後味の悪い話

【後味の悪い話】梅崎春生「しじみ」

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112 本当にあった怖い名無し 2018/07/21(土) 08:15:39.60ID:YbFyvP480
梅崎春生「しじみ」

戦後間もない日本
主人公は職も家も失い、飢えと寒さに苦しむ日々を送っていた
そこで外套を着た一人の男が主人公とぶつかり、言い争いになる
しかし男は主人公の境遇を知ると態度を変え、ぶっきらぼうにではあるが自分の着ていた外套を脱いで主人公に譲り渡すと、去って行った

主人公はその後何日かは外套のお陰で寒さをしのぐ事が出来たが、外套の高価さを実感するうちに着心地が悪くなっていき、あの男に返却することを望むようになっていった

ある夜、主人公が外套にくるまって路上で寝ていると、何者かが外套を剥ぎ取ろうとしてくるではないか
「泥棒!」
主人公が顔を上げると、そこに居たのはあの男だった
男は主人公の「泥棒」という言葉に呆気にとられた様子で、奇妙な表情を浮かべて呆然としていた
実は男も主人公と全く同じような境遇であり、それにも関わらず一度は主人公に外套を譲渡したものの、やはり寒さに耐えかねて取り返しに来てしまったのだ
主人公は、泥棒呼ばわりしてしまったことを男に謝罪し、外套を返す。
男は外套を受けとるが、「確かに俺の行為は泥棒以外の何者でもない。この外套は一度はお前に譲った物だった」と自らの比を認め、神妙な面持ちのまま外套を持って帰って行った

111: 本当にあった怖い名無し 2018/07/21(土) 08:13:02.13ID:YbFyvP480
それから暫く経ったある日
相変わらず浮浪者同然の生活を送っていた主人公の前に、あの外套の男が現れる
男は今では景気が良いらしく、奢ってやると言って主人公を食事へと誘った
食事をとりながら、主人公は泥棒呼ばわりしたことを改めて男に謝罪した
すると男は「泥棒呼ばわりされたことには感謝している」と奇妙なことを言う
男は語り始める
かつて男は自らを「善意の人」と信じて生きていた。
だからこそ、彼は自分と似た境遇の主人公に出会った時、外套を譲渡したのだ。
しかし主人公から泥棒呼ばわりされた時、男は「開放感」を味わった
戦後、多くの者が不正を働いて生きていく中で、自分だけが品正しく生きていくことの何と愚かで虚しいことよ
男はそのまま犯罪者へと身を落とし、人を殺め、闇市を仕切るようにまでなり、今ではちょっとした小金持ちになったのだ
「今度、この外套も売り払うつもりだ。その時には、またお前に御馳走してやろう」
そう言うと男は去って行った
主人公は食事を続けたが、味を感じなかった

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