名作・神スレ

【名作スレ】星新一っぽいショートショートを作るスレ「悪魔の魔法」

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262: 創る名無しに見る名無し:2012/11/11(日) 18:32:35.95 ID:Pa+tMQxq

【悪魔の魔法】

N氏の前に悪魔が現れ言った。

『どんな願いでも一つだけ叶えてやろう
だが3日後にお前の魂をいただく』

N氏は困った。
願いは叶えて欲しい。が、当然魂は奪われたくない。
その時N氏にある考えが浮かんだ。

「奪う魂というのは1つなのか?
例えば俺の魂を5つに増やしたとする
そして3日後に奪う魂は5つの中の1つ…
という事は可能なのか?」

悪魔は観心した顔で答える。

『良いところに気付いたな
その方法ならお前は死ぬ事無く
4つの魂を手にする事が出来る
数が多ければ不老不死も夢じゃない』

N氏は言った。

「じゃあその願いだ!俺の魂を増やしてくれ!
数は多い方が良い、ありったけの数だ!」

悪魔はうなずき、呪文の様な言葉を呟きだした。
そしてN氏に魂の数が増えた事を告げた。
N氏は喜び悪魔に何度も感謝をした。

「しかしすごい魔法だ、お金とかも無限に増やせるのか?」

N氏の質問には意外な答えが返ってきた。

『実はこの魔法は増やすのではない。移動させる魔法なのだ』

「移動させる魔法?」

『例えばお金なら世界中の金庫などから少しずつ金を集めるというわけだ
無から有を作り出す呪文ではない』

そうなのかという顔をするN氏に背を向ける悪魔。
少しずつ消え去りながら最後にこう言った。

『60億もの魂を与えたんだ
今日は外が静かだな』

9:創る名無しに見る名無し:2012/02/14(火) 04:41:20.43 ID:ycNUXino

『攻撃は最大の防御』

隣国との戦雲に切れ間のない某国の秘密研究所では、
長年に渡って開発の行われてきたとある兵器が完成の時を迎えようとしていた。

「ついに出来たぞ」
主任研究員であるエフ博士は、手に持った
銀色の箱の最終チェックを終えると、満足そうに頷いた。

「やりましたね、博士」
助手もこの兵器の完成を心待ちにしていた様子で、明るい表情をしている。
「これが博士の生み出した絶対防御装置ですか」
「ああ、長年の研究の甲斐があったというものだ。
一度この装置を使えば、強力なバリアーが国土全体を半永久的に覆い、
長く続いているこの戦争もアッという間に終わるだろう。
いつまでもお互いに攻撃をし合っていても、
武器の性能差はイタチごっこで埋まらず、戦火は拡大するばかりだ。
そこで私は先達の、攻撃は最大の防御、という諺に注目したのだよ」
エフ博士も心なしかいつもより饒舌である。

「なるほど。あえて守ることで武器を無力化し戦争を終わらせるということですね」
「まぁ、大体そんなところだ。ミサイルはおろか、虫の一匹たりとも侵入を許さないバリアーだからな」
エフ博士は自慢の顎鬚をさすりながら続ける。「残る問題は……」

その時、突然後頭部に激しい痛みが走り、エフ博士は気を失ってしまった。

10: 創る名無しに見る名無し:2012/02/14(火) 04:42:05.15 ID:ycNUXino
(続き)

エフ博士が再び目を覚ましたのは、病院の一室である。
周囲には眉間に皺を寄せた国の将軍たちが集まっていた。
「ウーム」博士は後頭部をさすりながらベッドの上で半身を起こした。
「私は一体どうしたというのだ……?」

「君の助手が完成した装置を持って国外に逃げ出したのだ。その時に君は力いっぱい殴られたというわけだ」
将軍の一人が、苦虫を噛み潰したような顔で説明を続ける。
「どうやらあの助手の男は隣国に雇われたスパイだったらしい。ああ、何と言うことだ。せっかく君の発明した装置で戦争に勝てると思っていたのに……」

エフ博士はそれを聞くと、突然笑い出した。
「お、おい君。だ、大丈夫かね?」将軍たちは訝しげな顔でエフ博士を見つめる。
「ええ、ええ。私はいたって正常です」
エフ博士は落ち着くと説明を始めた。

「あの装置には一つ問題があったのです。それは使うなら相手の国で使用しなければいけない、ということなのですよ。それがまさかこんなことになろうとは……」
将軍たちはエフ博士の説明を聞くや、跳び上がらんばかりに喜んだ。

その隣で、博士はふと寂しげな表情を浮かべ窓の外を見つめた。
人の出入りすら出来ない強力なバリアーに覆われてしまった隣国が遠くに見える。
「しかし、彼は有能だったので将来を楽しみにしていたのですが……」

12: 灰色埜粘土 ◆8x8z91r9YM :2012/02/15(水) 13:47:30.41 ID:Pi021uDr
>>10
虫さえ通さないバリヤーが半永久的に・・・!
でも隣国の人々は案外なんとかするのかもしれませんね。
食料自給率次第ですけどww

19: 灰色埜粘土 ◆8x8z91r9YM :2012/02/25(土) 09:18:52.52 ID:4uReBFf1

『一杯のコーヒー』

メガ氏が自宅の一室で発明品の試用をしていた。
「君も椅子に掛けてくれ。しばらく見ていてもらいたい」
同伴者にそう言って、メガ氏は両手を二回鳴らした。
合図を聞きつけて、執事がドアを開けて現れた。

身体が金属で出来ているから、ロボットであることがわかる。
「コーヒーを一杯淹れてくれ」
メガ氏が指示をした。執事は即座に準備を終えてどうぞ、と言ってからコーヒーを机に置いた。
「この執事は最近作ったロボットだ。こっちも試用段階だが、今日試したいのは他のロボットだ」
執事は動作だけを見れば、なかなか人間らしかった。執事は礼をして下がっていった。

二人を挟んだ机の真ん中に、一杯だけコーヒーを置いて。
メガ氏は手元へゆっくりとコーヒーカップを寄せていった。
コーヒーを出されない同伴者は、客人として招かれたわけではなかった。
そしてメガ氏は世間話をし始めたが、同伴者に見せるであろう発明品の説明はしなかった。

しばらく話をしていると、同伴者はメガ氏に違和感を感じ取った。
注意深く観察してみると、メガ氏の言葉は不自然なほどイントネーションが一定だった。
「そうか。あなたはロボットだ」
机の向こうで、メガ氏は無言の反応をした。
「自分に似せて作ったロボットで、僕が気付くかどうかを試そうとしているんだ」
応えたのは物陰から出てきたメガ氏だった。
「君は察しがいいな。どうしてわかったんだい」
メガ氏は、自分を模したロボットと並んで椅子に座った。

「さっきはぎこちない所があったから気付いたんだ」
「それは喋り方がかい、それとも動作がかい」
メガ氏はとなりのコーヒーカップをスッと引き寄せた。
「色々とだよ。いまこうして本人と比べてみると違いがよくわかる」
それだけ聞いて、メガ氏は何も応えなかった。
「と、いうことは今度は気付かなかったようだな」
突然ドアを開けて、さらに一人メガ氏が現れた。

メガ氏は本物さながらの動きで椅子に座り、コーヒーカップを自分の方へ。
次から次へ現れるメガ氏に、同伴者はわけがわからなくなり機械音を立て始めた。
メガ氏は同伴者の耳に手をやり、スイッチを切った。
やはり、不可解な出来事にあうと行動不能になってしまう。
試用と調整を繰り返さないといけないようだ。

「やれやれ。三人目が出てくるとは思わなかったか。
ロボットと入れ替わっているのに気付いたのはよかったがな」
メガ氏はロボットのメガ氏のスイッチも切り、少しぬるくなったコーヒーを手繰り寄せて飲んだ。

28: 創る名無しに見る名無し:2012/02/28(火) 00:24:22.02 ID:Aj4obKFR

『価値観の違い』

W国の首都にある広場に銀色の球体が突如として出現したのは、ある日の夕暮れのことだった。
最初に見つけたのは近所に住む子供たちだった。
次に街の人々が騒ぎ出し、警官や軍隊が出動するという緊急事態へ発展した。

W国の国王はすぐさま世界中から著名な科学者達を呼びつけ、
球体を調査させるべく調査団を結成させたが、
球体が出現した理由や目的はおろか、材質すら分からないという結果が出ただけだった。
唯一、この地球で作られたものではなく、他の星からやってきたものという見解が出たが、
それすら推測の域を出ないものだった。

最初の数ヶ月間はW国中だけでなく、
世界中の人々が好奇の目で様々な見地からの調査結果の発表を
連日のワイドショーや有志が作ったインターネットサイト等で眺めていたが、
どうやら自分達に害の無いものだということが分かると、次第にそんな熱も冷めていった。

微動だにしないその球体は、人々にとってもはやただのオブジェとなった。
数年後には、何の成果も出せないまま調査団は解散し、
銀色の球体はW国の観光名所のひとつとなった。
一部の人々は、その球体を崇める新興宗教を興したりもした。
 
時が流れ、W国は近隣の大国に吸収されても、
依然として球体は何の動きも見せないままであった。
銀色の球体が突然現れた当時を知る子供たちは成長し、
子供を育て、老い、孫を抱き、死んでいった。

いつの間にかかつての新興宗教は危険な思想を持つカルト集団とみなされ、
弾圧された後になくなってしまっていた。
苔に覆われたその球体が地球のものでないという
事実も過去の大国で生まれた与太話だと信じる人が大半になった。

さらに時は流れ、球体の存在を知る者はほとんどいなくなってしまった。
国の名は幾度となく変わり、多くの戦争が起こった。かつて広場だった場所は
森になり、荒涼とした砂漠になり、再び深い森になった。
すでに人類は地球上から姿を消してしまっていた。
 
ある日、銀色の球体から音声が流れ出した。
 「地球のみなさん、こんにちは。我々はS星人です。この度は、あなた方との有効的な惑星間関係を築く第一歩として
 この親善カプセルを送ることになりました。突然のことでさぞ驚かれていることとは思いますが、
 このカプセルは地球に到着後しばらくすると我々S星人のメッセージを自動で再生するもので、みなさんへの害は決してありません。
 容量の関係上、わずかな時間しかメッセージを再生できませんが、どうかこの交信をきっかけに
 我々S星と素晴らしい関係を築いていこうではありませんか!」
しかし、たとえ人類が生き残っていたとしても
その音声に耳を傾ける者は一人としていなかっただろう。

内蔵されたスピーカーがS星人にとって非常に手短なメッセージを流し終えたのは、
地球の時間に換算してざっと数百万年後のことであったからだ。

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65: 創る名無しに見る名無し:2012/05/08(火) 09:01:16.81 ID:+3zXHsZp

ある宇宙船での会話

「これが何か分かったかね? ドクター」
「ああ、船長。まあ、生物の死体には間違いありませんな」
 ドクターの言葉に船長は三つの目を見開いてその「死体」を見つめた。
「しかし、完全に干からびておる。自然にこんな状態になるとは思えんが」
「意図的な処置がしてある事は間違いありません」
 ドクターは腕を組むと残る二つの腕で、死体が納められている細長い容器を調べながら頷く。

「この生物の体型にピッタリ合わせた容器までありますし」
「うむ、蓋までついているなかなか凝った容器だ。専用の容器まで作ったとなると、相当大事なものなのだろうな?」
「もしかすると愛玩用の動物だったのでしょうか? 愛するペットをいつまでも保存しておきたいという考えから作られたのかも知れません」

「しかし、目が二つに口が一つ、腕が二本に足も二本。干からびてしまっているということを考慮しても、とても愛玩動物とは思えんな」
「そうですなあ。うーん、腐敗を防ぐための処置が、意図的にしてあるのは間違いがない。と言って愛玩動物とも思えない。もし、ペットでもない生物を手間暇かけて保存するとしたなら、その理由は何だろう?」

ドクターは六本の足で、少しイライラしたように足踏みをしていたが、突如叫び出した。
「分かりましたよ、船長! 実に簡単な事です。その容器の使い道も分かりました」
「どういう事だね?」
「愛玩動物でもない生物を手間暇かけて保存するとしたなら、その理由はただ一つ、この生物は、きっとあの星の滅亡してしまった住人たちの食用家畜だったに違いありません」

「なるほど! ドライフードなのだな!」
「そうです、そしてこのピッタリの容器!」ドクターはマイクに向かって叫ぶ。
「誰か、お湯を持ってきてくれ!」
「そうか! この容器にお湯を注いで蓋をするのだな!」
「そして三分待つのです!」
船長とドクターは四つに分かれた舌で二つある唇を舐めながら涎を垂らした。

 おわり

感想ありましたらよろしくお願いします

97: 創る名無しに見る名無し:2012/06/05(火) 22:09:14.58 ID:/ILAGkwj
こういうの書くの下手だから許してください。

『スイッチ』

ある日エヌ氏は「1秒を1年に錯覚するスイッチ」を発明した。
でも、エヌ氏は自分が試すのは怖いためやらずに、試験者募集という広告を貼り付け募集した。
だが、そんなものに手を出す人はいず、結局エヌ氏が試験体として「スイッチ」を押すことにした。

スイッチを押した途端に世界は歪む。歪みが終わったら酷い頭痛がエヌ氏を襲った。
その頭痛も終わったらエヌ氏はやっと自意識を取り戻した。
そして気づいたことが動けないということである。

あくまで「1秒を1年に”錯覚”させる」だけなのであって
肉体自体はそのスピードについていけるはずもない。
スイッチを押すためには何年かかるのだろうか。
押したとしても錯覚が治るわけでもないかもしれない。
エヌ氏は絶望した。動けない。声も出せない。何にもできない。
地道に動こうとしても動かない。

他人にとってはたったの12時間だがエヌ氏は43200年生きた。
その頃にはエヌ氏はもう全てを悟っていた。
そして手にはもうスイッチがある。
「やっとスイッチを押せる!」
長年やってきた努力が報われるときがやっと来たのであった。
スイッチを236日かけて押す。
また激しい頭痛がエヌ氏を襲う。
次に意識を取り戻したときには世界は真っ暗で身体は動かせなかった。
  
彼にとって0.1秒が1年になった。

99: 創る名無しに見る名無し:2012/06/06(水) 08:21:50.67 ID:hQdYrok5
猛者が多いから書くの躊躇ってたけど恥を承知で
あの作風をマネてオチを強くすると文全体のバランスがね・・・

"タイムマシン"
大勢の記者がエヌ氏の研究発表を心待ちにしていた。
「お待たせしました。私がタイムマシンを発明したエヌ氏です。」
「今回の発明はどのようなきっかけから生まれたのですか?」

「私が子供の頃見たアニメで、電子レンジに入れた猫がふと消えて未来へ送られてしまうのというものを見てね。それからというものこの人生を全てタイムマシンに注いで来た。学校にも行かず一人で進めてきたが、やはり時間がかかってしまったね。」

「ずっとご自分お一人で進めて来られたのですか?」
「私には助手もいないし、教養もないからずっと一人だ。今まで世間に知られたことも周りの人から注目されたこともない。だがついに完成した。これは一人で見るには惜しいというわけで君たちを呼んだんだ。」
「本題のタイムマシンですが、一見一回り大きな電子レンジのようですが。」
「そうだ。電子レンジにちょっと工夫を加えただけさ。早速だけどやってみようか。」

と言うとエヌ氏はリモコンのようなものを取り出してタイムマシンの調整を始めた。
しばらくしてタイムマシンの扉を開けながら言った。
「それでは行ってくるとするよ。」
「待ってくださいエヌ氏。まだタイムマシンの理論をきいておりません。」

「おお、私としたことが早まってしまったね。私の研究の大部分はこのリモコンさ。猫の場合は外の人が起動すればいいが、自分が入ったらそうはいかない。なかなかに苦心した。電子レンジを中から操作できるリモコンを考えるのにはね。」

104: 灰色埜粘土 ◆8x8z91r9YM :2012/06/06(水) 21:06:40.41 ID:ommfD/xf
>>99
このオチは予想できませんでしたww
当たり前ですがタイムマシンが出てくると過去か未来がからんだ話になるものなので、
タイムマシンを使わないままの製作自体に関したオチが新鮮ですね。

194: 創る名無しに見る名無し:2012/09/24(月) 15:57:05.75 ID:dyJmAMHD

狂気のグリル・ナイフ

ある所に、とても礼儀正しく、誠実な男がいた。
しかし男の妻はとんでもない浪費家で、
ついに家計は食うや食わずのところまで追い詰められてしまった。

「困ったな。もう何も食べるものがないよ」
男が頭を抱えているところに、突然、全身黒ずくめの男が現れて言った。
「お前はとても礼儀正しく、誠実で、立派な人間だ。それなのに、愚かな妻の行いによって、困窮しているという。救いを与えてやろうと思って、来た」
男は驚いたが、すぐに落ち着き払って言った。

「どこのどなたか存じませんが、妻のことを悪く言わないでください。なに、私に甲斐性がないのが悪いのだ」
「なるほど、どこまでも立派なことを言うものだ。だが、誠実さだけで生きていくことはできないよ」
黒ずくめが指を一振りすると、美しい石で飾られた、細長いケースが宙に現れた。

「この中に一本のナイフが入っている。その刃に触れたものは、どんなものでもたちまちステーキになってしまう」
「まさか。信じられない」
黒ずくめはケースからナイフを取り出すと、地面から小石をひとつ拾い上げて、その刃先で小突いた。

すると小石はたちまち、小さな肉の塊に姿を変えてしまった。
「この通りだ。しかし、ケースは決してなくさないようにすることだ」
それだけ言うと、ケースに入ったナイフを残して黒ずくめは消えてしまった。

男は早速、ナイフを使って木を切り、その日の夕食に分厚いステーキをこしらえた。
ナイフのことを話すと、妻は歓喜し、連日、家の周りの石を、草を、木を食べて回った。
ナイフは、どちらか一方が使うとケースにしまわれ、もう一方が使うときに取り出された。
ケースはよく見える棚の上に置かれて、男によって毎日、綺麗に磨かれていた。

その内に、とうとう家の周りに何も食べるものがなくなってきた。
男が、泣く泣く愛用のキセルをまな板の上にのせていたとき、運が悪いことに、強盗が押し入ってきた。

「おい、金を出せ」
「すまない、金はないんだ。本当に。家具すら、ろくに残ってない」
強盗が辺りを見回すと、確かに何もない。そこで、美しい小箱が目に止まった。
「この箱は金になりそうだ。貰っていくぞ」
男が止める間もなく、強盗はナイフのケースを持ち去って行ってしまった。
「ああ、なんということだ。大切なケースなのに」
そうして男がうなだれているところに、妻が食事の催促にやって来た。

「ねえ、ステーキはまだなの?」
「すまない、今このキセルを切るから」
「それっぽっちじゃ、満足できないわ。ナイフを貸して。私が何か、適当なものを探して切るわ」
「わかった」
男はとても礼儀正しかったので、取りあえず妻が満足するだけのステーキは見つかることになった。

195: ◆/olapVmB3. :2012/09/24(月) 16:51:44.32 ID:0g/j9Jx5
>>194
なるほど! 礼儀正しいから刃のほうを持って妻に渡したのですね。
面白かったです!

211: パパはメジャーリーガー:2012/10/02(火) 22:48:53.13 ID:1Hr9f0Jx

パパはメジャーリーガー
僕は河原で素振りをしている。
パパみたいなメジャーリーガーになるのが夢さ。
だけど僕にはあまり才能はないみたい。
まだスタメンはおろか、代打ですら使ってもらえない。

「なんてスイングだ、もっと鋭く振るんだ!」
知らないおじさんが野次を飛ばす。
「違う違う、もっと腋をしめて振らなきゃあ」
また、知らないおじさんが怒鳴る。
「トップの位置に来るのが遅い! それじゃあ引っ張れないぞ!」
「おたく投手出身でしょ、ここはアッパースイング気味にするべきだ」

ガヤガヤとおじさんたちが4人で会話をしている。
どうやらどこかの球団のスカウトやら関係者らしい。
しかし、うるさい。僕のことなんかほっといてくれ。

「坊主、もっと腋をしめてだな」
「違う違う、いいか、強打者になりたけりゃバットをもっと長く持って」
「ああもう、トップの位置をもっと前に!」
「踏ん張りがきいてないぞ!」

「ああもう! うるさい! いいよ、パパに教えてもらうから!」

僕は我慢ができなくなって、そう叫んだ。

「パパ?」
「そう、パパさ。ドルフィンズの2冠王だよ」
「まさか、エフ選手の息子か!?」
「そうだよ」

パパは今年引退が決まっているけれど、弱小ドルフィンズでただ一人チームを引っ張り
首位打者と打点王に輝いた、スーパースターなんだ。

「そうかあ、エフ選手の息子かあ」
「パパみたいな強打者になれるといいなあ」

おじさんたちは急に愛想がよくなった。
ふん、パパの名前を出したら急に黙ってさ。呆れちゃうね。

それから僕は、ずっとパパと一緒に野球ができるようになった。
今までじゃ考えられない。
たまの休日しか一緒に野球ができなかったのに、夢みたいだ。
パパは残念がってたけど、僕は嬉しい。
なぜか、打撃コーチとしてのオファーが殺到していたのに、
嘘のようにオファーが無くなったもんだから。

268: 創る名無しに見る名無し:2012/11/12(月) 18:37:15.69 ID:PsIkqJGI

【署名】

『…という訳で一週間後にあなたの命を頂いていきます
それまで身の回りの整理をしてて下さい』

軽い口調で死神はR氏にそう言った。

「私があと一週間の命で、あなたに殺されてしまうのは諦めましょう
でも一つだけ心配事があるのです」

R氏は不安そうに死神に言う。

「やっぱり死ぬ時は痛いんでしょうか?出来れば何の苦しみもなく死にたいのですが…」

『ご安心下さい、何の痛みもなく一瞬で死ねるコースと
ものすごい激痛を伴いながら死ぬコースと2つ用意しています
楽に死ねるコースで良いですね?』

「コース?は、はい、それで良いです…」

『分かりました!では一週間後!』

そう言い残して死神は消えていった。
変な死神が来てしまったと不安になるR氏。その時後ろから声が聞こえた。

『署名お願いします』

R氏が振り返ると白い服の見たこともない男がいる。
足元を見ると宙に浮いている。幽霊だということはすぐに分かった。

②に続く

269:創る名無しに見る名無し:2012/11/12(月) 18:39:14.76 ID:PsIkqJGI
署名その②

「やれやれ、死神の次は幽霊か…いよいよ人生終わりだな
今、署名と聞こえたんだが一体何の署名なんだい?」

幽霊の男は答えた。

『実は今あの世で刃物を投げ合うのが流行ってるんです』

「刃物を?」

『はい、ナイフや包丁です。幽霊は死にませんが刺さるとすごく痛いんです
あまりにこの遊びが流行り過ぎて、ついに刃物を法律で禁止させる運動が
あちこちで起こってるんです』

「もう無茶苦茶だな…どうなってるんだあの世は…」

『あなたの1票で禁止派が勝てるんです、署名お願いします!』

R氏はバカバカしいと思ったが、よく考えたらあと一週間でそのあの世に行くのだ。
そんな治安の悪い狂った世界に住まなきゃならないと思うとゾッとした。
R氏はすぐに「刃物禁止」に署名をした。

「ふう…これで快適な死後を送れる…」

一週間が経ちR氏の所に死神がやってきた。

「やあ、待っていた…というと変だが、ついにこの時が来たという感じだ
約束通りに痛みもない楽なコースで命を奪ってくれ」

しかし死神の様子がおかしい。

『いや、それが…』

「どうしたんだい?」

『一瞬で命を奪う事が出来る死神の鎌というのがあるんだがね…
最近、刃物の使用が法律で禁止されたんだよ
悪いけど苦しいコースで死んでもらうよ…』

27: ◆PDh25fV0cw :2010/09/15(水) 00:04:28 ID:13fAJv4b

『高度映像社会』
30年前、世界的企業の某社が開発した小型軽量の空間への立体映像化装置は、開発競争による価格破壊も進み、個人が複数台所有できるまでになっていた。
少し大きい街で上を見れば、立体広告がところせましとならんでいる。

交通の関係で5m以下の立体広告は規制されているのが幸いと言ったところだ。
ここも、大都市の例に漏れず、巨大なうさぎの立体映像が空で熱心にシリアルの宣伝をしている。
「気味の悪いことだ」

元々どがつく田舎の出身で立体映像など
無縁の生活をしていたので、未だにこういった映像には慣れない。
触れそうなほどリアルな物が空にある、それがどうも納得できないのだ。
周りのやつらは、生まれた頃からあったものなので、この違和感を理解してはもらえない。

「異物か…」
何となくわいて出た言葉に返す者はなく、相変わらずウサギは空で笑っていた。
「おわっ」
ぼんやり上を眺めていたのがいけなかったのだろう、人にぶつかり、壁に向かってよろめいてしまう。
壁に手をついて止まろうとするが、壁は手を支えることはなく、体は壁の中に入り込んでしまう。
「いつつ…」
少し皮が剥け血がにじむ手をなめながら、辺りを見回す。

人一人がようやく入れる程度の細い路地。後ろを向くと、入り口は立体映像で偽装されている。
「シークレットドア?」
入り口を映像で偽装する、シークレットドア。
ドアに壁の映像を写し隠すことからこの名前がきているらしい。
テーマパークなどで似たような物を見たことがあるが、せいぜい子供だまし程度のものだった。

しかし、これは通路を一つ完全に隠している。
それも、完璧なほどに。これほどの精度の装置ならば相当な値段がするはずだ。
理由は分からないが、誰かが大金を払ってでもこの通路を隠したいと思っている。
得てしてこういった場合は危ないものが隠されている。直ぐに逃げた方がいいだろう。

しかし、俺の考えとは裏腹にいきなり世界が歪む。
今まで通路だったところが、極彩飾の、抽象画に移り変わる。
壁も床も無くなり、場所の起点が無くなる。
合わせるべき起点が無くなったことで平衡感覚が失われる。

すぐに立っていられなくなり、吐き気もしてくる。
もしかしたらこれが噂で聞いたことがある、映像兵器なのかもしれない。
この状態から精神を守るためか、いきなり意識が失われた。

28: ◆PDh25fV0cw :2010/09/15(水) 00:05:14 ID:13fAJv4b
まず、この状況はなんだろう。起きたらいきなり草原に寝かされていた。
気絶している間に、草原に運ばれたという可能性もあるが、たぶんそれはないだろう。
この場所には草の臭いがしない、それに床はリノリウムのような感触。

つまり、これは立体映像。
「起きたかね」
目の前に茶色のスーツをきた老人が立っている。
「何らかの偶然で我々の秘密通路を見つけてしまったようだね。
我々の手違いで侵入者撃退用の装置が作動して君には迷惑をかけた」
やはり、何らかの施設の通路を隠していたようだ。

「一体ここはどこなんですか?」
老人はその質問に答えず、質問を返してきた。
「君は、ここをどこだと思うかね?」
?何を言っているんだろうか。
「周りを見てみたまえ。どこまでも広がる草原。素敵だとは思わないかね?」

その言葉で少し理解できた。つまり、この映像の元の場所はどこかと聞いているのかも知れない。
だが、映像は映像だ。その場所に移動しているわけではない。
「映像は映像。そう思っているのかね?」
心を見透かされたような言葉にドキリと心臓が跳ねる。
「たしかにこれは映像、まやかしだ。しかし、それを確認するためにはどうすればいい?」
いきなり老人の姿が掻き消える。

「我々が映像を映像として確認するにはどうしたらいい。
現実と変わらないリアルな映像はどうしたら虚像と確認できる」
いきなり後ろにあらわれる老人。声も後ろに移っている。
「触ってみる。これは原始的だが確実な方法だ。しかし、触れられないものはどうすればいい?」

今度は上にあらわれる。
「確認できないなら、それは本物だってことが言いたいのか?」
また消え、今度は最初と同じく真正面にあらわれる。
「その通り、触れられないならばそれはいかに馬鹿げていてもそれは現実の可能性もあるということだ」
老紳士は本当にうれしそうに笑う。何がそんなに嬉しいのだろう。

「さて、私も時間がなくなってきた。君は最初にここはどこか、と聞いたね?今からその答えを示そう」
老紳士が指をパチンと鳴らす。すると、いきなり床が開く。
捕まるものも無く、為す術も無く下に落ちていく。
軽い浮遊感のあと、硬い地面に叩きつけられる。

打ちっ放しのコンクリートの床、周りを覆うフェンス、どうやらビルの屋上のようだ。
上を見ると、ピンク色の巨大な何かが見える。
「え?ウサギ?」
そうそれは、さっき見た広告用の巨大ウサギの映像。

そう映像のはずだ。しかし、俺はその映像から落ちてきた。
呆然としていると、元から無かったかのようにウサギは消えてしまう。
「どうなっているんだ……」
『確認できないならそれは本物かもしれない』
さっき自分で言った言葉が頭で繰り返される。

空に浮かんでるウサギは本物で俺は中にはいった。
こんなこと誰が信じてくれるんだろうか。精神障害を疑われて終わりだ。
だが、それでも構わないではないか。

今やこの世界はリアルな虚像に満ちている、その中に実在する虚像があったとしても。
ビルを降り、外に出る。空を見上げると新しい広告が映し出されるところだった。
どうやら、紳士用の靴の広告らしい。俺は苦笑しながら、空に一礼して再び街を歩き始めた。

29: 創る名無しに見る名無し:2010/09/15(水) 00:56:49 ID:Lh6ixw67
こうゆうSFチックな作品はすごく好き
未来っていうのはいいものじゃないけど悪いもんでもないみたいな感じのがいい

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36: 創る名無しに見る名無し:2010/09/21(火) 19:05:30 ID:OjCBrvx5

【屋上】

「またここへ来てしまった」
S氏はそうつぶやくと、錆付いたパイプ椅子に腰を下ろした。
ここはとあるビルディングの屋上。さほど高層でもない、どこにでもありそうな場所だ。
彼は悩み事があるとこの場所に来る。いや厳密に言うと来てしまうのだ。

ここが、どこの何ていうビルディングなのかはまったく覚えていないし
また覚えていたとしても、きっと自分の意思ではたどり着けない所なんだと
何となく感じていた。いづれにしてもここがどこであろうとどうでも良かった。

S氏は平凡なサラリーマン、上司からは叱られ部下からは突き上げられ
御多聞にもれない中間管理職であった。
悩み事と言っても、大それたものではなく些細なことが多い。
自分の成果を上司に横取りされたり、データ収集や難交渉など人がやりたがらない
仕事を押し付けられたり。だがS氏は仕事にそれ程不満があるわけではなかった。
彼にとって常にそれが自分の役回りであると思っていたからだ。

いつものように小一時間ここでぼんやりと夜景を眺め、ため息をひとつつくと
そろそろ帰ろうかと腰を上げた。その時、「カチャリ」とドアのノブが回る音がした。
『誰か来る』
勝手に入り込んだ後ろめたさもありS氏は物陰に身を潜めた。
ここには明かりがなく、どんな風体なのか良く見えない。警備員なのか住人なのか…。
すると、
「誰かいますか?いますよね」
『しまった!見られてた!』
いきなり声を掛けられ、S氏は体が硬直し声も出ない。不法侵入という言葉が頭をよぎる。

「いることは判っています。何もしませんから、そのまま私の話を聞いてください」
『?』
「これからもあなたは何度もここに来ることになるでしょう。でも、決して会社を
辞めようなどとは思わないでください。」
誰とも判らぬ人影は勝手に話を続ける。

「今あなたがやっている仕事は、将来きっとあなたの出世の足がかりになります。
どうか、この調子で仕事を続けてください。」
『何なんだこの人は、何で私の事を知っている?もしかして!』
もしかしたら未来の自分がタイムマシンで自分を励ましにやって来たのか?
S氏は、星新一でも思いつきそうにないベタな空想をしてしまった。

「では、これで失礼します。決してあきらめないでくださいね!」
最後にそう言い残すと誰とも判らぬ人影は去っていった。
S氏はしばらく放心状態になっていたが、やがて正気を取り戻した。
「いったい何だったんだ?」
そう言いつつ、なんだか笑いが込み上げてきた。
おかしな事にいつもより元気が出てきたような気がする。
自分の努力を認めてくれる人がいるのはうれしいものだ。
あの人影がどこの誰であれ、とても感謝したい気持ちになった。

それから何日かして、S氏は思いきってある行動に出た。
会社からの帰り道、適当なビルディングの屋上にのぼり、こう話しかけるのだ。
「誰かいますか?いますよね…」

終わり

40: 創る名無しに見る名無し:2010/09/22(水) 12:25:43 ID:ePZQFWsi

【最強の兵器】

F博士の研究室

「これでよし、完成じゃ」
「やりましたね博士!と言っても僕はこの装置のことをよく教えてもらってませんが…」
「そうじゃったな。完成する前にこの装置の情報が漏れては命が危なかったのでな。すまんかった」
「もしや兵器…ですか?」
「まあそんなもんじゃ。この装置はミニブラックホールを発生させて一瞬に周囲の物をすべて飲み込んでしまう」

「それはすごい!」
「そこまで知らんかったとは。君を助手に採用して正解だったようじゃ」
「お褒めに預かり恐縮です。ところでいったいどれくらいの範囲まで有効なのですか?」
「それは設定次第。半径1センチから1万3千キロ以上」
「それでは地球も一飲みじゃないですか」
「そういう事になるな」

「しかし博士、もしこれが悪人の手に渡ったら大変ですね」
「そう思うじゃろうが、この装置の最大のポイントはそこなのじゃ」
「どういう事ですか?」
「ブラックホールの中心がこの装置だからじゃよ」
「と言うと」
「…もしや君はかつてどこかで頭をぶつけたことがあるのでは?」
「ええ、小学校の頃に1度」

「そうじゃろうな。打ち所が悪かったのか良かったのか。まあ良い、この装置がブラックホールの中心に
 あるということは、この装置もろとも飲み込まれてしまうということなのじゃよ」
「なるほど、つまりこの装置を作動させた人間も消えてしまうわけですね。しかし遠隔操作で…」
「この装置は所有者自身が自らの手で操作した時だけ作動すようにプログラミングしてある」
「自爆テロならぬ、自滅テロですか…ぷぷっ」

「笑い事ではない」
「でも何だか売れそうにないですね」
「売るつもりはない。進呈するのじゃ」
「誰にですか?」
「この世で最も不甲斐無く、心配性で、臆病で、周囲の国からも馬鹿にされている…」
「わが国の国王!?まさかこれで消えていなくなれと?」
「いや、国王がこの装置を持っていることを周辺国にアピールするのじゃよ」

「あそうか、周辺国が下手な行動に出れば、いつ何時あの臆病国王がスイッチを押すかもしれないと…」
「今度はいやに察しがいいな。その通り、だからこれはわが国にとって最強の兵器になる」
「でも、あの国王のことですよ。ちょっと自信喪失しただけで使ってしまいそうだ」
「それはさすがに側近が止めるじゃろうが、まあわしもそう長くはないその時はあきらめよう」
「博士!」

次の日、博士は国王に謁見し予定通りその装置を献上することができた。
世界的に有名な大科学者F博士の発明とあって、すぐさま新兵器として採用され
その情報は瞬く間に周辺国に伝えられた。その抑止力たるや、言うまでもない。
「これでしばらくの間、この国も安泰じゃろう」

その後博士は失踪した。どうしても隠しておかねばならない秘密があったからだ。
実はその装置は空っぽで、ブラックホールなどまったくのハッタリだったのだ。

終わり

41: 創る名無しに見る名無し:2010/09/22(水) 12:30:29 ID:ePZQFWsi
しまった上げてから気づいた。
装置の有効範囲は「1センチから」じゃなくて「1メートルから」です。

42: 創る名無しに見る名無し:2010/09/22(水) 14:16:30 ID:aHmk+CPA
面白かったです
「もしや君はかつてどこかで頭をぶつけたことがあるのでは?」ってF博士のきつい冗談ww

45: 創る名無しに見る名無し:2010/09/23(木) 12:51:48 ID:08rYe5hE

【移植】

「どうかね、その後の調子は」
N医師はやさしく青年に語りかけた。
「ええ、だいぶ良くなりました。自分で食事も食べれるようになりました」
「うむ、やっぱりちゃんと口から栄養を摂らないと早く回復できんからね」
「でも…」
「どこかに痛みでも?」
「いえ痛みはないんですけど、なんとなく…その…」
「なんとなく?」
「自分が自分でないような…」
「ああ、それならしばらくすれば段々と慣れてくるはずだよ。移植患者にはよくあることだよ」
「よくあること?」
「移植された患者さんは最初のうち、漠然とした違和感を訴える。体に他人の臓器を
 入れたことによる精神的なものなんだがね」
「そんなもんでしょうか」
「ああ、そんなもんだよ。では、しっかりと体力をつけて早く退院できるようにしなさい」
「ありがとうございます、先生」

N医師はそんな会話をした後で、青年の両親が待機する部屋へと向かった。

「先生、いかがでしょうか」
「ええ、まだ記憶は戻っていないようですが順調に回復されていますよ」
「ですが、あの子は病室で話をするたびに、何だか自分じゃない…と」
「私にも同じ事をおっしゃいましたよ。いづれ理解できるようになると思いますが」
「実は、私達もなかなかなじめなくて…」

「無理もないでしょうな。あの大事故で奇跡的に無傷なのは彼の脳だけだったのですから」

終わり

77: 創る名無しに見る名無し:2010/10/02(土) 17:49:59 ID:s53y1xEw

【天国の控室】

ここは通称「天国の控室」、正式名称は「国立終末介護医療センター」である。
比較的裕福で身寄りの少ない重病患者が終の棲家として選択する医療機関だ。
ただ、すでに危篤状態になっている患者はここに入院することは無い。
なぜなら、寿命を全うするまでの期間たとえそれが数日であろうと、本人の意思で
至福の時間を過ごす事を目的としているからだ。

人によっては数年間の長期入院になる事もある。幸せな時間を1日でも多く
過ごしたいという欲求がその命を永らえるのかもしれない。
N氏もそんな患者の一人であった。

「Yさん、ちょっとこちらへ来てくれないか」
「はいN様」
そう応えたのは、N氏が入院してからずっと付きっ切りで介護してきたY看護婦だった。

「もうどれくらいになるかな…」
「約4年7ヶ月になりますわ。正しくは4年6ヶ月と28日8時間46分…」
「ははは、君はいつも正確無比だな」
「恐れ入りますN様」
「私にはもう近々お迎えが来る。君には本当に世話になった」
「そんな気の弱いことをおっしゃってはいけませんわ」
「いや、分かるんだよ自分の事は」
「N様がそんな気持ちになってしまわれると、私が担当の先生に叱られます」
「そんな医者、私が怒鳴りつけてやる!わっはっは」
「うふふ…患者様から気を使われるなんて、看護婦失格ですわね」

「ところで、私が死んでからの事なんだが…私にはこれまで苦労の末築いた財産がある
 それを君に相続してもらうわけにはいかんだろうか?」
「唐突なお話ですのね。しかし私には財産をいただく権利はございません。それに
 N様もご存知のように…」
「そう、君はロボットだ。だがロボットが相続してはいけない法律はないだろう」
「いいえN様、法律の問題ではなくて、私にとってはその財産が無意味なのですわ」
「そうなのか、私の財産は君には何の価値も無いということなのか…」
「申し訳ございません、私には物の価値を認識するデータがプログラムされていないのです」
「…確かにな、金や不動産や贅沢品は人の欲望が造り上げた物。君には無用か…」
「ご好意には感謝いたします」

「Yさん、今だから言えるが、私は起業には成功したが良い家庭は築けなかった。
 家族ほったらかしで仕事に没頭し、愛想をつかした妻は一人息子を連れて家を出て行った」
「そうだったのですか」
「だが、今私はとても幸せだ。君のお陰で最高の死を迎えられそうだよ」

78: 創る名無しに見る名無し:2010/10/02(土) 17:53:22 ID:s53y1xEw
>>77つづき

その時、一人の男性が病室に入ってきた。

「お、お前は…」
「父さん、久しぶりです」
「今更名乗りをあげても、お前達には財産はやらんぞ!」
「父さん、母さんはもう5年前にここで亡くなりました。最期まで父さんを愛していましたよ」
「そ…そんな人情話は通用せん!」

「僕は財産が欲しくてここに来たんじゃありません。本当のことをお話しに来たのです」
「何だと?」
「母さんは家を出たあと、大変な苦労をして僕を育ててくれ、大学にまで入れてくれました。
 お陰で僕は思う存分自分の好きなロボット工学の勉強をすることができました」
「ロボット工学…」
「そうです。実は、この施設の介護ロボットはすべて僕が開発したものなんです」
「では、このYさんも…」
「ええ、今まではロックがかかっていたのでお話できませんでした。申し訳ございません」

「父さんは先程、彼女のお陰で幸せだと言っていましたね。どうしてだか分かりますか?」
「ああ、彼女は親切でよく気が利いて私の好みも分かってくれていて、まるで…」
「まるで?」
「…かつての私の妻のように…!」
「そうです、Yには僕の覚えている限りの母さんの性格やしぐさをプログラミングしてあります。
 ただ、父さんの好みまでは僕は知りませんが」
「そ…そうだったのか」

「母さんは本当に最期まで父さんを愛していました。これを聞いてください」

息子はY看護婦の耳たぶにそっと触れた。

「お父さん、お久しぶりです。もう、お互いに昔の事になってしまいましたね。
 あの時は突然出て行ってしまってごめんなさい。ご苦労されたでしょうね。」

Y看護婦はN氏の妻の声で話し続ける。

「お父さんのお仕事の邪魔になってはいけない。私達が出て行かなければいけないって
 勝手に思い込んでしまって。でも大成功されたんですものこれで良かったんだと思います。
 私が先に逝くことになってしまったけれど、本当に愛していました、さようなら…」

その後、幾日かしてN氏は天寿を全うしこの世を去った。
病室には1通のメモ書きがサインを添えて残してあった。

『遺言 私Nの全財産を Y看護婦の開発者に贈与する』

終わり

80: 創る名無しに見る名無し:2010/10/02(土) 23:06:21 ID:2iTdzx3P
いい話だな

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93: 創る名無しに見る名無し:2010/10/09(土) 09:59:26 ID:otgtLBRR

『卒アルカメラマン』

夕方、中学時代からの親友Nが家に遊びに来た。
こいつとは何をするときも一緒だった。完全に腐れ縁だ。
中学を卒業してもう何年が経つだろう。二人とも年を食った。
ふと中学時代のアルバムを久しぶりに見てみようということになった。
何もかも懐かしい。一枚一枚が記憶の片隅にあった風景を呼び覚ました。
「懐かしいなぁ。しかし、卒業アルバムってのは運動会とか修学旅行とか
 イベントの写真も多いけど授業中とか休み時間とか何気ない日常を取ってるのがいいな。
 しかも取られてる側がカメラマンを意識してないからすごくいい写真が取れてる」

『いや、実際バリバリに意識してたけどなー。でみんなカメラマンの方向に目向けちゃって
 普通でいられなくなってんの。そんで見かねたカメラマンが
 あー…私はいないものと思って普通にしててね
 私目に入るとさ、いい写真とれないからさ、って』

「そういやそうだったな。おーこれも懐かしい。昨日のことのように覚えてるなぁ。
 こう考えると人生ってあっという間かもな。」

『うーん、なんだかさみしいな。死ぬ時に神様が人生の卒業アルバムみたいなの
 くれたらいいのにな。』

こんな会話を交わしているうちに私はある一つの事実に気がついた。
過去の記憶がふと思い出される時、なぜか決まって思い出されるのは
毎回同じような場面が多いこと、そしてそれはなぜこんなことを
覚えているのだろうというような、取り立てて特に印象深いことも起こらない
本当に些細な日常の場面が多いことに。
まるでだれかがその些細な日常の場面でシャッターを押しているかのように。

「きっと、神様が卒アルカメラマンを派遣してんじゃない?
 死ぬ時に見せるためにってさ。あーもうこんな時間だ、帰るわ」

友人はおどけて帰っていった。

外はすっかり暗くなってしまった。私は卒業アルバムを元の場所に戻し、
部屋のカーテンを勢いよく引いた。

その瞬間、カーテンを引く「シャーッ」という音と同じくらいのタイミングで
かすかに【カシャッ】という音が聞こえた気がしたのだが、まぁ、気のせいだろう。

【あー…私はいないものと思って普通にしててね
 私目に入るとさ、いい写真とれないからさ】

108: 創る名無しに見る名無し:2010/10/11(月) 10:21:03 ID:k/h3yTWi

  『戦争のある風景』

 今は何時なのか、ここはどこなのか、そんなことは分からない。
 ただ一つ分かっていること、それは毎日が戦争であるということ。
 生きるために、戦わなければならない。戦わなければ死ぬだけだ。
 そしてこの戦争には終わりがない。もし終わりがあるとすれば、
 それは私が死ぬ時だ。

 私は何時生まれたのか記憶がない。もっとも、それは誰だって同じだろう。
 両親の顔は覚えていない。兄弟はたくさんいた。
 しかしおそらくもうみんな戦死しているだろう。

 私はこれまで無数の仲間が死んでいく様子をこの目で見てきた。
 完全に油断してやられる者、敵から長時間必死で逃げ惑った末に
 結局はやられてしまった者などどれも目を覆いたくなる光景だった。
 やられた者は皆例外なく白い布で覆われた。
 なぜなのかは分からない。敵なりの弔いなのかもしれない。

 最近はこれまでの旧式武器とともに、敵は最新式毒ガスを使ってくるようだ。
 ガスを吸ってしまうと意識が遠くなっていき、やがて死に至る。おそろしい兵器だ。
 だが旧式武器でやられるよりもこっちでやられる方が案外楽なのかもしれない。

 もうずっと何も口にしていない。動くのも辛くなってきた。
 私は意を決して敵に飛び込み、食料を盗むことにした。
 なーに、心配は要らない。慣れている。私は戦争をするために生まれてきた
 ようなものだから。幸い敵は気付いていない。私はありったけの食料を盗み
 その場で食らい尽くした。やっぱり旨い。

 これであと3日は食わなくても平気だろう。
 急いで見つからないようにその場を去ろうとした時だった。
 「パーン」という乾いた音ともに鈍い痛みが走った。
 とうとう私もやられたらしい。ついに私も死ぬのか… 戦争は終わりだ…。
 薄れ行く意識の中私にも白い布が被せられようとしている。
 視界が遮られる直前、敵の仕留めた、という優越感に浸る顔と同時に
 旧式武器についてしまった血を「汚らしい」という目でふき取る敵の顔が見えた。

 しかし、全くおかしなやつらだ…
 武器についた血は確かに私の体から吹き出たものだが、
 その血はまぎれもなくやつらのものであるというのに…。

110: メス豚:2010/10/13(水) 23:54:05 ID:n6qTztoC
>108
とても文章が上手いし、オチもいいですねー
蚊かな?白い布はティッシュかな
オチがパッとわかれば最高でした

139: 創る名無しに見る名無し:2010/10/21(木) 19:16:55 ID:0MZ+TgiD

『とある装置』

ある日、アール博士の研究所に、友人のエヌ氏が招かれた。
エヌ氏は研究所内を見て回り、そしてある部屋にたどり着いた。
エヌ氏は不思議そうな表情を浮かべて言う。

「この部屋にはレバーしかないようですが」
「はい、レバーだけです」
「このレバーを引くと何が起こるんですか」
「何だと思いますか」
「うーむ。わかりませんなあ」
「もし当てることができたなら、大金を差し上げましょう」
「それは本当ですか。では当てて見せましょう。うむむ……」
 エヌ氏は腕を組み、悩んだ。悩んだ末に出した結論は、「部屋拡充装置」。
 しかし、アール博士は首を横に振った。

「残念ですな。ハズレです」
 だが、エヌ氏は悔しそうな素振りを一切見せなかった。
「博士の発明品は奇抜ですからなあ。考えるだけ時間の無駄だったかもしれません。で、正解は何なのですか」
「それでは、お教えしましょう。なんと、これは幽霊発生装置なのです」
「ほお、実に面白いですな。ところで、この装置はどういった時に使うのですか」
「心霊屋敷や、あまり人を近づけたくないような廃墟での使用が目的ですかな」
「なるほど。既に商用化を見越していらっしゃるんですね」
「ただ、まだ実験さえしていない状況なので、実際にどのようになるのかは神のみぞ知るということなのです」

「では博士、ここは一つ私で実験してみてはいかがですか」
「なに。客人を実験に巻き込む訳にはいきません」
「いいじゃないですか。客人たっての希望なんですから」
博士は腕組みをし、顔をしかめた。

「では、約束して下さい。何が起こっても自己責任ということで……。
無論、万一何かが起これば、我々が全力であなたを助けます」
「分かりました。いやはや、博士の実験台になれるとは真に光栄ですなあ」
エヌ氏は、まるで子供のように目を輝かせた。

「では、私は部屋の外で助手とモニターしています。準備が出来次第、お声をかけますので……。それと、この懐中電灯をお持ち下さい。部屋を真っ暗にするので」
かくして、実験の準備がなされた。

エヌ氏は期待に胸を膨らませ、懐中電灯を片手に今か今かと待ち構えていた。
「準備が完了しました。ではそのレバーを下に引いて下さい」
それきたと言わんばかりに、エヌ氏はさっとレバーを引いた。
すると、部屋が真っ暗になり、どうも気味の悪い雰囲気が漂い始める。

「む、何かの気配がするぞ。早速、幽霊のお出ましか」
 懐中電灯を四方に向ける。が、まだ何も出てはこない。
ふと、背筋が寒くなった。
「コロシテヤル……」
突然の冷ややかな声。反射的に後ろを振り向くエヌ氏。
「うわああああ!」
エヌ氏は恐怖のあまり絶叫し、その場で倒れて気絶してしまった。

これを別室のモニター越しに見ていたアール博士と助手が、急いで実験室に駆け込み、エヌ氏に駆け寄った。
「おい、しっかりするんだ。おい」
その声に、エヌ氏は意識を取り戻した。
「う……は、博士……」
「大丈夫かね」
「いえ、まさかあんなリアルなものだと思いませんでした。
博士の実験の凄さを身をもって知りましたよ……」

アール博士に頭を抱えられながら、淡々と話すエヌ氏。
「あの髪の長い女。殺してやるなんて言って、私のことを物凄い形相で睨み付けて……今思い出すだけでもおぞましい。あまりにも現実的で、予想だにしないリアルさだったので、この有り様です。本当にすみませんでした」
それを聞いたアール博士と助手は、顔を見合わせた。

「どうかしたのですか」
「いやね。さっきの実験、実は失敗だったのです」
「はい、私のせいで……」
「いえ、あなたのせいではありません」
涙ぐむエヌ氏を見つめながら、アール博士は続けた。

「実は、システムがエラーをはき、装置は起動すらしていなかったのです。それに、そのような女性はプログラムには含まれていません。あなたは、きっと悪霊か何かに取り憑かれているのでしょう。一度、祈祷師に見てもらった方がいい」

168: ◆PDh25fV0cw :2010/11/07(日) 23:20:18 ID:5DG5VIDJ
なんか人が居ないので投下

『生まれ変わり』
人の気配のない、暗い森。月や星は雲におおわれ、
光源となるものは青年の持つ小さな懐中電灯だけ。
自殺の名所であるこの森に、青年がやってきたのはやはり自分の人生を絶つためだった。

ナップサックから縄を取り出し、太い木の枝に結ぶ。
これで後は首をつるだけとなったとき、後ろから小さな物音がする。
驚いて振り返ると、小さな白いウサギが佇んでいる。
「あんたも自殺するのかい?」
ウサギは青年にいきなり話しかけた。

青年はいきなりのことに面をくらい、声も出ずただただ呆然とした。
しかし、自分が狂っていたとしても後は死ぬだけだ、何の支障もない。
最後に話したのがウサギというのも面白いではないか。
何の面白みのない人生だったが、最後に面白いものに出会えたものだ、と自分を納得させた。

「ウサギがしゃべるとは、なんとも奇妙なことがあるものだ」
「それはそうでしょう、私は元々人間だからな。2年ほど前にここで自殺をした者だよ」
「なるほど、転生というものですか。ということは、私も死ねば何かに転生するということですか」
「そういうことになるな」
青年はウサギの前に座り、少し考える。

青年は虫が嫌いだ。もし虫に転生することを考えただけでも恐ろしい。
できれば目の前のウサギのようなものになりたい。
「転生をあやつることはできないのか?」
「転生は人生の残量に左右されるそうだ。君はまだ若いから人間になるかもな」
冗談ではない、人間として暮らすことがいやで死ぬのだ、自殺して人間に転生したら意味がない。

「どうにかならないものなんですか?」
「人間に死後の世界はいじれないさ、諦めることさ」
しかし、そう簡単に諦められるものでもない。
何度も何度もウサギに頼み込む。はたから見ればずいぶん滑稽な光景である。
「そこまで言うのならしょうがない。森の奥に賢者がいるから少し待っていてもらえるかな」
そういって森の中に消えるウサギ。しばらくすると、小さな瓶を二つ持って帰ってくる。

液体が入ったものが一つ、紙が入ったものが1つ。
「これを飲めば転生せずに死ぬことができる、もう一つが死神の契約書だよ」
ウサギは紫色の液体と、見たことの無い文字が書かれた紙とペンを渡す。
「死神の契約書とは、すごい賢者もいたものだ」
契約書に名前を入れ、薬を開ける。特になんの匂いもしてこない。

「本当に後悔しないかい?」
「いいや、しないさ。自分で死ぬのだから」
ぐいっと一気に飲み干す青年。しばらくすると、気を失い地面に倒れ込む。
「やれやれ、薬を飲んだか」
森の奥から一人の男が現れる。老人にも、中年にも見える、なんとも不思議な感じの男だ。

彼は足元のウサギの機械を止めると、青年を担いで森の奥に向かう。
そして、森の奥の隠し扉を抜けそこに青年を置く。
「やれやれ、こんなと年齢で死のうとするとは勿体ない」
男がつぶやく。すると声に反応したのか、青年が目を覚ます。
「ん?ここはどこですか?」

男は大仰に答えた。
「ここは地獄だよ。転生せずに死んだのだ、ここで労働をしてもらうことになる。契約書にサインはしたのだろう」
「なんと、そういう契約書だったのか。これなら転生した方がましだった」
嘆く青年。これで青年は、”死ぬまで”ここで働くことになる。
死後の世界から逃げ出そうと考える人間もいないだろう。
死後の世界というものは、便利なものだ。

転載元:http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1329071730

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