後味の悪い話

【後味の悪い話】鼻が化け物のような男

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236本当にあった怖い名無し2022/01/05(水) 23:13:49.69ID:pktrWQ5S0
『駿河城御前試合』の禅智(ぜんち)という登場人物の話
禅智は、生れつき鼻がヘチマのように大きくて垂れ下がっていた
そのような鼻をしていたからか、産まれてすぐ親から捨てられて、寺に引き取られた
しかし寺での生活は地獄だった。禅智は顔の下半分を褌のような布で被って鼻を隠して生活していたが、鼻が長いことを他の坊主達から嘲られて虐められたのだ
唯一親切に接してくれる和尚様がこの世を去られると、禅智は寺から逃げ出した
しかし、仏に支える身である筈の坊主達ですら禅智を虐めたのだ、寺の外などさらなる地獄であった
行く先々で奇異の眼で見られ、化物扱いされて迫害された
一目を避けて放浪し、常に空腹であった
それでも禅智は誰も恨まず憎まず、清く正しく真面目に生きていこうとした
真っ当に生きていれば、きっと良い事が有る。いつかきっと、この想いが天に届く
禅智には夢が有った
朝目覚めると、鼻が人並みに成っているのだ。褌をはずして町へ行こう。人々と挨拶を交わし、何気無い会話を楽しみ、向かい合って飯を食べたい
一日でいい。そんな日が来るのなら、明日死んでも悔いは無い
そう想いながら、禅智は日雇いの仕事でコツコツと金を貯め混んでいた
そんなある日、禅智は幼い子供が暴漢に襲われている現場を目の当たりにし、子供を助けようとした
しかし禅智の鼻を見るやいなや、暴漢のみならず子供までもが「化物!」と怯えて竦んだ
騒ぎを聞き付けて近隣の村から人々が集まって来て、同じように禅智の鼻を見て騒然と恐れ戦き、禅智を化物扱いして暴力をふるい始める

237本当にあった怖い名無し2022/01/05(水) 23:15:49.02ID:pktrWQ5S0
その際に禅智の懐から彼の全財産である銭が落ち、それを見て村人達は「盗んだに違いない!」と言って、さらに熱狂していく
「違う!これは真面目に働いて得た金を節約して貯めていただけだ!いつか天に願いが届いて鼻が人並みになる『その日』が来たら、町に出て飯を食うための・・・」
そんな禅智の想いは、村人達には通じなかった
「殺せ!人間じゃねえ!かまうな!化物退治だ!」
容赦無いリンチが始まる
禅智は絶望のあまり、反撃し、その場にいた者達を皆殺しにした
それだけでは収まらず、村を焼き討ちにまでする
それ以来、禅智は諸国を放浪しながら、人が変わったかのように悪事を重ね、欲望の赴くままに生きた
すると、禅智に駿河での「御前試合」への招待が届く
なんでも、とある高年の剣豪が、禅智の悪評を耳にし、成敗致すと申しているらしい
禅智は「駿河」と聞いて大喜びで誘いに乗り、御前試合に出場した
その剣豪は、試合の場で禅智と対面するなり、「地獄へ落ちよ」と言い放つ
禅智は激怒し、剣豪に勢い良く斬りかかる
「この世こそ本物の地獄よ!誰が俺を地獄に突き落とした!こんな地獄の中でも、俺は真っ当に生きようと努力した!人として生きようとした!だが、この世の鬼どもがそれを許してくれぬ!」
壮絶な斬り合いの最中、剣豪の眼からは涙が溢れ出ていた
やがて禅智の刀が剣豪を切り裂き、決着が付く
だが、剣豪は敗北したというのに毅然とした態度を崩さず、その場で正座すると、
「お前も腹を切り、わしの後を追え」
「半座を・・・半座を分けて・・・待つ・・・」(おそらく、共に地獄へ堕ちてやる、という意味)
と禅智に言い残し、そのまま絶命した
そんな剣豪の姿を見て、禅智は号泣し、慟哭した
「天よ、どこまで俺を苦しめるのだ!」

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