囲気を感じたAはDを苦手に思った。
D夫妻はとても仲が良いので評判だったが、長年子供に恵まれずにいた。
それでも周囲にはいつもにこやかだった。

数ヶ月たって冬になり、通勤するBの襟元が寒そうだと思ったAは、ふと思い立ち
若いころ習わされた手芸を思い出してマフラーを編むことにした。
こうしていると何だか本当の夫婦みたいだと、ささやかに幸せな気分になった。
ところが、完成寸前の日、会社帰りの夫は手土産にカシミアのマフラーを2つ買ってきた。

似合うよ、と、Aの首にも掛けてくれるBだったが、滑らかな高質カシミア織りを巻いているBを見て
Aは自分の手編みの毛糸マフラーがみすぼらしく見劣りして思え、編みかけのまま棚に封印した。
自分たちは好き合って結婚したんじゃないのに、何を浮かれていたのだとAは自分を嗤う。
その夜、Aの入浴中に棚で探し物をしていて、Bは編みかけのマフラーを発見する。
Aの態度が変だったのはこのためかと勘付くが、何も言わずそのまま再び毛糸をしまう。

228: 4/6:2009/09/15(火) 01:00:08 ID:I9d4/ZoC0
翌日の夕方、みぞれが少し積もった道で、買い物帰りのAはDと出会う。
Dは、長年待ち望んでいた子供をやっと授かったのだと、いつもの笑顔に増して嬉しそうだった。
一瞬戸惑いつつ、そうですか、おめでとう、と言葉を交わして別れたAは、心の中で
周囲にチヤホヤされ何もかもに恵まれていたDは、唯一欠けていた子供まで得たのか…と思う。

ふと肩越しに振り返ると、みぞれの坂道を危なっかしい足どりで下ろうとするDの後ろ姿が見えた。
Aは無意識のうちにその背中に手を伸ばす。
「何やってるんだ。」 ふと、その手首を誰かに掴まれた。振り返ると、帰宅中のBだった。
Aはハッと我に返った。何をするつもりだったんだろう? 坂道で手を貸すつもりだったのか、
突き飛ばして流産でもさせる気だったのか。詰問調のBの言葉に、後者のような気がしてきた。

Bの声にDも振り向いたが、「あら、Aさんのご主人」と挨拶をして帰った。
DはBの言葉を、普通に路上で妻を見つけて「何してるの?」と尋ねたのだと思っていた。
Dが去った後、Aは青ざめて「ち…違う」とBに首を振ったが、Bは「帰ろう」と
Aの手首を掴んだまま引っ張った。その目は、いつものように笑ってはいなかった。

「私は、Dさんが妊娠して本当に良かったと思った。それは嘘じゃない…」
自分でも整理がつかず、部屋の電気もつけずに頭を抱えて泣くAを、「わかってるよ」と
ベッドの端に腰掛けて肩を抱きながら、Bは優しいけれど淡々と感情の無い声で言った。
やがてAは泣きながら寝入った。

次にAが目を覚ました時、キナ臭い匂いと、開いた戸口からチラチラ揺れてる明かりが分かった。
Bが台所に火を放っていた。裁きの時が来たのだ、と、Aは諦念して
じっとベッドに座ったまま壁に背をもたれ掛けた。「逃げないのか?」という声にハッとして
顔を向けると、戸口の影にBが立ってこちらを真っ直ぐ見据えていた。

229: 5/6:2009/09/15(火) 01:01:10 ID:I9d4/ZoC0
「あなたこそ」と返すと、「僕はじき行く」と答える。その目を見ながら、
「やっぱり、子供っぽい性格は演技だったのね。柔和に振舞って人の目を欺きながら、
ずっと復讐のチャンスを窺っていた…」とAは苦笑した。

「そこまで計算高くは生きられない。情緒不安定だったのは事実だ」と答えるB。
「もう行かなきゃ火が回るわよ」と促すA。「わかってる」と言いつつなかなか動かないB。
乾燥した季節だったCの火事とは異なり、みぞれで湿気て寒い今日は燃え広がるのが遅かった。
「君がうちの火事の原因を作ったんじゃないかというのは、初めて目が合った時から直感していた。
明らかに周囲の野次馬とは表情が違い、問わず語りだった。

見合い写真の中に君を見つけた時、これは運命だと悟った。とにかく会わなきゃと思った。
会ってみてどうするとも決めていなかった。だが、君と暮らしてみて分かった。
小さい頃から故なく周囲の攻撃にさらされて反抗的な態度に育ってきたが、根は悪い子じゃない。
皆が子供扱いして下に見る僕へも対等に接してくれたし、だからこそCも君が好きだったんだろう。

もっと周囲と心安らかなふれあいがあれば、優しい人間に更生できると思った。
Cのことはもう時効だし、復讐なんてCも望んでないだろう。君を支えて、二度と同じ誤ちを
起こさせないことが、事情を知る僕の役目であり、Cへの供養だと思った。
でも、君はまた何の罪もないDさんを手に掛けようとしていた。僕では改心に力及ばなかった。

四六時中、君を見張っておくことは不可能だ。第二第三の被害者を出さないためには、
せめて僕の手で君をこの世から消し去ることぐらいしか出来ない。それが事情を知る僕の責任だ。」
Bが語っているうちに、Aはガスを吸って意識を失っていた。

戸口に立つBよりも、部屋の奥で壁伝いにいるAの方にたくさんの煙が流れ降りてきていた。
Aが意識を失ったのを見届けて背を向け、家を出ようとするBだったが、途中で逡巡し
Aを助け出すために炎が勢いを増す家の奥に向かって引き返して行った。

230: 6/6:2009/09/15(火) 01:02:35 ID:I9d4/ZoC0
半年後?or一年半後?。
新入社員の女の子達が、若社長はかっこいいのになぜ夏でも必ず長袖で片手に手袋をはめている
んだろう、と噂し合っている。Bはもうどこにも幼児的な表情はなく、堂々とした立派な男性だった。

先輩の女子社員が、あの人は結婚早々 新居が火事に遭い、
奥さんを助けるために炎の中に飛び込んで火傷を負ったのよ、と説明する。
「まあ、それは大変で…。愛妻家なんですね」と答え、話題は次に移る。

場面は変わって、家?病院?で、Aの車椅子を押すB。
「どなたか存じませんが、どうもご親切に」と、屈託のない顔で微笑みかけるA。
火事後のショックでか、Aは記憶を失い精神的におかしくなっていた。
その膝では、夏にもかかわらず延々と毛糸のマフラーを編み続け、編み終わりの処理をしないので
裾が異様に長く延びている。時々Bが先をはさみで切ってやると、また延々と編み続ける。

「それ、誰の?」とBが尋ねると、「好きな人の」と答えて恥かしそうにはにかむA。
Bは、あのとき自分にはもうAを消すことしか手立てが無いと言ったが、そもそも
前夜に編みかけの毛糸を見つけた後、ありがとう、待ってるよと、ただ一言でも
気持ちを伝えるフォローの声を掛けていれば、AはDさんの背に手を伸ばすような事をしただろうか?、
と、自問する。

そして、今のAの姿が過去にA自身が犯した罪の償いなら、
この先の人生をAとともに生き、世話をしていくのは
僕の罪の償いであり、喜びでもある、とBは思う。
「あのマフラーは、いつか完成する日が来るのだろうか?」 ――――

238: 本当にあった怖い名無し:2009/09/15(火) 08:23:54 ID:shEo0PiAO
>>230
乙です!すごいおもしろかった

233: 本当にあった怖い名無し:2009/09/15(火) 02:37:46 ID:kH6ABlQm0
普通に面白かった。
1/6って時点で「長文過ぎんだろw」と思ってたがw
サラっと読めた。乙。

235: 本当にあった怖い名無し:2009/09/15(火) 03:56:34 ID:iSuz27s20
後悪というより普通に青春でせつない話だった。長すぎだけど何とか読めた

239: 本当にあった怖い名無し:2009/09/15(火) 10:11:28 ID:d13+mac7O
すげえ。
大絶賛の嵐だな。
まあ、面白かったから当然か。

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