後味の悪い話

【後味の悪い話】キノの旅「優しい国」

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キノの旅シリーズ 「優しい国」 時雨沢恵一

バイクに乗ってあてどなく旅を続けるキノ(10代半ば)は、旅人に対して
恐ろしく意地悪な国の噂を聞いた。
「不愛想」「不親切」「店はよそ者には販売拒否」「子供が石を投げてくる」など、
訪れて後悔しなかった旅人はいないようだった。
あまりにも悪すぎる評判に逆に興味を持って、キノはその国を訪ねた。
国の入口にいた衛兵たちは最初は緊張した様子でキノを見ていたが、
「観光目的で3日間滞在したい」というと笑顔で歓迎してくれた。
国に入ると、人々が集まてきて「旅人さん、よく来たね!」と手放しの歓迎モードだ。
もしかして別の国に来たか? と戸惑うキノ。
「宿を探しています。どこにあるでしょう?」と聞いてみると、
10代前半の女の子サクラが「私の家が宿だよ!」と言って案内してくれた。
宿屋では宿屋のオーナー夫婦が暖かく歓迎してくれて、サービスでサクラが街を案内して
くれることになった。

銃の調子が悪いのでガンショップに連れて行ってもらったら、
最初は「三日後まで休みだ」と追い返されそうになった。しかしサクラが
「でも、この人は旅人さんなんです」と訴えると、銃を見てくれることになった。
それだけではなく、「わしはもう使わないから」と若い頃愛用していた銃を
譲ってもらえた。

公園では何か劇が演じられていた。キノとサクラが立ち止まってみていると、
キノに気がついた人が「皆さん、旅人さんが劇を見てます。折角だから最初から
見てもらいましょう」と、始めから演じ直してくれた。

夕食は宿屋夫婦とサクラと4人で食べた。料理は美味しくて会話も弾み、
楽しいひと時だった。

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次の日もサクラは街を案内してくれた。
教会では結婚式をやっていた。新郎新婦は10代後半と随分若かった。この国でも
大抵は20代後半で結婚するので、随分と早婚なカップルだった。
この国では新郎新婦は小さな袋をたくさん投げる風習がある。その袋の中には一つだけ
種を入れた袋がいくつか混ざっている。種を入れた袋の数が、二人が欲しがっている
子供の数だそうだ。そして種を持って翌朝を迎えた人が、次に幸せな結婚ができるのだそうだ。
新婦が「私たちは子供が5人欲しいです!」と叫んで袋をまき始めた。
キノは見事種入りの袋をゲットし、サクラにあげた。

二日目の夕食で、キノとサクラがすっかり意気投合した様子を見た宿屋夫婦は、
「キノさん、よかったらサクラを一緒に旅に連れて行ってくれないだろうか。
外の世界を見ることは、サクラにとってとてもいい勉強になると思う」と頼んだ。
キノは真剣に考えこんだが、サクラはあっさり「わたし、お父さんおかあさんと
いっしょに暮らしたい」と言ったので、この話はなくなった。

三日目の午後、キノは別れを惜しみながら旅立った。
サクラは弁当を二つも(夕食用と次の日の朝食用)持たせてくれた。
国を出るときはたくさんの人たちが見送ってくれた。最後まで優しい国だった。

国を出たキノはバイクでしばらく走り、暗くなると野営の準備をして弁当を食べた。
とても美味しかった。

深夜、キノは異様な気配を感じて目を覚ました。そして火砕流が優しい国を飲み込むのを見た。

翌朝、朝食用の弁当を食べようとして、宿屋母からの手紙が入っていることに気がついた。
手紙には、以下のことが書かれていた。

一ヶ月前から火砕流に国が飲み込まれるのは分かっていた。でも国を捨てられなかったので、
国と運命を共にすることを選んだ。そして国のことを知っている人間、つまりこの国を
訪れた旅人に自分たちのことを覚えていて欲しかった。
でも自分たちは今まで旅人たちにひどい扱いばかりをしていた。自分たちについて
旅人が覚えていてくれることは、嫌なことばかりだ。
次にくる旅人には優しくしよう、と思ったものの悪評が広がっていたために旅人は来ない。
だからキノが来てくれてとても嬉しかった。この国で少しでもいい思い出を
持って欲しかった。
娘(サクラ)はまだ子供なので、火砕流のことは教えていない。
キノとサクラが仲良くなったのを見て、サクラをキノに託せないかと思ったが、
サクラは私たちと一緒にいたいと言ってくれたので、サクラも連れて行く。

手紙を読んだキノは、「自分がサクラを連れて行くといえば助けることができたのに」と
ショックを受ける。
しかし手紙はもう一通、サクラからのもあった。
手紙には結婚式でもらった種がついていて
「これは私が持っていても仕方がないのでお返しします」とあった。

キノは朝食を食べ、旅立つ準備をした。最後にもう一度火砕流に沈んだ国を見つめ、
バイクに乗ってどこかへ走り去っていった。

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