後味の悪い話

【後味の悪い話】清水玲子「秘密」

136:本当にあった怖い名無し 2019/06/30(日) 12:12:46.18ID:kgPuK83O0
清水玲子 「秘密」より
近未来設定だけどありそうな後味の悪さ

脳から記憶を映像として読み取るMRIが開発された半世紀ほど未来の世界で、
MRIによる捜査を専門とする「科学警察研究所 法医第九研究室」(通称「第九」)が物語の舞台。

千葉のあるコンビニで突然女性店員が暴れ、店員3人と通行人1人を殺害し自殺するという事件が起きた。

犯人は郁子という40歳の冴えない女性で、認知症の父の面倒を独りで見ていた。
郁子は小肥りで化粧気もない老け込んだ容貌だが、似合いもしないフリフリの姫系ファッションを好み、虚言癖もある変人だった。
被害者のうち、大学生の正は福祉介護に興味がある青年で、郁子を馬鹿にせず好意で父の介護を手伝ってやることもあった。
そして同じく被害者の1人、佳代子は正の彼女で郁子を見下し辛く当たっていた。
そのため当初は郁子の横恋慕が事件の原因かと思われた。
しかし、MRIで3人の記憶を読み取り状況を擦り合わせていくと違う事実が見えてきた。

郁子は元々東京で働いており、婚約者もいた。
しかし、母が亡くなり父が認知症を発症したため郁子は介護に追われ、結婚は破談になった。

辛さのあまり、切り刻むようなリストカットをした郁子は入院したが、
退院したその日に幸せそうな家庭生活を営む同級生と出くわしてしまう。
さらに家に帰ると父は排泄物を部屋中に塗りたくっていた。

惨めな自分に絶望した郁子は、鏡の中の自分が美しく見える幻覚を見るようになった。
郁子は幻覚の中の、姫様か妖精かというような美しい姿に似合う服を好むようになった。
今は父親の介護のため日本にいるが、病気が治ったら海外にいる夫と子供たちに会える。
そんな妄想設定を信じ込み、他人に話すようになった。
周りからの蔑みの言葉も優しく温かい言葉に変換され、郁子は皆に愛される幸せな世界に生きるようになった。
そしてその上で勤務や介護をこなしていた。

137: 本当にあった怖い名無し 2019/06/30(日) 12:13:55.33ID:kgPuK83O0
正は、妄想を語り蔑まれる郁子の状態を「良くないこと」と考えた。
若く薄っぺらい正義感から、正は郁子に向精神薬を飲ませた。

妄想世界に逃げ込めなくなった郁子に、子供など居ないという現実を突き付け
「しっかりしなさい、この先どうするんだ、現実と戦わなくちゃ」と叱咤した。
しかし、とっくに現実に疲弊していた郁子には「この先」など要らなかった。

正が与えた薬は、知り合いの精神科医から融通してもらった開発中の薬で、かなり成分のきついものだった。

「迷惑はかけてなかったのに、ちゃんとしてきたのに」

副作用で凶暴化した郁子は、美しい世界を奪った正にナイフを突き立てた。
居合わせた他の店員を刺し、逃げ出した佳代子を追いかけ、佳代子が偶然助けを求めた通行人にも凶刃を向けた。
そして自宅に逃げ帰り、首を吊って自殺してしまったのだった。

スポンサーリンク

-後味の悪い話